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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科71巻5号

2016年05月発行

雑誌目次

特集 外科臨床研究のノウハウと重要研究の総まとめ

ページ範囲:P.523 - P.523

 外科学の進歩のためには,質の高い臨床研究が欠かせないことは言うまでもありません.一方でわが国においては昨今,臨床研究におけるさまざまな問題点が浮き彫りとなり,またそれに対する対応が種々の指針とともに示されています.
 本特集は,外科における健全かつ質の高い成果の達成と,最良の治療法の実臨床への展開を図るべく起案しました.外科医にとって知っておくべき臨床研究のあり方を,それを遂行する観点を中心とした「Part1」,およびそのエビデンスに基づいた知見の最新の現況と臨床現場での実際を各臓器の腫瘍別に「Part2」で述べていただきます.

巻頭言

いま「外科臨床研究」に求められていること

著者: 藤原俊義

ページ範囲:P.524 - P.525

臨床研究の現況
 臨床研究とは,人を対象として行われる医学研究のことであり,疾病の予防や診断,治療方法の開発や改善,さらには疾病の原因や病態の解明などを通した,患者の生活の質の向上を目的としている.医学・医療の進歩のためには,エビデンスを創る臨床研究は大きな役割を担っており,特に昨今の科学技術の急速な進展に伴い,新たな診断や治療技術の安全性,有効性などを的確かつ公正に検証するために,臨床研究の重要性は一段と増してきている.臨床研究は,被験者に人為的介入を行わない「観察研究」と人為的介入を行う「介入研究(臨床試験)」に分けられ,それぞれ「疫学研究に関する倫理指針」と「臨床研究に関する倫理指針」が定められていたが,その対象となる研究の多様化により,平成26年12月22日,「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」として統合された.これは,研究をめぐる不正事案が発生したことなどを踏まえての改訂でもあり,臨床研究は指針を遵守することで研究成果の信頼性を確保し,国民の理解を得つつ進めていくことが肝要である.
 臨床研究には多様な種類の研究が包含されており,医療現場におけるエビデンスを確立するための研究から新たな医薬品や診断技術の安全性,有効性を科学的に検証する臨床試験まで,それぞれの特徴を知ったうえで目的に合った研究デザインを選択しなければならならない.臨床試験においても海外と本邦ではその制度が異なっており,本邦では治療や診断の介入の効果を評価する臨床試験のなかで,製造販売の承認を得るために製薬企業などが行う臨床試験は,薬事法に基づく「治験」としてより高い質が求められている.一方,海外では治験という概念はなく,例えば米国ではすべての臨床研究が大学,研究機関,ベンチャー,製薬企業などの申請元にかかわらず,また製造販売の承認を目的とするか否かにかかわらず,食品医薬品庁(Food and Drug Administration:FDA)に,同じIND(Investigational New Drug)申請が必要とされている.これは,国民の健康の保護を第一の目標としていることに由来する.最近では,本邦でも薬事法の改正によって,企業が開発を行わない場合,医師が中心となって医師主導治験を進めることで承認申請も可能となっており,さらに臨床研究全体の質を治験なみに向上させるために,大学や国立機関などにおけるアカデミック臨床研究機関(Academic Research Organization:ARO)機能の整備が進んでいる.

Part1:わかりやすい外科臨床研究のノウハウ

医学研究に関する倫理指針

著者: 土岐祐一郎 ,   宮崎安弘 ,   牧野知紀 ,   高橋剛 ,   黒川幸典 ,   山崎誠 ,   瀧口修司

ページ範囲:P.526 - P.529

【ポイント】
◆平成27年4月より,従来の疫学研究指針,臨床研究指針に代わり「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(いわゆる統合指針)が実施されている.
◆医学研究は介入研究と観察研究,それぞれについて侵襲ありと侵襲なし(軽微な侵襲を含む)の4通りに分けられる.
◆侵襲を伴う介入研究については,研究が適切に行われているかどうかをモニタリングし,必要によっては監査を行わなければならない.
◆企業の宣伝に用いられる可能性のある研究については利益相反を管理しなければならない.
◆不正確なデータを含めて研究不正が起きないようにすること,患者・研究参加者の不利益が生じないようにすることが重要である.

外科医のための統計学

著者: 赤澤宏平

ページ範囲:P.530 - P.534

【ポイント】
◆比較したい変数が連続である場合,各群での分布が正規分布に近いか外れているかにより,用いる検定手法と推定値が異なる.また,すべての群が正規分布に近くても分散がほぼ等しいか否かで検定手法は異なる.
◆比較したい変数が2値の場合,χ2検定を用いることが一般的であるが,2群比較では症例数が少ない場合やセルの期待度数が5未満のときには,ほかの検定手法を用いる必要がある.
◆比較したい変数がtime-to-eventの場合,生存率,無再発率などの推定はKaplan-Meier法,群間の生存率曲線の有意差検定はログランク検定を用いる.
◆3群以上の比較において,どの群とどの群に有意差があるかの特定をしたい場合,多重比較検定(有意水準の補正)が必要である.

臨床研究デザインの構築

著者: 坂巻顕太郎 ,   山中竹春

ページ範囲:P.536 - P.540

【ポイント】
◆治療が段階的に開発されることを考慮して臨床研究はデザインされる.
◆臨床研究をデザインするには,臨床研究の実施や報告に関する指針が参考となる.
◆外科治療の臨床研究をデザインする際は,外科治療に特有な課題に注意する.

NCDを用いた臨床研究

著者: 瀬戸泰之 ,   李基成 ,   愛甲丞 ,   桑野博行 ,   宮田裕章 ,   岩中督

ページ範囲:P.541 - P.547

【ポイント】
◆National Clinical Database(NCD)は世界に誇るビッグデータであり,すでに多くの臨床研究が報告されている.
◆それらによって,各症例のリスク,各施設の相対的成績がわかるようになってきている.
◆日本外科学会,日本消化器外科学会,日本心臓血管外科手術データベース機構(JCVSDO)の横断的データにより,肥満が手術に及ぼす影響が明らかにされた.

Part2:押さえておきたい外科臨床研究の総まとめ

食道癌

著者: 宮崎達也 ,   宗田真 ,   酒井真 ,   熊倉裕二 ,   本城裕章 ,   吉田知典 ,   田中成岳 ,   横堀武彦 ,   福地稔 ,   桑野博行

ページ範囲:P.548 - P.553

【ポイント】
◆食道癌の臨床研究において,手術療法を対象とした大規模RCTはほとんど行われていない.
◆補助療法の有用性を示すRCTは数多く報告されているが,本邦における最適な補助療法は模索されている.
◆新たな治療法を開発するとともに,その治療効果の検証をすることが極めて重要である.

胃癌

著者: 小寺泰弘

ページ範囲:P.554 - P.557

【ポイント】
◆Stage Ⅲまでの胃癌に対しては,侵襲を軽減しつつ良好な予後を維持する方向で術式の研究が進められている.
◆Stage Ⅳでも手術を含む集学的治療が治癒に繋がる場合があり,その内容と適応の評価が進められている.
◆治癒の可能性が高い対象には,術後QOLの向上を目指した研究が必要であるが,その評価の指標が整備されてきた.

大腸癌

著者: 永田洋士 ,   石原聡一郎 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.558 - P.563

【ポイント】
◆本邦では独自の取扱い規約や治療ガイドラインを作成し,良好な治療成績を収めてきた.
◆大腸癌の治療成績は欧米と日本で異なるため,本邦からのエビデンスが求められる.
◆多くの臨床試験が進行中であり,結果が注目される.

肝細胞癌

著者: 藍原有弘 ,   田邉稔

ページ範囲:P.564 - P.569

【ポイント】
◆系統的肝切除の有用性が示唆され,小肝細胞癌に対する肝切除とラジオ波焼灼術のRCTが進行中である.
◆肝動注化学療法および複数の新規分子標的治療薬の肝細胞癌に対する臨床試験が進行中である.
◆propensity score matchingコホート研究により腹腔鏡下肝切除術の遠隔成績が評価された.

膵癌

著者: 廣野誠子 ,   宮澤基樹 ,   山上裕機

ページ範囲:P.570 - P.580

【ポイント】
◆膵癌は生存期間の短い癌腫のため,生存期間延長を目指した多くの臨床研究が報告されており,本稿では日本から報告されたエビデンスレベルの高い臨床研究を中心に紹介する.
◆膵癌における外科的切除術は,合併症率の高い高難度手術であるが,合併症頻度を低下させる目的で施行された無作為化臨床試験について紹介する.

胆道癌

著者: 加藤厚 ,   清水宏明 ,   大塚将之 ,   吉富秀幸 ,   古川勝規 ,   高屋敷吏 ,   久保木知 ,   高野重紹 ,   鈴木大亮 ,   酒井望 ,   賀川真吾 ,   野島広之 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.582 - P.587

【ポイント】
◆胆道癌診療では,いまだ外科治療に関する前向き試験やランダム化試験に乏しく,臨床経験の蓄積がその診療の根拠となっている.
◆胆道癌の外科治療のランダム化試験を実施することは重要な課題であるが,ランダム化が比較的困難な領域であり,high volume centerを中心とした臨床経験の蓄積から胆道癌治療の標準化をはかる必要がある.
◆胆道癌の化学(放射線)療法において質の高い大規模な前向きの臨床研究を行うことで,より有効な治療法を確立することが必要である.

NET

著者: 増井俊彦 ,   上本伸二

ページ範囲:P.588 - P.592

【ポイント】
◆NETは2000年に病態概念の統一が図られた比較的新しい疾患であり,近年分子標的薬の有効性の報告が相次いでいる.
◆膵NET,消化管NETにおいて,機能性,非機能性,および大きさによってリンパ節転移の頻度が異なり,それぞれに応じた切除の範囲が推奨される.
◆肝転移に対する外科的切除術は,非機能性で腫瘍量が少ない場合,および機能性腫瘍の場合,血管内治療に比して良好な生存期間を示す.
◆本邦では全国的なNET登録事業がはじまっており,今後エビデンス構築を進めていく必要がある.

GIST

著者: 岩槻政晃 ,   蔵重淳二 ,   吉田直矢 ,   馬場秀夫

ページ範囲:P.594 - P.597

【ポイント】
◆切除可能GISTに対して,外科的切除が原則であり,より低侵襲な手術の開発も試みられている.
◆高リスク症例に対してはイマチニブによる術後補助療法が推奨される.
◆術前補助療法は,投与薬剤,用量・期間,効果判定のタイミングなどの問題点がある.
◆転移・再発GISTには外科的治療と薬物治療による集学的治療が必要である.

肺癌

著者: 富沢健二 ,   光冨徹哉

ページ範囲:P.598 - P.602

【ポイント】
◆小型肺癌の手術例増加に伴い,肺葉切除術に対する縮小手術の妥当性を検証する臨床試験が進行している.
◆縦隔リンパ節郭清による予後改善効果は明らかでないが,少なくとも正確な病期決定に必要である.
◆縦隔リンパ節転移陽性例は,その程度により多様な予後を有する集団であり,症例ごとに適した集学的治療が行われている.

乳癌

著者: 山下啓子

ページ範囲:P.603 - P.607

【ポイント】
乳癌の手術療法は臨床試験のエビデンスに基づき縮小されてきた.
◆乳房温存手術と乳房切除術との比較の臨床試験で,生存率に差がないことが証明された.
◆センチネルリンパ節転移陰性症例は腋窩リンパ節郭清を省略する.
◆センチネルリンパ節転移陽性症例に対する腋窩郭清術と腋窩照射の比較で,腋窩リンパ節再発率・生存率ともに同等であることが報告された.

FOCUS

がん医療ネットワークナビゲーター

著者: 西山正彦

ページ範囲:P.608 - P.612

はじめに
 がん対策基本法のもと,推進基本計画が開始されて8年が経過する.計画は一定の成果をあげてきたものの,2007(平成19)年に掲げた10年間の全体目標である,がんの年齢調整死亡率(75歳未満)の20%減少は達成が難しいとされている1).また,患者の身体的,精神心理的苦痛の緩和がいまだ不十分であることや,医療の均てん化や医療情報の提供体制など,いまだ多くの課題が残されていることも明らかになっている.こうした課題に加えて,超高齢社会に突入した今,医療と介護,生活支援の連携強化も危急的課題となった.がん医療の場と,在宅医療と介護サービスを受ける患者の生活の場との間に大きな溝がある地域は決して少なくない.最初から最後まで満足できるがん医療を提供するには,従来にない包括的で効率的なアプローチが必要である.地域に密着した「がん医療ネットワークナビゲーター」養成事業は,そうした試みの一つである.

図解!成人ヘルニア手術・12 忘れてはならない腹壁解剖と手技のポイント

再発鼠径部ヘルニアに対する鼠径部切開法

著者: 宮崎恭介

ページ範囲:P.614 - P.620

■ はじめに
 2015年5月,日本ヘルニア学会から「鼠径部ヘルニア診療ガイドライン」が出版された.これによると,鼠径部ヘルニアとは外鼠径ヘルニア,内鼠径ヘルニア,そして大腿ヘルニアである.また,再発鼠径部ヘルニアとは鼠径部ヘルニア手術を行った後の鼠径部ヘルニアであると定義された.つまり,小児期の鼠径ヘルニア手術後の再発や鼠径ヘルニア術後の大腿ヘルニアも,すべて再発鼠径部ヘルニアに含まれることになった1)
 当院では,2003年4月の開院以来,嵌頓ヘルニア以外のあらゆる鼠径部ヘルニアを日帰り手術で行ってきた2).今回筆者は,再発鼠径部ヘルニアに対する鼠径部切開法の実際を術中写真により詳細に解説し,当院での再発鼠径部ヘルニアの手術成績についても報告する.

手術トラブルを未然防止する12の行動特性・2

“ノンテクニカルスキル”をアップする—リーダーシップを発揮し,円滑なコミュニケーションを展開している

著者: 石川雅彦

ページ範囲:P.622 - P.625

はじめに
 外科診療・手術の実施に際して,ノンテクニカルスキル獲得の重要性が示唆されている.本連載第1回に引き続き,本稿ではFlinら1)が提唱するノンテクニカルスキル7項目(状況認識,意思決定,コミュニケーション,チームワーク,リーダーシップ,疲労管理,ストレス管理)のうち,コミュニケーション(communication)とリーダーシップ(leadership)に着目する.“ノンテクニカルスキル”をアップすることに関連して,外科医がリーダーシップを発揮し,円滑なコミュニケーションを展開することが,患者への影響拡大の防止とトラブル発生の未然防止に資することになるということに焦点をあてて検討する.

病院めぐり

けいゆう病院外科

著者: 松本秀年

ページ範囲:P.626 - P.626

 けいゆう病院は,昭和8年に警察職員の警察病院建設母体として財団法人「神奈川県警友会」が設立され,警察官の拠出金や寄付金,宮様方からの御下賜金を賜り,これを資金に警察病院として建築され,昭和9年から山下町で運営されてきました.横浜市内では有数の歴史と伝統を誇る病院です.平成8年にみなとみらい地区に移転し,現在の名称になり,すべての病室から横浜の海が見渡せる,立地に相応しいアメニティーを有する病院として生まれ変わりました.みなとみらいは,横浜都心部の再生を目指したウォーターフロント都市再開発によって建設された街で,21世紀の未来型都市を目指し,昭和58年に着工しました.当院が移転した平成8年頃には現在のような高層ビルはなく,海上から見ても大いに目立つ病院でした.
 現在では一般病床410床の急性期総合病院です.現在の常勤医数は102名で,診療科は呼吸器内科,循環器内科,消化器内科,血液内科,糖尿病内分泌内科,腎臓内科,神経内科,緩和ケア内科,消化器外科,呼吸器外科,乳腺外科,血管外科,整形外科,形成外科,精神科,皮膚科,小児科,泌尿器科,産婦人科,眼科,耳鼻咽喉科が常勤で診療を行っています.当院は開設当時より,全診療科において慶應義塾大学の関連施設で,他診療科間の相互関係は非常に良好であり,風通しのよい医局環境となっております.

臨床報告

pseudo-Meigs症候群を呈したS状結腸癌同時性卵巣転移の1例

著者: 宇田裕聡 ,   村井俊文 ,   篠塚高宏 ,   野嵜悠太郎 ,   中村俊介 ,   阪井満 ,   梶浦大

ページ範囲:P.627 - P.631

要旨
症例は43歳,女性.腹部膨満感を主訴に前医を受診し,卵巣腫瘍を疑われ紹介となった.S状結腸に1型病変と,右卵巣に約10 cm大の充実性腫瘍を認め,右側優位の胸水と多量の腹水の貯留を認めた.臨床所見からは癌性胸腹膜炎が疑われたが,S状結腸癌にpseudo-Meigs症候群を合併した可能性も疑い,S状結腸切除(D3郭清),右付属器摘出術,人工肛門造設術を施行した.術後胸水は自然に消失し,腹水の貯留も認めなかった.病理組織学的検査でS状結腸癌,右卵巣転移と診断され,S状結腸癌にpseudo-Meigs症候群を呈する卵巣転移が合併していたと診断した.比較的稀な症例と思われ,若干の文献的考察を加え,報告する.

急性虫垂炎に併発した上腸間膜静脈血栓症に対し保存的加療で奏効した1例

著者: 宇野秀彦 ,   藤田昌久 ,   伊藤博 ,   石川文彦 ,   新田宙 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.632 - P.636

要旨
症例は39歳,男性.発熱,下腹部痛を主訴に当院へ搬送となった.血液検査で炎症反応が高値を示し,腹部単純CTで虫垂の腫大を認めたため,急性虫垂炎と診断し,抗菌薬による保存的加療を行った.発熱,下腹部痛は速やかに改善したが,肝酵素の上昇,黄疸の出現を認めたため腹部造影CTを施行したところ,SMV血栓症の診断に至った.抗菌薬および抗凝固療法による保存的治療のみで急性虫垂炎,SMV血栓症は改善した.急性虫垂炎に併発したSMV血栓症の報告は,本邦では11例と比較的稀である.急性虫垂炎に併発したSMV血栓症に対して保存的治療で奏効した1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

膵頭十二指腸切除術後19年目にFDG-PETにて肝悪性腫瘍を疑われた肝放線菌症の1切除例

著者: 槐島健太郎 ,   石崎直樹 ,   渡邉照彦 ,   大迫政彦 ,   田畑峯雄 ,   清水健

ページ範囲:P.637 - P.641

要旨
症例は78歳,女性.主訴は特になし.1995年,下部胆管癌に対し膵頭十二指腸切除術(PD)を施行した.PD後の経過観察中に肝左葉肝内胆管の軽度拡張,肝酵素の上昇を指摘された.MRI,FDG-PETの結果より胆管細胞癌を疑い,2014年10月に外側区域切除術を行った.病理組織学的検査にて胆管内にグラム陽性桿菌からなる巨大な菌塊を認め,原発性肝放線菌症と診断した.原発性肝放線菌症は稀で肝膿瘍や肝悪性腫瘍との鑑別が困難なことが多い.文献的考察を加えて報告する.

鼠径ヘルニア術後にmesh plugが膀胱内に迷入した1例

著者: 佐々木一憲 ,   河野悟 ,   德田裕二 ,   若林正和 ,   小池卓也 ,   藤城貴教

ページ範囲:P.643 - P.646

要旨
症例は78歳,男性.2008年4月,当院で右内鼠径ヘルニアに対しmesh plug法にて手術を施行した.2014年10月に排尿時違和感,頻尿を認め,当院を受診した.腹部CTおよび膀胱鏡検査にてplugの膀胱内への迷入と診断し,手術を施行した.腹膜外アプローチにてplugに到達し,plugと一部膀胱を合併切除し,膀胱を縫合した.後壁補強を要しないほど瘢痕化が強かった.術後3か月現在,再発を認めていない.膀胱にplugが迷入する例は稀である.人工物を腹膜前腔に挿入する手術では,人工物が膀胱に迷入する可能性を認識し,挿入する場合には人工物が移動しないように十分な固定をすることが肝要であると考えられた.

1200字通信・91

五郎丸選手に学ぶ—ルーティン

著者: 板野聡

ページ範囲:P.535 - P.535

 2015年のラグビーW杯は,ニュージーランドの史上初の連覇で幕を閉じました.大学時代,私自身もラグビーをしていた経験から,「ラグビーの勝敗にマグレはない」と確信しており,決勝戦が世界ランキング1位のオールブラックスと2位のワラビーズの対戦となったことにわが意を得たところです.
 さて,わが日本チームは,予選リーグ第1戦で,優勝経験もあり,今大会でも優勝候補の一角に挙げられていた南アフリカに劇的な逆転勝利を収めました.この試合に関しては,前評判はどうあれ,私の意見をもってすれば,その得点差だけの実力差があり,そのことを示すことができたということになります.そして,3勝1敗という素晴らしい成績ながら,予選敗退となり,「最強の敗退国」と言わしめたことは皆さんの記憶に新しいことと思いますが,この言葉に甘んじることなく,次のW杯に向けて強化を続けて欲しいものです.

書評

—日本肝臓学会(編)—肝癌診療マニュアル(第3版)

著者: 沖田極

ページ範囲:P.593 - P.593

 B型肝炎は核酸アナログ製剤により,C型肝炎は直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の導入により多くの患者で肝炎の鎮静化を図ることが可能となった.したがって,肝炎から肝硬変へ,また肝細胞癌への進展抑制は確実に図られることになるが,現時点で肝線維化の強い(F3, F4)慢性肝疾患患者においては“死に至る病”である肝癌からの解放が残された課題である.日本肝臓学会は2000年から「肝癌撲滅」をスローガンに掲げ,『肝がん白書』の発刊や各地域で「市民公開講座」を開催し国民に対する啓発活動を行うとともに,肝癌診療に当たる医師向けには『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン』(日本肝臓学会編),さらには『肝癌診療マニュアル』(日本肝臓学会編)を出版してきた.この2冊のテキストに『臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約』(日本肝癌研究会編)を加え,肝癌診療におけるバイブルとして肝癌専門医のみならず一般医家にとっても必携の書物となっている.がん登録・統計によれば1994年の年間死亡者数4万人超をピークに減少し2012年には29,700人(2014年がん統計)と著しく改善している.
 さて,『肝癌診療マニュアル』第3版がこのたび上梓された.本書の特徴は肝癌について予防から診断,治療に至るまで科学的に実証された事実をConsensus Statementとして簡潔に冒頭に掲げていることで,これだけを読んでも肝癌診療におけるわれわれの姿勢がどうあるべきか理解できるようにアレンジされている.それぞれのStatementに対しては第1章から第10章にかけてその根拠が具体的に説明されている.必ずしも肝疾患を主体に診療を行っていない医師にも「第1章 D.肝癌の疫学とハイリスク患者の設定」だけは是非とも読んでいただきたい.肝癌の早期発見が生存率の改善をもたらすことは,取りも直さずハイリスクの患者群をいかに早く早期発見という“まな板”に乗せるかであり,そこから本書の各論に記載された内容が実行されていることをご理解いただきたい.本書の中で,必ずしもエビデンスレベルの高くないものも記載したと断ってあるが(xページ「本書の記載内容について」より),『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン』作成に着手した2002年頃は,日本からのエビデンスレベルの高い発表論文が少ないため欧米の論文を中心にガイドラインを作成したことも一因である.例えば,日本では一般的な肝癌診断におけるAFPの意義や治療におけるTACEの評価は,AASLD(米国肝臓学会)ガイドラインでは必ずしも高くない.

ひとやすみ・137

プライバシーと公的立場

著者: 中川国利

ページ範囲:P.607 - P.607

 組織のトップが健康を害したとき,自己の病気を公言すべきか否か,さらには公言する際には何時いかなる場で公表するか,決断すべき事項が多い.いかに決断しどのような言動をしても人それぞれであるが,それまでに培ってきた個々人の人生観が大きく影響する.
 私は生来健康であったが,職場健診でPSA値5.1 ng/mLと高値なことから精査を受け,前立腺癌と診断された.そしてダヴィンチによる腹腔鏡下前立腺切除術を受けるはめになった.病気はあくまでも個人の問題であり,公表する義務はない.しかし,私は小さいながらも組織の長であり,組織にとってトップの動向は最重要事項である.そこでナンバー2である事業部長および所属する上部組織長にのみ,前立腺癌で手術を受けることを伝えた.一方,他の職員には動揺を与えることを危惧し,ひとまず内密にした.そしてたまたま以前から予定していた学会出張に便乗し,さらには夏季特別休暇を繰り入れて入院期間の2週間を確保した.

昨日の患者

恩師S先生ご夫妻を送る

著者: 中川国利

ページ範囲:P.620 - P.620

 まったく異なる環境で育った異性同士が,大人になって出会い,縁があって結ばれ,様々な苦楽をわかち合い,そして共白髪になるまで人生を歩む.しかしながらいつかは別れが訪れ,夫婦どちらかが先に逝く.一般に不器用な男性は,妻に先立たれて苦労することを危惧し,先に逝くことを願望する.さだまさしの「関白宣言」を地で行った,恩師ご夫妻を紹介する.
 大学教授時代のS先生は近寄りがたい存在であったが,私が勤めた病院の院長となられてからは角が取れ,親しみやすくなった.そして院長室の机に奥様の写真を飾り,休日には奥様との時間を大切にした.

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原稿募集 私の工夫—手術・処置・手順

ページ範囲:P. - P.

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P. - P.

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P. - P.

次号予告

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あとがき

著者: 桑野博行

ページ範囲:P.654 - P.654

 平成28年3月で,長年に亘り本誌の編集委員をお務めになられました,千葉大学臓器制御外科学,宮崎勝先生がご退任になられます.先生には『臨床外科』誌の質の向上,幅広い普及,ならびに数多くの斬新な企画を通して,極めてご多忙のなか,多大なご尽力を賜わりました.また私も個人的にも,平素の学会活動や様々の事業活動に加え,本誌の編集作業を通じても,数多くのご指導を賜わりました.ここに深甚なる感謝の意を表させていただきます.過日催された,本誌編集委員会での「感謝の会」での写真を掲載させていただき,宮崎勝先生への御礼の気持ちを捧げさせていただきます.
 さて,今回の特集は「外科臨床研究のノウハウと重要研究の総まとめ」とさせていただきました.最新の臨床研究のあり方およびそれを遂行するにあたってのポイントを,わが国の臨床研究分野でのトップリーダーの先生方にご解説いただきました.さらには各臓器,がん腫におけるup-to-dateなエビデンスに基づいた外科臨床研究の成果をお示しいただき,実臨床の場で,皆様に実践していただくべく編集をさせていただきました.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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