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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科70巻3号

2015年03月発行

雑誌目次

特集 生検材料を手術に活かす

ページ範囲:P.259 - P.259

 癌治療において,いまだ手術が重要な手段であることは疑いない.また,薬物療法,放射線治療のあらたな展開により,手術を含んだ集学的治療の有用性が認識されてきている.特に,手術前すなわち術前加療の役割が大きくなっている.しかしながら,手術(癌病巣切除)前には,生検材料にもとづいて治療方法を選択しなければならない.
 そこで,本特集では,癌診療における生検診断の役割,あらたな展開を明らかにしたい.生検の重要性を再認識していただければ幸甚である.

押さえておきたい基本事項

生検からわかるtumor biology

著者: 牛久哲男

ページ範囲:P.260 - P.264

【ポイント】
◆生検による組織形態診断で各腫瘍の平均的なtumor biologyを予測することができるが,近年は遺伝子検査の役割が高まりつつある.
◆コンパニオン診断とは,薬剤が効きやすい患者,または効きにくい患者を選別するための遺伝子検査である.
◆加速する個別化医療のニーズに応えるため,精度管理されたコンパニオン診断が不可欠となっている.

生検材料の取り扱い,注意点

著者: 金子伸行

ページ範囲:P.265 - P.270

【ポイント】
◆乾燥させない,生理食塩水に漬けない,できるだけ早く固定する.
◆固定容器には患者氏名を確実に記載し,組織変形・固定不良をきたさないような検体採取を行う.
◆病理診断にあたり重要な情報は必ず申込書に記載する.

抗血栓薬内服時の生検

著者: 松田梨恵 ,   小野敏嗣 ,   藤城光弘 ,   小池和彦

ページ範囲:P.271 - P.275

【ポイント】
◆生検により得られる利益と生検に伴う不利益を患者ごとに検討する.
◆出血リスクだけでなく血栓塞栓症リスクを考慮し,抗血栓薬の休薬または継続を判断する.
◆上記については患者に対して十分な説明を行い,明確な同意のもとで生検を行う.

臓器別 癌診療における生検の役割

乳癌

著者: 吉田美和 ,   明石定子

ページ範囲:P.276 - P.281

【ポイント】
◆乳腺病変に対する生検法には「コア針生検」「吸引式組織生検」「外科的生検」がある.
◆乳腺病変に対する経皮的生検手技は,超音波ガイド下またはステレオガイド下でアプローチする.
◆術前薬物療法を考慮する乳癌症例において,コア針生検/吸引式組織生検は必須の検査である.

肺癌

著者: 大柳文義 ,   西尾誠人

ページ範囲:P.282 - P.287

【ポイント】
◆局所進行非小細胞肺がん(T3-T4またはN2)ⅢA期においては,手術療法単独での治療成績は不良であり,集学的治療が必要となる.
◆なかでも縦隔リンパ節転移の有無は,手術適応の決定など治療戦略に大きく影響を及ぼすため,正確な病期診断が求められる.
◆画像診断だけでリンパ節転移の有無を正確に判断することには限界があり,可能な限り組織学的な検索を行うべきである.

食道癌—治療前生検検体を用いた個別化医療の必要性

著者: 加藤健

ページ範囲:P.288 - P.292

【ポイント】
◆食道癌は手術,放射線,化学療法を用いた集学的治療を行う.
◆生検組織を用いた個別化医療により,患者のベネフィットを最大化できる.
◆マイクロアレイを用いた遺伝子発現解析による個別化医療の試みがなされている.

胃癌

著者: 棚橋利行 ,   吉田和弘 ,   山口和也 ,   奥村直樹 ,   田中善宏 ,   高橋孝夫 ,   二村学 ,   荒木寛司

ページ範囲:P.293 - P.296

【ポイント】
◆胃癌の確定診断には内視鏡下での生検が必須である.その結果により手術による切除範囲や治療方針が決められる.
◆早期胃癌の場合,その深達度や分化度により内視鏡治療が可能であり,腫瘍の範囲を特定するための陰性生検も必要となる.
◆切除不能進行・再発胃癌に対する生検でのHER2検査も,化学療法のレジメンを決定するうえで重要となる.

大腸癌—外科治療における生検材料の活用

著者: 橋口陽二郎 ,   松田圭二 ,   上野秀樹 ,   神藤英二 ,   野澤慶次郎 ,   藤井正一 ,   土屋剛史 ,   端山軍 ,   中村圭介 ,   島田竜 ,   赤羽根拓弥 ,   福島慶久 ,   塚本充雄 ,   長谷和生

ページ範囲:P.297 - P.303

【ポイント】
◆生検標本におけるdesmoplastic reactionの存在が非有茎性病変のSM浸潤度予測に有用である.
◆潰瘍性大腸炎のスクリーニングに狙撃生検(target biopsy)が推奨されるようになってきた.
◆原発巣を切除せずに化学療法を先行させる場合には,原発巣の生検材料を用いてRAS遺伝子変異の有無を確認する.

肝癌—腫瘍生検の臨床的意義と今後の展望

著者: 土谷薫 ,   安井豊 ,   黒崎雅之 ,   泉並木

ページ範囲:P.304 - P.309

【ポイント】
◆肝癌において腫瘍生検による播種や出血のリスクは低い.
◆K19陽性肝癌は局所根治術(肝切除・RFA)後の再発や遠隔転移の頻度が高い.
◆低分化型肝癌の場合,肝切除術式の検討がなされるべきである.

胆道癌

著者: 塚原哲夫 ,   江畑智希 ,   横山幸浩 ,   國料俊男 ,   角田伸行 ,   伊神剛 ,   菅原元 ,   深谷昌秀 ,   上原圭介 ,   水野隆史 ,   山口淳平 ,   下山芳江 ,   梛野正人

ページ範囲:P.310 - P.315

【ポイント】
◆適切な部位の経乳頭的胆管生検は,病理組織学的な質的診断とともに,進展範囲診断が得られ,術式など治療方針の決定に有用である.
◆胆道鏡は胆管内腔の詳細な観察と胆管癌の表層進展範囲診断に有用とされるが,最終的に生検を必要とすることが多く,適応となる症例は少ない.
◆生検や術中迅速診断における病理診断の限界を理解したうえで,胆道癌治療に当たる必要がある.

膵臓癌

著者: 松原三郎 ,   伊佐山浩通 ,   白田龍之介 ,   武田剛志 ,   石垣和祥 ,   高木馨 ,   秋山大 ,   高原楠昊 ,   濱田毅 ,   毛利大 ,   木暮宏史 ,   山本夏代 ,   中井陽介 ,   多田稔 ,   小池和彦

ページ範囲:P.316 - P.320

【ポイント】
◆膵癌の病理診断にはEUS-FNAが第一選択であるが,閉塞性黄疸を伴う膵頭部癌では胆道ドレナージも兼ねてERCPが行われる.
◆自己免疫性膵炎は,膵癌と鑑別を要する疾患のなかで最も多く,治療法も異なるため,常に念頭に置く.
◆神経内分泌腫瘍ではEUS-FNAによるGrade分類が治療法選択に有用であるが,十分な検体量が必要である.
◆今後はEUS-FNAで得られた情報をもとに,膵癌の生物学的特性に合わせた個別化治療が行われていく可能性がある.

FOCUS

二期的肝切除の新たな動向

著者: 吉留博之 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.322 - P.326

はじめに
 肝切除は大腸癌肝転移に対する治癒の可能性のある唯一の治療法であることは広く認識されているが,近年の新規抗癌剤と分子標的薬の進歩により,大腸癌肝転移例に対する治療戦略は変化してきている.肝切除不能症例に対するconversion chemotherapyの有用性が報告され,切除適応の増加により大腸癌肝転移例の予後の向上が認められた1).肝切除手技においては積極的な血管合併切除の併施など肝切除自体の技術的な向上と,肝予備能評価法やSynapse Vincentなどを用いた肝切除後の予測残肝量の測定やシミュレーションにより肝切除後の安全性も向上している.
 しかしながら両葉多発肝転移例においては,しばしば全腫瘍をupfrontに切除しようとした場合に残肝量不足となり,切除不能の判断となる場合がある.肝切除の観点からみた多発肝転移例の治療戦略としては,門脈枝塞栓術の併施により残肝量を確保したうえでの一期的肝切除や,両葉多発肝転移例を切除する手段としての二期的肝切除(two-stage hepatectomy:TSH)がある.TSHにより両葉多発例の切除適応が拡がることとなり,結果として大腸癌肝転移例の予後の向上に寄与しうることがわかってきた2).一方で,TSHは2期目への移行は70%程度であり,またその待機期間も長いことから,ALPPS(associating liver partition and portal vein ligation for staged hepatectomy)という新たな治療法が近年報告された.これらの適応と意義,問題点につき詳述する.

病院めぐり

総合南東北病院外科

著者: 寺西寧

ページ範囲:P.327 - P.327

 福島県は猪苗代湖・会津磐梯山を有する会津地方,太平洋に面した美しい海岸線のある浜通り地方,そしてこれらの中央にあり,新幹線が走る中通り地方に分けられます.総合南東北病院のある郡山市は,中通りのほぼ中央に位置する交通の要所で,県内最大の商業都市として福島の経済を牽引しています.2014年に郡山市で第69回日本消化器外科学会総会および第76回日本臨床外科学会総会が同時に開催されたことは,関係者には記憶に新しいところだと思います.
 当院は郡山市の北部に位置する461床の超急性期病院で,昭和56年に脳外科の単科病院として開業,その後34の診療科を有する総合病院として発展してきました.また南東北病院グループとして,宮城県,東京都,川崎市に姉妹病院を擁し活発な人事交流を行っています.

必見! 完全体腔内再建の極意・24

—胃全摘術後再建—手縫い巾着縫合+サーキュラー・ステイプラー

著者: 金平永二 ,   谷田孝 ,   亀井文 ,   中木正文 ,   秀嶋周

ページ範囲:P.328 - P.334

■■はじめに
 自動吻合器(サーキュラー・ステイプラー)による食道空腸端側吻合は,長年にわたり多数の施設で受け入れられ,標準的に行われている再建方法である1,2).食道断端へのアンビルの埋没固定法としては,開腹手術においては巾着縫合が一般的であるが,腹腔鏡下ではその煩雑さを回避する目的で,他の方法が開発され普及している3,4).あるいはサーキュラー・ステイプラーを用いない吻合法も多く行われている5,6)
 筆者らはサーキュラー・ステイプラーによる食道空腸吻合を行っているが,食道壁全層の確実な巾着縫合を可能にする手縫いの利点7)に着目し,腹腔鏡下でもこれを実践している.開腹手術では食道断端部は視認不良となる場合があるが,腹腔鏡下では良好な視野で捉えられるため,精緻な巾着縫合が可能となると考える.本稿ではその手技の実際を供覧する.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・34【最終回】

がんの早期発見—がん検診は本当に有用か

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.336 - P.339

素朴な疑問
 2007年に策定された「がん対策推進基本計画」に基づき,がんの早期発見・早期治療のためがん検診が行われている.欧米の臨床試験の結果,便潜血検査による大腸がん検診とマンモグラフィによる乳がん検診が大腸がん死亡・乳がん死亡の減少に有効であると評価されたが,がん検診は本当に有用なのだろうか.侵襲的検査や過剰診断の問題はないのだろうか.

臨床研究

当院での腹腔鏡下脾臓摘出術の検討—術後門脈血栓症の治療と予防について

著者: 飯田拓 ,   寺嶋宏明 ,   内田洋一朗 ,   上田修吾 ,   金澤旭宣

ページ範囲:P.340 - P.343

要旨
[目的]腹腔鏡下脾臓摘出術の安全性と問題点を検討した.[対象]2008年4月〜2013年9月に当科で施行した腹腔鏡下脾臓摘出術(用手補助下8例を含む)19例の治療成績につき検討した.[結果]術後出血や膵液瘻などの術後合併症は認めなかった.門脈血栓症(PVT)が5例(26.3%)に発症したが,全例とも保存的治療で軽快した.PVT発症例の摘出脾臓重量は,PVT未発症例より有意に大きかった(257 g vs. 435 g,p<0.05).[結語]腹腔鏡下脾臓摘出術は定型化された標準術式であるが,巨大脾腫症例においては術後PVT発症のリスクを念頭においた周術期管理が必要である.

臨床報告

術後初回再発形式として骨単独転移を呈し集学的治療が奏効した盲腸癌の1例

著者: 川守田啓介 ,   児玉乾 ,   寺田修三 ,   城野晃一 ,   神谷紀之 ,   佐藤芳樹

ページ範囲:P.344 - P.348

要旨
症例は54歳,男性.イレウスを契機に盲腸癌と診断され,回盲部切除術(D3郭清)を施行した.術後補助化学療法としてmFOLFOX6を12コース施行した.術後1年9か月で左坐骨・右上腕骨への転移を認めたが,この2か所以外に転移を疑う所見は認めなかった.全身療法としてmFOLFOX6+ベバシズマブを開始し,ゾレドロン酸も併用した.化学療法が著効し,7コース施行後には腫瘍マーカーが正常範囲内まで低下した.この時点で左坐骨・右上腕骨へ放射線照射を行った.骨転移と診断し化学療法開始から1年7か月(術後3年4か月)現在,無再発生存中であり,転移巣への局所治療の追加は有用な可能性があると考えられた.

多房性巨大脾囊胞を合併した膵尾部癌の1例

著者: 酒井拓 ,   奥村憲二 ,   原一生 ,   池添清彦 ,   中村弘毅 ,   入江康司

ページ範囲:P.349 - P.354

要旨
症例は63歳,男性.突然の左側腹部痛に対して当院を受診した.腹部CTにて,内部が多房性囊胞性腫瘤により置換され腫大した脾臓を認め,脾門部と膵尾部との境界が不明瞭であった.腹部MRIでは,脾門部へ浸潤し,脾内に囊胞成分や充実成分の混在した不整形の腫瘤の形成を認めた.PET/CTでは,膵尾部から脾門部にかけて高集積を認め,CA19-9などの血液腫瘍マーカーが高値であったことから,膵尾部癌もしくは脾臓の悪性腫瘍を疑ったが,確定診断には至らず,脾臓再破裂の危険性もあり審査腹腔鏡を施行後,膵体尾部,脾臓合併切除を施行した.病理診断結果はpapillary adenocarcinoma of pancreas infiltrating typeであった.脾臓の囊胞性病変の鑑別の一つとして,膵尾部癌の浸潤が原因であることも考える必要があると思われた.

超高齢者に発症し超音波ガイドと経腟的手技を併用して整復後,待機的に手術しえた閉鎖孔ヘルニア嵌頓の1例

著者: 杉山太郎 ,   須原貴志 ,   古田智彦

ページ範囲:P.355 - P.358

要旨
症例は93歳,女性.腹痛と嘔気,嘔吐を主訴に受診し,CTにて右閉鎖孔ヘルニア嵌頓による腸閉塞と診断した.内転筋を絞る方法で超音波ガイド下の徒手整復を試みたが,疼痛のため整復が困難であった.腟に術者の示指と中指を挿入し,坐骨を支点として母指でヘルニア囊を押す方法に変更したところ,痛みを感じることなく整復に成功し症状の改善も認めた.その後,待機的に鼠径法でシートとメッシュを用いたヘルニア根治術を行った.退院後約2年間は再発を認めていない.

腹腔鏡下胆囊摘出術後に診断されたRokitansky-Aschoff sinus内に発生した胆囊癌の1例

著者: 中山智英 ,   森田高行 ,   田中栄一 ,   ≥崎肇 ,   桑谷俊彦 ,   髙橋利幸

ページ範囲:P.359 - P.364

要旨
症例は70歳,男性.食後の上腹部痛を主訴に外来を受診した.腹部超音波検査で胆囊全体の壁肥厚像および内腔に小結石と思われる高エコー像を多数認め,CTでも同様に胆囊全体の壁肥厚像,内腔の胆石を認めた.MRCPでは頸部から底部にかけてRokitansky-Aschoff sinus(RAS)を認め,胆囊腺筋症および胆石症の術前診断に対し,腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した.病理組織学的検査では,胆囊内腔の粘膜は異型細胞も認めず正常であったが,胆囊底部のRAS上皮にadenocarciomaを認めた.病変のほとんどは上皮内癌であったが,一部で間質浸潤から漿膜下層への浸潤を認め,RAS内に発生したss胆囊癌の診断であった.胆囊腺筋症に対する手術時には,RAS内発生胆囊癌の可能性も念頭に置き,手術操作に気を付ける必要がある.

胃原発炎症性筋線維芽細胞性腫瘍の1例

著者: 内田恒之 ,   出口義雄 ,   大本智勝 ,   木田裕之 ,   春日井尚 ,   石田文生

ページ範囲:P.365 - P.370

要旨
症例は54歳の男性で,腹部膨満感を主訴に受診した.腹部CT,MRIにて腹腔内に最大径12 cmの境界明瞭な囊胞性病変を認めた.由来臓器は明らかではなかったが,腫瘤は可動性があり,大網もしくは腸間膜に由来する病変が疑われた.大網囊腫の術前診断で手術を施行した.病変は胃大彎から発生しており,大網,横行結腸と癒着していた.癒着を剝離したのちに胃局所切除を行い,腫瘤を摘出した.術後経過は良好で,術後7日目に退院した.病理組織学的検査では腫瘤に悪性所見は認めず,胃原発炎症性筋線維芽細胞性腫瘍と診断された.本疾患は診断確定が困難であるが,局所再発の可能性が指摘されており,定期的な経過観察を要する.

長期生存が得られている腹膜播種を伴った巨大胃gastrointestinal stromal tumorの2例

著者: 阿部俊也 ,   仲田興平 ,   永井英司 ,   大内田研宙 ,   山元英崇 ,   田中雅夫

ページ範囲:P.371 - P.377

要旨
症例1は胃体部前壁に約30 cm大の巨大腫瘤を認め,胃gastrointestinal stromal tumor(GIST)が疑われた.症例2は胃体部後壁に約20 cm大の巨大腫瘤を認め,胃GISTが疑われた.両症例とも胃部分切除と播種巣切除を行い,病理組織学的検査からGISTの高リスク群と診断した.症例1は肝転移,腹膜播種再発を認めたが,イマチニブ投与にて術後77か月生存中である.症例2は術後32か月無再発生存中である.20 cmを超える胃GIST切除症例は稀であり,腹膜播種を認めた場合の予後は不良であるとされているが,積極的な外科治療と化学療法の併用により長期生存の可能性が示唆される.

ひとやすみ・122

自己を表現する

著者: 中川国利

ページ範囲:P.270 - P.270

 人生は人それぞれで,人は置かれた立場で社会に対して自己を表現し,一生を終える.何をやっても,逆に何もしなくても,一回限りの人生である.やり直しができない人生なら,自分の能力を最大限に引き出し,人生を大いに楽しみたいと思う.
 医学部を卒業して医師となり,縁があって消化器外科医の道を歩んだ.初期研修,そして母校医局での研修を経て,仙台赤十字病院に27年間外科勤務医として勤めた.

1200字通信・76

手術と躾

著者: 板野聡

ページ範囲:P.309 - P.309

 ここ数年で,私の関係する医局でも若い教授方が次々と誕生し,頼もしく思っています.一昨年からは,当院でも,そうした新進気鋭の先生にお越しいただき,大腸の腹腔鏡下手術のご指導をお願いしています.
 先日のことですが,大腸癌の手術で,主治医が助手を務め,私がカメラ持ちをさせて頂く機会がありました.スムースに手術が進み,無事に病巣が切除されたとき,主治医が一旦手を降ろしてご家族への説明に行くことになり,しばらく私が助手を務めることになりました.病巣の切除と吻合は,小さく開けた創部から体外に引き出して行うため,通常の開腹手術と同じ操作になります.お互いに同門ということで,吻合の手順や使う糸の種類なども了解されたことであり,スムースに進んでいきます.そうした流れのなかで,ちょっとした糸の運びや鑷子の動きだったのでしょうが,「先輩方は,ここまで気を使って助手をされるのですね.私も昔に言われたことを思い出しました」とのお言葉を頂くことになりました.さらに,「これって,やはり躾ですよね」と続けられ,「そう言えば,昔は教えてもらうと言うよりは躾られた感じだったな」と,若かった頃のことを思い出すことになりました.

書評

—中村清吾(監修) 聖路加国際病院ブレストセンター・オンコロジーセンター(編) 山内英子(責任編集)—乳癌診療ポケットガイド 第2版

著者: 池田正

ページ範囲:P.320 - P.320

 『乳癌診療ポケットガイド 第2版』が発刊された.山内英子先生編集のもと,聖路加国際病院のブレストセンター・オンコロジーセンターが総力を挙げて改訂された.乳癌の分野では医学情報が日進月歩であるため,待ちに待った改訂といえる.
 本書の特徴は,①乳癌診療の基本から最新情報までコンパクトにまとめてあること,②図表を多用しており,かつ2色刷のため非常に見やすいこと,③看護の面から見た情報も記載してあること,④遺伝性乳癌,多遺伝子アッセイ,社会的サポートなどトピックについても紙面を割いていること,⑤薬物療法に関してはレジメンの量まで記載してあることなどである.ことに,ポケットに入るような大きさにもかかわらず,レジメンが細かく書いてあるなど,臨床の現場を意識して構成しているため実臨床で非常に使いやすいものに仕上がっている.若い医師が臨床現場でオーダーを確認するのにもってこいである.また,乳癌は近年増加が著しく,臨床でよく遭遇する疾患である一方,診断治療の変化が著しい癌でもあり,専門外の先生にとっては苦手意識があるかもしれない.このような先生にとってもレジメンの根拠になる臨床試験も挙げており,理解しやすいと思う.本書を読んでさらに詳しい情報が欲しいと思われる方は,『乳癌診療ガイドライン』などを一緒に読まれるとさらに理解が深まってよいだろう.

昨日の患者

死を前に病室で秘話を語る

著者: 中川国利

ページ範囲:P.358 - P.358

 戦後70年が過ぎ,戦争を知る世代は急速に減少しつつある.死を前にして,家族にも話さなかった戦争体験を語ってくれた患者さんを紹介する.
 90歳代半ばのAさんは生来健康であったが,上腹部痛を主訴に来院した.精査を行うと多発性肝転移を伴う膵臓癌であった.本人の希望にて自宅療養していたが,疼痛が著明となり入院した.食欲不振のため痩せていたが,意識ははっきりしていた.そして「もう十分に生きてきましたから,苦しむことなく逝けるようにだけして下さい」と,意思表示した.

学会告知板

SR講習会 第12回リーダーシップコース

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原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P. - P.

バックナンバーのご案内

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投稿規定

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著作財産権譲渡同意書

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次号予告

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あとがき

著者: 瀬戸泰之

ページ範囲:P.382 - P.382

 特集「生検材料を手術に活かす」は,企画した本人(筆者)が驚嘆するくらい予想以上の進歩が実感できる内容となっている.この特集を一読いただければ,生検がいかに重要であるか容易に理解していただけると思う.筆者が医師になりたての30年前は悪性かどうかの診断が目的であった.悪性良性境界病変に対してHEだけでは限界があった.p53の登場により,当時の師匠(ボス)はHEを超える新しい時代が来ると予言されていた.まさしく,その予言をも超える事態となっている.生検材料からtumor biologyだけでなく,治療薬をも選択しうる,しなければならないのである.個別化医療の時代,かつ術前加療が標準となりつつある昨今,切除前の適切な(個別化)治療を判断する材料は生検のみである.外科医も(外科医だからこそ)生検材料をうまく活用する必要があるのである.また,生検の採取方法も臓器でまったく異なることもわかる.若い先生方には,その意義とともに手技的なことも学んでいただければ望外の喜びである.
 それにしても,年を重ねると時代の進歩についていくことが難しくなる.しかし,最新最良の診療のためには学ばなければならない.医者は一生勉強である,とはよく言ったものである.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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