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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科71巻10号

2016年10月発行

雑誌目次

特集 エキスパートが教える 鼠径部ヘルニアのすべて

ページ範囲:P.1177 - P.1177

 外科を志す者が初めて教わる手術の一つが鼠径ヘルニア手術である.しかし,複雑な鼠径部の解剖を熟知したうえで正確な手術を行うことは必ずしも容易ではない.さらに最近では,McVay法をはじめとした従来法に加え,様々なメッシュの開発や腹腔鏡下手術の登場により,ベテラン外科医でもこれらの特徴を把握し,使いこなすことが難しくなってきている.本特集では,common diseaseである鼠径部ヘルニアに焦点をあて,疾患の分類や特徴,手術に必要な臨床解剖,様々な手術法や困難症例への対処法まで,明日の臨床に役立つ知識や技術を解説していただいた.

総論

鼠径部ヘルニアの基礎

著者: 嶋田元 ,   柵瀨信太郎

ページ範囲:P.1178 - P.1184

【ポイント】
◆鼠径部ヘルニアは合併症の頻度が低く早期に社会復帰可能な手術であるが,手術手技に起因する合併症や治療に難渋する合併症も存在する.
◆患者の状態を考慮し,手術適応や経過観察を含めた選択可能な治療方法のベネフィットとリスクを含めて提示すべきである.
◆教科書どおりに鼠径部ヘルニア手術ができるというだけでは,決して質の高い外科手術であるとは言えない.

手術に必要な鼠径部の解剖—腹腔鏡下手術を行ううえで重要な解剖知識

著者: 川原田陽 ,   山本和幸 ,   佐藤大介 ,   才川大介 ,   河合典子 ,   花城清俊 ,   森大樹 ,   鈴木善法 ,   川田将也 ,   大久保哲之 ,   北城秀司 ,   奥芝俊一 ,   加藤紘之 ,   藤宮峯子

ページ範囲:P.1185 - P.1193

【ポイント】
◆ヘルニアが発生する部位とメッシュで被覆すべき範囲を知る.
◆損傷してはいけない構造物,脈管・神経の位置を知る.
◆手術を迷いなくスムーズに行ううえで重要となり,再現性をもって視認可能な腹壁の層構造を知る.

鼠径部ヘルニア修復術に用いる形状付加型メッシュの種類と特徴

著者: 宮崎恭介

ページ範囲:P.1194 - P.1200

【ポイント】
◆組織代用人工繊維布,いわゆるメッシュは,①一般,②形状付加型,③腹膜欠損用の3つに分類される.
◆現在,鼠径部ヘルニア修復用の形状付加型メッシュには,鼠径部切開法用17種類,腹腔鏡下鼠径部ヘルニア修復術用6種類,合計23種類がある.
◆それぞれの形状付加型メッシュの特徴を理解し,その症例に最も適したメッシュを選択することが重要である.

周術期管理と合併症への対応

著者: 山本海介 ,   森嶋友一 ,   里見大介 ,   小林純

ページ範囲:P.1201 - P.1207

【ポイント】
◆周術期管理は,術前の状態の把握が重要である.肝硬変症や抗凝固・抗血小板療法中の症例には特に注意する.
◆メッシュ法に生じる合併症は術前以上のQOLの低下を招くため,一つ一つの手技を丁寧に行わなければならない.
◆正確な鼠径部の解剖の知識と鼠径部ヘルニアの病態の理解が,合併症を防ぐ一番の近道である.

各論1:鼠径ヘルニア修復術の各術式

—鼠径部切開法 組織縫合法による修復—Bassini法,McVay法,Anterior iliopubic tract法

著者: 三毛牧夫 ,   八木勇磨

ページ範囲:P.1208 - P.1216

【ポイント】
◆Bassini法は,鼠径床を切開後,内腹斜筋,腹横筋,横筋筋膜を鼠径靱帯ひさし部に縫合する再建法であり,改善の余地がある.
◆McVay法(あるいはCooper ligament repair)においては,“transition suture”を正しく理解することにより,再建法の利点・欠点を理解できる.
◆Anterior iliopubic tract(AIPTR)法は,現在でも必要不可欠の鼠径床再建法であるが,腹横筋腱膜弓が脆弱な場合は,Bassini法となってしまう.

—鼠径部切開法 メッシュを用いた修復—Lichtenstein法

著者: 中嶋昭 ,   川村徹 ,   野谷啓之

ページ範囲:P.1217 - P.1223

【ポイント】
◆Lichtenstein法は鼠径ヘルニア手術のグローバルスタンダードである.
◆前方アプローチ,オンレイメッシュ法であるため,ほぼすべての鼠径ヘルニア症例に適応することができ,術者による成績の差が少ない.
◆オンレイメッシュの最内側は恥骨上に2 cm以上オーバラップさせ,この部の再発を予防する.
◆メッシュの縫合固定においては関連3神経を確実に同定し,これらを避けて行うことによって,術後の慢性疼痛を予防する.疑問の場合は切断を躊躇しない.
◆本法の実施にあたって,大腿ヘルニアには注意が必要である.術前,術中において大腿ヘルニアを認めた場合は別途の対応を必要とする.

—鼠径部切開法 メッシュを用いた修復—メッシュプラグ法

著者: 蛭川浩史 ,   沼野史典 ,   山本潤 ,   福田進太郎 ,   多田哲也

ページ範囲:P.1224 - P.1232

【ポイント】
◆メッシュプラグ法の要点は,ヘルニア門全周で横筋筋膜と腹膜前筋膜浅葉を切離し,プラグをアンダーレイパッチとして,確実に腹膜前腔に挿入することであり,ほかの腹膜前修復術と同様である.
◆腹膜前腔は脂肪織と脂肪織の間の疎な結合組織層で,鈍的に剝離が可能である.プラグ法では大きな剝離は不要である.
◆メッシュプラグ法は,前立腺癌術後や再発症例などに対しても,良い適応と考えられる.

—鼠径部切開法 メッシュを用いた修復—Kugel法,Direct Kugel法—鼠径法による腹膜前腔の剝離

著者: 村井信二 ,   矢部信成 ,   清水裕智 ,   吉川貴久 ,   北里憲司郎 ,   尾戸一平 ,   小澤広輝

ページ範囲:P.1233 - P.1242

【ポイント】
◆Kugel法,Direct Kugel法はいずれも,腹膜前腔に形状記憶リング付きメッシュを留置する後壁補強を主とした手術法である.
◆腹膜前腔に到達する方法として,Kugel法は後方アプローチで鼠径管の開放を伴わず,Direct Kugel法は前方アプローチで鼠径管の開放を伴う方法である.
◆Kugel法もDirect Kugel法も,腹膜前腔の十分な剝離と精管,精巣動静脈の壁在化がポイントで,下腹壁動静脈,Cooper靱帯,精巣動静脈,外腸骨動静脈がメルクマールとなる.

—鼠径部切開法 メッシュを用いた修復—バイレイヤー法

著者: 長浜雄志

ページ範囲:P.1243 - P.1250

【ポイント】
◆PHS法ではUnderlay patchの十分な展開が必要である.
◆精管,精巣動静脈の壁在化はヘルニアの病型を問わず必須である.
◆壁在化によって生じるスペースは,腹膜前腔とはspermatic sheathによって境されている.spermatic sheathの十分な切離操作を行うことで,Underlay patchの十分な展開が可能になる.

—腹腔鏡下手術—TEP法

著者: 和田則仁 ,   古川俊治 ,   北川雄光

ページ範囲:P.1252 - P.1259

【ポイント】
◆TEP法では解剖学的ランドマークが少なく,至適剝離層を同定し,異なる剝離層をつなげる手技が重要となる.
◆毛細血管の走行や脂肪の色調などに目を凝らし,鈍的剝離により空間を広げ,異なる剝離層を意識的につなげていく.
◆鼠径部ヘルニアの手術適応は相対的であり,手技の研鑽により手術リスクを最小化することで適応を最大化できる.

—腹腔鏡下手術—TAPP法,Hybrid法

著者: 星野明弘 ,   山口和哉 ,   川村雄大 ,   松井俊大 ,   小郷泰一 ,   久米雄一郎 ,   奥田将史 ,   中嶌雄高 ,   岡田卓也 ,   東海林裕 ,   川田研郎 ,   中島康晃 ,   田邉稔 ,   河野辰幸

ページ範囲:P.1260 - P.1265

【ポイント】
◆外鼠径ヘルニア(JHSⅠ型)の場合,ヘルニア囊を環状切開し腹膜と確実に離断する.
◆腹膜前腔の剝離に関しては,内側は左右の腹直筋間(内鼠径ヘルニアの場合は反対側の腹直筋),外側は上前腸骨棘,前腹壁側はヘルニア門から3 cm程度,背側は輸精管と内側臍ヒダが交差するレベルまで十分に行う.
◆iliopubic tractより背側には陰部大腿神経の陰部枝および大腿枝,外側大腿皮神経が走行するため,タッキングは禁忌である.

—腹腔鏡下手術 RPSと単孔式手術—Needlescopic TAPP—2 mm,5 mm,2 mm

著者: 亀井文 ,   金平永二 ,   中木正文 ,   谷田孝

ページ範囲:P.1266 - P.1272

【ポイント】
◆最小創2 mm,5 mm,2 mmで行うTAPPにより,整容性の著しい向上と,腹壁破壊の大幅な軽減が実現できる.
◆エネルギーデバイスとしてフック型電気メスを使用することにより,細径化の導入が容易となる.
◆導入の際は,適応の慎重な選択と,2 mm鉗子の使用を徐々に増やし,取り扱いや手技に習熟していくことが肝要である.

—腹腔鏡下手術 RPSと単孔式手術—単孔TEP法

著者: 東海林裕

ページ範囲:P.1273 - P.1278

【ポイント】
◆TEP法はすべての操作を腹腔外で行う手技であるが,TAPP法に比べ,比較的容易に単孔手術を行うことができる.TEP法の弱点といえるヘルニアの診断を行うため,当科では最初に腹腔内観察を加えた単孔TEP手術を行っている.
◆臍部を小切開し腹腔内に5 mmトロッカーを挿入する.ヘルニアの型および対側ヘルニアの有無を確認する.観察後にトロッカーを抜去し,代わりに脱気用チューブ(16Frサンプチューブ)を挿入する.患側腹直筋前鞘を縦切開し,後鞘上に到達し鼠径部に向かってガーゼを用いてある程度剝離しておく.
◆単孔デバイスを装着して気囊する.5 mmフレキシブルスコープ,把持鉗子および超音波凝固切開装置(LCS)を用いて剝離,ヘルニア囊の処理およびメッシュでの補強を行う.
◆最後に腹腔内より仕上がりを確認して手術終了としている.

各論2

小児鼠径ヘルニア

著者: 遠藤昌夫

ページ範囲:P.1279 - P.1285

【ポイント】
◆小児の鼠径ヘルニアの特徴:外鼠径ヘルニアが主体で,手術的治療の基本はヘルニア囊となっている開存した腹膜鞘状突起の単純高位結紮にある.
◆切開法による根治手術:鼠径部皮膚切開により精索内のヘルニア囊を,輸精管・精巣動静脈から分離して,内鼠径輪の高さで結紮・閉鎖する.女児では,子宮円索とともにヘルニア囊を結紮する.
◆腹腔鏡下の根治手術:腹腔鏡による監視下に,経皮的に縫合糸を内鼠径輪のまわりに一周させて,体外から結紮・閉鎖する.
◆切開法か?腹腔鏡法か?:嵌頓・滑脱ヘルニア,再発ヘルニアでは,腹腔鏡法の優位性が高く,標準術式としてもシェアを拡大中である.

再発鼠径部ヘルニア(TAPP法)

著者: 早川哲史

ページ範囲:P.1287 - P.1292

【ポイント】
◆再発鼠径部ヘルニアにおいては,初回手術法の確認や正確な術前診断が必要である.
◆再発鼠径部ヘルニアに対するTAPP法は難易度が高く,腹腔鏡手術手技に十分習熟した外科医が実施する必要がある.
◆腹腔鏡法で手術を完遂できないと判断した場合では,鼠径部切開法に変更することをためらってはならない.

大腿ヘルニア

著者: 砂川祐輝 ,   蜂須賀丈博

ページ範囲:P.1294 - P.1298

【ポイント】
◆大腿ヘルニアは嵌頓・腸管壊死を伴うことが多く,それぞれの病態に応じた治療を行うため,鼠径法や大腿法などの各術式に精通しておく必要がある.
◆大腿法(Plug法)では,横筋筋膜・腹膜前筋膜浅葉を全周性に切開することで,鼠径靱帯を切り上げることなくヘルニア扁を還納できる.
◆大腿ヘルニアにおいても,腹腔鏡手術の有用性が示され,その適応が拡大しつつある.

病院めぐり

おだクリニック日帰り手術外科

著者: 小田斉

ページ範囲:P.1299 - P.1299

 玄界灘を臨む福岡市は新鮮な海の幸と辛子明太子やとんこつラーメンなど豊富な食材と美味しい料理が揃う地です。近年は東アジアの玄関口として国際交流も盛んになりました。当院は、日帰り手術に専門特化した6床の有床診療所として2007年10月に福岡市に開院しました。
 日帰り手術は1970年代に米国で始まり,日本では1990年代後半から少しずつ普及しています.当院が開業した時期には日帰り手術センターを併設する病院や日帰り手術専門診療所が全国に10か所ほどありました.日帰り手術は外来で行う簡単な手術ではなく,鼠径ヘルニア,胆石症,下肢静脈瘤など,数日間から1週間ほど入院を要していた比較的大きな外科手術を日帰りで行うことを意味します.日帰り手術による患者のメリットは,入院の煩わしさがない,入院中の仕事や家族の世話などを心配しないで済む,入院費用がない分だけ支払いが少ないなど,数え上げたらきりがありません.病院のメリットは,入院ベッドを有効に活用でき,患者が口コミなどで多く集まることです.さらに保険者のメリットは,入院医療費の削減効果です.「三方一両損」という大岡越前守の名裁きがありますが,日帰り手術は患者,病院,保険者にメリットを生む「三方一両得」です.価値(value)=質(quality)÷価格(cost)という経済理論に基づき,当院では入院手術と同等の高い質の医療を入院費用のない低価格で提供し,日帰り手術の価値を高めることを目標にしています.

ラパコレUpdate 最近のコンセプトと手技・3

標準的ラパコレ—TANKO,Needle,RPS胆摘術

著者: 多賀谷信美

ページ範囲:P.1300 - P.1303

はじめに
 腹腔鏡下手術の発展により,さらなる低侵襲性をもたらすreduced port surgery(RPS)としての単孔式手術(TANKO)1)とneedlescopic surgery(Needle)2)が台頭してきた.RPSは標準的手術手技に比べ,手術の完遂にはいくつかの困難性を克服しなければならないものの,整容面の向上は言うまでもない.本稿では,胆囊摘出術におけるRPSの手術手技を安全に完遂するための手術方法および工夫について解説する.

手術トラブルを未然防止する12の行動特性・7

アクシデントに適切に対応する—アクシデント発生後の原因分析やリカバリーの取り組みが迅速である

著者: 石川雅彦

ページ範囲:P.1304 - P.1307

●はじめに
 外科手術の実施に際しては,術前・術中・術後にさまざまなアクシデントが発生する可能性があり,発生した場合には適切な対応の取り組みが求められている.本稿では,アクシデントに適切に対応することに関連して,外科医がアクシデント発生後に,さらにトラブルに発展することを想定し,事例がなぜ,発生したのかという原因分析や,リカバリー(復帰,回復)の取り組みを迅速に実施することが,患者への影響拡大の防止とトラブル発生の未然防止に資するということに焦点をあてて検討する.

昨日の患者

津波被災した高校生の恩返し

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1223 - P.1223

 東日本大震災では巨大津波が三陸沿岸を襲い,多数の尊い人命をはじめとする甚大なる被害が生じた.そして大震災から早5年が経過したが,被災地の復旧・復興はいまだ遅々として進まない.
 休日に仙台市内の献血ルームで検診医を勤めていると,女子高校生が初めての献血に訪れた.住所欄をみると,岩手県陸前高田市,しかも仮設住宅であった.高校生の献血者が少ないうえに,わざわざ遠隔地から献血に来てくれたことに大いなる興味を覚えた.そこで献血に来た理由を尋ねると,「東日本大震災では全国からたくさんの援助を受けましたので,ささやかながらも恩返しをしたいと常々考えていました.16歳となり献血できることを知り,献血ルームがある仙台に高速バスで来ました」と,答えた.さらに「仮設住宅が狭いため,息抜きも兼ねてですが」と,少し恥ずかしげであった.あまりにも健気な態度に,「直通の高速バスでも片道3時間半かかるのに,わざわざ遠方から献血に来ていただき,誠にありがとうございました」と,自然と感謝の言葉が出た.

ひとやすみ・142

MRの苦労を知る

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1242 - P.1242

 日本赤十字社は医療機関からの血液要請に応じ,必ず供給することを責務としている.私が勤める宮城県赤十字血液センターでは午前と午後の定期便のほかに,通常走行による臨時便,さらにただちに輸血をしないと生死にかかわる緊急要請にはサイレンを鳴らして緊急搬送している.
 しかしながら昨今,経費削減のため血液の在庫を少なくし,必要時に随時発注する病院が増えつつある.そのため臨時便さらには緊急搬送件数が増加し,人員や供給車両を増加しても対応が困難な事態が懸念される状態になっている.しかも血液の薬価は10年来同額であり,血液事業は企業内努力にもかかわらず大幅な赤字経営となっている.

1200字通信・96

伊勢志摩サミット

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1251 - P.1251

 今年5月に賢島で伊勢志摩サミットが開催されました.1年前にその開催が発表されて以来,地元では大変な盛り上がりをみせてきましたが,なにより無事に終了し,三重県民の一人としてほっとしています.
 今回のサミットが開催された賢島は,学生時代から数えるとすでに40年近く出入りしている場所であり,さらに,サミットのオープニングの場となった伊勢神宮(お伊勢さん)内宮は,毎年数回お参りするということで,すべてが「地元」という感が強く,事の成り行きを見守っていたことでした.

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原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P. - P.

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P. - P.

あとがき

著者: 田邉稔

ページ範囲:P.1314 - P.1314

 今から20年以上前,私が駆け出しの肝胆膵外科医として修練を積んでいた時の話を紹介します.言わずと知れた大手術,膵頭十二指腸切除の術者としてのチャンスが回ってこようものなら,「今度こそは美しい手術を」といきり立って臨んだものです.そんなある日,手術の指導をしてくださっていた島津元秀先生が私に向かって言われた“名言”があります…「膵頭十二指腸切除はヘルニア手術に似たり!」.つまり,膵頭十二指腸切除は複雑な大手術ですが,解剖を理解して一つ一つ手順を進めれば美しい手術になるという点でヘルニア手術に似ている…という意味です.
 外科を志す者が初めて教わる手術の一つが鼠径ヘルニア手術です.ヘルニア手術は将来どんな大外科医になるとしても,必ず経験しなければなりませんし,逆にこの手術を美しく出来なければ,その後学ぶ多種多様な手術もいい加減になってしまうことでしょう.鼠径部の解剖は複雑であり,これを熟知したうえで正確な手術を行うことは必ずしも容易ではありません.さらに最近では,McVay法をはじめとした従来法に加え,様々なメッシュの開発や腹腔鏡下手術の登場により,ベテラン外科医でもこれらの特徴を把握し,使いこなすことが難しくなってきています.本特集では,common diseaseである鼠径部ヘルニアに焦点をあて,疾患の分類や特徴,手術に必要な臨床解剖,様々な手術法や困難症例への対処法まで,明日の臨床に役立つ知識や技術を最前線で活躍するエキスパートに解説していただきました.若手外科医の座右の書となることを願っております.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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