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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科69巻8号

2014年08月発行

雑誌目次

特集 肝胆膵癌の血管浸潤をどう治療するか

ページ範囲:P.905 - P.905

 肝胆膵癌は解剖学的あるいは腫瘍学的な特徴から容易に大血管へ浸潤する.従来より血管浸潤を伴う進行癌は切除不能と考えられていたが,血管外科手技の応用によりR0手術が可能となった.しかし,血管合併切除は高難度手術であり,手技侵襲が大きいため合併症が多く,また遠隔成績は必ずしも満足のいくものではない.

 したがって,これら血管浸潤を伴う肝胆膵癌に対しては,正確な診断のもとに,慎重に手術適応を決定すること,そして習熟した手技と綿密で厳重な周術期管理が必須である.本特集では,肝細胞癌,肝内胆管癌,転移性肝癌,胆道癌,膵癌などの血管浸潤に対して,どのような症例をどのように治療するか,そしてその成績について,専門施設の方針と手技,成績を述べていただいた.

肝細胞癌の門脈腫瘍栓

著者: 山本訓史 ,   長谷川潔 ,   國土典宏

ページ範囲:P.907 - P.911

【ポイント】

◆門脈腫瘍栓の対側葉への飛散を防ぐため肝門処理を先行する.

◆腫瘍栓摘出後の門脈吻合は,狭窄をきたさないような工夫が必要である.

◆進行した腫瘍栓(Vp4)であっても適切な手術で良好な予後が得られる.

肝細胞癌の肝静脈・下大静脈腫瘍栓

著者: 田浦康二朗 ,   波多野悦朗 ,   安近健太郎 ,   瀬尾智 ,   上本伸二

ページ範囲:P.912 - P.919

【ポイント】

◆肝細胞癌の肝静脈・下大静脈腫瘍栓は比較的珍しいが,門脈腫瘍栓と同様に予後に与える影響は大きい.

◆下大静脈腫瘍栓を伴う肝細胞癌手術においては特別な配慮・テクニックが必要である.

◆予後の改善のためには集学的治療が必要である.

肝細胞癌の右房内腫瘍栓

著者: 高野公徳 ,   島津元秀 ,   千葉斉一 ,   富田晃一 ,   若林大雅 ,   沖原正章 ,   河地茂行

ページ範囲:P.920 - P.925

【ポイント】

◆右房内腫瘍栓の切除は,total hepatic vascular exclusionを応用して,右房に直接鉗子をかけて血行遮断できれば人工心肺を用いる必要はない.

◆長時間の血行遮断が必要であれば,passive veno-venous bypassを併用することで体循環を保ち,腸管うっ血も避けることができる.

◆肝細胞癌の右房内腫瘍栓に対しても,耐術可能であれば,積極的な外科的切除が集学的治療戦略においても極めて重要な選択肢の一つになると考える.

肝内胆管癌の血管浸潤

著者: 大塚将之 ,   清水宏明 ,   加藤厚 ,   古川勝規 ,   吉富秀幸 ,   高屋敷吏 ,   久保木知 ,   高野重紹 ,   岡村大樹 ,   鈴木大亮 ,   酒井望 ,   賀川真吾 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.926 - P.932

【ポイント】

◆進行肝内胆管癌は門脈・下大静脈など大血管浸潤がしばしばみられ,外科切除のためにはそれらの合併切除が必要となる.

◆門脈,下大静脈の切除再建法は,その浸潤部位・範囲に応じて立案・実施されるべきである.

◆肝内胆管癌切除例の予後は,血管合併切除の有無で差はなく,切除再建可能であれば積極的に考慮すべきと考えられる.

大腸癌肝転移の門脈・肝静脈・下大静脈浸潤

著者: 高橋道郎 ,   齋浦明夫

ページ範囲:P.933 - P.937

【ポイント】

◆切除した肝静脈を再建しない場合,同部位はうっ血をきたし,その後萎縮するため,残肝容量不足が懸念される場合には再建が必要となる.

◆浸潤の程度は,術中超音波により最終的に診断される.その際超音波用造影剤を使用すると,より鮮明に描出される.

◆肝静脈を環状切除した場合,形成した大伏在静脈によるグラフト間置を,楔状切除した場合には肝円索を切り開いたパッチ再建を行うことが多い.

肝門部胆管癌の門脈・肝動脈浸潤

著者: 伊神剛 ,   江畑智希 ,   横山幸浩 ,   菅原元 ,   水野隆史 ,   山口淳平 ,   國料俊男 ,   角田伸行 ,   深谷昌秀 ,   上原圭介 ,   板津慶太 ,   梛野正人

ページ範囲:P.938 - P.946

【ポイント】

◆肝門部胆管癌の診断では,胆道ドレナージを施行する前にMDCTを撮影する.

◆血管浸潤の診断では,MDCTのMPR画像をlow density planeの有無を中心に詳細に読影し,安易に非切除と診断しない.

◆肝門部胆管癌に対する血管合併切除は,門脈,肝動脈にかかわらず十分に意義のある術式であるが,過大侵襲でリスクを伴う術式であり,手術を施行する場合には,周術期管理に手馴れたスタッフの多いhigh volume centerで施行するべきである.

胆囊癌の門脈・肝動脈浸潤

著者: 樋口亮太 ,   谷澤武久 ,   植村修一郎 ,   岡野美々 ,   梶山英樹 ,   太田岳洋 ,   古川徹 ,   新井田達雄 ,   山本雅一

ページ範囲:P.948 - P.954

【ポイント】

◆胆囊癌手術は,拡大肝葉切除兼肝外胆道切除再建,門脈切除再建までの手術で根治が望める症例が手術適応となる.

◆手術の安全性は向上したものの,血管浸潤陽性胆囊癌における手術単独の治療成績は不良であり,新たな治療戦略が求められている.

◆癌の浸潤により拡大肝切除に加えて左肝動脈再建やPDが必要となる症例では,手術で得られるメリットが少ない.

膵頭部癌の門脈・動脈浸潤―特に上腸間膜動脈合併切除術(ARPD)を中心に

著者: 北川裕久 ,   田島秀浩 ,   中川原寿俊 ,   牧野勇 ,   林泰寛 ,   高村博之 ,   中沼伸一 ,   宮下知治 ,   酒井清祥 ,   中村慶史 ,   木下淳 ,   尾山勝信 ,   岡本浩一 ,   二宮致 ,   伏田幸夫 ,   藤村隆 ,   太田哲生

ページ範囲:P.955 - P.962

【ポイント】

◆「所属リンパ流域の切除」を基礎とし,「直接浸潤範囲を網羅」した切除術式が,膵頭部癌を治癒させる最強の戦略である.

◆癌の手術は,術式立案・計画を行い終えたとき,すでにその成否の8割が決定している.

◆動脈・門脈合併切除を併施するようなリスクの高い術式ほど,確実にR0が得られるように繊細に立案すべきである.

膵体部癌の門脈・動脈浸潤

著者: 菱沼正一 ,   笹倉勇一 ,   白川博文 ,   富川盛啓 ,   尾澤巌 ,   尾形佳郎

ページ範囲:P.964 - P.970

【ポイント】

◆膵体尾部切除術の最終段階で,腫瘍が浸潤した門脈とのみつながった状態にするのが,門脈合併切除を安全に行うコツである.

◆門脈再建の原則は端々吻合であるが,切除する門脈長が長く吻合部に緊張が予想される場合は,左腎静脈グラフト間置を行う.

◆腹腔動脈合併切除は,膵尾・脾を後腹膜から脱転後,左からのアプローチを原則としている.

FOCUS

バーチャル・リアリティ手術シミュレータの現状―手術訓練にどこまで使える? 有効な利用法

著者: 藤原道隆 ,   田中千恵 ,   岩田直樹 ,   丹羽由紀子 ,   小寺泰弘 ,   平川仁尚 ,   植村和正

ページ範囲:P.972 - P.980

はじめに

 医学教育において,シミュレーションは以前から導入されているが,外科分野では,1990年代から内視鏡下手術が発展し,従来の手術スキルに加えて新たに必要になったeye-hand coordinationなどの技術に対する訓練が必要となり,ボックス・トレーナーや動物を使用したoff the jobのシミュレーション・トレーニング法が開発された.ブタを用いた訓練が多く行われてきたが,欧米では動物愛護の問題から縮小傾向である.こうした中でコンピュータの性能向上やIT技術の発展があり,バーチャル・リアリティ(VR)技術を用いた内視鏡外科手術用のシミュレータがいくつか実用化された.VR外科手術シミュレータには当初から大きな期待が寄せられ,最近もさらに新製品の開発が続いている.今,VR手術シミュレータがどのように使用され,どのような場面で有用であるかについて述べる.

単孔式腹腔鏡下胆囊摘出術―標準化するか?

著者: 木村泰三

ページ範囲:P.981 - P.985

はじめに

 腹腔鏡下胆囊摘出術が,胆囊摘出術の標準的手技として定着してほぼ20年が経過した.腹腔鏡下胆囊摘出術の新たな試みとして,臍部の一つの創から胆囊摘出術を行う単孔式腹腔鏡下胆囊摘出術が始められている.はたして,単孔式腹腔鏡下胆囊摘出術は従来法(4孔式)に代わり,胆囊摘出術の標準術式となるであろうか.ここでは,その歴史を振り返り,利点と欠点を検証して,将来を考察する.

必見! 完全体腔内再建の極意・17

腹腔鏡下Roux en Y再建―合併症を防ぐ腹腔鏡下空腸空腸吻合と間膜閉鎖へのこだわり

著者: 稲嶺進 ,   大城淳 ,   高江洲亨 ,   上原英且

ページ範囲:P.986 - P.994

■■はじめに

 胃癌に対する胃全摘術,幽門側胃切除術,噴門側胃切除術に加え,病的肥満に対する胃バイパス術,そして胆管空腸吻合などの肝胆道系の手術においてもRoux en Y型の再建が広く行われている.腹腔鏡時代になってもこの再建方法は健在であるが,小腸は可動性が良好であることから空腸空腸吻合は小開腹下に体外で直視下に行うことも多いのではないかと思われる.しかし,小開腹下の手術は,難易度が体型の影響を受けやすい,過度な緊張がかかりやすい,腸管の方向の確認や全体像が把握しづらいなどの欠点を有する.一方,腹腔鏡下の再建ではこれらの欠点が軽減される代わりに,ポートの位置による縫合器の可動域の制限や腹腔鏡下の針糸による縫合など技術的ハードルが上昇する可能性がある.

 われわれはHigaら1)の方法をモデルとした高度肥満に対する腹腔鏡下Roux en Y胃バイパス術を導入し2),その技術を胃癌手術に応用してきた3).その過程ですべての操作を腹腔鏡下に完遂する方法を定型化し,腹腔鏡下Roux en Y再建に関連した合併症を防ぐノウハウを蓄積した.その再建と関連する腸間膜の縫合閉鎖法などについてはこれまで論じられることは多くなかったが,Roux en Y再建は内ヘルニアや再建の不具合による通過障害など無視できない合併症をきたす可能性を有する(図1).本稿では完全腹腔鏡下Roux en Y再建において,われわれの考える安全で合併症の少ない空腸空腸吻合と腸間膜の閉鎖法を紹介したい.

病院めぐり

とちぎメディカルセンター下都賀総合病院外科

著者: 山﨑一馬

ページ範囲:P.995 - P.995

 当院は栃木県南部の栃木市にある地域中核病院で長らくJAが経営母体でしたが,地域医療再生基金の助成を受けてJAを離れ近隣2病院と統合再編の結果,平成25年4月よりとちぎメディカルセンター下都賀総合病院と病院名が変更になりました.さらに平成28年4月には近くに新病院が完成予定です.栃木市(約16万人)は首都圏から電車で1時間半の距離にあり,四季の自然が豊かでブドウやイチゴなどの特産品も多く,蔵の街としても知られているように名所旧跡も多彩で世界遺産の日光もドライブ範囲内にあります.

 病院の常勤医師は現在37名と少数ですが,伝統的に地域の先生方との交流が盛んで症例検討会やカンファレンス,臨床病理検討会(CPC),市民公開講座なども積極的に行われています.院内では各科の連携は良好で忙しい中でも一丸となって診療にあたっています.さらに早くから医療事故防止・情報開示に取り組み,歴代の院長は自ら説明や対応にあたり,よく説明し患者と家族の同意を得ることがいかに大切かを実践しています.外科スタッフは院長代理の山崎,診療部長の児玉,医長の近藤,今西,小松原の5名です.診療は消化器外科,呼吸器外科,一般外科が中心で日本外科学会修練施設および日本消化器外科学会修練施設として先生方からも信頼されています.高齢化が進んだ地域がら,進行例やハイリスク例も多い傾向にあり標準治療が適応とならないケースも多々ありますが,毎週消化器科との症例検討会により連携を密にして丁寧な診療を心がけています.平成25年度の手術症例は326例で,その内訳は胃十二指腸疾患43例,大腸疾患83例,肝胆膵疾患53例,呼吸器疾患18例,乳腺疾患23例,ヘルニア70例,その他外傷や腹膜炎手術となっています.他施設と同様に腹腔鏡や胸腔鏡を用いた手術が年々増加している傾向です.慌ただしい日常臨床のなかでも切磋琢磨しあい,その成果を地方会や全国学会に発表することを目指しています.臨床研究や臨床成績の発表が病院のレベルアップに通じるものと考えています.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・27

周術期の血糖管理―インスリン療法は有用か

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.996 - P.999

素朴な疑問

 手術患者や重症患者は耐糖能が低下して高血糖を呈することが多い.高血糖は易感染性・創傷治癒阻害・炎症反応亢進を生じ,術後合併症や回復遅延の原因になるため,インスリンを投与して高血糖を修正するが,血糖の目標値やインスリン投与法はさまざまである.手術患者や重症患者の厳しい血糖管理は,術後合併症の減少や転帰の改善に役立つのだろうか.

臨床研究

痔核注射治療(ALTA)後の肛門痛に関する検討

著者: 矢野孝明

ページ範囲:P.1000 - P.1002

要旨

[目的]主な痔核治療の1つである注射治療(ALTA治療)の合併症として肛門痛がよく知られている.今回,肛門痛の原因を探求するために後向き観察研究を行った.[対象と方法]痔核に対してALTA治療を施行した症例を対象とし,肛門痛のあった症例(52例)を「肛門痛あり群」,なかった症例(231例)を「肛門痛なし群」と定義した.性別,年齢,Goligher分類,痔核個数,ALTA治療の既往,ALTA合計投与量,痔核1個あたりの最大投与量の7項目を説明変数として,多変量解析を行った.[結果]ALTA治療後の肛門痛における有意なリスク因子として,痔核の個数が示唆された.

臨床報告

盲腸癌を合併した腸間膜静脈硬化症の1例

著者: 山地康大郎 ,   隅健次 ,   田中聡也 ,   佐藤清治 ,   明石道昭 ,   森大輔

ページ範囲:P.1003 - P.1007

要旨

症例は81歳,女性.盲腸癌の診断にて当院へ紹介された.注腸造影検査で回盲弁対側の盲腸に2 cm大の2型進行癌を認めた.大腸内視鏡検査では上行結腸の非腫瘍部の粘膜はやや貧血様で,軽度浮腫状であった.CT検査で上行結腸の腸間膜の静脈石灰化を認め,腸間膜静脈硬化症を合併した盲腸癌の診断で腹腔鏡下右半結腸切除術を施行した.右側結腸の腸間膜の静脈石灰化を認めた範囲はすべて切除範囲に含めた.術後病理診断では,盲腸癌は中分化腺癌であり,筋層までの浸潤を認めた.非腫瘍部は腸間膜静脈硬化症と診断された.術後経過良好であった.盲腸癌と腸間膜静脈硬化症の因果関係は明らかでないものの,癌合併例は貴重と考え報告する.

術後5年3か月に孤立性腹膜再発をきたした大腸癌の1例

著者: 高原善博 ,   林永規 ,   岡本佳昭 ,   小西孝宜

ページ範囲:P.1008 - P.1013

要旨

症例は71歳の男性で,当院にて下行結腸癌(中分化型腺癌,pSE,ly2,v2,pN2(4/10),H0,P0,M0,Stage Ⅲb)および直腸癌(高分化型腺癌,pSM,ly1,v0)に対し左側結腸切除および直腸低位前方切除を同時施行した.術後補助化学療法を1年間施行後,外来にて経過観察となっていたが,術後5年3か月に黒色便を主訴に外来受診した.上下部内視鏡にて出血性病変を認めず,小腸カプセル内視鏡にて小腸腫瘍を認めたため診断および加療目的に小腸部分切除術を施行した.病理診断は腸間膜由来の中分化型腺癌であり,前回手術の下行結腸癌の組織型と酷似を認めたため腹膜再発の診断となった.大腸癌孤立性腹膜再発は稀であり,文献的考察を加えて報告する.

胆囊胃瘻を介した胆石イレウスの1例

著者: 山本晋也 ,   長田俊一 ,   窪田徹 ,   長堀優 ,   小尾芳郎 ,   阿部哲夫

ページ範囲:P.1014 - P.1017

要旨

患者は88歳,女性.嘔吐を主訴に受診し,イレウスの診断で入院となった.CTでは小腸内に結石嵌頓像と口側小腸の拡張を認めた.上部内視鏡では十二指腸に胆囊との瘻孔はなく,胃前庭部に潰瘍瘢痕様所見を認め胆囊胃瘻が疑われた.イレウス解除のため手術を施行した.回腸に結石が嵌頓しており,腸管を切開し3 cm大の結石を摘出した.術後に上部内視鏡検査を施行し,胃前庭部の瘻孔開口部と思われる箇所よりカニュレーションして造影すると胆囊が造影され胆囊胃瘻を確認した.胆石症の合併症として胆石イレウスは比較的稀であり,なかでも胆石の排出経路としては胆囊十二指腸瘻が多い.稀な胆囊胃瘻を介した胆石イレウスを経験したので報告する.

骨髄異形成症候群(MDS)に合併した直腸癌の1例

著者: 林昌俊 ,   栃井航也 ,   小久保健太郎 ,   高橋啓 ,   松本光善

ページ範囲:P.1018 - P.1022

要旨

症例は70歳,女性.主訴は便潜血陽性.10年前より骨髄異形成症候群(MDS)により近医で経過観察されていた.2011年9月,検診で便潜血を指摘され当院に紹介された.MDSは骨髄生検を施行しRCMD,IPSS-Int1と診断した.入院後も貧血が進行し,注腸検査,下部消化管内視鏡検査を施行したところ直腸RSに半周性2型の直腸癌を認めた.周術期にHLA適合濃厚血小板,濃厚赤血球を輸血し,腹腔鏡下前方切除術,D3郭清を施行した.病理検査ではType 2,24×35 mm,tub2,pMP,stageⅡであった.術後合併症はなく術後11病日に退院した.MDSに合併した大腸癌の報告は稀である.血球減少に対する対策を行うことで,MDSを合併した癌患者に対しても根治手術を行うことができた.MDS患者に対しても腹腔鏡下手術は可能であると考えられた.

手術手技

単孔式腹腔鏡下胆囊摘出術/総胆管切石術におけるC-tube挿入法の工夫

著者: 外山栄一郎 ,   吉田泰 ,   那須二郎 ,   川田康誠 ,   久保田竜生 ,   大原千年

ページ範囲:P.1023 - P.1029

要旨

[目的]単孔式腹腔鏡手術(TANKO)における簡便かつ安全なC-tube挿入法を確立する.[方法]マルチチャンネルポートに3 mm細径鉗子を加えTANKO+1にて手術を行う.既存のCチューブセットに6Fr血管造影用ロングイントロデューサーを組み合わせることで確実に総胆管内にチューブを誘導する.[成績]2010年からTANKO+1にてC-tubeを33例に挿入し,全例に留置可能であった.挿入に伴う合併症は経験しておらず,いずれも短時間に挿入可能であった.本手技を応用して細径胆道ファイバーによる経胆囊管胆管切石も可能であり,術後の内視鏡治療も容易であった.[結論]TANKOにおいてもC-tubeは安全に挿入可能であり,総胆管結石に対する経胆囊管アプローチ法への応用も期待できる.

学会告知板

第11回 拡大内視鏡研究会

ページ範囲:P.911 - P.911

テーマ:拡大内視鏡観察の有用性と限界

当番世話人:田中信治(広島大学大学院医歯薬保健学研究科内視鏡医学,広島大学病院内視鏡診療科)

代表世話人:吉田茂昭(青森県立中央病院),工藤進英(昭和大学横浜市北部病院)

日 時:2014年9月13日(土)9:30~18:00(予定)

会 場:梅田スカイビル タワーウエスト3階 ステラホール

第24回 大腸Ⅱc研究会

ページ範囲:P.954 - P.954

代表世話人:工藤進英(昭和大学横浜市北部病院)

日 時:2014年9月14日(日)9:00~17:00(予定)

会 場:梅田スカイビル タワーウエスト3階 ステラホール

1200字通信・68

“one for all, all for one”―再びラグビーから

著者: 板野聡

ページ範囲:P.919 - P.919

 7月号では,ラグビーで使われる言葉について書かせて頂きましたが,小説『三銃士』が御本家の“one for all, all for one”のことが気になり,少し調べてみることにしました.この言葉は,一般には「一人は皆のために,皆は一人のために」と解釈されているようですが,フェイス総研の小倉広社長のコラムを拝読して,眼から鱗が落ちることになりました.

 小倉社長の解説には,ラグビーで有名な平尾誠二氏のお話として,この言葉は「一人は皆のために,皆は『勝利』のために」という意味だと紹介されていたのです.そう,後者の“one”は“victory”だったのです.確かに,ある集団で「一人」が「皆」のために努力することは当たり前でしょうし(いや,最近はそうでもないか?),一人ひとりが力を合わせることで,1+1が3にも5にもなるでしょう.そのためには,“one for all”でいう“one”は自立し然るべき能力を備えた大人であるという前提が必要になります.もっとも,「一人」が半人前で他のメンバーの助けを借りなければ仕事ができないようでは,その集団の力は十分に発揮されることはなく,ただの烏合の衆となり,期待された相乗効果も生まれるはずがありません.したがって,個々に独立し,それなりの能力を備えた「大人」が集まってこそ,一つの目標,戦いであれば当然「勝利」に向けてその力を合わせることができるというわけです.言葉の出自を考えれば当然のことと納得でき,この解説で頭の中の霧が晴れた気がしたわけですが,聖徳太子の時代から,「和を以て尊しとなす」日本人ゆえに,先のような一般的な解釈がなされたのではないかと,今にして思い当たることになりました.

ひとやすみ・114

乳癌検診における対応

著者: 中川国利

ページ範囲:P.946 - P.946

 食生活の欧米化に伴い,日本でも乳癌の罹患率が著明に増加しつつある.そこで乳癌検診が強力推進され,乳癌に対する関心が急速に増しつつある.しかし,女性にとってデリケートな乳腺を対象とするため,当院では特別な診療体制をとっている.乳腺専用の外来診察室を設け,マンモグラフィーや超音波検査は女性技師が行っている.また診察時には必ず女性看護師の同席を求め,さらに個人的には緊張を和らげるために話し掛けることにしている.

 お乳がたくさん出た人には,「牛だったら表彰ものですね.ミルク代も浮いたでしょうから,ご主人からご褒美を戴く権利がありますね」.授乳期が過ぎても乳を分泌する人には,「若くて魅力的な女性だからいつまでも乳が出るのですよ」.超音波検査で囊胞を認めた人には,「気にすることはありません.豊胸のためわざわざシリコンを留置して水を注入する人も居りますから」.

書評

岩垂純一(著)―肛門基本術式の実際―痔核・痔瘻・裂肛

著者: 渡邉聡明

ページ範囲:P.962 - P.962

 本書は,代表的な肛門疾患である痔核,痔瘻,裂肛について,イラストを豊富に用い,肛門手術を基礎から学ぼうとする初心者に対して分かりやすく解説した入門書である.と同時に,消化器外科,特に下部消化管外科を専門としている専門医に対する肛門手術の深さを説いている専門書でもある.この一冊に,初心者から専門医までを対象とした幅広い内容が凝縮されている.

 肛門疾患には治療上,難しい点がいくつかある.単一の術式でも,実際の手技の微妙な違いで結果は大きく異なってしまう.手術の結果は,術後すぐに分かり,排便時など日常生活で症状を感じる機会が多いため,手術の患者に与える影響は手術直後から大きい.こうした肛門疾患の特性を背景に,本書には,全体を通して著者の肛門疾患の治療に対する強いそして明確な思想が流れている.根底にある基本的な考え方は,①根治だけを目指して術後に機能障害を生じてはならない,②術後の不定愁訴や肛門狭窄などの合併症を避けて,機能面,形成面で患者の満足する治療を目指すことが重要である,③良性疾患であるため,必要最小の過不足ない手術を心がける必要がある,という点である.著者自身も,「術者の自己満足で徹底的に手術するのは避けるべきである」と述べている.こうしたコンセプトで,これまで他の追随を許さない多くの症例を経験してきた著者が,具体的な手技,工夫を紹介している.メッセージの一つ一つが,著者のこれまでの経験を基に,著者自身が作り上げてきたものである.個々の手術手技の説明は,きわめて詳細,具体的かつ明確で,明日からの臨床現場ですぐに応用できる内容となっている.特にイラストが有用に利用されている.また,術式ごとに実際の手技を行う上での細かい注意点やコツが示されている.これらは,一見単純な内容に見えても,実はその裏で膨大な症例での試行錯誤を経て,考え抜かれた上で提示されているメッセージだと思う.こうした貴重な,そして奥の深いポイントが随所にみられる.ここが初心者だけではなく,消化器外科専門医にとっても本書が貴重である所以である.

昨日の患者

憧れの両親

著者: 中川国利

ページ範囲:P.970 - P.970

 良しにつけ悪しにつけ親の生き方を見て,子供は育つ.両親の睦まじい姿に理想の夫婦像を見出し,逝く父親に誓いを立てた娘さんを紹介する.

 50歳代後半のOさんは3年前に胃癌で手術をしたが,癌性腹膜炎をきたして定年前に職を辞した.そして奥さんも一緒に過ごす時間を大切にするため,30年以上勤めた職場を退職し,自宅で献身的に夫を看護した.しかしながら家庭での介護に限界が生じ,ターミナルケアを目的に再入院した.

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原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P. - P.

投稿規定

ページ範囲:P. - P.

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P. - P.

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P. - P.

あとがき

著者: 田邉稔

ページ範囲:P.1036 - P.1036

 欧米人と話をしていると,時々神の話が出てくる.文化,生い立ちの違いからわれわれ日本人はしばしば理解に苦しむ.先日フランスに出張に行った時に,フランス人,イタリア人,アメリカ人,日本人の外科医が集まってディナーを楽しむ機会があった.最初は学術的な話から始まったが,だんだんアルコールが回ってくると,ワールドカップサッカーやそれぞれのお国自慢の話題にどんどん移っていき,大変楽しい一時であった.宴たけなわの時に,イタリア人外科医が奥様との馴れ初めを話しはじめたのだが,何と彼は今の奥様と出会って3分で結婚することを決めたそうだ.日本人のわれわれには理解しがたい即断即決である.そのイタリア人外科医は“神”の話を持ち出した.ローマ神話に出てくる神の中にはアポロとミネルヴァという神がいて,アポロは感覚・本能・芸術の神であり,ミネルヴァは理論や戦略の神だという.自分はアポロの子孫だから一生の伴侶を3分で決められたというのが彼の主張であった.日本人的に表現すれば“ひとめぼれ”であるが,ローマ神話の神様の話を絡めると何だか格好が良い.さらに彼は,「論文を量産するのはミネルヴァ的外科医であるが,自分はアポロの子孫だから,感覚と本能で手術を全力でやってきた」と続けた.何と膵頭十二指腸切除を一人で1,200例やったと言うから,一同驚きとともに場は盛り上がった.

 さて,私の恩師である島津元秀先生はこの3月で東京医大八王子医療センター消化器外科教授を定年でご退任されるとともに,本誌編集委員として今回最後の特集「肝胆膵癌の血管浸潤をどう治療するか」を組まれた.島津先生は言わずと知れた手術の名手であり,これまで数多くの困難な手術に挑戦されてきた.肝胆膵領域の手術で最後に問題になるのは「血管合併切除と再建」である.これをどのように克服できるかが,肝胆膵外科医の力量のバロメーターと言っても過言ではない.アポロ的な島津先生が最後に選択したアポロ的課題の特集,本号に期待して頂きたい.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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