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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科7巻8号

1952年08月発行

雑誌目次

綜説

手術侵襲の生体に及ぼす影響並びにその対策—手術と出血量

著者: 高山坦三 ,   中島芳雄 ,   高橋哲男 ,   武山勝也

ページ範囲:P.371 - P.375

 近年外科手術における技術的方面のいちゞるしい進歩と,加えて種々の化学療法,麻醉法の発達により,いまではいかなる大手術をも大きな不安なしにおこなわれるようになつたとはいえ,常にショックおよび虚脱と斗わねばならぬ外科臨床においては,出血量の問題はひとつの重要な対象であることはいうまでもない.もちろん手術の生体に及ぼす影響は出血ばかりでなく,他の種々なる因子が加わり,術後の経過あるいは手術の結果は,これら複雑なる因子の綜合的な影響のもとにあるものである.しかしすくなくとも術中術後虚脱対策の主要部分は出血対策にあるといつても過言ではあるまい.
 しかがつて手術時出血量とその影響の問題が最近研究対象としてようやく多くなつてきたのである.

脊髄性小兒マヒの早期発見と治療

著者: 羽根田貞郞

ページ範囲:P.376 - P.378

 ハイネメヂン氏病,脊髄前角炎,脊髄性小兒麻痺,弛緩性小兒麻痺などと色々な名称で呼ばれてきたこの疾患も厚生省から「急性灰白髄炎及びその後遺症」と云う名が與えられて一應落付いたわけであるが,吾々の方面の仕事にたづさわる人間にとつてはこの名称は結構ではあるが,一々この通り呼んだり書いたりすることは大変なことで誠に非能率的なことである.アメリカでは簡單に『Polio」と呼んでいるが之に匹適するような日本語の名前はないものかと色々と考えて見たが中々名案が出てこない.「急性灰白髄炎』の間は先づ小兒科の領域であろうし「その後遺症』となると整形外科の領域になる.つまりこの二つを引つくるめたものがこの疾患であるわけでどうも一方だけでは充分とは申されない.冒頭に掲げた名前もその意味ではいづれも完全とは申されないような気がする.そこで取り敢えずこの長つたらしい名前の代りにアメリカ式名称をそのまゝ借用して「ポリオ」と呼ぶことにして疫学,細菌学,小兒科学,整形外科学等の各分野からそれぞれこの疾患を研究して居る人達が集つて出来上つたのが「ポリオ研究班」である.班員は東大名誉教授の栗山先生に引き受けて頂いて発足したのが昨年の7月先づ第1年は基礎的研究をと云うことで費用の大半は台湾猿を購入することに充てられた.ところが敗戰國の悲しさ,肝心の猿の到着したのが今年の正月である.

虫垂炎性腹膜炎に対する無選択的一次閉鎖術の成績

著者: 中村壽一 ,   米倉茂孝

ページ範囲:P.379 - P.382

 1947.9.29-1952.2.23の間に於ける急性虫垂炎567例(廻盲部腸間膜淋巴腺炎,廻腸末端炎40例を除外す)中,小範囲性腹膜炎98例,及び広範囲性腹膜炎21例の連続症例に対し無選択に一次閉鎖を行った手術成績を述べ,一次閉鎖療法の檢討資料に供したい.
 猶ほ腹腔全般に多量の濃い膿汁の瀦溜あるもの,壞死組織の多量に存在するもの,及び一部には可成の腸管麻痺の現われているもののみを広範囲性腹膜炎とした.

超音波の治療的應用について

著者: 岡益尚 ,   奥村堯 ,   橫井浩 ,   三好実三

ページ範囲:P.383 - P.387

まえがき
 現在迄幾多の治療法が案出されたにも拘らず,我々の前には尚多くの治りにくい疾患が残されている.外科領域にも関節疾患,神経痛,下腿潰瘍等がある.これらを癒し,而も簡易に使い得る治療法があるなら,これに越したことはない.幸い簡便な超音波発生装置をつくり得たので,今迄の実験成績に徴して,治療的應用の研究を始めたのである.物理療法として色々なものが行われたが,音波のような振動を使うことは未だ試みられなかつた.工学方面への應用は相当に進んでいるのだが,生物学方面では未だ充分に利用されていない.
 私共にきこえない空気振動は20,000サイクル(20KC)以上で,これが超音波といわれているが,その振動数(周波数)を増加してゆけば,特殊の作用を現わすようになる.即ち乳化,凝固,化学変化促進,温勢作用,更に組織破壞,血管拡張,新陳代謝亢進作用等があげられる.これらの中,生物学的作用の研究はWood,Loomis(1927)の発表に始まり,單細胞動物及び小生物が超音波によつて破壞死滅せしめられることが明かにされた.これに引き続き多数の業績が各方面に現れ,我が國でも雄山,矢追,笠原,里見,笹川氏等により興味ある研究がなされてきた.併し超音波の治療的應用については,Pohlmann(1938)が坐骨神経痛に用いた経驗を嚆矢とし,近頃漸くこの方面の研究がドイツに於て盛んとなつている有様である.

胃潰瘍癌の1特異レ線粘膜皺襞像(笹の葉状粘膜皺襞像)に就て

著者: 久野敬二郞

ページ範囲:P.388 - P.391

 胃潰瘍が癌変性をなす頻度は諸家の統計に相当の差を示しているが,少くとも5%以上あるものと思われる.癌変性を示す症状としては疼痛の食事攝取との時間的関係が不明瞭になつたり,食欲が減退したり,胃液酸度が低下したり,糞便の潜血反應が持続的に陽性に出たりする事であるが,かゝる症状により早期の潰瘍癌を発見する事は極めて稀である.この点に於てはレ線検査はやゝ信頼をおき得るものとされているが,それでもこれによつて癌変性を鑑別する事は困難な場合が多い.
 胃潰瘍と胃癌のレ線粘膜皺襞像に就て見るに,胃潰瘍に於ては潰瘍の側面創ではその部に向つて粘膜皺襞が天下幕状に集合した点状の陰影突出を認める粘膜集中像や,正面像では潰瘍を中心として皺襞が放射状乃至星芒状に排列し中央に陰影斑の現われる粘膜星芒状を示す.胃癌に於ては腫脹の発育と共に局所の粘膜が破壊される爲に起る正常粘膜皺襞像の突然中絶及び癌腫表面の凹凸不整による惡性皺襞像が現われる.

座談会

日本外科学会の運営に関して

著者: 靑柳安誠 ,   河合直次 ,   島田信勝 ,   中谷隼男 ,   卜部美代志

ページ範囲:P.392 - P.398

 島田(1)青柳さん,前の会長の御経験を1ついろいろお話していただきたいのですが,前に会長をされて,こういうところを直した方がいい,こういうところはこの通りで好いというようなところがいろいろあると思うんです.最近,今年の日本外科学会の感想とか,批判とか,いろいろ出ておりますが,青柳前会長の評判が非常にいい.とにかく人徳のしからしむるところですが,もう一頑張り頑張りましたら本当に皆さんの良い外科学会というような姿になるんじやないかと思います.それで,青柳会長が閉会の辞で述べられたように,「少しでも日本の外科学会のためになるならば」というような意味で今日の座談会もお願いしたわけなんですが,河合会長にバトンを渡された気持で,日本外科学会をよくする意味でいろいろ御感想があると思うんです.なかなかお話しにくいこともあると思いますが,ここをこうしたいというような御感想を主にして,それをザックバランにまずお話し願つた方が話の種が出てくるんじやないかと思うんですがね.

症例

脈無し病の1例

著者: 神谷喜作 ,   北川一善 ,   藤田一郞 ,   藤江渡

ページ範囲:P.399 - P.403

 明治41年第12回日本眼科学会に於て,高安氏が「奇異なる綱膜中心血管の変化の1例」として発表され,之に対して大西,鹿兒島両氏が追加し,同様の眼症状と共に橈骨動脈に搏動をふれなかつた事を述べた.これが本病の最初の報告であり,その後約50例報告されている,諸外國には未だその報告をみないと云う.本症の報告は主として眼科領域に於て報告されるものであるが,東大外科,清水健太郞教授は本病について詳しい発表をされている.我々も大体同教授の論文を参照し,偶々遭遇せる1例について諸檢査を行い,又両頸動脈毬を剔出し,症状を好轉せしめ得たのでこゝに報告する.

円靱帯静脈病について

著者: 天野尹

ページ範囲:P.403 - P.405

 妊娠時に子宮附属器官や下肢に静脈拡張乃至脈瘤があらわれることは周知である.大薔薇静脈では股ヘルニヤと,円靱帶の靜脈では鼡径ヘルニヤと誤診することがあるが円靱帯靜脈瘤は大薔薇靜脈瘤にくらべて稀である.円靱帯靜脈瘤に関しては外國ではSchäfer Zbl. f. Gyn. 935),Maluschew(Zbl. f. Gyn. 935),我が國では小倉(産婦人科紀要22巻3号昭14),橋爪,上野(産科と婦人科11巻4号昭18),柳井(産科と婦人科15巻3号昭22),小林,梅村(臨床外科3巻11号昭23)等の記載があるがこれらの文献に徴するに初めてこの疾患を見て正しい診断をつけることは困難な様である.
 著者は円靱帯靜脈瘤の3例を経験することが出来その診断,手術に関しいさゝか知るところがあつたこゝに記載する.

ポリープ様腺腫による空腸逆行性五筒状重積症の1治驗例

著者: 広瀨輝夫

ページ範囲:P.405 - P.408

緒言
 小腸に於ける良性腫瘍は生前に於ては何等症状を呈せず,他の原因で死亡し,剖檢により始めて発見せられる場合が多いのであるが,本症例は空腸に発生したポリープ様腺腫により空腸重積症を惹起し,手術により甚だ珍稀な逆行性五筒状重積症なる事を認めたものであつて,本邦においては未だかゝる報告例は見当らない.又本症例は約200cmの空腫広汎切除を余儀なくされたのであるが,幸いにして術後7ヵ月の再診時に於ては何等機能的に障碍なく生業に励んで居る.茲に此の症例を報告しれ大方諸賢の御参考に供する.

外傷後に生じたる手指の腫瘍3例

著者: 古城雄二

ページ範囲:P.408 - P.410

はしがき
 外傷を受けた局所に,程経て腫瘍の発生する事は,稀ではあるが時に経驗される.かゝる場合,かゝる腫瘍の原因の一が,外傷によると云う事は,勿論嚴密には科学に証明され得ない.しかし臨床的に,両者の間に密接な因果関係が存する如く,認められる事があり,從来所謂外傷性腫瘍と称せられている所以である.既に1909年Thiemその他の報告があるが,最近のものとしては,岩木が1940年迄の10年間の内外蒐集例492例について,述べている.著者は最近,外傷後に手指に腫瘍が発生し,その剔除手術後,組織学的に之を確めた珍らしい3例を経驗した.

胃癌の一亞型に就いて—(胃周囲発育型)

著者: 吉田信夫 ,   兒島渡

ページ範囲:P.411 - P.412

 胃の周囲に腫瘤が発見される場合には,胃癌より寧ろ肉腫が考えられる.以下述べる症例は普通の胃癌に見られる発育型式を示さず,粘膜には殆ど癌細胞の浸潤なく,漿膜外にのみ大きく発育したものであり,胃癌の発育機轉をうかゞうに極めて興味ある症例と思われるのでこゝに報告する.

廻腸の広範なる漿膜下出血を起せる肺炎双球菌性腹膜炎の1治驗例に就て

著者: 磯田義明

ページ範囲:P.412 - P.413

 私は最近廻腸の漿膜下に出血を伴う肺炎双球菌性腹膜炎と考えられる一症例を経驗したので報告する.

野球による脛骨單独縦骨折

著者: 林栄子

ページ範囲:P.414 - P.415

はしがき
 近年スポーツが益々盛んに行われ,從つて野球による投球骨折,スキー,スケートによる下腿骨折,排球,籠球等による指骨々折等が屡々見られる様になつた.しかるに私がこゝに報告しようとする野球骨折はボールを受取ろうとして足を強く地面に固定し,上体を左外方に捻轉した瞬間,左脛骨上半正中に縦骨折を起した例である.この様な症例は,私の渉猟した内外文献中には発見することが出来ず,稀有な例と思うので,こゝに報告する次第である.

花火爆発による全身火傷の経驗

著者: 山田一郞

ページ範囲:P.415 - P.416

 体表の80%以上の火傷で10日間の生存中種々の興味ある経過をとつた例を報告する.
 症例.神○正○ 男子.花火師 40歳 昭和26年9月15日仕掛花火及び打上げ花火を自宅居間に於て点檢中誤つて之に引火して爆発し消火に務めた.当時衣服は丸首シャツと猿股のみの着用として全身に火傷を受けた.他に3歳女子(收容1時間後死亡)妻弟等6名も同時に火傷を受けた.火傷後数時間を経て来院したものである.

嵌頓ヘルニアを合併せる腹腔睾丸廻轉症

著者: 田中信吾 ,   志水政純 ,   飯田忠夫

ページ範囲:P.416 - P.417

 睾丸廻轉症は初め1840年Delasiauveが精系捻轉症と名付けて報告し,その後Follin, Scarengio等によつても報告された.1885年Nicolandiがその発生機轉の研究を発表してから逐次報告例が増し1913年にはUfferdujiは80例を報告して停留睾丸との関係について記し挙睾筋が発生機轉に関係しているのではないかと述べた.1927年Ormondは150例を集め,このうち69%は停留睾丸であつたと云い,又1933年Helleaは300例の多くについて報告した.
 さて本邦では1905年山村氏が乳兒の睾丸肉腫に合併した1例を報告したのが始まりで,以後桑原,阿部,中島氏等が各1例を,又1924年西川氏が4例を報告,その後逐次症例増加し1948年清水氏は自驗2例を加えた本邦例65例の統計的観察を行つて居るがその後には私等の寡聞未だ追加症例を知らない.茲に最近経驗したやゝ趣を異にした1例を報告せんとす.

最近の外國外科

小兒全身麻醉に精神的外傷を軽減する準備法,他

著者:

ページ範囲:P.418 - P.419

 小兒に全身麻醉を施す際に一般に使用される前麻醉藥の阿片剤,バルビタール剤,アベルチンは小兒の呼吸機能を特に低下して障碍を起す欠点がある.それ故著者はこれに代る緩和な藥物(Seconal,Nembutal)と,アトロピンとを使用することにしている.同時に精神的鎭静も利用することを推奨している.即ち手術の前夜に麻醉者は小兒によく話をして予め相互の信頼感を得ておく,又その際に小供が以前に手術を受けたことがあつたか,麻醉に対してどんな感じを持つているか(不安を感じているか,無関心か,寧ろ與味を抱いているか,麻醉者の指示をよく聞く樣な態度か)を予め知つて置く.更に麻醉が始まる時の状態を説明し,麻醉用のマスクを示めして,麻醉は樂に呼吸しながら眠る樣になると,その時に多少目まいや変な感じの起ることもあり得ることなど了解させておく.麻醉を開始する時には先づVinethen(迷朦藥)を開放性マスクに点滴して始め,次で漸次エーテル麻醉に移行する。この心理的の手段を更に一層成功せしめるには,小兒に本当のことをよく知らせ,約束したことは必ず守り,小兒が苦しむ時に眞に同情して助けると云う麻醉者の感じを與えることが必要である.こうした結果から得られる利点は麻醉藥使用量の節約,麻醉を安静に誘導し得ること,興奮性の軽減,生理的機能低下の防止,手術室の静寂の保存等が挙げられる.
 (Anesthesiology 12:p. 293, 1951)

外科と生理

その12

著者: 須田勇

ページ範囲:P.420 - P.421

III 呼吸運動の調節
 呼吸運動は自働運動である.このことは余りにも自明であるので看過され易いが,生理学的には充分興味と重要性のある点である.というのは,自働運動,即ち一定の型の運動を律動的に繰返すことは滑平筋臓器では普通であるが,骨骼筋では呼吸運動以外には認められない現象だからである.一方,呼吸筋は勿論他の骨骼筋が示す一般特性,即ち反射運動と姿勢緊張にも関與している.從つて,呼吸運動は自律系と体制系の両種の反應様式を現す運動である.それで,反射という活動様式と中枢の機能的な構造に触れておくことが呼吸運動の調節に関して正しい理解の根底となる.
 生体での調節ということの機序は神経相関と化学相関であり,その調節様式の特徴は自己調節(自働制御)という点にある.神経相関というのは生体に作用した働因が神経衝撃(興奮)という生体特有な通信記号に飜訳されて,それを受取つた組織(これを効果器という)に反應が現れる場合であり,化学相関というのは働因が化学物質(ホルモン)に変形されて血流によつて搬ばれて効果器に反應を現す場合である.何れの場合でも働因を生体特有の通信記号に変形する場所が受容器である.化学相関の場合には通信は血流によつて凡ゆる組織細胞にまで配分されるが,それに應ずる効果器に夫々特異性があるために反應の出現には自ら限定が加えられることになる.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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