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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科71巻7号

2016年07月発行

雑誌目次

特集 胆管系合併症のすべて—その予防とリカバリー

ページ範囲:P.793 - P.793

 胆道損傷は外科臨床においてしばしば遭遇する病態であり,またその治療に難渋するものである.近年,腹腔鏡下胆囊摘出術が標準化して以来,従来とは異なった胆道損傷が合併症として認められるようになってきたことは周知のとおりである.また,胆道癌手術や生体肝移植術の進歩により,これら胆道外科手術の高度化に伴うきわめて複雑な胆道損傷も経験するようになってきているのが実情である.
 胆道損傷には病態として「胆汁漏」を呈する場合と「胆管狭窄」をきたす場合とが存在する.本特集ではこれら二つの病態別に,その発症予防のためのポイントと,さらには発症した際に難渋・重症化させないで効率的に修復する治療戦略を,具体例を提示しながら各エクスパートにご教示いただいた.

胆汁漏

腹腔鏡下胆囊摘出時の術中胆汁漏のチェックと予防

著者: 伊藤良太郎 ,   石原慎 ,   伊東昌広 ,   浅野之夫 ,   津田一樹 ,   清水謙太郎 ,   大城友有子 ,   藤田正博 ,   安岡宏展 ,   河合永季 ,   堀口明彦

ページ範囲:P.794 - P.797

【ポイント】
◆critical view of safetyを確認することが術中胆汁漏の予防に有用である.
◆術中胆汁漏の原因としては胆管損傷がある.
◆術中胆道造影は術中胆管損傷のチェックに有用である.

胆管切開操作時の術中胆汁漏のチェックと予防

著者: 山田豪 ,   藤井努 ,   小寺泰弘

ページ範囲:P.798 - P.800

【ポイント】
◆術中に胆汁漏が危惧された場合,縫合部の検索には十分な時間をかけ,必要であれば追加縫合を置いたり,胆道ドレナージを追加したりする.
◆1針1針,確実かつ丁寧な胆管もしくは胆管空腸縫合を心がける.使用する針糸は5-0吸収糸を好んで用いている.
◆術後胆汁漏が起きた場合を考慮し,適切なドレナージを術中に行っておく.特に,ドレナージチューブの種類,位置などには細心の注意を払う.

肝切除時の術中胆汁漏のチェックと予防

著者: 有泉俊一 ,   山本雅一

ページ範囲:P.801 - P.804

【ポイント】
◆肝切除時の胆汁漏は,十分な止血後にドライな肝離断面でチェックする.
◆術後胆汁漏の診断は,ドレーン排液中の直接ビリルビン測定と血清の直接ビリルビン値を比較する.
◆胆汁漏では重篤な合併症が必発である.胆汁漏の予防は合併症のない安全な肝切除となる.

腹腔鏡下胆囊摘出後の術後胆汁漏の治療

著者: 光法雄介 ,   巌康仁 ,   松村聡 ,   藍原有弘 ,   伴大輔 ,   落合高徳 ,   工藤篤 ,   田中真二 ,   田邉稔

ページ範囲:P.806 - P.812

【ポイント】
◆胆汁漏を疑い,超音波検査・CTで液体貯留がある場合,躊躇せず穿刺ドレナージを行う.
◆難治性の場合,内視鏡的逆行性胆道造影にて損傷部位の評価と胆道減圧処置を行う.
◆胆囊管以外に損傷の可能性がある“subvesical bile ducts”の存在を忘れてはならない.

胆管空腸吻合後の術後胆汁漏の治療

著者: 佐野圭二

ページ範囲:P.813 - P.815

【ポイント】
◆ドレーンからの胆汁排泄量が多い場合は術後早期に積極的に再手術を行う.
◆再手術の際は癒着剝離における副損傷に注意し,再吻合においては右肝動脈損傷を避ける.
◆再々手術を要さないように再吻合後は内外瘻ステントを留置する.

肝切除後の術後胆汁漏の治療

著者: 深瀬耕二 ,   元井冬彦 ,   海野倫明

ページ範囲:P.816 - P.820

【ポイント】
◆適切なドレーン管理のみで治癒することが多いが,胆汁漏出が減らない場合,漏出形態の把握が重要である.
◆交通型胆汁漏では内視鏡的胆道ドレナージが治療期間の短縮に有用である.
◆離断型胆汁漏では難治性胆汁瘻となることがあり,無水エタノール注入などの薬物療法を要することがある.

外傷性胆汁漏の治療

著者: 新木健一郎 ,   調憲 ,   齊藤文良 ,   桑野博行

ページ範囲:P.821 - P.825

【ポイント】
◆外傷性胆汁漏は,頻度は稀ながら肝・膵・十二指腸など隣接臓器との合併損傷で発症することが多い.
◆治療には損傷部位・範囲・合併臓器損傷の有無を診断し,保存的治療・内視鏡的治療・IVR・手術など適切な治療を選択することが肝要となる.
◆遅発性発症例や胆道再建・保存的治療に伴う胆道狭窄の可能性があるため長期の経過観察が必要である.

胆管狭窄

腹腔鏡下胆囊摘出時の術中胆管狭窄のチェックと予防

著者: 片桐敏雄 ,   大塚由一郎 ,   田村晃 ,   土屋勝 ,   久保田喜久 ,   石井淳 ,   前田徹也 ,   今村茂樹 ,   木村和孝 ,   野崎達夫 ,   金子弘真

ページ範囲:P.826 - P.830

【ポイント】
◆術中胆管狭窄をきたさないためには,術前から胆道の解剖を意識したシミュレーションが大切である.
◆解剖の認識と安全・確実な手術手技を心掛ける必要がある.
◆術中の胆管狭窄の確認には,胆道造影が有用である.

胆管空腸吻合時の術中胆管狭窄のチェックと予防

著者: 松山隆生 ,   森隆太郎 ,   平谷清吾 ,   熊本宜文 ,   武田和永 ,   遠藤格

ページ範囲:P.831 - P.836

【ポイント】
◆胆管空腸吻合術の難易度は対象とする疾患により大きく異なる.
◆複数本の胆管を吻合する際には,できるだけ隣接する胆管を寄せ合わせて1穴に形成する.
◆胆道ドレナージチューブを留置することにより,後壁縫い込みを防止できる.

肝切除時の術中胆管狭窄のチェックと予防

著者: 岡村圭祐 ,   土川貴裕 ,   中村透 ,   野路武寛 ,   浅野賢道 ,   中西喜嗣 ,   田中公貴 ,   倉島庸 ,   海老原裕磨 ,   村上壮一 ,   七戸俊明 ,   平野聡

ページ範囲:P.837 - P.841

【ポイント】
◆グリソン一括処理では,切離ラインを温存グリソンから十分に離すこと.
◆胆管壁の単純縫合閉鎖は長軸に直交する方向に縫合すること.
◆術中胆道造影検査をいつでも行えるように準備し,胆管狭窄が懸念されるときは躊躇なく術式を変更すること.

腹腔鏡下胆囊摘出後の術後胆管狭窄の治療

著者: 水上博喜 ,   田中淳一 ,   横溝和晃 ,   新村一樹 ,   喜島一博 ,   原田芳邦 ,   塩澤敏光 ,   小山英之 ,   加藤貴史

ページ範囲:P.842 - P.846

【ポイント】
◆腹腔鏡下胆囊摘出後の胆管狭窄は術中胆管損傷によることが多い.
◆術後胆管狭窄の治療は内視鏡的胆道ステント留置が第一選択である.
◆胆管狭窄の部位,範囲によっては,外科的治療が必須となり,集学的な検討を念頭に置かなければならない.

胆管空腸吻合後の術後胆管狭窄の治療

著者: 加藤厚 ,   清水宏明 ,   大塚将之 ,   吉富秀幸 ,   古川勝規 ,   高屋敷吏 ,   久保木知 ,   高野重紹 ,   鈴木大亮 ,   酒井望 ,   賀川真吾 ,   野島広之 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.848 - P.853

【ポイント】
◆胆管空腸吻合後の術後胆管狭窄は,繰り返す胆管炎などにより著しくQOLを損なう病態である.
◆胆管空腸吻合部狭窄の診断は,胆管炎などの臨床症状のほか,MDCTやMRCPなどによる画像診断により狭窄部位の同定を行うとともに,良悪性の鑑別を行うことが重要である.
◆胆管空腸吻合部狭窄の治療は,ダブルバルーン内視鏡の普及に伴い,内視鏡的治療が主流となりつつある.長期の胆管ステントチューブの留置により再狭窄を予防する.
◆内視鏡的治療や経皮経肝的治療が困難な症例,無効な症例には,胆管空腸吻合部切除および胆管空腸再吻合による外科治療を考慮する.

肝切除後の術後胆管狭窄の治療

著者: 山本有祐 ,   新槇剛 ,   松林宏行 ,   杉浦禎一 ,   岡村行泰 ,   伊藤貴明 ,   蘆田良 ,   別宮絵美真 ,   絹笠祐介 ,   坂東悦郎 ,   寺島雅典 ,   上坂克彦

ページ範囲:P.854 - P.859

【ポイント】
◆胆管狭窄を伴った難治性胆汁瘻を発症した場合には,胆管狭窄の程度と位置および胆汁漏出部位を正確に診断し,早期にそれぞれの胆管狭窄および胆汁瘻のタイプに応じた治療法を選択することが重要である.
◆難治性胆汁瘻を伴う胆管狭窄症例で胆管狭窄部の上流と下流との交通を有する症例では,ステント留置による胆道減圧処置で軽快する可能性がある.
◆責任胆管の支配領域が狭い離断型胆汁瘻にはbiliary ablationが有用であるが,一部の責任胆管の支配領域が広い離断型胆汁瘻にはPTBDによるpull-through法を用いた内瘻化が有用である.

肝移植後の術後胆管狭窄の治療

著者: 赤松延久 ,   真木治文 ,   伊藤大介 ,   木暮宏史 ,   伊佐山浩通 ,   金子順一 ,   有田淳一 ,   阪本良弘 ,   長谷川潔 ,   小池和彦 ,   國土典宏

ページ範囲:P.860 - P.867

【ポイント】
◆生体部分肝移植における胆管胆管吻合術後胆管狭窄の頻度は20〜30%と依然高率である.
◆胆管吻合部狭窄に対する第一選択治療は内視鏡的逆行性胆道ドレナージ(ERBD)である.
◆胆管狭窄を防ぐための手術手技の工夫,難治例に対するベストな治療法の検討は今後の課題である.

外傷性胆管狭窄の治療

著者: 金岡祐次 ,   前田敦行 ,   高山祐一 ,   深見保之 ,   尾上俊介

ページ範囲:P.868 - P.873

【ポイント】
◆多発外傷では見落とす危険性がある.
◆多くは遅発性で無痛性の肝機能障害(黄疸)で出現する.
◆主な治療法として保存治療,ステント留置,胆管空腸吻合がある.

図解!成人ヘルニア手術・14 忘れてはならない腹壁解剖と手技のポイント

腹壁瘢痕ヘルニア(Components Separation法)

著者: 中川雅裕 ,   赤澤聡 ,   井上啓太

ページ範囲:P.874 - P.879

■ はじめに
 腹壁瘢痕ヘルニアに対して,最近は人工物であるメッシュを用いる手術が多い.しかし,感染を伴った例や,緊急手術や大腸切除などの汚染がある例では,術後にメッシュ感染をきたす可能性がある.
 Components Separation法(以下CS法)ではメッシュを使用せず,腹壁瘢痕ヘルニアの根治術を行える.形成外科によって行われ始めた手術であるが,腹壁の解剖さえ理解できれば一般外科医にも安全に施行できる手術である.

FOCUS

多発性肝囊胞—ガイドラインに基づいた診断と治療

著者: 高野恵輔 ,   福永潔 ,   竹内朋代 ,   大河内信弘

ページ範囲:P.880 - P.886

はじめに
 多発性肝囊胞(polycystic liver disease:PCLD)は肝実質に多発囊胞が発生する遺伝性疾患で,肝内胆管の形成異常が原因で発症すると考えられている.PCLDは無症状のことが多いため,医療機関を受診する患者が少なく,診療経験が蓄積されにくいため,その治療は手探りの状態で行われている現状がある.
 当科ではPCLDの治療について全国アンケート調査を行い,2013年に現時点での本邦におけるPCLDの診断と治療について『多発性肝囊胞診療ガイドライン』にまとめた.今回,この診療ガイドラインに基づいて,多発性肝囊胞の診断から治療に関してわかりやすく解説する.

病院めぐり

富山県済生会高岡病院外科

著者: 吉田徹

ページ範囲:P.887 - P.887

 高岡は,古くは越中国の国府であり,746年に国司として大伴家持が赴任し,在任した5年間に多くの秀歌を残したことから「万葉の里」と呼ばれています.近世は加賀藩主前田利長が築いた高岡城の城下町として発展し,高岡銅器に代表される鋳物の町として,また富山の商業都市として今日に至っています.
 当院は,昭和10年に富山市に開院した済生会富山病院が昭和20年に戦災により消失し,戦禍を免れた高岡に移転,済生会富山病院として診療を開始したのが始まりです.昭和23年に済生会高岡病院に改称し,平成6年に現住所へ移転しました.当初は四方田んぼしかないところでしたが,高岡駅南地区の開発に伴い,周囲にも多くの商業施設や住宅地,大きな公園やスポーツ施設ができ,新しい高岡の中心になってきています.また,平成27年3月より北陸新幹線が開通し,高岡の新しい玄関口・新高岡駅が病院より徒歩5分の場所にでき,ますます周囲環境の発展が期待される地域に建っています.
 外科の診療は昭和33年に始まり,金沢大学第1外科の関連施設として歴史を積み重ねてきましたが,平成26年4月より富山大学消化器・腫瘍・総合外科(第2外科)に引き継がれております.消化器,乳腺,一般外科,化学療法ならびに消化器内視鏡検査,治療を担当しています.

手術トラブルを未然防止する12の行動特性・4

“ノンテクニカルスキル”をアップする—自身やチームの疲労管理・ストレス管理を実施している

著者: 石川雅彦

ページ範囲:P.888 - P.891

●はじめに
 外科診療・手術の実施に際して,ノンテクニカルスキル獲得の重要性が示唆されている.本稿では,本連載第1〜3回に引き続き,Flinら1)が提唱するノンテクニカルスキル7項目(状況認識,意思決定,コミュニケーション,チームワーク,リーダーシップ,疲労管理,ストレス管理)のうち,疲労管理(coping with fatigue)・ストレス管理(managing stress)に着目する.ノンテクニカルスキル”をアップすることに関連して,外科医が自身や手術チームの疲労管理・ストレス管理を実施することが,患者への影響拡大の防止とトラブル発生の未然防止に資するということに焦点をあてて検討する.

臨床報告

両葉多発肝膿瘍を契機に発見された直腸癌の1例

著者: 大島由記子 ,   小林宏暢 ,   大島健司 ,   木村保則 ,   中尾昭公

ページ範囲:P.892 - P.896

要旨
症例は65歳,女性.発熱,右胸部痛で受診した.CT,腹部エコーで肝両葉に低吸収域を認め,多発肝膿瘍の診断で抗菌薬治療を行い,画像上肝膿瘍は縮小した.症状改善後,原因検査のため行った大腸内視鏡で直腸RSに2型腫瘍を認め,中分化腺癌の診断であった.肝転移はないと判断し直腸切除およびリンパ節郭清を行い,病理結果はpT3,int,INFb,ly1,v0,pN1,Stage Ⅲaであった.術後補助化学療法を行い,術後2年経過した現在,明らかな再発は認めていない.肝膿瘍では大腸癌併存の可能性を念頭に置き,原因検索を行うことが必要である.また,肝膿瘍を合併した大腸癌では術後経過観察において注意が必要である.

左片腎状態下に左腎静脈離断・非再建とするも慢性腎不全を回避しえた1例

著者: 遠藤出 ,   山本澄治 ,   吉田修 ,   久保雅俊 ,   宇高徹総 ,   水田稔

ページ範囲:P.897 - P.900

要旨
通常,左腎静脈には複数本の分枝が存在する.このため,両側正常腎存在下において,術中の視野展開などの際に左腎静脈を下大静脈近傍で離断し,非再建とする手技は許容しうるものとされている.しかし,左片腎状況下に左腎静脈を離断し,非再建とした報告は検索しえた範囲では認めなかった.今回の症例は58歳,男性.右腎摘出術の既往があり,左片腎状態であった.脂肪肉腫再発に対して開腹腫瘍摘出術を施行した際,術中に左腎静脈を下大静脈近傍で離断する状態となった.しかしこの時点で再建を行わず,断端の閉鎖のみの対処としたが,術後,慢性腎不全へ移行することなく経過した.本症例について,若干の文献的考察とともに報告する.

胃癌の同時性多発大腸転移の2例

著者: 徳丸勝悟 ,   白井量久 ,   宮田一志 ,   相場利貞 ,   横井太紀雄

ページ範囲:P.901 - P.906

要旨
症例1は69歳,男性.上部消化管内視鏡検査で胃体下部に全周性の3型腫瘍を認めた.術前の大腸内視鏡検査で下行結腸とS状結腸にⅡa様病変の多発を認めた.大腸生検像は低分化腺癌で胃癌の組織像と酷似しており,胃癌の多発大腸転移と診断した.症例2は73歳,女性.上部消化管内視鏡検査で胃体下部に全周性の3型腫瘍を認めた.術前の大腸内視鏡検査で盲腸と横行結腸にたこいぼ状腫瘍の多発を認めた.大腸生検像は印環細胞癌で胃癌の組織像と酷似しており,胃癌の多発大腸転移と診断した.今回の2症例は術前検査で大腸転移以外に非治癒因子を認めておらず,低分化型の高度進行胃癌においては大腸転移も念頭に置き検査することが重要と考えた.

ペースメーカー留置側に発生した乳癌の1経験例と術式選択に関する検討

著者: 棚田安子 ,   野崎善成 ,   佐々木正寿

ページ範囲:P.907 - P.910

要旨
症例は55歳,女性.45歳時に洞不全症候群でペースメーカーを挿入された.左乳房石灰化の経過観察中に超音波検査で1 cm大の低エコー腫瘤を認め,針生検で浸潤性乳管癌と診断した.病変は乳頭直下に及び乳房温存は困難と判断し,乳房切除の方針とした.腫瘍とペースメーカーは約10 cm離れており,安全に乳房切除が可能であった.病理組織はHER2 enriched typeの浸潤性乳管癌で組織学的悪性度が高く,アントラサイクリン,タキサン,抗HER2薬を含む術後補助化学療法を行った.5年後にペースメーカー入れ替えが予定されており,その際に対側へ留置し直すことで乳房再建も考慮できる症例であると考えられた.

ひとやすみ・139

学会活動を続ける原動力

著者: 中川国利

ページ範囲:P.804 - P.804

 大学医局に所属していると,教授をはじめとした周囲からのプレッシャーもあり,学会発表や論文作成などの学会活動に勤しむ医師が多い.しかし医局を離れると日常診療に追われ,学会活動から疎遠となりがちである.私は医局を離れてからもささやかな学会活動を続けてきたが,僭越ながらその原動力を紹介したい.
 36歳で医局を離れ,仙台赤十字病院に27年間外科医として勤めた.赴任当時,消化器外科医は私を含めて2名だけであり,呼吸器外科医2名の計4名で,年に230件ほどの手術を行っていた.自己責任のもと,自由に診療できたが,刺激があまりにも少なかった.そこで手術件数を増やすべく,自ら超音波検査や消化管内視鏡検査を行った.さらに腹腔鏡下手術を早期に導入し,様々な疾患に応用した.そして臨床で経験した稀な症例や診療上工夫した経験などを積極的に学会報告し,論文として執筆した.

書評

—田島知郎(編) 千野 修,田島厳吾(編集協力)—ジェネラリストのための外来初療・処置ガイド

著者: 北川雄光

ページ範囲:P.836 - P.836

 昨今,臓器別,領域別の専門分化が高度に進み,自らの専門分野で極めて高い診療能力を持ちながらも,ジェネラリストとしての守備範囲が狭い医師が増加している.現在,新専門医制度の発足を前に,基本領域として新設される総合診療専門医の医師像,研修プログラムのあり方が議論されているところである.“真のジェネラリスト”の医師像がいかなるものか大変注目を浴びているこの時期に,本書はそれに対する一つの具体的な回答を示す形で,絶妙のタイミングで出版されたと言えよう.
 本書は,領域横断的に,基本的な手技や比較的簡素な医療機器を駆使して“手を動かし,頭を使って”初療に当たる真のジェネラリストのあるべき姿を示してくれている.精緻な画像診断や詳細な血液分析結果に頼る前に,あるいは患者に触れる前から何かを察知する能力までも研ぎ澄ますことを提唱している本書は,「当直マニュアル」などのレベルをはるかに超えた,医師としての基本的素養,哲学を伝えてくれていると言えよう.明解な図や貴重な実地臨床における写真を的確に駆使して解説し,「コツとアドバイス」に込められたエッセンスは,まさに最前線の現場でしか得られないジェネラリストたちの生の声が伝わってくる.積極的にかつ興味を持って初療に取り組む若手医師の勇気と知識,技能を後押ししてくれる本書の編者田島知郎博士(東海大名誉教授)は,米国で長く外科研修を積んだ後,日米両国で世界最高レベルのsurgical oncologistとして指導的な立場で活躍されたジェネラリストの基盤を持ったスペシャリストである.米国の医療現場の待ったなしの救急,初療で培った編者の医師としての哲学,しっかりと手を動かして初療を行うことのできるジェネラリスト育成に対する熱い思いが伝わってくる.私自身もスペシャリストとしての到達点の高さは,ジェネラリストとしての基盤の広さに立脚して決まってくると信じている.

1200字通信・93

因果なことで

著者: 板野聡

ページ範囲:P.847 - P.847

 ある週末,家族で近場の温泉宿に行く機会がありました.子供達も皆社会人となっており,それぞれの仕事が終わってから,夕食の時刻までに現地集合する約束でした.私もなんとか間に合って宿に着くことができ,久しぶりに家族勢揃いで美味しい夕食と楽しい時間を過ごすことになりました.
 そんな夕食も終わろうとする頃になって,私の携帯電話が鳴りました.画面を見ると病院からですが,「当直医がいるはずだが」と思っても出ないわけにもいかず,報告を聞いたうえで指示を出してその場を収めます.席に戻ると,「大丈夫なの」と声がかかり,「何とか大丈夫そうだから」とその場を繕いますが,「なんでそんなことになっているのか」と,患者さんの顔を思い出しながら頭の中は「仕事モード」に戻り,酔いも醒めはじめていきます.その夜,すぐに帰るわけにもいかず,本命の大浴場への誘いも断り(気が小さいせいか,「こんな気分では温泉に浸かる気にもならない」というのが本音),悶々としつつ部屋のシャワーで汗を流し,早々に布団へ潜り込むことにしたのでした.

昨日の患者

手術を受ける立場となった外科医

著者: 中川国利

ページ範囲:P.873 - P.873

 自らの専門分野で手術を受けるとなると,手術方法,そして術者が大いに気になる.さらに通常は冷静に判断できても,自分のことになると診断さえ間違えることがある.
 日本外科学会の重鎮であったS先生が大学教授退官後に激しい心窩部痛が生じ,十二指腸潰瘍穿孔と自己診断した.ただS先生はメタボであり,上腹部正中切開後に腹壁瘢痕ヘルニアを起こすことを危惧した.そこで最も信頼する弟子に手術を依頼するとともに,常日頃行っていた上腹部正中切開ではなく,肋骨弓下弧状切開で開腹することを指示した.指示に従い肋骨弓下弧状切開で開腹したが,十二指腸に所見はなく,壊疽性虫垂炎であった.そこで肋骨弓下弧状切開創から虫垂切除を行ったが,手術は困難を極めた.

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原稿募集 「臨床外科」交見室

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バックナンバーのご案内

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あとがき

著者: 遠藤格

ページ範囲:P.916 - P.916

 このたび宮崎勝先生に代わって編集委員を拝命いたしました.伝統ある本誌の編集委員に加えていただき大変光栄に存じます.宮崎先生の足元にも及びませんが,本誌の更なる発展に向けて注力させていただき,読者の皆様のお役に立てるよう努力して参ります.
 さて本号では「胆管系合併症のすべて」を特集しました.この企画は宮崎先生が立てられたものです.日本肝胆膵外科学会理事長である宮崎先生が組まれた最後の特集が「胆管合併症」というのは非常に示唆的だと思います.多くの手術症例を経験され,特に拡大切除で良好な治療成績を挙げられたGreat surgeonである宮崎先生にして,最後まで悩まされたのが胆道合併症だということでしょう.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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