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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科7巻10号

1952年10月発行

雑誌目次

綜説

動脈塞栓剔除術3例の経驗

著者: 木本誠二 ,   杉江三郞 ,   角田正彥

ページ範囲:P.475 - P.479

 動脈塞栓症は外科臨床において,時として遭遇する疾患であるが,その初期の適切な剔除手術に成功する例はきわめて少いようである.塞栓は文字通り突然に動脈を閉塞し,さらに動脈管の攣縮も伴つて,部位によつては,例えば脳や肺の太い動脈では,それだけで致命的であり,また四肢などに広範な組織の壞死を招く危險があるが,我國においても,新たに血管外科が取り上げられた今日,この動脈塞栓症に対する外科治療に関して,再認識する必要もあるかと考え,また,たまたま本年(昭和27年)初頭から現在迄に,わが教室において3例の動脈塞栓剔除術を経驗し,ことにその手術の時期によつて夫々異つた興味ある経過をとつた症例をこゝに報告すると共に,最近の文献から動脈塞栓症の取扱い方についても若干言及致したいと思う.

プロトロンビン粉末に就て

著者: 菊池惇

ページ範囲:P.480 - P.481

 血液凝固の機序に就て,現在多く支持されて居る学説はSchmidt(1872)のトロンビン凝固説を中心とした,所謂典型的血液凝固説であつて,之を土台として機序に関する構想は一大飛躍をなしつゝある.尚所謂典型的凝血説は次の二相に要約出来る.
 I.Prothrombin + Thromboplastin + Ca —→Thrombin
 II.Thrombin + Fibrinogen —→Fibrin
 斯く,Prothrombinは血液凝固の一要素をなして居る,然し其の本態に就ては混沌として未だ解決に至つて居ないが,最近Cohn(1946)は血漿Globulin中のIII2分劃中に存在して居ると云う.而してこのProthrobinは肝臓に於て合成されるとも云われる.而も合成には正常な肝臓と胃腸の機能を必要とする.健康人に於けるProthrombin濃度は,血漿1cc中に約300單位が含まれて居ると云われる.

骨折治療上Cystine供給の意義

著者: 富井眞英 ,   根本浩介

ページ範囲:P.482 - P.483

 私等が日常遭遇する外傷の内で骨折は案外多い症例であり且治癒迄に長期間を要するものである.之に対し観血的又は非観血的に治療が試みられ,観血的手段としては現在可なり進歩の跡を見るのであるが之も骨折部位により限定せられ又観血的に処置する事に依り多くの後遺障碍を残す場合がある.然し京都府大河村助教授により提唱せられた保存骨移植(1943)に於ては優れた成績を示している.ひるがえつて非観血的療法を檢討するに整復及び固定(副子・ギプス・牽引を含む)以外に何等の進歩発展を見ないでたゞ其の治療は各個体の生命現象の強弱に待つのみで甚だ消極的であると共に原始的なりとも云い得るのである.治療の根源とも云うべき障碍除去及び治癒促進より換言すれば前者のみに限られ後者に就ては現在骨折時の血腫に立脚し各方面より研究せられているに過ぎないのである.私等の臨床例より考うるに正規の非観血的治療法を試みるにも関らず約2%の仮関節症を続発し又仮骨化生の甚だ遅延するもの多きを経驗する.
 抑々骨折治癒機轉には骨膜性仮骨及び纖維素性仮骨造成も重要な課題ではあるが,又骨樣組織の梁となる骨髄性仮骨の存在も忘れてはならない事項である.骨治癒にCa代謝の相関するは常識とするもLexerの述ぶる如く骨折充血が骨折治癒に欠く可からざる現象なりと考うる時,骨髄の進展現象と骨折の治癒過程の相互関係を観察するのも又意義大なりと考える.

教室に於ける重積性腸閉塞症の統計的観察

著者: 吉田三束

ページ範囲:P.484 - P.487

 腸重積症は大多数が抵抗薄弱な乳幼兒に発生し短時間に重篤な状態に陷り適切な治療が加えられぬ限り殆んど凡て致命的である.
 治療法に就ては古くより多数の方法が行われているが手術成績は解離容易な例を除いては相当不良である.最近簡單な方法により治癒した1例を経驗したのでこの機会に当教室の他症例と併せて統計的観察を行つた.

胃潰瘍穿孔性腹膜炎の治療方針

著者: 伊良子光孝 ,   中村寬

ページ範囲:P.488 - P.490

 胃潰瘍に因る穿孔性腹膜炎の処置に関しては多数の方法がある.本症の治療方針としては胃潰瘍の根治手術である胃切除術を行い得れば理想的であるがあくまで穿孔後の時期と患者の全身状態を顧慮して取捨選択す可きである.併しこの際一定の基準術式を設けて行うのが安全であると考える.
 此の意味に於て余等は昨年1ヵ年間に取扱いたる症例15例に対し,我々の考按せる術式に從いて処置し虫垂炎穿孔に比して未だ死亡率の高き胃潰瘍穿孔性腹膜炎に対し極めて良好なる結果を得たので茲に症例の総括的観察を試み,併せて其の治療方針に就いて述べて見たいと思う.

第4趾短縮症の手術々式の吟味

著者: 池田龜夫

ページ範囲:P.491 - P.494

 指趾畸形中第四趾短縮症の頻度は小林(1925)5.6%,Esau(1932)7.1%,河村(1938)7.5%等で統計上少いが,それは本症が機能約障碍,疼痛等がなく且つ人目につき難いので診を乞うものが少いためで,実際には決して稀なものでないと考えられる.
 本症の本態並に成因に関してはKümmell(1895),Sternberg(1902),Machol(1907),Friedländer(1916),奈良橋(1925),河村(1938)等によつて胎生時に於ける外因,栄養神経障碍,骨端核の先天性欠損或は外傷性障碍,内分泌異常等の諸説があり,素質の遺傳に関しては,Jean(1923),Birkenfeld(1928),Esan(1932),甲斐(1932),桂,早川(1938)等はこれを認め,Machol(1907)Klaussner(1910),奈良橋,菅野(1927)等は否定して居る.

症例

手術時3500ccの輸血を行ったMeningiomaの1手術治驗例—附 大量輸血に関する2・3の問題

著者: 砂田輝武 ,   奥島團四郞 ,   平松照雄

ページ範囲:P.495 - P.498

 Meningiomaの手術に際し,出血量が大きいため術中虚脱に陷り出血死に至ることは屡々経驗される所であり,術中大量輸血の必要は論を俟たないが,最近津田外科教室に於て,手術時に3500ccの輸血を行い,出血死を免れ全治せしめ得た1例を経驗したので報告する.

Hoffa氏病の1例

著者: 野田宏凞

ページ範囲:P.498 - P.500

 膝関節の脂肪組織の病的変化に就いては,J. müller(1838)Lefevre-Dourbourg(1913)König等の記載があるがHoffa氏は膝関節内脂肪組織の病変の多数を経驗し從つて其の手術例も多く,此等の中特有な形態を有するものに気が付いた.即樹脂状脂肪腫であるがHoffa氏病とは,唯,翼状襞の脂肪組織迄増殖したものを言う1904年Hoffa氏が初めて記載したもので膝蓋腱下脂肪体が外傷及び炎症に依り結合織の増殖肥大を生じ特有な病像を呈するものである.
 その後本邦に於ては高和氏(1939)徳岡氏(1943)朽名氏,市山氏,諸富氏の報告がある.

胃壁嚢腫の1例に就て

著者: 平井伖 ,   松久安雄

ページ範囲:P.500 - P.502

 胃壁嚢腫は極めて珍らしい疾患であり吾々が調べ得た文献に依れば胃嚢腫として僅かにSchmidt,Read,Galloriset Laflaive,Ziegler等であるが本邦に於ては1例も見出し得ない.
 吾々は最近胃壁嚢腫を1例経驗したので茲に報告する.

教訓的な脊髄空洞症のミエログラム

著者: 山口義臣

ページ範囲:P.502 - P.505

 脊髄空洞症に対する外科的侵襲は脊髄外科の進歩と共に本邦に於ても相ついで行われているが,それと同時にミエログラフィーが本疾患の診断に手掛りとなつた例も尠なからず報告せられている.私は茲にそのミエログラムが硬膜外性圧迫絞扼像に一致するものがあつたので,硬膜外腫瘍と判断したが手術により脊髄空洞症である事が確認された1例を報告し,脊髄空洞症のミエログラフィー所見に就て述べたいと思う.

再発性肺炎双球菌性腹膜炎後に虫垂炎性腹膜炎を発病した1例

著者: 名和嘉久

ページ範囲:P.506 - P.508

 肺炎双球菌性陽膜炎はその症状,治療,予後等に於て他の病源菌による腹膜炎とは稍々異つて特殊の地位を占めるものである.1885年Bozzoloにより本症が記載されて以来,臨床医家の注目する所となり,欧米に於てはJensen(1903),Rohr(1911),Wolfsohn(1926),Kirchhoff(1930),Obadaleck(1931)等により幾多の研究が発表され,本邦では大正2年塩田教授により報告されて以来多数の報告例並に統計的観察があり,戸田外科に於ても高橋,劉,三沢,河石,田代,渡辺氏等により10数例の報告を見るが他病源菌による腹膜炎に比し少く,又小兒虫垂炎も本邦の統計によると極めて症例の少いものである.私は最近3回の腹膜炎発症に於て最初2回は肺炎双球菌性腹膜炎で最後の1回は虫垂炎性腹膜炎であつた1例を経驗し,経過上興味を感じた小兒例を報告する.

冷藏血液注射及びパンピングによる家族性アダムス・ストークス症候群の治驗例

著者: 松田和雄

ページ範囲:P.508 - P.510

 アダムス・ストークス氏症候群はMorganii(1760),Adams(1827)及びStokes等により記載され,Huchardによりアダムス・ストークス氏病(Maladie de Stokes)と命名された症状群であつて1),平素著しい緩徐な心搏,或いは心搏停止を伴つた患者が,突如顔面蒼白,更に著しい徐脈或いは数秒に亘る心搏停止を来し,同時に意識を喪失し,癲癇樣発作を来す1群の症状である事は周知の如くである.
 心搏停止が数秒では,何等症状を呈しないが,約8秒に及ぶと眩暈,10秒で意識喪失が起り,之以上に及ぶと四肢【げた】搦次で強直,間代性痙攣を来す.更に3〜4分以上になると死を来すと述べられている2).発作の樣相は癲癇と酷似するが,本症候群は常に顔面が蒼白となり,次で紅潮,遂にチアノーゼを来す事,及び心搏が停止している事によつて区別しうる.

一次的切除による結腸重積症の治驗例

著者: 阿部達次 ,   太田齊護 ,   熊谷秀夫 ,   千葉慶子

ページ範囲:P.511 - P.512

 腸重積症は日常しばしば経驗する疾患であるが,多くは廻盲部重積症であつて,小腸或は結腸重積症は比較的稀である.我々は最近一時赤痢と誤診された結腸重積症1例を経驗し,之を一次的に切除治癒せしめ得たので,茲に追加報告する.

重症熱傷治驗例

著者: 佐藤淸助

ページ範囲:P.513 - P.514

 産業災害中熱傷はその頻度に於て相当数を占め,作業の種類,特に鑄物,熔解,製鉄工場に於ては極めて多発する災害で且つ又重症熱傷を発生する事も少くない.我々の工場に於てもその作業内容が高熱処理を要する原料部関係に於ては同樣の傾向が顯著に見られ終戰後昭和20年末迄に全公傷数の約15%に当る200名余の熱傷発生を見,此中144名(72%)は此部門に於ける熱傷患者と云う状況である.從て我々はその局所並に全身症状の軽重種々なるものに常時遭遇し,それ等の治療成績の向上に苦心して居る次第である.第二次世界大戰を契機としてその前と後には重症熱傷療法,特に全身療法に於て長足の進歩を示し治癒率が非常に高揚された.即ち熱傷ショックの本態が明かにされ血漿総蛋白量の変化が熱傷の全身症状及びその予後に重大なる関係ある事を知り此を測定する事に依り輸血輸血漿量を決定し充分にして且つ必要なる此等の量は他の進歩せる一般全身療法と相まつて第一次熱傷ショックを防止し更に高蛋白食餌攝取量算定の基準を知り得,加うるに抗生物質の発達は創面化膿を防止し肉芽発生を良好とし植皮の早期実施を可能とする事等これ等諸條件が熱傷の経過を良好且短縮出来る樣になつた事は諸賢の既に御承知の通りである.最近迄に我々も局所的にも全身的にも重症と思われる熱傷数例に遭遇し幸にも治癒せしめ得たのでこれ等を報告し諸賢の御批判と御助言を得たいと思う次第である.

外科と生理

その13

著者: 須田勇

ページ範囲:P.515 - P.518

2.呼吸中枢の神経相関
 2:1呼吸中枢の解剖学的局在
 呼吸中枢のような重要な中枢について,その局在は決つていない,などというと随分不思議にも聞えるが,これが呼吸中枢に関する現在までの研究成果の一面である.延髄の第IV脳室底で筆尖の部分を穿刺すると呼吸が停る,というのでFlourens(1842)がこの点を"noeudvital"と名づけたのは有名であるが,これが呼吸中枢を最も狹い部位におしこんでみた局在論の1つである.これに対立して中枢を最も広く,分散性に考えたのが,Mislewsky(1885)に始り,Gad,Marinescue(1893)が主唱した,呼吸中枢は網樣体(Formatio reticularis)全体に拡つている,という考え方である.この何れの立場が「正しい」かは,現在でも色々な実驗成績があつて,うかつに断定することは出来ない.併しこれは,中枢決定の場合に常に用いられる刺戟法と剔除法がその限界を示したもので,例えば,刺戟をして吸気が起つたから吸息の中枢,剔除して呼気で呼吸が止つたから剔除した部位は吸息の中枢,というような素朴な決定法に拠る限りは議論の盡きない問題ではないかと考える.この点に関して,先ず最近の研究業績から檢討してみよう.

最近の外國外科

腰椎穿刺後の頭痛,他

著者:

ページ範囲:P.520 - P.521

 腰椎穿刺後に起る頭痛の原因としては種々の説明がなされているが今日一般的に承認されているのは機械的原因とされるものであつて,針の大きさ,患者の体位,除去され脳脊髄液の量である.即ち細い針の使用が術後の頭痛を少くすることは既に知られていた.穿刺直後の体位も種々論議されたが,この種の頭痛は数日後まで起ることがあり得るのであるから直後僅かの時間だけ臥床しても余り意味はない.次に髄液の量であるが神経科の外来患者に於て試みたところでは除去群と然らざる群の頭痛を比較してもその%に余り差が認められない.
 結局穿刺によつて硬膜に生ぜる孔より液が漏れることが重大な関係があるのであつて,この種の頭痛が臥位で消失し,坐位又は立位で増惡することも,細い針を用いた場合に頭痛の頻度が少ないことも容易に説明出来る.又頭痛の起つた場合に脊髄液圧が著しく低下していることも間接に本説の支持となる.

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集談会

ページ範囲:P.522 - P.525

第54回北陸外科集談会
           26.7.26 於金沢大学
 1)進行性悪性貧血症に対して脾臓剔出を行い好影響を與え得た1例に就いて
          久留外科 新川茂雄
 24歳,男子,術前鍮血,肝臓製剤無効.血液所見,赤血球数646.000,血色素量(ザーリー)20.6%,血色素係数1.42,白血球数3.180,出血時間1時間22,30"等を示し心悸元進,呼吸促追等を認めた.脾臓剔出後は一般状態可良となり,赤血球数1.910.000,血色素量41%血色素係数1.07,白血球数6.500,出血時間6分10秒等と著しく好轉し,術後1カ年の現在尚一般状態可良.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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