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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科70巻1号

2015年01月発行

雑誌目次

特集 胆道癌外科切除—再発防止のストラテジー

ページ範囲:P.5 - P.5

 胆道癌においては依然,外科切除が唯一根治性を得られる可能性をもった治療法であることに変わりはない.近年,手術手技の向上に伴い,積極的な外科切除により外科切除適応が拡大し,またその安全性も向上しつつある.しかし,R0の根治的外科切除を100%施行しうるわけではなく,R1,R2の非根治切除に終わることも少なくない.また,胆道癌非切除例の多くは遠隔転移を伴わない局所進行胆道癌として診断されている.癌進展様式として局所進展を主体としている胆道癌においては,R0切除をいかに正確かつ安全に施行していくかが,治療成績向上のため最も重要なポイントである.
 今回,このR0切除を目指すことにより胆道癌外科切除後の癌再発を防止するための治療戦略について,これまでの報告のレビューを含め,データをもとにして様々なポイントごとに述べていただいた.

術前戦略

術前胆道ドレナージ術

著者: 河上洋 ,   桒谷将城 ,   川久保和道 ,   阿部容子 ,   川畑修平 ,   久保公利 ,   久保田良政 ,   坂本直哉

ページ範囲:P.6 - P.11

【ポイント】
◆急性胆管炎の有無で緊急胆道ドレナージ術の必要性が決定する.
◆胆管癌の発生部位により,最適な術前胆道ドレナージ術の種類を使い分ける必要がある.
◆遠位胆管癌の場合は,プラスチックステントを用いた内瘻術が基本となる.術前待機期間が長期間の場合は,メタリックステントの留置も考慮する.
◆肝門部領域胆管癌の場合は,原則として,片側肝葉(残存予定肝)のみの内視鏡的経鼻胆道ドレナージ術で対応する.

術前画像診断

著者: 板野理 ,   雨宮隆介 ,   阿部雄太 ,   篠田昌宏 ,   北郷実 ,   八木洋 ,   日比泰造 ,   北川雄光

ページ範囲:P.12 - P.17

【ポイント】
◆R0切除は治療成績の根幹にかかわる.MDCTを含めた画像診断技術の向上により,R0切除率・生存率の上昇が認められている.
◆胆管癌におけるMDCTの役割は大きく,減黄前に適切なMDCTを撮影できれば,進展度診断から切除術式の立案まで可能である.肝臓の3D画像は残肝容積の評価・切離ラインの理解に有用であり,主要脈管の3D画像は立体解剖の直感的把握,手術シミュレーションに適している.
◆減黄の際に必須となるERCPに引き続いてIDUSを行うことで,より正確な進展度診断・胆管の立体解剖の把握が可能となる.

術前chemo(radiation)therapy

著者: 片寄友 ,   吉田寛 ,   中川圭 ,   林洋毅 ,   森川孝則 ,   岡田恭穂 ,   坂田直昭 ,   元井冬彦 ,   内藤剛 ,   海野倫明

ページ範囲:P.18 - P.22

【ポイント】
◆術前治療には,切除不能例に対して行う術前治療と,切除企図(切除可能)に対するいわゆるネオアジュバント療法の二つがある.
◆最近の化学療法により切除不能例が切除可能となる例が増えてきており,胆道癌でも術前治療の重要性が増している.
◆胆管癌に対する化学放射線療法によるネオアジュバントは,局所制御能の向上が期待できる可能性がある.

R0切除を目指した術前門脈塞栓術

著者: 島田和明 ,   江崎稔 ,   奈良聡 ,   岸庸二 ,   小菅智男

ページ範囲:P.23 - P.29

【ポイント】
◆進行胆道癌においては,R0切除を行うためには拡大肝右葉切除,左三区域切除などの広範囲切除が必要となる.
◆閉塞性黄疸例における広範囲肝葉切除(60%<)の安全性を確保するためには,術前門脈塞栓術(PTPE)が必須である.
◆画像診断により癌の進展範囲,解剖学的変異の有無および肝予備能(ICGR15値),残存予定肝容積を考慮し,適切な術式を選択しPTPEを行う.

術中戦略

胆管癌切除の肝十二指腸間膜剝離時のnon-touch isolation

著者: 樋口亮太 ,   谷澤武久 ,   植村修一郎 ,   岡野美々 ,   矢川陽介 ,   山本雅一

ページ範囲:P.30 - P.34

【ポイント】
◆肝十二指腸間膜の左側を切開し,肝動脈とその背側の門脈をテーピングする.
◆肝十二指腸間膜から肝動脈と門脈を引き,胆管を含む周囲結合織をテーピングする.腫瘍を直接把持しない.
◆遠位部胆管癌の右肝動脈浸潤では右肝動脈切除を要するが,門脈浸潤がなく肝門板が温存されれば動脈再建の必要はない.

術前・術中の胆汁漏出による腹膜再発をいかに防ぐか

著者: 野路武寛 ,   岡村圭祐 ,   海老原裕磨 ,   倉島庸 ,   村上壮一 ,   田本英司 ,   中村透 ,   土川貴裕 ,   七戸俊明 ,   平野聡

ページ範囲:P.36 - P.39

【ポイント】
◆胆道悪性腫瘍の治療成績向上には術前・術中の胆汁漏出予防策も重要な要素である.
◆術前胆汁漏れを減らすために,術前減黄はできる限り内視鏡的胆道ドレナージとする.
◆術中胆汁漏れを減らすためのポイントは,確実な手術操作と胆管の切離を標本摘出の最後に行うことである.

術中胆管断端の迅速病理診断

著者: 松山隆生 ,   森隆太郎 ,   熊本宜文 ,   武田和永 ,   遠藤格

ページ範囲:P.40 - P.45

【ポイント】
◆術中胆管断端の迅速病理診断は,術式を左右する重要な診断技術であり,標本の採取にも細心の注意が必要である.
◆迅速標本を採取する際には粘膜だけの採取にならないように,線維筋層を含んだ全層で十分量採取しなければならない.
◆迅速病理診断における断端癌陽性が,上皮内か間質かでその意味も対応も異なる.両者の違いをよく理解する必要がある.

門脈合併切除の手技と意義—R0切除を目指して

著者: 佐野力 ,   有川卓 ,   大澤高陽 ,   岩田力 ,   藤崎宏之 ,   大橋紀文 ,   永田博 ,   宮地正彦 ,   小出龍郎

ページ範囲:P.46 - P.52

【ポイント】
◆門脈合併切除再建は安全に施行可能との報告が多く,R0切除が可能であればためらわずに行う.
◆門脈合併切除再建では,術前・術中のデザインが重要であり,血管鉗子を数回かけ直して確認する.
◆門脈合併切除再建では,助手の役目が重要であり,慌てずゆっくりとチームワークで行う.

肝動脈合併切除によるR0切除

著者: 菅原元 ,   江畑智希 ,   横山幸浩 ,   伊神剛 ,   水野隆史 ,   山口淳平 ,   梛野正人

ページ範囲:P.53 - P.57

【ポイント】
◆対側の肝動脈浸潤がある時点で非切除と決め付けず,ほかに非治癒因子がなければ,肝動脈合併切除によるR0切除を目指す.
◆癌浸潤部の末梢側と中枢側で肝動脈の健常部を露出することができれば,肝動脈合併切除によりR0切除の可能性がある.
◆肝動脈の剝離に際しては,顕微鏡下での再建を意識して鋭的かつ愛護的に行い,動脈の内膜損傷を避ける必要がある.

広範囲胆管癌に対する肝膵切除(HPD)

著者: 青木琢 ,   長谷川潔 ,   國土典宏

ページ範囲:P.58 - P.62

【ポイント】
◆胆管癌に対する肝膵切除(HPD)の最大の課題は,安全性と癌の根治性を両立させることである.
◆正確な腫瘍進展範囲診断は重要であり,術前処置として胆道ドレナージと門脈塞栓術を行う.
◆術後膵液漏の重症化予防が手術の安全性の向上のために必須のストラテジーである.
◆広範囲胆管癌に対するHPD術後の遠隔成績は比較的良好であり,積極的に試みられるべき術式である.

リンパ節郭清範囲—肝内胆管癌

著者: 大塚将之 ,   清水宏明 ,   加藤厚 ,   吉富秀幸 ,   古川勝規 ,   高屋敷吏 ,   久保木知 ,   高野重紹 ,   岡村大樹 ,   鈴木大亮 ,   酒井望 ,   賀川真吾 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.63 - P.67

【ポイント】
◆肝のリンパ流が流出するリンパ節の領域は大きく4か所に分類される.
◆肝内胆管癌のリンパ節転移は肝十二指腸間膜内が最も多く,左葉を主座とするものでは肝胃間膜から胃小彎側にもみられる.
◆肝のリンパ流に基づくリンパ節郭清が施行されるが,その再発防止効果についてはいまだ不明である.

リンパ節郭清範囲—胆囊癌

著者: 坂田純 ,   若井俊文 ,   皆川昌広 ,   小林隆 ,   滝沢一泰 ,   三浦宏平 ,   岡部康之 ,   廣瀬雄己 ,   永橋昌幸 ,   亀山仁史 ,   小杉伸一 ,   小山諭

ページ範囲:P.68 - P.72

【ポイント】
◆胆囊癌に対する至適リンパ節郭清範囲は,胆道癌取扱い規約第6版の定める領域リンパ節である.
◆この領域リンパ節をen blocに郭清することが進行胆囊癌の手術成績向上の鍵である.
◆膵頭十二指腸切除は,膵頭周囲リンパ節転移陽性胆囊癌の予後を改善する可能性がある.

リンパ節郭清範囲—肝外胆管癌

著者: 加藤宏之 ,   臼井正信 ,   栗山直久 ,   田端正己 ,   伊佐地秀司

ページ範囲:P.74 - P.79

【ポイント】
◆肝門部領域胆管癌では系統的リンパ節郭清を行う前に肝臓切離を先行させ,critical pointである胆管切離限界点で胆管を切離し,胆管断端の癌陰性が得られれば系統的リンパ節郭清を施行する.
◆肝門部領域胆管癌におけるリンパ節郭清は十二指腸間膜内の#12リンパ節をまず徹底的に郭清し,より遠位でかつkey nodeに相当すると考えられる#8と13aリンパ節郭清を併せて行うことが重要である.
◆遠位胆管癌においては#14リンパ節が最も遠位かつkey nodeであり,これらのリンパ節の郭清には結腸間膜尾側よりSMAにアプローチする前方到達法が有用である.

リンパ節郭清範囲—十二指腸乳頭部癌

著者: 廣野誠子 ,   山上裕機

ページ範囲:P.80 - P.82

【ポイント】
◆リンパ節転移は,十二指腸乳頭部癌の独立した予後規定因子である.
◆T1 stageの十二指腸乳頭部癌でも9〜36%にリンパ節転移を認め,膵頭十二指腸切除術が必要である.
◆十二指腸乳頭部癌のリンパ節転移好発領域は,膵頭後部リンパ節(#13),膵頭前部リンパ節(#17),上腸間膜根部リンパ節(#14)であり,胆道癌取扱い規約におけるD2郭清が必要である.
◆リンパ節転移陽性の十二指腸乳頭部癌において,術後補助療法は唯一生存期間を延長できる治療である.

術後戦略

術後補助化学療法

著者: 橋本泰司 ,   村上義昭 ,   上村健一郎 ,   近藤成 ,   中川直哉 ,   佐々木勇人 ,   浦部和秀 ,   大毛宏喜 ,   末田泰二郎

ページ範囲:P.83 - P.87

【ポイント】
◆当科でのゲムシタビンとS-1(GS療法)を用いた進行胆道癌に対する術後補助化学療法の適応は,胆道癌取扱い規約第6版でのStageⅠ症例には再発例を認めなかったことから,Stage Ⅱ以上の胆道癌を適応としている.
◆当科における206例の進行胆道癌切除例の検討では,GS療法を用いた術後補助化学療法施行は,独立した予後規定因子で有意に生存率が良好であり,同治療は進行胆道癌切除症例の生存率を向上させる可能性があることが示唆された.
◆現在,わが国において胆管癌切除症例を対象としたゲムシタビンおよびS-1による術後補助化学療法の有効性を評価する第Ⅲ相無作為比較試験(BCAT,JCOG 1202 study)のほか,いくつかの術後補助化学療法に関連する臨床試験が進行中であり,胆道癌の罹患率の高いわが国から全世界規模で新たなエビデンスのある補助療法を発信していくことが期待される.

術後光線力学的療法

著者: 村上豪志 ,   七島篤志 ,   阿保貴章 ,   高木克典 ,   荒井淳一 ,   永安武 ,   野中隆 ,   磯本一 ,   森脇和弘 ,   赤司治夫

ページ範囲:P.88 - P.91

【ポイント】
◆胆管癌は外科的切除が最も良好な予後が得られる.しかし,胆管断端に組織学的に癌が遺残する場合がある.
◆胆管断端に癌細胞が遺残した症例では,その局所への術後追加治療が必要であるが,いまだ治療法は定まっていない.
◆当科では,2001年より胆管断端陽性例において術後光線力学的療法(PDT)による臨床試験を行い,一定の成果を挙げてきた.

FOCUS

専門医制度とNCDのこれから

著者: 北郷実 ,   北川雄光

ページ範囲:P.92 - P.94

はじめに
 わが国における専門医制度は,外科専門医制度を含め基本的に各学会が独自に認定した制度であり,その基準や医師像も様々で,国民から理解しにくいなどの問題点が指摘されてきた.2013年4月に厚生労働省内「専門医の在り方に関する検討会」の答申が公表され,日本専門医制評価・認定機構によってこれまで策定されてきた専門医制度改革の方向性が支持された.2014年5月,新たな第三者機関である「一般社団法人日本専門医機構」が発足し,専門医制度改革が加速度的に進められている.
 2011年1月より,日本外科学会および関連学会の手術実績について,National Clinical Database(NCD)に登録することが義務化された.このNCDは,①外科関連の専門医のあり方を考えるための共通基盤の構築,②医療水準の把握と改善に向けた取り組みの支援,③患者さんに最善の医療を提供するための政策提言,④領域の垣根を越えた学会間の連携,をめざして設立され,これまでのところNCD登録は順調に行われている.
 本稿では,日本外科学会がめざしてきた外科専門医制度と,新しい専門医制度・NCDの今後の展望と期待について述べる.

必見! 完全体腔内再建の極意・22

—幽門側胃切除術後再建—B-Ⅰ再建:新三角法

著者: 大森健 ,   益澤徹 ,   藤原義之 ,   矢野雅彦

ページ範囲:P.96 - P.101

■■はじめに
 腹腔鏡下胃切除後の体腔内吻合による再建は,腹腔鏡下での非常に良好な視野のもと行われ,体型に左右されず安定した操作が可能である.しかしながら,腹腔鏡下での器械吻合器,縫合器の取り回しなどには馴れが必要で,とくにBillroth-Ⅰ(B-Ⅰ)再建においては十二指腸が固定されているため,工夫が必要である.
 代表的なB-Ⅰ再建の体腔内吻合法は,金谷らが開発したデルタ吻合である.その方法は,機能的端端吻合を応用したもので,非常に安定した成績が得られ,優れた方法である.
 われわれは,より低侵襲性をめざし,pure単孔式腹腔鏡下胃切除術を導入する際,より簡便な方法が必要であった.そこで,開腹術で行われてきた三角吻合を体腔内でも容易に行えるよう改良した新三角法を考案した1).新三角法の特徴は,①完成形は端々吻合で,②ねじれがなく,③虚血域のない吻合であることである.そのため,血流を確保するのに必要な操作がなく,「お作法が少ない」簡便な方法である.それを,従来のmulti-port腹腔鏡下胃切除にも応用し,定型化したので,その手技の手順,コツを述べる.

病院めぐり

国立病院機構浜田医療センター外科

著者: 栗栖泰郎

ページ範囲:P.103 - P.103

 国立病院機構浜田医療センターは,中国地方北部の島根県浜田市にあります.人口は約5万8千人の県西部の中心都市です.最大の産業は漁業で,浜田産の美味しいノドグロ(一般名アカムツ),アジ,カレイの三魚を浜田の水産ブランドとして全国に販売しています.また,石見神楽(いわみかぐら)という勇壮な神楽舞が盛んで,季節ごとの地域の祭りやイベントにはもちろん,週末ごとの夜には市内のどこかで開催され,子供から老人,観光客までが「ドンチッチ・ドンチッチ……」というテンポのよいお囃子に合わせて踊られる舞に見入っています.
 当院は,明治31年に浜田衛戍病院(旧日本陸軍駐屯地に建てられた病院)として開設され,昭和20年厚生省に移管,国立浜田病院として一般市民の診療を開始しました.その後,地域の中核病院として成長を続け,昭和53年に僻地中核病院,平成8年にエイズ診療拠点病院,14年に地域がん診療拠点病院,15年に臨床研修指定病院,17年に救命救急センターおよび地域医療支援病院,24年に島根DMAT指定病院,25年に地域災害拠点病院などの指定を受け,26年度からは救急搬送用ヘリポートの運用を開始しています.この間,平成16年に独立行政法人国立病院機構浜田医療センターとなり,21年には国立病院機構発足後,旧国立病院中全国で初めて移転・新築を実現しました.そして特記すべきは,その後,最寄りのJR浜田駅と新病院とを結ぶ屋根付き立体連絡通路が,浜田市の出資により建設されたことです.これは,当院の診療に対する市民の信頼と期待の証です.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・32

術後合併症の影響—吻合不全で再発が増えるか

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.104 - P.107

素朴な疑問
 がんの手術は臓器切除やリンパ節郭清が必要であり,合併症や後遺症を覚悟しないといけない.消化管の手術で縫合不全を起こすと絶飲食になり,腹膜炎や腹腔内膿瘍を併発すると再手術が必要になる.術後合併症を起こすと患者は体力や免疫力が落ちるが,がんの手術で術後合併症は予後に影響するのだろうか.吻合不全を起こすと再発が増えるのだろうか.

臨床報告

胃癌と直腸癌同時手術後3か月目で発症したMRSAによる化膿性脊椎炎の1例

著者: 田代耕盛 ,   峯一彦 ,   市成秀樹 ,   米井彰洋 ,   宮原悠三

ページ範囲:P.109 - P.112

要旨
症例は75歳,男性.胃癌と直腸癌の診断にて,幽門側胃切除術および低位前方切除術を施行した.術後7日目に38.4℃の発熱が出現したが,腹部所見とドレーン排液に異常を認めなかった.カテーテル感染を疑い,中心静脈カテーテルを抜去した.術後9日目から水様便が出現し,便培養にてMRSAが検出されたが,その後,症状は軽快した.外来でのCRP値は2〜5 mg/dLを推移していたが,感染症状はなく経過観察としていた.術後3か月目に背部痛を自覚し受診した.Th11〜12における化膿性脊椎炎と診断された.同時に血液培養にてMRSAが検出された.バンコマイシン投与によってCRPの陰転化を認め,以降再燃は認められなかった.大侵襲術後のcompromised hostが症状を呈するようなMRSA感染をきたした場合には,即刻治療を行うことが肝要である.

腹部鈍的外傷後遅発性大腸狭窄に対して腹腔鏡下大腸切除術を施行した1例

著者: 波多豪 ,   吉岡慎一

ページ範囲:P.113 - P.116

要旨
症例は70歳,男性.交通外傷による小腸穿孔に対して小腸修復術,腹腔ドレナージ術が施行され,約10か月後に腸閉塞症状を呈するようになった.内視鏡検査で下行結腸に内腔の狭窄を認めたが,肉眼的,顕微鏡的ともに悪性所見はなく,経過観察の方針としていたが,狭窄が悪化するため,腹腔鏡補助下結腸部分切除術を行った.病理組織検査で腸管壁の高度の線維化を認めたが悪性所見はなく,臨床経過と合わせて腹部鈍的外傷後遅発性大腸狭窄と診断した.腹部鈍的外傷後には遅発性に腸管狭窄が生じることがあるが,大腸狭窄の頻度は少ない.今回,腹部鈍的外傷後遅発性大腸狭窄に対して腹腔鏡下手術を施行した1例を経験したので報告する.

治癒切除しえた十二指腸乳頭部腺腫の3例

著者: 田中寛 ,   新井利幸 ,   佐伯悟三 ,   平松聖史 ,   雨宮剛 ,   竹内真実子 ,   酒井優

ページ範囲:P.117 - P.121

要旨
〔症例1〕43歳,男性.超音波で総胆管・主膵管拡張を指摘され,内視鏡的生検で乳頭部腫瘍と診断した.乳頭部癌を否定できず,膵頭十二指腸切除を施行した.病理は高度異型腺腫であった.〔症例2〕62歳,男性.消化管造影で胃角部の陥凹性病変を認めた.内視鏡で早期胃癌と診断し,同時に乳頭部腫瘍も認め,生検で腺腫と診断した.幽門側胃切除と乳頭部粘膜切除を施行し,病理は軽度異型腺腫だった.〔症例3〕57歳,女性.胆囊結石疝痛で受診した.総胆管結石を疑いERCPを試みた際,乳頭部腫瘍を認めた.生検で腺腫と診断した.胆囊摘出,乳頭部粘膜切除を施行した.病理では軽度異型腺腫と診断した.考察:乳頭部腺腫は前癌病変と認識されているが,生検では良悪性の鑑別は困難であり,総合的な術前評価が必要である.

1200字通信・74

マーフィーの法則

著者: 板野聡

ページ範囲:P.34 - P.34

 本誌2011年6月号にも書きましたが,「マーフィーの法則」を御存じでしょうか.アメリカ空軍研究所のエンジニアであったマーフィー大尉が,「失敗する方法があれば,誰かがその方法でやる」と言ったものに普遍性を見出されて広まったものだそうです.代表的な法則に,「落としたトーストがバターを塗った面を下にして着地する確率は,カーペットの値段に比例する」がありますが,にやりとして納得できる内容のようではあります.
 この法則のなかには,「弱り目に祟り目」「泣きっ面に蜂」など,古今東西,日常生活のなかで起こる様々なことに対する諺や格言と同じような内容が含まれており,辛いときや困ったときにただ嘆くのではなく,発想を転換して生き抜くための知恵とでも言えそうです.

ひとやすみ・120

続「夫の付き合う人は」

著者: 中川国利

ページ範囲:P.45 - P.45

 101回目(68巻8号)のHitoyasumiに,「夫の付き合う人は」を掲載させていただいた.そこでは「仕事に邁進しているにもかかわらず,最大の理解者であるべき奥様から信頼を得ていない」と歎く昭和51年大学卒の同期生のために,一肌脱ぐことを宣言した.その顛末を報告する.
 郡山市で開催された第69回消化器外科学会総会最終日,近郊の温泉で同期会を開くことにした.30数名に夫婦同伴による参加をメールで呼びかけた.当初は奥様を交えた懇親会で大いに語り会い,翌日は近郊の観光地を散策し,日頃疎遠になりがちな夫婦の絆を深めるはずであった.しかし,同期生はいずれも教授,病院長,さらには学長などの要職に就き,超多忙であった.趣旨には皆が賛同してくれたが,参加表明したのは13名だけであった.しかも夫の希望的観測を含めても夫婦での参加表明は3組だけで,私自身も妻からは拒絶された.かくして翌日の観光は中止となり,さらには直前のキャンセルも相次ぎ,最終的に集ったのは夫婦一組,個人参加9名のみで,ほかに教授に動員された福島医科大医局員3名が参加してくれた.

昨日の患者

妻を偲ぶ

著者: 中川国利

ページ範囲:P.67 - P.67

 一人の異性と巡り合い,子供をもうけて慈しみ育て,そして共に白髪になるまで手を携えて人生を楽しめれば理想的な夫婦である.しかしながら現実は,様々な想定外の問題が生じる.病死した妻を慕い続けるSさんを紹介する.
 さる講演会後の懇親会場で,60歳代中頃の男性から声を掛けられた.「私の女房は,30年ほど前に先生に乳癌の手術をしていただきました.当時私は猛烈社員で,夜分遅くに帰宅すると妻が食卓に伏せて泣いておりました.聞くと,『乳房にしこりを触れるので病院に行くと,乳癌かもしれない』と言われ,手術を勧められたそうです.将来を憂えて泣きじゃくる妻を励まし,とにかく先生の手術を受けました.当時3人の幼い子供がおり,妻が乳癌となり大変心配しました.遠方に住む義母が同居して子供らの世話を,さらには入院中の妻に付き添ってくれました.手術の経過は良好でしたが,術後の癌化学療法で髪が完全に抜け落ちました.それでも妻はかつらを着け,腫れた左腕で育児や家事に頑張りました.妻の病状を見かねた義母が近くに転居し,子供らの世話をしてくれました.しかしながら多発性に肺や骨転移をきたし,手術7年後に亡くなりました」.

書評

—加納宣康(監修) 三毛牧夫(著)—正しい膜構造の理解からとらえなおす—ヘルニア手術のエッセンス

著者: 早川哲史

ページ範囲:P.102 - P.102

 外科学の黎明(れいめい)期から今日までに変わることのない大原則は,正確な解剖の理解です.われわれ外科医師が安全で質の高い手術を行うためには,過去の歴史の真実をひもとき,正しい解剖を認識した手術手技を完成させなければなりません.近年では従来認識できなかった腹壁解剖も次第に解明されており,内視鏡外科手術の導入により手術法や手術手技もさらに多様化しながら変化しています.鼠径部や腹壁ヘルニアは個々の症例ごとに手術前の状態や解剖の状況が異なり,完全に定型化した手術が行えないことが多々あります.基本的な腹壁解剖を熟知した上で,個々の症例に見合ったヘルニア手術を完遂させ,患者様にとって短期的にも長期的にも高いQOLが維持できる手術を提供する必要があります.
 わが国で1990年代に内視鏡外科ヘルニア修復術が開始された当時は,不鮮明な暗い2次元画像による手術でした.現在では鮮明な高解像度画像や3D画像の手術が可能となり,鼠径部や腹壁解剖が腹腔内から解明されつつあります.これまで認識できなかった微細な膜構造や神経・血管走行が認識できる時代となり,数々の新しい知見が得られています.それに伴い,多彩な解剖学的用語や数々の解剖認識についての相違が報告されています.今後この異なった用語を統一する方向で検討しながら,正しい腹壁解剖を認識した術式を普及させていくことが重要です.この20年以上の歴史の中で腹壁ヘルニアに対する内視鏡外科手術での手技は大きな変遷が見られますが,まだまだ質の高い手術手技が普及しているとは思えません.2014年の診療報酬改定により日本での内視鏡外科手術数も大きく増加しています.今後ますます多様化していく鼠径部や腹壁ヘルニア治療の手術手技に向かって,若い外科医師はさらなる努力と勉強が必要となります.

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原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P. - P.

投稿規定

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著作財産権譲渡同意書

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バックナンバーのご案内

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次号予告

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あとがき

著者: 宮崎勝

ページ範囲:P.128 - P.128

 胆道癌の治療において外科切除が唯一の根治可能な治療方法であり,胆道癌患者さんにとっての外科切除手術の意義は,他の多くの癌腫における外科治療の役割に比して,きわめて大きいものであるのは異論のないところである.胆道癌外科治療の方法は,1990年代より大きな進歩がみられ,2000年代に入ってもその外科手術の進歩は依然続いている.したがって,徐々にではあるが胆道癌外科治療の成績は向上してきているといえる.
 しかしながら,まだ多くの胆道癌患者さんが診断時には進行したstageで発見される場合が多く,外科切除しえた患者さんのなかでも切除後再発をきたす患者さんが少なくないのが現状である.胆道癌外科切除において,その外科切除後の再発を規定する因子として最も大きな要因は,外科切除時のsurgical marginである.R0切除か,R1,R2切除に終わるかは,その後の再発の可能性を予測するうえできわめて大きな因子であるため,外科切除時にはいかにしてR0,すなわち,外科切除断端が陰性になるような外科切除を安全に施行するかが大切になる.そのための様々な工夫が,胆道癌特有の問題としてこれまで工夫がなされてきている.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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