icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科7巻13号

1952年12月発行

雑誌目次

綜説

傷害に最も反應しやすい二三の臟器について

著者: 福田保

ページ範囲:P.739 - P.751

はじめに
 まず初めに傷害が加えられたときの生体反應をかえりみたいのでありますが,傷害時には生体はどうしても多量の熱量を必要といたします.この生体が働くに必要な熱量を出すためには,組織成分の何かが破壊され,或は熱量に変らなければ出てこないわけであります.一方,消費された組織成分をどんどん取りいれて回復してゆくのですが.そういうふうにしていつでも常態に戻つて生体を安定させる.或は壞れた場所を修復してゆくというようなことが体内でいつも行なわれておるわけであります.そういう動きが外科などでは日常見られるわけです.H.DavisのSbockという本に書いてあるところによりますと,そういうふうな傷害に対する生体の反應を三つの相に分けております.そこでその三つの相を本論に入る前に前置としてゆきたいと思うのです.その三つの相というのはstressに対するtriphasic responseといわれてをります.最近stressという言葉がさかんに使われるのでありますが,日本語でどういうふうにいうか,あちらの辞引を引いておりますと或はプレッシュアーという言葉が書いてあるようでありますが,こゝでかりに外科的傷害というものをstressに当嵌めてお話ししてゆきたいと思うのであります.

大動脈動脈瘤剔除手術—アルコール固定大動脈片移植成功の経驗

著者: 木本誠二 ,   角田正彥 ,   中島穰

ページ範囲:P.753 - P.757

 動脈欠損部を補つて血行を元通りに再建する目的に,同種動脈即ち他人の動脈を移植することが良好な成績を挙げ得ることは現在一般に認められており,吾々もこれを多数の動物実驗で確認した所であるが,実地臨床上の立場から見ると材料の入手が困難であり,完全に無菌的に又死後早期に採取しなければならず,保存も細心の注意を要し,しかも保存期間は大体40日前後に止まるものである.從つてこうした比較的少ない手術には,生かして保存する動脈片を使用することが実地上の意義が少ないことを痛感し,長期且つ安全な方法としてアルコール殊に70%アルコール内に固定保存することを創案,動物実驗で充分その効果を確めた上臨床的に実施しつつあることは本誌3月号に報告1)した所である.吾々は更に研究を進めて,固定死滅した血管でよいならば,生かした動脈で極めて成績の不良な異種移植も可能であろうと推定し動物実驗を重ねた結果は第1表に要約される通り,吾々の予想通りの成績を得た.これもまだ文献に見られない新知見である.
 臨床的の実施例も勿論まだ他に報告がないが,吾々は第2表の通り今日まで9例に実施した.その詳細は紙数の関係上本稿には省略し,何れ別の機会に報告することゝして,第7例の腹大動脈動脈瘤の症例を稍々詳しく記載しようと思う.

臓器保存に関する研究

著者: 笠松茂

ページ範囲:P.759 - P.763

 摘出臟器の移植可能範囲時間を決定する爲,又体外保存臟器と移植臟器との比較に資する爲,各臟器摘出後刻々変り行く細胞構造の変遷を特にミトコンドリア(以下「ミト」とす)に重点を置いて観察した.抑々「ミト」は冷寒,温暖或は周囲のMedium何れにも頗る敏感で,摘出後短時間内に可成著明な形態的変化を来すことは文献に報ぜられている.然しその保存液の種類と保存温度とを同時に考慮しての研究は未だ之を見ない.浜教授は夙に臟器移植を臨床的立場より研究せられ,その一環として余に形態学的部門を委囑された.こゝに於て余は数種の臟器について研究し以下述べる樣な成績を得た.

上腎腫の異型例,特に其の組織発生説に就いて

著者: 黑羽武 ,   並木岡一 ,   確氷昌

ページ範囲:P.765 - P.768

 Grawitz氏の提唱以来,腎臟から発生する上腎腫は,多年に亙つて副腎皮質の迷芽に由来するものと信じられて来たが,英國2)3)の学者は夙にその不合理を指摘し,之が原発性腎臟癌に他ならぬことを主張した.戰後は独逸の学者4)も記載を改めて,上腎腫樣癌と看做す趨勢にある.吾が國でもこの腫瘍の報告例は多数あるが5)6)7)8),その組織発生に就いて疑義を表明した研究は乏しく,ひとり杉村(昌)9)が腎盂上皮からも発生し得る可能性を力説したに止まつている.余等は摘出された上腎腫の1例を檢索し,その異型像に就いて文献を調査したが,偶々剖檢資料で遭遇した腎嚢腫の所見と対照して,両者の関連性に興味を懷いた.

症例

多発性威染瘻孔を件う足関節結核に対する病巣廓清骨移植手術の経驗

著者: 植草実 ,   飯倉重常 ,   潮田昇

ページ範囲:P.769 - P.770

 骨関節結核症の手術療法に対する考えは抗生物質,就中ストレプトマイシン(SM)の併用によつて近来著しく変つてきた.
 我々は距骨を主病巣とする距腿,距踵関節及び距踵舟関節結核で多発性混合感染瘻孔を伴う2症例に化学療法を併施して一次的に根治手術を行い,比較的長時日を経た現在略々満足すべき結果をえたのでこゝに報告する.

術後に生じた結核性髄膜炎の2例

著者: 笠井実人

ページ範囲:P.771 - P.772

症例
 第1例:青○善○,♂,34歳,元軍人
 昭和20年2月スキー訓練中約2mの高所から墜落した.右腰部から大腿にかけて放散痛を来し,6月末には一時作業に参加出来る程に軽快した.同年12月シベリアにて鉄道作業中再発し,今度は左腰部から下肢にかけて放散する神経痛樣疼痛を来し,歩行は出来るが疾走,胡坐,及び躯幹の運動は不能となつた.疼痛は夜から早朝にかけて強い.
 現症:脊柱に変形はないが,腰椎は全般に軽い硬直を呈し,L4,L5に圧痛がある.右下肢に萎縮があり,P.S.R. A.S.R. 両側共亢進,足搐搦の傾向が見られる.Lasègue氏症候は右150°.左135°で陽性.右下腿外側に知覚鈍麻がある.両側上臀神経,坐骨神経幹に圧痛がある.

腎盂輸尿管畸形に依る外科的疾患について

著者: 春山広臣 ,   荒瀨秀隆

ページ範囲:P.773 - P.774

 重複腎盂,重複輸尿管等の尿路畸形は,腎盂撮影の発達した今日では,発見も容易と成りさして珍稀な症例では無いが,其の多くは臨床症状を呈すること無く,偶然又は剖檢により発見される事が多い.私は最近臨床的に興味ある2例を経驗したので報告する.

腹膜惡性体腔上皮腫の1例

著者: 津下健哉

ページ範囲:P.774 - P.776

 腹膜に原発する惡性腫瘍は比較的稀であるが,そのうち特有の形態を示すものに腹膜惡性体腔上皮腫がある.本腫瘍の由来に就ては末だ定説がなく,從つて其の名称も諸家により区々でEndotheliom,Endothelkrebs,En—dothelsarcom,Mesotheliom,Caelotheliom,Deckzel—lenkrebs,Deckzellengeschwulst等の名がある.
 私は最近臨床的に腸間膜淋巴腺結核を思わせた65歳の婦人を開腹し.摘出標本の檢鏡によつて初めて腹膜より発生した本腫瘍なることを確め得た1例を経驗したので此処に報告する.

若年者結腸癌1治驗例

著者: 本田治夫

ページ範囲:P.777 - P.778

緒言
 消化器癌の発生瀕度は40〜60歳即中年期以後に於て最も多く30歳以下でその数を減じ,更に20歳以下では極めて稀である.而も若年胃癌については報告が屡々見られるが腸癌はその数が少い.最近17歳の男子の結腸癌を手術により治癒せしめ得たので報告する.

起立性(習慣性)胃捻轉症の1例に就いて

著者: 磯田義明

ページ範囲:P.779 - P.780

 私は最近,習慣性起立性胃轉症—軸捻轉症に非ず—とも云うべき,非常に稀な恐らくは記載されたことのない1例に遭遇したので此所に発表する次第である.
 患者 池田龜代 63歳 農婦
 家族歴 特記すべきものはない.
 既往歴 若い時より便秘しがちであつた外は著患を知らない.

妊娠末期に於ける興味ある経過をたどれる腸不通症の1例

著者: 磯田義明

ページ範囲:P.780 - P.781

 この患者には診断に非常に困難を感じ開腹により比較的稀な腸不通症にしてしかも良好なる経過中突然血栓の脳栓塞と思われる症状の下に死亡しその経過中幾多考えさせられる点があるので此所に報告する.

特発性血小板減少症の摘脾術例

著者: 山田栄吉 ,   飯田幹穗 ,   肥田英一

ページ範囲:P.781 - P.783

 本症に関しては,その病原論は不詳のまゝ一致せず,從つてその治療法に就いても決定的のものなく種々の止血剤・ビタミン・輸血等の対症療法が施行せられることが多い.
 筆者等は種々の対症療法によつても鼻出血持続し強度の貧血に陷つた本症患者に対し,脾摘出術を敢行し,術後の経過を比較的詳しく観察し得たので,こゝに報告し,諸家の御批判を願うものである.

外科と生理

その15

著者: 須田勇

ページ範囲:P.784 - P.786

3.反射性調節
 呼吸運動の反射性調節はその働因が機械的であるか,化学的であるかによつて2群に分けられる.受容器としては,機械的働因が作用するものにも肺の收縮,拡張によつて刺戟される迷走神経末端と呼吸運動乃至は四肢の運動によつて刺戟される骨骼筋の筋紡錘体或は皮膚知覚受容器等があり,化学受容器としては頸動脈腺よりの酸素及び炭酸ガス含有量に反應して衝撃頻度を変える受容器がある.これらの求心系による反射の他に,上位中枢を介する反射を考慮に入れると呼吸運動は極めて広範な受容領野から影響を受けることになる.

最近の外國外科

急性膵臟炎の治療法,他

著者:

ページ範囲:P.787 - P.788

 急性膵臟炎の治療法は現今は著しく変化し,今日では非手術的に種々の保存的処置が施される樣になつて来ている.膵臟被膜或は実質に切開を加える樣な以前に行われた外科手術は最早行われない.その理由はこの樣な手術は膵臟の機能を一層害し且つ活動化された膵液を腹腔内に自由に流れ出させると云う結果になるからである.保存的(非手術的)療法と云つても,その目的とするところは膵臟の機能を出来得る限り完全に休止せしめ,膵臟に対する化学的及び神経的刺戟の影響を除いて,その内及び外分泌機能を阻止するのである.從つて治療中は飮食物は全く與えず,嚴重な飢餓を5〜8日間守らせる.これによつて飮食物の刺戟による膵臟の分泌を全く去る.その他これ迄余り注意されてなかつたが,細い胃カテーテルを患者に嚥み込ませておいて,持続的に胃液を吸出する.
 これによつてプロゼクレチンからゼクレチンの生ずることを阻止出来る.更に胃カテーテルによる胃内容の吸出は膵臟炎に常に随伴する胃アトニーを防ぎ得る.この胃カテーテルで胃液を吸出することが如何に患者に対して有効であるかは実施して見て驚く程である.膵臟分泌機能に対する神経的刺戟はアトロピンを続けて投與して軽減することが出来る.生理的食塩水.リンゲ液等の靜脈内持続的点滴注入や場合によつては輸血,輸血漿などの非経口的液体補給も常に十分施すべきである.又抗生物質剤の使用も膵臟炎の炎症に細菌感染が加わつて来て高熱等が認められた時には必要である.

--------------------

「臨床外科」第7卷 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?