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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科71巻12号

2016年11月発行

雑誌目次

特集 転移性肝腫瘍のいま—なぜ・どこが原発臓器ごとに違うのか

ページ範囲:P.1319 - P.1319

 近年,大腸癌の肝転移については化学療法の飛躍的な進歩がみられ,大きく治療戦略が変わってきています.これまで外科切除の適応外と考えられていた多発性腫瘍や腫瘍径の大きな病変も,化学療法を先行させることで切除まで持ち込め,治癒を期待できる症例が増加しています.
 このような進歩の一方で,がんによっては,たとえ単発の肝転移であっても全身病の一部として認識され,切除しても生存期間の延長効果がないことが経験的に知られているものも存在します.このようながんの種類による振る舞いの違いは何を意味しているのでしょうか.肝転移経路の違いだけではなく,臓器親和性や原発巣自体の悪性度,さらには化学療法に対する感受性の差異などの問題が複雑に関連しているようにも考えられます.

総論

転移性肝腫瘍治療の新たな展開

著者: 福岡聖大 ,   吉野孝之

ページ範囲:P.1320 - P.1325

【ポイント】
◆転移性肝腫瘍は原発臓器ごとに治療方針を決定する.
◆肝切除などの局所療法と全身化学療法との集学的治療により長期生存する症例も少なからず存在する.
◆全身化学療法は免疫チェックポイント阻害薬を中心に新薬の開発が進んでいる.

固形癌の転移性肝腫瘍形成の基本的メカニズム

著者: 小松久晃 ,   三森功士

ページ範囲:P.1326 - P.1330

【ポイント】
◆胃癌の腹膜播種・前立腺癌の骨転移・大腸癌の肝転移など癌腫による臓器向性と,癌細胞の循環・排出経路の差異が肝転移の生成を決めると考えられる.しかし一方で,前者は乳癌患者の場合,対側乳癌のリスクはあまり高くないこと,後者は血流豊富な腎臓への転移がないなどの臨床所見から否定的である.
◆各種癌での全遠隔転移例に占める肝転移の割合は,膵癌,大腸癌,食道癌,胃癌と消化器癌に多く,特異的である.
◆転移癌細胞は原発巣からの癌細胞の離脱,血管内侵入,循環系での生存と移動,転移先への生着と増殖の間,様々な微小環境の変化に対応している.

転移性肝腫瘍の病理

著者: 相島慎一 ,   山地康大郎

ページ範囲:P.1331 - P.1337

【ポイント】
◆転移性肝腫瘍が疑われる場合,原発巣の特定,肝原発病変との鑑別,化学療法の効果判定などに留意する.
◆大腸癌肝転移巣では,癌の増殖に伴う通常の壊死と治療による壊死では形態像が異なる.
◆大腸癌以外の肝転移巣は切除対象となりにくく,現在のところ形態像の検討は不十分である.

転移性肝腫瘍の画像診断

著者: 二木将明 ,   井上登美夫

ページ範囲:P.1338 - P.1342

【ポイント】
◆治療方針の決定のために,原発巣の同定から肝転移の存在診断,部位診断まで画像診断は重要な役割を果たしている.
◆全身スクリーニングとしての造影CTや,Gd-EOB-DTPAを用いた造影MRIがよく用いられている.
◆超音波検査やPETなど,様々な検査の長所・短所を理解し,適切に組み合わせることが重要である.

転移性肝腫瘍の治療

食道癌肝転移

著者: 八木浩一 ,   西田正人 ,   佐藤靖祥 ,   三ツ井崇司 ,   愛甲丞 ,   山下裕玄 ,   野村幸世 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.1344 - P.1350

【ポイント】
◆食道癌肝転移は予後不良であり,化学療法が第一選択である.
◆現在はFP(CF)療法が標準治療とみなされている.
◆外科切除も含めた集学的治療により長期予後が見込める症例も存在する.

胃癌肝転移

著者: 小寺泰弘

ページ範囲:P.1351 - P.1355

【ポイント】
◆胃癌肝転移は多くの場合肝切除術の適応とならない.
◆単発の,あるいは少数の肝転移を有する症例に他の非治癒因子が認められない場合,肝切除により長期生存が得られる場合がある.
◆肝転移の個数を論じる場合には,診断に使用するモダリティーにも言及する必要がある.

大腸癌肝転移

著者: 園田洋史 ,   野澤宏彰 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.1356 - P.1361

【ポイント】
◆大腸癌肝転移に対する治療は,外科的切除,全身化学療法,肝動注化学療法,熱凝固療法に大別される.
◆大腸癌肝転移に対して唯一治癒が期待できる治療法は外科的切除であり,切除可能であれば肝切除が第一選択となる.
◆切除不能肝転移に対しては全身化学療法が適応となるが,分子標的薬の登場による化学療法の治療成績向上に伴い,化学療法が奏効し肝切除が可能となる症例もある.
◆大腸癌肝転移は集学的治療による治療成績の向上が見込まれるため,各診療科の密な連携が重要となる.

胆道・膵癌肝転移

著者: 高屋敷吏 ,   清水宏明 ,   大塚将之 ,   吉富秀幸 ,   古川勝規 ,   高野重紹 ,   久保木知 ,   鈴木大亮 ,   酒井望 ,   賀川真吾 ,   野島広之 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.1362 - P.1365

【ポイント】
◆胆道癌,膵癌ともに,診療ガイドラインでは肝転移を含む遠隔転移症例には化学療法が推奨されている.
◆胆道癌・膵癌肝転移に対する肝切除による予後延長が期待できる症例が少数例ながら存在するとみられる.
◆原発切除から長期経過後の再発例,長期にわたり肝転移以外に遠隔転移を認めない症例,化学療法の感受性が高い症例などが肝切除対象になりうるが,十分な患者選択のうえで慎重に適応を決定する必要がある.

GIST肝転移

著者: 新木健一郎 ,   調憲 ,   久保憲生 ,   渡辺亮 ,   五十嵐隆通 ,   塚越真梨子 ,   桑野博行

ページ範囲:P.1366 - P.1371

【ポイント】
◆GISTの転移・再発臓器として肝転移の頻度は高く,治療戦略を考えるうえで重要である.
◆GISTの肝転移治療にはイマチニブ療法が基本であり,初発/再発性に限らずイマチニブ療法を先行し,病勢コントロールが得られた症例において外科的介入を行うことで予後改善が期待される.
◆肝転移切除のタイミングとして,原発とその他の病巣がコントロールされている状況でイマチニブの2次耐性を起こす前に切除を検討することが重要と考えられる.

NET肝転移

著者: 工藤篤 ,   巌康仁 ,   松村聡 ,   光法雄介 ,   伴大輔 ,   落合高徳 ,   田中真二 ,   田邉稔

ページ範囲:P.1372 - P.1377

【ポイント】
◆膵消化管神経内分泌腫瘍の肝転移の治療は,手術,薬物療法,内科的interventionの3種類からなるが,機能性腫瘍の症状緩和のstrategyはこの腫瘍に特有である.本邦のガイドラインは切除可能であれば手術,切除不能であれば抗腫瘍薬,機能性腫瘍であれば症状緩和療法を推奨している.
◆切除は腫瘍をゼロにすることができる唯一の治療であり,成長スピードが遅く,転移しにくい腫瘍はよい適応である.肝機能を配慮したうえで,90%以上の減量切除を含めた集学的制御を目指す.
◆抗腫瘍薬にはエベロリムス,スニチニブ,ストレプトゾシン,ソマトスタチンアナログが推奨されている.
◆機能性腫瘍の症状緩和においては減量手術,ソマトスタチンアナログを中心に,それぞれのホルモン症状に対する対症療法を行う.
◆近年の薬物療法の進歩に伴い,肝切除はますます重要な役割を担う.

転移性肝腫瘍に対する肝移植

著者: 原貴信 ,   江口晋

ページ範囲:P.1378 - P.1382

【ポイント】
◆転移性肝腫瘍に対する肝移植は主に神経内分泌腫瘍の肝転移に対して行われてきたが,近年大腸癌肝転移に対する肝移植が注目を集めている.
◆切除不能な神経内分泌腫瘍肝転移に対する肝移植では,症例の選択により,肝細胞癌に対する肝移植に匹敵する良好な成績が報告されている.
◆切除不能な大腸癌肝転移に対する肝移植(SECA study)では,再発率が高いものの,良好な予後が示された.
◆転移性肝腫瘍に対する移植成績向上のためには,症例選択に加え,免疫抑制療法の工夫,化学療法の併用,再発時の治療方法などについてさらなる検討が必要である.

FOCUS

上部消化管の術後評価のための指標—PGSAS-45(Postgastrectomy syndrome assessment scale-45)/DAUGS(the Dysfunction after Upper Gastrointestinal Surgery for Cancer Scoring System)/上部消化管術後の症状尺度(ES4)と食生活の評価尺度(EGQ-D)

著者: 小寺泰弘 ,   中田浩二 ,   宮崎安弘 ,   瀧口修司 ,   黒川幸典 ,   高橋剛 ,   牧野知紀 ,   山崎誠 ,   中島清一 ,   森正樹 ,   土岐祐一郎 ,   本多通孝

ページ範囲:P.1384 - P.1393

はじめに
 新しい治療法によって癌が治癒する可能性が従来の治療法に劣らないと判断された場合,その治療法が勝ち残る手段の一つはQOLにおける優位性を示すことである.現在QOLは質問票で「測定」するのが普通である.それが真に正確で再現性のある指標と言えるかどうかについては様々な見解があるものの,QOLが多くの臨床試験で主たる評価項目に並行して測定されているのも事実である.このような場合にしばしば用いられている「測定器具」,すなわち質問票はEORTC QLQ-C30である.臓器別の追加質問票も存在し,胃癌ではSTO22がこれに相当する.内視鏡下手術後のQOLは開腹術後より良いに決まっているでしょうと言うのは思い込みに過ぎないので,きちんと測定しようと思えば,痛みや倦怠感,日常生活への支障や社会復帰の度合いなどを評価すればよいので,この質問票で十分であると考える1)
 しかし,胃外科には再建法の工夫というもう一つの重要なテーマがある.Billroth Ⅰ法かRoux-Y法か,空腸パウチを使用するか否か,観音開き法かdouble tract法か.こうした比較に用いるには,QLQ-C30シリーズでは少々荷が重い.ダンピング症状をはじめとする,胃切除術後に特化した症状の測定も必要となるからである.こうした要求に応えるべく,待望の調査票が短期間の間にわが国で3種類開発された.いずれもきちんとした手順に則って開発されたものである.再建は内視鏡下手術のやや苦手とするところであるため,仮に手数が多いが良好なQOLをもたらす再建方法が存在したとして,これを行うために開腹するか,内視鏡下手術の低侵襲性を優先して再建法には目をつぶるか.突き詰めればこのようなジレンマも生じるかもしれない.本当に優れているならどんな再建法でも腹腔鏡下でやりますよと頑張ってくれる医師もいるのだが,そうしていただくためには本当に優れていることを示す必要がある.また,麻酔科医をはじめとする手術室スタッフも手術室も有限で貴重な「資源」なのであり,実臨床における手術時間はその手術を提供するにあたって現実的と考えられる範囲にとどめるべきである.いずれにしても,われわれはまずは各術式・再建法の価値と限界を把握しなければ先には進めない.読者諸氏にはこれらの調査票から一つをお選びいただき,説得力のあるデータを出して胃外科の進歩につなげていただきたい.

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)/非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の診断と治療—外科医が知っておくべき基礎知識

著者: 橋本悦子

ページ範囲:P.1394 - P.1399

はじめに
 飽食の時代を迎えたわが国においては,肥満やメタボリック症候群,その肝病変である非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)が急増し,その対策が急務となった.脂肪肝(fatty liver)とは肝臓に余剰な脂肪が溜まった状態で,余剰な脂肪は脂肪滴として肝細胞質に蓄積する(図1)1〜2).脂肪肝の血液診断マーカーはなく,日常診療では超音波検査やCTなどの画像検査で診断される.脂肪肝の原因は,過剰飲酒,肥満・メタボリック症候群などのインスリン抵抗性,生活習慣病,脂質代謝異常,内分泌疾患,高度の栄養障害,長期間の完全非経口栄養,薬物,膵頭十二指腸切除後など多彩である(表1).肝臓学では,脂肪肝はアルコール性と非アルコール性,つまりNAFLDに大別されている1〜7).NAFLDは,アルコール性肝障害をきたすほどの飲酒歴のないすべての脂肪肝の総称で,多彩な病態を包含する.しかし,多くのNAFLDはインスリン抵抗性を基盤に発症するため,インスリン抵抗性に起因した脂肪肝のみをNAFLDとし,他の病因を二次性NAFLDとして除外することもある.なお,NAFLDはインスリン抵抗性を増悪し,両疾患は悪循環を呈するため,全身疾患として捉える必要がある.
 NAFLDは,80〜90%は病態が進行することが稀で病的意義のほとんどない非アルコール性脂肪肝(nonalcoholic fatty liver:NAFL)であるが,10〜20%は脂肪変性に壊死・炎症性変化を伴い,肝硬変や肝細胞癌に進行しうる非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)である(図2).NASHは肝組織学的に診断されるが,肝生検は一般的な検査ではなく,日常臨床ではNAFLDとして扱われることが多い.本稿では,わが国のNAFLDのガイドラインを中心に概説する.

ラパコレUpdate 最近のコンセプトと手技・4

標準的ラパコレ—ラパコレ時の術中胆道損傷

著者: 三澤健之

ページ範囲:P.1400 - P.1407

はじめに
 1980年代後半に導入された腹腔鏡下胆囊摘出術(以下LC)は,文字通り燎原の火のごとく全世界に遍満し,良性胆囊疾患に対する外科治療のゴールドスタンダードとして定着,以来すでに四半世紀の時を経ている.この間,内視鏡外科手術に携わる医師の技術は格段に向上し,また優れた光学機器や手術用器具の開発,改良が進み,手術自体のクオリティは往時と比べるべくもない.一方で,LCにおいて最も重要な合併症である術中胆道損傷(BDI)の変遷に関しては,これまであまり語られることがなかった.本稿では,内視鏡下手術ゆえの弱点から,LCに多くみられるBDIについて再考し,その時代的推移,メカニズム,分類,さらには予防法や対処法について,私見を混じえながら述べてみたい.

手術トラブルを未然防止する12の行動特性・8

トラブル発生を未然防止する基盤を整える—手術の安全・質向上に関するトレーニングを継続的に実施している

著者: 石川雅彦

ページ範囲:P.1408 - P.1411

●はじめに
 外科手術の実施に際しては,術前・術中・術後にさまざまなアクシデントが発生する可能性があり,発生した場合には適切な対応の取り組みが求められている.本稿では,トラブル発生を未然防止する基盤を整えることに関連して,外科医が手術の安全・質向上に関するトレーニングを継続的に実施することで,患者への影響拡大の防止とトラブル発生の未然防止に資するということに焦点をあてて検討する.

病院めぐり

高槻病院外科・消化器外科

著者: 土師誠二

ページ範囲:P.1412 - P.1412

 当院は大阪市と京都市のちょうど中間に位置する,人口35万人の高槻市にあります.高槻市は大阪府北東部に位置する4市1町のいわゆる三島地区の中核市で,大阪と京都のベッドタウンとして発展しています.高槻は歴史ある地域で,約2万年前の旧石器時代から人が住み始めた痕跡があり,今城塚古墳をはじめ大小多数の三島古墳群を形成しています.
 さて,高槻病院は愛仁会グループのなかの社会医療法人愛仁会のフラッグシップ病院で,愛仁会グループはほかに社会福祉法人愛和会,医療法人蒼龍会,社会福祉法人ますみ会を有し,計4法人で構成される医療法人グループです.愛仁会グループは1959年に千船診療所の開院からスタートし,社会医療法人高槻病院,千船病院,明石医療センター,尼崎だいもつ病院,愛仁会リハビリテーション病院など,現在では8つの病院を有しています.そのなかで高槻病院は1977年に180床で開院され,現在は病床数477床,29診療科があり,高度急性期総合病院としてグループ最大の陣容を誇っています.また,高槻駅から直通の連絡通路を通って徒歩5分と交通至便で,阪急電鉄高槻市駅からも徒歩12分と好立地なのですが,高槻市駅前には大阪医科大学附属病院があり,大学病院に近接していることで本院は昔から何かと苦労があるようです.開院以来,救急診療と周産期医療に力を入れてきたこともあり年間救急搬送数は約6,000件で,高槻市全体の救急搬送数の約1/4をカバーしています.また,当院は新病院建設の最中で,病棟,手術室,救急外来を含む病院Ⅰ期棟の建設はすでに終了,外来,医局,病院管理部を含む病院Ⅱ期棟の建設が平成29年7月に終了予定で,病院の外来機能と管理部機能は当院に隣接している愛仁会リハビリテーション病院の一角を間借りして運営しています.

臨床報告

門脈枝結紮術を施行した肝性脳症を伴う肝内門脈肝静脈短絡路症の1例

著者: 茂内康友 ,   佐藤貴弘 ,   青野哲也 ,   長田俊一 ,   瀧康紀

ページ範囲:P.1413 - P.1417

要旨
症例は77歳,女性.肝内門脈肝静脈短路症による肝性脳症と診断した.積極的加療の適応であり,interventional radiology(IVR)による塞栓術を検討したが,血管造影検査の結果,門脈主部の拡張が軽度で穿刺は困難と判断し,またシャントの血流速度が速いため,下大静脈への塞栓物質の逸脱が危惧された.そのため,手術による加療を選択した.手術は門脈枝P3結紮術を施行した.経過は良好で,術後に肝性脳症の発現なく,血清アンモニアも正常範囲内で肝機能の悪化も認めなかった.本症例のように,IVRが困難な症例に対して流入する門脈を選択的に結紮し,短絡路への血流量を減少させることにより,肝性脳症の改善が可能であると考えられた.
臨外 71(12):1413〜1417,2016

胆管穿破をきたした膵管内乳頭粘液腺腫に対して胆道ダブルバイパス術を施行した1例

著者: 佐藤太祐 ,   松川啓義 ,   塩崎滋弘 ,   荒木宏之 ,   二宮基樹

ページ範囲:P.1419 - P.1423

要旨
症例は83歳,女性.6年前からびまん性の主膵管型膵管内乳頭粘液腺腫(IPMN)を指摘され,1年前からは胆管への穿破を生じ,胆管炎を繰り返すようになった.内視鏡的胆道ドレナージは大量の粘液のため効果がなく,根治手術の膵全摘は患者が拒否したため胆管-空腸バイパス術を施行した.肝側胆管断端と挙上空腸のバイパスだけでは,大量の粘液の乳頭のみからの排出では不十分であるため,再度他臓器へ穿破をきたす可能性がある.よって肝側だけではなく十二指腸側胆管断端とも挙上空腸を吻合するダブルバイパス術を施行した.術後の経過は良好であり,本術式はIPMNが胆管穿破をきたしたハイリスク症例や根治手術拒否症例に対して有用な術式と考えられた.

成人小腸重積症を呈した小腸平滑筋肉腫の1例

著者: 北川祐資 ,   坂東道哉 ,   森正樹 ,   梅谷直亨 ,   清水利夫

ページ範囲:P.1425 - P.1428

要旨
患者は73歳,男性.1週間前からの嘔吐で受診した.腹部超音波検査および腹部CT検査で小腸腫瘤を先進部とする腸重積症と診断され,第6病日に手術施行となった.用手的に重積を解除し,小腸部分切除を行った.免疫染色でSMA・Desmin陽性,KIT陰性を示す紡錘形の細胞が筋層から粘膜表層にみられ,小腸平滑筋肉腫と診断した.術後再発なく経過観察中である.成人腸重積症は成人腸閉塞の原因の1〜5%程度を占め,8割は原因病変を伴い,さらにその半数が悪性腫瘍といわれ,治療方針の決定は慎重にすべきである.また,小腸平滑筋肉腫は稀な疾患で予後も不良であるが,外科切除以外の治療法は確立されていない.

皮下結節性脂肪壊死を契機に発見された膵癌の1例

著者: 坂部龍太郎 ,   倉岡憲正 ,   長谷諭 ,   田原浩 ,   布袋裕士 ,   前田佳之

ページ範囲:P.1429 - P.1432

要旨
患者は76歳,男性.両側下腿の有痛性皮下結節を主訴に当院を受診した.血液検査にて炎症反応,膵酵素,腫瘍マーカーの上昇を認めた.皮下結節生検組織検査にて脂肪細胞の変性,融解,壊死を認めた.腹部造影CT検査にて膵体部に2 cm程度の造影効果の乏しい腫瘤を認め,尾側膵管は拡張していた.超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診では上皮性悪性腫瘍が疑われた.皮下結節性脂肪壊死を伴う膵癌と診断し,膵体尾部切除,脾合併切除,D2リンパ節郭清を施行した.病理組織学的検査にて浸潤性膵管癌と診断された.術後,皮下結節は消失し,膵酵素は低下した.下肢の有痛性皮下結節をみたときは,本症を念頭に置いて膵疾患の検索を行うことが重要であると考えられた.

短報

乳癌局所再発との鑑別を要した乳房clear cell hidradenomaの1例

著者: 館花明彦 ,   菊山みずほ ,   鈴木信親 ,   國又肇 ,   岡輝明

ページ範囲:P.1433 - P.1435

要旨
clear cell hidradenomaは稀な汗腺由来の良性腫瘍である.今回,手術・放射線治療などの10年後に患側乳房の皮膚に発生し,経過と所見から晩期局所再発が第一に疑われたclear cell hidradenomaの1例について報告する.

1200字通信・98

技術の進歩?—ガラ携男の戯言

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1343 - P.1343

 最近の電子機器の進歩は目覚ましく,恐らく,今日までの機械文明の歴史上,稀にみる速さで進化しているものと驚嘆しています.
 身近な電子機器では,ワープロに始まる所謂パソコンの進歩がありますが,機能の拡大化と機器の縮小化といった技術革命を,まさにリアルタイムに体験できたことは僥倖であったと感じています.また,通信機器の分野では,弁当箱ほどもあった携帯電話(それでも十分に感激しました)が掌サイズとなり,パソコンの機能までも持ち合わせるようになっていますが,夢物語だったことが現実になっていると言っても過言ではないでしょう.

ひとやすみ・144

三つ子の魂百まで

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1350 - P.1350

 幼児期に体に染み込んだ魂は,大きくなっても影響を及ぼし続けるものである.医師となりたての研修医時代に叩き込まれた魂を,40年過ぎた現在でも守り続けている.
 研修医時代,先輩研修医を見習い,医局の片隅に簡易ベッドを持ち込み棲み処とした.そして朝から晩まで,外来,病棟,手術室を立ち回り,「医師たるもの,頭から足のつま先まで,すべての疾患に対応すべし」とのボスの理念の下,臨床に明け暮れた.当時はそれが当然と思い,逆に臨床を離れると寂しさを覚えた.ただ三食を職員食堂で食べたが,電子レンジがない時代,一人で食べる冷え切った夕食が切なかった.

昨日の患者

病室での忘れ物

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1382 - P.1382

 病院には社会を構成する様々な市民が入院し,闘病生活において様々な人間模様を展開する.われわれ医療従事者は診療を介しながら,患者さんや家族が繰り広げる人間模様を垣間見ることになる.
 20年前の事例であるが,たまたまベッド傍の机の引き出しを取り除くと,机の底からたくさんの見舞い封筒を挟んだ手帳が出てきた.手帳には持ち主の名前は記入されていなかったが,1年ほど前の日時で入院中の出来事が事細やかに記載されていた.そして同時期に同病室に入院していた患者さんのなかから,Sさんが割り出された.

書評

—堀 進悟(監修) 田島康介(編)—マイナー外科救急レジデントマニュアル

著者: 林寛之

ページ範囲:P.1418 - P.1418

 確かに救急外来では実にバラエティ豊かな訴えの患者が行き来する.専門分化が進んだ昨今であればこそ,「専門以外の疾患を見て訴えられたらどうしよう」という当直医の不安はよくわかる.でもね,患者も条件は同じなんですよ.救急となれば背に腹は変えられず,患者も医者を選べない.相思相愛といかない条件下での診療こそ,「患者の期待に応える医療」であって,自分の好きなものしか診ない「選り好みの医療」ではないのだ.当直で頑張っている先生方は本当に偉い!
 一方,「困ったらいつでも呼んでもらっていいですよ」というオフィシャルな他科コンサルトルールはあっても,いざコンサルトすると「マジ? この程度で呼びつけたの?」といったように,各科から見れば初歩中の初歩の処置で済んでしまうということも少なくない.そんな時に強い味方が本書なのだ.

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原稿募集 「臨床外科」交見室

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バックナンバーのご案内

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あとがき

著者: 桑野博行

ページ範囲:P.1442 - P.1442

 この「あとがき」を記述しているのは,本年,2016年,リオデジャネイロ・オリンピックの興奮がさめやらぬ時期と重なりました.数々の歴史に残る名場面と,深い感動をもたらす名勝負,そして人々の心温まる立ち居ふるまいが心に残り,オリンピック,パラリンピックは東京へと「バトンタッチ」されました.
 このオリンピックのなかで,ひときわ私どもの心に深く残った名場面の一つが「男子400メートルリレー」で,日本陸上史上最速チームが男子のトラック種目で初の銀メダルを獲得したことでした.100メートル9秒台が1人もいないチームが,37秒60の記録を打ち立てた走りは世界に衝撃を与えました.37秒60を単に4で割ったら9秒40となります.陸上スポーツにまったく門外漢の私ですが,よく考えてみると1人で走る100メートルのスタートから,スタートダッシュ,そしてトップスピードへといかに速やかに移行することが大事かということを思いました.またリレーでバトンパスを行う,「テイクオーバーゾーン(take over zone)」における「バトンパスの技術」と,そのゾーンにおいていかにトップスピードに近い状態でパスが行われるかの重要性を認識させていただきました.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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