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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科71巻4号

2016年04月発行

雑誌目次

特集 大腸癌肝転移—最新の治療ストラテジー

ページ範囲:P.387 - P.387

 大腸癌の遠隔転移では肝転移が最も頻度が高く,経過中に約20〜50%が肝転移をきたすと報告されている.治療法としては肝切除が最も有効な手段であるが,最近では二期的肝切除や腹腔鏡下肝切除の新しい術式や,ラジオ波焼灼術,放射線治療など様々な治療が試みられている.一方,化学療法の発達もめざましいものがあるが,切除不能症例に対するconversion therapy,肝切除と化学療法をどのように組み合わせるかについて多くの意見が混在しているのが現状である.また化学療法の発達は,薬剤性肝障害や,画像上と病理学的なcomplete responseの乖離などの問題をもたらした.
 本特集では,大腸癌肝転移の治療における基本的な考え方に加え,手術,局所療法,化学療法,放射線治療などの新しい試みについても解説する.

総論

大腸癌肝転移の現状

著者: 江本成伸 ,   石原聡一郎 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.388 - P.392

【ポイント】
◆肝臓は大腸癌の転移巣として最も頻度の高い臓器である.
◆肝転移の治療は肝切除,全身化学療法,肝動注療法および熱凝固療法に大別でき,根治切除可能な肝転移には肝切除が推奨される.
◆化学療法の進歩により,切除不能であったものが切除可能にconversionする症例が存在し,長期生存が得られる場合がある.
◆患者の耐術能やPSを考慮して治療方針を決定する必要がある.

大腸癌肝転移の画像診断

著者: 上野彰久 ,   陣崎雅弘

ページ範囲:P.393 - P.403

【ポイント】
◆肝臓の画像診断においては,超音波,CT,MRI,FDG-PET/CTなど多彩なmodalityがあり,EOBやSPIO,Sonazoidなどの肝特異性造影剤も存在する.
◆肝転移の診断において主体となるのは造影CTおよびEOB-MRIであるが,腎機能不良例など,ヨード造影剤やGd系造影剤が使用しづらい場合には,ソナゾイド造影超音波やSPIO-MRI,FDG-PET/CTなどが代替検査として有効である.
◆画像診断機器には距離分解能,濃度分解能ともに一定の限界があり,画像上のCRは必ずしも真のCRを反映しているわけではないことには十分留意しておく必要がある.

化学療法と肝障害

著者: 河地茂行 ,   千葉斉一 ,   高野公徳 ,   富田晃一 ,   佐野達 ,   小澤陽介 ,   疋田康祐 ,   芹澤博美

ページ範囲:P.404 - P.408

【ポイント】
◆化学療法による肝障害として,イリノテカンによるsteatohepatitis(いわゆるyellow liver),オキサリプラチンによるsinusoidal obstructive syndrome(SOS,いわゆるblue liver)は重要であり,肝切除後の死亡率・合併症率に影響を及ぼす.
◆ベバシズマブはオキサリプラチンによるSOSを軽減する効果をもつ.
◆化学療法による肝障害を避けるには漫然と化学療法を継続せず,肝切除前に一定の休薬期間をおくことが重要である.肝予備能へ及ぼす影響を評価するためには,ICG15分値やアシアロシンチなどの従来法を駆使するよりほかはない.

治療の実際

肝切除

著者: 酒井望 ,   清水宏明 ,   大塚将之 ,   加藤厚 ,   吉富秀幸 ,   古川勝規 ,   高屋敷吏 ,   高野重紹 ,   久保木知 ,   鈴木大亮 ,   賀川真吾 ,   野島広之 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.409 - P.416

【ポイント】
◆大腸癌肝転移治療のgold standardは外科的切除であり,血管合併切除,門脈塞栓術などを併用し治癒切除することで予後の改善に寄与しうる.
◆肝再発,肺再発症例においても,治癒切除可能であればその予後は非切除群に対し良好であり,積極的に切除を考慮すべきである.
◆切除の可否,治療プラン決定にあたっては,肝臓外科医を含めたmultidisciplinary teamにより総合的に判断されるべきである.

全身化学療法

著者: 石川敏昭 ,   石黒めぐみ ,   植竹宏之

ページ範囲:P.418 - P.425

【ポイント】
◆切除不能肝転移は全身化学療法の適応である.化学療法後に切除可能になり肝切除を行う(conversion chemotherapy)と生存期間の延長が期待でき,治癒する場合もある.
◆肝転移に対する全身化学療法では,各レジメンの特性を理解して個々の症例に適切なレジメンを選択することが重要である.
◆切除可能肝転移に対する周術期化学療法の有用性は確立されておらず,臨床試験にて検証されている.
◆大腸癌肝転移は集学的治療により治療成績が向上することが期待されており,大腸外科医,腫瘍内科医,肝臓外科医,放射線科医などが密接に連携することが重要である.

肝動注療法

著者: 加藤弥菜 ,   山浦秀和 ,   佐藤洋造 ,   小野田結 ,   村田慎一 ,   長谷川貴章 ,   金原佑樹 ,   守永広征 ,   山口久志 ,   稲葉吉隆

ページ範囲:P.426 - P.431

【ポイント】
◆大腸癌に対する全身化学療法の進歩に伴い,肝動注化学療法の位置付けは低下し,適応は限定的となっている.
◆肝動注化学療法が予後を改善しうる十分なエビデンスはないが,一部の状況では治療選択肢として検討する余地はあると思われる.
◆肝動注化学療法を施行する場合は,最大限の効果が得られるよう,適切なカテーテル留置と管理が必要である.

ラジオ波焼灼術(RFA)

著者: 椎名秀一朗 ,   佐藤公紀 ,   清水遼 ,   林学 ,   谷木信仁 ,   近藤祐嗣 ,   浅岡良成 ,   建石良介 ,   小池和彦

ページ範囲:P.433 - P.437

【ポイント】
◆ラジオ波焼灼術(RFA)は熱で腫瘍組織を壊死させるため,抗腫瘍効果は癌腫を問わない.
◆RFAは欧米では転移性肝腫瘍,特に大腸癌肝転移に対して実施されている.
◆自験例ではRFA後5年生存は70名,10年生存は11名存在する.適切に行えば大腸癌肝転移でも根治的治療となりうる.
◆RFAは成績の施設間格差が大きい.きちんとしたトレーニングにより技術を習得し,環境を整備してからRFAを実施すべきである.

放射線療法

著者: 秋元哲夫

ページ範囲:P.438 - P.442

【ポイント】
◆放射線治療技術の進歩で,根治切除不可または手術希望のない肝転移症例のうち単発や限局性の場合には,放射線治療が実施される場合も増えてきている.
◆肝転移の治療では,腫瘍に対する線量集中性向上と腫瘍と正常組織の間の急峻な線量勾配を有する照射法が有効である.
◆腫瘍の放射線感受性予測なども実施可能になることで,適切な症例選択や治療方法選択が可能になることも期待したい.

肝切除法・治療戦略のトピックス

多発肝転移に対する適応拡大をめざしたtwo-stage hepatectomyとALPPS

著者: 田中邦哉 ,   菊地祐太郎 ,   川口大輔 ,   村上崇 ,   廣島幸彦 ,   松尾憲一 ,   小杉千弘 ,   幸田圭史

ページ範囲:P.443 - P.455

【ポイント】
◆化学療法の進歩と相まって切除適応が著しく拡大された肝転移手術において,安全性を担保しながら大量肝切除を完遂する手技上の工夫が必須となった.
◆従来の門脈塞栓併用切除や計画的2期的切除に加えて,昨今では新たな2期的切除術式であるALPPS手術が報告され,世界的に導入されつつある.
◆肝再生を促しながら残存予定肝容量を確保するこれら術式により切除適応は拡大されたが,再生機序の詳細や合併症リスクなど依然明らかとなっていない点も多い.
◆これらの特徴を十分理解したうえで治療に応用していくことが,今後の肝転移治療成績向上には必須である.

大腸癌肝転移に対する腹腔鏡下肝切除

著者: 板野理 ,   下田啓文 ,   篠田昌宏 ,   北郷実 ,   八木洋 ,   阿部雄太 ,   日比泰造 ,   北川雄光

ページ範囲:P.456 - P.462

【ポイント】
◆大腸癌肝転移に対する腹腔鏡下肝切除と開腹肝切除の前向き比較試験はないものの,腹腔鏡下肝切除の有用性を示す複数の報告が存在する.
◆腹腔鏡下肝切除は,大腸癌肝転移に対する治療戦略において有力な選択肢となりうる可能性がある.
◆術前に綿密なシミュレーションを行うことで,安全かつ確実な腹腔鏡下肝切除を行うことができる.

同時性肝転移に対する治療戦略のcontroversy

著者: 松本寛 ,   山口達郎 ,   中野大輔 ,   中山祐次郎 ,   河村英恭 ,   高橋亜紗子 ,   高橋慶一

ページ範囲:P.464 - P.467

【ポイント】
◆切除不能stage Ⅳ大腸癌に対する原発巣切除の意義はいまだ不明であるが,原発切除が有用な可能性がある.
◆肝転移に対する化学療法は,術後補助化学療法より周術期化学療法のほうが,現時点では有用である可能性が高い.
◆切除可能同時性肝転移症例に対する治療戦略として,これまでの治療とは別に肝切除先行(liver first)の概念がある.

切除不能大腸癌肝転移に対するconversion chemotherapy

著者: 別府透 ,   今井克憲 ,   坂本快郎 ,   鶴田豊 ,   陶山浩一 ,   馬場秀夫

ページ範囲:P.468 - P.473

【ポイント】
◆切除不能大腸癌肝転移をconversion chemotherapy後に肝切除することで長期生存が望める.
◆conversion chemotherapyとしては,奏効率の高い抗EGFR抗体併用化学療法やFOLFOXIRI+ベバシズマブが期待されている.
◆適切なconversion chemotherapyを臨床試験により確立する必要がある.

FOCUS

がん免疫治療の最前線

著者: 大平公亮 ,   垣見和宏

ページ範囲:P.474 - P.479

はじめに
 近年のCTLA-4やPD-1/PD-L1などの免疫チェックポイント(immune-checkpoint)分子に対する阻害抗体治療,メラノーマに対する腫瘍浸潤リンパ球(TIL)や,CD19に対するキメラ型抗原受容体(chimeric antigen receptor)遺伝子導入T細胞(CAR-T細胞)を用いた細胞移入治療の大きな成功を受けて,米国のScience誌がBreakthrough of the Year 2013に「がん免疫治療」を選んでからすでに2年が経過した1).腫瘍免疫学者のみならず,化学療法一辺倒だった臨床腫瘍医までが,がん治療にがん免疫治療が必要不可欠になった,と言う時代を迎えた.生体がもつ免疫の働きを積極的にがん治療に結びつけようとする試みが,がん免疫治療であり,従来「がんワクチン治療」と「細胞移入治療」に大別されてきた.さらに,近年「免疫チェックポイント阻害薬治療」が加わった(図1).がん細胞と戦うエフェクター細胞を体内に誘導する治療が「がんワクチン治療」であり,すでに体内に存在するエフェクター細胞を一度体外で培養して活性化させ,数を増やしてから再び体内に戻す治療が「細胞移入治療」である.いずれも最終的にがん細胞に存在する標的分子を認識し攻撃して破壊するエフェクターとなるのは,細胞傷害性T細胞(CTL)などの細胞性免疫応答に関する細胞である.抗CTLA-4抗体や抗PD-1抗体に代表される免疫チェックポイント阻害薬は,抗体治療薬ではあるがその作用機序は抑制されていた抗腫瘍免疫応答の再活性化であり,すなわち細胞性免疫応答の増強である2).免疫チェックポイント阻害薬の治療を受けた患者や,腫瘍浸潤リンパ球(TIL)治療,キメラ型受容体(CAR)遺伝子導入T細胞治療を受けた患者では,効果が得られた患者では長期間その効果が持続することが観察されている.強力でかつ持続する点が免疫の特徴である.がんに対する免疫応答の機序が少しずつ解明され,がん免疫治療が本格的に臨床応用される時代を迎えた.

図解!成人ヘルニア手術・11 忘れてはならない腹壁解剖と手技のポイント

再発ヘルニアに対する腹腔鏡下修復術

著者: 川原田陽 ,   山本和幸 ,   大場光信 ,   佐藤大介 ,   森綾乃 ,   田中宏典 ,   才川大介 ,   鈴木善法 ,   川田将也 ,   大久保哲之 ,   北城秀司 ,   奥芝俊一 ,   加藤紘之

ページ範囲:P.480 - P.488

■ 再発ヘルニア手術に対するときの心構え
 近年,鼠径ヘルニア手術において腹腔鏡手術を導入する施設が急速に増えつつあるが,一方で不十分な剝離,不十分なメッシュによる被覆が原因で再発をきたすケースが見られる.日本内視鏡外科学会の最近のアンケートでは,鼠径部切開法に比較して腹腔鏡下手術,腹腔内アプローチ(transabdominal preperitoneal repair:TAPP)と,腹膜外腔アプローチ(totally extraperitoneal repair:TEP)の再発率が高くなっており1),この理由としては,不十分な知識,技術のもとで行われた結果,剝離範囲が不足であったり,メッシュによる被覆が不十分となるケースが増えていると思われる.腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術は,単純に考えれば腹壁と腹膜の間を剝離してメッシュを展開する手術であるが,どんなに苦労しても最終形として必要な範囲がメッシュで被覆されていなければならない.
 再発ヘルニアにおける腹腔鏡下手術は,特にTAPPにおいて,複雑な再発形式の診断が容易であるという大きなメリットがある.一方で,前回挿入されたメッシュにより通常の解剖構造が認識しにくくなっており,強固な癒着,瘢痕により,剝離困難な場面が出てくるため,正しい解剖知識と手技の習熟が重要である2)

病院めぐり

盛岡市立病院外科

著者: 須藤隆之

ページ範囲:P.489 - P.489

 盛岡市は,岩手県の県都で人口約29万人です.盛岡市には,岩手医科大学付属病院(1166床),岩手県立中央病院(685床),盛岡日赤病院(438床)と大きな病院があり,盛岡市立病院は,昭和35年に151床で開院し,平成11年に現地に新病院(一般180床,精神80床,感染症6床,計266床)を開院いたしました.当院は,小規模病院の機動性を重視した医療を行っております.
 当科は,常勤医3名にて一般外科,消化器外科,乳腺・内分泌外科を中心に診療を行っております.外科長以外の2名は,1年間の長期出張として毎年岩手医科大学外科より派遣いただいております.

手術トラブルを未然防止する12の行動特性・1【新連載】

“ノンテクニカルスキル”をアップする—状況認識,意思決定が迅速である

著者: 石川雅彦

ページ範囲:P.490 - P.495

連載にあたって
 2015年4月号より12回にわたり,「具体的事例から考える 外科手術に関するリスクアセスメント」を本誌に掲載させていただき,外科手術にかかわるさまざまなインシデント・アクシデント事例について,日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業における公開データ検索1)から抽出した事例を参考に,安全で良質な手術医療を提供するポイント,チェックリストなどを提案した.
 この公開データで検索された事例のなかには,視点を変えると,「適切な介入により医療事故に至らなかった(ヒヤリ・ハットで止まった)事例」「トラブルが発生したが,適切な対応で外科医や患者への影響の拡大が防止された事例」などが少なからず報告されており,手術にかかわるトラブルの発生を未然防止するための多くのヒントが示唆されていることがわかる.
 そこで,新連載ではこのような公開データ事例に着目し,手術において「こうすればトラブルの発生が少ない」「こうすれば外科医や患者への影響の拡大を防止できる」と思われるポイントに焦点をあて,外科医が安全に手術医療に取り組むためのヒントとして,12回にわたって「手術トラブルを“未然防止”するための行動特性」を提案する.
 12回のテーマは,「“ノンテクニカルスキル”をアップする(第1〜4回)」「アクシデントに適切に対応する(第5〜7回)」「トラブル発生を未然防止する基盤を整える(第8〜11回)」「対話に基づく高信頼性組織を維持する(第12回)」という4つのカテゴリーに分けて,具体的な12の行動特性を記載した実践的な内容を展開する.
 なお,本連載では患者に影響の及ばなかった事例,もしくはタイムリーな介入により事故に至らなかった事例や状況をインシデント,患者に何らかの影響が及んだ事例をアクシデントと記載するが,日本医療機能評価機構のデータを紹介する際には,前者をヒヤリ・ハット,後者を医療事故と記載する.

臨床報告

S状結腸原発悪性黒色腫の1例

著者: 木下敬史 ,   小森康司 ,   木村賢哉 ,   岩田至紀 ,   清水泰博 ,   谷田部恭

ページ範囲:P.496 - P.499

要旨
症例は80歳,女性.検診で便潜血陽性を指摘され近医を受診した.下部消化管内視鏡検査にてS状結腸に腫瘍を認め,生検にて悪性黒色腫と診断され,当科紹介となった.S状結腸原発悪性黒色腫と診断し,大腸癌に準じS状結腸切除術,D3郭清を施行した.病理組織検査にて,腸管傍リンパ節に2個の転移を認めた.術後は経過観察を行い,術後3年10か月経過した現在,無病生存中である.結腸原発悪性黒色腫は非常に稀な疾患である.現在のところ手術成績については不明であるが,外科的切除が有用であると考えられた.

腹腔鏡下胆囊摘出術時の落下結石により胸壁にまで及ぶ膿瘍を形成した1例

著者: 福岡伴樹 ,   越川克己 ,   真田祥太朗 ,   宇野泰朗 ,   大屋久晴 ,   佐野正明

ページ範囲:P.501 - P.506

要旨
腹腔鏡下胆囊摘出時の落下結石は,開腹に移行してまでの回収は不要との見解が一般的であるが,晩期合併症として落下結石が原因となり膿瘍を生じた症例も報告されている.症例は76歳,女性.胆石症に対して当科で腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した.約1年6か月後に右側胸部に疼痛を伴う硬結が出現し,CTで胸壁内および腹腔内肝外側に約3 mmの石灰化を含む膿瘍を認めた.経皮的ドレナージで排石されず手術を行った.胸壁は肋間から膿瘍を開放し採石,腹腔内は腹腔鏡下に肝外側と腹膜の癒着を剝離して採石した.その後は膿瘍の再発を認めていない.遺残胆石が原因となって膿瘍を生じることがあり,確実な結石除去を伴うドレナージが必要である.

メッシュを温存し局所陰圧閉鎖療法が奏効した腹壁瘢痕ヘルニア術後創部感染の1例

著者: 嵩原一裕 ,   河合雅也 ,   高橋玄 ,   小島豊 ,   五藤倫敏 ,   坂本一博

ページ範囲:P.507 - P.511

要旨
症例は70歳代,男性.胸部大動脈瘤に対し左傍腹直筋切開,後腹膜アプローチで総腸骨動脈よりステントグラフト挿入術を施行された後,腹壁瘢痕ヘルニアを発症し,メッシュを用いた腹壁瘢痕ヘルニア修復術と小腸部分切除術を施行した.術後に創部感染を認め洗浄ドレナージを行った.感染のコントロールは良好であったが,メッシュ上の肉芽形成が不良のため,局所陰圧閉鎖療法(NPWT)を18日間施行した.NPWTによりメッシュ上の肉芽形成と創全体の収縮は良好となった.メッシュを温存した腹壁瘢痕ヘルニア修復術後のメッシュ感染の治療において,NPWTは有用と考えられた.

1200字通信・90

一隅を照らす

著者: 板野聡

ページ範囲:P.417 - P.417

 このエッセイをお読み頂いている多くの先生方もそうでしょうが,所属する医局の集まりが毎年秋に行われています.
 私が所属する医局は,岡山大学医学部第一外科ですが,「第一外科教室開講記念会」と称しており,平成27年で第80回を数え,現教授就任5周年という節目を迎えました.私も入局以来,今回で36回目の出席となりましたが,それだけの年月が経った証に,集合写真の撮影や懇親会では,前のほうの席に誘導されることになっています.また,研究室で苦楽を共にした先生方との会話では,それぞれの子供達も同門となったことが話題になり,お互いに「よろしく頼むわ」などということで,時の流れを実感することになっています.

ひとやすみ・136

癌患者として手術を受ける

著者: 中川国利

ページ範囲:P.431 - P.431

 消化器外科医として永らく癌治療に携わり,多数の手術や癌化学療法を行ってきた.一方,私は生来健康で,手術はもとより入院さえ経験したことがなかった.今回,自分自身が癌に罹患し,手術を受けた.
 職場健診でのPSA値が5.1 ng/mLと高値なため精査を受けると,前立腺癌と診断された.しかもMRI検査で被膜浸潤が疑われ,手術前のリスク評価は想定外の高リスク群であった.標準治療は放射線療法やホルモン療法であり,手術は相対的適応である.しかし外科医としては,不完全な切除に終わる可能性はあるがあえて手術を,できれば慣れ親しんだ腹腔鏡下手術を望んだ.

昨日の患者

生前葬に臨んで

著者: 中川国利

ページ範囲:P.455 - P.455

 少子高齢社会となり,様々な形式の葬儀が行われつつある.しかしいまだ世間体を気にし,葬儀社から勧められるがまま従来のしきたりで葬儀を行うことが多いなか,元患者さんから生前葬への招待状をいただいた.
 80歳代前半のSさんは,3年ほど前に直腸癌で手術を行った.手術時には既にリンパ節や肝臓にも転移しており,姑息的直腸切除に終わった.術後に癌化学療法を行ったが,肺転移も生じた.Sさんは病状の進行を淡々と受け止め,生前葬の開催を思い立った.

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お知らせ SR講習会 第13回リーダーシップコース

ページ範囲:P. - P.

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P. - P.

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P. - P.

あとがき

著者: 田邉稔

ページ範囲:P.518 - P.518

 今から30年前,私が研修医の時の肝切除といえば,命がけの大手術であった.肝葉切除ともなれば毎回大量出血に備え,手術当日の早朝から患者の身内や友人を20人ほど集め,昼までかけて生血を採取するのがわれわれフレッシュマンの仕事であった.研修2年目,初めての出張病院では,アッペ,ヘモ,ヘルニアを沢山経験させていただき,次はマーゲン,コロンと意気込むのが駆け出し外科医の風物詩であった.しかし,肝切除となると当時の外科部長でさえ滅多なことでは手が出せず,大腸癌の肝転移など発見しようものならば,患者家族を呼んで先が長くないことを伝えたものであった.
 時は流れ,この分野の医療の内容は目覚ましく進歩した.切除不能大腸癌の化学療法では5-FU/LVでは13か月であった生存期間中央値がFOLFIRI/FOLFOX+分子標的薬では27か月と2倍になった.ひょっとしたら外科医の仕事がなくなってしまうのでは…と心配になるが,まだ化学療法にそこまでの効力はない.むしろ強力な化学療法によりconversion症例が増加し,かえって肝切除が増えているように見える.一方,肝切除の技術や周術期管理の進歩も目を見張るものがあり,超音波吸引装置,ソフト凝固ジェネレーター,腹腔鏡などの器具の進歩とともに無輸血大肝切除も“普通のこと”になっている.ここまで肝切除が安定すれば,二期的肝切除やALPPSなどのアクロバット手術が提案されるのも頷ける.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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