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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科70巻10号

2015年10月発行

雑誌目次

特集 エキスパートの消化管吻合を学ぶ

ページ範囲:P.1187 - P.1187

 消化器外科をこれから学ぶ者にとって,消化管吻合はまさに興味の大きいところであり,中堅からベテランにとっては今一度,他施設の詳細な吻合法をみることで日常診療に役立つコツが潜んでいる可能性がある.また新しい手技,器械吻合に対応していくことで,現在の潮流にup-to-dateする情報が得られる.
 本特集では,“手縫い”消化管吻合とステープラーによる消化管吻合,腹腔鏡下手術による消化管吻合について,食道,胃,大腸,胆膵外科から各領域のエキスパートに手技上のコツ,手術成績を呈示していただいた.手技についてはできるだけ,現在普及している一般的な方法の紹介と,著者自身が行っている吻合法の具体的な手順,コツをご紹介いただいた.

消化管吻合の歴史と癒合のメカニズム

著者: 丸山圭一 ,   奥田誠 ,   菊池潔 ,   辻塚一幸 ,   高尾良彦 ,   清水伸幸

ページ範囲:P.1188 - P.1195

【ポイント】
◆消化管吻合は,麻酔法と消毒法が開発される1870年以前には不可能であった.
◆吻合術式は瘢痕形成が旺盛な漿膜を接合させる術式が1826年にLembertにより提唱された.
◆続いて,結合組織と血管が豊富で癒合に有利な粘膜下層が注目され,ここを接合させる術式が1950年代にJourdanやGambeeにより提唱された.
◆今日では器械吻合の進歩がめざましく,手縫い縫合に劣らない成績を上げている.
◆本稿では吻合部癒合のメカニズムを示し,その基礎的研究を解説した.

縫合材料,自動縫合器・吻合器の種類と特徴

著者: 大嶋陽幸 ,   島田英昭

ページ範囲:P.1196 - P.1203

【ポイント】
◆現在市販されている消化管吻合に使用される縫合材料の縫合糸,針付き糸,自動縫合器,自動吻合器の機能や特徴を紹介する.
◆縫合糸の主流である合成吸収縫合糸のモノフィラメント,ブレイドそれぞれの吸収期間と抗張力を示す.
◆自動吻合器,自動縫合器(開腹手術用,腹腔鏡手術用)の市販されているすべての製品の紹介と主力製品の簡単な解説を行う.

食道外科における消化管吻合のコツ—手縫い

著者: 梶山美明 ,   岩沼佳見 ,   富田夏実 ,   天野高行 ,   酒井康孝 ,   國安哲史 ,   橋本貴史 ,   橋口忠典 ,   那須元美 ,   斎田将之 ,   尾﨑麻子 ,   吉野耕平 ,   藤原大介 ,   菅原友樹 ,   朝倉孝延 ,   鶴丸昌彦

ページ範囲:P.1204 - P.1209

【ポイント】
◆食道吻合は吻合操作だけが重要なのではなく,より良い吻合条件を作り出す準備が何より重要である.
◆用手吻合は1針ごとに針先の感触を確認しながら微妙な調節が可能であり,信頼性の高い吻合法である.
◆縫合不全と狭窄を同時に予防するためには正確な層々吻合が重要であり,特に前壁内層縫合の運針がコツである.

食道外科における消化管吻合のコツ—器械吻合

著者: 渡邊雅之 ,   黒河内喬範 ,   岡村明彦 ,   今村裕 ,   本多通孝 ,   西田康二郎 ,   峯真司

ページ範囲:P.1211 - P.1216

【ポイント】
◆食道癌術後の縫合不全は長期予後を悪化させる可能性があり,より確実な手術手技が求められる.
◆手縫い吻合と器械吻合のメタアナリシスでは縫合不全の頻度に差はなくcircular staplerでは手縫い吻合より狭窄が多い.
◆Linear staplerを用いた三角吻合は吻合部狭窄をきたしにくいことが報告されている.

胃外科における消化管吻合のコツ—手縫い

著者: 藤原久貴 ,   和田剛幸 ,   森田信司 ,   深川剛生 ,   片井均

ページ範囲:P.1218 - P.1223

【ポイント】
◆消化管吻合の要点は縫合不全を生じないこと,そして吻合部狭窄をきたさないことである.
◆手縫い吻合の利点は消化管壁の各層を適切に接着できる点であり,縫合では縫い代,縫い幅,糸の締め具合の3点に注意する.
◆吻合に際してはできる限り自然な縫合と結紮が行えるように,術者と助手でゆとりのある場を作ってから開始する.

胃外科における消化管吻合のコツ—腹腔鏡下胃切除術のステイプラーを用いた再建方法

著者: 亀井文 ,   金平永二 ,   中木正文 ,   谷田孝

ページ範囲:P.1224 - P.1229

【ポイント】
◆腹腔鏡下胃切除術の普及とともに,ステイプラーを用いた様々な吻合方法がみられるようになった.
◆腹腔鏡下幽門側胃切除術におけるリニアステイプラーを用いたRoux-Y法と,腹腔鏡下胃全摘術におけるサーキュラーステイプラーを用いたRoux-Y法を紹介する.
◆ステイプラーと腹腔鏡下の縫合を併用することによって,柔軟に対応できる吻合を施行する.

大腸外科における消化管吻合のコツ—結腸

著者: 内藤正規 ,   中村隆俊 ,   佐藤武郎 ,   小倉直人 ,   山梨高広 ,   三浦啓寿 ,   筒井敦子 ,   古城憲 ,   渡邊昌彦

ページ範囲:P.1231 - P.1234

【ポイント】
◆機能的端々吻合は吻合に要する時間が短く,吻合口径も大きくとれ口径差がある吻合も容易である.
◆側々吻合の遠位部(吻合の股の部分)に漿膜筋層縫合をして補強することが重要である.
◆使用するlinear staplerは長さと高さで適切な種類のカートリッジを選択することが重要である.

大腸外科における消化管吻合のコツ—直腸

著者: 西川武司 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.1235 - P.1239

【ポイント】
◆口側腸管の十分な血流の温存のため,可及的な左結腸動脈の温存と直動脈の温存を行う.
◆吻合部に緊張がかかる症例では,積極的に脾結腸間膜を切離して左結腸曲の授動を行う.
◆術中内視鏡にて,吻合部出血の有無の確認,リークテストを行う.
◆経肛門に多孔式ドレーンを留置し,吻合部の減圧を行う.

胆道外科における消化管吻合のコツ—胆管空腸吻合

著者: 岡村大樹 ,   清水宏明 ,   大塚将之 ,   加藤厚 ,   吉富秀幸 ,   古川勝規 ,   高屋敷吏 ,   久保木知 ,   高野重紹 ,   鈴木大亮 ,   酒井望 ,   賀川真吾 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.1240 - P.1244

【ポイント】
◆胆管空腸吻合は難しい手技ではないが,縫合不全や吻合部狭窄などの合併症をきたしうるため,胆管内腔を確認しながら安全で確実な吻合を行うことが肝要である.
◆特に肝内胆管との胆管空腸吻合の場合は複数本の胆管枝の再建が必要となることが多く,胆管径も細いため,胆管形成などの工夫やより慎重な吻合を要する.

膵臓外科における消化管吻合のコツ—膵消化管吻合

著者: 永川裕一 ,   細川勇一 ,   佐原八束 ,   瀧下智恵 ,   土方陽介 ,   土田明彦

ページ範囲:P.1245 - P.1248

【ポイント】
◆膵切離は,確実な止血ならびに膵組織を損傷させない配慮が必要である.
◆運針しやすくするように,助手は良好な術野の展開を行う.
◆膵管に愛護的で針の軸を意識した丁寧な運針が必要である.

FOCUS

保険収載された肥満外科治療

著者: 田中直樹 ,   内藤剛 ,   井本博文 ,   長尾宗紀 ,   武者宏昭 ,   海野倫明

ページ範囲:P.1250 - P.1255

はじめに
 2014年4月に腹腔鏡下スリーブ状胃切除術が保険収載され,わが国の肥満外科治療は新たなステージを迎えた.わが国ではなじみが薄い肥満外科治療ではあるが,保険収載に伴い症例数の増加が期待される.また,「減量手術」は減量効果のみならず,糖尿病などの代謝疾患を改善する「代謝改善手術」としても期待されている.
 当科では2010年から先進医療として腹腔鏡下スリーブ状胃切除術を導入しており,現在は保険診療として症例を重ねている.本稿では,肥満外科治療の概要,わが国での現状や問題点,また,期待される代謝改善手術としての効果などについて,実際の手術手技や当科での成績とともに概説する.

外科医のための輸血のはなし③—輸血の注意点と適正な血液使用

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1256 - P.1260

はじめに
 輸血は救命のためにはなくてはならない治療法であるが,さまざまな副作用や合併症がある.また,血液は人体の一部であり,献血に由来するため有効利用する必要がある.そこで,輸血の注意点や適正な血液使用について紹介する.

病院めぐり

筑波学園病院外科

著者: 五本木武志

ページ範囲:P.1261 - P.1261

 筑波学園病院は茨城県つくば市南部に位置し,東京都からは常磐自動車道で車で約40分,つくばエクスプレスで秋葉原から約40分の場所にあります.つくば市は,「筑波研究学園都市」と地理的にはほぼ同じであり,筑波大学をはじめ,多くの教育研究機関があります.筑波学園病院の歴史は,筑波研究学園都市の歴史よりも古く,その源は昭和24年の新治協同病院谷田部分院の開院にさかのぼります.最初は病床数51でしたが,昭和50年の筑波麓仁会の設立とともに,病床数136の筑波学園病院として開設し,筑波大学の関連病院となりました.その後,昭和52年より透析センターが開設され,昭和55年に第二次救急指定病院となりました.昭和62年に筑波学園高等看護学院開設,平成8年には老人保健施設「そよかぜ」,ほか訪問看護ステーション,在宅看護支援センターを開設し,本年2月に電子カルテを導入し,現在に至っています.
 現在は,一般295床,感染症3床,結核33床と計331床の急性期総合病院です.現在の常勤医数は55名で,診療科は循環器内科,呼吸器内科,腎臓内科,消化器内科,リウマチ科,小児科,産婦人科,耳鼻科,眼科,泌尿器科,整形外科,形成外科,消化器外科,乳腺代謝内分泌外科,歯科口腔外科が常勤で診療を行っています.そのうち,消化器外科は平均病床数は40前後で,常勤4名,初期臨床研修医1〜2名で構成されています.年間手術件数は,毎年約450〜460例です.内訳は,昨年度は,胃悪性腫瘍23例,結腸・直腸手術78例でした.そのほか,急性腹症手術一般(消化管穿孔,イレウス,虫垂炎,胆石胆囊炎など),肝胆膵外科手術全般を行っています.腹腔鏡下手術は,現在胆囊摘出術のみですが,本年度より胃・結腸・直腸での腹腔鏡下手術を導入すべく,デジタルハイビジョンモニターの設置,手術器具などの更新をしました.胸部外科は,非常勤ですが,外来診療を行っています.腹部外傷はすべて受け入れておりますが,重傷胸部外傷は近隣の救急病院にお願いしています.

図解!成人ヘルニア手術・5 忘れてはならない腹壁解剖と手技のポイント

Plug法

著者: 松村卓樹 ,   蜂須賀丈博 ,   雫真人 ,   坂田和規 ,   末永泰人 ,   倉田信彦

ページ範囲:P.1262 - P.1267

■ はじめに
 現在,鼠径ヘルニアの修復はメッシュを用いたtension free repairの概念が主流となっている.なかでも1989年にRutkowらにより開発されたplug法1)は,簡便で再発率が低いため,現在世界中で広く採用されている.当科でも1995年から標準術式としてplug法を導入し,良好な成績を得てきた2).そこで,現在われわれが行っている外鼠径ヘルニアに対するplug法の実際の手術手技を,留意している点を交えて解説する.

具体的事例から考える 外科手術に関するリスクアセスメント・7

医療機器にかかわるトラブルをどう防ぐか

著者: 石川雅彦

ページ範囲:P.1268 - P.1272

 外科手術においては,さまざまな医療機器が使用され,関連するインシデント・アクシデントも発生している.本稿では,日本医療機能評価機構の「医療事故情報収集等事業」の公開データ検索1)を用いて,外科手術における医療機器に関連して発生した事例を抽出し,発生概要,発生要因と再発防止策について検討した.なお,本稿で検討する医療機器に関連した事例は,手術室の設備としての器材に関する事例も含めて,広く,「手術室において使用されている器材,機器」に関連する事例を検討対象とした.

臨床報告

乳腺腫瘍との鑑別を要した神経鞘腫の1例

著者: 平良彰浩 ,   永田好香 ,   山田壮亮 ,   宗知子 ,   浦本秀隆 ,   田中文啓

ページ範囲:P.1274 - P.1278

要旨
症例は65歳,女性.右乳房外側のしこりを自覚し来院した.乳房後脂肪組織に境界明瞭で平滑な低エコー腫瘤を認め,術前針生検で神経鞘腫と診断した.鈍痛を伴うようになり外科的加療の方針とした.術中に腫瘍へ連続する神経を確認し,腫瘍摘出術を施行した.病理組織では紡錘形細胞の柵状配列と部分的に粗な部分(Antoni type B)を認め,異型上皮細胞を認めなかった. 腫瘍細胞はS100陽性を示した.本疾患は神経鞘腫の2.6%,乳腺良性腫瘍の0.2%と稀であり,文献的考察を加えて報告した.

プロテインC低下に伴う上腸間膜静脈血栓症の1例

著者: 松澤文彦 ,   濱口純 ,   鈴木崇史 ,   永生高広 ,   阿部厚憲 ,   及能健一

ページ範囲:P.1279 - P.1283

要旨
プロテインC低下に伴う上腸間膜静脈血栓症(SMV血栓症)はわが国で15例の報告にとどまる.症例は汎発性腹膜炎を呈した62歳の男性で,造影CTで上腸間膜静脈に陰影欠損があり,小腸および腸間膜にうっ血性変化を認め,緊急手術を行った.約180 cmにわたり小腸・腸間膜のうっ血性変化を認め,変性した部位を切除した.血液検査ではプロテインC活性の低値を認め,プロテインC低下に伴うSMV血栓症と診断した.プロテインC低下に伴うSMV血栓症では外科切除やIVRによる血栓除去,抗凝固療法といった多岐にわたる治療法があるが,統一された見解はない.外科切除とそれに続く抗凝固療法が有効であった1例を経験したので報告する.

S状結腸間膜窩ヘルニアの1例

著者: 萩原資久 ,   蘆野光樹 ,   高屋快 ,   原康之 ,   陳正浩 ,   橋爪英二

ページ範囲:P.1284 - P.1288

要旨
症例は42歳,女性.下腹部痛を主訴に当院を受診した.手術既往はなかった.腸閉塞の診断で入院となった.CT検査では小腸が広範囲に拡張しており,骨盤部付近で腸間膜の収束像が認められた.イレウス管を挿入して保存的に加療したが,腹痛が増強したため,緊急手術を施行した.開腹所見ではS状結腸間膜窩に小腸が嵌頓していたが,壊死に陥っておらず,整復してヘルニア門を縫合閉鎖した.本疾患は画像診断の進歩により術前診断を得たとの報告や腹腔鏡下に手術を施行し得たとの報告が散見されるが,いまだに腸閉塞の診断で手術を行い,術中に診断される場合が多い.手術歴のない腸閉塞症例は本疾患も念頭において診療にあたるべきと考えられた.

十二指腸ソマトスタチン産生神経内分泌腫瘍の1例

著者: 北村祥貴 ,   黒川勝 ,   俵広樹 ,   太田尚宏 ,   稲木紀幸 ,   伴登宏行

ページ範囲:P.1289 - P.1293

要旨
患者は74歳,女性.上部消化管内視鏡で十二指腸下行脚に15 mm大の粘膜下腫瘍を指摘された.超音波内視鏡検査で第2〜3層に存在し,生検でソマトスタチン産生神経内分泌腫瘍と診断した.腹部CTで腫瘤は造影早期から濃染した.亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行し,病理組織学的検査で腫瘍は粘膜下層から一部粘膜に存在した.類円形核を有する腫瘍細胞は島状,管状に増殖し,ソマトスタチン陽性であった.核分裂像は0〜1個/10 HPFでKi-67指数は0.4%であり,WHO分類でNET G1と診断された.また,胆道癌取扱い規約第6版での13および14dリンパ節に転移を認めた.15 mmのNET G1であってもリンパ節転移の可能性を考慮した術式選択が肝要と思われた.

巨大な後腹膜囊状リンパ管腫の1例

著者: 伊江将史 ,   村上隆啓 ,   宮地洋介 ,   砂川一哉 ,   上田真 ,   福里吉充

ページ範囲:P.1294 - P.1298

要旨
症例は36歳,男性,半年前より腹部違和感を自覚していた.食後の腹痛増悪を認めたため救急受診した.腹部CT,MRI検査にて,腹腔内を占拠する45×25×16 cmの巨大な多房性囊胞腫瘍を認めた.画像所見より,後腹膜より発生した囊状リンパ管腫と診断した.脾門部の脾動静脈が腫瘍により巻き込まれており,完全切除のために膵体尾部脾合併切除を施行した.病理組織診では囊状リンパ管腫の診断で悪性所見は認めなかった.後腹膜発生のリンパ管腫はリンパ管腫全体の1%以下と稀な疾患であり,治療の原則は完全切除である.本疾患の臨床病理学的特徴と画像上の鑑別ポイントについて,文献的考察を加えて報告する.

短報

腹腔鏡下胆囊摘出術後,クリップが十二指腸に迷入した1例

著者: 山下洋 ,   織笠桜子 ,   小山田尚 ,   宮崎修吉 ,   北村道彦 ,   遠藤秀彦

ページ範囲:P.1299 - P.1301

要旨
症例は74歳,男性.7年前に胆石症にて腹腔鏡下胆囊摘出術を施行された.胃癌治療のため当院を受診した.術前内視鏡検査にて,十二指腸球部に粘膜隆起所見を認めた.CT検査で,十二指腸球部の壁内にクリップを認めた.幽門側胃切除術を施行したところ,十二指腸球部の粘膜下にクリップが3本迷入していた.腹腔鏡下胆囊摘出術後,総胆管へのクリップの迷入報告は多いが,十二指腸への迷入報告は非常に少なく,本症例も含めわずか8例にすぎない.本症例は無症状であったが,他報告例では十二指腸潰瘍を合併していた.無症状であれば経過観察でよいとされているが,十二指腸潰瘍の原因となることもあるため,機会があれば摘出を検討すべきである.

ひとやすみ・129

ケースモデル

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1216 - P.1216

 院長や教授などの管理職は,実権があり処遇も良いと一般に考えられているが,実態はそうであろうか.小さな組織ながらも管理者として実情を知る立場となり,社会の通念とかけ離れた現実に戸惑いを感じている.
 病院における最高給取りは,一般に管理者である院長と思われがちである.しかし,公立病院長の役職手当ては雀の涙であり,時間外手当もない.さらには医療費抑制政策の下,経営の健全化や医師不足の解消に翻弄され,経営能力や指導能力も問われる.一方,大学においても教授の役職手当は少なく,またかつての医局制度のような絶大な人事権もない.そして臨床や研究における業績が問われ,さらには医局員の確保や関連病院からの医師派遣要請にも応えなくてはならない.しかしながら人は一般に自己中心的に物事を捉え,誰もが他人を羨望する習癖がある.

昨日の患者

苦渋の判断

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1229 - P.1229

 超高齢社会となり,嚥下障害患者さんに対する胃瘻造設が激増しつつある.しかしながら嚥下障害が回復する見込みがない患者さんでは,人工呼吸器装着と同様に単なる延命治療にすぎないことが問題となっている.苦渋の判断で,尊厳死を選択した患者さんを紹介する.
 70歳代後半のMさんは,20年ほど前に大腸癌で結腸右半切除を行った.術後経過は良好であったが,3年前に脳梗塞を罹患し介護施設に入所していた.そして誤嚥性肺炎を伴う腸閉塞をきたして入院した.

書評

—安達洋祐(著)—外科医のためのエビデンス

著者: 北川雄光

ページ範囲:P.1230 - P.1230

 本書は,医学書院から刊行されている『臨床外科』誌に連載された「ドクターAのミニレクチャー」を書籍化したものである.私は,ドクターA,すなわち経験豊富な外科医であり情熱的な教育者でもある安達洋祐氏本人,およびその著作の大ファンであり,この連載も必ず書籍化されるものと待ちわびていた.
 彼の著書は,いつも現場から生まれてくる基本的な課題に,肩に力を入れず淡々とアプローチするところから始まる.その視線は常に若手医師,レジデントの視線であり,スタートラインは常に「素朴な疑問」である.本書は,誰でも抱いたことがあり,そして明確に答えることができない「疑問」に関して,エビデンスに基づいてひもといていく形式が採られている.

1200字通信・83

便座と煙草と禁煙と

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1249 - P.1249

 日本外科学会雑誌第116巻第3号(2015年)の巻頭に「禁煙宣言」が載っていました.国民の健康を守る立場の医師の一人として,諸手を挙げて賛成したいと思います.ただ,これまでに,こんな重要な「宣言」がなされていなかったことに驚き,医師会や医学会すべてで「宣言」して頂きたいものだと感じました.
 さて,随分前から,医療施設,特に病院では,院内のすべての個所で禁煙宣言がなされており,施設の敷地内全域が禁煙となっています.もちろん,患者さんだけではなく職員全員も対象ですが,元より各自の嗜好の問題でもあり,また,なんにでも抜け道があるように,駐車している自分の車の中や換気扇の付いたトイレでの喫煙は黙認されているようではあります(病院評価機構の審査員の方は読まなかったことにして下さい).

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原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P. - P.

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P. - P.

あとがき

著者: 田邉稔

ページ範囲:P.1308 - P.1308

 お盆休みに実家に帰った時に,今から30年以上前の学生時代によく聞いていたLP盤レコードの山を見つけた.残念ながらプレーヤーが無いのでもはや聞くことは出来なかったが,当時バイト代をはたいて買い集めたコレクションは,さすがに眺めているだけで懐かしい.僅かに波打ちながら回転するLP盤にプレーヤーの針を落とす瞬間の緊張感が蘇ってくる.レコードジャケットは大きさがあるから,それぞれに絵画のような芸術的個性と迫力がある.医学部を卒業して実家を離れ,出張病院を渡り歩いているうちに,音楽環境は急速にデジタル化され,CDやネットによる音楽の配信が中心になった.それに伴い,これらのレコードコレクションに触れることもなくなった.私の青春時代はまさにアナログからデジタルへの移行期に一致する.デジタル音は歯切れ良くクリアーであるが,最近ではレトロな真空管アンプで暖かみのあるLP盤の音色を聞くというマニアも復活しつつあると聞く.
 私が研修医になった1980年代は,自動吻合器や自動縫合器が一般病院に出回り始めた時代である.胃全摘術の食道・空腸吻合や低位前方切除の結腸・直腸吻合を手縫いで行っている病院もたくさんあったが,使用してみれば自動吻合器の便利さは圧倒的であった.その後,腹腔鏡下手術が普及するとともに,通常の消化管吻合の多くが開腹下においても自動縫合器で行われるようになってきた.若い外科医の中には手縫いに慣れない者も多い.確かに器械吻合は手早くカッチリ仕上がり,たとえれば,デジタル配信された雑音の無い音楽ということになる.腹腔鏡下に吻合しようとすれば,器械吻合無しには手術は成り立たない.ガチャンと一発で吻合してしまうと,先達たちの数限りない手縫い吻合法の開発はいったい何だったのかと思う時もある.一方で,私の体には手縫いのアナログ感が染みついている.Gambee吻合がうまく仕上がった時の柔らかい感触は,真空管アンプを通して流れるLP盤の音に重なるものがある.多少縫合ピッチにムラがあってもご愛敬といったところか.手術法は時代とともに変化するが,手縫いも自動吻合もそれぞれに良いところがあり,外科医は両方に精通するべきである.というわけで,消化管吻合を横断的にまとめる良い機会と考え,本特集を企画した次第である.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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