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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科70巻4号

2015年04月発行

雑誌目次

特集 膵・消化管神経内分泌腫瘍(GEP-NET)のアップデート

ページ範囲:P.387 - P.387

 “稀少疾患”“ガンもどき”“進行がゆっくり”….神経内分泌腫瘍(NET)を形容する言葉はどれも心もとない.良性とわかれば手術は不要,悪性ならば進行する前に手術は不可欠だが,日常臨床でどちらか迷うケースは多々ある.近年,NETの5年生存率が60〜80%,5年以内の肝転移再発が30〜85%との報告がなされ,“小さければ良性”とか“進行がゆっくり”という表現が必ずしも正しくないことが明らかになりつつある.また,米国におけるNET有病率は大腸癌を除く他の消化器癌のどれよりも多く,わが国のP-NET有病率は米国の3倍近いという報告がある.この事実からすると,もはやNETは稀少疾患とは言いがたい.
 WHO分類2010では“転移したら癌”という2004年までの病理学的分類に代わり,細胞の増殖回転数を表すKi-67や核分裂像で表現するようになった.しかし,最も高率に発生する肝転移を予測する指標はいまだ見つかっていない.見た目は良くても本質は性悪な腫瘍,それがNETの正体である.現在,何がわかっていて,何が解明できていないのか.本特集ではそれを解き明かし,明日の外科手術の発展に寄与することを願う.

GEP-NETの腫瘍概念の変遷と本邦診療ガイドラインについて

著者: 今村正之

ページ範囲:P.388 - P.396

【ポイント】
◆OberndorferがNETを①境界明瞭,②転移せず,③成長緩慢で有意の大きさに達せず,④良性である,と記載してカルチノイドと名付けた.その後,リンパ節転移,肝転移をきたすことが明らかになった.
◆NETは①機能性か非機能性か,②遺伝性疾患に併存しているか否か,を鑑別して,③Ki67指数の測定をして,④全身を精査したうえで治療することが重要である.
◆NETガイドラインは文献の精査と専門家の討論の結果作成されたが,NETは希少疾患に属していて,種々の治療法の予後に対する効果が科学的に証明されていない.
◆日本神経内分泌腫瘍研究会が2014年末からNET患者登録事業を始めた.ここに多くの患者が登録されれば,未解決の臨床的課題の解決に向けて前進できる.診察したら,登録をお願いしたい.

GEP-NETの画像診断のコツと生検の意義

著者: 肱岡範 ,   原和生 ,   水野伸匡 ,   今岡大 ,   與儀竜治 ,   堤英治 ,   佐藤高光 ,   藤吉俊尚 ,   吉田司 ,   奥野のぞみ ,   稗田信弘 ,   田近正洋 ,   田中努 ,   石原誠 ,   清水泰博 ,   千田嘉毅 ,   夏目誠治 ,   細田和貴 ,   谷田部恭 ,   丹羽康正 ,   山雄健次

ページ範囲:P.397 - P.406

【ポイント】
◆消化管NETの治療方針の決定には,腫瘍径および深達度の正確な評価が必須である.
◆膵NENの画像は非常に多岐にわたり,非典型例も多く存在する.特に乏血性NENには注意が必要である.
◆膵NENのEUS-FNAは,質的診断と悪性度診断が求められる.特にNECの診断には分化度を加味し注意深く行う必要がある.

GEP-NETの病理分類

著者: 笹野公伸 ,   笠島敦子

ページ範囲:P.407 - P.411

【ポイント】
◆GEP-NETの病理学的分類はWHO 2010によりかなり整理された.この分類は腫瘍細胞の増殖動態に基づいた分類である.
◆WHO2010ではGEP-NETのG3はKi67標識率が20%以上の症例と規範されているが,治療への反応性,臨床予後などの点で今後細分化する必要があるとも考えられる.
◆MANEC(mixed adenoneuroendocrine carcinoma)はWHO 2010でも病理学的には十分整理されているとは言いがたいところがあり,今後のさらなる検討が必要である.

—P-NETの診断と外科治療①—インスリノーマ

著者: 平井一郎 ,   手塚康二 ,   渡邊利広 ,   菅原秀一郎 ,   木村理

ページ範囲:P.412 - P.416

【ポイント】
◆臨床症状からインスリノーマを疑うことが重要であり,確定診断には絶食試験やIRI測定を行う.
◆局在診断はCT,MRI,EUS,術中USなどを駆使して行う.
◆約90%が良性であるので1 cm以下で膵外突出型の腫瘍の核出術を考える.主膵管に近い場合には脾温存膵体尾部切除術などを選択する.

—P-NETの診断と外科治療②—ガストリノーマ

著者: 土井隆一郎 ,   阿部由督 ,   伊藤孝 ,   中村直人 ,   松林潤 ,   余語覚匡 ,   鬼頭祥悟 ,   浦克明 ,   豊田英治 ,   平良薫 ,   大江秀明 ,   川島和彦 ,   廣瀬哲朗 ,   石上俊一

ページ範囲:P.417 - P.423

【ポイント】
◆膵臓と十二指腸に好発し,高ガストリン血症,胃酸分泌亢進,難治性の消化性潰瘍がみられる.
◆腫瘍の完全切除が治療の基本であるので,術前に画像検査や選択的動脈内カルシウム注入試験で正確な局在診断を行う.
◆すべて悪性腫瘍として対処し,リンパ節郭清を伴う切除を行う.

—P-NETの診断と外科治療③—その他の機能性腫瘍

著者: 高野幸路

ページ範囲:P.424 - P.428

【ポイント】
◆グルカゴノーマ,VIP産生腫瘍などの稀な機能性P-NETでは,内分泌症状によるQOLの低下やコントロールできない内分泌症状による生命予後の悪化が起こる.
◆これらの診断には臨床症状を知っていることと,特異的検査が重要である.
◆外科的切除術が第一選択であるが,治癒切除が不可能な場合も,内分泌症状の軽減のための外科治療が行われる.また,術前の準備として,内分泌症状の軽減のためにソマトスタチンアナログなどの治療が重要である.薬物療法は外科治療でコントロールできない場合の内分泌症状の緩和にも用いられる.

—P-NETの診断と外科治療④—非機能性腫瘍

著者: 土井隆一郎 ,   阿部由督 ,   伊藤孝 ,   中村直人 ,   松林潤 ,   余語覚匡 ,   鬼頭祥悟 ,   浦克明 ,   豊田英治 ,   平良薫 ,   大江秀明 ,   川島和彦 ,   廣瀬哲朗 ,   石上俊一

ページ範囲:P.429 - P.437

【ポイント】
◆非機能性P-NETには常に遠隔転移のリスクがあり,大きさや腫瘍gradeに関わりなく切除の対象である.
◆MEN1患者の非機能性P-NETは膵機能温存を考慮して治療方針を決める.
◆切除に際してはリンパ節郭清を加え,より安全な術式を選択する.
◆G1,G2の肝転移は,転移巣の個数や分布によっては切除の適応を検討する.

GE-NETの治療方針

著者: 林義人 ,   井上拓也 ,   辻井正彦 ,   竹原徹郎

ページ範囲:P.438 - P.442

【ポイント】
◆内視鏡治療は,リンパ節転移の確率が低いと考えられる径10 mm以下のGE-NETに対して適応となる.
◆GE-NETに対する治療法は,基本的に手術療法が推奨される.
◆薬物療法は,細胞学的悪性度を考慮して治療法を選択する必要がある.

遺伝性腫瘍症候群に合併するGEP-NET

著者: 櫻井晃洋

ページ範囲:P.444 - P.449

【ポイント】
◆GEP-NETを合併する遺伝性疾患として,多発性内分泌腫瘍症1型とフォンヒッペル・リンドウ病が知られている.
◆非遺伝性のGEP-NETと比較して,多発性,再発性が特徴である.
◆臨床経過は比較的緩徐で予後も良好であることが多く,非遺伝性腫瘍とは異なる治療戦略が立てられる.

GEP-NETの薬物療法の現状と今後の展望

著者: 奥山浩之 ,   池田公史 ,   高橋秀明 ,   土井綾子 ,   坂東英明 ,   岡本渉 ,   吉野孝之

ページ範囲:P.450 - P.455

【ポイント】
◆NETのホルモン症状の緩和および腫瘍制御には,ソマトスタチンアナログが有用である.
◆切除不能NET G1,G2に対して,腫瘍量や進行度に応じて,細胞障害性抗癌剤や分子標的治療薬が用いられる.
◆NEC(神経内分泌癌)に対しては,小細胞肺癌に準じてプラチナベースのレジメンが選択されることが多い.

GEP-NETの集学的治療における外科治療はどう変わったか

著者: 工藤篤 ,   田邉稔

ページ範囲:P.456 - P.463

【ポイント】
◆GEP-NETは良悪性を判断することが難しいが,P-NETの術後5年生存率は60〜80%,肝転移再発率は30〜85%であり,初診時の遠隔転移症例は約2割(非機能性NETに限れば半数)を占める.
◆肝転移を伴う症例の予後は極めて不良であり,集学的治療の一環としての外科切除が果たす役割は極めて重い.本来なら切除できない腫瘍が縮小し,down stagingや残肝容量の確保ができるようになれば,完全切除の可能性が出てくる.
◆従来のソマトスタチンアナログ製剤に加えて,2011年にエベロリムスが,2012年にスニチニブが保険適用となった.分子標的療法の発展に伴い,外科治療の適応は今後ますます拡大していくことが予想される.
◆しかしながら,この分野はこれまで稀少疾患であったために,WHO分類,TNM分類,原発巣切除,リンパ節郭清,切除方法(核出術,部分切除など),経過観察の功罪など未解決な課題が山積みである.初回治療から長期的視野に立ち,集学的医療の一環としての外科治療の役割を考えることが重要である.

FOCUS

大腸外科領域におけるロボット手術の現況

著者: 清松知充 ,   石原聡一郎 ,   須並英二 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.464 - P.468

はじめに
 近年の医療技術の発展に伴い様々な手術支援ロボットが開発されてきたが,現時点で一般に臨床応用がなされているものは,米国のIntuitive Surgical社のda Vinci Surgical System(DVSS)のみである.DVSSによるロボット支援手術は,腹腔鏡手術の特徴である拡大視効果や,術者と助手の術野の共有,および手術創の小ささを含む低侵襲性などの利点を最大限に生かしながら,さらに視認性や操作性を高めた手術である.わが国では,泌尿器科領域では前立腺全摘術への保険適用を契機として急速な普及をみており,今後は消化器外科においても普及が見込まれているが,コストの問題など課題も多い.本稿では,大腸癌に対するDVSSを用いたロボット手術,特にその中心である直腸癌手術を主体として現状について報告する.

必見! 完全体腔内再建の極意・25

—噴門側胃切除術後再建—観音開き法

著者: 布部創也 ,   本多通孝 ,   熊谷厚志 ,   比企直樹 ,   大橋学 ,   佐野武 ,   山口俊晴

ページ範囲:P.470 - P.474

■■はじめに
 噴門側胃切除術(PG)は,主に上部早期胃癌に対する機能温存手術として位置づけられている術式である.術後生存期間やQOLの維持に関するエビデンスは乏しいので,胃全摘術との比較においては適応についての議論の余地は残されているものの,2008年改訂の保険点数にも収載されるようになり,広く普及した術式の1つと考えるべきである.また,腹腔鏡下噴門側胃切除(LAPG)も2014年の改訂において保険収載されるようになっている.
 当科においては,残胃が3分の2以上残存する上部早期胃癌を腹腔鏡による本術式の適応としている.そのためUM領域の広い0-Ⅱc病変などは適応から外れることとなる.
 LAPG後の再建法の選択にはいまのところ標準的なものはないと考えるが,当院の基本方針は腹部食道が残存する症例には観音開き法再建を,食道をある程度切除する症例には空腸間置再建を行っている.LAPGでは簡便性も含め食道-残胃吻合はサーキュラー・ステイプラーを使用することが多いと思われる.ただし,器械吻合のみで終わらせると逆流性食道炎が必発であり,噴門形成術などの付加が必要である.当院で採用している観音開き法は,上川ら1)により報告された形態的,機能的再建方法であり,強力に逆流を防止する(図1).
 本法は食道切離断端の約5 cm口側での固定が必要となるため,食道浸潤がなく,腹部食道で食道を切離しても十分に口側マージンを確保できる症例を適応としている.現在では食道浸潤1〜2 cmほどの症例は,腹腔内から十分に口側食道を剝離して(左開胸となることが多い)本法を行う症例もある.また,さらに食道切除が必要な症例は開胸操作で胃管により本法を用いた再建を行う症例もある.
 手縫いで行うことで吻合部の柔軟性を保つため,腹腔鏡下での吻合においては縫合テクニックがある程度必要である.腹腔鏡下では小開腹からの視野に比べ,良好な視野で吻合ができる利点がある.本稿ではLAPG後の観音開き法再建の手技について詳述したいと思う.

病院めぐり

福外科病院

著者: 福昭人

ページ範囲:P.475 - P.475

 当院は,日本最大の半島といわれる紀伊半島の和歌山県北部で和歌山市の南西部に位置する和歌浦にあり,JR紀勢本線紀三井寺駅から西へ徒歩10分程度のところです.病院の窓からは海や山が一望できる景勝地で,国指定の名勝でもあります.
 和歌浦はもともと,若の浦と呼ばれていました.聖務天皇が行幸の折に,お供していた山部赤人が「若の浦に潮満ち来れば潟をなみ,葦辺をさして鶴(たつ)鳴き渡る」と万葉集の巻6の919番歌に詠んでいることでも有名です.

具体的事例から考える 外科手術に関するリスクアセスメント・1【新連載】

異物遺残をどう防ぐか

著者: 石川雅彦

ページ範囲:P.476 - P.480

連載にあたって
 医療安全推進にかかわるさまざまな施策の実施から10年以上が経過し,一定の成果が認められる状況となっているが,外科臨床におけるリスクマネジメントの重要性はますます増している.
 このような現状を鑑み,本連載では,外科手術にかかわるさまざまなインシデント・アクシデント事例について,日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業における公開データ検索1)から抽出した事例などを参考に,安全で良質な手術医療を提供するポイントとして,毎回,術前・術中・術後に折に触れて活用可能なチェックリストを提案する.なお,本連載では患者に影響の及ばなかった事例,もしくはタイムリーな介入により事故に至らなかった事例や状況をインシデント,患者に何らかの影響が及んだ事例をアクシデントと記載するが,日本医療機能評価機構のデータを紹介する際には,前者をヒヤリ・ハット,後者を医療事故と記載する.
 第1回は,「異物遺残」をテーマとした.多くの場合,再手術による摘出が実施され,患者への麻酔・手術侵襲などによる精神的・身体的な影響,および外科医の負担や,発生後の患者・家族対応とメディア対応を含めた社会的信頼への配慮など,再発・未然防止はきわめて重要な課題である2)

臨床報告

後腹膜気管支囊胞の1例

著者: 青山広希 ,   久留宮康浩 ,   世古口英 ,   小林聡 ,   桐山宗泰 ,   成田道彦

ページ範囲:P.481 - P.485

要旨
症例は59歳,男性.健診の腹部超音波検査で低エコー像を呈する後腹膜腫瘍を指摘された.CTでは左副腎に接して径45 mm,境界明瞭で造影が乏しく,MRIではT1強調像が低信号,T2強調像が高信号で,内部均一で周囲組織と性状が区別された.後腹膜腫瘍の診断でhand-assisted laparoscopic surgery(HALS)による腫瘍摘出術を行った.表面平滑で内部に乳白色粘液が緊満し,病理組織学的に線毛円柱上皮に覆われた真性囊胞の周囲に軟骨組織と腺成分を有した.後腹膜気管支囊胞の術前診断は困難で,悪性転化や悪性の鑑別対象を考慮した可及的低侵襲な診断的摘出が適切である.

腹腔鏡がヘルニアの同定と修復に有用であった大腿ヘルニア嵌頓の1例

著者: 及能大輔 ,   大野敬祐 ,   今野愛 ,   村上武志 ,   佐々木一晃 ,   平田公一

ページ範囲:P.486 - P.490

要旨
症例は63歳,男性.左大腿ヘルニア嵌頓の診断で当科に紹介された.CT検査では左大腿輪に小腸が嵌入し,それより口側の小腸は拡張していた.用手整復を行ったあと腹腔鏡併用大腿法でヘルニア修復術を施行した.嵌頓腸管に壊死はみられず,腸切除は行わなかった.大腿アプローチでは整復後のヘルニア囊同定が困難であったため,腹腔鏡下にバルーンカテーテルを経腹腔的にヘルニア囊内へ挿入し,バルーンを拡張させることで脱出状態を再現して,大腿法でヘルニアを修復した.術後経過は良好で第9病日に退院した.腹腔鏡の使用が,確実なヘルニアの診断,嵌頓腸管の状態確認,ヘルニア囊の同定および修復に有効であった.

虚血性大腸炎類似の病変を呈したAeromonas hydrophila感染性腸炎の1例

著者: 上村眞一郎 ,   松浦光貢 ,   阿部道雄 ,   蓮尾友伸 ,   土井口幸 ,   谷川富夫

ページ範囲:P.491 - P.494

要旨
症例は70歳台後半,男性.重症の急性腸炎の診断で入院となった.便培養検査でAeromonas hydrophilaが検出された.抗菌薬の投与で症状,炎症所見は改善したが,大腸内視鏡検査で下行結腸に縦走潰瘍を認め,同部は狭窄をきたし,それ以上内視鏡が通過しなくなった.保存的治療で改善しないため下行結腸切除術を行った.組織学的には虚血性腸炎と矛盾しない所見であった.Aeromonas hydrophila感染性腸炎が下行結腸に虚血性変化をきたし,虚血性大腸炎と同様の所見を呈したものと思われた.

腸間膜膿瘍を伴う空腸憩室穿通の1例

著者: 吉村俊太郎 ,   絹田俊爾 ,   丸山傑 ,   輿石直樹 ,   木嶋泰興 ,   山口佳子

ページ範囲:P.495 - P.498

要旨
症例は86歳,女性.来院3日前より腹痛,嘔気を認め当院を受診した.臍左側に圧痛,反跳痛を認め,腹部CTで小腸間膜内に限局したair bubble,周囲脂肪織濃度の上昇を認め,小腸穿通と診断し緊急手術を施行した.開腹所見で腹水は認めず,Treitz靱帯より30 cm肛門側の空腸間膜に10×5 cmの発赤,硬結を認め,空腸間膜内膿瘍が疑われた.全小腸を検索したが穿孔部位は認めず,膿瘍を伴う腸間膜を含めて小腸部分切除を施行した.病理組織学的検査で憩室炎に続発した空腸憩室穿通と診断された.小腸憩室は穿通,穿孔をきたす頻度は低く比較的稀な疾患であるが,画像診断で小腸周囲の限局したair bubble,脂肪織濃度上昇を認めた場合は本疾患を念頭に置き緊急手術を考慮すべきであると考えた.

膵原発悪性リンパ腫の1切除例

著者: 浅沼晃三 ,   栗原唯生 ,   佐野貴之 ,   井合哲 ,   市川辰夫 ,   石津英喜

ページ範囲:P.499 - P.502

要旨
患者は44歳,男性.腹痛,黄疸で当院を受診し精査目的に入院した.腹部CT検査で総胆管,膵管の拡張を認め,超音波内視鏡検査にて膵頭部に直径15 mm大,境界明瞭,辺縁不正な低エコー状の腫瘤を認めた.膵頭部癌を疑い,膵頭十二指腸切除術を施行した.術後病理組織所見にて膵内胆管および主膵管さらに周囲の膵実質に高度のリンパ球浸潤を認め,免疫染色にてLCAとL26が陽性であり,悪性リンパ腫(NHL, diffuse large B cell type)と診断した.術後化学療法(R-CHOP,6コース)を行い,術後9年,無再発生存中である.本症例のように積極的に手術を施行し,化学療法を行うことが長期予後の改善につながる可能性があると考えた.

腹腔動脈合併尾側膵切除術中に肝動脈再建を併施した局所進行膵体部癌の1例

著者: 三浦晋 ,   藤本康二 ,   東山洋

ページ範囲:P.503 - P.507

要旨
症例は50歳,女性.膵体部癌と右卵巣癌の重複癌に対して化学療法を施行後に,腹腔動脈合併尾側膵切除術と両側卵巣切除術を予定していた.しかし,術中迅速病理組織検査で固有肝動脈,胃十二指腸動脈にまで膵癌の浸潤を認めた.腫瘍の遺残がない手術とするために固有肝動脈,胃十二指腸動脈を合併切除し,右総腸骨動脈を中枢吻合部とするバイパスによる肝動脈再建を併施した.両側卵巣切除術の予定であったことからgraftには両側の卵巣静脈を吻合したcomposite graftを使用した.術後24か月経過した現在,無再発で生存しており,graftの狭窄や血栓の形成を認めず肝血流は良好に保たれている.肝動脈再建の方法として右総腸骨動脈を中枢吻合部とするバイパスは有効な方法である.

手術手技

直腸反転法による完全腹腔鏡下低位前方切除術—経肛門的体外アンビルヘッド留置法

著者: 白石卓也 ,   富沢直樹 ,   安東立正 ,   岩松清人

ページ範囲:P.508 - P.512

要旨
低位直腸癌に対する直腸反転法は,肛門側の腸管切離を確実に行う方法として考案された.吻合は反転・切離した直腸を腹腔内に還納し,double stapling technique(DST)吻合することが多いが,口側腸管へのアンビルヘッドの留置には小開腹が必要である.小開腹を省略する方法として,開放した反転直腸断端よりアンビルヘッドを腹腔内に挿入し,口側腸管に留置する方法が報告されているが,手技が煩雑である.当院では,その変法として開放した直腸断端より口側腸管を経肛門的に引き出し,小開腹と同様の方法でアンビルヘッドを留置し,腹腔内に還納後,直腸断端を閉鎖しDST吻合する術式を行った.この方法で特別な器具を必要とせず,容易に完全腹腔鏡下低位前方切除術を定型化できたので報告する.

ひとやすみ・123

勤務先異動

著者: 中川国利

ページ範囲:P.406 - P.406

 医師の場合には,大学の医局人事により職場が決まることが多い.しかしながら人生は出会いであり,人との出会いにより職場が決まることもある.生涯現役外科医を決めていた私が,自分でも予期していなかった仙台赤十字病院から血液センターへ異動した理由を紹介する.
 有能なスタッフと天賦の体力に恵まれ,数多くの手術を執刀し,またささやかながらも臨床研究も行い,外科勤務医生活を満喫していた.このまま定年まで勤めるつもりでいたが,血液センターの前所長より後任の依頼を受けた.血液を不適切使用した自責,さらには女性に惚れられるより男性に見込まれることに弱い性格なため,前向きに検討することを伝えた.

1200字通信・77

鏡視下手術と開腹手術—二次元と三次元

著者: 板野聡

ページ範囲:P.443 - P.443

 先月号で,腹腔鏡下手術のことを書きましたが,今後は鏡視下手術が「基本」になっていくことは間違いなさそうです.
 さて,先日,胆囊結石による発作を繰り返した末に,腹腔鏡下胆囊摘出術を行った慢性胆囊炎の症例がありました.術前のDIC-CTでは,胆囊は勿論のこと,胆囊管も造影されておらず,そのうえに肥満もあり,開腹しても難しいと思われた症例で,若い頃の自分であれば,足が竦み手も動かなくなるような症例でした.以前なら端から開腹の適応としたのでしょうが,最近では,こうした症例も鏡視下で始め,なおかつ完遂できるようになっています.

昨日の患者

アジアからの来日花嫁

著者: 中川国利

ページ範囲:P.474 - P.474

 結核はかつて国民病と言われ,樋口一葉や正岡子規をはじめ若くして多くの人が亡くなり,死因の第一位であった.現在では罹患患者は少なくなったが,いまだ結核既往歴を有する老人や若者,とくに東南アジアから来日した若者に結核が多発している.
 20歳代半ばのGさんが,大量下血を主訴に緊急入院した.Gさんはフィリピンから,嫁の来ての少ない東北地方の農村に花嫁として来日したばかりであり,日本語の会話はたどたどしかった.40歳前後の夫はおろおろするだけで,付き添う同じ境遇の女性の通訳により病歴を聞き出した.Gさんの出身地では結核が蔓延し,姉妹や親戚には結核による喀血死が多発していた.そしてGさん自身も喀血が生じていたが,来日したばかりで言葉も通じず,一人悩んでいたとのことであった.

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原稿募集 私の工夫—手術・処置・手順

ページ範囲:P. - P.

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P. - P.

投稿規定

ページ範囲:P. - P.

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P. - P.

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P. - P.

次号予告

ページ範囲:P. - P.

あとがき

著者: 田邉稔

ページ範囲:P.518 - P.518

 「君はどんな医師になりたい?」…私は医学部で教員をしている立場上,医学生やオープンキャンパスで訪れる医学部志望の高校生によくこの質問をする.「ブラックジャックのような天才外科医? 赤髭のような献身的医師? それともノーベル賞を受賞した山中伸弥先生のような世界的研究者?」と捲し立てれば,若者達は「ウ〜ン」と恥ずかしそうに下を向いてしまう.そんなある日,医学生の一人が「先生,もう一つの医者の理想像,ドクター・ハウスを忘れていませんか?」と私を問いただした.「ドクター・ハウス?」聞けば米国の超人気テレビドラマの主人公だというので,家に帰ってそのドラマを見てみると,なるほど….人間性は最悪のひねくれ者だが,極めて広い知識と深い洞察力で次々と難病の原因を突き止め,治療の道筋を立てていく.ドクター・ハウスは内科医なので手術はしないが,外科・内科を問わず,世間一般の人々が正しい診断と治療を受けたいという願いがドクター・ハウスのようなヒーローを作り上げたのであろう.
 神経内分泌腫瘍の患者は比較的若く,インテリジェンスが高い.過半数は非機能性で無症状,小型腫瘍で発見される場合が多いので,どのような治療を受けるべきか,経過観察ではだめなのか,インターネットで調べまくる患者が少なくない.NET(neuro endocrine tumor)患者はネットが得意であり,“ドクター・ハウス”を求めて病院を渡り歩くこともある.最近の報告では,たとえ小型腫瘍であってもリンパ節転移や脈管浸潤がそれなりに存在するとされ,治療はより切除が重視されつつある.WHO 2010分類が提唱された今でも,何が良性の証なのかは明確でなく,症例の予後を決定する因子も通常の悪性疾患のように体系化されていない.何がわかっていて何が未解決な課題なのか,それを理解した上でないと,患者の問いに答えることができない.特に「わからない」部分を上手く伝えなければ,“ドクター・ハウス”には近づけないのである.勿論,彼の性格まで手本にする必要はないが….

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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