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特集 上腹部外科臨床の進歩
―上腹部外科症例―卵巣嚢腫に合併した肝下垂症の1例並びに本邦に於ける統計的観察
著者: 加藤敏昌1
所属機関: 1名古屋大學醫學部戸田外科教室
ページ範囲:P.671 - P.674
文献購入ページに移動 1856年Cautaniが初めて肝下垂症の1例について詳細に発表し,1910年Chilaiditiがその特有なX線像を述べて以来この種疾患が注目されて来た.本邦に於ても大正3年横森氏が1症例を発表して以来,私の調べた範囲では32症例に及んでいる.從来本症は肝下垂症(Glenard),肝轉位症(Ganzius),遊走肝(Cantani),として述べられその解釈の仕方も区々であり,極めて稀な疾患として認められて来た.横森氏は遊走肝と肝下垂症を区別し,前者は肝が單に肝自体の轉移可動性を有し横隔膜に浴つて轉位動揺し,同時に肝を1つの腫瘤として腹壁上より触知し且つ視診し得る場合を云い,後者は肝が必ず上下に移動し,横隔膜との接触を全く失うものと云っている.Chilaiditiは更に肝が完全に横隔膜と接触を失うものを完全肝下垂症,一部分接触を失つて部分的下垂をし,その間に臓器の介入するのを部分的肝下垂症と分類している.最近私も実に6年間に亘り結核性腹膜炎と診断されていた患者が手術により実は右卵巣嚢腫で而も肝下垂症を有していた1症例をみたのでこゝに発表し,併せて本邦に於ける症例について考察を加えた.
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