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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科71巻6号

2016年06月発行

雑誌目次

特集 必携 腹腔鏡下胃癌手術の完全マスター—ビギナーからエキスパートまで

ページ範囲:P.659 - P.659

 胃癌治療ガイドラインの改定で,腹腔鏡下手術はcStageⅠで幽切で切除可能な症例については標準治療の一選択肢となった.しかしNCDデータによれば,腹腔鏡下で行われている幽門側胃切除術は2012〜2013年の胃癌手術の41%であり,これは近年の学会の動向や早期胃癌が全胃癌の50%を超えていることなどから予期される数値よりやや低いようにも思われる.一方,胃癌の腹腔鏡下手術は決して容易な手術ではない.学会で熟練した外科医による編集されたビデオを見ていて誰でも同じようにできそうに思えるとすれば,それは幻想である.今後は一定数の専門病院への症例の集約も必要とは考えるが,それでもわが国の医療事情を鑑みると,今後導入する必要がある医療機関は依然として存在する.
 本特集の〈PartⅠ〉では,腹腔鏡下胃切除術の導入に始まり,技術認定を取得するまでの道筋を示す.〈PartⅡ〉では,その先の課題とめざすべき高みについて,識者に解説していただいた.

PartⅠ:導入〜技術認定に向けて

腹腔鏡下胃切除術の歴史とエビデンス

著者: 衛藤剛 ,   白石憲男 ,   北野正剛 ,   猪股雅史

ページ範囲:P.660 - P.664

【ポイント】
◆1991年に本邦で開発された胃癌に対する腹腔鏡下胃切除術は,2014年のNCDの調査結果によると幽門側胃切除術が約45%,胃全摘術が約20%を占めるようになった.
◆最新の胃癌治療ガイドライン第4版では,cStageⅠ胃癌に対する腹腔鏡下幽門側胃切除術は日常診療の選択肢としての位置付けとなった.
◆進行胃癌や上部胃癌に対する腹腔鏡下胃切除術が,技術的,腫瘍学的に安全かどうかを検証する臨床試験が現在進行中である.

腹腔鏡下胃切除術に挑戦するための準備と心構え

著者: 比企直樹

ページ範囲:P.665 - P.670

【ポイント】
◆剝離と切離を正しく行うことで出血の少ない手技を身につける.
◆切開器具の温度をコントロールすることで臓器損傷を防ぐ.
◆手術を物語りとしてとらえ,手技の流れを良くする.

腹腔鏡下胃切除術に必要な局所解剖

著者: 篠原尚 ,   角田茂 ,   細木久裕 ,   久森重夫 ,   坂井義治

ページ範囲:P.671 - P.679

【ポイント】
◆胃間膜の立体構造を俯瞰的に把握することが,胃切除術に必要な局所解剖の理解につながる.
◆胃癌リンパ郭清では,膵や腹腔動脈の主要分枝を外しながら,できるだけ無傷な状態(intact package)で胃間膜を切除することをめざす.
◆操作にあたっては疎性結合組織からなる“剝離可能層(dissectable layer)”を正確にトレースすることが重要である.

腹腔鏡下幽門側胃切除術に必要な画像診断

著者: 藤原道隆 ,   田中千恵 ,   神田光郎 ,   小林大介 ,   服部正嗣 ,   藤井努 ,   小寺泰弘

ページ範囲:P.681 - P.690

【ポイント】
◆技術認定に向けた腹腔鏡下幽門側胃切除術に必要な画像診断は,ほぼ,リンパ節郭清に関わる血管走行の情報を得ることと言ってよいだろう.フルハイビジョン・スコープから得られる術中画像情報は極めて詳細なので,本稿では,術前画像データから読み取っておくべきことと,術中,画像診断したほうがよいことを整理してみたい.
◆手術全体の設計にかかわる主幹動脈系の情報(主として膵より頭側)は,術前に把握しておくべきである.
◆膵より足側の,幽門下部などの静脈系の情報は,術中に得られる情報が有用で,術者は血管解剖のバリエーションの知識をもっておくことが重要である.

cStageⅠ胃癌における腹腔鏡下幽門側胃切除の手順と手技

著者: 江原一尚 ,   中村聡 ,   山田達也 ,   森至弘 ,   新井修 ,   影山優美子 ,   川島吉之 ,   坂本裕彦 ,   田中洋一

ページ範囲:P.691 - P.700

【ポイント】
◆6番郭清では結腸間膜・郭清組織・大網が形成する剝離層を意識して腸間膜化を行う.膵実質と郭清組織の間にある剝離層を保って郭清するには外側アプローチが有用である.
◆膵上縁は神経外側の層を保って郭清する.交差法(Cross-over method)を用いて8aは患者左側,11pは患者右側から郭清すると郭清しやすい.
◆デルタ吻合は十二指腸の可動性確保,デルタチェック,吻合前のローテーション,V字に開く閉鎖,を意識する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2018年6月末まで)。

腹腔鏡下幽門側胃切除術—技術認定に合格するためのコツ—審査基準と採点のポイント

著者: 小嶋一幸

ページ範囲:P.701 - P.705

【ポイント】
◆日本内視鏡外科学会技術認定合格のためには,小手先のテクニックではなく,内視鏡外科の実力を身につけることが重要であり,本質的なことである.
◆臓器別基準をよく読んで,申請者にとって不利な症例を提出することがないように留意したい.
◆指導者認定であるので,できるというレベルだけでは不十分であり,助手や内視鏡医を指導しながら円滑に手術ができているかを審査員は評価している.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2018年6月末まで)。

PartⅡ:その先の課題と努力目標

腹腔鏡下幽門保存胃切除の手順と手技

著者: 愛甲丞 ,   山下裕玄 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.706 - P.710

【ポイント】
◆幽門保存胃切除は,ダンピング症状や体重減少が少なく,術後のQOL向上をめざした機能温存手術として行われる.
◆幽門下動静脈や迷走神経腹腔枝の温存においては,微細な局所解剖に関する知識と丁寧な郭清操作が求められる.
◆当科では幽門下動静脈を温存することで,術後の胃内容排出遅延が低減しており,良好な成績が得られている.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2018年6月末まで)。

腹腔鏡下脾温存胃全摘術の郭清手技

著者: 木下敬弘 ,   海藤章郎 ,   西田俊朗

ページ範囲:P.711 - P.716

【ポイント】
◆左胃大網動静脈を確実に本幹で切離することが重要であるが,脾動静脈下枝の吊り上がりに注意する.
◆左下横隔動脈の食道噴門枝は胃脾間膜を処理後,胃を患者右側に大きく展開すると同定しやすい.
◆郭清操作全体として,Gerota筋膜前面の層を意識することが非常に重要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2018年6月末まで)。

腹腔鏡下胃全摘における再建法(食道空腸吻合)—トラブル回避のコツ

著者: 瀧口修司 ,   宮崎安弘 ,   高橋剛 ,   黒川幸典 ,   森正樹 ,   土岐祐一郎

ページ範囲:P.717 - P.724

【ポイント】
◆腹腔鏡下胃全摘後に行う再建で最も重視すべきものはリスクマネージメントである.そのために,作業中に複数個のハザードが頭に入っているように心がけることが肝要である.
◆注意が一点に集中することもほかのトラブルを生むことになることを理解し,作業点検を行いつつ手術を進めることで,安全な吻合が可能となる.
◆サーキュラーステープラーを用いる方法とリニアステープラーを用いる方法が一般的であるが,共通して,食道を剝離しすぎないことが重要である.
◆また,サーキュラーステープラーのような大きな器具を内視鏡下で操作するには,吻合時の挙動を理解し,吻合と同時に本体を進めるような作業も重要である.一方,リニアステープラーを用いる場合は,NGチューブの挟み込みなど,従来の手術ではあまり経験しないトラブルがあるので気をつけておく.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2018年6月末まで)。

進行胃癌に対する腹腔鏡下でのリンパ節郭清

著者: 永井英司 ,   大内田研宙 ,   森山大樹 ,   仲田興平 ,   宮坂義浩 ,   大塚隆生 ,   清水周次 ,   中村雅史

ページ範囲:P.726 - P.733

【ポイント】
◆鉗子類を腹腔内で自由自在に操り,どのように操作すればどのような視野が構築できるかを瞬時に認識できるようにトレーニングを積み,組織損傷を避ける.
◆術前のシミュレーションなどを通して術前準備を十分に行い,操作手順をチームで共有し,術中偶発症の発生を防ぐ.
◆拙速な適応拡大は絶対に行わず,結果については常に謙虚に受け止め,次に生かす必要がある.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2018年6月末まで)。

食道胃接合部癌に対する腹腔鏡下手術

著者: 能城浩和 ,   與田幸恵

ページ範囲:P.734 - P.738

【ポイント】
◆肝外側区域の圧排は重要で,肝機能障害をきたさない肝外側区域の圧排により食道裂孔周囲の最良の術野展開に努力すべきである.
◆膵上縁No. 7,8a,9,11pの郭清は,食道胃接合部癌では最も重要なリンパ流経路であり十分な郭清を要する.
◆賛否両論あるが,胸膜開放になったほうが下縦隔郭清は郭清範囲が理解しやすい.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2018年6月末まで)。

胃癌に対するロボット支援手術の現状と将来展望

著者: 柴崎晋 ,   須田康一 ,   宇山一朗

ページ範囲:P.740 - P.747

【ポイント】
◆胃外科領域におけるロボット支援手術はいまだ発展途上であるが,当科では200例超のロボット支援胃切除の経験を重ね,手技の標準化とその普及・啓蒙活動を行ってきた.
◆当科における従来型腹腔鏡下手術との比較では,全合併症発生率,局所合併症発生率,膵液瘻発生率が減少,術後在院日数が短縮し,ロボット手術の潜在的有用性が示唆された.
◆ロボット使用による合併症軽減効果を検証するため,2014年9月よりcStageⅠ/Ⅱ胃癌を対象とした多施設共同前向き臨床試験が先進医療Bとして承認され,その結果が期待される.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2018年6月末まで)。

FOCUS

サルコペニアと外科

著者: 調憲 ,   新木健一郎 ,   久保憲生 ,   播本憲史 ,   池上徹 ,   吉住朋晴 ,   伊藤心二 ,   桑野博行 ,   前原喜彦

ページ範囲:P.748 - P.753

はじめに
 サルコぺニアは加齢に伴う骨格筋減少症と定義され,急速に高齢化が進むなかで社会的に大きな話題となっている.日常生活における身体活動性の低下の原因となることはもちろん,外科手術においてもその重要性が認識されるようになっている.
 「サルコぺニア」という言葉はRosenbergによる造語で,サルコ(筋肉)+ぺニア(減少症)を意味している1).元々,加齢に伴う骨格筋減少症と定義されていたが,ほかの様々な要因によっても起こってくることが知られている.栄養障害や運動不足による廃用性萎縮のみならず,肝疾患2),がんなどの進行や糖尿病にともなってもサルコぺニアは起こってくる.加齢に伴う筋肉減少症が原発性のサルコぺニアと定義されるのに対し,その他の種々の原因から起こるサルコぺニアは二次性のサルコぺニアとされている.実臨床の場では,様々な要因が複合してサルコぺニアは引き起こされているものと考えられる.
 様々な疾患でサルコペニアが予後因子となることが報告されている.たとえば肝疾患においては慢性の肝疾患の進行とともに骨格筋減少が進行すると考えられており,肝硬変の予後因子となることが報告されている2).外科の領域では,転移性肝癌や肝細胞癌の切除後3)や下肢の慢性動脈閉塞性疾患に対する血行再建後の長期的な予後因子4),肝移植後短期の予後因子5,6)となることが明らかになっている.骨格筋量と関連の深い筋力が胃癌術後の合併症の予測因子となったという報告がある7)
 さらに近年,サルコぺニアは骨格筋量のみならず,身体能力や筋力を加味した診断基準が国際的に提唱されており8),この定義はより臨床に則した定義となっている.本稿においては外科におけるサルコぺニアの意義を中心に述べる.

図解!成人ヘルニア手術・13 忘れてはならない腹壁解剖と手技のポイント

腹壁瘢痕ヘルニア(腹腔鏡下修復術)

著者: 井谷史嗣 ,   中野敢友 ,   高橋一剛 ,   小松泰浩 ,   小川俊博 ,   三宅聡一郎 ,   三村直毅 ,   藤田俊彦 ,   佐藤太祐 ,   太田浩志 ,   三島顕人 ,   原野雅生 ,   塩崎滋弘

ページ範囲:P.754 - P.764

■ 一般外科医が腹壁ヘルニア手術に対する時の心構え
 腹壁瘢痕ヘルニアは腹部手術の2〜30%程度発症する1)ともいわれ,腹部外科医にとっては重要な疾患であるといえる.しかしながら急性期医療機関の集約化が進む中で,臓器別診療分担も進む傾向にあり,大部分の施設では何らかの専門分野と並行してヘルニア診療が行われているのが現状である.したがって,腹壁ヘルニア手術に関する技術,知識を常にbrush upすることは必ずしも容易ではないが,最近のガイドライン2〜4)の発表や本邦での保険収載,さらにはトレーニングコースの充実などにより問題点も徐々に解消しつつある.
 いずれにせよ腹壁ヘルニア,特に瘢痕ヘルニアは外科手術によって発症するものであり,外科手術でしか治療できない疾患であることを肝に銘じて,発症の予防から最良の術式選択,手技の工夫など誇りと細心の注意をもって診療にあたることが重要である.

病院めぐり

都城市郡医師会病院外科

著者: 末田秀人

ページ範囲:P.765 - P.765

 当院のある都城市は宮崎県の南西端に位置し,遠くに霊峰・霧島山が見える自然豊かな盆地にある街です.宮崎市と鹿児島市のちょうど中間点にあたり,肉用牛,豚,鶏ともに日本一の産出額を誇る「肉のまち」を自負しています.あまり知られていませんが,都城の子牛は有名ブランド牛の素牛(もとうし)ともなっています.また,おいしい地下水が湧き出し,広大なシラス台地で原料となるサッマイモが豊富にとれるため,昔から焼酎の生産が盛んで,焼酎「霧島」などで焼酎生産日本一の霧島酒造も当市にあります.
 当院は国土庁モデル定住圏計画の特別事業として,都城北諸県(きたもろかた)広域行政圏と都城市北諸県郡医師会の共同事業により昭和60年7月に開院し,昨年開院30年を迎えました.開院以来,都城市,北諸県郡,鹿児島県曽於市の約25万人,面積約1,200 km2の医療圏において,隣接する都城夜間急病センターとの連携により急性期医療を担う紹介型・共同利用型2次医療機関として中核的役割を果たしてきました.平成27年4月には,高速道路都城インターチェンジ近くに移転し,新体制での診療を開始しました.高速道路へのアクセスのよさとともに,屋上ヘリポートを備えており,救急患者の受け入れや宮崎市などの3次医療機関へ患者搬送に威力を発揮しています.総病床数は224床(ICU 6床,HCU 12床,一般病棟202床,感染症病床4床)で,10診療科(内科,循環器内科,外科,脳神経外科,小児科,形成外科,整形外科,放射線科,麻酔科,救急科),常勤医師29名,非常勤数名,研修医数名が在籍しています.

手術トラブルを未然防止する12の行動特性・3

“ノンテクニカルスキル”をアップする—職員を信頼し,医師主導のチーム力を発揮している

著者: 石川雅彦

ページ範囲:P.766 - P.769

●はじめに
 外科診療・手術の実施に際して,ノンテクニカルスキル獲得の重要性が示唆されている.本稿では,本連載第1,2回に引き続き,Flinら1)が提唱するノンテクニカルスキル7項目(状況認識,意思決定,コミュニケーション,チームワーク,リーダーシップ,疲労管理,ストレス管理)のうち,チームワーク(teamwork)に着目する.“ノンテクニカルスキル”をアップすることに関連して,外科医が職員を信頼し,医師主導のチーム力を発揮することが,患者への影響拡大の防止とトラブル発生の未然防止に資することになるということに焦点をあてて検討する.

臨床報告

腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した陶器様胆囊の1例

著者: 宇野泰朗 ,   川瀬義久 ,   荘加道太 ,   日比野壯貴 ,   松下英信 ,   大河内治

ページ範囲:P.771 - P.774

要旨
症例は65歳,女性.心窩部の違和感を主訴に紹介され受診した.胆囊壁全体に石灰化を伴う陶器様胆囊を認め,待機的に腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した.術中所見では,胆囊は硬く周囲への癒着も高度で,胆囊頸部が十二指腸に癒着していた.十二指腸との剝離は困難で十二指腸の一部をリニアステイプラーにて切離したが,腹腔鏡下の手術で可能であった.病理所見では悪性所見は認められなかった.陶器様胆囊は胆囊摘出例の1%程度と稀な病態であり,約10%に癌が合併するとされているが,近年は腹腔鏡下手術によって摘出されている例が多く,症例によっては腹腔鏡下手術も考慮される.

膵頭部神経内分泌腫瘍との鑑別が困難であった異所性副腎の1例

著者: 井上雅史 ,   種村匡弘 ,   伊禮俊充 ,   中平伸 ,   清水洋祐 ,   畑中信良

ページ範囲:P.775 - P.779

要旨
異所性副腎は微小な病変で非機能性であることが多く,治療の対象となることは少ない.今回われわれは,膵神経内分泌腫瘍(p-NET)と鑑別が困難であった本疾患例を経験した.66歳の男性がGISTの経過観察中に,CTで膵体部腹側に早期濃染する8 mm大腫瘤と膵頭部腹側に微小な早期濃染腫瘤を認めた.多発p-NETと診断し膵頭十二指腸切除術を行った.術後病理検査で膵体部p-NETに併存した異所性副腎と診断された.異所性副腎は後腹膜などを好発部位とし,加齢とともに縮小する微小な病変であることが多く,CTでは造影効果を伴うことが多い.このような所見を伴う場合には本疾患も考慮に入れて手術適応や術式選択をすべきである.

交見室

「獅膽鷹目行以女手」の由来

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.780 - P.781

 表題に掲げた「獅膽鷹目行以女手(図1)」は,「鬼手仏心」とともに“外科医の心得”として従来からよく耳にする箴言であり,外科医に必要なのは,“獅子のような困難にめげずに難局に立ち向かっていく大胆かつ強い心(獅膽)”“遠くを見通す鷹のような鋭い観察眼(鷹目)”と“女性のようにたおやかで優しい手(女手)”という三つの特性であると,一般的に理解されている.
 さて,ヨーロッパ留学中に,手術を行う外科医の心得としてこういう言葉が手術室内に掲げられているのを目にした千葉医学専門学校(現千葉大学医学部)初代外科学教授となった三輪徳寛(みわよしひろ;1859〜1933)は,帰国後に“肝に銘ずべき箴言”の漢訳を扁額として自教室内に掲げ,外科医を志す医学生や門下生に対する戒めとしたのである.なお,この箴言は現在デザイン化されて千葉大学医学部のロゴマークとしても使われていることを付しておく.

昨日の患者

高齢社会での老後を生きる

著者: 中川国利

ページ範囲:P.680 - P.680

 少子高齢社会の進展に伴い,老夫婦だけの所帯が増えつつある.そして日本は世界にも冠たる長寿国になったが,亡くなる前の7年間ほどは自立できずに介護が必要とされている.認知症の奥様の介護に尽くすSさんを紹介する.
 Sさんは80歳代前半で,15年ほど前に大腸癌で手術を行った.再発もなく経過良好であったが,その後も些細な外科的疾患が生じると夫婦連れだって外来を受診した.そしてSさんは短歌や俳句が新聞に掲載されたことを,奥様は庭の草花や大正琴の発表会のことを,さらには二人で行った旅などの話を,嬉々として語ってくれた.

1200字通信・92

「一隅を照らす」余話

著者: 板野聡

ページ範囲:P.725 - P.725

 4月号の本欄に伝教大師最澄の「一隅を照らす」という言葉にまつわる話を書かせていただきましたが,その後,その由来などが気になり調べてみました.
 この言葉は,今から約1200年前の818年に,最澄が天台宗門後継者の修行規定として書いた「山家学生式(さんげがくしょうしき)」の冒頭部分にあるそうです.原文は漢文で「照于一隅此則国宝」で,「一隅を照らす.これ則ち国宝なり」と読まれてきました.そして,「非力な市井の人間であっても,一隅を照らすことならできるのではないか.それで社会の役に立つなら,一生懸命(むしろ,一所懸命)やってみよう」という勇気を与えてきたといいます.私もこうした意味合いで,折に触れて口にも出し,心の支えとしてきた言葉であることはすでに書かせていただきました.

ひとやすみ・138

癌に対する様々な対応

著者: 中川国利

ページ範囲:P.739 - P.739

 癌に対しては早期発見・早期治療が基本とされ,健診が推奨されている.そして患者数が増加しつつある前立腺癌に対して,いまや健診ではPSA検査が普遍的に行われている.私自身も健診でPSA値が高値であったことから精査を受け,前立腺癌と診断されて手術を受けた.そこで懇意の外科医に前立腺癌に罹患したことを話すと,多くの医師が前立腺癌で悩み,そして様々な対応をしていることを知った.
 A医師はPSA値が12.6 ng/mLと高いにもかかわらず,自己判断で前立腺肥大と診断し,精査も受けていない.そこで低侵襲なMRI検査だけでも受けることを勧めたが,依然として放置している.

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原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P. - P.

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P. - P.

次号予告

ページ範囲:P. - P.

あとがき

著者: 小寺泰弘

ページ範囲:P.788 - P.788

 かつて,腹腔鏡下で胆囊を切除する手術が驚きをもって迎えられ,導入が進められた時期がありました.当時は創が小さいのが「売り」で,一種の心霊手術のようにも思えました.時代に遅れてはならぬと,ブタを使った「ラパ胆」の練習に行くと,元気な連中はすでに胃切除を始めていました.そのうちにヒトを対象とした腹腔鏡下胃切除術もあちこちで行われるようになりましたが,当初は非常に厳しい手術であり,大きな合併症を契機にやめてしまう施設もありました.そのころから現在までずっとこの手術をやり続けることができた「特別な」外科医たちに共通していたのは,抜群に開腹手術が上手かったことで,つまり,そもそも手術を行う才能にあふれていた人たちが導入初期の厳しいハードルを乗り越えてきたのだという印象を持っております.
 私の施設ではすでに腹腔鏡下胃切除術を開拓していた医師がおり私は蚊帳の外であったことと,大腸疾患に対する腹腔鏡下手術の導入が遅れていたことから,私は腹腔鏡下手術の良さに気付くのが遅れ,開腹手術の精度と安全性には及ばないと感じながらその当時を過ごしてしまいました.しかしその後,ある研究会で腹腔鏡下低位前方切除術のビデオを見て,開腹手術では深くて狭いがゆえに非常にやりにくいところでの手技が,素晴らしい視野で容易にクリアーされているのに衝撃を受けました.遅まきながら,腹腔鏡下のメリットは創が小さいだけではないのだと気づかされました.見えにくいというのは手術をやりにくくするだけではありません.開腹下の直腸手術では実際に術野がしっかり見えるのは術者だけであり,患者さんの股間で両手に鉤をもって引いているだけでは,肝心なところは何も見えていないわけです.全員が同じ視野を共有し,術後に反復してビデオを見ることができることがどれだけ素晴らしいことか.最近の若い外科医がめきめきと腕を上げるのもよく理解できます.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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