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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科71巻3号

2016年03月発行

雑誌目次

特集 術後障害のリアル—外来フォローの実力が臓器損失を補う

ページ範囲:P.259 - P.259

 癌に限らず臓器損失を伴う手術においては,それに起因する術後障害が少なからず発生する.術後QOL低下の原因となり,たとえば検診で発見された早期胃癌など,術前特に症状がなかった症例では大きな問題である.しかしながら,手術を施行する外科医(特に若手)は,術式そのものや術後早期合併症には大いなる関心を払うが,ともすると退院後外来フォローアップ中における術後障害は軽視しがちな傾向が危惧される.患者にとっては大きな問題であり,術後フォローアップを担当する外科医は,これら術後障害にも真摯に取り組む必要がある.また,術前よりそれらをきちんと把握しておくことは,患者の術後への不安を軽減することにも役立つものと思う.
 本特集では,術後障害がQOLへどのような影響を及ぼすか,どのように判定すべきかなどが示されている.若手外科医諸君はぜひそれらを日常診療で活用していただきたい.

術後障害を診るための基本

術後障害とQOL—どのように考え,どのように評価するか

著者: 平成人

ページ範囲:P.260 - P.263

【ポイント】
◆疾病,治療は長期的な身体・心理・社会的な影響を伴う場合があり,survivor careの課題とされている.
◆医療者は治療関連症状を低く見積もる傾向があり,患者評価との乖離がある.このため,臨床症状の評価には患者の主観的評価であるPatient-Reported Outcome(PRO)が重視されている.
◆PRO評価を通じた,患者の直面している問題への理解と関心が,survivor careの第一歩である.

術後患者に対する精神的・心理的サポート

著者: 岡村仁

ページ範囲:P.264 - P.269

【ポイント】
◆術後は患者の心理的な状態にも注意を向けることが重要である.
◆留意すべき術後患者の精神的負担として,適応障害,うつ病,せん妄が挙げられる.
◆心のケアを行ううえで身につけておくべきスキルとして,患者とのコミュニケーションスキルがある.

評価・対応の実際

乳腺—創部トラブル,いわゆる「愁訴」とされるものなど

著者: 飯島耕太郎 ,   齊藤光江

ページ範囲:P.270 - P.273

【ポイント】
◆手術のみでなく治療全体のアウトラインについて,手術前によく説明を行い,コンセンサスと「信頼」を得ることがなによりも重要である.
◆適切な手術選択をすること,また手術内容も「取り過ぎることがないよう」,常に考えながら行い,かつ改善することが大切である.
◆治療方針や術後の結果説明,また患者の強い訴えに対応する場合など,ポイントとなる診察は決して端折らない.

食道—反回神経麻痺,胃挙上再建に伴う障害など

著者: 橋本貴史 ,   岩沼佳見 ,   富田夏実 ,   天野高行 ,   國安哲史 ,   橋口忠典 ,   那須元美 ,   尾﨑麻子 ,   齋田将之 ,   藤原大介 ,   吉野耕平 ,   朝倉孝延 ,   菅原友樹 ,   鶴丸昌彦 ,   梶山美明

ページ範囲:P.274 - P.278

【ポイント】
◆食道癌手術は癌の占居部位,周囲臓器への浸潤状況などにより選択される術式が異なり,生じる障害が異なる.
◆食道癌手術後は体重減少などのボディ・イメージの変化も伴い,精神的なダメージも伴うことがある.
◆生じうる術後障害について術前に十分な説明を行い,術後は患者の訴えに耳を傾けることが重要である.

胃—ダンピング症候群,小胃症状,食道逆流など

著者: 中田浩二 ,   川村雅彦 ,   古西英央 ,   岩崎泰三 ,   村上慶四郎 ,   志田敦男 ,   柏木秀幸 ,   羽生信義 ,   三森教雄 ,   矢永勝彦

ページ範囲:P.280 - P.287

【ポイント】
◆胃切除術が消化器系などに及ぼす損失は大きく,古くより胃切除後障害として知られている.
◆胃切除術を行う外科医は「がんを治すこと」と同時に,手術および外来フォローによって「術前に近い生活が送れる」ことも目標としたい.
◆胃切除後障害は「起こるもの」と認識し,予防のための指導を充実させるとともに,外来フォローにおける検出と対応についても気に留めることが肝要である.

肝臓—術後肝不全,胆汁漏

著者: 大道清彦 ,   長谷川潔 ,   國土典宏

ページ範囲:P.288 - P.292

【ポイント】
◆退院後に再度胸腹水が貯留する肝不全徴候を見逃さず対処する.
◆退院後に肝機能異常がみられることがあるので注意が必要である.
◆術後2週間以降に発生するような遅発性胆汁漏も存在するので,外来で見逃さないことが重要である.

膵臓—外分泌障害,内分泌障害

著者: 伊藤貴洋 ,   加藤宏之 ,   岸和田昌之 ,   伊佐地秀司

ページ範囲:P.293 - P.299

【ポイント】
◆膵臓は内外分泌機能を併せ持つ独特な臓器であり,いずれの障害もQOLを損なう原因となる.
◆外分泌障害として低栄養,下痢,内分泌障害として糖尿病が重要であり,脂肪肝,吻合部潰瘍も無視できない.
◆十分な膵酵素補充と栄養改善(維持),生理的な血糖コントロール,酸分泌抑制,が重要である.

胆囊・胆管—胆摘後症候群,術後胆管炎

著者: 森隆太郎 ,   松山隆生 ,   遠藤格

ページ範囲:P.300 - P.304

【ポイント】
◆胆囊摘出術後には古くから胆摘後症候群が知られ,胆道再建後には乳頭機能が失われるため,胆管炎の発生危険状態ともなる.
◆これらの予想される病態を術前から十分に患者に説明し,理解させることによって,発症時に速やかに受診させて,入院加療を行うことが可能になる.その結果,重症化を未然に防ぐことが可能となる.

小腸—吸収不良症候群,短腸症候群

著者: 山本隆行 ,   下山貴寛 ,   名和俊平

ページ範囲:P.305 - P.309

【ポイント】
◆小腸切除後には,消化吸収不良による機能障害が起こる.各種栄養素の欠乏により,下痢,体重減少,貧血,倦怠感などのさまざまな症状(吸収不良症候群)が出現する.
◆切除された小腸の部位や範囲によって,発生する術後障害も異なる.各栄養素の吸収部位や欠乏症状を正しく理解する必要がある.
◆短腸症候群は患者のQOLを著しく損なうため,医師,看護師,薬剤師,栄養士,臨床心理士,医療ソーシャルワーカーからなる栄養サポートチームによる管理が望まれる.

大腸—排尿・性機能障害,排便機能障害

著者: 幸田圭史

ページ範囲:P.310 - P.314

【ポイント】
◆左側結腸,直腸癌手術の際に自律神経を損傷した場合,損傷部位によって排尿障害,性機能障害の症状が異なる.
◆術後排便障害の治療では食事療法や生活指導も大切であり,その他,薬物治療,排便訓練,仙骨刺激療法(SNM)について概説する.
◆医療者への遠慮から症状を正しく伝えない場合もあるため,障害について客観的に把握する必要がある.

FOCUS

胆管内乳頭状腫瘍(IPNB)とその外科治療

著者: 大塚将之 ,   清水宏明 ,   加藤厚 ,   吉富秀幸 ,   古川勝規 ,   高屋敷吏 ,   久保木知 ,   高野重紹 ,   鈴木大亮 ,   酒井望 ,   賀川真吾 ,   野島広之 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.317 - P.321

はじめに
 胆管内乳頭状腫瘍(intraductal papillary neoplasm of the bile duct:IPNB)は,胆管内腔に乳頭状増殖を示す胆管上皮性腫瘍を指し,膵管内乳頭粘液性腫瘍との類似性から新たな概念として提唱され,2010年のWHO分類1)では肝内外の前癌病変,あるいは癌病変として記載されている.しかし,一方で,特に以前より分類されていた乳頭型胆管癌との異同など,その疾患概念そのものについていまだコンセンサスは得られておらず2),やや混乱しているのが現状である.IPNBの治療の原則は外科切除であるが,術前の進展度診断を十分に施行したうえで切除術式を立案する必要がある.本稿では,IPNBの疾患概念と外科治療につき概説する.

小児外科領域における移行期医療の現状

著者: 佐々木英之 ,   仁尾正記

ページ範囲:P.322 - P.326

はじめに
 近年の小児科・小児外科領域の治療成績の改善により,多くの疾患でその生存率の向上が認められる1).これに伴い,原疾患自体ないしは原疾患に起因する合併症や続発症を抱えながら,医療サポートを必要とする状態で思春期から成人期を迎える患者の数も増加している.しかし,現状ではこのような症例に対する医療現場の状況は十分に整備されているとは言いがたい.このような現状を受けて,本邦では2013年には日本小児科学会から「小児期発症疾患を有する患者の移行期医療に関する提言」が作成された2).また,日本小児外科学会でも2013年よりトランジション検討委員会が組織され,学会としての取り組みを強化している.
 本稿では,小児外科領域における移行期医療の現状,問題点および取り組みについて,小児外科の立場から述べるとともに,今後の望ましい方向性について論じてみたい.

病院めぐり

公立学校共済組合東北中央病院外科

著者: 齋藤善広

ページ範囲:P.327 - P.327

 山形県は,さくらんぼやラ・フランスなどに代表される果物の産地として有名ですが,その他全国的に有名な日本酒(敢えて名は伏せますが),ワイン,米沢牛,山菜,キノコと,非常に食文化に恵まれた県です.山形市はそんな県の中央部,東端に位置する,人口25万人の県庁所在地です.隣県宮城県の仙台市と接しており,国内でも数少ない,県庁所在地同士が接する地でもあります.東北中央病院は,そんな山形市のなかでも東端の山麓,山紫水明の地に立地し,裏山では春は新緑,夏は蝉の声,秋は紅葉,冬は一面雪景色と,一年中四季おりおりの自然を楽しめます.この環境は,当院の設立理由と深く関係しております.
 当院は,公立学校の教職員の組合である公立学校共済組合が母体となって,各地方に1つずつ,その地方名を冠して設立した8病院の一つです.系列病院の設立理由は,昭和20年代当時,日本中で結核が猛威を振るっていたため,全国の教職員の結核治療を目的として建設されました.したがって,当院も療養所的な性格もあり,市の東端の田畑が広がった山麓に,昭和33年10月に竣工の運びとなりました.当初診療科は,内科,外科,耳鼻咽喉科,歯科で,病床数は192床でしたが,そのうち156床は結核病床でした.その後,一般患者の増加とともに診療科も増加し,昭和54年に結核病床が全面廃止となり,ほぼ現在と同様な一般病院へと変遷しました.現在は,病院周囲の田畑も住宅地となり,病院のすぐ前を幹線道路である国道13号線が通り,非常に交通の便のよい立地条件へと変貌しました.当院の医師は,開院にあたり,当時結核の研究で有名であった東北大学抗酸菌研究所に全面的に援助を要請しました.外科も呼吸器外科医が中心となり,結核の治療から,徐々に肺がんの治療へと,疾患の変化に応じて呼吸器疾患の治療に尽力してきました.年号が平成に変わった頃,建物の老朽化も進み,全面改築の計画が浮上しました.平成7年5月の外来棟の完成で病院の全面改築が終了し,病床数が252床で最上階に35床のドック病床を有する,タイル張りの瀟洒な現在の病院が完成しました.それとともに,外科の医局が東北大学抗酸菌研究所から東北大学第一外科へと鞍替えし,一般消化器外科,乳腺外科を専門として現在に至っています.現在,日本外科学会,日本消化器外科学会の専門医制度の修練施設となっており,日本乳癌学会は関連施設となっております.

図解!成人ヘルニア手術・10 忘れてはならない腹壁解剖と手技のポイント

閉鎖孔ヘルニア修復法

著者: 内藤稔

ページ範囲:P.328 - P.337

■ はじめに
 骨盤の寛骨臼の下方には,恥骨および坐骨で囲まれた閉鎖孔があり,ほとんど閉鎖膜で覆われている.その前下方に裂孔があり,閉鎖血管・閉鎖神経が通る.この部は閉鎖管と呼ばれ,ここを通じて腸管が大腿内側に脱出するものを閉鎖孔ヘルニア(obturator hernia)という.近年,平均年齢の上昇とともに症例は増加している.診断に時間を要していた20年くらい前は死亡率も高かったが,CT検査による早期診断が普及してからは予後の改善が認められる1,4,6〜8).本稿では,診断の重要性・局所の解剖について解説する.

具体的事例から考える 外科手術に関するリスクアセスメント・12

外科手術後のトラブルをどう防ぐか

著者: 石川雅彦

ページ範囲:P.338 - P.342

 外科手術においては,術後に手術関連のさまざまなインシデント・アクシデントが発生しており,これらの未然防止は,良質で安全な手術医療の提供に極めて重要である.本稿では,日本医療機能評価機構の「医療事故情報収集等事業」の公開データ検索1)を用いて,外科手術において,手術後に発生した手術関連の事例を抽出し,発生概要,発生要因と再発防止策について検討した.

臨床研究

映像と自己評価シートを用いた患者の自発的な術後早期離床を目指す患者教育の効果

著者: 大原佑介 ,   永井健太郎 ,   釼持明 ,   稲川智 ,   山本雅由 ,   大河内信弘

ページ範囲:P.343 - P.349

要旨
われわれは新たな術後早期離床のプログラムを作成し,患者の自発的な早期離床を促すことができるかどうかを検討した.胃切除術,大腸切除術施行患者を対象とした.プログラムによる介入はDVD(早期離床の重要性に関する内容で,術前と術後に視聴する)および自己評価シート(患者がどの程度離床できたかを患者自身が記入する)とした.離床達成までの平均日数はコントロール群(介入なし)で2.5日,プログラム群(介入あり)で2.0日であった.術後3日目までに離床が完了した症例はコントロール群で25例(69%),プログラム群で40例(87%)であった.プログラムにより早期離床が促進され周術期管理に有用であると考えられた.

臨床報告

鼠径ヘルニア偽還納に対して腹腔鏡下に腸管整復とヘルニア修復(TAPP)を施行した1例

著者: 三上和久 ,   古田浩之 ,   中村崇 ,   齊藤典才

ページ範囲:P.351 - P.355

要旨
患者は73歳,男性.左鼠径部の膨隆と腹痛にて救急外来を受診し,鼠径ヘルニア嵌頓の診断にて用手還納された.しかし翌日にも嘔気が続いたため腹部CTを行い,鼠径ヘルニア偽還納と診断して緊急腹腔鏡手術を施行した.手術は腹膜絞扼輪の切開開大にて嵌頓腸管を整復し,TAPPにてヘルニア修復を行った.比較的稀な疾患であるヘルニア偽還納は,鼠径法や大腿法では診断や手術操作が困難で,開腹手術が行われることが多い.しかし腹腔鏡の高い診断力を活かすことで,低侵襲にて十分な手術操作を行うことが可能であり,有用な術式であると考えられた.

胆囊癌術後早期に発症し肝転移との鑑別が困難であった縫合糸肉芽腫の1例

著者: 三木明寛 ,   南貴人 ,   鈴木貴久 ,   北村好史 ,   大谷剛 ,   石川順英

ページ範囲:P.357 - P.361

要旨
患者は84歳,男性.6か月前に胆囊癌に対して,胆囊床部切除を伴う胆囊摘出術とリンパ節郭清を施行した.病理診断はtub2,pT2,N0,M0,StageⅡであった.今回,超音波検査で肝S4-5境界付近に異常陰影を認め,CTで辺縁に造影効果を伴う占拠性病変として描出された.MRI T1強調像で低信号,T2強調像で高信号,マグネビスト®造影では肝実質相にて明瞭な取り込み欠損を認めた.胆囊癌の肝S4a+S5への転移が否定できず,肝S4a+S5切除術を施行した.組織学的に腫瘤は肝外病変でsuture granulomaと診断された.胆囊癌術後の異物肉芽腫の報告は稀であり,胆囊静脈の肝床方向への灌流域近傍に発生した場合は限局性肝転移との鑑別が困難で,今後の検討が必要と考えた.

化学療法施行後に切除しえた肝門部リンパ節転移を伴う結腸癌肝転移の症例

著者: 奥村徳夫 ,   林直美 ,   古池真也 ,   大西英二 ,   田邊裕 ,   田上鑛一郎

ページ範囲:P.362 - P.367

要旨
症例は68歳,男性.盲腸癌・S状結腸癌・同時性肝転移に対して,回盲部切除・S状結腸切除術を施行した.その後,肝門部リンパ節転移が認められたため肝切除は施行せず,XELIRI+ベバシズマブ療法を施行した.12クール施行後,肝門部リンパ節転移は陽性であったが,新規病変は認めず,肝外側区域切除術・肝門部リンパ節郭清術を施行し,根治切除術を施行しえた.術後10か月経過するが再発は認められていない.肝門部リンパ節転移を伴った大腸癌の肝転移は予後不良とされており,肝切除の適応外とされてきたが,近年の化学療法の進歩により本症例は肝門部リンパ節転移病変以外の新規病変は認められず,conversion therapyに移行することができたので,文献的考察を加えて報告する.

成人腸重積をきたした盲腸脂肪腫に対し腹腔鏡補助下回盲部切除術を施行した1例

著者: 仲地広美智 ,   加藤航司 ,   川上浩二 ,   比嘉聡 ,   有銘一郎 ,   屋良敏男

ページ範囲:P.368 - P.372

要旨
症例は59歳,男性.左上腹部痛で受診した.腹部造影CT,MRIにて大腸脂肪腫による腸重積を疑った.大腸内視鏡検査では,盲腸に黄白苔を伴う潰瘍を有する楕円体の粘膜下腫瘍を認め,盲腸脂肪腫による腸重積と診断した.腹腔鏡補助下回盲部切除術を施行した.術後経過は良好で術後7日目に退院した.術後の病理組織検査でも脂肪腫の診断であった.大腸の脂肪腫が先進部となって腸重積をきたすことはよく知られている.繰り返すことが多いため,内視鏡的切除の困難例は外科的切除の対象となるが,近年,腹腔鏡下手術の進歩により,腹腔鏡補助下切除術の報告例が増えつつある.自験例でも腹腔鏡補助下回盲部切除術を選択し良好な結果を得たので報告する.

短報

傍臍ヘルニアの1例

著者: 境雄大 ,   佐野淳 ,   浜島秀樹 ,   菊池順子 ,   田口泰三 ,   松倉聡

ページ範囲:P.373 - P.375

要旨
患者は33歳,女性.帝王切開で3回の開腹歴がある.約1か月間にわたり臍部の違和感,週に1〜2回程度の膨隆を自覚していた.臍部の膨隆,激痛があり,臥位で圧迫し改善した.翌日,当院を受診した.臍下部右側にわずかな膨隆を認めた.腹部CTで,臍を中心に約1 cmのヘルニア門と大網と思われるヘルニア囊を認めた.傍臍ヘルニアの診断で待機的手術を施行した.ヘルニア門は7 mmで,ヘルニア内容物は大網であった.ヘルニア門を直接縫合閉鎖した.経過は良好で,術後第2病日に退院した.本症は非対称で臍上部または下部に偏って膨隆するのが特徴とされる.自験例は複数回の妊娠と帝王切開が誘因となった可能性がある.

1200字通信・89

看取り—死に際の彷徨

著者: 板野聡

ページ範囲:P.315 - P.315

 高齢者の増加に伴い,高齢者を収容する(不適切な表現ですが,そうとしか思えない)施設が乱立してきています.ただ,現実には,こうした施設がなければ,介護難民が巷にあふれるか,本来の急性期医療を圧迫するほどに病院内に居座ることになるか,はたまた高齢者を抱えた家庭の崩壊を招くことになりかねず,その目的の是非は別にして,現実的に必要な施設と言わなければなりません.
 さて,こうした施設が近くにある病院の先生方ならご経験がおありだと思いますが,入所案内で「嘱託医がいます」「あなたの終の住処になります」といった謳い文句で募集しておきながら,ちょっとした発熱や状態の変化があると,即「病院へ」ということになり,突然に,しかも遠方のご住所の方が,職員さんに付き添われて来られることになります.診察後,点滴処置で十分と考えていると,「入院させてもらえないのですか」と職員さんが声を荒らげ,果ては点滴終了後も帰ろうとはされず,困らされることも起こっています.

書評

—Pierre-Alain Clavien, Michael G. Sarr, Yuman Fong, Masaru Miyazaki(eds)—Atlas of Upper Gastrointestinal and Hepato-Pancreato-Biliary Surgery[Second Edition]

著者: 宮崎勝

ページ範囲:P.316 - P.316

 このAtlas手術書は2007年に第一版が出版され,これまでの手術書とは違って極めてわかりやすく,かつ実践的な内容で高難度手術手技を解説していることより,多くの外科医から大変な好評を博した本である.その第二版がこのほど大幅改訂され,術後合併症Clavien-Dindo分類で有名なスイスのPierre-Alain Clavien,メイヨークリニック外科教授のMichael G. Sarr,ニューヨーク・スローンケタリング癌センター外科教授のYuman Fongの三人の世界的なリーダーに加え,アジアから千葉大学教授の宮崎勝が新たに編集者として加えられ,さらに充実した本として出版された.
 第二版では腹腔鏡アプローチおよびロボットの手術手技などについても多くの章で加えられ,肝臓外科領域では新たにALPPS手術や肝腫瘍に対してのelectroporation法なども掲載されている.また,1990年代に入り,さまざまな手術手技が登場した.たとえば腹腔鏡下の消化管手術および肝切除,胆道癌に対する肝左三区域切除や胆膵癌に対する血管合併切除術なども以前に比べて洗練され,さらに肥満手術においてのgastric bypass術なども新たに開発されてきている.これら新規臨床導入されてきている術式について,外科医は常に正確な知識を得る必要があろう.また本書の特徴として,“Tricks of the Senior Surgeon”といって通常の手術手技の解説書には記載のない秘策的・実践的な注意点がエキスパートらによって簡潔かつ要領よく記載されている.本書にある外科手術をすでに自身で行っている中堅外科医にとっても,技術のさらなる質向上に有用となる手技上のtricksがたくさん記載されており,これを自身の手技と比較してみるだけでも大変参考になるはずである.

ひとやすみ・135

身の引き際を知る

著者: 中川国利

ページ範囲:P.349 - P.349

 平成27年9月,日本外科学会や消化器病学会などの会長を務めたS先生が逝去された.先生は外科教授として永らく臨床や教育に携わり,大学を定年退職後は私が勤めていた病院の院長として赴任した.教授時代は近寄り難い存在であったが,病院長となってからは親しく指導いただいた.そして外科医としての身の引き際までを教えてくれた.
 先生は手術が得意で,教室の誰もがその確実で華麗なる手技に憧れたものである.そして病院長となっても,紹介された患者さんの手術を行った.ある日,回盲部癌に対して結腸右半切除を行うことになり,私が第一助手を務めた.いつものように愛用の曲がり鉗子で腫瘍周囲を大きく挟み,剝離を始めた.しかし癌が浸潤していたこともあり,右総腸骨静脈を切離してしまった.そこで私は,「先生,後は私に任せてください」と,恐れ多くも直言した.すると先生は,「よし,任せる」と言って手を下し,手術室を離れた.私は後輩を相手に総腸骨静脈を吻合した.そのうち,先生が戻るだろうと思いながら手術を進めたが,一向に戻ってこなかった.

昨日の患者

元受け持ち患者さんからの激励

著者: 中川国利

ページ範囲:P.375 - P.375

 生来健康であったが,最近病を得て手術を受けた.そして入院中の思いを新聞に寄稿したら,研修医時代に受け持った元患者のNさんから電話を頂いた.
 「新聞を読んでいたら,懐かしい名前を拝見しました.よもや先生が罹患したとは思いませんでしたが,年齢や住所が一致したため電話を掛けました」とのことであった.

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原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P. - P.

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P. - P.

あとがき

著者: 瀬戸泰之

ページ範囲:P.382 - P.382

 医療者と患者の言葉にはギャップがあるとよく言われ,それらを指摘する書物も出版されている.一方,言葉は薬にもなると言われ,その類の書物も出版されている.われわれはそのことを肝に銘じておくことが大切である.もっとも医療者と患者との間で乖離がある言葉の一つがショックであると記されている.医学的には,血圧低下に代表されるvital sign低下の循環不全を意味するが,一般的には感情的ダメージを指す.小生の身近な場でもいくらでも起こりうる.肺炎の患者さんやご家族を目の前にして,原因は「ゴエン」ですね,と言うと,まず一般の方々は「御縁」と思いキョトンとされるかもしれない.それくらい違うのだということを知る必要がある.
 術後障害に関しても,そのくらいの違いがあることが本特集を読むとよくわかる.できれば,後半の各論を読んでいただいたあとに,前半の総論(QOL,精神的・心理的サポート)を読み直してほしい.各論を理解し実践することが必要条件であることは自明のことであるが,それをいかに上手に行うか(患者さんに理解してもらうか)も,実は医師の重要な力量であることがわかっていただけると思う.若い時期はえてして技術論に重きを置きがちであるが,それをうまく活かすためには,患者さんとのコミュニケーションも重要であることを再認識していただければと思う.悪性腫瘍根治術においては臓器損失が必発であり,それに起因する術後障害が少なからず発生する.本特集でも指摘があるように,ともすると退院後外来フォローアップ中における術後障害は軽視されがちな傾向がある.患者さんにとっては,癌根治(再発の有無)とともに大きな問題であり,術後フォローアップを担当する外科医は,これら術後障害にも真摯に取り組む必要があるのである.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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