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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科72巻2号

2017年02月発行

雑誌目次

特集 ビッグデータにもとづいた—術前リスクの評価と対処法

ページ範囲:P.133 - P.133

 National Clinical Databaseなどのビッグデータの活用により,全国の平均周術期死亡率が明らかになり,また術前リスクにもとづいたRisk Calculatorを活用することにより,自験例の予想まで簡便にできるようになった.さらに自施設のレベルも容易に把握できる時代になってきている.自施設のレベルを上げる取り組みが重要となり,かつ術前リスクを正しく評価することが問われる時代になったと言えよう.
 本特集ではそれぞれの機能障害の評価方法の紹介と,その結果にもとづいてどのように対応すべきか,また代表的な術式において,リスク評価にもとづいて手術をどのように構築すべきかを論じていただいた.

総論

NCDを活用した術前リスク評価

著者: 丸橋繁 ,   後藤満一 ,   宮田裕章

ページ範囲:P.134 - P.139

【ポイント】
◆NCDは全国で4,800以上の施設から年間120万件以上が入力されている,わが国最大の臨床データベースである.
◆NCDデータからは,単なる統計だけではなく,自施設の医療レベルの客観的評価(ベンチマーク)や個々の症例における術前リスク評価といった有用な情報が各施設へフィードバックされ活用されている.
◆NCDのめざすところは,データに基づいた「外科医療の透明性(Transparency)」による外科医療の質のさらなる向上である.

機能障害別 評価と対処法

心機能障害

著者: 福田幾夫

ページ範囲:P.140 - P.144

【ポイント】
◆非心臓手術における心臓リスクの評価に関しては,手術侵襲の大きさと患者個体の予備力を勘案して決定する.
◆リスク評価には病歴聴取と身体診察,運動耐容能の評価を行うことが重要である.
◆米国では非心臓手術の心臓リスク推計のためのリスク計算機が開発されている.わが国でもNCDでデータ蓄積がなされ,日本人のデータによる心臓リスク推計のためのリスク計算機が開発されることが望まれる.

肺機能障害

著者: 茂木晃 ,   桑野博行

ページ範囲:P.145 - P.149

【ポイント】
◆慢性閉塞性肺疾患は心疾患と並ぶ術後合併症発生・術後死亡率の独立リスク因子である.
◆わが国のNCDにおいても,術前肺機能障害が手術死亡率の独立リスク因子であることが示された.
◆慢性閉塞性肺疾患の術前評価と周術期管理は術後呼吸器合併症予防に極めて重要である.

肝機能障害

著者: 巌康仁 ,   赤星径一 ,   小野宏晃 ,   松村聡 ,   光法雄介 ,   伴大輔 ,   落合高徳 ,   工藤篤 ,   田中真二 ,   田邉稔

ページ範囲:P.150 - P.156

【ポイント】
◆従来の肝機能評価法としてChild-Pugh分類と肝障害度がよく知られ,肝切除術の術前に広く用いられていたものと考えられる.
◆その一方で,ビッグデータに基づくリスク因子には,すべての術式で肝機能障害に関連する項目が含まれていた.
◆術前の肝障害に対する対処法は対症療法であるとはいえ,今なお日進月歩であり,術前のみならず術後の対処も有効である.

慢性腎不全

著者: 西田正人 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.158 - P.161

【ポイント】
◆慢性腎不全患者では,循環器系,免疫系,凝固系に病態生理学的変化が起こり,栄養障害も生じている.
◆ビッグデータの解析で慢性腎不全は手術リスクであり,NCDの術前評価にも,腎機能が組み込まれている.
◆慢性腎不全患者の周術期管理では,残存腎機能を障害せず,細心の注意で術後合併症を未然に防ぐことが重要である.

糖尿病

著者: 山形幸徳 ,   齋藤一幸 ,   平野康介 ,   立岡哲平 ,   松永慶廉 ,   吉岡龍二 ,   菅又嘉剛 ,   奥山隆 ,   多賀谷信美 ,   鮫島伸一 ,   野家環 ,   大矢雅敏

ページ範囲:P.162 - P.165

【ポイント】
◆重症患者の血糖管理は現在のところ,持続インスリン静注による中等度TGC(tight glycemic control,目標血糖値110〜150 mg/dL)が推奨されている.
◆糖尿病の既往がある重症患者の血糖管理について現時点で明確な回答はないが,目標血糖値の上限を200 mg/dL程度まで緩和したTGCを行うことが一般的である.
◆待機手術の場合は,術前の血糖コントロール(血糖値≦180 mg/dLないしHbA1c<7.0%)が重要である.
◆術後の血糖コントロールの目標値は,術前のコントロールの具合をみて臨機応変に設定する.術後動態が安定するまでは,インスリンを用いて管理する.

周術期の止血機能異常に対するスクリーニング検査

著者: 安本篤史 ,   矢冨裕

ページ範囲:P.166 - P.169

【ポイント】
◆病歴聴取と身体診察から出血傾向を疑い,必要があれば繰り返し検査を行って,異常があれば精密検査を依頼する.
◆抗血栓薬内服症例は,症例ごとに出血リスクと血栓リスクを天秤にかけて評価し,薬剤の中止期間を決める.
◆血栓症リスクは術前スクリーニング検査だけでは鑑別できず,病歴聴取から精密検査を行う.

低・過栄養

著者: 愛甲丞 ,   李基成 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.170 - P.174

【ポイント】
◆NCDを用いた臨床研究において,低アルブミン,高BMIがリスク因子として示されている.
◆低栄養・過栄養(肥満)ともにリスクとなる.
◆術前から栄養評価を行い,栄養不良と判断される場合は,経腸栄養を中心とした栄養管理を行うことが望ましい.
◆周術期はERAS(enhanced recovery after surgery)の概念に基づき,術前絶食期間の短縮,経口摂取早期再開を心がけるようにする.

認知機能障害(術後せん妄)

著者: 竹内麻理 ,   藤澤大介 ,   三村將

ページ範囲:P.175 - P.179

【ポイント】
◆術後せん妄は,手術の侵襲により生じる意識障害であり,認知機能障害や多彩な精神症状を伴う.
◆せん妄の原因は準備因子,誘発因子,直接因子の3つに分けて考えることができ,術後せん妄の予防はこれらの因子への働きかけである.
◆十分な術前評価を行い,予防,早期発見,治療のための積極的な対策が重要である.

術式別 評価と対処法

食道切除

著者: 大幸宏幸 ,   藤田武郎 ,   佐藤中 ,   堀切康正 ,   佐藤琢爾 ,   岡田尚也 ,   藤原尚志

ページ範囲:P.180 - P.187

【ポイント】
◆食道癌手術を完遂するために,適切な術前リスク評価に基づく耐術能の評価を行う.
◆安全性と根治性のバランスを考慮し,術前のリスクに応じて術式を選択することも重要である.
◆食道癌手術では,術前-周術期-術後さらには退院後も含めた包括的管理が重要となる.

肝切除

著者: 熊本宜文 ,   松山隆生 ,   森隆太郎 ,   澤田雄 ,   遠藤格

ページ範囲:P.188 - P.193

【ポイント】
◆National Clinical Database(NCD)が2011年に発足してから5年が経過し,データの蓄積とともにNCDデータのフィードバックが開始されている.
◆消化器外科専門医医療水準評価術式の8術式では,①リアルタイムフィードバック,②Risk Calculator,③施設診療科の患者背景とパフォーマンスの全国比較,④パフォーマンス指標および合併症発生率の4つのNCDフィードバック機能が利用可能である.
◆NCDフィードバック機能により,手術予定症例の手術死亡の予測発生率や,自施設診療科のパフォーマンスを客観的なデータで知ることが可能となる.

術前リスク評価に基づいた直腸癌術式選択

著者: 赤木智徳 ,   蔀由貴 ,   猪股雅史

ページ範囲:P.194 - P.197

【ポイント】
◆直腸癌に対する術式はおもに腫瘍学的因子と患者側因子(術前リスク評価)にて決定する.
◆最近では肛門機能温存のため,ISRや超低位前方切除術が広く普及している.
◆Diverting stomaの適応は一定のコンセンサスはなく,各施設において総合的に判断しているのが現状である.

ラパコレUpdate 最近のコンセプトと手技・7

総胆管結石症におけるラパコレ—LCBDE vs EST

著者: 長谷川洋

ページ範囲:P.198 - P.203

はじめに
 総胆管結石症に対する治療法としては内視鏡的治療,腹腔鏡下の一期的治療(以下LCBDE)など様々であるが,最近は内視鏡的治療が増加している.内視鏡的治療としては内視鏡的乳頭切開術(EST)が最も多いが,乳頭機能廃絶に伴う長期的な問題に関して十分に認識されたうえで行われているとは言えない.われわれは乳頭機能は温存すべきであるという立場から,1992年以来,LCBDEを第一選択の治療法として採用してきた1).今回は,その治療成績,特に長期合併症,再発について詳細に検討し,その結果をESTの長期成績と対比することにより乳頭機能温存の意義,適応などについて検討した.

FOCUS

血行再建時の静脈グラフト選択のポイント—左腎静脈グラフトによる門脈再建術

著者: 高野重紹 ,   吉富秀幸 ,   清水宏明 ,   古川勝規 ,   高屋敷吏 ,   久保木知 ,   鈴木大亮 ,   酒井望 ,   賀川真吾 ,   野島広之 ,   宮崎勝 ,   大塚将之

ページ範囲:P.204 - P.207

はじめに
 近年の消化器癌手術,特に血管浸潤を伴う局所進行癌における手術が積極的に行われるようになり,それと同時に,外科医の血管再建のtechniqueが必要となる場面が増えてきている1).血管合併切除・再建には腫瘍の血管に対する浸潤長や範囲により,適切にその再建法を選択することが肝要である.

ASCO 2016の注目演題

著者: 植竹宏之

ページ範囲:P.208 - P.211

 2016 ASCO Annual Meetingは2016年6月3日から7日まで,米国イリノイ州シカゴのMcCormick Placeで開催された.大腸癌領域における第3相比較試験の結果としては,Stage Ⅱ大腸癌に対するUFTによる術後補助化学療法の効果を検証したSACURA trial1)の結果が発表された.切除不能進行・再発大腸癌に対する臨床試験としては,大規模第3相比較試験の結果の発表はなかったが,大腸癌原発巣の部位と予後や化学療法の効果との相関が分析された3演題が注目された.本論文ではこれらについて,発表を概説する.

手術トラブルを未然防止する12の行動特性・11

トラブル発生を未然防止する基盤を整える—他診療科・他部門と適切な連携・協働を実施している

著者: 石川雅彦

ページ範囲:P.212 - P.215

●はじめに
 外科手術において,術前・術中・術後に患者状況の変化が発生し,自診療科単独での対応が必ずしも容易ではない状況が発生しうる.本稿では,トラブル発生を未然防止する基盤を整えることに関連して,外科医が自診療科と他診療科・他部門との連携・協働を実施することが,患者への影響拡大の防止とトラブル発生の未然防止に資するということに焦点をあてて検討する.

病院めぐり

光晴会病院外科

著者: 岡田和也

ページ範囲:P.216 - P.216

 異国情緒漂う街として知られている長崎市は九州北西部に位置する人口約43万人の都市です.長崎における医学の歴史は約160年前に遡り,1857年にオランダ海軍軍医ポンペ・ファン・メールデルフォルトにより長崎奉行所西役所医学伝習所(現在の長崎県庁所在地)において開始された医学伝習がその始まりとされています.
 当院は長崎市の北部に位置し,1979年に透析を中心とした病院として開院され,外科は1981年に新設されました.病床数は179床で,2016年より30床の地域包括ケア病床が導入され,6床のHCUを併設しています.立地条件のよさもあり,患者さんは長崎市北部地区に限らず,隣接する西彼杵郡をはじめとした広い範囲から来院されます.当院はいわゆる総合病院ではありませんが,限られた診療科において,できるだけ専門性の高い医療を提供すべく,最新の医療機器の導入・スタッフの教育などに努めています.

臨床報告

Ewing肉腫の腹膜転移に対し化学療法後に外科的切除しえた1例

著者: 長津明久 ,   篠原敏樹 ,   前田好章 ,   二川憲昭 ,   濱田朋倫 ,   三浪圭太

ページ範囲:P.219 - P.222

要旨
症例は27歳,女性.前医で最大径が140 mmの左腎下極の腫瘤性病変に対し,開腹腎摘術を受けたが,2か月後のCTで腹腔内に腫瘤を認め,当院へ紹介された.初回手術のプレパラート再検索と遺伝子検査で,Ewing肉腫/末梢性未分化神経外胚葉性腫瘍の腹腔内再発と診断した.化学療法により腫瘍の縮小を認め,腫瘍残存の有無の確認と切除目的に開腹腫瘍切除術を施行した.大半は線維化と組織球の集簇であったが,腫瘍細胞残存をわずかに認めた.補助化学療法を施行し,初回手術から24か月,再発巣切除から12か月経過した現在,再発なく生存中である.予後の悪い疾患ではあるが,外科切除を含めた集学的治療が長期生存に寄与する可能性がある.

S状結腸人工肛門を伴う巨大正中腹壁瘢痕ヘルニアに対して片側components separation法と腹直筋前鞘切開法を組み合わせて修復した1例

著者: 梶原大輝 ,   土井孝志 ,   佐藤好宏 ,   神賀貴大 ,   竹村真一

ページ範囲:P.223 - P.227

要旨
S状結腸人工肛門を伴う腹壁瘢痕ヘルニアに対し,components separation(CS)法を用い腹壁再建を行った症例を経験したので報告する.症例は75歳,男性.2002年に直腸癌に対し直腸切断術,2008年に腹壁瘢痕ヘルニアに対しメッシュによる修復術を行った.2014年12月,腹痛を主訴に来院した.メッシュ感染が原因であったが,ヘルニア門の最大横径が約15 cmで,かつ人工肛門造設状態のため,当初は保存的に治療した.しかし,治療抵抗性であったため,メッシュ除去と腹壁再建術を行うこととした.S状結腸人工肛門のため,患者右側はCS法,左側は腹直筋前鞘減張切開法を行い,緊張なく閉鎖した.人工肛門造設状態でも工夫次第でCS法が適用できるため,感染リスクの高い症例では考慮すべき術式である.

診断に苦慮した膀胱癌術後再発による直腸輪状狭窄の1例

著者: 松村真樹 ,   吉松和彦 ,   横溝肇 ,   中山真緒 ,   佐竹昌也 ,   成高義彦

ページ範囲:P.228 - P.231

要旨
症例は71歳,男性.便秘・肛門痛が出現し,他院で大腸内視鏡検査を施行した.下部直腸に全周性の狭窄を認めたが粘膜は正常で,スコープは通過可能であった.CT検査では直腸壁の肥厚のみを認めた.その3か月後,腹部膨満が出現し,S状結腸から上行結腸までの著明な拡張と鏡面形成像を認め入院となった.再度のCT検査では直腸壁に造影効果を伴う全周性の肥厚を認め,大腸内視鏡検査では下部直腸に発赤,不整粘膜を認め,全周性の強い狭窄によりスコープは通過困難であった.生検はmicropapillary carcinomaで,免疫組織染色ではCdX2,CEAが陰性,CK7,CK20が陽性で膀胱癌の直腸転移と診断した.横行結腸に人工肛門を造設後,泌尿器科へ転科した.GC療法を4コース行ったが,術後7か月で死亡した.稀な転移形式で診断に苦慮した膀胱癌術後再発による直腸輪状狭窄の1例を経験したので報告した.

S-1長期投与を含む集学的治療により長期生存を得ている再発乳癌の1例

著者: 久保秀文 ,   木村祐太 ,   河岡徹 ,   長島由紀子 ,   山本滋 ,   永野浩昭

ページ範囲:P.232 - P.236

要旨
症例は60歳代,女性.左乳癌でBt+Axが施行され6年後に多発肺転移が認められた.パクリタキセル,カペシタビン,ドセタキセル,EC(エピルビシン,シクロホスファミド)治療が順次なされたが効果不良で,S-1を80 mg/m2/day(分2)×2週間,休薬1週間で投与開始された.肺転移は縮小し,以後3〜4コース投与後1〜2か月休薬として継続された.その後,少しずつ肺転移増大が認められたが,本人の希望でS-1投与が継続された.その後,脳転移が出現し転移巣切除が追加された.現在,S-1投与より8年以上経過するが,全身状態良好でS-1投与継続中である.肺転移に対しては緩徐な増大はあるものの,脳転移の再発はない.本例ではS-1の長期有効性と安全性が示された.

下部直腸癌術後に肛門転移をきたした1例

著者: 齊藤浩志 ,   山本大輔 ,   北村祥貴 ,   稲木紀幸 ,   伴登宏行 ,   車谷宏

ページ範囲:P.237 - P.241

要旨
症例は59歳,女性.下部直腸癌に対して2004年8月に開腹低位前方切除術を施行した.病理診断はRb,tub1-tub2,sm3,ly1,v0,n0,pT1bN0M0, stage Ⅰであり,その後定期通院中であった.2013年8月,肛門部のしこりを自覚し当院に受診した.腹部-骨盤造影CTで肛門部に20 mm大の濃染する結節を認めた.PET-CTで同部位に集積を認め,直腸癌の肛門転移が疑われ局所切除術を施行した.病理所見では中〜高分化腺癌を認めた.下部直腸癌の組織像と類似しており肛門転移と判断した.術後,放射線療法を施行し,現在まで再発を認めていない.下部直腸癌術後の肛門転移を経験したので,文献的考察を加え報告する.

手術手技

主乳頭近傍の十二指腸病変に対する膵温存十二指腸切除術

著者: 大目祐介 ,   門久政司 ,   二宮紘平 ,   河本和幸 ,   朴泰範 ,   伊藤雅

ページ範囲:P.242 - P.248

要旨
十二指腸主乳頭部周囲に発生した腫瘍に対しては,内視鏡的切除や経十二指腸的局所切除から膵頭十二指腸切除にいたるまで様々な術式が行われている.今回,機能温存手術としての膵温存十二指腸切除術の手術手技につき報告する.症例は70歳,男性.十二指腸主乳頭直上の腺腫に対して膵温存十二指腸切除術を施行した.術後,膵液・胆汁の外瘻化による一過性低Na血症,代謝性アシドーシスを経験したが,そのほかに合併症は認めず術後14日目に退院となった.退院後の食事摂取,栄養状態も非常に良好である.膵温存十二指腸切除術は複雑な術式ではあるが,機能温存手術として優れた術式と考えられる.

ひとやすみ・147

自ら腹腔鏡下手術を受けて

著者: 中川国利

ページ範囲:P.144 - P.144

 外科に大きな変革をもたらした腹腔鏡下手術は,私のライフワークである.そして自分自身が腹腔鏡下手術を受ける羽目となり,手術の利点を自ら享受することになった.
 生来健康であったが1年半ほど前に前立腺癌となり,ダヴィンチを用いた腹腔鏡下手術を受けた.そして術後翌日には普通食を摂取し,歩行した.さらに術後5日目にはフォーレを抜去し,術後9日目に退院し,術後11日目からは通常業務に復帰した.手術に伴う副作用はなく,注視しないとわからないほど小さな手術創が下腹部に6個あるだけである.

1200字通信・101

医療過疎—数ではない

著者: 板野聡

ページ範囲:P.157 - P.157

 少し前の同期会でのことですが,笑って済まされそうにないお話がありました.
 地元で開業している友人が,患者さんをある総合病院に紹介したときのことです.元より,開業医では手に負えないと判断してのことですが,その科では派遣元の教授の意向でその疾患は診ないということで断られたというのです.バラバラに話していた一同が,「えっ」と一斉に振り向くことになりました.

昨日の患者

幼子へのビデオメッセージ

著者: 中川国利

ページ範囲:P.174 - P.174

 癌で幼い子供の行く末を見守ることができなくなったとき,残して逝かざるをえない我が子に母親として何ができるだろうか.幼子への母としての想いを,ビデオレターに託した患者さんを紹介する.
 Tさんは20代後半の小学校教師で,同じ小学校教師の夫との間に1歳の息子がいた.食欲不振と倦怠感で検査を受け,胃癌と診断された.そして胃切除術を施行したが,進行期のスキルス癌であった.術後に強力な化学療法を施行したが,癌性腹膜炎となり腹水が貯留した.死を自覚したTさんは,最愛の息子に対する想いをビデオ収録することを思い立った.

書評

—日本Acute Care Surgery学会/日本外傷学会(監訳)—DSTC外傷外科手術マニュアル[Web動画付]

著者: 横田順一朗

ページ範囲:P.218 - P.218

 今,止血できなければ死につながる.重度外傷の緊急手術ではこのようなシリアスな状況に遭遇する.熟練した外科医でも,経験したことのない状況や見たことのない術野にたじろぐことがある.専門領域でなくても,救命のためには迅速な止血など外科的介入により,蘇生しなければならない.重度外傷と対峙する外科医にはこれを乗り切る技量と意思決定が求められる.予定手術では事前に手術アプローチ,術式の選択および術後管理まで予習できるが,救急現場では不可能である.遭遇する機会が少ない上に,守備範囲が広く,予定手術とは異なった判断が必要となる.症例を重ね,経験を積むといった修練の難しい領域である.このため臨床経験を補完する手段としてシミュレーション教育が脚光を浴びている.
 ここに紹介する『DSTC外傷外科手術マニュアル』は,重度外傷に対する外科的技能をウエットラボで修練するDSTCコースのために書かかれた図書である.DSTCコースは,世界的にトップクラスの外傷外科医が直接指導する実践さながらの修練システムである.本書は,コース受講の教材といった程度のものではなく,まさしく重度外傷治療のテキストとして充実した内容が詰まっている.外傷診療に長けた外科医の技能と意思決定が凝縮されているといっても過言ではない.また,Webを介して実践さながらの手術動画を閲覧することができ,コースの受講に至らずとも,本書の熟読と動画の視聴とでかなりの学習効果が期待できる.翻訳をされた先生方の意図が,実はこの点にあるのではないかと推測する.

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原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P. - P.

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P. - P.

あとがき

著者: 瀬戸泰之

ページ範囲:P.254 - P.254

 筆者が医師になってから30年経つ.この間,医師を取り巻く環境が大いに変化してしまっていることは間違いない.どちらかというと残念ながらより厳しくなっていると感じている.しかも,外科を取り巻く状況がより厳しくなっている.その当時,外科はメジャーな科であり,どの大学もおそらく出身者の2割ないし3割は外科医をめざしたものと思う.今は人数的にはマイナーな科となってしまっている.ある統計によれば,1994年の医師数を1とした場合,外科が最も減少しており,2014年には0.81であったと報告されている.また,厚生労働省医師調査によれば,医師100人中,外科を標榜しているのは現在ほぼ3人に過ぎない.医学の王道と自任していたが,この事態は真摯に受け止めなければならない.その要因として様々なことが考えられるが,外科医の労働環境の劣悪さが一つとして挙げられる.別の統計によれば,週60時間以上勤務する医師の割合が最も多いのが外科とされている.科の特性上やむをえない面もあると思うが,やはり,それに見合うものがないと若手(今は初期研修でほとんどの科の実態を知ってしまう)は魅力は感じてくれても,めざすのは躊躇してしまうのではないだろうか.
 本特集にもあるように,ビッグデータを活用できる,活用しなければならない時代になっている.これも30年前には想像もつかなかった事態である.多くのビッグデータの中でも2011年に登録開始されたNational Clinical Database(NCD)は格別である.設立さらにその後の発展に尽力されている先人,また日ごろ忙しい合間にデータ入力されている現場の先生方に心より敬意を表したい.それらをいかに臨床に活用していくか,本特集は見事に具現してくれている.現場でも大いに参照していただきたい.このせっかくのお宝をこれから,外科医のためにどのように活用していくかが次なる課題になるものと考えている.秀逸なわが国の外科医の仕事を高いエビデンスレベルのもと,適切に評価でき,それが外科の活性化につながることを大いに期待したいし,そうしなければならないと感じている.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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