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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科69巻7号

2014年07月発行

雑誌目次

特集 術後合併症への対処法 Surgical vs Non-Surgical―いつどのように判断するか?

ページ範囲:P.777 - P.777

 外科手術後に起こる様々な合併症に遭遇した外科医は,どのタイミングで,どのような対応をするか,その選択に迷う場合も少なくない.本特集では,特にSurgical Repairを積極的に行っていくほうがよいのはどのようなタイミングか,あるいはNon-Surgicalな対応で行った場合,どこでSurgicalな対応を要すると考えるべきかといった問題について,多くの症例経験を持ったエキスパートに述べていただいた.

 このような対処についてのエビデンスはほとんどないため,多くの外科医は独自の経験論からのみ判断せざるをえないことが多い.そこで各執筆者には,ご自身が行っているできる限り明瞭な対処法,特にSurgical vs Non-surgicalの判断のポイントを明示していただいた.

消化管領域

上部消化管縫合不全への対処法

著者: 山形幸徳 ,   八木浩一 ,   愛甲丞 ,   清川貴志 ,   西田正人 ,   山下裕玄 ,   森和彦 ,   野村幸世 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.778 - P.783

【ポイント】

◆食道術後の胃管挙上再建ではある一定の確率で縫合不全が発生し,胃切除後は切除および再建の方法によりさまざまな様相の縫合不全が生じる.

◆縫合不全に対する考え方は「続発する炎症・感染をいかにコントロールするか」に尽きるが,吻合や縫合の部位によってコントロールの仕方は大きく異なる.

◆保存的治療が無効ないし不可能な症例,また急激な全身状態の悪化を伴う症例は手術治療を考慮する.

下部消化管縫合不全への対処法

著者: 金子建介 ,   清松知充 ,   石原聡一郎 ,   須並英二 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.784 - P.789

【ポイント】

◆下部消化管縫合不全に対しては予防的な処置を講ずることが重要であるが,起こった場合の対処法には保存的療法と外科的療法がある.

◆診断には臨床・検査所見に加えて,ドレーンの性状の変化の確認や注腸造影などによる画像診断が有用である.

◆ドレーンによる縫合不全部からの消化管内容のドレナージが十分に効いていれば,栄養療法を含む保存的療法の適応となるが,急性に汎発性腹膜炎の状況を呈する場合や長期の保存療法に抵抗性の場合には手術療法が適応となる.

上部消化管狭窄への対処法

著者: 榎本直記 ,   小西大 ,   木下敬弘 ,   芝﨑秀儒 ,   西田俊朗

ページ範囲:P.790 - P.794

【ポイント】

◆上部消化管術後狭窄の多くは吻合部狭窄であるが,吻合部以外の狭窄も存在する.

◆内視鏡的治療の進歩に伴い,吻合部狭窄のほとんどの症例で再手術を回避できるようになったが,治療に難渋する場合にはバイパス術などを行う.

◆吻合部以外の狭窄が疑われた場合には,速やかに狭窄部位や原因を精査したうえで,早い段階からの手術を考慮する必要がある.

下部消化管狭窄への対処法

著者: 五井孝憲 ,   山口明夫

ページ範囲:P.796 - P.800

【ポイント】

◆下部消化管の術後吻合部狭窄症に対する治療の第一選択は用指的ないしは内視鏡的拡張術が推奨される.

◆内視鏡または造影検査において完全狭窄を示し,内腔の確認が不能な場合には狭窄部切除と再吻合術などの外科的処置が奨められる.

◆保存的処置にて一時的に軽快するが,短期間に再燃を繰り返しQOLに障害を与える場合にも外科的処置が奨められる.

術後消化管出血への対処法

著者: 小船戸康英 ,   志村龍男 ,   竹之下誠一

ページ範囲:P.802 - P.805

【ポイント】

◆術後消化管出血に対しては保存的治療,内視鏡的止血術,IVR,開腹止血術などの治療法がある.

◆診断および治療において低侵襲性,成功率の点から,まず内視鏡検査・治療を試みるべきである.

◆単一の方法で止血困難な場合は固執せず別の方法に切り替えるべきである.

肝胆膵領域

良性胆道狭窄への対処法

著者: 武田和永 ,   熊本宜文 ,   野尻和典 ,   森隆太郎 ,   谷口浩一 ,   松山隆生 ,   田中邦哉 ,   遠藤格

ページ範囲:P.806 - P.811

【ポイント】

◆術後胆道狭窄に対しては,IVRによる狭窄部位の把握,および拡張術が第一選択となる.

◆IVRによる治療が無効な場合には,手術療法が選択される.

◆手術療法を選択する場合には,3D画像を用いて,脈管の相互関係を把握する必要がある.

胆汁漏への対処法

著者: 高屋敷吏 ,   清水宏明 ,   大塚将之 ,   加藤厚 ,   吉富秀幸 ,   古川勝規 ,   久保木知 ,   岡村大樹 ,   鈴木大亮 ,   酒井望 ,   中島正之 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.812 - P.816

【ポイント】

◆術後胆汁漏に対しては再開腹下の胆汁漏縫合閉鎖術などの手術的治療と腹腔内ドレナージ,胆道ドレナージによる胆道減圧,無水エタノール注入などのIVRを中心とした非手術的治療がある.

◆胆汁性腹膜炎などの腹部所見の有無,ドレーン排液量と経時的変化,ドレーン排液中ビリルビン値,さらには肝切除術式や術中所見などから想定される発症形式(離断型あるいは交通型)も考慮して胆汁漏の治療方針を判断する.

◆再開腹による手術的治療を判断するタイミングは術翌日程度までの術後早期が推奨され,このような早期であれば再手術リスクも高くなく,結果として長期間を要するような保存的治療を上回る治療効果も期待できる.

膵液瘻・仮性動脈瘤出血への対処法

著者: 高野公徳 ,   河地茂行 ,   千葉斉一 ,   高橋恒輔 ,   佐野達 ,   沖原正章 ,   林可奈子 ,   島津元秀

ページ範囲:P.818 - P.823

【ポイント】

◆膵切除後の仮性動脈瘤出血は急激かつ致命的な合併症であり,対処法としてはIVR治療あるいは開腹止血術が選択される.

◆筆者らは対処法の第一選択はIVR治療と考えており,出血部位の同定または止血が不能で,かつ循環動態が維持できない症例には開腹止血術を選択する.

◆膵切除後動脈性出血においては,出血危険群に対する厳重経過観察および他科との連携も含め24時間体制で迅速に対応することが極めて重要である.

門脈再建後の門脈狭窄・閉塞・血栓への対処法

著者: 江畑智希 ,   横山幸浩 ,   菅原元 ,   伊神剛 ,   水野隆史 ,   國料俊男 ,   深谷昌秀 ,   上原圭介 ,   板津慶太 ,   吉岡裕一郎 ,   梛野正人

ページ範囲:P.824 - P.827

【ポイント】

◆門脈切除再建後は門脈血栓を起こしやすく(10%),門脈血栓症は死亡率が高い(20%).

◆術中に門脈系の屈曲・血栓に気づいた時点で外科的に対処し,また門脈狭小化の予防・早期発見に努める.

◆術後の門脈血栓はその程度にかかわらず,すみやかに内科的治療(抗凝固療法)を開始する.

門脈切除以外での門脈血栓への対処法

著者: 杉本博行 ,   小寺泰弘

ページ範囲:P.828 - P.833

【ポイント】

◆門脈血栓症の治療には手術,抗凝固療法,血栓溶解療法などがあるが,門脈に直接手術操作が及ばない術後門脈血栓症に対しては抗凝固療法が第一選択となることが多い.

◆急性期の手術は臨床症状の有無により判断され,腸管虚血を伴うものは絶対的手術適応となる.また,門脈完全閉塞例で抗凝固療法の効果が期待できない症例に関しては血栓除去術の相対的適応となる.

◆手術による血栓除去は,術後急性期(数日以内)には積極的に施行されるが,門脈切除を伴わない手術においては急性期の完全門脈閉塞は稀である.慢性期には胃・食道静脈瘤をはじめとする消化管出血や門脈圧亢進症などの合併症に対する治療として手術が選択されることがある.

肝胆道切除後出血への対処法

著者: 横尾英樹 ,   神山俊哉 ,   柿坂達彦 ,   折茂達也 ,   若山顕治 ,   敦賀陽介 ,   蒲池浩文 ,   武冨紹信

ページ範囲:P.834 - P.839

【ポイント】

◆肝切除後の術後出血に対しては,貧血の進行を認めず少量の出血であれば保存的に,バイタルサインが安定していても持続的な出血が疑われる場合は再開腹止血が選択される.肝内血腫が疑われる症例ではIVRをまず行うことが推奨される.

◆インフォメーションドレーンからの排液が血性であり,バイタルサインが不安定であれば輸血で安定化をはかりながら再開腹の準備を,バイタルサインが安定していても持続的な出血を認める場合や,超音波あるいは造影CTにて相当量の血腫が存在し貧血の進行を認めた場合は再開腹止血を行う.

◆術後出血は判断が遅れると致命的となる合併症であるため,上述のごとく再開腹の判断を誤らないようにすることが重要である.

全般領域

術後出血への対処法

著者: 髙西喜重郎 ,   森田泰弘 ,   田辺直人 ,   清水英治

ページ範囲:P.840 - P.843

【ポイント】

◆術後出血時の対処法は保存的治療,動脈塞栓術,再手術があるが,生命に直結する術後出血には速やかな対応が必要であり,迅速性の観点からは再手術がもっとも優れている.

◆出血の時期と原因により選択肢が異なる.術後早期の出血は手術操作に起因するものが多く,バイタルサインが不安定な場合は再手術を含めた侵襲的な処置が通常必要となる.術後後期の出血は手術以外の方法を選択できる場合が多い.感染・消化液による動脈の破綻では,バイタルサインの維持が叶えば手術侵襲と難易度を考慮して動脈塞栓術を優先する.

肺塞栓症への対処法

著者: 園田拓道 ,   富永隆治

ページ範囲:P.844 - P.849

【ポイント】

◆対処法の選択肢:急性肺塞栓の治療には抗凝固療法,血栓溶解療法,カテーテル治療などの保存的治療と,開胸のうえ人工心肺を使用し,肺動脈を切開して塞栓子を摘出する外科的治療がある.

◆何にもとづいて判断するか:症状が軽度なものは保存的治療を行う.致死的な急性肺塞栓症の場合にはただちに経皮的心肺補助装置(PCPS)を導入したのちにカテーテル治療を含めた保存的治療を行い,十分な効果が得られないか多量の塞栓子が存在する場合には外科的摘出術を早急に考慮する.

◆判断のタイミング:術後急性期や脳血管障害急性期など,安易に血栓溶解薬などを投与すべきでないと判断された時点で外科的血栓除去を考慮する.また,保存治的治療を優先した場合には,治療が奏効しなければタイミングを逸することなく外科治療へコンバートする.

乳び漏への対処法

著者: 宗田真 ,   酒井真 ,   宮崎達也 ,   桑野博行

ページ範囲:P.850 - P.853

【ポイント】

◆初回治療として乳び胸および乳び腹水ともに保存的治療が原則であるが,乳び胸に関しては,1,500 mL/日以上の乳び漏出が5日間以上続く場合,14日以上経過しても乳び排液量が減少しない場合,または栄養状態が悪化した場合は外科的治療が必要となる.

◆外科的治療に関しては排液量に対する適応判断も大切であるが,全身状態に基づいた判断が最も大切である.

◆判断のタイミングは症例ごとに異なるが,保存的治療に抵抗性の症例や長期的な治療となる可能性が予測される症例には,全身状態が悪化する前に行うことが大切である.

FOCUS

「大腸癌治療ガイドライン2014」改訂のポイント

著者: 田中敏明 ,   石原聡一郎 ,   須並英二 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.854 - P.858

はじめに

 わが国の悪性腫瘍の死亡率は年々増加の一途に歯止めがかからず,2012年には60年前の4倍となっている.その中でも,大腸癌の罹患数は年々増加を続けており,結腸癌の罹患数は3万2千人,直腸癌の罹患数は1万5千人を超え,部位別のがんの死亡率では女性で1位,男性で3位となっており,今後も増加の一途をたどると考えられる1,2).そのようなcommon diseaseともいえる大腸癌患者に対し,いわゆる専門施設であるhigh volume centerのみで賄うことは非現実的であり,全国の一般臨床医もそれぞれの役割を踏まえたうえで,診療に携わっていく機会がますます増えていると考えられる.そんな中,日本の大腸癌治療の施設格差をなくすことを目的の一つとして掲げている「大腸癌治療ガイドライン 医師用」の役割は年々重みを増していると考えられる.「大腸癌治療ガイドライン 医師用」は2005年度版を初版として,医療技術の進歩や新たな知見などに伴い,原則4年を目途に改定を行ってきた.本稿では,「大腸癌治療ガイドライン改定のポイント」と題し,旧版からの変更点を中心に総論および各論を概説する.

腹部外科領域におけるシンバイオティクスの現況

著者: 渋谷和人 ,   北條荘三 ,   松井恒志 ,   吉岡伊作 ,   奥村知之 ,   長田拓哉 ,   塚田一博

ページ範囲:P.860 - P.864

はじめに

 シンバイオティクス(synbiotics)とは,「生体内,特に腸管内の正常細菌叢に作用し,そのバランスを改善することにより生体に利益をもたらす生きた微生物および微生物代謝物を含む製品」と定義されるプロバイオティクス(probiotics)と,「プロバイオティクスの働きを助ける各種オリゴ糖,糖アルコール,食物繊維水解物など(すなわち“プロバイオティクスの食餌”)の物質」であるプレバイオティクス(prebiotics)を併用する療法のことで,強力に腸内環境を整える治療1)である.近年,シンバイオティクス療法を用いることで,腸内細菌叢の改善や,有害物質の抑制,種々の感染症のための免疫調節をもたらし,外科領域や救急領域の感染症軽減に寄与するという報告が散見される.本稿では,周術期におけるシンバイオティクスの有用性について概説する.

病院めぐり

いなべ総合病院外科

著者: 長谷川毅

ページ範囲:P.865 - P.865

 当院は三重県北部に位置し,桑名市内にある関西本線と近鉄線の桑名駅に隣接する西桑名駅より,今では珍しい762 mm特殊狭軌の三岐鉄道北勢線に乗り,ゆっくりゆられて約1時間,終着駅である阿下喜駅より徒歩数分です.病院の窓からは藤原岳をはじめとする鈴鹿山脈が一望できる風光明媚な場所にあります.駅周辺には古い町並みも残っておりゴルフ場も数多くあるとともに,工業団地や自動車関連工場なども周辺に多数ある工場の街でもあります.そのため高齢者だけでなく,若い労働者,外国人労働者も患者として多くの方が訪れます.

 当院は昭和28年に三重県厚生連員弁病院として最初は内科,外科,産婦人科の3科で開設されました.以後,平成14年9月に病床数220床のいなべ総合病院として新築移転し,現在の12科(標榜科としては21科)に至ります.平成26年3月末現在の常勤医師数は研修医も含め36名であり,個性的な医師が多いのとともに診療科間の垣根は低く,連携の強さが特徴です.カンファレンスや研修会だけでなく医局旅行,忘年会,歓送迎会などでも親交を深めています.ただ近年の医療体制の変化による地方病院の医師不足の影響を当院も少なからず受け,地域医療に十分な診療体制や救急体制がとれないのが悩みですが,最近は医師数も少しづつ増加し,体制が整いつつあります.また臨床研修指定病院として毎年コンスタントに3名の初期研修医を受け入れています.

必見! 完全体腔内再建の極意・16

噴門側胃切除術後再建―ダブルトラクト再建・空腸間置

著者: 木下敬弘 ,   榎本直記 ,   砂川秀樹 ,   高田暢夫 ,   芝崎秀儒 ,   西田俊朗

ページ範囲:P.866 - P.872

■■はじめに

 噴門側胃切除は上部早期胃癌に対する機能温存手術として広く認知されている.再建法に関しては,①様々な逆流防止策を加えた食道残胃吻合を行う術式,②間置空腸を置いて逆流を防ぐ食道空腸吻合を行う術式,に大別されるがいずれも腹腔鏡下に行うにはそれなりの技術が必要である.また以前より幽門側胃を残すことのメリットに関して異議を唱える外科医も少なくなく,これらの理由から腹腔鏡下噴門側胃切除(LPG)は広く普及するには至っていない.しかし臨床的には噴門側胃切除で,驚くほどの高い食生活のQOLが保たれる症例を経験するのも事実である.また2014年4月からはLPGが保険収載されるという追い風もある.

 本稿では当施設でLPGの標準的再建法として行っているダブルトラクト再建(図1)を図説する.同法は腹腔鏡下胃全摘(LTG)の再建ができれば,「プラス1吻合」で行える.さらに食道逆流はかなり高確率に防止できる,残胃癌が発生した場合の再手術が比較的容易,というメリットもある.また後半では以前行っていた空腸間置再建(図2)に関しても簡単に紹介する.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・26

循環血液量の維持―アルブミン投与は有用か

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.874 - P.877

素朴な疑問

 手術患者や救急患者は低アルブミン血症を呈することが多い.血中アルブミンは栄養状態の指標であるだけでなく,膠質浸透圧の維持に重要であり,血液検査でアルブミン値が低いと,アルブミン製剤を投与して補正したくなる.手術患者や救急患者のアルブミン投与は,理論どおりに合併症や死亡を減らして転帰を改善させることができるのだろうか.

臨床報告

経肛門的小腸脱出を伴う特発性直腸穿孔の1例

著者: 河内順 ,   平沼進 ,   荻野秀光 ,   梅澤耕学 ,   下山ライ ,   渡部和巨

ページ範囲:P.879 - P.882

要旨

症例は79歳,女性.2年前に直腸脱の手術を受けたが再発していた.排便後に経肛門的腸管脱出を認め,救急外来を受診した.緊急手術(小腸を腹腔内から還納し,Hartmann手術)を行い,術後28日で軽快退院した.繰り返す直腸脱から直腸前壁が脆弱になり,排便に伴う腹圧上昇で穿孔し,そこに小腸が入り込み肛門から脱出したものと思われた.予後良好な疾患であり,便汚染も軽度であることが多く,発症後早期に受診することが多いと思われることから,積極的に縫合閉鎖を考慮してもよいと思われた.

術後早期に再発したtailgut cystの1例

著者: 東勇気 ,   山本精一 ,   加治正英 ,   前田基一 ,   清水康一 ,   内山明央

ページ範囲:P.883 - P.887

要旨

症例は65歳,男性.腹部膨満,排尿障害,排便困難を主訴に当院救急外来を受診した.腹部CT検査で仙骨前面に囊胞性病変を認め,精査加療目的に当科を受診した.仙骨前面の囊胞性病変に対して,経腹的手術を施行した.尾骨前面に一部囊胞壁の遺残を認め,焼灼を行った.病理組織所見よりtailgut cystと診断された.術後4か月に施行した腹部CTで仙骨前面に囊胞性病変を認め,局所再発を疑い,経仙骨的手術を施行した.病理結果は前回同様tailgut cystであった.現在,術後2年を経過しているが,再発は認めていない.本疾患は稀であるが,悪性例があり,良性例でも局所再発する可能性があるため,初回手術で完全切除できる手術方法を選択することが重要である.

炎症性乳癌と鑑別を要した巨大増殖性筋炎の1例

著者: 山内希美 ,   松友将純 ,   田中卓二

ページ範囲:P.889 - P.892

要旨

症例は84歳,女性.右乳房と上肢の腫脹・疼痛を主訴に受診した.右乳腺は固く発赤と高度の腫脹を認め,胸筋に固定し圧痛が強かった.超音波検査では右乳腺広範囲に筋層との境界が不明瞭で内部に紐状の高エコーを伴う低エコーの巨大腫瘍性病変を認めた.CT検査では右乳房深部に腫瘤形成と斑状の高吸収域を認め,内部に出血を示唆した.大胸筋との境界は不明瞭で,炎症性乳癌の大胸筋浸潤もしくは大胸筋原発の炎症性腫瘍が疑われた.皮膚や肋骨への浸潤は認めなかった.超音波ガイド下針生検による病理診断で増殖性筋炎と診断された.増殖性筋炎は悪性疾患と鑑別を要する疾患であり,誤診されると広範囲切除,放射線照射,化学療法など過剰な治療を施行される可能性があり診断には十分な注意が必要である.過去に乳房に関連した増殖性筋炎の報告は3例のみであり,自験例のような巨大病変の報告例はなく極めて稀な症例と思われたため,若干の文献的考察を加えて報告する.

1200字通信・67

no side

著者: 板野聡

ページ範囲:P.801 - P.801

 毎年秋風が吹く頃になると,ラグビーシーズンが開幕し,翌年の2月末に行われる日本選手権の決勝戦でその幕を閉じます.私は,大学時代にNo.4でプレーをしていたこともあり,毎年,若かりし頃を思い出しながらテレビ観戦を楽しむことにしています.

 試合を観戦するたびに,当時,医学部同士のレベルではあっても,試合前には体内アドレナリンを最高レベルに引き上げ,まさに決死の覚悟でグラウンドに立ったことを懐かしくも誇らしく思い出していますが,またそうでなければ,あんなに激しいスポーツは出来なかっただろうと,今になって思うことではあります.前にも書きましたが,そのお陰で頸を痛めることになりはしましたが,決して後悔するようなことではないと納得しています.

書評

坂井建雄,河田光博(監訳)―プロメテウス解剖学アトラス 頭頸部/神経解剖―第2版

著者: 近藤信太郎

ページ範囲:P.811 - P.811

 『プロメテウス解剖学アトラス』の第3巻「頭頸部/神経解剖」の第2版が刊行された.初版は「頭部/神経解剖」となっていたが,改訂に伴って頸部が第3巻に含まれることとなった.頭部と頸部が同じ巻となったことは歯科関係者からも歓迎されるところである.顎運動に関する筋を学ぶ場合は咀嚼筋群と舌骨上・下筋群が同じ巻に記載されているほうが便利であるし,歯科領域の動脈系は頸部からたどったほうが理解しやすい.初版よりも格段と使いやすくなったと感じる.

 本書の特徴はアトラスと教科書の利点を兼ね備えたところといえよう.書名は解剖学アトラスとなっているが,通常のアトラスよりも記載に力を入れている.精緻な図と明解な文章は相補的に機能しており,人体構造を深く理解することができるように工夫されている.SobottaやPernkopfのような精密な解剖図を世に送り出してきたのはドイツの伝統であろう.その伝統にコンピュータ技術を融合させて完成された本書の図は精細で美しい.図の脇にある説明文は短い中にも関連する図を示し,その図を順に追うことにより理解が一層深まるように構成されている.頭頸部に関しては,骨,筋,脈管,内臓といった系統解剖の後に,局所解剖と断面図が掲載されている.各器官系の系統的な理解と局所の器官系の関係を同時に記載している点は本書の魅力といえよう.

ひとやすみ・113

試練に耐える

著者: 中川国利

ページ範囲:P.816 - P.816

 生命を扱う医療においては,どんなに手を尽くしても死に至ることがある.しかしながら外科医はあらゆる力を振り絞り,最後まで患者を救うべく努力を尽くす.そして期待に添う結果になれば患者と共に喜び,ささやかな自信も生じる.一方,意に反する結果になれば,呵責に苛まされる.

 種々の合併症を持った高齢の直腸癌患者に,直腸低位前方切除術を行ったとする.術後に縫合不全が生じると,再開腹して腸瘻を造らざるを得ない.「最初の手術時に腸瘻も造設していれば,再手術は必要なかったのに」と大いに反省する.さらには敗血症になりレスピレーター管理にまで至ると,高齢で全身状態が不良な患者に直腸前方切除術を選択したことを悔やむ.死に至った場合には,外科医として患者に立ち向かう気力まで喪失し,新たな手術さえ拒否したくなる.周りの同僚から「患者さんの状態が悪かったから」「稀にはこのようなこともあるさ」と慰められても,落ち込むばかりである.

昨日の患者

癌患者として生きる

著者: 中川国利

ページ範囲:P.873 - P.873

 かつて癌は不治の病とされたが,手術や癌化学療法などにより約7割は治癒する時代となった.しかしながら日本では未だ最大の死因であり,3人に1人が癌で死亡している.癌に罹患し,再発しながらも前向きに生きる患者さんを紹介する.

 50歳代前半のKさんが近医で大腸癌と診断され,紹介されて来た.Kさんは,「生来健康で,今まで入院したことがありませんでした.職場検診で便潜血反応陽性とされ,精査の結果,大腸癌と診断され大変驚きました.しかし,将来を心配しても不安が募るばかりです.バッサリと悪い所を切り取り,早く職場復帰したいと思いますので,よろしくお願いします」と,元気に語った.そこで大腸切除術を施行したが,進行癌であった.

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原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.839 - P.839

投稿規定

ページ範囲:P.894 - P.895

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.896 - P.896

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.898 - P.898

次号予告

ページ範囲:P.899 - P.899

あとがき

著者: 宮崎勝

ページ範囲:P.900 - P.900

 外科手術手技は,近年益々その進歩をたどって様々な展開がみられ,これまで切除が困難であった進行癌や複雑な手術も十分な安全性を確保して行えるようになってきた.そうした高度な手術手技を安全に行い患者さんに術後経過も良く退院してもらえるためには,術後合併症に対しての様々な対応が重要である.高度な手術ほど外科侵襲度も大きく,術後合併症の頻度も高く,かつ重症な合併症も起こりえる.しかし,そのような合併症をいち早く予知あるいは認知し,適切なタイミングで最も適した処置を行っていくことで重篤化を防止することができる.そのためには,外科医療スタッフを含め,多くの医療者のチームワークが極めて大切である.また手術を施行かつ周術期を管理するすべての外科医達が,常に細心の注意を持って患者管理にあたる必要があるのは当然のこととなる.

 術後合併症への対処法として,特にInterventional処置が近年その進歩を認め,対応の中心となってきているが,時にSurgicalな処置が最も有効となることもある.そのため消化管領域および肝胆膵外科領域とに分けて,様々な合併症に対してSurgical,あるいはNon-surgicalのどちらの対処をどのような基準で選択していくべきか,多くの症例を経験する施設から述べていただいた.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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