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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科7巻1号

1952年01月発行

雑誌目次

特別講演

外科集談会第500回記念講演

著者: 塩田廣重

ページ範囲:P.1 - P.5

 昭和16年6月20日こゝ日本医師会館講堂に於て本集談会の第400回が開催された際,故近藤先生及び故茂木教授と共に本会の歴史に就て話をしてから早くも10年を経過し,今日茲に第500回を迎えたに就き,また私に何か話を致すようにとのことでありますが,過去の歴史や思出は大体前回に話し盡したことでありますから,今日は取り止めもない漫談を試みて責を塞ぎたいと存じます.御容謝を願ます.
 只今から考えますと,この10年は誠に夢の間に過ぎ去つたようにも思えますが併し我邦開闢以来この10年間に起つた程の大事変に遭過されたことは嘗てなく又今後も再び起るとは考えられないところの眞に空前絶後の出来事のあつた10年でありまして,よくも生きてこの時代を経驗したことゝ不思議にも考えられ驚くの他ないのであります.而してこの10年の内,前4年間は無智頑冥なる指導者によつて誘発続行された不名誉極まる戰爭によつて我邦の大部分の財産と夥しき人命とを全世界に対する信用と共に失つて民衆は塗炭の苦みに陷り遂に昭和21年8月15日の無條件降服の御勅詔を血涙を以て拜聽しなければならぬ境遇に追落されまして,間もなくミズリー艦上の降服調印となり,爾来6年間今日尚屈辱的な虜捕生活を営みつゝあるのであります。尤も斯様な仕儀に立至りました責任の一部は私共各自が無智であつたり怯懦であつたりした爲として負わねばならぬその報として堪えつゝあるのであります.

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胃全摘と糖代謝

著者: 友田正信

ページ範囲:P.6 - P.8

1.緒言
 胃手術後物質代謝に関する研究の歴史は非常に古く,多数諸家の業蹟が残されているのであるが,胃手術後胃機能の脱落があつても,腸管に於てその機能は代償されるもので,術後代謝は略々異常がないという様な考えを経驗的に抱いているものが多く,胃機能は一見著しく軽視された憾がある.
 吾々は,胃が單に消化のみならず,生体の諸代謝生理上重要な役割を有するものである事を,胃全摘後例に就ての観察に依つて立証し,胃全摘の研究が,必らず術後代謝の面から出発されなければならない事を力説して来た処であるが,他方,胃癌が,從来よりも更に積極的な意味即所謂胃切断術なる概念の下に手術されなければ,到底その遠隔成績が向上しない事は胃全摘又切除標本での病理組織学的研究によつて吾々が之を証明した処で,将来胃全摘術の施行頻度が益々増加せんとする今日では,更に一層胃全摘後の物質代謝の問題解決が緊急を要す事となつて来たわけである.

乳幼兒麻醉法に就いで

著者: 森田浩

ページ範囲:P.9 - P.13

緒者
 乳幼兒に対する外科的侵襲に際し如何なる無痛法を可とするかの問題に関しては世人の関心極めて少く,乳幼児に対する腰椎麻痺の報告例は時に散見せられるが,未だ一般は広く用いられず,又その繰作目らが患兒に與える精神上の打撃も少くなく,遂には手術不可能に陷ることも屡々経驗せられる所である.斯くて吸入麻醉法が採用せられる如くであるが,本法も又完壁の無痛法ではなく,其の偶発的合併症は未だ全く廻避することは出来ない。更に頭部,顔面,口腔内,頸部,胸部の手術に際して繰作上非常に不便を感ずるので,是等の欠点を無くし,しかも完全な無痛状態を将来するためには如何にすれば良いかの問題に関しては撓まぬ研究が続けられて来た.さきに甲斐等によつて提案せられたバルビタール,パビナール併用に依る所謂「睡眠麻醉法』も実にこの理の下に考案せられた一新麻酔法であるが,その適量決定の困難,過配量の危惧,麻醉幅員の未知などの事実は本法の著明な声價にも係らず今尚ほ広く実施されない障壁となつている.茲に於て私は本法に改変を加え,麻醉配量表を作成してその簡易化を計り,優秀な成績を得たので「乳幼児麻醉法』として茲に推奨する次第である.

簡單なるエーテル酸素—同時吸入麻醉法に就て

著者: 橋本義雄 ,   神谷喜作

ページ範囲:P.14 - P.17

 我々は從来,あまりにもガス吸入による全身麻醉を怖れすぎていた.そして又全身麻醉は何か大げさなものとして敬遠していた.その爲に脊髄麻痺法と局所麻痺法に專ら頼つていた感がある.ところが局所麻痺法では,完全な疼痛の消失を望めない場合が少くない.多少なりとも疼痛の伴うのを,患者は我慢しているのである.我々外科医は,今迄余りにも患者に我慢を強いて来たのではなかろうか.脊髄麻痺法では胸部,上肢等の手術は不可能であるし,患者の状態によつては,恐るべき血圧降下を伴う場合が可成りある腹膜炎,イレウス等の手術には脊髄麻痺法は多大の危險を伴うものである.こうした場合に,安全な全身麻醉法が望ましい.全身麻醉法と云えば,すぐクロヽホルム・エーテルを考えるが,このうちクロヽホルムはエーテルに比し危險性が強い,殊に心臓に対する障害が強いので余り使用されない.その点エーテルは非常に安全であつて,色々新しい麻醉用ガスが発見された今日でもやはり麻醉用ガスとしての重要なる地位を失わない.アメリカではエーテルの外一酸化窒素,サイクロプロペイン等を使用してエーテルの欠点を補つているが,我々には入手困難である.又一般にガス吸入麻醉法といえば,器具が大仕掛であると考えられているが,成程成書にも説明している如き,高價器具により,各種ガス,酸素,炭酸ガスの適当な分量を組合わせて吸入させる事は,まことに結構な方法であるが,如何せん高價で誰でも直に使用出来ると謂うわけにはいかない.

カテーテルによる脊髄麻醉に就て

著者: 大谷五良 ,   飯田文良

ページ範囲:P.18 - P.22

 カテーテルを蜘蛛膜下腔に挿入する事は既に1935年Love1)により試みられている.彼は髄膜炎患者に対して腰椎穿刺を繰返えして施行する事を避ける爲に輪尿管ヵテーテルを腰椎穿刺針を通じて蜘蛛膜下腔に挿入して7日間にも及んだ。1944年Touhy3)はLemmon2)により始められた持続脊髄麻醉(Continous spinal anesthesia)の手技のうち腰椎穿刺針を刺したまゝにしておくのを改めてLoveと略々同様の方法で特別の腰椎穿刺針を通じて輸尿管カテーテルを蜘蛛膜下腔内に挿入した.そしてSaklad4)は1947年カテーテルをTh8又はそれ以上の高さまで25〜30cm挿入して脊髄分節麻醉を確立したことは衆知のことである.
 上述の如く脊髄麻醉を行う際にカテーテルを蜘蛛膜下腔内に挿入するのは手術中任意に藥液を注入して持続脊髄麻醉又は分節脊髄麻醉を行うことを目的としたものでその利点とする所は次のようなものである.第1に確実に脊髄麻醉を行い得ること,第2に麻醉時間を任意に延長し得ること,第3に單純性脊髄麻醉に於ては麻醉藥を大量用いて麻醉時間の延長を計ろうとすれば危險が伴い,麻醉藥を少量用いれば時間が短くなると云う矛盾を解決したこと等である.

Nitrogen Mustard動脈注射療法

著者: 森川茂 ,   篠邊次郞 ,   栗田一郞

ページ範囲:P.23 - P.25

緒言
 Nitrogen Mustard(以下N. M. と略す)に関しては既にアメリカに於て幾多の動物実驗及び臨床報告が行われ,吾が國に於ても頻回に亘る紹介と追試が爲され,吾々もその臨床的應用,人体及び実驗動物の全身諸臓器に及ぼす影響,吉田肉腫に対するシアニン系色素の併用等既に数回に亘り外科学会に於て発表したので,今改めてその沿革並びに煩雜な紹介は避けることとするが,1948年Graef及びKamofskyは動物実驗に於てN. M. は静脈注射後(以下静注と略す)2〜5分位で既に組織胞と結合する傾向のあることを報じ,更に1949年SeligmanはN. M. のβ-ethylの部にradioactive Jodを附してその静注後の分布を檢し,大部分は肺に沈着し次いで血中淋巴腺,睾丸等に多く見出されると述べている.1950年Osgoodは骨髄の組織培養にColchicin,X-線,Urethane,N. M. 等を作用せしめ,その細胸分裂像を主として之等の最小有効量と刺戟量との比を檢した結果,Colchicinは1:1000,X-線は1:40,Urethaneは1:200の比であるに反し,N. M. は1:2と1:4の間にあると報じている.

外科的疾患と血清ビリルビン

著者: 飯塚積 ,   川島惠三

ページ範囲:P.26 - P.29

 血清ビリルビン(以下血清ビと略記)と肝,胆道疾患及び肝障碍との関係については数多くの業績があるが,内出血と血清ビとの関係については余り報告がないようである。我々はこの点に関して外科的疾患並に外科手術前後の血清ビの消長,其の他2,3の実驗を行い,興味ある知見をえたので,こゝに報告する.既にその一部は発表した1)2)

半身不随症に対する上頸部交感神経節切除術の効果檢討

著者: 原子謙二

ページ範囲:P.30 - P.31

(1)序言 脳溢血及び脳軟化症は我が國に於て非常に多い疾患であつて,その死亡率は殆ど全結核症に次ぐ地位を占めている.昭和24年の日本外科学会総会に於て,岐阜の村上氏は「罹患脳側上頸交感神経節切除による半身不随治驗」と題して,多数症例の手術効果を述べている.私ほこの疾患の重要性にかんがみて,今春からこの手術法をとりあげ,現在迄に40例を追試することができたので,未だ少数例ではあるが,主として手術効果の実態を述べその檢討を行いたい(症例表I略).

脾脱疽性骨膜骨髓炎の1例就にて

著者: 中村壽一 ,   鈴木剛法

ページ範囲:P.32 - P.33

 脾脱疽の症例報告は欧米に於ては割合に少くないが,本邦に於ては比較的稀で,文献上現在迄約60例の報告があるのみである.しかも殆んどその大部分は皮膚科領域に於ける症例である.我々は骨膜炎及び骨髄炎の所見を呈した症例を経驗したが,文献上同様な症例を発見する事が出来なかつたので稀有な症例と思つて茲に報告する次第である.

有鉤嚢虫腦内寄生症の1手術例

著者: 榊原宏 ,   吉田堯運

ページ範囲:P.33 - P.35

緒言
 有鉤嚢虫の脳内寄生に関しては,1558年Rumlerが一癲癇患者の剖檢に際し,硬脳膜に嚢虫を発見したのに始まり,Küchenmeister Leuckart等多数の報告があり,我國に於ても明治41年福島により初めて本症が報告されて以来今日に到るまで40例の報告なされている.
 最近当教室に於て,症候性癲癇の診断のもとに開頭術を行い本症なることを発見した1例を経驗したのでこゝに報告する.

人事消息

ページ範囲:P.35 - P.35

 ◇大槻 菊男氏 東大名誉教授で東一病院外科顧問の氏は元青島病院長吉田実博士と共に労働者通害補償保險審議会委員を委嘱さる.
 ◇石川 俊次 氏東大清水外科から電気通信省関東逓信病院外科部長に就任した氏は品川区五反田5ノ55にト居.

Current American Surgery

ページ範囲:P.44 - P.46

ARCHIVES OF SURGFRY
 Vol. 63.No. 3.Sept. 1951.

集談会

ページ範囲:P.50 - P.52

第198回東京整形外科集談会
   昭和26.9.22
 1)多数のリウマチ結節を認めた慢性多発生
   リウマチの1例 東京女子医大整形 佐藤 久
 手指と足趾の変形と肘,膝関節周囲に多くの皮下結節を認めた原発性慢性関節リウマチの1例.一部の病理組織にて,肉芽腫形成までの種々の時期を観察した.

臨床講義

先天性股関節脱臼の治療

著者: 岩原寅猪 ,   森田盛祿

ページ範囲:P.36 - P.40

 今日は先天性股関節脱臼の治療の概略に就て話します.
 この患者は1年7ヵ月の女兒であります.処女歩行が遅延し,やつと最近歩き始めたところ母親が右脚で跛行するのに気付いたものであります.

外科と生理

—その8—II 呼吸の科學

著者: 須田勇

ページ範囲:P.41 - P.43

1.肺及び組織でのガス交換
 外呼吸,即ち肺胞気と血液との間での酸素及び炭酸ガスの移動,内呼吸,即ち血液と組織液との間のガスの移動も共に夫々のガスの分圧の勾配,溶解度等の物理的條件によつてのみ規定される.即ち交換の速度Rは
 (式省略)(P=分圧の勾配 S=溶解度 D=密度 C=單位の分圧勾配によつて通過するガスの容積)
從つて,ガスの移行を考えるには夫々のガスの夫々の場所に於ける分圧を知ることが必要になる.

最近の外国外科

心臓穿刺による心臓血管レ線撮影法,他

著者: ,  

ページ範囲:P.47 - P.49

 著者たちは30名の患者に心臓並に大血管のレ線写眞を得るため,造影剤を直接心室内に注射する方法を研究した.即ちこれ等患者に総計45回に各ぶ注射を施したが,1名の死亡者も亦重篤な反應を呈した者もなかつた.
 造影剤にはdiodrast(75%iodopyracet solution)の50ccを,右心室には25ポンドの圧力で,左心室には30ポンドの圧力で注入した.これ等の心室穿刺の結果,18名には何等の症状も起らなかつたが,8名は上腹部或は胸骨背側部に軽微な不快感を訴えた.4名は反つて既に存在した呼吸促進及び咳嗽の軽快するのを覚えたと云つた.穿刺時に於ける血圧は大なる変化を示さなかつた.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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