icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科70巻9号

2015年09月発行

雑誌目次

特集 再発に挑む!—外科治療の役割

ページ範囲:P.1059 - P.1059

 治癒切除後であっても,癌再発は血行性,リンパ行性,局所,腹膜播種など多様な形式で起こりうる.大腸癌肝転移以外は,再発に対する治療方法は標準化されたものはなく,治療現場ではつねに悩ましいところである.特に技術的に切除可能と考えられる場合はことさらである.
 外科切除を優先するのか,化学療法あるいは放射線療法を先行させるのか,あるいは集学的治療を考えるのか——本特集では,治癒切除後の再発に対する外科治療の役割にフォーカスをあわせ,治療現場の一助としたい.外科医魂をもって,簡単にあきらめる必要はないことが伝われば幸いである.

総論

腫瘍内科医からみた再発に対する外科治療の役割

著者: 室圭

ページ範囲:P.1060 - P.1065

【ポイント】
◆古今東西,消化器がんにおいては外科手術こそが唯一の根治の手段である.
◆とくに消化器がんにおいて,近年のがん薬物療法の進歩により外科治療の役割の重要性が増している.
◆今こそ,外科医と腫瘍内科医の密接な連携と厚い信頼関係の構築が望まれる.

画像による再発診断

著者: 小山眞道 ,   松枝清 ,   寺内隆司 ,   小泉満

ページ範囲:P.1066 - P.1072

【ポイント】
◆再発診断のための画像検査は,エビデンスを踏まえて施行することが重要である.
◆近年,FDG-PET/CTが普及してきているが,偽陰性,偽陽性もあり,読影には注意を要する.
◆外科医および画像診断医間の情報の共有,密接な連携が重要である.

術後サーベイランスの考え方と再発時の治療戦略

乳癌

著者: 吉田敦 ,   山内英子

ページ範囲:P.1074 - P.1077

【ポイント】
◆乳癌術後のサーベイランスでは,ルーチンの全身検索は勧められていない.患者のリスクに合わせ,検査のリスク・ベネフィットを考えての全身検索が望ましい.
◆温存乳房内再発に対する再部分切除は,乳房切除に比べて局所制御率は劣るが,生存率には差がみられないという報告が多い.しかしながら再温存が可能な患者選択の条件は明らかでなく,現時点での標準的手術方法は乳房切除術と考えられる.
◆局所領域再発術後のセカンドアジュバントの意義に関しては,エビデンスも少ないが,遠隔転移リスクの高いと考えられる患者では,行うことの利益が考えられる.

肺癌

著者: 河野匡

ページ範囲:P.1078 - P.1082

【ポイント】
◆肺癌の肺転移としての再発は進行した段階であるが,すべてを切除可能な少数の転移個数である場合には,切除すると予後を改善することがある.
◆単発や2個程度の肺結節に対しては,診断の目的でも切除が必要になることが多い.
◆抗癌剤の進歩や放射線治療との集学的治療の一つとして,転移を切除する頻度は増加してくると考えられる.

食道癌

著者: 白石治 ,   田中裕美子 ,   曽我部俊介 ,   岩間密 ,   安田篤 ,   新海政幸 ,   今野元博 ,   今本治彦 ,   塩﨑均 ,   安田卓司

ページ範囲:P.1083 - P.1089

【ポイント】
◆pT3,pN2,鎖骨上リンパ節陽性例,ly+,v+であったものが,再発高リスク群であり,また再発の70%が術後1年内に確認され,88%が2年内に確認された.
◆リンパ節再発が最も多く,次に血行性再発が多い.また血行性転移の内訳は肺が33%,肝が30%,次いで骨が17%を占めた.
◆寛解,長期生存できる可能性があるのは,頸部および縦隔のリンパ節や肺の1〜2個の転移再発であり,可能ならば積極的に切除を検討する.

胃癌

著者: 山下裕玄 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.1090 - P.1095

【ポイント】
◆胃癌再発は,外科的切除の対象とならない腹膜再発が多くを占めるがゆえに切除対象となる症例数が少ないと考えられ,外科治療の確固たるエビデンスはない.
◆肝・肺といった血行性転移臓器の場合,単発の転移再発であれば外科的切除は治療の選択肢となる.
◆播種が多発せず腹腔洗浄細胞診も陰性であった場合には,腹腔内での再発巣に対して切除を否定するものではない.

直腸癌局所再発・大腸癌腹膜再発

著者: 矢野秀朗

ページ範囲:P.1096 - P.1100

【ポイント】
◆直腸癌局所再発や大腸癌腹膜再発でも,安易に代替療法に頼ることなく外科切除を考慮すべきである.
◆直腸癌局所再発に対しては,術前補助療法後に行う骨盤壁合併切除を伴う骨盤内臓全摘術が有効である.
◆大腸癌腹膜再発は,術前補助療法後に行う減量切除+腹腔内温熱化学療法が有効である可能性がある.

肝細胞癌・肝内胆管癌

著者: 吉田直 ,   高山忠利

ページ範囲:P.1102 - P.1107

【ポイント】
◆肝細胞癌の肝内再発は,初回手術時と同様に手術適応を判断する.肝機能が悪い場合には切除に固執せず他の治療法を選択する.
◆肝細胞癌の肝外再発は,1臓器に留まっていれば手術適応とすることがある.同時に肝内再発を認める場合には肝動脈塞栓療法を併用する.
◆肝内胆管癌の再発が切除適応となるのは単発の肝内再発のみで,肝外再発に対しては全身化学療法を行う.

膵腫瘍

著者: 岡田良 ,   元井冬彦 ,   海野倫明

ページ範囲:P.1108 - P.1112

【ポイント】
◆膵癌再発に対する外科的切除が適応される症例はきわめて少ないが,化学療法奏効例に対して検討される.
◆NET G1,G2,G3の一部(狭義のNECを除く)は再発巣の外科的切除により長期予後を見込める症例がある.
◆IPMNは残膵再発・多中心性発生をきたすことがあるため,長期間のフォローが必要である.

GIST

著者: 藏重淳二 ,   岩槻政晃 ,   吉田直矢 ,   馬場秀夫

ページ範囲:P.1114 - P.1118

【ポイント】
◆転移・再発GISTに対する治療の第一選択は分子標的薬である.
◆分子標的薬部分耐性GISTに対しては,適応を十分に議論したうえで外科的介入を検討するべきである.
◆外科的切除と分子標的薬を組み合わせた集学的治療を構築していくために大規模なRCTが必要である.

FOCUS

医産連携による福島医薬品関連産業支援拠点化事業の現況と今後の展望

著者: 竹之下誠一 ,   大竹徹 ,   和栗聡 ,   渡辺慎哉

ページ範囲:P.1120 - P.1124

はじめに
 われわれは2007(平成19)年度より,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「基礎研究から臨床研究への橋渡し促進技術開発/遺伝子発現解析技術を活用した個別がん医療の実現と抗がん剤開発の加速プロジェクト」(以下,NEDOプロジェクト)をバイオ産業情報化コンソーシアム(JBIC)と共同で実施してきた.その後,NEDOプロジェクトは,2011年3月11日に発生した東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故により,経済産業省の2011(平成23)年度第三次補正予算を原資とする「福島医薬品関連産業支援拠点化事業」に受け継がれ,対象とする疾患,解析方法,参画企業業種を拡大し,福島県の医産連携復興事業として新たな門出を迎えることになった.本稿では,本学におけるNEDOプロジェクトの成果,およびその後継プロジェクトである福島医薬品関連産業支援拠点化事業について概説する.

外科医のための輸血のはなし②—輸血における感染症対策

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1125 - P.1129

はじめに
 輸血に伴う副作用として,肝炎,エイズウイルス(HIV),細菌,梅毒,マラリアなどの感染症をはじめ,蕁麻疹,アナフィラキシーショック,呼吸困難,発熱,溶血,さらには癌の再発・転移の免疫学的修飾など多々ある.本稿では日本赤十字社が行っている,輸血における感染症対策について紹介する.

図解!成人ヘルニア手術・4 忘れてはならない腹壁解剖と手技のポイント

ダイレクトクーゲルパッチ法

著者: 諏訪勝仁

ページ範囲:P.1130 - P.1134

■はじめに
 ダイレクトクーゲル鼠径部ヘルニア修復術(modified Kugel hernia repair:MKH)はヘルニア修復理論上,理想的とされる腹膜前修復法であり,かつ一般外科医になじみの深い前方到達法で施行可能な優れた術式である.われわれは2005年から本術式を行い,良好な成績を収めてきた1,2).本術式にとって最重要事項は,定型化された腹膜前腔剝離法(standardized preperitoneal dissection:SPD)である.

病院めぐり

公立学校共済組合 四国中央病院外科

著者: 石川正志

ページ範囲:P.1135 - P.1135

 当院は全8病院の公立学校共済組合直営のなかで,6番目の病院として昭和34年に愛媛県四国中央市に開設されました.その後,愛媛県宇摩地区の数少ない中核病院として,順次診療科を増設し,現在の18診療科,病床数275床(一般229床,精神46床)となっています.
 外科は常勤医5名で日々の診療に当たっており,徳島大学外科学教室の関連施設で若い先生のローテーションを受け入れています.主に消化器外科,小児外科を中心に年間380例ほどの手術症例数で,腹腔鏡手術は100例ほどです.腹腔鏡は原則吊り上げ式にて行い,消化管手術では小切開手術も併用して行っているのが特徴です.

具体的事例から考える 外科手術に関するリスクアセスメント・6

ガイドラインにかかわるトラブルをどう防ぐか

著者: 石川雅彦

ページ範囲:P.1136 - P.1140

 外科手術に関連するガイドラインの遵守は,安全で良質な手術医療提供に資することであり,ガイドラインに関連したインシデント・アクシデント発生の防止は,外科手術の質向上に重要である.
 本稿では,日本医療機能評価機構の「医療事故情報等収集事業」の公開データ検索1)を用いて,外科手術におけるガイドラインに関連した事例を抽出し,発生概要,発生要因と再発防止策について検討した.

臨床研究

当院における胆囊・総胆管結石に対する一期的腹腔鏡下総胆管切開切石術

著者: 濱田哲宏 ,   弓場健義 ,   相馬大人 ,   小林哲郎 ,   大橋秀一 ,   谷口英治

ページ範囲:P.1141 - P.1144

要旨
胆囊・総胆管結石症に対し,胆管径によらず腹腔鏡下総胆管切開切石+胆囊摘出を行って,その成績を検討した.対象は2001年9月から13年間で経験した91例.うち27例は胆管径が7 mm以下と非拡張症例であった.胆管径は切開部に相当する部位で計測した.胆管結石数は平均2個(中央値1個,1〜20個),手術時間は187±53分(平均±標準偏差),出血量は29±31 g,術後入院日数は13日(中央値,9〜42日).胆管径は術前MRCPで7.3±2.5 mm,術後Cチューブ造影で7.2±2.6 mmであった.合併症は胆汁漏2例,遠隔期の胆管結石再発3例であった.胆管径によらず本術式を施行できる可能性があると考えられた.

臨床報告

FDG-PETで高集積を示した原発性横隔膜神経鞘腫の1例

著者: 稲岡健一 ,   中山裕史 ,   関幸雄 ,   片岡政人 ,   竹田伸 ,   近藤建

ページ範囲:P.1145 - P.1150

要旨
症例は76歳,女性.慢性リンパ性白血病で通院中,胸部X線にて異常を指摘され,CTにて胃に接する70 mm大の腫瘍性病変を認めた.FDG-PETでは同部位に高集積を示し,悪性の胃GISTを疑い開腹術を施行した.横隔膜より発生した腫瘍であり,胃や肝臓への浸潤は認めなかった.横隔膜腫瘍切除術,横隔膜欠損部修復術を施行した.病理検査にて良性神経鞘腫と診断した.原発性横隔膜腫瘍は非常に稀であり,術前診断は困難である.またFDG-PETにて高集積を示したため,悪性の可能性が高いと考えていたが,良性神経鞘腫でも高集積を示すこともあり,確定診断には病理検査が必須であることを踏まえたうえで手術に臨むべきであると考えた.

直腸S状部癌術後11年目に肝転移再発を認め切除した1例

著者: 鹿股宏之 ,   牛窓かおり ,   立川伸雄 ,   清水芳政 ,   捨田利外茂夫 ,   古内孝幸

ページ範囲:P.1151 - P.1155

要旨
症例は77歳,男性.66歳時に直腸S状部癌により手術を施行している.術後11年目に健診でCEA高値を指摘され,精査の結果,肝S7に8 cm大の腫瘤を認め,肝右葉切除術を行った.病理結果は大腸癌肝転移であった.大腸癌治療ガイドラインでは,根治度Aの大腸癌術後サーベイランスは5年までとされているが,5年以降の扱いについてはいまだ議論のあるところで,今後の課題とされている.これまでの遅発再発報告例を検討すると,再発部位は多彩で,「高〜中分化」「stageⅡ」「脈管侵襲陽性」などが遅発再発の高リスク要因であることがわかる.このことを念頭におくことは,個々の患者に5年以降のfollowを検討する際の手助けになるものと考える.

Torricelli-Bernoulli signを呈した穿孔性小腸GISTの1例

著者: 西脇紀之 ,   渡邉貴紀 ,   松本祐介 ,   渡辺直樹 ,   甲斐恭平 ,   佐藤四三

ページ範囲:P.1157 - P.1160

要旨
Torricelli-Bernoulli sign(T-B sign)は,GISTなどの壁外増殖性腫瘍の内腔と消化管が交通することで形成される画像所見である.今回われわれは,T-B signを呈した小腸GIST穿孔症例を経験したので報告する.症例は68歳,女性.急性腹症にて当院に搬送され,画像検査にて小腸腫瘍の穿孔による汎発性腹膜炎と診断し緊急手術を行った.腫瘍を含む小腸部分切除,開腹ドレナージ術を施行した.病理組織検査では高リスクGISTと診断された.現在,術後1年6か月となるがイマチニブ投与にて肝転移巣の縮小を認め,外来にて治療継続している.T-B signはGISTの画像診断の一助になると考えられた.

長期生存を得た肺転移再発を伴う肝胆管囊胞腺癌の1例

著者: 成田知宏 ,   阿佐美健吾 ,   高橋一臣 ,   水野豊 ,   矢島信久 ,   川岸直樹

ページ範囲:P.1161 - P.1166

要旨
症例は54歳,女性.健診にて肝機能異常を指摘され当院を受診した.精査にて肝右葉から内側区域にかけて長径13 cmの巨大な腫瘍を認め,拡大肝右葉切除術を施行した.病理検査では胆管囊胞腺癌の診断であった.肝切除術後1年7か月,3年10か月目に指摘された肺腫瘍に対し肺切除術を施行し,いずれも病理検査にて胆管囊胞腺癌の転移の診断であった.現在まで肝切除術後8年以上を経過しているが,再発の兆候なく生存中である.肝胆管囊胞腺癌の予後はほかの肝悪性腫瘍に比べて良好とされている.たとえ,転移性肺腫瘍がみられても,積極的に外科切除を行うことで良好な予後が期待できると考えられた.

虫垂腺腫による虫垂重積を先進部とした盲腸結腸型腸重積の1例

著者: 三竹泰弘 ,   夏目誠治 ,   加藤岳人 ,   平松和洋 ,   柴田佳久 ,   吉原基

ページ範囲:P.1167 - P.1171

要旨
症例は85歳,女性.右側腹部痛を主訴に救急搬送された.右下腹部に圧痛を認め,同部位に腫瘤を触れた.腹部造影CTにおいて盲腸が横行結腸まで陥入する腸重積の所見を認めた.下部消化管内視鏡検査を施行したところ重積の先進部に隆起性病変を認めた.内視鏡的整復が困難であったため緊急手術を施行した.開腹時には腸重積はすでに整復されていたが,盲腸に腫瘍を触知し悪性腫瘍の可能性を否定できなかったためD3郭清を伴う開腹下回盲部切除術を施行した.切除標本では盲腸内に完全に反転した虫垂と,その先端部に腺腫を認めた.虫垂腺腫による虫垂重積が先進部となって発症した盲腸結腸型腸重積は稀であり,報告する.

破裂巨大肝囊胞に対し腹腔鏡下肝囊胞天蓋切除術を施行した1例

著者: 赤間悠一 ,   川野陽一 ,   谷合信彦 ,   吉岡正人 ,   高田英志 ,   内田英二

ページ範囲:P.1172 - P.1176

要旨
患者は65歳,女性.上腹部圧迫症状を主訴に当科を受診した.肝左葉に直径20 cm大の巨大肝囊胞を認めたため,腹部症状を有する巨大肝囊胞として当科の手術方針に則り手術を予定した.手術10日前に腹痛を主訴に外来受診し,腹部CTで囊胞内血腫と腹腔内の液体貯留を認めたが,腹部打撲の既往はなく囊胞自然破裂と診断した.保存的加療により病態が安定したため,予定通り腹腔鏡下肝囊胞天蓋切除術を施行した.術後経過は良好で,10日目に退院した.破裂肝囊胞,囊胞内出血を伴う囊胞などいわゆるcomplicated cystに対しては,系統的な術前診断が重要であり,治療においては低浸襲で根治が可能な腹腔鏡下肝囊胞天蓋切除術が有用であると考えられた.

1200字通信・82

学校健診に想う—不戦の誓い

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1073 - P.1073

 当院では,いくつかの学校の校医を引き受けています.聴診器で耳が痛くなるのが難点ですが,小学校の入学時健診では自分の子供が幼かった頃を思い出し,また,年度始めの健診では,自分が小学生だった頃のことを思い出しながら,診察をさせてもらっています.
 そしてもう一か所,工業高等専門学校を担当しており,こちらは10代後半から20歳前後の元気な男子が中心となります.先日,健診に行ったときのことですが,すれ違う学生さん達から「こんにちは」と大きな声で挨拶をいただき,日本の若者たちも捨てたものではないなと感心したわけですが,健診で若い彼らの診察をしながら,ふとある情景が浮かんできたのでした.それは,どこかで目にしたことのある第二次世界大戦中の徴兵検査の様子を写した写真のそれでした.

書評

—安達洋祐(著)—外科医のためのエビデンス

著者: 森正樹

ページ範囲:P.1101 - P.1101

 医学書院から刊行されている『臨床外科』誌に,安達洋祐先生による「臨床の疑問に答える—ドクターAのミニレクチャー」が連載されていた.2012年から2015年のことである.すこぶる評判が良いためこの連載を本にしてほしいと思っていたが,それが現実となった.『外科医のためのエビデンス』として書籍化されたのである.しかし,本書は単にこれまでのミニレクチャーをまとめただけではない.短期間のうちに最新の文献が加えられ,また大幅に加筆された.
 本書は以下の6章から構成されている.

ひとやすみ・128

死と向き合う

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1107 - P.1107

 生を受けし者は年年歳歳老い,そして必ず死を迎える.したがって誰もが死を必然のこととして甘受し,悩みながらも自ら乗り越えて行かなければならない運命にある.しかしながら現代の日本では,病は必ず治癒するもので,死が究極の老化であることを認めない傾向にある.医療を行う医師でさえ,死を医療の敗北と捉えがちである.
 日常で死と向き合い考えることは至難の業で,死を明るく語ることができない.親が「こんな死に方をしたい」「自分の葬儀はこのようにして欲しい」と話すと,「縁起でもない話は止めてください」「死はまだまだ先のことですから」と,子供は話題にすることを避けがちである.一方,子供が「死が迫ったとき,延命処置を望みますか」「遺産相続はどのようにしますか」など,親の死について語ると,「おまえは親の死ぬのを待っているのか.親不孝者!」と決め付けられ,話が進まない.

昨日の患者

エイズ患者

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1156 - P.1156

 1970年代後半から1980年代初頭にかけて,非加熱血液凝固因子製剤の使用により多くの血友病患者がエイズウイルス(HIV)に感染し,大きな社会的問題となった.そして当時はHIVの治療法は確立されていなかったため,不治の病として社会から恐れられた.
 私が大学病院の外科医局に在籍していた1980年代初頭,内科学教室の20歳代後半の医師Aさんが後腹膜出血で入院した.血友病を有し,第Ⅷ因子が極端に低下していた.そこでアメリカの売血制度で集められた血液で製造した非加熱血液凝固因子製剤を大量に輸血した.出血は止まり,Aさんは退院した.

--------------------

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P. - P.

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P. - P.

あとがき

著者: 瀬戸泰之

ページ範囲:P.1182 - P.1182

 厚生労働省人口動態によると,平成26年に命を落とした方は全国で1,273,020人であった.うち悪性腫瘍で亡くなった方は367,943人で死因第一位,3.5人に1人が悪性腫瘍で命を落としていることになっている.死因第二位は心疾患であるが,そのほぼ2倍の方が悪性腫瘍で亡くなっているのであり,死因のなかでは唯一右肩上がりなのである.昨今の治療法の展開を考えると,右肩上がりというのは意外な感じもしないでもない.
 亡くなった方のなかには発見された時点で,残念ながら根治不能ということも少なくないとは思うが,大多数の方々はいったんは根治,あるいはcomplete responseになったものと思う.癌と伝えられた時点でのショックも相当なものであろうが,一度は「消えました」と言われ,その後「再発」と告げられたときのショックは,さらに増したものになることは想像に難くない.命は永遠のものではなくいずれ絶える,ということは誰でも(医療従事者も患者さんも家族も)知っている.大事なことは,その絶え方であろう.最善を尽くしてもらったという気持ちを抱いてもらうことは我々の責務と考える.一部の再発を除いて,標準的治療の確立は困難であるし,やはりケースバイケースにならざるをえない.もちろん,何の根拠もない治療は行ってはいけない.ただ,外科として何ができるかを本特集から感じ取っていただければ望外の喜びである.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?