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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科71巻2号

2016年02月発行

雑誌目次

特集 イラストでみる大腸癌腹腔鏡手術のポイント

ページ範囲:P.133 - P.133

 大腸癌に対する腹腔鏡手術は近年増加しており,全国調査では直腸癌に対する手術の半数以上で腹腔鏡手術が行われている.一方,大腸癌手術の特徴として,病変の存在部位が盲腸から直腸まで広範囲に及び,部位ごとに解剖学的特徴も異なるため,術式も部位により様々なものが存在する.本特集では,このような多岐にわたる大腸腹腔鏡手術における術式,あるいは血管処理操作や剝離操作などの操作において留意すべきポイントやピットフォールを,初級者でもわかりやすくイラストやシェーマを用いて解説していただいた.確実な手術を行うために有用な特集となれば幸いである.

腹腔鏡下右結腸切除術

著者: 猪股雅史 ,   白下英史 ,   北野正剛

ページ範囲:P.135 - P.142

【ポイント】
◆腹腔鏡下右半結腸切除術の剝離授動では,回結腸動静脈幹,後腹膜下筋膜,十二指腸水平脚,上腸間膜静脈がランドマークである.
◆Surgical trunkの郭清では,中結腸動静脈系のバリエーションが多く,術前画像による血管走行の把握や術中の安全な血管剝離・露出の工夫が必要である.
◆安全な吻合のためには,後腹膜からの腸管の十分な授動と副右結腸静脈の腹腔内での切離,小切開創からの速やかな機能的端々吻合が重要な手技である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2018年2月末まで)。

腹腔鏡下横行結腸切除術

著者: 鶴田雅士 ,   長谷川博俊 ,   岡林剛史 ,   茂田浩平 ,   吉川祐輔 ,   北川雄光

ページ範囲:P.143 - P.148

【ポイント】
◆腹腔鏡下横行結腸切除では,中結腸動脈根部リンパ節郭清の頭側縁としてはじめに膵下縁,上腸間膜静脈,脾静脈を確保する頭側アプローチが有用である.
◆横行結腸癌では主血管の破格も多く,画像による術前シミュレーションは安全確実な腹腔鏡下根治術を行ううえで重要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2018年2月末まで)。

腹腔鏡下左結腸切除術

著者: 奥田準二 ,   田中慶太朗 ,   山本誠士 ,   鱒渕真介 ,   濱元宏喜 ,   内山和久

ページ範囲:P.149 - P.153

【ポイント】
◆本術式を安全的確に施行するおもなポイントは以下の3点である.
  ①“IMV First”による腸間膜剝離,②多方向アプローチによる左結腸曲の授動,③左半結腸の十分な剝離授動
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2018年2月末まで)。

腹腔鏡下低位前方切除術

著者: 吉冨摩美 ,   長谷川傑 ,   平井健次郎 ,   肥田侯矢 ,   河田健二 ,   篠原尚 ,   坂井義治

ページ範囲:P.154 - P.162

【ポイント】
◆直腸癌手術の基本となる直腸間膜全切除(TME)を安全・確実に行うにあたっては,骨盤内外科解剖を正確に認識するための術野展開が求められる.
◆術野展開の要は,助手両手と術者左手の鉗子による適切な緊張であり,それによって剝離層および切開すべきラインが自ずと提示される.
◆高難度に位置づけられる直腸癌手術において,各ステップの術野展開を重視した術式の定型化が,手技の習熟と継承のために肝要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2018年2月末まで)。

腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術

著者: 清松知充 ,   石原聡一郎 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.163 - P.169

【ポイント】
◆内側からの間膜授動およびIMAの根部処理においては,腰内臓神経から下腹神経の温存に留意する.
◆前方から前側方にかけてはDenonvilliers筋膜とNVBを確認して温存に努める.
◆骨盤底においては肛門挙筋の切離ラインを決め,腹腔内より切離することで適切なマージンを確保する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2018年2月末まで)。

腹腔鏡下ISR

著者: 伊藤雅昭 ,   小林昭広 ,   西澤祐吏 ,   佐々木剛志 ,   塚田祐一郎 ,   合志健一

ページ範囲:P.171 - P.180

【ポイント】
◆本邦における多施設共同第Ⅱ相試験の結果,術前治療を行わない肛門近傍の下部直腸癌に対しては,T2までがISRの適応であると判断された.T3以深の下部直腸癌に対しては何らかの術前治療を要する可能性がある.
◆肛門管内のintersphincteric planeを剝離する方法としては,肛門管を4つの領域に分けて行うと理解しやすいし定型化される.
◆neurovascular bundleの直下では比較的容易にintersphincteric planeに到達できる部位がある.
◆直腸側方部では,直腸縦走筋と肛門挙筋の間の結合は強固でなく,解剖学的にもこの部分でintersphincteric dissectionは最も行いやすい.
◆後方ではhiatal ligament(recto-coccygeal muscle)を切らないと肛門管内には到達できない.

腹腔鏡下側方郭清

著者: 石部敦士 ,   大田貢由 ,   渡邉純 ,   鈴木紳祐 ,   諏訪雄亮 ,   諏訪宏和 ,   樅山将士 ,   渡邉一輝 ,   秋山浩利 ,   市川靖史 ,   國崎主税 ,   遠藤格

ページ範囲:P.182 - P.186

【ポイント】
◆側方郭清に必要ないくつかのランドマークを理解し,郭清の範囲を把握することが重要である.
◆膀胱下腹筋膜,尿管下腹神経筋膜に沿った層で剝離することによって,機能温存しつつ,過不足のない側方郭清が可能である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2018年2月末まで)。

腹腔鏡下全大腸切除・回腸囊肛門吻合術

著者: 荒木俊光 ,   廣純一郎 ,   大北喜基 ,   川村幹雄 ,   藤川裕之 ,   問山裕二 ,   井上靖浩 ,   内田恵一 ,   楠正人

ページ範囲:P.188 - P.194

【ポイント】
◆腹腔鏡下大腸全摘・回腸囊肛門吻合術の導入および適応,そして実施は慎重に行うべきである.
◆腸管および腸間膜の剝離・切離の操作の際には,回腸囊の血管温存と緊張の解除に留意して行う.
◆腹腔鏡下での腹腔側からの深い直腸剝離は,会陰側からの直腸粘膜切除操作に影響を与えるため適度に留める.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2018年2月末まで)。

閉塞性大腸癌に対する腹腔鏡下手術

著者: 栗原聰元 ,   船橋公彦 ,   牛込充則 ,   小池淳一 ,   塩川洋之 ,   金子奉暁 ,   金子弘真

ページ範囲:P.195 - P.198

【ポイント】
◆腸閉塞の病態を的確に評価して,適切な治療のタイミングを逸さない.緊急性の高い症例については,安全性を考えて開腹で行う.
◆腹腔鏡手術の適応は,十分な減圧が得られていることが前提となる.手術操作にあたっては,愛護的な操作が必須であり,腫瘍学的には腸管損傷の回避や確実な外科的切除線の確保が必要である.
◆左結腸で一期的吻合を予定した場合には,閉塞性腸炎の存在を意識した切除範囲の設定が重要である.術前にはその範囲と程度を確認し,安全な部位を選んで吻合を行う.罹患範囲が広い場合には,比較的炎症が軽度の部位を選定して吻合し,一時的ストーマの造設を考慮する.

FOCUS

日本人女性の乳癌に対するMRI/MDCTガイド乳房部分切除

著者: 榊原雅裕 ,   長嶋健 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.200 - P.205

はじめに
●乳癌手術の背景が大きく変化している
 乳癌に対する手術の背景が大きく変化している.形成外科的「乳房再建手技」の普及と「遺伝性」乳癌の診断拡大,そしてMRIやMDCTによる乳癌の「広がり診断」の進歩など,乳癌手術を取り巻く環境が近年急速に進歩した.そしてこれらの新しい背景は,これまで乳癌の外科治療において中心的役割を果たしてきた乳房部分切除手術(乳房温存手術)にも必然的な進化を求めている.本稿では,新しい背景の中での乳癌,特に日本人女性の乳癌への外科的マネージメントを再考し,その後に筆者らが実践しているMDCTを用いた「乳房部分切除の術前整容性予測」による客観的な術式選択(乳房部分切除vs全摘再建),そしてそれに連動する「MRI/MDCTガイド乳房部分切除」の手術法や成績を紹介する.

潜在性腹膜転移膵癌治療におけるconversion surgeryの役割

著者: 里井壯平 ,   柳本泰明 ,   山本智久 ,   廣岡智 ,   山木壮 ,   小塚雅也 ,   良田大典 ,   井上健太郎 ,   道浦拓 ,   松井陽一 ,   權雅憲

ページ範囲:P.206 - P.210

はじめに
 膵癌の罹患者数ならびに死亡者数は,年間ほぼ同数であり(およそ33,000人),増加の一途をたどっている1).膵癌患者全体の5年生存率は5%以下であり,致死率の高い癌腫である.膵癌診断時には,その70%が切除不能であり,生存期間中央値は6〜12か月に過ぎない2〜4).しかしながら,最近の化学療法の進歩により,切除不能膵癌において一定数の治療奏効患者が認められ,外科的切除後に長期生存が期待されることが報告されてきた5〜10)
 切除不能膵癌の中でも,極めて予後不良かつ多彩な癌随伴症状の出現する腹膜転移(腹膜播種,腹腔洗浄細胞診や腹水細胞診陽性)は有効な治療法がないため,新規治療法としてS-1+パクリタキセル(PTX)経静脈・腹腔内投与(iv/ip)併用療法を導入してきた11,12)
 今回われわれは,他臓器遠隔転移のない初回治療予定の潜在性腹膜転移患者に対して,新規治療法における腫瘍縮小後外科切除(conversion surgery)の役割を探索的に検証したので報告する.

図解!成人ヘルニア手術・9 忘れてはならない腹壁解剖と手技のポイント

大腿ヘルニア修復法

著者: 執行友成 ,   川崎篤史 ,   松田年

ページ範囲:P.212 - P.216

■ はじめに
 大腿ヘルニア手術は2006年のlightweight mesh開発以降「大腿法」が主流となっているが,大きな流れに沿ってそれぞれを解説する.
 大腿ヘルニアは鼠径部ヘルニア全体の2〜8%の発症率と諸家により報告されており1,2),比較的稀な病態であることは認識されている.1998年に鼠径ヘルニア日帰り手術を当院が開始し,2003年以降,鼠径ヘルニアを専門に扱う施設が増加し,大腿ヘルニアの正確な統計的集約がなされている.
 当院は1998年7月以降2015年8月末までに7,369例の鼠径ヘルニア手術を経験している(図1).2006年4月以降,日本ヘルニア学会(以下JHS)分類制定後,当院では分類に沿い,全症例の記録を開始した.

病院めぐり

岡山労災病院外科

著者: 池田宏国

ページ範囲:P.217 - P.217

 岡山労災病院は,昭和30年に全国で8番目の労災病院として開設され,以降,60年にわたり岡山市南部の中核病院としての役割を果たしてまいりました.平成26年には新病院の建設が終了し,現在21の診療科がそろい,ICU 8床,HCU 8床を含む358床の総合病院として機能しています.救急体制にも力を入れており,年間10,000例の救急患者,2,500台の救急車の受け入れを行っています.医療機器・スタッフ・入院設備の充実において,県内でも有数の施設であると自負しています.
 日本外科学会専門医制度修練施設,日本消化器外科学会専門医制度指定修練施設,呼吸器外科専門医合同委員会認定修練施設関連施設,日本乳癌学会関連施設,日本がん治療認定医機構認定研修施設,日本大腸肛門病学会認定施設に認定されています.他科においてもさまざまな施設認定を取得しており,岡山大学と連携した研修プログラムも充実し,教育施設としての機能・役割も十分に担っています.

具体的事例から考える 外科手術に関するリスクアセスメント・11

消毒・滅菌にかかわるトラブルをどう防ぐか

著者: 石川雅彦

ページ範囲:P.218 - P.222

 外科手術では,消毒・滅菌は極めて重要であるが,関連したさまざまなインシデント・アクシデントが発生している.本稿では,日本医療機能評価機構の「医療事故情報収集等事業」の公開データ検索1)を用いて,外科手術における消毒・滅菌に関連して発生した事例を抽出し,発生概要,発生要因と再発防止策について検討した.

臨床報告

腹腔鏡手術で治療しえた十二指腸憩室後腹膜穿孔の1例

著者: 西川泰代 ,   肥田侯矢 ,   田中英治 ,   川田洋憲 ,   長谷川傑 ,   坂井義治

ページ範囲:P.223 - P.227

要旨
症例は47歳,女性.急激な右側腹部痛で当院救急外来を受診した.腹部造影CTで,十二指腸背側に気腫と石灰化結節を伴う膿瘍を認め,十二指腸憩室の後腹膜穿孔と診断し,緊急腹腔鏡手術を施行した.5ポートでKocher授動を行い,十二指腸背側の後腹膜腔から膿汁の流出を確認した.後腹膜腔の剝離を進めると破綻した十二指腸憩室と結石を認め,憩室壁をトリミングして縫合閉鎖し,大網で被覆した.胆囊摘出とCチューブ留置を加え手術を終了した.術後経過は良好であった.本邦ではこれまで報告のない十二指腸憩室穿孔に対する腹腔鏡下手術を経験した.腹腔鏡による拡大視効果により,症例によっては精緻な手術が可能になると考える.

傍下行結腸窩ヘルニアの1例

著者: 光岡晋太郎 ,   酒井亮 ,   寺本淳 ,   瀬下賢

ページ範囲:P.228 - P.231

要旨
患者は62歳,女性.腹痛と嘔吐を主訴に来院し,イレウスの診断で保存的治療を行ったが軽快しなかった.CT所見から絞扼性イレウスと診断され,内ヘルニアが疑われたが原因は特定できなかった.緊急手術を施行すると,下行結腸外側の傍結腸溝にヘルニア門を有し,下行結腸外背側に陥凹が存在して小腸が10 cmほど入り込み嵌頓していた.小腸を引き出して整復したのち,再発防止のためヘルニア門を切開し,嵌頓していた空間を広く開放して手術を終了した.内ヘルニアでも稀な傍下行結腸窩ヘルニアであったが,この疾患の形態を理解しCT所見を丁寧に読影すれば術前診断も可能と考えられた.

コルセット着用が一因と思われる両側鼠径・大腿ヘルニアに対し腹腔鏡下に修復した1例

著者: 三宅隆史 ,   鈴木正彦 ,   浅羽雄太郎 ,   臼井弘明 ,   鶴岡琢也 ,   水上泰延

ページ範囲:P.232 - P.235

要旨
症例は67歳,男性.腰痛に対してコルセットを処方され,2週間使用後に右鼠径部の痛みと膨隆が出現し,当科へ紹介となった.右鼠径部に鶏卵大のヘルニア,左鼠径部に壁の脆弱性を認めたため,腹腔鏡下ヘルニア根治術(transabdominal preperitoneal repair:TAPP)を施行した.右側はⅠ-2型+Ⅲ型の併存型ヘルニア,左側はⅠ-1型+Ⅱ-1型+Ⅲ型の併存型ヘルニアを認めた.現在までに併存型ヘルニアが両側に同時発症したという報告はなく,腹圧上昇や外圧が契機となって発症した鼠径部ヘルニアの報告例も認めていない.脆弱化した両側鼠径部領域を正確に確認・補強できる腹腔鏡下手術が有用な1例であった.

水腎症,尿路感染症を契機に診断された後腹膜仮性囊胞の1例

著者: 境雄大 ,   佐野淳 ,   浜島秀樹 ,   松倉聡 ,   田口泰三 ,   谷崎裕志

ページ範囲:P.236 - P.240

要旨
55歳,女性.3日間持続する腹痛と発熱を主訴に受診した.臍の右外側に腫瘤を触知し,圧痛を認めた.血液検査で炎症反応,尿検査で白血球,細菌が認められた.CTと超音波検査で子宮筋腫,卵巣囊胞,右水腎症,右尿管を圧排する後腹膜の囊胞性病変が疑われた.MRIで後腹膜の囊胞性病変は最大径4.9 cmで,T1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号であった.後腹膜腫瘤の診断で開腹術を施行した.後腹膜から発生した囊胞性病変で周囲と強固に癒着していたが,腫瘤を摘出した.病理組織検査から後腹膜仮性囊胞と診断した.術後経過は良好であった.水腎症の原因として本症も念頭に置く必要がある.

ポリスチレンスルホン酸カルシウム(CPS)による回腸狭窄をきたした1例

著者: 市川健 ,   河埜道夫 ,   近藤昭信 ,   田中穣 ,   長沼達史 ,   伊佐地秀司

ページ範囲:P.241 - P.245

要旨
症例は85歳,男性.慢性腎不全,高カリウム血症でポリスチレンスルホン酸カルシウム(CPS)を1年間内服中であった.当院受診の2日前より腹痛,下痢を繰り返したため精査を行った.小腸造影検査・内視鏡検査でバウヒン弁より30 cm口側の回腸に全周性狭窄を伴う潰瘍性病変を認め,過去に結核感染の既往はないが,結核菌検査で陽性を示したため回腸結核を疑い,回腸部分切除術を施行した.病理組織学的所見で抗酸菌は否定され,狭窄部粘膜下層に好塩基性無構造物の沈着を認めたため,CPSによる回腸狭窄と診断された.CPSによる小腸病変の報告は本症例を含めても2例と少ないが,腸管の狭窄や炎症性変化を認める症例でCPS内服歴があれば,本症も念頭に置くべきであると考えられた.

私の工夫

肥満患者の開腹虫垂切除術における皮下の展開法の工夫

著者: 石橋雄次 ,   末松友樹 ,   斎藤洋之 ,   大森敬太 ,   若林和彦 ,   伊藤豊

ページ範囲:P.246 - P.247

【はじめに】
 開腹虫垂切除術の皮膚切開はMcBurney法やLennander法などの方法があるが,いずれも整容性を考慮すると可能な限り小さな切開長とすることが多い.しかし肥満患者では皮下脂肪が厚いため,腹膜までの距離が深くなり,小さな切開創では腹膜切開時の展開が容易ではないことがある.今回,肥満患者の開腹虫垂切除術における皮下の展開法の工夫について紹介する.

ひとやすみ・134

頼もしい次世代

著者: 中川国利

ページ範囲:P.162 - P.162

 子供はいつまでも未熟であると,親は思いがちである.しかしながら今回,健診でのPSA検査から前立腺癌が発見され,大学病院で手術を受けた.そして同級生の子供らが中堅医師として活躍しているのを見るにつけ,世代の交代を強く感じた.
 手術室に入室すると研修医を指導する麻酔科医が,「私の父は先生の同級生です.先生が患者さんだとは驚きました.しっかりかけさせていただきます」と,挨拶された.苗字が特殊なだけに,すぐに同級生の顔が思い出され,麻酔に対する不安が薄らいだ.そして彼は術後にも病室を訪れ,「麻酔はどうでしたか」と気遣ってくれた.

書評

—福永篤志(著) 稲葉一人(法律監修)—トラブルに巻き込まれないための医事法の知識

著者: 篠原幸人

ページ範囲:P.170 - P.170

 交通事故大国というイメージが強い米国でも,実際には年間の交通事故死者数よりも医療事故死者数のほうが多いだろうと言われている.今から8年ほど前のNew England Journal of MedicineにHillary ClintonとBarack Obamaが連名で,医療における患者の安全性に関して異例の寄稿をしたほどである.
 日本における医療過誤死者数ははっきりとは示されていないが,医事関係訴訟は年間700〜800件はあるという.患者ないしその家族の権利意識の高まりの影響が大きいが,マスコミの医療事故報道や弁護士側の動きも無視できない.

—永井英司(編)—完全腹腔鏡下胃切除術—エキスパートに学ぶ体腔内再建法[DVD付]

著者: 谷川允彦

ページ範囲:P.198 - P.198

 最新の腹腔鏡下胃癌手術の中でハイライトと言える“体腔内再建法”をテーマにした本書は,医学書院の雑誌『臨床外科』の連載を土台にして永井英司先生が企画編集されたものですが,わが国におけるこの分野の達人と評価の高い先生方がそれぞれ得意とする領域で,その技量を付属するビデオも通して,わかりやすく,また,画像的にも美しく表現されています.外科学の中で,日進月歩の医用工学に最も影響され,進化しているのが内視鏡外科学と思われますが,それぞれの達人により無血の術野で展開される新器材を利用したエキスパート手技が,これも画期的進化の只中の鮮明な映像で美しく表現されています.
 1991年に始まった腹腔鏡下胃癌手術の過去25年間の普及は目覚しいもので,年間の手術症例数は3〜4年前まで回帰関数的な増加を示してきました.わが国において,11万〜12万人の年間胃癌罹患患者に対して(http://ganjoho.jp/public/index.html),National Clinical Database(NCD)や厚生労働省データベースによると,2011年から直近の2014年にかけて1年間に51,000〜55,000人に胃癌切除再建術式が行われており,そのうちの約30%の症例に腹腔鏡手術が行われるようになってきています.その実施率が腹腔鏡下大腸癌手術の場合よりも低いことについては,エビデンスが乏しいことから最新の胃癌治療ガイドライン(2014年)においても限られた範囲の推奨であることが大きく影響していると思われますが,進行胃癌を対象にした第Ⅲ相比較臨床試験が現在,複数進行していることから考えて,腹腔鏡手術が近い将来にはさらに重要な地位を占めるようになると予想されます.

昨日の患者

津波被災者の元患者さんを偲ぶ

著者: 中川国利

ページ範囲:P.180 - P.180

 東日本大震災から早5年が過ぎ去ろうとしている.引き続いて生じた巨大津波では多くの人命が失われ,私が手術した患者さんでも命を落とした人が数知れない.しばしば被災地を巡り,元患者さんを偲んでいる.
 Kさんは20年ほど前に,腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した元患者さんである.入院時,たまたま出身地が同じ町のため尋ねると,父親の教え子であった.その晩,父親に電話をかけると,Kさん夫婦は中学3年生時に父親が担任した教え子であった.さらに若き時代の両親が最初に仲人した夫婦でもあり,偶然の縁を非常に喜んでくれた.

1200字通信・88

看取り—自分の場合

著者: 板野聡

ページ範囲:P.211 - P.211

 この歳になると,身内のなかにいろいろな病を得る者が出てくることになり,仕事柄そのことに関わらずにはおられなくなってきます.身近にいる者であれば直接に,また遠方であれば相談という形ではありますが,身内故に病気の種類を問わず過大に期待され,またこちらとしては職業的な責任を感じることになり,その狭間で気を使うことになります.
 私自身はこれまでの60数年の人生で,幸いにも「逆縁」はなく,身内の数人を送った経験があるにすぎません.しかし,いずれの場合でも実際に送るときの辛さもさることながら,この仕事に就いたが故に,その来るべき「時」がもうすぐそこに来ていると察知したときの辛さもまた同様に大きなものでした.

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原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P. - P.

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P. - P.

あとがき

著者: 渡邉聡明

ページ範囲:P.254 - P.254

 今回の特集は大腸がんに対する腹腔鏡手術です.NCD(National Clinical Database)のデータによると,日本では現在,直腸がんに対する手術のうち約60%が腹腔鏡手術で行われています.がんに対する手術を臓器別で見ると,直腸がんが最も高い頻度で腹腔鏡手術が導入されており,肝臓がんをはじめ腹腔鏡手術の導入率が低い臓器もあります.このように臓器によって腹腔鏡手術導入率が大きく異なるのは,どうしてでしょうか.一つの理由は,対象臓器の解剖学的部位による違いでしょう.直腸がんでは狭い骨盤内での操作が必要となりますが,腹腔鏡による拡大視効果と,モニターで術者と同じ術野を共有する腹腔鏡手術が導入しやすかった背景があると考えられます.ほかに大きな理由として,デバイスの発達があると思います.大腸の腹腔鏡手術は1990年代初めに導入されていますが,その後すぐに広く普及したわけではありません.様々なデバイスの発達があり,その結果,施行率が増加しました.腹腔鏡手術の普及には,このようなデバイスの発達が大きく影響すると思います.そういった意味ではほかの臓器,例えば肝臓がんなどに対して腹腔鏡手術が十分広まっていないのは,現在デバイスの発達が必ずしも十分ではない可能性があるのかもしれません.同じようなことは,現在注目されているロボット手術,すなわちダヴィンチ手術にも言えると思います.ダヴィンチシステムは最初の型が登場してから改良が加えられ,現在は4世代目のダヴィンチxiが登場しています.ダヴィンチxiは,これまでのダヴィンチシステムにあったアームの干渉など,様々な問題点に対して改良がなされています.これらの改良により,セットアップも含めた手術操作が格段に行いやすくなっています.これらの改良はダヴィンチの更なる普及に大きく影響するでしょう.このように腹腔鏡手術では,デバイスの発達が,手術自体に非常に大きな影響を与えることがわかります.今後は,デバイスの発達のための研究がますます重要となっていくでしょう.そして,より良いデバイスの開発のために必要なのは,日頃の手術からの外科医のフィードバックであり,手術を通して問題点を見極める外科医の「目」が新たな開発の鍵となるでしょう.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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