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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科71巻11号

2016年10月発行

雑誌目次

増刊号 消化器・一般外科医のための—救急・集中治療のすべて

著者: 田邉稔

ページ範囲:P.3 - P.3

 消化器・一般外科医は良・悪性疾患に対する予定手術ばかりでなく,多くの救急疾患を扱わなければならない.その範囲は,急性虫垂炎や急性胆嚢炎などのcommon diseaseから,重症外傷や劇症肝炎など生命を脅かす疾患まで多岐にわたる.また,定時手術であっても開胸・開腹を伴う食道癌手術や,術後重症合併症を併発したときには,高度な集中治療を要するケースが珍しくない.集中治療や救急医療分野は,一部のハイボリュームセンターでは専門診療科として独立しているものの,国内の多くの病院では消化器・一般外科医がその役割を兼務しなければならないのが現状である.したがって,消化器・一般外科医にとって救急・集中治療は避けて通れない分野であり,その熟達度は外科医としての実力の重要な要素と言える.
 本増刊号では,消化器・一般外科医がかかわる数多くの救急疾患に加え,呼吸・循環管理や重要臓器不全対策など,重症患者を救命するための基本的な事項を網羅した.また,各チャプターの執筆を,消化器・一般外科,集中治療,救急医療の第一線で活躍するエキスパートにお願いした.内容的には単なる読み物にとどまらず,臨床現場で実践的に役立つように図表を多くし,外科専門医を目指す若手医師ばかりでなく研修医にもわかりやすいように技術や情報をコンパクトにまとめていただいた.

Ⅰ章 周術期の集中治療 呼吸管理

酸素療法

著者: 陳和夫

ページ範囲:P.10 - P.15

POINT
■酸素の投与法には,患者の呼吸パターンによって吸入気酸素濃度が変化する低流量法と,一定の酸素濃度を吸入可能な高流量法があるが,PaCO2値が45 Torrを超える患者では高流量法を使用したほうがよい.
■CPAP,NPPVの使用により,旧来の酸素投与に比較して,持続陽圧下でも酸素投与可能となり,周術期呼吸管理に有用な場面が多いが,さらにNPPVでは換気補助が行えるので,特に高二酸化炭素血症患者には有用である.
■high flow systemは高流量法の酸素投与システムの1つであり,吸入気酸素濃度を100%近くまで投与可能で,気道の加湿,わずかの持続陽圧,死腔減少などの長所も多いが,効用が不明な点も残されている.

気管挿管・人工呼吸の適応

著者: 大塚将秀

ページ範囲:P.16 - P.19

POINT
■呼吸不全は気道の開通障害・換気不全・肺の酸素化障害に分類され,それぞれ気管挿管・人工呼吸・酸素療法が適応となる.
■気管挿管は,気道確保・高濃度酸素の酸素療法・高い圧による人工呼吸が必要なときのほか,意識障害・高度の循環不全時に行う.
■人工呼吸は,高度の酸素化障害・換気不全・呼吸筋疲労予防・呼吸不全進行の予防に対して行う.

人工呼吸器管理のモードと換気設定

著者: 内山昭則

ページ範囲:P.20 - P.26

POINT
■呼吸不全患者の人工呼吸条件の設定においては自発呼吸との同調性をいかに保つかが重要である.
■呼吸不全の病態に適合した条件設定が大切である.
■条件設定では血液ガスデータの改善だけではなく肺保護換気に留意しなければならない.

人工呼吸器関連事象・人工呼吸器関連肺炎の予防と治療

著者: 志馬伸朗

ページ範囲:P.27 - P.33

POINT
■人工呼吸器関連事象(VAE)とは,2013年より米国CDCが使い始めた人工呼吸患者における質の評価サーベイランス指標である.しかし,その評価は確立しておらず,臨床的意義も現時点では不明である.
■人工呼吸器関連肺炎(VAP)の予防策は確立したものがなく,簡便かつ有用性が期待できる方策をまとめて適用するバンドルアプローチを行う.
■VAPの診断には黄金律がない.臨床的な疑いと微生物学的診断を適切に行いながら慎重に判断する.
■VAPの治療は経験的に開始するが,微生物学所見によりde-escalationする.臨床所見やプロカルシトニンの推移などを用いて治療終了を評価する.

ウィーニングと抜管

著者: 布宮伸

ページ範囲:P.34 - P.41

POINT
■ウィーニング開始の絶対条件は,人工呼吸管理の原因となった病態の改善である.
■ウィーニングの遅れは人工呼吸管理の長期化を招きやすいため,人工呼吸管理を始めたその瞬間から,常にウィーニングの可能性を念頭に置いた管理を行う.
■人工呼吸中の鎮静は必要最小限にとどめる.持続鎮静中でも1日1回は患者を覚醒させてウィーニングの可否を判断する.
■ウィーニング可能と判断されれば,できる限り速やかに自発呼吸トライアル(SBT)に移行する.

気管切開/輪状甲状膜切開

著者: 山口嘉一 ,   野村岳志

ページ範囲:P.42 - P.49

POINT
■前頸部からの気道確保では正中でアプローチすることが最重要である.
■経皮的気管切開は気管切開術と比較し,コスト,時間に優れた手技である.超音波と気管支鏡がより安全な手技のために重要である.緊急時の適応はなく,症例は選ぶ必要がある.
■メスとブジーを用いた輪状甲状膜切開のトレーニングを平常時から行う必要がある.

循環管理

集中治療領域における循環動態の評価

著者: 林下浩士

ページ範囲:P.50 - P.54

POINT
■循環評価の指標のなかで,何よりも血圧および脈拍の2指標が重要である.それに加え血管内容量を評価し(時にその評価は困難であるが),適切に対処することが,組織灌流障害ひいては各臓器機能の低下を予防・改善するうえで大切である.その評価により容量負荷,心血管作動薬の持続投与,時には利尿薬投与などの前負荷を軽減する治療を選択する.
■血管内容量を評価する数々のモニタリングには,それぞれに制限や欠点があり適正な血管内容量の判断は困難であることが多い.血管内容量の評価は,単独の指標を参考にするのではなく複数の指標から総合的に判断すべきである.
■乳酸値およびその推移は,循環動態の緊急度・重症度,それに対する治療効果を知るうえで有用な指標である.

集中治療室における心血管作動薬と抗不整脈薬の使用法

著者: 金澤伴幸 ,   杉本健太郎 ,   森松博史

ページ範囲:P.55 - P.59

POINT
■集中治療室で用いる心血管作動薬はカテコールアミンと非カテコールアミンに分かれる.
■心血管作動薬にはそれぞれの特性があり,それを理解して使用する必要がある.
■集中治療室で用いる抗不整脈薬はβブロッカーとアミオダロンが多くなってきている.
■抗不整脈薬の作用機序・副作用を理解して使用する必要がある.

周術期における静脈血栓塞栓症の管理

著者: 鈴木健人 ,   藤澤美智子 ,   武居哲洋

ページ範囲:P.60 - P.64

POINT
■肺血栓塞栓症は致死的な周術期合併症であり,リスクの階層に応じた適切な予防法を実践する必要がある.
■術後早期の離床は静脈血栓塞栓症予防の基本である.
■従来の未分画ヘパリン,ワルファリンに加え,低分子ヘパリンや新規抗凝固薬が静脈血栓塞栓症の予防・治療における新たな選択肢となっている.

ECMO(VA-ECMO)

著者: 梅井菜央 ,   市場晋吾

ページ範囲:P.65 - P.70

POINT
■ECMOは①VA(veno-arterial:静脈脱血-動脈送血)ECMOと②VV(veno-venous:静脈脱血-静脈送血)ECMOの大きく2つに分類される.
■VA-ECMOは呼吸循環補助に,VV-ECMOは呼吸補助に使用する.
■VA-ECMO自体は治療ではないが,心機能の回復まで,移植やVAD(ventricular assist device)などの補助循環までのブリッジとして周術期に必要となることがある.

敗血症と多臓器不全

敗血症の概念と診断基準

著者: 松田直之

ページ範囲:P.71 - P.76

POINT
■新しい敗血症の定義と診断として,2016年にSepsis-31)が公表され,敗血症の概念が変わろうとしている.
■Sepsis-31)は敗血症を,感染症あるいは感染症を疑う状態において,制御不能な宿主反応により,生命を脅かす臓器障害が進行する状態と定義した.
■Sepsis-31)は敗血症性ショックを,循環,細胞,代謝の重篤な異常をきたし,死亡率を増加させる可能性のある敗血症の1分画と定義し,十分な輸液にもかかわらず,平均血圧65 mmHg以上を維持するために循環作動薬を必要とし,かつ血清乳酸値が2 mmol/L(18 mg/dL)を超えて上昇する状態と変更された.
■Sepsis-31)における敗血症の診断手順は,院外,外来,病棟などの一般患者と,集中治療室などの重篤患者で区分する.院外,外来,病棟などでは,①呼吸数≧22回/分,②意識変容,③収縮期血圧≦100 mmHgを各1点とするquick SOFA〔quick sequential(sepsis-related)organ failure assessment :qSOFA〕を用い,2点以上で敗血症の疑いとする.
■Sepsis-31)における敗血症の最終診断は,SOFAスコアの合計点数の2点以上の急上昇とする.

敗血症性ショックの治療

著者: 江木盛時

ページ範囲:P.77 - P.81

POINT
■敗血症性ショックの治療の第一段階は,輸液療法である.初期輸液量は30 mL/kgを目安とし,心臓超音波検査での評価や輸液反応性の評価を行いつつ輸液を行う.
■十分な輸液療法を施行してもショック状態が継続する場合は,血管収縮薬の投与を行う.ノルアドレナリン(初期量目安;0.05 μg/kg/分)を第一選択とし,それでも血管拡張型ショックが改善しない場合にはバソプレシンの投与を考慮する.
■敗血症性ショック患者の20〜40%には,敗血症性心筋障害を合併する.心臓超音波検査で心機能を評価し,心機能低下症例にはドブタミンなどの強心薬の投与を考慮する.

ARDSの診断と治療—最近の知見と重要ポイント

著者: 成宮博理 ,   橋本悟

ページ範囲:P.82 - P.88

POINT
■ARDSは様々な疾患に続発する,低酸素血症をきたす急性の肺障害であり,肺胞毛細血管内皮細胞と肺胞上皮細胞の透過性亢進による肺水腫を特徴とする.
■ARDSの死亡率は30〜40%と非常に高いが,ARDSの病態は経時的かつheterogeneousに変化するため,画一的な治療方法の確立は困難である.
■治療にあたっては,医師のみならず,看護師や薬剤師,臨床工学技士,理学療法士や栄養士など様々な職種の協力を集中させることが必要になる.

急性腎障害の診断と治療

著者: 幸村英文 ,   西田修

ページ範囲:P.89 - P.93

POINT
■急性腎障害(AKI)を早期に発見し,早期に治療を開始する.
■尿流を絶やさない.初期蘇生を行ったあとは,昇圧薬と利尿薬を用いて腎うっ血を起こさないようにする.
■AKI発症の原因の約半数はseptic AKIである.
■メディエータ対策,pHの維持,腎うっ血,腎の仕事量軽減のためにも早期から血液浄化を行う.

DICの診断と治療

著者: 小野雄一 ,   丸藤哲

ページ範囲:P.95 - P.98

POINT
■基本は原疾患,基礎病態の治療である.
■凝固,線溶系からみた病型分類の理解が必要である.
■薬剤治療の基本は抗凝固療法である.

血液浄化療法

著者: 服部憲幸 ,   織田成人

ページ範囲:P.99 - P.103

POINT
■急性血液浄化療法は単なる腎代替療法としてだけではなく,炎症性メディエータなどの除去により循環動態を安定化させる治療法としても期待されている.
■敗血症性ショックに対しては,持続的血液濾過透析やエンドトキシン吸着療法が施行される頻度が高い.
■急性血液浄化療法は多くの場合,補助療法であり,救命のためには原因の検索と治療が重要である.

栄養管理

救急・集中治療と栄養管理

著者: 山田勇 ,   小谷穣治

ページ範囲:P.104 - P.110

POINT
■すべての周術期患者に対し栄養リスク評価を行い,早期に栄養管理を行う.
■可能な限り経腸栄養を経静脈栄養より優先して行う.
■経腸栄養時には常に消化管の認容性をモニタリングし,誤嚥や下痢への対策を講じる.
■開始早期の投与エネルギー量において,ある程度のunder feedingは許容する.
■開始早期からの補足的経静脈栄養は行わない.
■栄養剤の選択では,病態によりPFC(protein,fat,carbohydrate)バランス,形態,濃度,添加物などを考慮する.
■強化インスリン療法のような厳重な血糖管理は行わず,BS<180 mgを目標とする.
■経静脈栄養ではブドウ糖単独輸液は避け,開始早期からの脂肪乳剤投与は控える.
■免疫修飾栄養剤(IMD)に関して現在明らかなエビデンスが不足しており,病態によらない画一的なIMDの投与は控える.

特殊な病態と栄養管理

著者: 真弓俊彦 ,   新里到 ,   眞田彩華 ,   鍋島貴行 ,   宮里和明 ,   石川成人 ,   大石基 ,   遠藤武尊 ,   中園和利 ,   弓指恵一 ,   山中芳亮 ,   大坪広樹 ,   古屋智規

ページ範囲:P.111 - P.113

POINT
■周術期や重症患者では臓器障害を併発していることが少なくなく,病態を把握し,障害臓器に応じた栄養管理が必要である.
■日本集中治療医学会から2016年に「日本版重症患者の栄養療法ガイドライン」が発表されている.
■特殊な病態でも,基本は早期の経腸栄養である.ただし,投与カロリー量を1日の必要エネルギー量まで急激に上げる必要はない.

疼痛・不穏管理

人工呼吸と鎮痛・鎮静・せん妄対策

著者: 奥田淳 ,   鈴木武志 ,   森﨑浩

ページ範囲:P.114 - P.120

POINT
■適切な鎮痛・鎮静・せん妄対策は,大手術後患者を含め集中治療室(ICU)入室患者の予後を改善する.
■2014年に日本集中治療医学会より公表されたJ-PADガイドラインに,鎮痛・鎮静・せん妄対策の重要性が詳述されている.
■関連ガイドラインに準拠し各施設に適した鎮痛・鎮静計画を立てたうえで,日常診療で遵守することが肝要となる.

Ⅱ章 外傷外科 総論

外傷外科の特殊性と専門性

著者: 益子邦洋 ,   朽方規喜 ,   大友康裕

ページ範囲:P.122 - P.127

■はじめに
 わが国では2000年以降,外傷診療体制の整備が進められてきた.外傷病院前救護ガイドライン(JPTEC),外傷初期診療ガイドライン(JATEC),ドクターヘリやドクターカーを通じた病院前外傷診療,日本外傷データバンク(外傷登録)などの整備により,重度外傷例が救命の可能性を残しつつ緊急手術などの根本治療に引き継がれるようになった.
 瀕死の外傷患者を救命し,後遺症を軽減して早期の社会復帰を達成するためには,受傷直後から病院到着までのプレホスピタルケア,病院到着後の初期診療,これに引き続く緊急手術やカテーテル治療,さらには集中治療に至るすべてのフェーズにおいて,時間軸を考慮した迅速・的確な診療が求められる.すなわち,外傷診療は,患者が病院へ到着してから始まるのではなく,受傷の現場から始まることをまず認識しなければならない.
 そこで本稿では,外傷外科とacute care surgery,外傷外科の特殊性,外傷外科の専門性,開腹時のcritical decisionにつき述べる.

救急室での開胸術と開腹術・出血性ショック時の大動脈遮断手技

著者: 益子一樹 ,   松本尚

ページ範囲:P.128 - P.132

■はじめに
 外傷初期診療においては,詳細な損傷検索に優先してABCDEアプローチによる致死的な生理的異常の確認と,速やかな是正を行う,という鉄則がある.特に心停止が切迫するようなB(呼吸),C(循環)の異常においては,その回避のために迅速な開胸,開腹手術が必要となる.D(意識)の異常においても,B,C異常に起因する低酸素が意識障害の原因であったり,ショックの遷延が二次的脳損傷の要因となりうる場合があるため,時には頭部外傷(切迫するD)の精査よりも呼吸・循環に対する手術が優先される.このような,生理学的異常の是正を目的に行う蘇生的手術には,まさに外傷外科のエッセンスが詰まっているといっても過言ではない.
 本稿においては,救急室にて行う開胸・開腹手術の特殊性と,施行時の心構えや注意事項,出血性ショックに対する大動脈遮断手技について説明する.
 前提:題名には「救急室での」と限定しているが,手術を行う「場所」が重要なのではない.外傷蘇生の一環として瞬時の決断のもとに遂行される蘇生的手術について概説するものであり,救急室であっても,集中治療室であっても,手術室であっても,そのコンセプトに違いはない.また,ここでは救急室における速やかな血管造影やCT撮影を可能とした,いわゆる“Hybrid ER”でない場合を想定しており,Hybrid ER下での初期診療においては他稿を参考にされたい.

外傷急性期凝固障害に対するdamage control resuscitationと“damage control strategy”

著者: 久志本成樹 ,   小林道生 ,   吉田良太朗 ,   横川裕大

ページ範囲:P.133 - P.141

■はじめに
 外傷患者の急性期死亡原因の約40%は出血によるものであり,大量輸血を要する症例の死亡率は50%を超える1).一方,外傷による死亡の少なくとも10%は防ぐことができた可能性があり,その15%は早期の凝固異常に関連したものである2〜4)
 大量出血を伴う外傷患者の治療では,主要な出血源を外科手術などによってコントロールできないことではなく,凝固異常を中心とした生理学的恒常性破綻によって出血を制御できないことにより生命を失うことのほうが多い5,6).出血による死亡の50%以上は凝固線溶破綻によるものであり6,7),急性期凝固異常の制御は重症外傷治療における中心的なテーマである8)

perihepatic packingとopen abdominal managementの実際

著者: 渡部広明 ,   下条芳秀 ,   比良英司

ページ範囲:P.142 - P.146

■はじめに
 全国的に外傷外科手術件数は減少しているが,手術でなければ救命できない症例は依然として存在している.特に肝損傷は容易に致死的な出血性ショックとなり,早期の止血を得ることができなければ救命困難となる重篤な外傷の1つである.こうした症例には通常の予定手術に準じたアプローチ手法では対応できず,確実な救命を目指した外傷基本戦略を理解しておく必要がある1).外傷外科特有といえるダメージコントロール戦略(damage control strategy)は重症外傷患者の救命においてきわめて重要な戦略であり1),外傷外科手術を行う外科医はこれを理解し実践できることが求められる.
 今回,腹部重症外傷の代表格である重症肝損傷におけるdamage control surgeryとしてのperihepatic packingについて解説し,さらにその後に行われるopen abdominal management(OAM)の実際について解説する.

外傷外科におけるIVR

著者: 船曵知弘

ページ範囲:P.147 - P.152

■はじめに
 外傷患者の救命のためには,酸素化の維持,出血のコントロール,頭蓋内圧の制御,感染の回避などが重要である.出血をコントロールする止血術の1つとしてinterventional radiology(IVR)は確立されたものになっている.しかしながら,その考え方や方法を誤ると致命的になりうるため,十分な知識と経験から戦略を構築し,症例に合った戦術を選択しなければならない.

外傷外科トレーニングコース

著者: 伊澤祥光

ページ範囲:P.153 - P.157

■はじめに
 日本では,胸腹部の重症外傷外科手術は全国の救命救急センターを中心に行われているが,外傷症例数自体の減少と非手術療法の発達,症例集約化が不可能であることから,各施設あたりの胸腹部外傷外科手術症例数は多くはない.このため,現場での若手外科医の胸腹部外傷外科手術修練が難しい.一方で外傷外科手術は決してなくなることはないため,少ない胸腹部外傷外科手術を若手外科医にどのように伝えていくかが問題となっている.現在わが国では,これらの問題に対して様々な試みが行われている.
 本稿では現在行いうる修練に関して,外傷外科の特徴と必要となるトレーニングの内訳を含めて述べる.

部位別対処法

肝損傷

著者: 富田晃一 ,   千葉斉一 ,   大島剛 ,   河地茂行

ページ範囲:P.158 - P.164

POINT
■肝損傷の初期対応・手術は,いかに迅速に止血できるかが最も重要である.
■重症肝損傷では,ガーゼパッキングを中心とした短時間のdamage control surgeryと,計画的再手術を含む戦略的な段階的治療が求められる.
■近年,非手術療法の割合が増加しているが,重症例の救命のためには適切な手術療法への理解が必要不可欠である.

脾損傷

著者: 疋田茂樹 ,   浅桐公男 ,   八木実 ,   久下亨 ,   赤木由人 ,   嬉野光俊 ,   弓削浩太郎 ,   鍋田雅和 ,   宇津秀晃 ,   高須修 ,   小金丸雅道 ,   安部等思 ,   高松学文 ,   溝手博義

ページ範囲:P.165 - P.172

POINT
■外傷による脾損傷の治療方針は患者の循環動態により決定され,肉眼分類では決定されない.
■非手術治療を行った場合の安静度は確立されていない.
■如何なる治療を行っても,初療後2週間までに仮性動脈瘤の有無を検索すべきである.
■如何なる治療を行っても,脾摘後重症感染症の危険性がある.

膵損傷

著者: 栗栖茂 ,   梅木雅彦

ページ範囲:P.173 - P.177

POINT
■膵損傷の治療方針決定のうえで最も重要なポイントは主膵管損傷の有無である.主膵管損傷がない場合には縫合・ドレナージでよく,主膵管損傷を伴う場合には膵切除などが必要となる.
■主膵管損傷の診断には内視鏡的逆行性膵管造影(ERP)が最も有用であり,症例によってはERPに引き続くステント留置が有用な場合もある.
■膵単独損傷では受傷後早期の臨床症状は軽微なことも多いが,診断・治療を誤ると容易に「防ぎ得た外傷死」となりうる.

十二指腸損傷

著者: 若狭悠介 ,   木村憲央 ,   梅津誠子 ,   吉田達哉 ,   石戸圭之輔 ,   和嶋直紀 ,   袴田健一

ページ範囲:P.178 - P.183

POINT
■後腹膜に位置し,膵,肝,消化管,大血管に隣接する解剖学的特徴から,他臓器損傷を伴うことが多い.
■FAST陽性,CT上の後腹膜腔内ガス像,右腎傍腔の液体貯留,十二指腸壁肥厚などは,十二指腸損傷を疑う重要な所見である.
■バイタル不安定時にはダメージコントロール手術を,安定時には主膵管損傷の有無,膵頭部損傷の程度,十二指腸損傷の部位と範囲に応じて術式選択を行う.

胃・腸管・腸間膜損傷

著者: 臼井章浩

ページ範囲:P.184 - P.188

POINT
■消化管損傷の術前での確定診断は難しく,術中の丹念な検索が損傷の最終診断となる.
■通常の消化管の修復・再建手技に加え,損傷の全体像や全身状態を考慮した手術戦略が重要である.

腹部大血管損傷

著者: 本竹秀光

ページ範囲:P.189 - P.192

POINT
■大量腹腔内出血や後腹膜血腫の中での出血源検索には,大動脈の一時的遮断が重要である.
■腹部大血管は後腹膜に位置するので,その解剖を熟知することが求められる.
■後腹膜へのアプローチは,定例の消化管手術の際に習得することで緊急時に役立つ.
■最近の知見として,腹部大動脈損傷や下大静脈損傷での血管内ステント治療の報告が散見される.

腎損傷

著者: 明石卓 ,   北野光秀

ページ範囲:P.193 - P.197

POINT
■腎単独外傷の割合は多くなく,ほかの腹腔内臓器損傷を伴うことが多い.
■腎損傷による出血は,タンポナーデ効果により緊急手術になることは少ないが,外科的治療の際は対側腎を考慮する必要がある.
■腎損傷の合併症である尿漏は自然消退することが多いが,重篤な感染症を併発することがある.

肺損傷・フレイルチェスト

著者: 西海昇

ページ範囲:P.198 - P.201

POINT
■肺損傷は,初療時の病態と最初の胸部単純X線写真から重症度を判定し,治療を開始する.
■肺損傷に伴う気道出血は,受傷側気管支閉塞により健側肺への血液の垂れ込みを防止する.500 mLを超える胸腔内出血は,緊急開胸手術を考慮する.
■フレイルチェストは,胸部単純X線写真に映らない胸骨,前・前側方の多発肋(軟)骨骨折が重症である.
■フレイルチェストの急性期は,内固定が重要である.内固定は,mask CPAPやNPPV,CPPVにより内側から胸壁に陽圧をかける.3病日外科的固定を追加する.

Ⅲ章 消化器救急疾患 総論

急性腹症:定義と鑑別診断

著者: 上田浩樹 ,   田邉稔

ページ範囲:P.204 - P.208

■定義
●急激に発症した腹痛のなかで緊急手術を含む迅速な対応を要する腹部疾患群を急性腹症と呼ぶ1)
●確定診断が得られないまま緊急に対応する必要が生じる場合もあることから,この概念が導入されている2)
●原疾患が腹部疾患とは限らない.消化器以外に循環器,呼吸器,産科婦人科など極めて広範囲な領域の疾患が鑑別に挙がる.

消化器癌関連のoncologic emergencyとその対処法

著者: 鈴木健 ,   浜本康夫

ページ範囲:P.209 - P.214

 Oncologic emergencyとは,悪性腫瘍もしくは治療を含めた悪性腫瘍に付随した病態により,救命のために可及的速やかな対処を要する病態である.通常の救急医療と比べると,基礎疾患である悪性腫瘍の病態,予後,治療により方針が大きく左右されることや特有の考え方があるため,豊富な知識と経験が必要である.単なる救命を目標とするばかりではなく,治療介入の判断に基礎疾患の予後が大きく関与する.そのため,予後を客観的に評価し治療介入によるリスク・ベネフィットを速やかに検討する必要もある.また病勢悪化ばかりではなく,癌治療(手術・放射線治療や薬物療法)自体による有害事象が病態を複雑にすることがあり,配慮が必要である.
 一般的な注意事項としては,①担癌患者の救急では易感染性,血栓傾向,出血傾向や高Ca血症(malignant associated hypercalcemia:MAH)および腫瘍崩壊症候群(tumor lysis syndrome:TLS)などの異常をきたす場合があるので,凝固異常,各種電解質(特にCa,アルブミンを忘れないこと)および血糖,尿酸などの結果も確認する.②病態の鑑別には,画像診断が重要であるため,必要に応じて速やかに造影CTを躊躇なく実施できる体制が望ましい.③逆に画像診断で見逃しがちな病態も多くあるため,問診,病歴や理学所見などの情報を的確に収集することも重要である.
 以下に代表的なoncologic emergencyについて,各論を述べる.

疾患別対処法 上部消化管

特発性食道破裂

著者: 酒井真 ,   宗田真 ,   宮崎達也 ,   桑野博行

ページ範囲:P.215 - P.219

POINT
■特発性食道破裂(Boerhaave症候群)は比較的稀な疾患とされているが,本疾患が発生した際には縦隔気腫や皮下気腫,気胸に加え,縦隔洞炎,膿胸,ARDSや敗血症などの病態を続発することがあり,高い致死率を呈する重篤な疾患である.
■早期診断のためには,胸痛,腹痛,背部痛の鑑別疾患として本疾患をまず疑うことが重要である.飲酒後の激しい嘔吐をきっかけとして発症することが多く,十分な問診が必要である.本疾患の予後には,発症後24時間以内に適切な治療を開始できるか否かが大きく影響する.
■治療の基本は外科的治療であり,基本的手技は,①穿孔部の閉鎖,②被覆(パッチ)術による補強,③洗浄と縦隔および胸腔のドレナージ,である.

胃・食道静脈瘤出血

著者: 小原勝敏

ページ範囲:P.220 - P.227

POINT
■静脈瘤出血時の緊急内視鏡による診断は極めて重要であり,直ちに緊急止血へと移行できる.
■緊急内視鏡下の治療においては,患者の全身状態を把握したうえで,適切な治療手技を選択することが大切である.
■内視鏡止血後に再出血防止を考慮した緻密な治療を行うことが,肝硬変患者の管理において重要である.

胃・十二指腸潰瘍出血

著者: 丸山紀史 ,   横須賀收

ページ範囲:P.228 - P.231

POINT
■アスピリン・NSAIDsなどによる薬剤起因性潰瘍が増加している.これらの薬剤使用にピロリ感染を伴った場合には3.53倍の潰瘍リスク増加がある.
■輸液や輸血などによって循環動態やヘマトクリット値,凝固系などの補正を迅速に行うことで,胃・十二指腸潰瘍出血に伴う死亡率の低下が得られる.
■非静脈瘤性上部消化管出血に対する第一選択は内視鏡的止血術であり,種々の手技と効果を理解することが重要である.

胃・十二指腸潰瘍穿孔

著者: 西田正人 ,   三ツ井崇司 ,   八木浩一 ,   愛甲丞 ,   山下裕玄 ,   野村幸世 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.232 - P.233

POINT
■突然急激に発症した上腹部痛で,腹腔内遊離ガス像が画像で確認された場合には,胃・十二指腸潰瘍穿孔を疑う.
■保存的治療は有効であるが,手術的治療を要する状況を理解しておくことが重要である.

下部消化管・腹壁

イレウス

著者: 前田耕太郎 ,   花井恒一 ,   升森宏次 ,   勝野秀稔

ページ範囲:P.234 - P.237

POINT
■腹痛,嘔気,嘔吐,排便・排ガスの停止などのイレウス症状を呈する病態では,まずイレウスであることを診断する.
■イレウスと診断したら,機械的イレウスか機能的(麻痺性)イレウスであるかを診断する.
■機械的イレウスで絞扼性と診断すれば緊急手術を行い,単純性イレウスや機能的イレウスでは保存的治療を開始する.
■単純性イレウスでも,経過中に絞扼性イレウスに移行することがあるので,連日病態を注意深く観察する.

下血

著者: 板橋道朗 ,   谷公孝 ,   小川真平 ,   山本雅一

ページ範囲:P.239 - P.243

POINT
■下血によるバイタルサインの変動に注意しながら,患者の年齢,併存疾患,治療歴などを考慮しつつ原因疾患の診断と治療を進める.
■MDCTは性能が向上し,0.5 mL/min以上の出血があれば検出可能で,出血部位の同定が可能である.治療法の選択や目的病変の推測には非常に有用である.
■大腸内視鏡検査は,診断と治療の両面から非常に有用な検査であるが,視野不良で出血部位の同定は困難な場合がある.このような多発大腸憩室症に対する治療法として,バリウム注腸療法の有用性が報告されている.

上腸間膜動脈関連疾患

著者: 菅野範英

ページ範囲:P.244 - P.247

POINT
■上腸間膜動脈急性閉塞は急激に消化管の壊死をきたし,死亡率が60%前後と高い救急疾患である.
■発症初期は自覚症状と比較して他覚的所見に乏しいが,激烈な腹痛を呈する症例では本疾患を鑑別に入れて,造影CTで早期診断することが重要である.
■血行再建後にも腸管虚血が進行する場合があるので,厳重に経過観察し,必要があれば二期的な試験開腹で確認する.

閉塞性大腸癌

著者: 園田洋史 ,   田中敏明 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.248 - P.252

POINT
■閉塞性大腸癌は,腸管の緊急減圧処置を必要とする急性腹症の1つである.減圧方法や手術術式の選択については,腫瘍の占拠部位,患者の全身状態など,様々な因子を考慮し慎重に決定する必要がある.
■閉塞性大腸癌に対する緊急手術では,周術期合併症のリスクが高まることが知られているため,腸管減圧により可能な限り緊急手術を回避し,手術を待機化すること,および十分な術前評価による手術の安全性確保が重要である.
■閉塞性大腸癌に対する治療は,腸閉塞解除とともに大腸癌手術の根治性が要求される.すなわち,口側結腸の同時性多発癌の検索を含めた臨機応変な対応が求められる.

大腸穿孔

著者: 合田良政 ,   矢野秀朗

ページ範囲:P.253 - P.256

POINT
■大腸穿孔は,糞便性腹膜炎から敗血症性ショックや多臓器不全を併発する,腹部救急疾患の中でも致死的な予後不良疾患の一つである.救命が最も重要であり,迅速な原因の解明とその病態に合わせた集学的治療が必要である.
■大腸穿孔の原因は多岐にわたるため,詳細な病歴と患者背景の把握が原因解明と治療方針の決定の一助となる.
■原因検索はCTをはじめとする画像所見に依存しやすいが,患者の表情やバイタル所見,腹部所見などにて下部消化管穿孔を否定できない場合,開腹手術による腹腔内の検索を躊躇するべきではない.
■大腸癌穿孔の場合は,救命に加えて根治性が求められる.
■本稿では,大腸穿孔の診断と治療の概要,大腸癌穿孔,医原性大腸穿孔を中心に述べる.憩室穿孔をはじめとした良性疾患による穿孔は別稿を参照されたい.

虚血性腸疾患

著者: 鈴木修司 ,   下田貢 ,   島崎二郎 ,   梶山英樹 ,   竹村晃 ,   西田清孝

ページ範囲:P.257 - P.260

 本稿では血栓・塞栓・解離性の血管疾患を除く急性虚血性腸疾患のうち,外科的治療適応となりうる虚血性腸炎,非閉塞性腸間膜虚血症(NOMI)について述べる(感染性腸炎,放射線性腸炎,薬剤性腸炎は除く).

急性虫垂炎

著者: 清水康仁 ,   安藤克彦 ,   小田健司 ,   登内昭彦 ,   前田慎太郎 ,   吉富秀幸 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.262 - P.269

POINT
■急性虫垂炎に対する術式は,従来開腹虫垂切除術が一般的であったが,最近は腹腔鏡下虫垂切除術も標準術式として認識されるようになった.
■単孔式腹腔鏡下虫垂切除術は,3ポート法で行う従来の方法よりも整容性において優れた術式である.若年者に多いこの疾患に対する術式として近年広まっている.
■待機的腹腔鏡下虫垂切除術が近年普及してきている.ほとんど正常解剖の状態で手術できるので,合併症も少なく安全に遂行可能である.

大腸憩室

著者: 山内慎一 ,   菊池章史 ,   岡崎聡 ,   安野正道

ページ範囲:P.270 - P.273

POINT
■憩室炎の合併症例に対しては,全身状態の評価と画像診断により重症度判定を行い,入院加療の適応判断と適切な治療選択を行う.
■憩室出血は保存的治療で自然止血されるものも多いが,再出血が少なからずあり,時に出血性ショックに至る重症となることがあるため,慎重な経過観察が必要である.

痔核急性症,肛門周囲膿瘍

著者: 寺田俊明 ,   岩垂純一

ページ範囲:P.274 - P.281

POINT
■血栓性外痔核の治療の基本は保存治療であるが,血栓が大きく疼痛が強い場合や血栓の穿破部からの出血が収まらない場合は,血栓摘出や外痔核切除を施行する.
■嵌頓痔核の初期治療は基本的に保存治療である.嵌頓した痔核を肛門管内に還納整復しむくみを軽減させ,急性期症状をまず改善させてから外科的切除の適応を再評価する.
■肛門周囲膿瘍と診断がつけば,切開排膿を速やかに施行することが原則である.

嵌頓ヘルニア

著者: 東海林裕 ,   中嶋昭

ページ範囲:P.282 - P.287

POINT
■血流障害を伴った嵌頓ヘルニアは緊急手術の対象であるが,腸管の血流障害が生じているかを確実に鑑別しうる決定的な検査はなく,総合的に診断する必要がある.
■アプローチは鼠径部切開法および腹腔鏡下手術のどちらでもよいが,いずれにおいても嵌頓腸管の観察を要する.腹腔鏡下手術は腸管の血流障害の評価や腸切除に有用な術式である.
■汚染手術でのメッシュ使用に関しては,その安全性が確立していないので術中所見で総合的に判断する.

肝胆膵

閉塞性黄疸

著者: 高屋敷吏 ,   清水宏明 ,   大塚将之 ,   加藤厚 ,   吉富秀幸 ,   古川勝規 ,   高野重紹 ,   久保木知 ,   鈴木大亮 ,   酒井望 ,   賀川真吾 ,   野島広之 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.288 - P.291

POINT
■閉塞性黄疸とは胆道の機械的閉塞を原因とする黄疸であり,治療の原則は胆道ドレナージである.
■胆道系悪性腫瘍による閉塞性黄疸では,癌進展範囲評価のためMDCTなどの画像診断を胆道ドレナージ前に行うことが必須である.
■閉塞部位などの所見により適切な胆道ドレナージ法を選択するが,侵襲,合併症,チューブ管理の観点から経鼻的胆道ドレナージ(ENBD)が第一選択である.

急性胆囊炎

著者: 鈴木裕 ,   森俊幸 ,   松木亮太 ,   小暮正晴 ,   横山政明 ,   中里徹矢 ,   松岡弘芳 ,   阿部展次 ,   正木忠彦 ,   杉山政則

ページ範囲:P.292 - P.296

POINT
■急性胆囊炎は胆囊に生じた急性の炎症性疾患であり,多くは胆石に起因するが,原因は多彩である.
■診断に関しては,局所の臨床徴候,全身の炎症所見,画像所見の3項目を含んだ診断基準により診断される.
■治療においては,軽症では早期の胆囊摘出術,中等症では急性炎症が改善してからの待機的手術が第一選択になる.重症では臓器障害に対する治療を行いつつ,胆囊ドレナージを先行させ,待機的に胆囊摘出術を行う.

急性胆管炎

著者: 隈元雄介

ページ範囲:P.297 - P.300

POINT
■急性胆管炎は,胆管内胆汁中で増殖した細菌が,胆汁うっ滞により胆道内圧が上昇し,血中へ移行することで起こる病態である.
■治療の基本は,抗菌薬による感染症対策と胆道ドレナージによる胆道内圧低下によるが,その重症度によって治療方針が異なるため,ガイドラインの重症度判定が重要である.
■重症例,および中等症治療不応例では,胆道ドレナージを施行しなければ敗血症から多臓器不全に至り致命的となるため,胆道ドレナージのタイミングを見逃さないことが大切である.
■緊急胆道ドレナージ対応困難な場合には,対応可能な施設に速やかに搬送する必要がある.

重症急性膵炎

著者: 松尾洋一 ,   森本守 ,   坪井謙 ,   社本智也 ,   佐藤崇文 ,   齊藤健太 ,   今藤裕之 ,   坂本宣弘 ,   竹山廣光

ページ範囲:P.301 - P.307

POINT
■急性膵炎と診断された段階で直ちに重症度判定を行う.さらに発症から48時間までは,経時的に重症度判定を繰り返して行うことが重要である.
■「急性膵炎診療ガイドライン2015」では,診療上重要と思われる臨床指標が“Pancreatitis Bundles 2015”として提起されており,重症急性膵炎ではこれに沿った治療が必要である.
■重症急性膵炎は感染を伴った壊死性膵炎であることが多い.できる限り保存的治療で炎症の消褪・限局化をはかり,被包化壊死(WON)となった後に,step-up approach法で段階的に治療することが予後を改善する.

肝癌破裂

著者: 落合高徳 ,   大畠慶映 ,   佐藤拓 ,   渡辺秀一 ,   巌康仁 ,   光法雄介 ,   小野宏晃 ,   松村聡 ,   伴大輔 ,   工藤篤 ,   田中真二 ,   田邉稔

ページ範囲:P.309 - P.313

POINT
■肝癌破裂は緊急の治療を要するoncologic emergencyである.
■治療は,①迅速な診断,止血処置と肝不全の予防といった急性期治療,②癌に対する治療,の2相に分けて考える必要がある.
■本邦で施行された全国原発性肝癌追跡調査データの解析により,肝細胞癌破裂例の予後が非破裂例よりも悪いことが明らかにされたものの,より詳細な解析については今後のデータの集積が必要である.

急性門脈血栓症

著者: 加藤悠太郎 ,   棚橋義直 ,   香川幹 ,   辻昭一郎 ,   中嶋早苗 ,   小島正之 ,   木口剛造 ,   三井哲史 ,   杉岡篤

ページ範囲:P.314 - P.318

POINT
■急性門脈血栓症には肝硬変,悪性腫瘍,骨髄増殖性疾患,凝固・抗凝固因子異常,肝胆膵・脾疾患術後など様々な背景危険因子があり,その診断に基づいて適切な短期および長期的治療を行う.
■初期治療の原則は抗凝固療法の早期開始である.
■血栓進展による腸管血行障害は緊急手術の適応である.

急性肝不全—診断と治療

著者: 篠田昌宏 ,   北川雄光

ページ範囲:P.319 - P.323

POINT
■診断基準を熟知し,急性肝不全に該当するか,昏睡型か非昏睡型か,急性か亜急性か,原因は何かなどを正確に把握する必要がある.
■急性肝不全は予後不良な疾患であり,昏睡型(亜急性)では内科的治療の成績は不良である.
■救命の戦略は,適切な内科的治療を速やかに開始するとともに,肝移植を念頭においた準備も進めることである.

急性肝不全—血液浄化療法

著者: 井上和明

ページ範囲:P.324 - P.328

POINT
■血漿交換は,凝固因子の補充と体内分布容積の小さな蛋白結合性物質を除去することができる.胆汁うっ滞を改善する決め手になることもあるが,基本は補充療法である.
■血液濾過透析は,大量の緩衝液で血液を浄化することにより,毒性物質を除去する治療である.最近,前希釈法により大量の置換液を用いたオンライン法を標準治療として用いることが検討されている.
■ビリルビン吸着は,陰イオン交換樹脂でビリルビン,胆汁酸を吸着する方法である.近年用いられることの少ない治療法であるが,アルブミンに結合した間接ビリルビンも除去することができる.

急性肝不全—肝移植

著者: 山敷宣代 ,   海道利実

ページ範囲:P.329 - P.333

POINT
■昏睡型急性肝不全に対する内科的治療での救命率は極めて低いため,診断後早期から肝移植の適応を念頭におく.
■肝移植の絶対的および相対的禁忌について知っておく.コントロール不能の感染症,不可逆的な肝性脳症または脳出血の合併は一般的に禁忌である.
■脳死肝移植の実施件数は依然少ないが,昏睡型急性肝不全,いわゆる劇症肝炎は医学的緊急度が高く,他疾患と比較し優先される.

1200字通信・97

倍返しと恩返しと

著者: 板野聡

ページ範囲:P.76 - P.76

 少し古くなりますが,テレビ番組で「倍返し」「十倍返し」なる言葉が話題になったことがありました.番組を観たことはなかったのですが,「やられたらやりかえす」という枕詞が付いていたようで,やり場のない不満が鬱積した現代社会ゆえに,こうした過激な表現が喜ばれたのではないかと感じています.
 これとは別に,古来,わが国では恩を受けた方への「返礼」,所謂「恩返し」なる美徳が行われており,人々だけではなしにお地蔵様や鶴までもが,その恩に報いようとするようです.恩とは「恵(めぐみ)」という意味だそうですが,先の倍返しはご遠慮するとして,恩返しは続いて欲しいことではあります.

ひとやすみ・143

外科医の職場改善を

著者: 中川国利

ページ範囲:P.172 - P.172

 一般に日本の外科医は有能で,単に手術ばかりではなく,術前診断から術後管理,さらには癌化学療法やターミナルケアまで幅広い診療を行っている.外科医にとっては,診断から治療まで一貫した診療を行うことにより,高い達成感を得ることができる.一方,治療を受ける患者にとっても,同じ主治医から一貫した治療を受けられる安心感がある.しかしながら医療レベルが高度になりつつある現代,外科医が一貫した治療を今後も行うことにははなはだ問題が多い.
 私は研修医時代,「外科医たる者,診断から治療まで,できるのが当然」との指導医のモットーの下,手術手技はもちろんのこと,消化管造影検査,超音波検査,血管造影検査,内視鏡検査などの種々の検査を学んだ.また癌化学療法やターミナルケア,さらには麻酔や病理解剖まで叩き込まれた.そして外科学会,消化器外科学会,消化器病学会,消化器内視鏡学会,大腸肛門病学会の専門医や指導医,さらには麻酔標榜医や内視鏡外科学会技術認定医などの各種資格を取得した.

昨日の患者

父を偲んで献血する

著者: 中川国利

ページ範囲:P.243 - P.243

 父親の命を永らえた多くの善意に感謝し,献血する元受け持ち患者さんの娘さんを紹介する.
 献血ルームで検診医を務めていると,40歳代半ばの子連れの婦人が懐かしそうな顔をした.そして「中川先生ですよね.大学病院で大変お世話になったKの娘Sです」と,微笑んだ.Kさんの名前を聞き,30年ほど前のことがフラッシュバックの如く思い出された.

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原稿募集 「臨床外科」交見室

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