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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科70巻13号

2015年12月発行

雑誌目次

特集 外科医に求められる積極的緩和医療—延命と症状緩和の狭間で

ページ範囲:P.1439 - P.1439

 癌の診療を行う中で,救えない命は必ず一定頻度で存在します.そこでは緩和医療が極めて重要ですが,これはわが国の現状では,多くの外科医にとって避けて通れない課題です.限りある余命をより良く過ごしていただくため,あるいは目の前の危機を乗り越えるための外科手術や侵襲的処置は,現在でも数多く行われています.本特集では,このような外科手術や侵襲的処置の適応や工夫についてまとめました.さらに,本格的な緩和ケアに入ると癌に対する治療はもう行わないという考え方に拘泥することなく,緩和という視点に立って行う集学的治療についても知見を盛り込みました.

総論

外科医だからこそできる緩和ケア—外科医がもつべき緩和医療の視点

著者: 下山理史

ページ範囲:P.1441 - P.1447

【ポイント】
◆患者家族の生活に思いを馳せながら,治療を行うことが重要である.これが緩和ケアにつながっている.
◆症状緩和は重要だが,緩和ケアはそれだけではない.その人の生き様を大切にして,希望を支えていくことが緩和ケアである.
◆初めから最期まで患者ととことん付き合う外科医だからこそ,その関係性と時間性を大切にして,それぞれの場面で患者家族の多様な価値観を大切にしながら,そのつど意思決定をしつつ,ともに歩んでいく緩和ケアが可能となる.

緩和医療における化学療法の役割

著者: 三嶋秀行 ,   岩本慈能 ,   平良高一 ,   松村卓樹 ,   駒屋憲一 ,   齊藤卓也 ,   安藤景一 ,   石黒成治 ,   大橋紀文 ,   有川卓 ,   小松俊一郎 ,   宮地正彦 ,   佐野力

ページ範囲:P.1448 - P.1453

【ポイント】
◆治癒を期待することが難しい状況での化学療法が「緩和化学療法」であり,化学療法は早期緩和そのものである.
◆緩和化学療法の目的は,「本人や家族が後悔の少ない最期を迎えられるようにサポートすること」である.
◆EBMだけでなく,患者との対話を通して決めるSDM(sheared decision making)が患者を適切な治療に導く.

緩和医療における放射線療法の役割

著者: 伊藤芳紀 ,   井垣浩 ,   村上直也 ,   稲葉浩二 ,   高橋加奈 ,   梅澤玲 ,   関井修平 ,   原田堅 ,   北口真由香 ,   小林和馬 ,   柏原大朗 ,   土田圭祐 ,   伊丹純

ページ範囲:P.1454 - P.1461

【ポイント】
◆癌の進展による疼痛や出血,そのほか腫瘍に伴う様々な症状などに対する緩和目的の放射線治療は有効である.
◆放射線治療は腫瘍に対する直接的な局所効果を得ることができ,延命を目的とすることが可能である.
◆症状対策に際し,チーム医療の中で適切に放射線治療の適応を検討することが重要である.

臓器別:緩和手術・処置の実際

食道癌における緩和手術・処置

著者: 酒井真 ,   宗田真 ,   宮崎達也 ,   斉藤秀幸 ,   吉田知典 ,   熊倉裕二 ,   本城裕章 ,   桑野博行

ページ範囲:P.1462 - P.1467

【ポイント】
◆食道癌における緩和手術・処置の目的は,狭窄症状や瘻孔の改善による症状の緩和とQOLの維持,重篤な合併症の回避である.
◆食道ステントは低侵襲かつ早期の経口摂取が可能であり,第1選択とされる場合が多い.
◆バイパス手術は姑息的治療としては非常に侵襲の高い治療法であり,合併症の発生率も高率で,適応は限られてきている.

非治癒胃癌における緩和手術

著者: 藤谷和正 ,   本告正明 ,   中塚梨絵 ,   川田純司 ,   西川和宏 ,   宮崎進 ,   團野克樹 ,   久保田勝 ,   松田宙 ,   岩瀬和裕

ページ範囲:P.1468 - P.1473

【ポイント】
◆非治癒胃癌に対する外科治療には,予後の延長をめざす減量手術とQOLの改善を目的とした緩和手術がある.
◆緩和手術を要する病態としては,胃幽門狭窄症に代表される胃流出路障害,腹膜播種による腸閉塞,胃原発巣からの繰り返す出血,胃原発巣の穿孔などがある.
◆術式としては,胃空腸吻合術,姑息的胃切除術,内視鏡下ステント留置術,腸バイパス術,腸切除術,人工肛門造設術などがある.最適な術式を選択するには,各術式の長所・短所や術式間の違いを知っておくことが重要である.
◆いずれの術式を選択するにせよ,注意すべき合併症,術後30日以内の死亡率,期待される予後や予後因子を知っておくことは,緩和手術に踏み切るか否かの決断に重要である.

胆道癌・膵癌における緩和手術—外科的手術・処置

著者: 北郷実 ,   阿部雄太 ,   板野理 ,   篠田昌宏 ,   八木洋 ,   日比泰造 ,   北川雄光

ページ範囲:P.1474 - P.1482

【ポイント】
◆外科的緩和手術は,全身状態が良好で,ある程度予後が期待できる患者に適応となる.
◆自動縫合器を用いた腹腔鏡下胃空腸吻合術は低侵襲かつ簡便,短時間で行いうる緩和手術である.

胆道癌・膵癌における緩和手術—内視鏡的緩和処置

著者: 山本健治郎 ,   糸井隆夫 ,   祖父尼淳 ,   土屋貴愛 ,   辻修二郎 ,   鎌田健太郎 ,   田中麗奈 ,   殿塚亮祐 ,   本定三季 ,   向井俊太郎 ,   藤田充 ,   森安史典

ページ範囲:P.1474 - P.1482

【ポイント】
◆進行膵・胆道癌に伴う胆道閉塞,消化管閉塞,神経性疼痛に対する内視鏡的処置は安全かつ効果的な緩和処置である.
◆近年,超音波内視鏡ガイド下の処置が開発され,進行膵・胆道癌患者のQuality of lifeの向上に寄与している.

大腸癌における緩和手術・処置

著者: 永田洋士 ,   田中敏明 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.1483 - P.1486

【ポイント】
◆消化管ステントは悪性大腸閉塞における重要な選択肢であるが,その合併症には留意が必要である.
◆終末期における患者や家族の考え方は様々であり,患者の容態も刻々と変化しうるため,個々の症例に応じて適切な治療選択を模索していくことが求められる.

知っておきたい緩和医療の積極的介入法

癌性腹水に対するCARTと薬物療法

著者: 太田惠一朗 ,   松﨑圭祐

ページ範囲:P.1487 - P.1492

【ポイント】
◆改良型腹水濾過濃縮再静注法(CART)は,細胞成分に富む大量癌性腹水の処理に有用であり,積極的症状緩和医療となる.
◆CARTを施行すると大量癌性腹水が全量抜水可能となり,薬物療法の開始や継続が容易になる.
◆CARTの濾過膜洗浄液の有効利用法として,オーダーメイドの免疫細胞療法や抗癌剤感受性試験が考えられる.

骨転移に対する手術および骨修飾薬を用いた薬物療法

著者: 森岡秀夫 ,   西本和正 ,   堀内圭輔 ,   須佐美知郎 ,   菊田一貴 ,   山口さやか ,   日方智宏 ,   石井賢 ,   中村雅也 ,   松本守雄

ページ範囲:P.1493 - P.1499

【ポイント】
◆骨転移の病態は複雑であり,様々な要素によって患者の状態をスコア化し,手術適応および姑息的手術や根治的手術などの手術方法を検討する.
◆脊椎転移に対する手術には,後方から脊髄を圧迫している腫瘍を可及的に摘出・除圧を行い,不安定性を認める場合はinstrumentationによる固定術を追加する姑息的手術と,転移を生じた脊椎骨全体を摘出し根治性を求める腫瘍脊椎骨全摘出術がある.
◆四肢骨転移に対する手術には,腫瘍を可及的に切除または切除せずに骨セメントやプレート,髄内釘などで固定のみを行う姑息的手術と,骨転移巣の局所根治を目的に腫瘍の切除を行い,腫瘍用人工骨頭や人工関節で再建する手術がある.
◆骨転移の治療薬としては,ビスホスホネートと抗RANKL抗体があり,顎骨壊死や低カルシウム血症などの副作用はあるが,様々な種類のがん骨転移で骨関連事象に対する有効性が示されている.
◆骨転移外来や骨転移カンファレンス(キャンサーボード)などにより,患者の状態把握を行い,骨転移を管理することにより,骨関連事象の予防と手術や薬物療法などの適切な対応を行う.

がん性疼痛に対する神経ブロック療法

著者: 春原啓一 ,   西脇公俊

ページ範囲:P.1500 - P.1508

【ポイント】
◆がん疼痛治療の第一選択は薬物療法であるが,そのどの時期においても神経ブロック療法の適応が考慮されるべきである.
◆CTガイド,超音波ガイド下神経ブロックや高周波電流による熱凝固法など,より安全なブロック療法が行われるようになってきた.
◆ブロック療法に際しては,患者・家族との良好なコミュニケーション,十分な病状の説明とブロック療法に関する正しい理解に基づく治療選択の支援が必要である.

FOCUS

人工膵臓の役割

著者: 並川努 ,   宗景匡哉 ,   北川博之 ,   花﨑和弘

ページ範囲:P.1510 - P.1513

はじめに
 近年,欧米のみならず日本においても,生活習慣と社会環境の変化に伴って糖尿病罹患率の上昇が指摘されており,高齢化による耐糖能異常と相重なって,1型,2型糖尿病だけでなく血糖管理を必要とする患者数は急激に増加してきている1)
 このような様々な患者背景とともに,多岐にわたる新規糖尿病薬が開発されており,糖尿病治療が多様化してきているが,より生理的な血糖制御を行うためには至適なインスリン分泌が必要とされる.そのためには,血糖計測,その情報処理,制御,そしてインスリン・グルカゴン分泌を機械的に構築したシステムが必要とされ,人工膵臓の開発・発展に期待が寄せられる2,3)
 本稿では,特に外科領域における人工膵臓の果たす役割について概説する.

図解!成人ヘルニア手術・7 忘れてはならない腹壁解剖と手技のポイント

腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(TAPP法)

著者: 早川哲史

ページ範囲:P.1514 - P.1522

■ 腹腔鏡下鼠径部ヘルニア修復術に対する重要な注意点
 鼠径部ヘルニア治療の大原則は,再発がなく,術後疼痛がなく,そのほかの合併症もない術式を行うことである.腹腔鏡下鼠径部ヘルニア修復術は,手術後の疼痛が少なく,早期社会復帰が可能であるなどの利点が多数報告されている1〜3).しかしながら,日本内視鏡外科学会の2013年集計では腹腔鏡下手術の再発率は4〜5%と驚くべき数値が報告され4),再発させない確実な手術手技の習得が極めて必要と考える.特にTAPP法(transabdominal preperitoneal repair法)では,2Dの腹腔鏡画像の中で特殊な鼠径部立体構造を十分に把握し,TAPP法独特の鉗子操作の習熟が必要である.手術手技に未熟な術者における手術では,再発率や合併症率は必然的に上昇するものと思われる.本稿では,再発を起こさせない手術手技を求め,TAPP法における立体的空間認識の重要性を中心に述べる.

病院めぐり

熊本再春荘病院—外科・呼吸器外科

著者: 大原千年

ページ範囲:P.1523 - P.1523

 当院のある合志市は,県庁所在地である熊本市の北12 kmに位置し,西に阿蘇山を臨み,阿蘇の火山灰が降り積んだ黒石原に広がる県内有数の穀倉地帯です.近年,熊本市のベッドタウンとして新興住宅地が次々と開発され,人口減少時代を迎えながらも人口の増加が見込まれている数少ない街のひとつでもあります.病院は東京ドーム5個分の広大な敷地に建てられ,自然が豊かで様々な木々に囲まれた閑静で空気も澄んだ快適な療養環境にあります.合志市や病院のシンボルツリーであるクヌギの木も多く,夏にはカブトムシやクワガタを捕ることもできます.交通アクセスは,阿蘇熊本空港や高速道路九州縦貫道からは車が便利ですが,熊本市からは熊本電気鉄道が繋がっています.この鉄道は渋谷ハチ公前広場に置いてある緑色の電車,東急5000系 通称「アオガエル」が現役で走る全国唯一の鉄道として有名だそうです.最近ではあの「くまモン」が外壁に描かれた「くまモン電車」も走っており,当院へお越しの際はこの電車に乗ってみるのも一興かと思います.
 さて,当院の病床数は513床ですが,政策医療と急性期医療の混在する形を採っています.1941年に国立療養所として開設,翌年傷痍軍人療養所再春荘として創設され,結核や呼吸器疾患を診療しましたが,1945年より国立療養所再春荘と改称され,広く地域住民の診療にあたることになりました.1968年に重症心身障害児病棟,1970年には進行性筋ジストロフィー病棟が開設され,1999年には神経難病やその他の政策医療を担う専門医療施設として位置づけられました.その後,2004年に独立行政法人化に伴い,国立病院機構熊本再春荘病院と名称を改めるとともに,慢性期医療と急性期医療の両立を図る方針を推進しました.2010年には熊本県指定がん診療連携拠点病院の指定,2012年には地域医療支援病院として承認されました.

具体的事例から考える 外科手術に関するリスクアセスメント・9

情報管理・診療記録にかかわるトラブルをどう防ぐか

著者: 石川雅彦

ページ範囲:P.1524 - P.1528

 外科手術における情報管理として診療記録は重要であり,手術に関連する職員間での情報共有は,良質で安全な手術医療の提供のために,きわめて重要であるが,情報管理や診療記録に関連して,さまざまなインシデント・アクシデントが発生している.
 本稿では,日本医療機能評価機構の「医療事故情報収集等事業」の公開データ検索1)を用いて,外科手術における情報管理・診療記録に関連して発生した事例を抽出し,発生概要,発生要因と再発防止策について検討した.

臨床報告

甲状腺濾胞癌の膵転移の1切除例

著者: 市川健 ,   河埜道夫 ,   近藤昭信 ,   田中穣 ,   長沼達史 ,   中野洋 ,   伊佐地秀司

ページ範囲:P.1530 - P.1534

要旨
症例は53歳,女性.37歳時に耳鼻科で甲状腺濾胞癌に対し甲状腺左葉切除術と左側頸部リンパ節郭清術を施行され,術後5年間経過観察されていたが,以後は来院していなかった.今回,受診1か月前からの右鼠径部痛を主訴に来院し,精査の結果,右鼠径部に明らかな異常所見を認めなかったが,画像検査で膵体部に36 mm大のhypervascularな腫瘍を認め,膵内分泌腫瘍の術前診断で脾合併膵体尾部切除術を施行した.病理学的所見で組織像は16年前の甲状腺濾胞癌の組織像と酷似しており,免疫組織化学染色を行い,甲状腺濾胞癌の膵転移と診断した.自験例を含めた本邦の甲状腺癌膵転移の切除例を検討する.

術前の鑑別診断が困難であった膵異物肉芽腫の1切除例

著者: 大橋朋史 ,   富丸慶人 ,   江口英利 ,   森正樹 ,   土岐祐一郎 ,   永野浩昭

ページ範囲:P.1535 - P.1539

要旨
症例は70歳,男性.当院呼吸器内科にて慢性閉塞性肺疾患の経過観察中に施行した単純CT検査により,膵尾部に腫瘍性病変を指摘され,当科へ紹介された.既往歴として,胃潰瘍に対する幽門側胃切除術の手術歴を有していた.各種画像検査にて,膵尾部を主座とする膵神経内分泌腫瘍(PNET),solid pseudopapillary neoplasm(SPN)が疑われた.超音波内視鏡下穿刺吸引による生検および細胞診では確定診断に至らなかったが,悪性腫瘍の可能性を考慮し,膵体尾部切除術を施行した.切除標本の病理学的検索により,異物肉芽腫と診断され,過去の胃切除術時の遺残物によると考えられた.膵異物肉芽腫は画像検査上,通常型膵癌,PNET,SPN,腫瘤形成性膵炎などの膵充実性病変と類似所見を呈することから,手術歴を考慮したうえでの鑑別診断が必要であると考えられた.

臍部ジグザグ切開による単孔式手術を施行した胆石症合併胃原発神経鞘腫の1例

著者: 梅田晋一 ,   蜂須賀丈博 ,   木下敬史

ページ範囲:P.1540 - P.1544

要旨
症例は72歳,男性.CTにて最大径2.1 cmの胃壁外発育を示す胃粘膜下腫瘍と胆囊結石を指摘された.腫瘍は増大傾向であったため手術適応とした.臍部ジグザグ切開法による単孔式手術にて,胆囊摘出,胃局所切除術を施行した.胃腫瘍の病理組織学的検査所見では,HE染色でやや錯綜する核をもつ紡錘形細胞よりなる腫瘍を認め,免疫染色でS-100陽性,CD 34陰性,c-kit陰性,デスミン陰性の所見にて胃原発神経鞘腫と診断された.術後再発は認めず,創部はほぼscarlessであった.臍部ジグザグ切開法による単孔式手術は,侵襲性,整容性,腹腔鏡の操作性,切除臓器の摘出に関して良好な結果が期待でき,胆石症合併胃粘膜下腫瘍同時摘出術の有用な手術法になりうると考えられた.

腹腔鏡下胃壁生検で診断したスキルス胃癌の1例

著者: 松本志郎 ,   細谷好則 ,   安部望 ,   倉科憲太郎 ,   河田浩敏 ,   佐田尚宏

ページ範囲:P.1545 - P.1549

要旨
スキルス胃癌は,内視鏡生検で癌を証明できず,診断に難渋することがある.症例は67歳,女性.内視鏡で,前庭部全周性に粘膜浮腫を認め強い狭搾を呈するが,ボーリングバイオプシーを含む多数の生検ですべて悪性所見はなかった.造影MRIにて前庭部壁肥厚がみられ,拡散強調画像で高信号を呈した.審査腹腔鏡で胃前庭部は著明な壁肥厚を認めた.腹腔鏡下に胃壁の針生検を行い,低分化腺癌の診断が得られ,胃全摘術を行った.摘出標本では粘膜面には癌の露出は認めなかった.内視鏡生検で診断が困難なスキルス胃癌に対して,MRIが補助診断として有効であり,腹腔鏡下胃壁生検で診断することができた.

昨日の患者

認知症の夫を見直す

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1447 - P.1447

 高齢社会を迎え,認知障害の患者さんが増えつつある.夫婦の絆を見出し,恍惚の夫に尽くす奥様を紹介する.
 80歳代前半のTさんは,5年ほど前に大腸癌で手術を受けた.術後の経過は良好であったが,腸閉塞をきたして再入院した.そこで胃管を留置し,絶飲食とした.しかしながら著明な認知障害のため大声を出しては動き回り,胃管も引き抜いた.そこで鎮静薬を使用し,奥様には付き添いをお願いした.

ひとやすみ・132

トップ自ら行動する

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1467 - P.1467

 少子高齢社会に伴い,疾病構造が変化して血液需要が高まっているにもかかわらず,若年層を中心に献血者が減少している.そこで企業や学校などに献血を依頼すると,誰もが理解を示し協力を約束してくれる.しかし実際に献血バスで出かけて行くと仕事が優先され,献血に協力してくれる人は少なく人間不信に陥る.
 赤十字宮城県支部長である知事が先頭となり,献血推進に立ち上がってくれた.新年の挨拶で,献血者不足を憂いて献血推進を宣言した.さらに県庁前広場での献血バスでは,多忙にもかかわらず自ら献血した.そして取材に集まった新聞記者やテレビカメラを前に,特産の米「ひとめぼれ」を片手に血液の「地産地消」を訴えた.私は検診医として知事の検診を行うとともに,採血中は独占して血液不足の実情を訴えることができた.

1200字通信・86

流派

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1509 - P.1509

 日本には色々な文化があり,武道や華道,茶道など「道」がつくものがみられ,それぞれにいくつかの「流派」があるようです.
 では,医学,特に外科学ではどうかというと(手術を考えると「外科道」でしょうか),明治以後の西洋医学導入のなかでいくつかの流派があるように聞き及んでいます.そして,その流派の違いによって,たとえば,開腹のときに臍を避けて切るか,そのまま臍もまっすぐに切開するのかといった細かな違いがあるように理解しています.もっとも,他の「道」とは違い,一般に公開するわけでもなく,どちらかというと「剣術」などの流派の違いに似て,互いに交流することも少ないようです.

書評

—永井英司(編)—完全腹腔鏡下胃切除術—エキスパートに学ぶ体腔内再建法[DVD付]

著者: 黒川良望

ページ範囲:P.1513 - P.1513

完全腹腔鏡下胃切除術の体腔内再建法を詳解した胃外科医必携のバイブル
 1991年に世界に先駆けてわが国で開発された胃がんに対する腹腔鏡下手術は,低侵襲手術術式として定着し,今まさに発展期を迎えている.腹腔鏡下胃切除術は,デバイスの進歩と手技の定型化により,若手外科医にも広く施行されるようになってきているが,複雑な再建方法や層を意識したリンパ節郭清など,他の腹腔鏡下手術と比べると決してやさしい手術ではない.胃切除は腹腔鏡下に行い,再建は小開腹下に開腹手術と同様の手技で行っている医師も依然として多いのが実情である.
 この本は,この領域のエキスパート達によって共同執筆された,「完全腹腔鏡下胃切除術」,その中でも「体腔内再建法」に焦点を絞った単行書である.

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原稿募集 「臨床外科」交見室

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バックナンバーのご案内

ページ範囲:P. - P.

次号予告

ページ範囲:P. - P.

あとがき

著者: 小寺泰弘

ページ範囲:P.1556 - P.1556

 「がん対策基本法」および「がん対策推進基本計画」では,がん診療に携わるすべての医師が緩和ケアの基本的な知識・技術・態度を習得することを,わが国のがん医療における重要な課題としています.確かに,われわれ外科医がどれだけ頑張っても,どうしても救えない命は一定頻度で存在します.言うまでもなく,このような患者さんがなるべく苦しまずに穏やかな死を迎えられるよう尽力することは,大切な医療行為です.遠からぬ将来,自分自身が患者になった時には,この点についても十分に対応してもらいたいと考えるので,厚生労働省の方針に賛同いたします.そして,がんに関わるすべての医師が緩和ケア研修を受講しなければならないことになっているわけですが,がんに罹られた患者さんは例外なく不安と闘っておられ,医療者の発言もちょっとしたニュアンスの違いで心ない言葉と受け取られかねません.私などは緩和ケア研修よりも話術や接遇を学ぶ必要があるのではないかと反省しているところです.
 もちろん,そうは言っても,自分の手術を担当する外科医には,まずはきちんとした手術手技を勉強してもらいたいですね.そして,一般論として,われらが「臨床外科」の誌面の大部分はそのような内容で構成されていると思います.そうした中,本号では時代のニーズもあり,敢えて「緩和」を特集いたしました.しかし,ただでさえ忙しい外科医にスピリチュアルな領域に深く踏む込むことを要求しようとするのは,決して私の本意ではありません.本特集ではどちらかというと,終末期に近づいた患者さんに対しても化学療法や侵襲的な処置を考慮する話が中心であり,一部の人からは眉をひそめられてしまうかもしれません.ですが,十分な説明と同意の上でこうしたことに踏み切ることが,延命やQOLの向上につながることはあると思います.こうした患者さんに対し,私たち外科医にまだ何かできることがあるのか,そしてそのような医療に何が期待できるのか.日々技術の習得に励む若い先生方に,少しだけ立ち止まって勉強していただければと思います.

「臨床外科」第70巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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