icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科70巻7号

2015年07月発行

雑誌目次

特集 Neoadjuvant therapyの最新の動向—がんの治療戦略はどのように変わっていくのか

ページ範囲:P.803 - P.803

 近年の外科系の固形がんに対する化学療法の進歩は驚くべきものがあり,その治療主体は外科切除のみであったのが,有効な化学療法の導入によって治療体系に大きな変化が生まれつつあると言える.そのなかで,今回は特に術前のいわゆるneoadjuvant therapyに着目し,臓器ごとに,その効果は現在どのような臨床的意義を持つようになり,その結果どのような治療戦略の変革が起こってきているのか,最新のエビデンスをもとに詳述していただいた.がん治療のあり方を俯瞰することが今後の治療体系の方向性を伺い知るうえで重要と考え,企画した特集である.

総論

腫瘍内科医の立場からneoadjuvant therapyに期待すること

著者: 古瀬純司

ページ範囲:P.804 - P.806

【ポイント】
◆術前補助療法は,切除可能であるが局所浸潤が高度であり,切除してもがんが遺残する可能性の高い状態が適応の前提である.
◆術前治療は治癒率の向上あるいは生命予後の改善を目指すことが基本となる.
◆多くのがん腫でエビデンスに基づいた術前補助療法の確立が期待される.

がん種別:術前補助療法の臨床的意義と今後の方向性

乳癌に対するneoadjuvant therapy

著者: 澤木正孝 ,   岩田広治

ページ範囲:P.808 - P.815

【ポイント】
◆乳がんの治療においては,まず生物学的特性(バイオロジー)に基づいた分類であるintrinsic subtype(サブタイプ)に分けて治療方針を立てる.
◆サブタイプごとに予後や薬物療法の感受性は異なる.そのため初期治療の組み立てからサブタイプを考慮する必要がある.
◆neoadjuvant therapy(術前薬物療法)の主な目的は,①腫瘍縮小効果によってより侵襲の少ない局所治療を可能にすること,②抗腫瘍効果を直接みることによって次の治療につなげられること,③予後(再発率,全生存率)の予測を可能にすること,などである.
◆病理学的完全奏効(pCR)をエンドポイントとした臨床試験により新薬の効果が速やかにわかるため,FDAでは迅速承認としての役割を認めている.
◆将来的な可能性として,①術前薬物療法を行い十分な効果のみられなかった症例に対し,追加の治療によって予後を改善させること,②術前薬物療法を行い十分な効果がみられた症例に対し,追加の治療を省略できること,③pCRの場合,適切な画像診断によって非手術とすること,などが挙げられる.

非小細胞肺癌に対するneoadjuvant therapy

著者: 遠藤千顕 ,   近藤丘

ページ範囲:P.816 - P.819

【ポイント】
臨床病期Ⅲ期肺癌に対して,
◆術前治療後の手術,または化学放射線治療が推奨される.
◆術前治療後の手術として肺全摘は避けるべきである.
◆術前治療としてはプラチナベースの化学療法か化学放射線療法が望ましい.

食道癌に対するneoadjuvant therapy—最近の動向

著者: 宗田真 ,   酒井真 ,   宮崎達也 ,   桑野博行

ページ範囲:P.820 - P.823

【ポイント】
◆JCOG9907の結果から,シスプラチン+5-FUによる補助化学療法は術後よりも術前施行が有効である.
◆より強力な術前化学療法としてDCF療法(ドセタキセル+シスプラチン+5-FU)が報告されている.
◆術前化学放射線治療が術前化学療法より優れている可能性があり,今後のRCTの結果が待たれる.

胃癌に対するneoadjuvant chemotherapy

著者: 山下裕玄 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.824 - P.827

【ポイント】
◆胃切除後の場合には化学療法の忍容性が低下するため,術前に行うほうが用量強度は維持できる.
◆高度リンパ節転移症例に対するneoadjuvant chemotherapyは生存期間を大幅に延長した.
◆腹膜再発の高危険群である大型3型,4型については第Ⅲ相試験の結果待ちであるが,少なくとも手術先行での治療成績が十分でないことからneoadjuvant chemotherapyの効果を期待したい集団である.

大腸癌に対するneoadjuvant therapy

著者: 森健 ,   清松知充 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.828 - P.832

【ポイント】
◆切除不能大腸癌に対して化学療法を行い,手術可能となるconversion therapyが注目されている.
◆下部直腸癌に対する術前化学放射線療法は,局所再発の軽減,機能温存,生存率に寄与する可能性がある.
◆切除可能な大腸癌に対する術前補助化学療法は,現状ではエビデンスの乏しい領域であり,今後の症例の蓄積が望まれる.

大腸癌肝転移に対するneoadjuvant chemotherapy

著者: 大内繭子 ,   坂本快郎 ,   宮本裕士 ,   林洋光 ,   清住雄希 ,   中村健一 ,   泉大輔 ,   小澄敬祐 ,   徳永竜馬 ,   藏重淳二 ,   馬場祥史 ,   吉田直矢 ,   別府透 ,   馬場秀夫

ページ範囲:P.833 - P.837

【ポイント】
◆切除可能な大腸癌肝転移に対して術前に行う化学療法をneoadjuvant chemotherapyという.
◆大腸癌肝転移に対するneoadjuvant chemotherapyについて,臨床試験が行われている.
◆neoadjuvant chemotherapyの利点と問題点を理解したうえで適応を決めるべきである.

肝細胞癌に対するneoadjuvant chemotherapy

著者: 田中基文 ,   福本巧 ,   具英成

ページ範囲:P.838 - P.843

【ポイント】
◆治癒切除可能肝細胞癌に対するneoadjuvant therapyとして肝動脈化学塞栓療法(TACE)が施行されることが多いが,いまだ再発予防,生存に対する有効性のエビデンスは実証されていない.
◆治癒切除困難・不能例ではdownstageを図り,切除可能とするための肝動注化学療法の試みがなされている.
◆肝細胞癌に対する肝移植では,術前治療によりミラノ基準内へdownstageすることの意義が報告されている.

胆道癌に対するneoadjuvant therapy

著者: 加藤厚 ,   清水宏明 ,   大塚将之 ,   吉富秀幸 ,   古川勝規 ,   高屋敷吏 ,   久保木知 ,   高野重紹 ,   岡村大樹 ,   鈴木大亮 ,   酒井望 ,   賀川真吾 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.844 - P.849

【ポイント】
◆胆道癌に対するエビデンスのあるneoadjuvant therapyの報告は乏しい.
◆切除不能局所進行胆道癌に対するdownsizing resectionを目的とした術前化学療法は根治切除が可能となる症例があり,集学的治療の一環として有用である可能性がある.
◆胆道癌においては,質の高い臨床試験により有効なneoadjuvant therapyを確立することが今後の課題である.

膵癌に対するneoadjuvant therapy

著者: 村田泰洋 ,   岸和田昌之 ,   伊佐地秀司

ページ範囲:P.850 - P.858

【ポイント】
◆膵癌は,切除可能(R),境界切除可能(BR),切除不能(UR)に分類して治療方針を立てることが重要である.
◆R膵癌に対するneoadjuvant therapyの手術先行に対する優越性は,多施設共同前向き無作為化比較試験により検証される必要がある.
◆BR膵癌に対するneoadjuvant chemoradiotherapy(NCRT)は,R0切除率の向上に貢献し,治療成績の改善に結びつく可能性が示唆されている.
◆UR膵癌において,化学(放射線)療法に有効性を認めた症例に対して行う根治手術(adjuvant surgery)は,予後改善に優れていることが示されている.

GISTに対するneoadjuvant chemotherapy

著者: 神田達夫 ,   石川卓 ,   小杉伸一 ,   間島寧興 ,   若井俊文

ページ範囲:P.860 - P.865

【ポイント】
◆生存延長を目的としたネオアジュバント治療のエビデンスは乏しく,完全切除が容易なGISTは術前イマチニブ治療の適応とならない.
◆イマチニブが無効なGISTも少なからずあり,ネオアジュバント治療患者ではイマチニブの効果を可及的早期に確認する.
◆高リスクGISTでは,ネオアジュバント治療だけでは再発抑制効果は十分ではなく,術後のイマチニブ治療の追加が推奨される.

膵神経内分泌腫瘍に対するneoadjuvant chemotherapy

著者: 工藤篤 ,   伴大輔 ,   上田浩樹 ,   千代延記道 ,   水野裕貴 ,   大畠慶映 ,   赤星径一 ,   大庭篤志 ,   伊藤浩光 ,   光法雄介 ,   松村聡 ,   藍原有弘 ,   落合高徳 ,   田中真二 ,   田邉稔

ページ範囲:P.866 - P.871

【ポイント】
◆膵神経内分泌腫瘍に対するneoadjuvant therapyの症例報告が数件検索される.
◆部分寛解ができる薬物療法が出現しはじめ,今後neoadjuvant therapyの可能性が期待される.
◆borderline resectableの定義を整備し,neoadjuvant therapyに備える必要がある.

FOCUS

女性外科医の労働環境とキャリア形成

著者: 野村幸世

ページ範囲:P.872 - P.876

はじめに
 昨今,外科の志望者は減少しつつあり,日本外科学会の新規入会者も減少の一途である.その中で,女性の新規入会者は漸増しており,女性外科医の増加は加速しつつある.この女性外科医たちの能力を最大限に発揮させ,意欲をもって勤続させるためには,現在の女性外科医の労働環境の改善が必要と思われる.ここでは,女性外科医の労働環境とその改善策について記載したい.

術前黄疸のドレナージ方法—最近の動向

著者: 山口淳平 ,   江畑智希 ,   横山幸浩 ,   伊神剛 ,   菅原元 ,   水野隆司 ,   梛野正人

ページ範囲:P.878 - P.881

はじめに
 胆管悪性腫瘍による閉塞性黄疸に対する術前減黄処置として,従来percutaneous transhepatic biliary drainage(PTBD)が広く行われてきた.しかし,PTBDによる血管損傷や瘻孔再発といった問題が認識されるに至り,近年ではendoscopic naso-biliary drainage(ENBD)の優位性が指摘されている.本稿では特に,肝門部領域胆管癌に対する術前胆汁ドレナージの変遷について述べる.

図解!成人ヘルニア手術・2 忘れてはならない腹壁解剖と手技のポイント

内鼠径ヘルニアに対するBilayer patch法

著者: 柵瀨信太郎

ページ範囲:P.882 - P.889

■ 内鼠径ヘルニアⅡ型に対するBilayer patch法
1併存病変の有無の確認と内鼠径輪部の腹膜高位剝離
 術中,内鼠径ヘルニアの診断が明らかであっても,そこで気を抜かずに外鼠径ヘルニア,精索脂肪腫,腹膜鞘状突起遺残の併存の有無を確認することが重要である(図1,2).

具体的事例から考える 外科手術に関するリスクアセスメント・4

医療ガスにかかわるトラブルをどう防ぐか

著者: 石川雅彦

ページ範囲:P.890 - P.894

 外科手術において,術中はもとより,術前や術後にも酸素は頻繁に使用されており,酸素を含めた医療ガス関連のインシデント・アクシデント発生は,患者の生命維持に直結する可能性がある1).本稿では,日本医療機能評価機構の「医療事故情報収集等事業」の公開データ検索2)を用いて,外科手術における医療ガスに関連して発生した事例を抽出し,発生概要,発生要因と再発防止策について検討した.なお,手術とは直接関連していないが,病棟と手術室間の移送時にも発生しうると考えて,検査室などへの移送前後に発生した事例も一部追加した.

病院めぐり

中頭病院外科

著者: 卸川智文

ページ範囲:P.895 - P.895

 中頭の読み方はよく間違われますが「なかがみ」と読みます.その由来は,沖縄本島は北東から南西に国頭(くにがみ)・中頭・島尻(しまじり)に3分され,中頭は中部地域にあたります.中頭病院は沖縄県中部の沖縄市知花に位置しています.病床数は336床,標榜診療科は29科で,平均在院日数は10.3日と短く,7対1看護基準,DPC対象急性期病院です.病院の歴史は,今から約33年前に当時は野原であった米軍基地跡地に,沖縄県立中部病院出身の志ある7名の医師によって開設した病院です.開設当時,沖縄県中部地区には急性期病院は沖縄県立中部病院のみで患者が非常に多く,忙しい時期でした.中部地区の医療を支援する目的で,慢性期病院として病床数100床,職員数約80名で昭和57年4月にスタートいたしました.その後人口の増加に伴う患者数の増加や,地域住民や医療提供側からも渇望され,医療ニーズに応えるように増床・診療科の充実をはかり,6年後の昭和63年に病床数326床への増床,さらに平成25年には特例病床10床を加え現在の336床に至ります.平成11年に日本医療機能評価機構認定,平成13年に特定医療法人認定,平成15年に救急告示病院認可,臨床研修指定病院(基幹型)認可,平成16年に地域医療支援病院承認,平成21年には社会医療法人として認可されました.
 外科医は11名で,臓器別に分担しており,その内訳は消化器外科7名,呼吸器外科2名,血管外科2名です.後期研修医は4名です.それに初期研修医3名を加えて,日々の外来診療,手術,当直業務にあたっております.年間の外科手術件数は局所麻酔手術を含めると約2,700例で,そのうち消化管および腹部内臓領域が944例(食道癌9例,胃癌33例,大腸癌114例,肝胆膵癌28例,胆摘181例,鼠径ヘルニア140例,虫垂炎130例),呼吸器領域92例(肺癌33例),末梢血管領域1,328例です.内視鏡外科手術の症例も多く,腹腔鏡手術は433例,胸腔鏡手術が87例でした.予定手術以外での胸腹部の緊急手術は約120例と救急にも力を入れて取り組んでいます.乳腺外科は独立しており,年間167例の手術を行っています.日本外科学会専門医制度修練施設,日本消化器外科学会専門医制度認定施設,日本呼吸器外科学会認定基幹施設,日本がん治療認定医機構認定研修施設,日本乳癌学会認定医・専門医制度関連施設となっております.当院での消化器外科専門医,日本内視鏡外科学会技術認定医も誕生しており,さらなる取得に向けて努力をしています.当院のみの経験症例で後期研修医は外科専門医の取得が可能な件数となっており,術者としての経験症例数も多くなっています.県外からの短期・長期での研修の受け入れも行っております.また毎年,胸腔鏡手術のスプリングセミナーや腹腔鏡下肝胆膵手術のサマーセミナーといった研究会を開催し,全国から著名な先生にも参加していただき,積極的に知識,手技の獲得にも取り組んでおります.

臨床報告

甲状腺血管腫の1例

著者: 小久保健太郎 ,   林昌俊 ,   栃井航也 ,   丹羽真佐夫 ,   高橋啓

ページ範囲:P.896 - P.899

要旨
症例は66歳の女性.2年前に甲状腺腫瘍の精査目的に当院内科を受診した.甲状腺左葉に23 mm大,容積5.7 mLの内部不均一な腫瘍を認めたが,細胞診で悪性像を認めず,甲状腺シンチ陰性であったことより腺腫様甲状腺腫の診断で外来経過観察となった.しかし,2年間で腫瘍径が35 mm,容積が15.6 mLと約3倍に増大しており悪性の可能性も否定できず,甲状腺左葉切除を施行した.病理検査にて腫瘍は赤血球の内在した毛細血管腔が比較的密に増殖し,管腔内層の被膜細胞に異型性は認めず,免疫染色にてCD31,CD34,F-Ⅷ陽性を認め,甲状腺血管腫と判断した.甲状腺血管腫は極めて稀であるので報告する.増大傾向を認める甲状腺腫瘍は血管腫も鑑別に考慮する必要があると思われる.

緊急開腹止血時に見逃された外傷性胃後壁損傷の1例

著者: 増田大機 ,   落合高徳 ,   熊谷洋一 ,   飯田道夫 ,   山崎繁 ,   杉原健一

ページ範囲:P.900 - P.902

要旨
34歳,男性.文化包丁で腹部を自傷し,救急搬送された.腹部CTにてfree airを認め,緊急開腹手術を行った.術中所見では,胃体中部前壁の漿膜面に5 mm程度の損傷を認め,穿孔には至っていないと判断し,漿膜筋層縫合にて胃壁を修復し手術を終えた.術後1日目より経口摂取を開始し得たが,3日目に大量の下血を認めた.上部消化管内視鏡検査にて,胃体中部の前壁と後壁に出血源を認め,腹部刺創時の胃損傷によるものと考えられ,クリッピングにて止血した.外傷例では管腔臓器の損傷をしばしば見逃しがちである.潜在化する管腔臓器の損傷を見落とさないための予防策と本症例における問題点を,若干の文献的考察を含めて報告する.

腺癌成分が細胆管細胞癌の形態を示した肝原発腺扁平上皮癌の1例

著者: 小林達則 ,   岡林弘樹 ,   香川哲也 ,   上山聰 ,   荻野哲也

ページ範囲:P.903 - P.908

要旨
症例は68歳,男性.B型慢性肝炎からの肝細胞癌に対して経皮的ラジオ波焼灼療法,直腸癌およびその肺転移の手術既往があった.近医でこれらのフォローアップ中,肝前上亜区域に腫瘤が発見され,加療目的で当院に紹介となった.自覚症状はなく,CEAとCA19-9は軽度上昇していた.超音波検査で肝の腫瘤は3.5 cm大で内部に高エコーを伴う低エコー像を呈し,CTおよびMRI検査で造影により辺縁は不整に濃染された.PET/CT検査では腫瘤に一致してFDGの異常集積を認めた.転移性肝癌の診断で肝前上亜区域切除術を施行した.切除標本所見で腫瘤の境界は比較的明瞭で割面は白色を呈し,内部に壊死と出血を認めた.病理所見で腫瘍には細胆管細胞癌の形態を示す腺癌成分と扁平上皮癌の成分がみられ,肝原発腺扁平上皮癌と診断した.腺癌成分が細胆管細胞癌の形態を示した肝原発腺扁平上皮癌は過去に報告はなく,極めて稀で貴重な症例と考え報告した.

腹腔鏡補助下手術で確定診断し根治術を施行しえたSpigelian herniaの1例

著者: 前田慎太郎 ,   吉富秀幸 ,   萩原秀彦 ,   萩原大士 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.909 - P.913

要旨
症例は68歳,女性.右下腹部の膨隆を主訴に外来を受診した.理学所見,画像検査より腹壁ヘルニア(Spigelian hernia)の診断となったが,突出部位より鼠径ヘルニアとの鑑別が必要であった.手術は腹腔鏡によるヘルニア門の同定をまず行い,Spigelian herniaであることを確認ののちに,開腹下でメッシュを用いた根治術を行った.腹壁ヘルニアでは,小児での先天性の脆弱性による発生例や腹部手術後の腹壁瘢痕ヘルニアは日常遭遇する疾患である.しかし,主だった誘因のないSpigelian herniaは稀である.本症では腹腔鏡を補助的に用いることで原因となるヘルニア門を特定し,正確な診断,有効なヘルニア根治術を行うことができた.文献的考察を加え報告する.

先天性胆道拡張症と鑑別を要した十二指腸重複症の1乳児例

著者: 飯田則利 ,   藤田桂子

ページ範囲:P.914 - P.919

要旨
症例は6か月,女児.在胎16週時に肝門部の囊胞性腫瘤を指摘された.出生後の画像検査では肝下面に径4.7 cmの単房性囊胞を認め,胆道シンチグラムでは肝門部に囊状の集積を認めた.また,肝胆道系酵素が軽度高値を示したため先天性胆道拡張症の診断で経過観察した.生後6か月に行ったMRCPでは総胆管に隣接して囊胞が描出され,また超音波検査で囊胞壁の2層構造を認めたため,十二指腸重複症の診断で手術を行った.十二指腸下行脚に径5.5 cmの球状の重複腸管を認め,可及的に切除し共通壁の粘膜抜去・焼灼を行った.十二指腸重複症は稀で術前診断は困難であるが,本症例ではMRCPが先天性胆道拡張症との鑑別に有用であった.

1200字通信・80

サービスとおもてなし

著者: 板野聡

ページ範囲:P.807 - P.807

 先日の土曜日,外来や入院患者さんへの説明などで,帰りが遅くなってしまいました.その帰りの車中,ラジオを聞いていると面白い話が聴こえてきました.
 その日のテーマは「おでん」.しばらくは,その歴史や日本各地での違いなどの話題が続きましたが,浅草のおでん屋さんの話に私のアンテナが反応しました.おでんの「具」では,大根と卵の仕込みには大変な手間がかかり,お店でお客さんに提供できるまでに2日から3日かかるというのです.その話に対して,パーソナリティさんが「そんなに手間がかかっているとわかると,客としては食べられませんね」と答えておられましたが,確かに,それだけの手間暇をかけたものをあっさりと食べてよいものか悩ましくなってくるのが客としての心情ではあります.

ひとやすみ・126

海外から日本を見つめ直す

著者: 中川国利

ページ範囲:P.849 - P.849

 日本国内に居ると日本の良さを認識できずに,外国の良さだけを羨望して日本を批判しがちになる.一方,海外に出ると,日本の欠点もさることながら良さをも再認識し,自然と愛国心が涌いてくるものである.
 30年ほど前にもなるが,かつての西ドイツで一年間ほど内視鏡治療を学んだことがある.当時すでに食道静脈瘤硬化療法,胃瘻造設,肥満に対するバルーン留置などが積極的に行われ,劣等感を抱いた.しかし使用する内視鏡は日本製であり,また汎用する抗菌薬も日本で創薬した薬品であった.そして教授が,「光学器械や製薬はドイツのお家芸であったのだが」と歎くことに,ささやかながら優越感を覚えた.

昨日の患者

元輸血患者の恩返し

著者: 中川国利

ページ範囲:P.876 - P.876

 人は日常生活を介して多くの人々と接し,様々な関係を結ぶ.多くの出来事は時とともに忘れ去られるが,稀には何時までも心に残り,以後の行動に影響を及ぼすことがある.
 検診医として献血バスに乗り,さる事業所を訪ねた.痩せた長身のSさんが担当で,私が名刺を出すと,「先生,私を覚えていますか.20年ほど前に胃癌で手術をしていただいたSです」と,懐かしそうに微笑んだ.そして「先生が血液センターに異動し,献血バスに乗って来るとは夢にも思いませんでした.今日はよろしくお願いします」と,挨拶された.

書評

—加納宣康(監修) 三毛牧夫(著)—正しい膜構造の理解からとらえなおす—ヘルニア手術のエッセンス

著者: 三澤健之

ページ範囲:P.877 - P.877

 著者のヘルニア診療に対する信念と情熱までもが伝わってくる圧巻の一冊である.本書は,長年,第一線で実地臨床と若手教育に携わってきた外科医師による入魂の書であるといえよう.本書にはヘルニアに関する言葉の定義から,分類,歴史,発生学,解剖,診断,治療に至るまで,ヘルニア学のおよそすべてが収められている.しかも各項における著者の理論展開は合計475編という膨大な量の参考文献の精読に基づいているため,若手外科医のみならずベテラン外科医にとってもヘルニアに関するあらゆるエビデンスを知ることができる内容となっている.近年,へルニア修復用の類似のデバイスが相次いで登場し,それに踊らされるように安易に治療方針を変更する向きがある中で,本書のような体系的な成書を通じてヘルニア学の奥の深さをあらためて認識することはことさら重要であろう.また,本書の特色としてもう一つ忘れてはならないのが,著者の知人の筆によるシェーマの美しさと精密さにある.ここにも著者の強いこだわりが伺える.
 本書は,基礎編と応用編に分かれる.

--------------------

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P. - P.

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P. - P.

あとがき

著者: 宮崎勝

ページ範囲:P.926 - P.926

 本特集号では「Neoadjuvant therapyの最新の動向—がんの治療戦略はどのように変わっていくのか」というタイトルにて,様々ながん腫に対してのneoadjuvant therapyの意義と,その現状からみた位置づけを明らかにしてもらう企画である.このように,多種類のがんの治療戦略を横断的に俯瞰してみると,そこに各がん腫ごとに異なる生物学的悪性度,および特性が浮かびあがってくるとともに,現状の問題点ならびに今後の展望が透けて見えてくることが多い.
 多くのがんの治療戦略において,現在もちろん外科切除が最も効果的根治療法に挙げられているわけであるが,特に難治がんといわれているがん腫ほど,外科切除の有用性がその予後に与えている効果が高いものである.しかしながら残念なことに,決して外科切除のみでいまだ十分な結果が得られているものばかりではない.もちろん,外科医は外科手術という治療手段を通して,様々な疾病を効果的に治癒させるのがその最大の目的である専門医であるので,常にがんにおいてもより根治性,安全性を向上させるべく新たな外科手術手技の開発に努力する必要があるのは言うまでもなく,最も重要なことである.しかし,またその一方で現状の外科治療成績を少しでも向上させるために,他の治療手段をうまく利用していくことも念頭に置いていくべきものと私は考える.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?