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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科71巻9号

2016年09月発行

雑誌目次

特集 食道癌手術のコツと要点

ページ範囲:P.1049 - P.1049

 食道癌に対する治療において,手術はいまだ中心的な位置にあり,National Clinical Databaseによれば,年間5,000例以上の食道切除が行われている.頸部,胸部(縦隔),腹部に操作が及ぶもっとも侵襲の大きな手術であるが,それだけに外科医にとって習得すべき術式の一つでもある.また,その周術期管理を会得することにより,様々な術式に対しても応用,活用がきくであろう.一方,胸腔鏡,腹腔鏡の導入や集学的治療の広まりにより,食道癌根治術も以前に比べて変化しているものと思われる.
 本特集では,最新の技術,話題などを紹介し,若手外科医の座右の食道癌教科書としたい.

最新版! 食道癌手術の現況

食道癌取扱い規約改訂(第11版)の要点

著者: 松原久裕

ページ範囲:P.1050 - P.1055

【食道癌取扱い規約改訂(第11版)のポイント】
◆内視鏡治療所見(e)を加えた.
◆食道胃接合部診断基準を本文内に記載した.
◆壁深達度に関し,UICCのTNM分類と整合性をはかり,T4a,T4bの2群に分けた.
◆リンパ節に関しNo. 112aoを食道側と背側に二分することとした.また,胃癌取扱い規約と整合性をはかり,No. 3をa,bに二分した.
◆リンパ節群分類に関しUtは第3群のみ,Mt・Ltは第1,2,3群とも,Aeは第2,3群の変更が行われた.また,食道胃接合部領域癌はAeと同じリンパ節群分類とした.
◆進行度はT1aN1をT1bN1と同じくStage Ⅱに分類した.T4aはN3までをStage Ⅲとした.T4bはN0からStage Ⅳaとした.
◆癌遺残度については大腸癌取扱い規約と整合性をはかり,肉眼所見ではR1に分類されないこととした.
◆病理組織所見では扁平上皮内腫瘍に上皮内癌が含まれないことを明確にした.内分泌細胞腫瘍はWHO分類と整合性をはかり,神経内分泌腫瘍とした.リンパ節外転移に関しても大腸癌取扱い規約と整合性をはかり,tumor noduleと記載することとした.内視鏡治療検体での脈管侵襲は胃癌取扱い規約と整合性をはかり,(−)(+)と記載することにした.
◆リンパ節転移個数に関して,転移個数による群分類を補正する規定は複雑であり,実際に使用されることが少ないため今回から削除した.
◆リンパ節の範囲,境界を模式図だけでなく実際のCT像に描出することにより,よりわかりやすく,また放射線治療にも有用な図を加えることとした.

食道癌周術期管理における栄養療法—経腸栄養を中心に

著者: 牧野知紀 ,   土岐祐一郎

ページ範囲:P.1056 - P.1060

【ポイント】
◆食道癌患者は通過障害などにより術前に栄養状態の低下がみられるため,術前からの経腸介入が重要である.
◆術後の経腸栄養ついては高度栄養障害リスク患者を主に対象とし,術後早期から栄養投与を開始する.
◆経腸(免疫)栄養は術後合併症の軽減のほか,感染対策や化学療法の栄養支持療法にも有用である.

食道癌手術におけるチーム医療の役割

著者: 小池聖彦 ,   丹羽由紀子 ,   岩田直樹 ,   小寺泰弘

ページ範囲:P.1062 - P.1069

【ポイント】
◆チーム医療とは患者を中心として,医師だけでなく関連する多職種が対等に連携し最善の医療を実現することを目的にする.
◆食道癌手術は過大侵襲手術であり,その確実な遂行には多職種によるチーム医療の介入が求められる.
◆チーム医療を効率的に実行するために,クリニカルパスの活用や周術期管理外来システムの確立が有効と思われる.

低侵襲手術(胸腔鏡・腹腔鏡)のメリット・デメリット

著者: 川久保博文 ,   竹内裕也 ,   北川雄光

ページ範囲:P.1070 - P.1074

【ポイント】
◆わが国の食道癌手術は拡大リンパ節郭清を伴う食道切除が標準であり,食道癌手術そのものが過大侵襲手術のため,胸腔鏡・腹腔鏡手術の低侵襲性を証明するのは困難である.
◆胸腔鏡手術導入当初は胸壁破壊の軽減による手術の低侵襲化が強調されていたが,近年では胸腔鏡の拡大視効果によって得られる良好な視野により,非常に精度の高いリンパ節郭清が可能となっている.
◆臨床病期Ⅰ/Ⅱ/Ⅲ食道癌(T4を除く)に対する胸腔鏡下手術と開胸手術のランダム化比較第Ⅲ相試験JCOG1409(MONET Trial)によって,食道癌に対する拡大リンパ節郭清を伴う胸腔鏡下手術の短期の安全性と長期の有効性が証明されるであろう.

食道癌手術を達成するためのポイント

頸部リンパ節郭清術のコツと要点—胸部食道癌における標準的手技

著者: 富田夏実 ,   梶山美明 ,   國安哲史 ,   橋本貴史 ,   橋口忠典 ,   那須元美 ,   尾崎麻子 ,   斎田将之 ,   藤原大介 ,   吉野耕平 ,   朝倉孝延 ,   菅原友樹 ,   岩沼佳見 ,   鶴丸昌彦

ページ範囲:P.1076 - P.1082

【ポイント】
◆狭い空間に重要器官が密集する頸部の局所解剖を理解し,郭清範囲を明確化して手術に臨む.
◆郭清を安全・確実に行うために,出血や神経損傷のクリティカルポイントを意識して手術を行う.
◆ランドマークとなる重要器官(血管,神経など)を常に想定・確認しつつ,慎重かつ丁寧に手術を進める.

縦隔リンパ節郭清術のコツと要点

著者: 宗田真 ,   桑野博行

ページ範囲:P.1083 - P.1086

【ポイント】
◆縦隔から頸部や腹部への移行部の郭清が甘くならないように気を付ける必要がある.
◆解剖学的な十分な理解のもとに熟練した手術操作がリンパ節郭清精度を高くし,予後の延長に寄与する.
◆周囲臓器の損傷,反回神経の損傷に十分注意した愛護的な操作を行うことが安全に郭清を行うためのポイントである.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2018年9月末まで)。

胃管再建術のコツと要点—安全な頸部食道亜全胃 手縫い吻合法

著者: 吉田和弘 ,   田中善宏

ページ範囲:P.1087 - P.1091

【ポイント】
◆亜全胃は胃の粘膜下層の血管交通網を温存でき,先端の血流が豊富である.
◆再建は後縦隔経路にて頸部食道-亜全胃吻合を,頸部創にて手縫いで行う.
◆後壁は2層縫合,前壁はGambee吻合による層々吻合を行う.
◆幽門輪前壁の用手的ブジーを行う.
◆再建胃は十分に腹腔側に牽引(直線化)し,横隔膜脚と3針縫合固定する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2018年9月末まで)。

結腸を用いた再建術のコツと要点

著者: 宇田川晴司 ,   上野正紀

ページ範囲:P.1092 - P.1097

【ポイント】
◆適切な層での結腸の授動.浅すぎれば結腸の血管系を損傷する一方,深すぎると余分な出血や尿管損傷の原因となる.
◆十分な血管の観察と適切な位置での血管処理.いつも同じではない.臨機応変な対応が必要となる.
◆十分な広さの胸骨後トンネルの作製と,胸腔内への脱出やトンネル内での再建臓器のたるみなどを起こさないよう注意する.
◆多少の長さ不足は十分な腸間膜根部の授動で補える.症例によっては回結腸動脈本幹を処理しない回結腸再建も可能である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2018年9月末まで)。

胃切除後再建術のコツと要点

著者: 八木浩一 ,   西田正人 ,   三ツ井崇司 ,   愛甲丞 ,   山下裕玄 ,   野村幸世 ,   飯田拓也 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.1098 - P.1103

【ポイント】
◆適切な長さと血管径の遊離空腸を準備する.
◆顕微鏡下吻合における形成外科との連携が望ましい.
◆確実な消化管吻合,肛門側再建経路のデザインを行う.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2018年9月末まで)。

他臓器合併切除術のコツと要点

著者: 安田卓司

ページ範囲:P.1104 - P.1112

【ポイント】
◆合併切除に伴う手術・合併症リスクと浸潤部以外の手術の根治性のバランスを考慮したうえで適応を決定する.
◆心膜や肺への部分浸潤が疑われるときは,積極的に合併切除したほうが術野展開と根治性の面で有利である.
◆気道系の合併切除では,切除部および周囲の大血管の被覆,死腔充塡と気管・気管支の血流確保が重要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2018年9月末まで)。

サルベージ手術のコツと要点

著者: 日月裕司

ページ範囲:P.1113 - P.1117

【ポイント】
◆合併症率や在院死亡率が高いサルベージ手術では,通常の手術で行われる予防的郭清を縮小し,侵襲を軽減することで安全性を優先する.
◆気管・気管支の虚血性障害はサルベージ手術後の致死的な合併症である.放射線照射範囲に含まれる気管・気管支への血流をできる限り温存する.
◆サルベージ手術での吻合部リークの増加の原因は,放射線照射による胃近位側の血流障害である.線維化,変色,萎縮がない部位で胃管を作製する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2018年9月末まで)。

FOCUS

腹腔鏡手術における4K imagingシステムの現状と展望

著者: 奥野圭祐 ,   小嶋一幸 ,   井ノ口幹人 ,   大槻将 ,   村瀬秀明 ,   谷岡利朗 ,   冨井知春 ,   五木田憲太朗

ページ範囲:P.1118 - P.1122

はじめに
 デジタルテレビ放送の普及に伴って,画質の高解像度化は年々進んできており,様々な機器にまで拡がってきている.現在では,超高解像度と呼ばれる「4K解像度」という形で,パソコンやスマートフォンにまで利用され,一昔前とは比べものにならないほど,精細で美しい画像を目にすることができる.この4K技術は,2015年10月にソニー・オリンパスメディカルソリューションズ(株)(SOMED)により開発された「VISERA 4KUHD」(図1)で初めて外科手術用内視鏡システムへと導入された.今回は4K imagingシステムに焦点を当て,その現状と展望について解説する.

外科診療における病診・病病連携の展開

著者: 浅尾高行 ,   解良恭一

ページ範囲:P.1123 - P.1131

はじめに
 高齢社会を迎え,これまでの病院完結型の医療から,個々の施設が果たすべき役割を分担した連携体制のなかで医療と福祉の一体化へと時代は進んでいる.それを支える3つの基盤制度が開始される2016年は,医療連携にとって注目すべき変革の年となった.新基盤のひとつは電子化された診療情報提供に診療報酬が手当てされたこと,もうひとつはマイナンバー制度で,最後に認定がん医療ネットワークナビゲーター認定制度の開始である.
 これまでも,外科医はがん診療連携パスの作成と運用を通して地域診療連携に少なからず携わってきた.2016年の診療報酬改定では,地域診療連携の対象は脳卒中や5大がん以外にも拡大され,地域連携は診療拠点病院の特定の医師だけの問題ではなくなった.ところが,先行して行われてきたがん診療連携パスによる地域連携は,一部の例外を除いて十分に活用されていないのが現状である.今後,診療連携の拡大と推進には,がん診療地域連携パスが普及しなかった原因を解析し,改善すべき問題点を明らかにしたうえで対応する必要がある.
 がん診療連携パス運用においてこの数年間で明らかとなった問題点として,以下などが挙げられる.
①かかりつけ医での画像検査に対応できない
②化学療法ができる連携先が少ない
③施設間の情報共有が不十分
④診療連携をコーディネートする人材不足
 当教室では,これらの問題を解決するためのシステム開発とモデル事業のなかで実用性,有効性を検証してきた.地域連携を円滑にするためのこれまでの取り組みを紹介し,いま外科医が直面し変革のなかにある病診・病病連携について述べる.

ラパコレUpdate 最近のコンセプトと手技・2

標準的ラパコレ—The Critical View of Safetyと標準術式

著者: 森俊幸 ,   鈴木裕 ,   阿部展次 ,   杉山政則

ページ範囲:P.1132 - P.1138

はじめに
 本邦に腹腔鏡下胆摘術(LC)が導入されて四半世紀が経過した.米国でLCが導入された際に胆道損傷(bile duct injury:BDI)の頻度が開腹胆摘術の5倍にものぼることが報告され,医学的な問題ばかりでなく,多くの訴訟の原因ともなった.本邦においても1990〜2001年の調査でLC術中胆道損傷は0.66%であり,開腹手術の報告(0.1〜0.2%)に比して著しく高いことが知られるようになった.当初,LC術中のBDIの原因は外科医の技術習得度が低いためとする論調が多かったが,症例の集積によりBDIは減少しないことが示された.その後多くの報告が,腹腔鏡手術におけるBDIは解剖誤認という根本的問題に起因すると指摘している1).この解剖誤認は画像システムの表示品質によるものではなく,視認性が著しく向上した現在のFull HDシステムでも同様な誤認が起きている.LCは低侵襲な術式と考えられているが,LC術中のBDIは病態が複雑であり,いったん起きると入院は長期化し,胆管空腸吻合などのrevision手術も必要となる.また,胆汁性肝硬変から肝移植となった症例や死亡例も報告されている.すなわちLCの低侵襲性というメリットを得るためにはBDIを起こさない術式が必要であり,BDIを回避できる術式が標準的術式の核心をなす.本稿では,技術認定制度で求めているThe critical view of safety(CVS)の中核をなすアイデアを再確認し,技術認定制度による手術の標準化によるBDI疫学の変遷を概観するとともに,CVSを達成するためにわれわれが標準とする術式を述べていきたい.

病院めぐり

公立福生病院外科

著者: 仲丸誠

ページ範囲:P.1139 - P.1139

 当院は昭和20年に開設され,昭和23年に東京都国民健康保険団体連合会 福生病院となりました.以来今日に至るまで外科スタッフは慶應義塾大学外科学教室からの派遣を中心に構成されています.平成13年に福生市,羽村市,瑞穂町に移管され公立福生病院となり,当地域の中核病院としての役割を担っています.その後,医療設備の充実を図り,新病棟建設を経て,平成22年2月に新病院オープンとなりました.総病床数316床(そのうちHCU6床,地域包括ケア病棟45床)で,当地域の医療ニーズに合った,より質の高い医療の提供をめざしています.
 当院外科では消化器外科7名,乳腺外科2名の計9名で診療にあたっています.消化器外科では,専門領域にかかわらずすべての臓器を担当し,乳腺・甲状腺,上下部消化管,肝胆膵まで,腹腔鏡手術も含めてすべての疾患の治療に携わっています.乳腺外科では,乳腺専門医2名(うち女医1名)で乳腺外来,検査,手術を担当しております.無理な乳房温存手術よりも乳房切除と乳房再建術を積極的に行っています.

手術トラブルを未然防止する12の行動特性・6

アクシデントに適切に対応する—アクシデント発生時の対応が迅速・スムーズである

著者: 石川雅彦

ページ範囲:P.1140 - P.1143

●はじめに
 外科手術の実施に際しては,さまざまなアクシデントが発生する可能性があり,発生した場合には適切な対応の取り組みが求められている.本稿では,アクシデントに適切に対応することに関連して,外科医が術中・術後のアクシデント発生時に,その対応に関連して発生するさまざまなトラブルを想定し,迅速・スムーズに対応を実施することが,患者への影響拡大の防止とトラブル発生の未然防止に資するということに焦点をあてて検討する.

臨床研究

ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘術後に発症した鼠径ヘルニアの臨床的特徴

著者: 丸山智宏 ,   須田和敬 ,   井上千尋 ,   金子公亮 ,   渡辺竜助 ,   郷秀人

ページ範囲:P.1145 - P.1148

要旨
目的:ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘術(RALP)後に発症した鼠径ヘルニアの特徴と適切な手術術式について検討した.方法:RALPが施行された187例のうち,鼠径ヘルニアは15例(8%)に発症した.成人男性鼠径ヘルニア220例242病変をRALPの既往のある群(既往群:15例20病変)と既往のない群(対照群:205例222病変)に分けて比較・検討した.結果:両側発症は対照群17例(8%)に対し,既往群5例(33%)と有意に多かった.右側発症は対照群108例(57%)に対し,既往群9例(90%)と有意に多かった.既往群では全20病変が外鼠径ヘルニアで,全例にmesh plug法を施行し,再発は認めなかった.結語:RALP後には外鼠径ヘルニアが両側または右側に発症しやすく,その術式としてmesh plug法は妥当と考えられる.

臨床報告

急性虫垂炎を契機に発見された虫垂カルチノイド腫瘍の1例

著者: 藤原玄 ,   佐藤文哉 ,   長坂暢 ,   橋本瑞生 ,   水谷哲之 ,   坂口憲史

ページ範囲:P.1149 - P.1152

要旨
症例は50歳,男性.腹痛を主訴に当院を受診した.身体所見,血液・画像検査より急性虫垂炎と診断し,虫垂切除術を施行した.切除した虫垂は肉眼的には蜂窩織炎性虫垂炎であり,腫瘍性病変は認めなかった.しかし,病理組織検査で粘膜下に5×2 mm大の結節を認め,虫垂カルチノイド腫瘍と診断した.当院にて過去10年に急性虫垂炎と術前診断し虫垂切除を施行した症例のうち,肉眼的に虫垂炎以外の所見を認めず,術後病理組織検査を施行した320例について検討した.その約3%に腫瘍を認めた.肉眼的に虫垂炎と診断しても病理組織検査を行うことが望ましいと考えた.

腹腔鏡下胃切除術後乳び腹水の3例

著者: 杉田静紀 ,   木下敬弘 ,   芝崎秀儒 ,   海藤章郎 ,   西田俊朗

ページ範囲:P.1153 - P.1157

要旨
乳び腹水は胃癌術後の稀な合併症とされるが,発症すると治療に難渋することも多い.今回当院で施行した腹腔鏡下胃切除術625例のうち,術後乳び腹水を認めた症例3例(0.48%)の治療法を検討した.症例1:35歳,女性.術後4日目(4 POD)に発症したが,保存的に軽快し11 PODに退院した.症例2:64歳,男性.8 PODに退院したが,25 PODに腹部膨満で再診し乳び腹水と診断した.保存的治療で軽快せず71 PODにリンパ管結紮術を施行した.症例3:60歳,男性.1 PODに発症したが,保存的に改善し24 PODに退院した.手術ビデオの見直しにより,いずれも膵上縁のリンパ管シーリングが不十分な可能性が示唆された.乳び腹水は薬物を用いた内科的治療が基本であるが,改善しなければ手術を検討する必要もある.

三領域郭清を伴う食道癌切除術後に高度な気管虚血を呈した2例

著者: 柴田智隆 ,   錦耕平 ,   田島正晃 ,   白下英史 ,   衛藤剛 ,   猪股雅史

ページ範囲:P.1159 - P.1163

要旨
食道癌手術の合併症の1つとして,気管・気管支虚血がある.頻度は高くないが,いったん発症すると治療は困難であり,重篤な経過をたどる場合もある.われわれは食道切除再建術後に気管虚血を呈した2症例を経験したので報告する.症例1:70代男性,食道切除再建術後4日目に気管虚血を発症した.保存的に軽快したが右上葉気管支の狭窄を認めた.症例2:60代男性,食道切除再建術後4日目に気管虚血を発症した.右中葉気管支に虚血を認めたが保存的に軽快した.気管虚血には気管血流温存による予防が最も重要である.左右気管支動脈の温存により気管血流の維持に努め,リスクが高い症例に関しては二期的な頸部郭清も考慮すべきであると考えられる.

交見室

「獅膽鷹目行以女手」の原典となった外科学書を著したLanfranchi of Milanについて

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.1164 - P.1165

 前回は「獅膽鷹目行以女手」という漢文箴言の訳出者について判ってきたことについて述べた.
 今回はその追記として,John Halleの英訳本の原典となったラテン語外科学書“Chirurgia Magna”を著したランフランキ(Lanfranchi of Milan:c. 1250〜1315, 図1)について述べる.なお,以下の内容はLeonard D. Rosenmanが“Chirurgia Magna”を英訳した“The Surgery of Lanfranchi of Milan”を参考にしたことを付記しておく.

1200字通信・95

専門化の落とし穴

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1061 - P.1061

 ある大病院で胃の手術を受けた患者さんが,便秘がひどくなり,先生に相談したそうです.その先生は,「便秘は腸の問題だから,腸が専門の先生に診てもらいましょう」とのご返事.80歳に近いその方は,それから通院のたびに二人の先生に診てもらうことになったそうですが,今度は腸の「専門医」から,「高齢で詳しい検査もできないし,胃の術後だから,胃の主治医に相談しなさい」と言われ,そのうち「歳のせいだから,仕方ない」ということで話が途切れたそうです.
 結局,困っている様子を見兼ねた家族に付き添われて当院を受診されたのですが,消化器として一連の,元より密接な関係の胃と腸でそれぞれの専門家が診るとは,「流石は大病院」と感心してよいのやら,余りに料簡が狭いと嘆くべきなのか,相談されたこちらとしても説明に困ったことではありました.

ひとやすみ・141

我流の治療

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1069 - P.1069

 医師は医学知識があるだけに,独りよがりの治療を行いがちである.そして医師が患者となった際の想定外の行動に,主治医はしばしば翻弄され困惑する.骨折時に取った私の行動を,恥ずかしながら紹介する.
 東京での学会出張中,下り階段で左足関節を捻り転倒した.あまりの痛みにしばし動けなかったが,ゆっくりと左足に体重をかけても痛みはそれほどではなかった.しかし足関節は膨らみ,著明な圧痛点を認めた.そこで単なる捻挫ではなく,腓骨遠位部骨折と自己判断した.

昨日の患者

赤いランドセル

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1131 - P.1131

 新学期となり,ピカピカの小学1年生が真新しいランドセルを背負って歩いて行く.その後姿を見ていると,病室でランドセルを背負った娘を微笑んで見つめていたSさんを思い出す.
 Sさんは20歳代後半の女性で,スキルス胃癌の患者さんであった.食欲不振で来院し,精査の結果は胃体中部から噴門部にかけて癌病巣が広範囲に広がっていた.そこで胃全摘出術を施行したが,周囲のリンパ節や腹膜にも広範囲に転移していた.術後に強力な癌化学療法を施行したが,3か月後には腹水が貯留した.

書評

—永井英司(編)—完全腹腔鏡下胃切除術—エキスパートに学ぶ体腔内再建法[DVD付]

著者: 二宮基樹

ページ範囲:P.1144 - P.1144

 胃癌手術は郭清と再建から成る.郭清が不十分であれば長期予後を悪くするし,再建法が誤っていれば短期予後を悪くし時に致死的ともなり得る.
 胃癌手術の最初の成功者がBillrothとされているのも,再建に成功し患者が術後状態から回復し経口摂取ができるようになり,日常生活に復帰し得たからである.

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原稿募集 私の工夫—手術・処置・手順

ページ範囲:P. - P.

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P. - P.

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P. - P.

次号予告

ページ範囲:P. - P.

あとがき

著者: 瀬戸泰之

ページ範囲:P.1172 - P.1172

 本号の特集は「食道癌手術のコツと要点」である.従来,食道切除はもっとも侵襲の大きな手術であり,外科医が受けたくない手術の代表であった.しかしながら,本号を一読していただければ,栄養管理の進歩,チーム医療の導入,低侵襲手術の発展により,安全に行えるようになり,ハードルは間違いなく下がっていることがおわかりいただけるものと思う.若手にも,ぜひ「コツと要点」を会得してもらいたい.
 最近の食道癌に関する数字をいくつか紹介したい.厚生労働省人口動態統計によれば,食道癌で命を落としている方は,平成25年11,543人,平成26年11,576人,平成27年11,734人とほぼ横ばいである.対人口10万人あたりの死亡率も2010年以降,9.2〜9.4で一定であり,喫煙率が下がっていると思われるが,食道癌が減少しているわけではないことがわかる.食道癌になった方々が実際にどのような初回治療を受けているか,全国を網羅した正しい資料は残念ながら存在しない.日本食道学会の全国登録による報告書(Comprehensive Registry of Esophageal Cancer in Japan, 2009)によれば,登録された全6,260例中,初回治療として手術を受けた方は3,943例(63%)であった.また,National Clinical Databaseによるデータでは,2011年の食道切除術件数は5,354例であった.食道学会癌登録の施設数は276,一方NCDの施設数は713である.どのように解釈するかは難しいが,罹患数が死亡数より多いことは間違いないので,本来食道癌手術件数はもっと多くてよいものと考える.適切な治療を受けていただくためにも,われわれ外科医が食道癌治療に対する知識をより深いものにすることが大切であり,それをきちんと患者さんに伝える責務があるものと考える.ちなみに,NCDデータによると消化器外科領域代表8術式のなかで,施行している施設数は食道切除がもっとも少ないことが明らかになっており(胃切除は1,737施設),集約化が進んでいるものと考える.なお一層,食道癌を担当する外科医は腕を磨きたいものである.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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