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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科72巻8号

2017年08月発行

雑誌目次

特集 がん治療医のための漢方ハンドブック

ページ範囲:P.911 - P.911

 現在,保険適用となっている漢方薬は実に148処方に及ぶ.その歴史は古く長く,先人の偉大な知恵が凝縮されているものと思う.外科領域においては術後障害や副作用対策などで漢方薬は使用されているが,まだ十分に活用されているとは言いがたい.そこで本特集では,漢方の場面に応じた使い方,漢方薬の種類とその作用などについて解説していただき,最近の研究成果も交えながら,外科の日常診療で活用できる知識を得ることをめざしたい.

総論

漢方におけるわが国発のエビデンス

著者: 河野透 ,   北島政樹

ページ範囲:P.912 - P.916

【ポイント】
◆漢方薬は日本独自の伝統医薬であり,西洋薬と併用して処方できるのは日本の医師だけの特権であり,厚労省からも積極的に使用することが推奨されている.
◆頻用されている漢方薬のエビデンス構築は最高エビデンスレベルⅠaまで到達しているものもあるが,十分でなく,新たな統計手法による解析が注目されている.
◆漢方薬のエビデンスレベルは向上し,診療ガイドラインに収載されるようになってきた.エビデンス構築に新たな手法として,システムズバイオロジーが注目されている.

漢方と癌診療

著者: 西正暁 ,   島田光生 ,   吉川幸造 ,   森根裕二 ,   東島潤 ,   柏原秀也 ,   高須千絵 ,   石川大地

ページ範囲:P.917 - P.921

【ポイント】
◆漢方は癌診療において周術期,化学療法の副作用軽減,抗腫瘍効果,緩和医療など,すべての局面において重要な役割をもつ.
◆近年,漢方の作用機序の解明とともに,癌診療における漢方の第Ⅱ,Ⅲ相試験が実施され,エビデンスが蓄積されてきている.
◆今後,西洋医学と漢方医学を含めた東洋医学を統合した,EBMに基づいたオーダーメイド治療の確立が求められる.

漢方と栄養療法

著者: 宮崎安弘 ,   高橋剛 ,   黒川幸典 ,   田中晃司 ,   牧野知紀 ,   山﨑誠 ,   瀧口修司 ,   土岐祐一郎

ページ範囲:P.922 - P.928

【ポイント】
◆がん治療にあたっては栄養療法を行うことが重要であるが,漢方は栄養療法に対して補完的に効果を発揮する.
◆上部消化器癌治療(手術・化学療法)においてはグレリン機能低下症が問題となり,栄養療法が必須である.
◆六君子湯は活性型グレリン割合を増加させると同時に消化管運動を改善させ,栄養療法を補完する.

緩和医療におけるがん漢方の役割

著者: 今津嘉宏 ,   水城啓 ,   中澤敦 ,   大里文乃 ,   田中慧 ,   浜野愛理

ページ範囲:P.929 - P.935

【ポイント】
◆緩和医療に漢方薬を役立てるには,副作用を知る必要がある.
◆がん漢方は,現代医学と併用することで,より良い医療を提供することができる.

癌腫別 漢方の使い方

肺癌治療における漢方の役割

著者: 河合秀樹

ページ範囲:P.937 - P.941

【ポイント】
◆肺癌治療において外科医の関わる場面は周術期,術後補助化学療法,再発後の治療に大別される.
◆周術期では体力,免疫力低下防止目的に補中益気湯や十全大補湯が使用されることが多い.
◆分子標的治療薬の登場により担癌長期生存例の増加が見込まれるため,補剤としての漢方の役割が重要となる.

食道癌領域における漢方の役割

著者: 中村公紀 ,   山上裕機

ページ範囲:P.942 - P.946

【ポイント】
◆食道癌患者のquality of life(QOL)は,低栄養,術後の消化管機能障害などにより非常に低下しており,その予防対策が患者のQOLの改善に極めて重要である.
◆六君子湯は,グレリンと相関して食道癌手術後の体重減少の予防に有効な漢方であることが示唆される.
◆今後,高侵襲手術を要する全身状態不良の食道癌症例に対するQOL改善をめざし,臨床研究を通して漢方の有用性を明らかにしていく必要がある.

胃癌による胃切除術後における漢方薬の効果

著者: 工藤克昌 ,   武者宏昭 ,   海野倫明

ページ範囲:P.948 - P.951

【ポイント】
◆六君子湯は胃切除術後の食欲や食事摂取量を増加させ,術後消化器愁訴や栄養状態に関する有用性が示唆される.
◆茯苓飲は胃切除術後の吻合部粘膜浮腫を改善し,狭窄症状に対して有効性が報告されている薬方である.
◆大建中湯は腸管運動を促進し,胃全摘術後の消化管運動機能障害に対して有用であると考えられる.

大腸癌における漢方薬の応用

著者: 木村聡元 ,   大塚幸喜 ,   八重樫瑞典 ,   箱崎将規 ,   松尾鉄平 ,   藤井仁志 ,   佐藤慧 ,   高清水清治 ,   畑中智貴 ,   佐々木章

ページ範囲:P.952 - P.957

【ポイント】
◆現在漢方薬は,西洋医学的解析が進み,少しずつエビデンスが蓄積され,使用しやすくなってきた.
◆大腸癌における漢方薬は,おもに周術期の合併症予防と抗癌剤治療の有害事象対策に用いられることが多い.
◆漢方薬は,その特性を理解し利用することで,今後も癌治療における重要な役割を担っていくものと考えている.

肝臓癌の周術期管理における漢方の応用

著者: 波多野悦朗 ,   佐藤元彦 ,   西田広志 ,   栗本亜美 ,   岩間英明 ,   末岡英明 ,   裵正寛 ,   飯田健二郎 ,   近藤祐一 ,   多田正晴 ,   中村育夫 ,   鈴村和大 ,   宇山直樹 ,   麻野泰包 ,   岡田敏弘 ,   藤元治朗

ページ範囲:P.958 - P.963

【ポイント】
 肝臓癌患者の周術期管理において,
◆術後肝不全が危惧される大量肝切除時には,門脈血流維持とbacterial translocation予防のために大建中湯が積極的に用いられている.
◆術後肝不全が危惧される大量肝切除時や術後高ビリルビン血症において,肝細胞保護効果と利胆作用を期待して茵蔯蒿湯が用いられている.
◆高齢者には特に,術後せん妄予防に抑肝散を術前より用いる.

膵癌領域の漢方療法

著者: 岡田健一 ,   山上裕機

ページ範囲:P.964 - P.966

【ポイント】
◆膵癌領域において,高いエビデンスレベルで有効性が示された漢方療法は依然ない.
◆大建中湯と茵蔯蒿湯は膵臓癌の周術期管理で使用されることが多い.
◆膵癌領域で使用される漢方薬の臨床的有効性を証明する臨床試験の継続が期待される.

FOCUS

十二指腸内視鏡治療の最前線

著者: 落合康利 ,   木口賀之 ,   光永豊 ,   飽本哲兵 ,   前畑忠輝 ,   藤本愛 ,   西澤俊宏 ,   後藤修 ,   浦岡俊夫 ,   矢作直久

ページ範囲:P.967 - P.973

はじめに
 消化管に対する内視鏡的アプローチは1950年代から始まった.治療内視鏡は1968年ごろからポリペクトミー,1983年ごろから内視鏡的粘膜切除術(EMR),1998年ごろから内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)が行われるようになった.現在,小型の病変に関してはEMRで対応することが多いのではないかと思われるが,対応困難な大型病変などに対してはESDが行われている.ESD自体は,当初は偶発症の発生頻度が高く,リスクの高い処置だといわれたこともあったが,内視鏡機器の開発および内視鏡医の技術向上により安全に行うことができるようになってくると,その有効性から瞬く間に全国に広がっていった.胃・十二指腸,食道,大腸の順番に保険収載され,一般的な手技としてガイドラインにも記載されている.
 しかし,このうち十二指腸に関しては,胃と同時に保険収載されたものの当時は疾患頻度の低さから実際に行われることは必ずしも多くなかった.近年になると,内視鏡機器の開発および内視鏡医の認知度の上昇などから,学会などでもその報告例が徐々に見受けられるようになってきた.しかし,実際に治療を始めてみると,技術的難易度が高く,時に深刻な事態となる偶発症などの問題点が明らかとなり,一般化できていないのが現状である1).十二指腸における外科手術は部位によっては患者負担の大きな治療となることもあり,その是非については学会などを中心に議論が交わされているところである.本稿では,現時点で内視鏡治療によりどこまでできるのかをご紹介したいと思う.

複合現実Mixed Reality,拡張現実Augmented Reality,仮想現実Virtual Realityによる空間認識医用画像手術支援

著者: 杉本真樹 ,   志賀淑之 ,   安部光洋 ,   日下部将史 ,   脊山泰治

ページ範囲:P.975 - P.985

はじめに
 医用画像解析のソフトウェア技術が進み,患者MDCTの3Dボリュームデータから臓器や病変の解剖学的形状を関心領域(ROI)として抽出し,ポリゴンモデルに書き出して臨床現場や学術領域で活用することが,容易かつ迅速に行われている1,2).具体的には医用画像の標準フォーマットであるDICOMから,ポリゴン化されたデータを3D的にあらゆる方向から提示しながらカンファレンスや手術計画,術中画像提示,学術発表などに利用されている.その際にvolume renderingなどによる3D画像表示の陰影表現のみでは,平面モニタ上で解剖学的な奥行きを正確に理解するのは困難であった.また実際の解剖を正確に空間認識として理解するには,平面的な情報を二次元的モニタ上でマウスなどの入力インターフェイスで画像を移動回転させたり,頭の中だけで立体像を想像するだけでは不十分であり,熟練度に差異が生じていた.空間認識とは本来,ユーザーも頭を動かしたり実際に移動しながら,空間的位置や移動距離,平衡感覚などを同時に体感する必要がある.そこで近年,患者個別の解剖に忠実な空間認識の再現が重要視されており,仮想現実(virtual reality:VR),拡張現実(augmented reality:AR),複合現実(mixed reality:MR)などの技術を医用画像解析や手術支援に応用し,空間認識を向上させる研究が進んでいる3〜5)
 本稿では,VR, AR, MRによる空間認識向上をめざした医用画像手術支援につき,実例を交えて報告する.

ラパコレUpdate 最近のコンセプトと手技・12

—Difficult gallbladder—Subtotal cholecystectomy

著者: 佐田尚宏 ,   齋藤晶 ,   木村有希 ,   青木裕一 ,   田口昌延 ,   笠原尚哉 ,   森嶋計 ,   三木厚 ,   兼田裕司 ,   遠藤和洋 ,   小泉大 ,   笹沼英紀 ,   吉田淳 ,   清水敦 ,   佐久間康成 ,   栗原克己 ,   大木準 ,   鈴木正徳

ページ範囲:P.986 - P.989

はじめに
 腹腔鏡下胆囊摘出術は1990年前後に各国で臨床導入され,1990年代には胆囊結石症,胆囊良性疾患に対する標準術式として世界的に定着した.現在では,最も多く行われている腹腔鏡手術の一つである.日本内視鏡外科学会が2年ごとに行っているアンケート調査1)によると,2013年の年間実施件数は27,809件,2000年と比較しても約36%増加している.その一方で,胆摘術に占める腹腔鏡下手術の割合は1995年以降一貫して80%前後で推移しており,腹腔鏡下胆囊摘出術の適応について一定のコンセンサスが得られ,すべての症例が腹腔鏡下に対処できないことも明らかになってきた.2016年度の診療報酬改訂で開腹胆摘術(K672:23,060点)の保険点数が腹腔鏡下胆囊摘出術(K672-2:21,500点)より高額になったことは,腹腔鏡下胆囊摘出術はそれぞれの医療機関の技量に応じて安全に施行できる症例に限定して実施することを推奨する社会的なメッセージでもあるとも考えられる.腹腔鏡下胆囊摘出術における最大の問題は,導入後25年以上経過した現在でも胆管損傷の頻度が開腹胆摘術と比較して明らかに高いことで,2012〜2013年の2年間だけでも304例(全症例の0.55%)がアンケート調査で報告されている1)
 Subtotal cholecystectomyは,高難度の胆摘症例,特にCalot三角周囲の炎症・線維化が強く胆囊管が安全に処理できない症例に対して,胆囊頸部を残し胆囊底部を切除して胆囊結石を摘出する術式である.腹腔鏡下胆囊摘出術の完遂困難例は,従来より開腹移行で対応されているが,術後疼痛の遷延,術後活動度の低下,在院日数の延長などが問題点として指摘されている2,3).腹腔鏡下胆囊摘出術におけるsubtotal cholecystectomy(laparoscopic subtotal cholecystectomy:LSC)は,それらの欠点を補い,開腹移行に代わる胆管損傷を回避しえる方法として行われている.しかし現時点では,実施の可否,適応,開腹移行との優劣について,一定の見解は得られていない.

病院めぐり

高崎総合医療センター外科

著者: 小川哲史

ページ範囲:P.990 - P.990

 高崎市は,江戸時代は高崎藩の城下町として,また中山道の宿場町として栄え,現在も上越・北陸新幹線が通る交通の要所です.人口は37万人で市街地は関東平野の最北西端にあり,北西部には榛名山など広大な山間部が広がっています.「縁起だるま」が有名で,梅の全国有数の産地でもあります.その高崎市の中核病院である当院の歴史は古く,明治6年に東京鎮台高崎営所病院として創立され,昭和11年に高崎陸軍病院,昭和20年に国立高崎病院となり,平成21年に新病棟設立に伴い,現在の高崎総合医療センターに改称されました.
 診療科は29科,病床数は451床,常勤医師は98名です.救急救命センターを有し,また地域医療支援病院,がん診療連携拠点病院,地域災害拠点病院,臨床研修指定病院の施設認定を受けています.外科医師は18名で,外科の研修教育としては,日本外科学会をはじめサブスペシャルティ外科専門医が取得できるよう修練施設としての体制を整えています.

臨床報告

胃全摘後急速に進行し肝不全をきたしたNAFLDの1例

著者: 古屋欽司 ,   稲川智 ,   田村孝史 ,   久倉勝治 ,   榎本剛史 ,   大河内信弘

ページ範囲:P.992 - P.995

要旨
症例は64歳,女性.胃癌に対して胃全摘術を施行した.術後3か月目の外来受診時に,食事摂取量の減少と体重増加を認めた.肝障害,胸腹水の貯留と,肝臓への脂肪沈着と萎縮を認め,Child-Pugh Cの肝不全と診断された.高度の栄養障害に伴い急速に進行したnon-alcoholic fatty liver disease(NAFLD)と診断した.入院後は食事療法と経静脈栄養を施行し,徐々に肝機能は改善し,腹水も減少した.胃癌術後で肝不全にまで至るNAFLDの報告はきわめて少ないが,胃切除による消化吸収障害に,経口摂取不良が加わることで,NAFLDが急速に進行する可能性があり,術後栄養管理は慎重に行うべきである.

腹腔鏡下手術が有用であった再々発膀胱上窩ヘルニアの1例

著者: 黒田顕慈 ,   寺岡均 ,   南原幹男 ,   木下春人 ,   野田英児

ページ範囲:P.996 - P.999

要旨
症例は65歳,男性.1984年および2014年に右鼠径部ヘルニアに対し,前方到達法にて手術が施行された.しかし,2015年7月より右鼠径部の膨隆を自覚したため,当科受診となった.右鼠径ヘルニアの再々発と診断し,2016年6月に腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術を施行した.腹腔内を観察したところ,内側臍襞の内側に2 cm大のヘルニア門を認め,外膀胱上窩ヘルニアと診断した.本疾患は鼠径部ヘルニアの分類(日本ヘルニア学会)Ⅱ-1型に相当し,臨床的に内鼠径ヘルニアとの鑑別が困難である.腹腔鏡下アプローチはこれらの鑑別や再発形式の診断・治療に有用であると考えられた.

囊胞化した小腸GISTに対し超音波ガイド下ドレナージ後手術を行った1例

著者: 徳丸勝悟 ,   高濱龍彦 ,   濱田眞彰 ,   南舘直志 ,   斉藤隆明

ページ範囲:P.1000 - P.1005

要旨
症例は60歳,男性.腹痛と発熱を主訴に当院を紹介され受診した.腹部CT検査で空腸から壁外性に発育する内部に気泡と液体貯留を有する腫瘍を認め,さらに腹腔内に充実性腫瘍の多発を認めた.囊胞変性した空腸腫瘍とその腹膜播種を疑ったが確定診断が得られなかったため,液体貯留に対し超音波ガイド下ドレナージを施行し精査を進めることとした.ドレナージ後約1か月の時点で炎症反応はほぼ正常化したが,腫瘍の確定診断には至らず,最終的に手術を行うこととなった.今回われわれは,囊胞変性した巨大小腸gastrointestinal stromal tumor(GIST)に対し超音波ガイド下ドレナージを行い,縮小させてから手術を行った1例を経験した.治療方針の決定に苦慮したため文献的考察を加え報告する.

再発後に漸次悪性度を増した後腹膜原発孤立性線維性腫瘍の1例

著者: 菅野博隆 ,   佐藤佳宏 ,   橋本敏夫 ,   芳賀淳一郎 ,   北村正敏 ,   角田力彌

ページ範囲:P.1007 - P.1012

要旨
症例は81歳,男性.後腹膜原発脂肪肉腫で切除術を施行していたが,15年後の春に右下腹部腫瘤が出現,再発疑いで摘出を行ったところ,孤立性線維性腫瘍(solitary fibrous tumor:SFT)であった.同年秋にCTで局所再発を認め摘出術を行い,病理組織検査で前回より悪性度の高いCellular SFT(hemangiopericytoma in the past)と診断された.翌年春にCTで多発性肺転移と腹壁転移を指摘され,化学療法を行ったが効果なく永眠され,病理解剖された.組織検索の結果,脂肪肉腫後の手術部に出現,再発,転移をきたした腫瘍はSFTの一連の病態と推測された.

術前診断が可能であった大腿ヘルニア内虫垂嵌頓の1例

著者: 吉田孝司 ,   三井秀雄 ,   金澤伸郎 ,   黒岩厚二郎

ページ範囲:P.1013 - P.1017

要旨
症例は79歳,男性.主訴は右鼠径部膨隆.1週間前より右鼠径部膨隆を自覚し,近医を受診した.右大腿ヘルニア嵌頓疑いにて当科へ紹介された.来院時所見は右鼠径靱帯尾側に圧痛を伴う40×30 mmの弾性軟な腫瘤を触知した.腹部超音波検査,腹部単純CT検査にて右大腿管内に虫垂の嵌頓が疑われ,de Garengeot herniaと診断した.同日,緊急手術を施行した.ヘルニア囊を開放すると少量の漿液性腹水と発赤,腫脹した虫垂先端部を認めた.鼠径靱帯を切離し絞扼を解除した後に虫垂切除を行った.ヘルニア修復はMcVay法にて行った.術後の経過は良好で術後7日目に退院した.今回,術前診断により術式選択と麻酔法の選択決定が可能であったde Garengeot herniaを経験したので,文献的考察を加えて報告する.

肺結核症手術で左胸腔に偏位した心臓に全動脈グラフトでOPCABを施行した1治験例

著者: 大野英昭 ,   新浪博士

ページ範囲:P.1018 - P.1022

要旨
症例は78歳,男性.肺結核症に対する左上葉切除,胸郭形成術後で縦隔が左胸腔に偏位した重症3枝冠動脈病変に対し,全動脈グラフトのみのoff-pump coronary artery bypass grafting(OPCAB)を経験した.胸骨正中切開でアプローチし,skeletonization法で左内胸動脈と胃大網動脈を剝離した.LIMA sutureで心臓を反時計回りに脱転し,左内胸動脈-対角枝-前下行枝に,胃大網動脈-後下行枝-後側壁枝に連続吻合できた.抜管直後に心不全と呼吸不全でadaptive support ventilation(ASV)による補助を要した.術後CT血管造影(CPR法)で末梢吻合に要する左内胸動脈長を本症例と正常位の心臓20例で比較した.本症例の左内胸動脈長は正常位心臓と比べ特別長いものではなかった.

ひとやすみ・153

学会・論文発表の勧め

著者: 中川国利

ページ範囲:P.928 - P.928

 手術を託してくれた患者に対する外科医の責務としては,最善の治療を行うとともに,診療で知り得た情報を報告して医学の進歩に貢献することである.そして常に発表し続ける姿勢が,優れた外科医を育成する.しかしながら日々の診療が忙しいと,学会報告や論文作成をする時間がないとぼやきがちになる.逆に余裕がありすぎると,発表すべき症例がないと嘆きがちになる.
 私が長年勤めた病院は,当初は手術症例が少なく暇であった.そこで自ら超音波検査や内視鏡検査を積極的に行い,手術症例を集めた.また,当時は消化器内科医が手を出さなかった,吻合部狭窄に対する内視鏡的拡張術や内視鏡的胃瘻造設術などの内視鏡的治療を行った.そして消化器内視鏡学会などで発表することにより,他施設の消化器内科医と懇意になり,紹介患者を増やした.

昨日の患者

献血に協力する理由

著者: 中川国利

ページ範囲:P.941 - P.941

 少子高齢社会を迎え,献血者の減少が顕著である.そこで献血者を増やすべく,官公庁,企業,学校,諸団体などに献血を働きかけているが反応は乏しい.しかし,さる団体から献血協力への有り難い申し出を受け,早速訪問した.そして団体の長から,理由を聴くことができた.
 「私の弟の名前は衆作です.母親が弟の妊娠中に倦怠感を訴え,病院を受診すると再生不良性貧血と診断されました.そして,産科医からは出産時の大出血を危惧して,妊娠中絶を勧められたそうです.しかし,母親は身ごもった子供の命を絶つことにはどうしても納得できずに,危険を顧みずに出産することを決意しました」と,語った.

1200字通信・107

新教授就任祝賀会

著者: 板野聡

ページ範囲:P.947 - P.947

 今年の2月のことですが,ある大学の外科学講座の新教授就任祝賀会へ出席してきました.いわゆる「同門」ではありませんが,大学が当院に近いことから,患者さんのやり取りで大変お世話になっている先生であり,私にもお招きがあったということでした.
 実は,同門以外のそうした大きな集まり事に出席することは,あまり機会がないことですので,どんな様子なのかという期待と同時に緊張も大きいことではありました.しかし,実際に行ってみると,前教授や新教授は勿論のこと,日頃から患者さんの紹介などでお名前を存じ上げている他科の先生方とも直接顔を会わせることができ,大変有難いことでした.さらには,報告書のなかでお名前しか存じ上げない若い先生方とも直接お話しすることができ,いつの間にか緊張も解れ,出席してよかったと感謝することになりました.

書評

—日本肝胆膵外科学会高度技能専門医制度委員会(編)—肝胆膵高難度外科手術(第2版)

著者: 平田公一

ページ範囲:P.974 - P.974

 評者は,外科専門医取得者の約5%弱の外科医が肝胆膵外科高度技能専門医取得者という現状を,なんとか10%にしていただきたいと願う一人である.他に類を見ない徹底した認定制度—国民に説明責任を果たせる正確で厳しい制度として確立し,その制度の運用においても確かな検証業務が実施されていることが,最も厳しい制度との評判を呼んでいるゆえんであろう.したがって,周りの誰もが「あの先生は,確かに!」と頷く方が取得しているはずである.
 評者もこの制度に若干なりともかかわらせていただいてきた.その経験からこれからの新規申請者,更新予定者にあえて述べたい.これまで,誰もが確かな肝胆膵外科の専門と認める医師であれば,彼らの手術記事を拝見すると,経験者である者としては「さすがである」あるいは「お主,やるな!」と感じる記載が随所にうかがわれるものであった.達成過程上の個別的特性,共通の課題点・困難点への対応,想定外操作対応の記載などにおいて先を見据え焦点を押さえた記載内容となっている.記載文のみならず,適切な図の多用と図内解説を加える姿勢については,それだけで“専門性の高さ”と“人柄の確かさ”をうかがい知ることができる.

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原稿募集 「臨床外科」交見室

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バックナンバーのご案内

ページ範囲:P. - P.

あとがき

著者: 瀬戸泰之

ページ範囲:P.1028 - P.1028

 本号は漢方薬の特集である.おそらく読者の中で,漢方を処方した経験がない医師は皆無と思う.いまさらなぜ特集かと思われる読者も多いかもしれないが,各稿を読んでいただければ,その理由は即座にご理解いただけるものと思う.漢方薬は経験に基づくものと考えられがちであるが,最近の研究はその薬効機序を明らかにしてくれている.また,最近の周術期管理,化学療法施行時,緩和ケアなどでいかに重要な薬剤であるかも明確に記述していただいている.各論からもわかるように,外科の臨床現場で使用される薬剤はそれほど数多くない.ぜひ,本号を読んでいただいた後には,記憶の片隅においていただき,該当する症例を診療する際に,ガイドブックとして本号を活用していただければ望外の喜びである.
 漢方に関する数字をいくつか紹介したい.河野透先生も記述されているが,平成27年度薬事工業生産動態統計年報によれば,漢方製剤の年間生産額は約1500億円であり,対前年度比で5.7%の伸びを示している.全体に対する構成割合は2.3%であるが,活用頻度が増していることはその額からも類推される.日本漢方生薬製剤協会が行っている漢方薬処方実態調査2011によれば,漢方製剤を使用している医師は89%に達している.読者にはいないと思うが,もし漢方処方経験のない外科医がいればぜひ本号から,その活用方法・意義を学んでほしい.また,2008年の調査では漢方薬を処方する理由の上位として,「西洋薬で効果がなかった症例で漢方薬が有効」「患者さんからの要望」などが挙げられている.また,漢方薬単独での処方は少なく,西洋薬との併用が約8割となっていることも明らかになっている.それにしても,西洋薬との併用処方が認められているのは唯一わが国だけであるとは少々驚きであったが,ぜひその特権を活用していただきたいものである.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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