icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科69巻9号

2014年09月発行

雑誌目次

特集 外科医が知っておくべき小腸疾患

ページ範囲:P.1041 - P.1041

 かつては「暗黒の臓器」といわれていた小腸であるが,検査機器の進歩・発達により,徐々に光が当てられるようになってきた.びらん,潰瘍,腫瘍をはじめ,実は様々な疾患があることがわかり,外科的治療が適応となることも珍しくなくなってきた.

 そこで本特集では,外科医が知っておくべき検査方法やその進め方,さらに各疾患の治療方針を取り上げる.なお今回は,即時緊急対応を要する疾患ではなく,小腸検査を行ったのちに外科治療の適応になるような疾患を対象としたい.

外科医が知っておくべき小腸の生理,機能

著者: 藤森俊二 ,   坂本長逸

ページ範囲:P.1042 - P.1047

【ポイント】

◆小腸上皮は広い表面積で腸管内容と接する免疫の最前線である.

◆腸内細菌には消化吸収に役立つ種があるが,小腸における栄養の吸収は多くの場合腸内細菌と競合している.

◆栄養の吸収・腸内細菌・腸管免疫は全身疾患に関与し,注目されている.

検査

小腸二重造影法

著者: 奥田圭二 ,   田中靖 ,   鵜沼清仁 ,   高添正和

ページ範囲:P.1048 - P.1058

【ポイント】

◆十二指腸より肛門側病変の検索時には,バルーン付きカテーテルをTreitz靱帯を越えた部位でバルーン固定する.

◆微細な病変には,空気量と薄層法を上手に組み合わせることで描出能が向上する.

◆圧迫法(圧迫筒の利用,腹臥位でのフトン圧迫)は小腸索の分離,観察に有効な手段である.

小腸内視鏡

著者: 根本大樹 ,   矢野智則 ,   山本博徳

ページ範囲:P.1059 - P.1063

【ポイント】

◆バルーン内視鏡により深部小腸の内視鏡診断・治療が可能になった.

◆バルーン付きオーバーチューブで任意の部位に固定点を置けるため,深部小腸でも操作性がよい.

◆小腸の内視鏡検査だけでなく,大腸内視鏡挿入困難例や,術後再建例のERCPにも有用である.

カプセル内視鏡

著者: 大塚和朗 ,   荒木昭博 ,   渡辺守

ページ範囲:P.1064 - P.1068

【ポイント】

◆カプセル内視鏡は低侵襲に小腸全体の観察ができ,バルーン内視鏡による精査の予備検査としても有用である.

◆滞留が起きる欠点があったが,パテンシーカプセルにより開通性が確認できるようになった.

◆膨大な画像の解析は動画で行うが,画像強調観察の応用により病変の検出率向上が図られている.

症状

出血

著者: 福澤誠克 ,   河合隆 ,   佐藤丈征 ,   内藤咲貴子

ページ範囲:P.1070 - P.1074

【ポイント】

◆原因不明消化管出血(OGIB)とは,消化管出血が疑われた際,全身状態の把握・出血している消化管部位の推測・患者の正確な病歴聴取を行い,それらの情報をもとに上部・下部消化管内視鏡検査を行っても明らかな出血源を同定できないものを指す.

◆小腸出血をきたす原因疾患としては血管性病変のほか,びらん・潰瘍などの炎症性疾患,腫瘍性疾患,または憩室などが挙げられる.

◆カプセル内視鏡は全小腸の観察能に優れており,バルーン内視鏡より低侵襲でスクリーニングに適した検査といえる.バルーン内視鏡は全小腸を一度に観察することは困難であるが処置が可能である.しかし検査時間は比較的長く,苦痛を伴うこともある.

腸閉塞―知っておくべき稀な病態を中心に

著者: 吉田俊太郎 ,   山田篤生 ,   藤城光弘 ,   小池和彦

ページ範囲:P.1076 - P.1081

【ポイント】

◆腸閉塞の原因として,術後の癒着性イレウスが最も頻度の高い疾患であり,その対応は重要であるが,常に他の疾患を念頭に入れた問診,診察および画像評価が必要となる.

◆診断に悩むような症例がある場合には,悪性疾患と同様に他科の医師との連携が重要となる.

手術

腸回転異常

著者: 荒木俊光 ,   井上幹大 ,   大北喜基 ,   内田恵一 ,   毛利靖彦 ,   楠正人

ページ範囲:P.1082 - P.1087

【ポイント】

◆治療方針の決定には,発生のメカニズムを理解し正しく病型を把握する必要がある.

◆手術適応の決定には,潜在的な腹部症状の有無にも注意する.

◆中腸軸捻転は致死的かつ短腸症候群の原因となるため,時期を逃さずに整復する.

小腸憩室―術式選択について

著者: 岡本光順 ,   小山勇 ,   近藤宏佳 ,   原聖佳 ,   田代浄 ,   合川公康 ,   岡田克也 ,   渡辺幸博 ,   宮沢光男 ,   石井利昌 ,   佐藤弘 ,   山口茂樹

ページ範囲:P.1088 - P.1091

【ポイント】

◆十二指腸憩室に対する手術は憩室切除+ドレナージを基本とするが,胆道ドレナージを追加することもある.

◆回腸・空腸憩室に対する手術は単純縫合閉鎖または小腸部分切除+ドレナージと腸間膜膿瘍合併切除である.

◆Meckel憩室では異所性迷入組織を残すことのないように憩室基部をしっかり切除する.

クローン病

著者: 岸川純子 ,   風間伸介 ,   畑啓介 ,   山口博紀 ,   石原聡一郎 ,   須並英二 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.1092 - P.1097

【ポイント】

◆クローン病(CD)において絶対的手術適応となるのは,炎症が増悪して深掘れ潰瘍を呈し,穿孔や穿通に続く膿瘍,あるいは大量出血の原因となりうる場合である.また,内科的治療に反応せず炎症の増悪・寛解に伴い腸管の創傷治癒を繰り返した場合には瘢痕性狭窄や瘻孔形成をきたし,相対的な手術適応となる.

◆再手術率が高く,短腸症候群が問題となることから,CDの小腸病変では可及的に腸管を温存することが重要であり,狭窄形成術または小範囲切除が行われる.

◆再発予防として内科治療ではメサラジンやニトロイミダゾール系抗菌薬,プリン誘導体,また近年は抗TNF-α製剤であるインフリキシマブの有用性が示されており,禁煙の重要性も報告されている.

小腸GIST―手術を中心とした治療戦略

著者: 土屋剛史 ,   橋口陽二郎 ,   松田圭二 ,   塚本充雄 ,   福島慶久 ,   赤羽根拓弥 ,   中村圭介 ,   端山軍 ,   藤井正一 ,   野澤慶次郎

ページ範囲:P.1098 - P.1103

【ポイント】

◆小腸GISTに対する腹腔鏡手術は,開腹手術と同等かそれ以上の成績が報告されている.

◆補助療法との組み合わせにより,生存期間の延長が期待できる.

小腸癌

著者: 山形幸徳 ,   八木浩一 ,   愛甲丞 ,   清川貴志 ,   西田正人 ,   山下裕玄 ,   森和彦 ,   野村幸世 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.1104 - P.1108

【ポイント】

◆小腸癌は稀な疾患で,治療ガイドラインは存在しないのが現状である.

◆進行癌で発見されることが多く,予後不良である.

◆治療の主体は手術であり,非治癒因子がない場合はリンパ節郭清を伴う小腸切除を行う.

◆他臓器転移や腹膜播種を伴う症例では,出血や閉塞の予防目的に姑息的切除を行う.

◆後治療として他の消化管癌に準じた化学療法を行う.

FOCUS

増え続ける非B非C肝癌―NAFLD/NASHを中心に

著者: 鈴木英一郎 ,   千葉哲博 ,   大岡美彦 ,   太和田暁之 ,   小笠原定久 ,   斎藤朋子 ,   叶川直哉 ,   元山天佑 ,   横須賀收

ページ範囲:P.1110 - P.1114

はじめに

 わが国での肝癌での罹患者数はおよそ47,000人であり,癌患者のうち第4位を占める1).B型・C型肝炎に対する抗ウイルス療法の進歩により罹患者数の減少および死亡者数の減少が期待されたが,肝炎ウイルスによる罹患者・死亡者数の減少を補う形で非B非C肝癌(以下,NBNC肝癌)が急激な増加をみている.このため近年は肝癌罹患者数に大きな変動がみられず,その対策は引き続き急務である.このNBNC肝癌の原因の中心となるのが非アルコール性脂肪性肝障害(non alcoholic fatty liver disease:NAFLD)および非アルコール性脂肪性肝炎(non alcoholic steatohepatitis:NASH)である.本稿では,NAFLDおよびNASHの疫学,診断,治療および肝癌発症に関する現状と治療を述べる.

膵癌補助化学療法の新しいエビデンス

著者: 上坂克彦 ,   福富晃 ,   朴成和

ページ範囲:P.1116 - P.1118

はじめに

 膵癌はわが国の癌による死因の第5位を占め,今なおその発生数が増加の一途をたどっている.膵癌に治癒をもたらすことのできる治療法は,根治切除のみであることは周知の事実である.しかし,手術のみでは膵癌の術後5年生存率はわずか10%程度にとどまる1,2).これまでに,術後生存率の改善をめざして,様々な術式の改善が試みられてきた.とりわけわが国では,拡大後腹膜郭清が熱心に行われてきたが,その効果はわが国自身で行われた臨床試験によって否定されるに至った3)

 これに対して,膵癌の術後補助化学療法の分野では,過去10年間にめざましい進歩が報告されてきた.膵癌診療ガイドライン2013年版では,臨床試験に関する最新のデータに基づいて,術後補助化学療法に関する推奨も改訂されている4).本稿では,膵癌の術後補助化学療法の到達点と今後の展望について概説する.

病院めぐり

岐阜県立多治見病院外科

著者: 梶川真樹

ページ範囲:P.1119 - P.1119

 2007年に最高気温40.9℃を記録し,一躍「日本で一番暑いまち」として有名になった岐阜県多治見市は,2013年に日本一の座は譲ったものの,現在も「あついまち」に変わりはありません.もともと多治見市は「陶器のまち」「美濃焼のまち」であり,古墳時代から陶磁器が焼かれていたと推測されているほど長い歴史を持っています.岐阜県と愛知県の県境にあり,一帯は焼き物に適した土が豊富に採れるため,隣接する愛知県瀬戸市や岐阜県土岐市なども陶器のまちとして有名です.

 当院は,その多治見市の中心を流れる土岐川沿いに,1939年岐阜県立多治見病院として一般病床32床で開設され,以後病床数を増やすとともに,1952年には結核病棟,1957年には精神科病棟が併設されました.また早くから屋上ヘリポートやドクターカーの運用を開始するなど,三次救急病院としての役割も担っています.2010年からは地方独立行政法人となり,同年緩和ケア病棟も開設されました.現在は結核,精神病床を含め,627床で運営されています.地域がん連携拠点病院,地域医療支援病院,災害拠点病院などに指定され,愛知県北東部を含む岐阜県東濃地区の中核病院として機能しています.

必見! 完全体腔内再建の極意・18

胃全摘術後再建―Efficient purse-string stapling technique(EST法)

著者: 大森健 ,   益澤徹 ,   赤松大樹

ページ範囲:P.1120 - P.1124

■■はじめに

 早期胃癌に対する腹腔鏡下幽門側胃切除術は,手技の定型化により広く普及している.しかしながら,腹腔鏡下胃全摘術においては,食道空腸吻合が技術的に困難で,さまざまな工夫がなされている.われわれはサーキュラー・ステイプラーを用いた完全体腔内吻合,efficient purse-string stapling technique(EST法;図1)を考案し,幽門側胃切除,胃全摘術後再建に用いている1~3).最近では手技を改良し,金属製のヤリであるEndo Mini Rod(EMR;高砂医科工業株式会社)を用いた,新EST法を行っているので手技を紹介する.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・28

炎症反応の制御―ステロイド投与は有用か

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.1126 - P.1129

素朴な疑問

 生体にとって手術は「傷害injury」であり,生体は自律神経・ホルモン・サイトカインを総動員して手術に耐え,手術から回復しようとする.手術侵襲が大きいほど生体の反応やダメージは大きく,回復に時間がかかる.ステロイドを使って炎症反応を制御すると,術後の回復は早いのだろうか.周術期にステロイドを投与すると,術後合併症が減るのだろうか.

臨床報告

虫垂重積症をきたした虫垂子宮内膜症の1例

著者: 赤坂治枝 ,   柴田滋 ,   内田知顕 ,   須藤武道 ,   成田淳一 ,   山中祐治

ページ範囲:P.1131 - P.1135

要旨

症例は31歳,女性.約半年前からの腹部不快感,約2週間前からの下痢を主訴に来院した.大腸内視鏡検査で虫垂開口部に粘膜下腫瘍様の隆起を認め,CT,MRIでは右骨盤腔に腸管と境界不明瞭な腫瘤像を認めた.精査中に腸閉塞を発症し,虫垂腫瘍の術前診断のもと開腹手術を施行した.開腹すると盲腸内に硬い腫瘤を触知したため,盲腸腫瘍として右結腸切除術を施行した.摘出標本の肉眼所見で虫垂重積症と診断し,病理組織検査にて虫垂子宮内膜症が原因であると診断した.子宮内膜症は,様々な症状を呈し,月経周期との関連性がない場合もあるため診断に苦慮するが,閉経前女性の腹痛を診た際には鑑別診断の一つとすべきと考えられた.

トラスツズマブ再投与時,インフュージョンリアクション後にたこつぼ心筋症を発症したHER2陽性進行乳癌の1例

著者: 宮里恵子 ,   蔵下要 ,   山口崇之

ページ範囲:P.1136 - P.1139

要旨

症例はHER2陽性転移乳癌を有する80歳代の女性.2年前にトラスツズマブ投与後,同剤を中止し他剤に変更し,半年前にトラスツズマブ再投与の方針となった.再投与時,悪寒,頻脈に引き続き,胸痛,ST上昇が出現した.著明な左室駆出率低下を認めたが,冠動脈の有意狭窄はなく,たこつぼ心筋症の診断であった.心機能の回復は速やかで,インフュージョンリアクション(IR)を引き金として心筋症を発症したと考えられた.トラスツズマブ投与による心機能低下は知られるが,たこつぼ心筋症発症の報告は稀である.同剤の休薬後の再投与時はIR発症への注意が必要である.

肉腫様変化を伴った膵の腺房・内分泌混合癌の1例

著者: 久保秀文 ,   長岡知里 ,   多田耕輔 ,   宮原誠 ,   長谷川博康 ,   山下吉美

ページ範囲:P.1140 - P.1144

要旨

症例は77歳,男性.黄疸と肝機能障害で当院へ紹介された.十二指腸乳頭部に腫瘍を認め,生検で未分化型悪性腫瘍と診断され,膵頭十二指腸切除術+Child変法再建を施行した.病理組織学的検索で異なる2種類の膵原発の腫瘍細胞が認められ,免疫染色結果より腺房・内分泌混合癌と診断された.癌腫の一部には肉腫様の変化を伴っていた.術後2か月目のCTで多発肝転移をきたし,その後全身状態が徐々に悪化し,術後第110病日目に永眠された.膵原発の混合癌および癌肉腫の報告例は少なく,その病態はいまだ不明な部分が多く,今後の症例蓄積による解明や有効な治療法の確立が望まれる.

左側にS状結腸が嵌頓した両側Spigelヘルニアの1例

著者: 杉田静紀 ,   平松聖史 ,   佐伯悟三 ,   雨宮剛 ,   後藤秀成 ,   新井利幸

ページ範囲:P.1145 - P.1147

要旨

症例は74歳,女性.2日前から排便時の左下腹部膨隆,疼痛を自覚した.改善しないため当院を受診した.左鼠径部,外鼠径輪よりやや頭側に圧痛を伴うピンポン球大腫瘤様の膨隆を認め,腹部CT検査では左腹直筋外縁にヘルニア門を形成し,S状結腸が脱出していた.右側にもヘルニアの形成と脂肪織の脱出を認めた.両側Spigelヘルニアと診断した.左側は結腸が嵌頓していたため,緊急手術を行い,メッシュプラグ法にて左側の修復を行った.術後経過は良好である.右側は脂肪織の脱出のみで無症状であるので,経過観察としている.Spigelヘルニアは腹壁ヘルニアの0.1~2%と稀な疾患であり,特に両側かつS状結腸嵌頓症例は稀ではあるが,下腹部痛,腹部の腫瘤様の膨隆を主訴とする疾患の鑑別では念頭に置くべき疾患である.

虫垂切除20年後に虫垂根部から発生した粘液囊胞腺癌の1例

著者: 岡田学 ,   小林裕幸 ,   梅田晋一 ,   清水稔 ,   野嵜英樹

ページ範囲:P.1148 - P.1152

要旨

原発性虫垂癌の大腸癌全体に占める割合は0.4~0.6%と比較的稀であり,粘液囊胞腺癌はそのうちの40%を占めるといわれる.症例は85歳の女性で,20年前に子宮筋腫に対して子宮摘出術を施行されていたが,その際に虫垂切除術も受けていた.右下腹部痛で受診し,CTで盲腸周囲に著明な炎症像を認めた.抗菌薬治療では病状が十分に改善しなかったため,回盲部切除術を施行した.虫垂根部は穿孔しており,同部の病理組織検査で核異型が強く,胞体に粘液を含む腫瘍細胞を認めたため粘液囊胞腺癌と診断された.虫垂切除術後の遺残虫垂から発生した粘液囊胞腺癌は非常に稀な症例であるため,若干の文献的考察を加えて報告する.

Direct Kugel法で修復した,腹膜透析中に生じた鼠径ヘルニア嵌頓の1例

著者: 小泉範明 ,   中瀬有遠 ,   高木剛 ,   福本兼久

ページ範囲:P.1153 - P.1156

要旨

鼠径ヘルニアは腹膜透析(PD)の重大な合併症の一つである.症例は62歳の男性で,PD導入後に鼠径ヘルニアを発症し,PD導入後6か月で小腸の嵌頓をきたし前方アプローチで緊急手術を施行した.嵌頓腸管に壊死は認めず,ヘルニア囊を開放して嵌頓腸管を腹腔内に還納し,Direct Kugel法で修復を行った.PD患者では透析液の注入による腹圧上昇のため再発リスクが高く,嵌頓例であっても術前に感染性合併症のないことを確認して適切なメッシュを用いた修復術を行うことが望ましい.特に前方アプローチでmyopectineal orificeを腹膜前腔から平面的に覆うことが可能なDirect Kugel法は,PDに合併するヘルニアに対して有用な術式と考えられ,嵌頓例でも施行可能である.

ひとやすみ・115

営業努力

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1047 - P.1047

 外科医本来の仕事は手術であり,外科医は手術三昧したいのが本望である.しかし,一般市中病院では手術数は限られ,自分には知識も技術もあるのに執刀する機会が少ないと歎きがちである.多数の手術をするためには,それなりの営業努力が必要である.

 若い時代には,知識も技術も乏しいため手術に巡り合う機会は少ない.そこで手術を任せられたときに即応えられるように,常日頃から知識を蓄え手技を習得しておく必要がある.ところで私が大学の医局に在局していた当時,同級生と比較して出張先での手術件数が断然に多かった.その理由は,出張先の病院の外科医は先輩と二人だけであり,麻酔医も不在であった.通常は後輩が麻酔をかけ,レスピレーターを装着する.そして先輩が消毒をして滅菌布を掛けている間に,後輩が手洗いをして手術が始まる.このスタイルでは,先輩に手術を取られてしまう.そこで私は昼食をそこそこに,手術室に直行して麻酔をかける.さらに先輩が手術室に入る前に術野を消毒して,術前の準備を完了する.そして入室した先輩に,「開腹しておきましょうか」と,問う.手洗いし術衣に着替えた先輩は,「そのままやってみたら」と,手術続行を許してくれた.そのためほぼ全ての手術を施行することができた.

書評

László Tabár, Peter B. Dean(著) 南  学(訳)―マンモグラフィ読影アトラス

著者: 岩瀬拓士

ページ範囲:P.1069 - P.1069

 マンモグラフィ検診がまだ十分に日本に定着していなかった20年近くも前のことではあるが,当時我々が癌を強く疑って生検した石灰化の写真を,講演で来日したDr. Tabárに診てもらったことがある.一見多形性,区域性に見える石灰化ではあったが,彼は即座に良性と診断し,生検は不要だろうと答えたことを覚えている.生検結果が良性であったことを知る我々にとっては大変な驚きであったが,経験を積んだ今ならその診断理由をよく理解できる.当時の診断能力の差を思い知らされた貴重な経験となっている.

 本書は,そうしたマンモグラフィの教育活動を世界中に展開してきたDr. Tabárの有名な著書「Teaching Atlas of Mammography」の第4版を訳したものである.第4版改訂を機に日本語への翻訳と出版が現実のものとなった.

坂井建雄,河田光博(監訳)―プロメテウス解剖学アトラス―頭頸部/神経解剖(第2版)

著者: 千田隆夫

ページ範囲:P.1109 - P.1109

 昨今次々と出版されている解剖学アトラスには,百花繚乱の感がある.学生諸君には幸福なことであるが,決して安価とはいえない解剖学アトラスの選択に際して,どれか一冊となると随分迷うのではなかろうか.その中にあって,初版刊行以来,高い支持率を維持しているのが“プロメテウス”シリーズである.本書は,全3巻組の『プロメテウス解剖学アトラス』の第3巻に当たるものであり,初版刊行後わずか5年足らずで改訂第2版が出版された.

 初版との相違点を挙げてみよう.第3巻のサブタイトルは初版では「頭部/神経解剖」であったが,第2版では「頭頸部/神経解剖」となった.頭部と頸部が隣接・接続していて,多くの骨,筋,臓器(消化器,呼吸器),血管,神経が頭部と頸部を続けて貫通している事実を考えれば,頭頸部としてまとめることは理にかなっている.これによって第2版には,頭頸部を一緒に描いた新しい図や,臨床的な解説が数多く追加された.次に,第2版の最後に「中枢神経系:要約,回路図,まとめの表」が加わった.この新しいセクションには細密画は全くなく,もっぱら模式図,フローチャート,表によって,複雑な事項を要約・整理し,理解を助けることを目的としている.原著者による第2版の序文には,「試験に出題される重要な項目をまとめの形で記す」「試験のための集中的な復習にも役立つ」とあり,洋の東西を問わず,試験に追いまくられる医療系学生の現実のニーズに答えた新機軸であることがよくわかる.これらの増補改訂によって,総ページ数は初版より120ページほど増えたが,定価が初版と同じに設定されていることは,うれしい驚きである.

学会告知板

真菌症フォーラム第16回学術集会 演題募集

ページ範囲:P.1075 - P.1075

テーマ:「真菌症フォーラム16年の軌跡」

日 時:2015年2月14日(土)13:00~18:15(予定)

会 場:第一ホテル東京

    〒105-8621東京都港区新橋1-2-6 TEL 03-3501-4411(代表)

1200字通信・69

御遷宮

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1081 - P.1081

 昨年2013年には,出雲大社と伊勢神宮の御遷宮がありました.出雲大社は60年に一回の,伊勢神宮は20年に一回の御遷宮ですが,その両者が重なるという貴重な年でした.そして,その貴重な年が,前回は私が生まれた年であり,今回はその60年後ということで,「癸巳(みずのとみ,きし)」生まれの一人として還暦を記念する思い出深い年になりました.

 出雲大社は大国主大神をお祭りしていますが,御遷宮の5年前に神様には仮御所へ移っていただき,本殿が修復されるのだそうで,2013年5月に仮御所から本殿に御戻りいただき御遷宮を終えています.一方,伊勢神宮は20年に一回,隣地にまったく同じ建物を建て直し,内宮では2013年10月2日に天照大神の御霊に,また外宮では2013年10月5日に豊受大神の御霊に御移りいただき御遷宮を終えています.

昨日の患者

患者さんから元気を貰う

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1125 - P.1125

 超高齢社会を迎え,超高齢の手術患者さんが激増しつつある.そして認知症などの種々の合併症を伴い,手術を踏み切ることに躊躇せざるをえない患者さんも多い.しかしながら私は高齢でも自立して生活ができる患者さんには,積極的に標準的手術を行うことにしている.元気印の患者さんを紹介する.

 93歳のAさんが,黄疸を伴う上腹部痛を主訴として当院消化器内科に来院した.精査を行うと,総胆管結石を伴う急性胆囊炎であった.しかも若いときに潰瘍にて胃切除術を受け,ビルロートⅡ法で再建されていた.総胆管結石に対する内視鏡的治療を試みたが施行できず,外科へ紹介された.

--------------------

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P. - P.

投稿規定

ページ範囲:P. - P.

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P. - P.

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P. - P.

次号予告

ページ範囲:P. - P.

あとがき

著者: 瀬戸泰之

ページ範囲:P.1164 - P.1164

 本特集冒頭に「消化管のなかで,栄養の吸収を行う唯一の器官である小腸は消化管の要である」とある.しかしながら,筆者が外科医になった頃は(およそ30年前),「暗黒の臓器」といわれていた小腸である.本当に病気がなかったのか,あるいは診断する技術がなかっただけなのかは定かではないが,外科医として小腸への関心はほとんどなかったと記憶している.本特集を読んでいただければ一目瞭然であるが,小腸は「暗黒の臓器」ではなくなったのである.むしろ,栄養,免疫など極めてhomeostasisを維持するのに不可欠な器官であり,様々な疾患も発生する.さらに,まだまだ発展途上であるが,それらを知る術も身近になってきた.読者に小腸は重要な臓器なのだ,ということを認識していただくことが,本特集の目的であり,理解いただければ筆者としても望外の喜びである.

 筆者が感銘を受けた書のひとつに木村資生先生の『生物進化を考える』(岩波新書)がある.木村先生は「分子進化の中立説」を提唱した非常に高名な学者である.機会があればぜひ一読いただきたい.その書のなかに,地球を1年(誕生から現在までを1年とすると)としたカレンダーがある.生命の原型である真核生物が誕生したのは8月上旬,それから徐々に徐々に進化し(遺伝子変化が蓄積,ただし基本構造はご承知のように変わっていない!),人類が出現したのは12月31日午後8時とある.文明が誕生したのが,12月31日午後11時59分(1万年前),生命現象を解き明かそうとしている自然科学の歴史(約300年)は1年の最後のわずか2秒である.わずか2秒で,この歴史(遺伝子)の蓄積をすべてわかるはずもなく,まだまだ未知のことは沢山あるのだろうと感じている.小腸もその代表的な臓器である.これからの発展が大いに楽しみである.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?