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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科73巻1号

2018年01月発行

雑誌目次

特集 閉塞性大腸癌—ベストプラクティスを探す

ページ範囲:P.5 - P.5

 大腸癌の増加とともに閉塞性大腸癌の診療の機会も増えています.また近年,bridge to surgeryとしての大腸ステント留置術や腹腔鏡手術の導入など,閉塞性大腸癌に対する治療の選択肢が広がっています.一方,それらの適応基準や手術のタイミングなどについては,依然コンセンサスが得られていないのが現状です.口側病変の検索や閉塞性大腸炎のマネジメントなど,通常の大腸癌とは異なる特殊な配慮も求められています.
 本特集では,もはやcommon diseaseにまでなった大腸癌診療において必携とされる,一般外科医が知っておくべき閉塞性大腸癌の最新トピックスをまとめました.

閉塞性大腸癌のup to date

著者: 斉田芳久

ページ範囲:P.6 - P.11

【ポイント】
◆大腸閉塞・狭窄の評価方法として大腸閉塞スコア(ColoRectal Obstruction Scoring System:CROSS)を使用し,適応と効果判定を行う.
◆閉塞性大腸癌の治療方針では,根治的な手術が可能な場合と,緩和的な場合の二病態を区別して考える.
◆閉塞している腫瘍が右側結腸(横行結腸から右)なのか,左側結腸または直腸なのかにより治療方針が異なる.

閉塞性大腸癌における口側腸管検索—術前画像診断と術中大腸内視鏡検査

著者: 佐々木和人 ,   田中敏明 ,   野澤宏彰 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.42 - P.47

【ポイント】
◆同時性大腸多発癌の頻度は2〜7%といわれ,閉塞性大腸癌において口側腸管病変の検索は重要な問題である.
◆閉塞性大腸癌に対する術中大腸内視鏡検査は安全で有用な手技である.
◆術中大腸内視鏡検査で同定された新規病変に対しては,同時切除を施行することが可能である.

閉塞性大腸炎のマネジメント

著者: 亀山仁史 ,   島田能史 ,   中野雅人 ,   田島陽介 ,   堀田真之介 ,   山田沙季 ,   中野麻恵 ,   松澤岳晃 ,   若井俊文

ページ範囲:P.48 - P.53

【ポイント】
◆閉塞性大腸炎をきたす疾患として大腸癌が最も多いが,憩室炎,虚血性腸疾患,便秘なども原因となりうる.
◆閉塞部から離れた口側腸管にびらん・潰瘍を認めることが多く,切除範囲の設定には注意を要する.
◆ステント治療により,口側腸管の評価や減圧が可能となり,閉塞性大腸炎のマネジメントに変化がみられる.

閉塞性大腸癌の予後と補助化学療法

著者: 牛込充則 ,   船橋公彦

ページ範囲:P.54 - P.59

【ポイント】
◆閉塞性大腸癌の予後は,一般に非閉塞性大腸癌に対して不良とされるが,根治的手術が施行されれば同等であり,根治性を高めるためには術前減圧の管理が重要となる.
◆高い根治性を目的としたbridge to surgery(BTS)の術前減圧の効果は高く,また患者のQOLも向上するため臨床的意義は大きい.大腸ステント留置の短期成績から安全性と有用性は示されているが,大腸ステントの長期的な予後に及ぼす影響についてはまだ明確とはなっていない.
◆閉塞性大腸癌を対象とした補助化学療法の有用性の有無についてのエビデンスはないため,現状では補助療法の適応は最終病期に準じて選択される.

閉塞性大腸癌に対するステント留置

ステント留置術のコツとピットフォール

著者: 吉田俊太郎 ,   小池和彦

ページ範囲:P.12 - P.19

【ポイント】
◆本邦における大腸癌の罹患率は上昇し,それに伴い閉塞性大腸癌に日常診療で接することは多くなってきており,その診療の重要性は増している.
◆大腸ステント留置におけるコツおよびピットフォールを熟知したうえで処置を行うことで,良好な成績が報告されている.
◆欧米の大腸ステントに関するガイドラインでは,手術前の腸管減圧(bridge to surgery:BTS)目的の大腸ステントに関しては標準治療とみなさないとあるが,本邦からの前向き試験の短期成績は良好で,今後その是非を比較試験により検証することが必要である.

術前減圧はどちらを選ぶ?—ステントversusイレウス管

著者: 松田明久 ,   宮下正夫 ,   松本智司 ,   櫻澤信行 ,   川野陽一 ,   関口久美子 ,   山田岳史 ,   内田英二

ページ範囲:P.20 - P.26

【ポイント】
◆大腸ステントは,経肛門的イレウス管に比べ留置成功率,減圧成功率ともに同等以上である.
◆大腸ステントは,経肛門的イレウス管に比べ良好な減圧効果から口側腸管の拡張を改善させ,術後腸管麻痺を遷延させない.
◆両減圧法とも穿孔などの合併症が発生し,長期予後も不明であるため十分な準備と説明が不可欠である.

根治切除不能閉塞性大腸癌のマネジメント—ステント留置versus外科治療

著者: 廣純一郎 ,   問山裕二 ,   藤川裕之 ,   楠正人

ページ範囲:P.28 - P.31

【ポイント】
◆ステント留置は少ない侵襲で腸管減圧が可能である.
◆外科的治療は腸管減圧の技術的成功率が高く,晩期合併症率が低い.
◆ステント留置は術後早期にメリットが多いが,晩期合併症率が高い.

閉塞性大腸癌に対する手術

一期的手術versus二期的手術

著者: 向井正哉 ,   横山大樹 ,   田島隆行 ,   小池卓也 ,   長谷川小百合 ,   吉井久倫 ,   宇田周司 ,   和泉秀樹 ,   山本壮一郎 ,   野村栄治 ,   幕内博康

ページ範囲:P.32 - P.38

【ポイント】
◆右側閉塞性大腸癌では一期的手術を基本とし,完全閉塞症例ではイレウス管を挿入して減圧後,切除・吻合を行う.
◆左側大腸癌の完全閉塞症例では,切除・吻合+ループストーマ造設が定型的であるが,吻合を予定しない症例ではHartmann手術が有用である.
◆腫瘍の口側にループストーマだけを造設し,イレウス解除後に根治切除術およびストーマ閉鎖を行う二期的手術がある.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画(Flash形式)を見ることができます(公開期間:2021年1月末まで)。

開腹手術versus腹腔鏡手術

著者: 赤木智徳 ,   河野洋平 ,   鈴木浩輔 ,   柴田智隆 ,   上田貴威 ,   當寺ヶ盛学 ,   白下英史 ,   衛藤剛 ,   白石憲男 ,   猪股雅史

ページ範囲:P.39 - P.41

【ポイント】
◆現状では腸管減圧前もしくは減圧不良の閉塞性大腸癌に対しては開腹手術が原則であり,減圧できた場合は腹腔鏡手術が開腹手術に加えオプションとなりうる可能性がある.
◆減圧できた閉塞性大腸癌例に対する腹腔鏡手術の短期成績は,開腹手術と比べ良好である.
◆現在進行中のRCT(COBRA試験,JCOG1107試験)の結果により,今後一定のコンセンサスが得られることが期待される.

FOCUS

小児肝移植の現状とこれから

著者: 笠原群生

ページ範囲:P.60 - P.66

はじめに
 臨床肝移植は米国のStarzlら1)により1963年に開始された歴史の浅い医療である.当初,その成績は満足できるものではなかったが,患者選択・手術手技・臓器保存方法・免疫抑制療法・周術期管理の改善などにより成績は飛躍的に向上した.米国では年間約7,500例の脳死肝移植が行われており,すでに確立された医療であるといえる.欧米の肝移植は脳死ドナー(臓器提供者)からの臓器摘出による脳死肝移植が中心である.本邦では1997年に臓器移植法が施行され,脳死肝移植が法制上実施可能となった.2010年の「改正臓器移植法」により,15歳以下の臓器提供・親族同意で臓器提供が可能となり,脳死臓器提供は若干増加傾向にあるが,臓器移植待機患者の需要を十分に満たすには至っていない.
 脳死肝移植が進まない背景のもと,わが国の肝移植は健常人の部分肝臓を用いた生体肝移植が中心に行われてきた.1989年に島根大学のNagasueら2)が胆道閉鎖症による末期肝硬変の男児に生体肝移植を施行したのが本邦初例である.生体肝移植は,肝臓が解剖学的に分割可能な臓器であること,再生可能な臓器であること,という二つの特徴をいかした医療である.
 生体肝移植は,脳死肝移植と違い大きく2つの利点がある.第一に生体ドナーからの臓器提供のため,冷保存時間の長い脳死臓器よりもviabilityの良好な臓器を移植できることである.術前に十分なドナー評価が可能で,臓器摘出から移植までの冷保存時間が短く,多くは再建すべき血管径も長く良好な状態の肝臓をレシピエント(臓器享受者)に提供することが可能である.第二はレシピエントの状態に応じて,至適時期に待機手術が可能なことである.生体移植の欠点は,健常な生体ドナーに医学的メリットのない臓器提供のための肝切除手術が必要なことである.生体肝移植のドナー死亡例も報告されており,生体ドナーの完全な安全性は担保されていないため,脳死肝移植の普及・啓発が望まれているのがわが国の現状である.
 本邦では1989年〜2015年末までに27年間で8,387例の肝移植が実施されている(図1).18歳未満の小児生体肝移植は2,897例で34.5%にあたる.国立成育医療研究センターでは2005年に肝移植プログラムが開始され,2017年9月現在まで485例の肝移植を実施してきた.年間小児肝移植症例数は60〜70例で,本邦の小児肝移植の約70%を占めている.本稿では小児肝移植の適応・現状・難しさ・将来について概説する.

膵癌術前治療の病理組織学的効果判定法の現状

著者: 古川徹

ページ範囲:P.67 - P.70

はじめに
 化学療法や放射線療法の治療効果は画像や腫瘍マーカーの推移で評価されるのが一般的であり,基準としてRECIST1)が世界共通に用いられている.翻って,これらの効果を組織学的に判定する基準については,明確に統一された世界標準となるものは現在のところ存在せず,ローカルに種々の基準が用いられているのが実情である.本稿では,これまでの組織学的効果判定法の変遷と本邦における現在のコンセンサスについて述べる.

cadaver trainingを国内で普及させるために—クリニカルアナトミーラボの導入

著者: 鈴木崇根

ページ範囲:P.71 - P.81

はじめに
 医師,とりわけ外科医にとって,手術や検査手技の上達はプロフェッショナルとして重要である.技術が未熟な場合や解剖学的知識が不十分な状態で手術・検査を行うことは,医療安全面からみても可能な限り避けるべきであろう.にもかかわらず,これらの手技の習得方法は依然として実際に患者から学ぶon the job training(OJT)が主体である.近年,OJTに対して実際の業務から離れて教育するoff the job training(Off-JT)の考え方が欧米では導入されており,成果を上げている.Off-JTでは,実際に患者を治療する前に①模型,②動物,③遺体を使い,器械の使い方から手技に即した解剖まで学ぶことが可能である.施設間で手術症例の偏りは現実に存在するうえ,適応の少ない術式においてはベテランの外科医でも経験は少なくなる.しかし外科医を続けていく以上,経験が少ない術式でも完璧に手術を遂行することを要求されてしまう.OJTのみでは,このギャップを埋めて医療安全を担保することは難しく,その解決のためOff-JTが重要視されはじめている.この3つの方法のなかで,諸外国に比べてわが国では遺体(cadaver)を使った手技教育が普及していない.その原因は,医師が遺体を解剖できる施設がないことに尽きる.
 本稿では千葉大学でcadaver laboratory(cadaver lab)として「クリニカルアナトミーラボ(CAL)」を立ち上げた経験から現状と課題を述べ,普及への契機となればと考えている.

Reduced Port Surgery—制限克服のための達人からの提言・1【新連載】

総論—Reduced Port Surgeryの歴史と現況

著者: 森俊幸 ,   橋本佳和 ,   正木忠彦 ,   杉山政則

ページ範囲:P.82 - P.87

はじめに
 腹腔鏡下手術が低侵襲である最大の要因は,正常体壁の損傷低減である.1980年代末に報告された腹腔鏡下胆摘術は,カメラ用に12 mmポート,手術器械のためのワーキングポートは11 mmを1本,5 mmを2本用いる4ポート法であり,まずこの術式が標準となった.開腹手術に比較するとこの術式の低侵襲性は顕著であり,術後在院期間や社会復帰に要する時間は短縮され,外科治療に革新をもたらした.多くのパイオニア達は,さらなる術式の低侵襲化を企図した術式を考案・発表した.これらの試みは,ポートの減数,ポートの細径化,正常体壁をまったく損傷しない経消化管や経腟による手術(natural orifice translumenal endoscopic surgery:NOTES)に分類可能であろう.それぞれの試みには長所,短所があり,いずれも単独では,従来の4孔式手術を凌駕する術式とはなりえなかった.しかしながら2000年代になると,これらの方法の長所,短所は相補的であり,複数の方法の混用により手術難度が劇的に下がることが見出され,複数のモダリティを混用する術式がreduced port surgery(RPS)と総称されるようになった.
 本稿では,源流となった単孔式手術,needlescopic surgery,NOTESを概観し,その融合形であるRPSのコンセプトや現況について述べていきたい.

なかなか書けない外科医のための集中講義—英文論文を書いてみよう・1【新連載】

なぜ研究をするのか?

著者: 杉山政則

ページ範囲:P.90 - P.96

連載にあたって
ほとんどの臨床医は英文論文を執筆することの重要性を認識しているが,「いつか書こう」と思いながら,なかなか執筆できないままでいることが多いのではないか? 私自身も「忙しいから」「英作文が得意でないから」と言い訳をして40歳までは英文論文を全く書かなかった.その後,あるきっかけで,研究や英文論文執筆の楽しさを初めて知り,80篇以上の英文論文を筆頭著者として発表することができた.
 その経験をもとに10年前から毎年,杏林大学医学部大学院の共通講義として「英文論文作成の基本技術」の講義を行っている.これが結構評判が良くて,大学院生以外の受講者やリピーターも多い.その理由の一つは,若いときには英文論文を書けなかったが,40歳から始めても何とかなったという「しくじり先生」の経験が,多くの若手医師を勇気づけているからであろうと考えている.多くの外科医・臨床医は手術・臨床をやりたくて進路を決めたと思うが,このような研究の世界があることや研究の面白さを教えてあげることが,私たち大学教員の努めであると考えている.もし研究を一生懸命やっても,面白くない,自分に向いていないと分かったときは,臨床に戻ればよいと思う.

病院めぐり

景岳会南大阪病院外科

著者: 竹村雅至

ページ範囲:P.97 - P.97

 景岳会南大阪病院は,大阪市のなかで最も南端に位置する住之江区の加賀屋にある総合病院で,昭和26年に開設されました.近隣には住吉大社や大阪護国神社が,少し足をのばすと長居公園があります.住之江区は大阪市の24区のなかで人口は9番目に多い区ですが,近年は人口が若干減少しており高齢化が進んでいます.当院は施設の老朽化に伴い新築を行い,平成23年に本館(病棟)が,平成25年に外来棟が完成しました.現在は病床数400床を有する急性期総合病院で,内科(呼吸器・消化器・腎臓・内分泌代謝・糖尿病・神経・人工透析)・リウマチ科・循環器内科・消化器外科・乳腺外科・胸部外科・整形外科・泌尿器科・耳鼻咽喉科・眼科・皮膚科・放射線科・麻酔科・病理診断科・リハビリテーション科が常勤で診療を行い,このうち消化器外科は35床,乳腺外科は5床を使用しています.当院は大阪府がん診療連携拠点病院であり,緩和ケアチーム・緩和外来を有し,がん患者さんには外来受診の時点から積極的に外来緩和ケアも取り入れています.さらに,大阪市立大学と大阪医科大学の協力型研修病院として毎年5名の研修医を受け入れており,研修医の教育も積極的に行っています.
 消化器外科の常勤医は5名で,日本消化器外科学会認定の指導医を1名が,専門医を3名が有しており,日本消化器外科学会専門医制度指定修練施設にも認定されています.さらに,日本内視鏡外科学会による消化器・一般外科領域の技術認定医が2名在職し,様々な疾患に対する腹腔鏡手術も積極的に行っています.乳腺外科の常勤医は1名ですが,日本乳癌学会の認定する乳腺専門医であり,認定施設にもなっています.

臨床報告

特発性大網出血の3例

著者: 髙取寛之 ,   帆北修一 ,   中馬豊 ,   松本正隆 ,   下之薗将貴 ,   濱之上雅博

ページ範囲:P.99 - P.104

要旨
大網出血とは,大網の動静脈が破綻し,腹腔内に出血したり大網内や網囊内に血液が貯留したりする病態の総称と定義されている.そのなかで原因不明の大網出血を「特発性大網出血」と呼んでいる.この5年間に特発性大網出血を3例経験した.症例1は20歳男性,症例2は51歳男性,症例3は21歳男性であった.3例とも開腹手術歴はなく,突然の腹痛で発症し,病理学的にも出血の原因同定に至らなかった.特発性大網出血は稀な疾患であり,文献的考察を加え報告する.

腸管狭窄をきたした小腸悪性リンパ腫の1例

著者: 杉朋幸 ,   高久秀哉 ,   貝塚博行 ,   田野井智倫 ,   朴秀吉 ,   東和明

ページ範囲:P.105 - P.108

要旨
症例は80歳,女性.黒色便を主訴に当院を受診した.腹部骨盤CT検査で小腸の壁肥厚を,小腸造影検査で腸管の拡張不良を認め,精査中であった.初診から約2か月後,腹痛,嘔吐が生じ緊急入院となった.保存的治療で改善せず,腫瘍や炎症による小腸狭窄を疑い,入院後12日目に手術を施行した.Treitz靱帯から200 cmの小腸に狭窄を認め,腹腔鏡補助下小腸部分切除術を施行した.病理組織検査で,小腸原発の濾胞性悪性リンパ腫と診断した.腸管狭窄をきたした悪性リンパ腫の本邦報告例をまとめると,肉眼所見で潰瘍型を呈していた症例が多かった.原因が特定されない小腸狭窄の症例において,本症の可能性を念頭に置くことが肝要である.

拡大腹直筋皮弁と大腿筋膜を用いて腹壁再建した腹壁浸潤上行結腸癌の1例

著者: 長嶋康雄 ,   船橋公彦 ,   荻野晶弘 ,   根本哲生 ,   佐藤行彦

ページ範囲:P.109 - P.113

要旨
大腸癌の他臓器浸潤は10〜20%の頻度で起こるとされ,結腸癌においては腹壁への浸潤は小腸に次いで多い.他臓器浸潤の大腸癌では,浸潤臓器の合併切除が予後の向上に有用である.今回,広範囲に腹壁浸潤を認める上行結腸癌に対して腹壁形成を行うことで,1期的治癒切除が可能であった症例を経験した.症例は70歳代,男性.右下腹部の腫瘤および倦怠感と発熱を主訴に入院となり,精査にて腹壁浸潤を伴う上行結腸癌〔cT4b(腹壁),cN2,cM0,cStageⅢb〕と診断した.手術は,結腸右半切除術に加えて腹壁を合併切除し,12×11 cmの腹壁欠損に対して腹直筋と大腿筋膜を用いて腹壁再建を施行した.術後合併症はなく,第25病日に退院した.

腹腔鏡下に切除しえた巨大な成人重複腸管の1例—報告30例の集計

著者: 松林潤 ,   豊田英治 ,   伊藤孝 ,   余語覚匡 ,   北口和彦 ,   土井隆一郎

ページ範囲:P.115 - P.120

要旨
症例は30歳,女性.腹痛を主訴に来院し,CTにて腹腔内を占拠する造影効果を伴わない15 cmの巨大な囊胞性腫瘍を認めた.病変と周囲腸管との連続性は認めなかった.この囊胞性腫瘍に感染をきたしたことが腹痛の原因と考え,腹腔鏡下手術を施行した.病変は横行結腸間膜内に存在し,内容液を漏出させないようS.A.N.D.バルーンで穿刺吸引し,縮小させたのち小切開創から摘出した.病理組織学的検査で重複腸管と診断した.巨大な重複腸管であっても,内容液を穿刺吸引することで腹腔鏡下手術が安全に行えると思われた.重複腸管の成人発症例は稀であり,自験例を含む腹腔鏡下に切除した30例の報告に,文献的考察を加え検討する.

ひとやすみ・159

飲酒時における医療行為

著者: 中川国利

ページ範囲:P.11 - P.11

 忘年会や新年会などで,酒を飲む機会が多い季節を迎えた.飲酒運転に対する社会の目は厳しく,今や犯罪として処罰される.では診療上における飲酒は如何であろうか.
 運送業界や航空業界では,就労12時間前からの禁酒が規定されている.さらに就労時には,呼気におけるアルコール濃度測定を義務付けている会社も多い.したがって午前8時半から仕事に従事する場合には,前日の午後8時半からはソフトドリンクしか飲めないことになる.

昨日の患者

人生最期の大冒険

著者: 中川国利

ページ範囲:P.66 - P.66

 老いて認知症となりながらも,人は過去を懐かしみ,昔の誼を辿りたくなるものである.認知症に加え癌末期で食事も満足に取れないながら,50年ほど前の学生生活を懐かしみ,逝去1か月前に遠方の親友を訪ね回った患者さんを紹介する.
 70歳代前半のKさんは,10年ほど前に胃切除術を行った.そして60歳代後半から認知症が生じ,施設に入所していた.さらに飲み込むことが困難となり,食道癌と診断された.しかも周囲リンパ節転移,さらには多発性の骨転移や肝転移を認めた.認知症もあるため,対症療法を行った.

1200字通信・113

挫折とお餅とお饂飩と

著者: 板野聡

ページ範囲:P.89 - P.89

 正月早々からの三題噺です.正月と言えばお餅がつきものですが,口にくわえて良く伸びるお餅に,「良く搗いてあるお餅だなぁ」と感心しながら食べることになっています.
 ところで,最近の私の贅沢の一つに「昼風呂」があります.とは言っても,自宅で明るいうちから入るだけのことですが,窓を開けるとちょっとした露天風呂気分を味わえます.休日に入ることが多いのですが,正月休みにもやってみました.湯船で「極楽,極楽」と口にしているうちに,先ほど食べた良く伸びるお餅のことが頭に浮かんできたのでした.

8年目のportrait・3

回診の思い出

著者: 新里陽

ページ範囲:P.98 - P.98

 ここ数年,空前の仏像ブームで,奈良で快慶展・東京で運慶展が開かれたばかり.自分も久しぶりに奈良の大仏を見に行く機会があった.
 東大寺南大門の躍動感あふれる金剛力士像や,とにかく巨大な盧遮那仏の前に立つと,修学旅行で何となく見て回ったときとはまったく違って,悠久の時間を重ねた場の持つ威厳やそれに対して自然と湧き起こる畏敬の念から,少し緊張感を覚えてそれが心地よくもあった.

書評

—出雲雄大,佐藤雅昭(編)—仮想気管支鏡作成マニュアル—迅速な診断とVAL-MAPのために

著者: 永安武

ページ範囲:P.121 - P.121

 人体を構成する全ての臓器は立体である.その中でも肺は気管支,肺動脈,肺静脈が5つに分かれた肺葉内で立体的に絡み合う複雑立体臓器である.気管支鏡に携わる気管支鏡専門医や呼吸器外科医にとって,気管支や脈管の立体的構築を念頭に置きながら肺野病変の診断,治療を行うことに,これまではいわば直観的で職人芸的な要素が必要であった.
 近年,高解像度CTの普及により小型の末梢肺病変に対する気管支腔内超音波断層法(endobronchial ultrasound:EBUS)などの新技術や,末梢小型早期肺癌に対する肺部分切除や区域切除などのいわゆる縮小手術が標準治療として一般化しつつある.このような診断,治療の多様化と普及により,手技の普遍性の維持や教育という観点からも既存の技術に加えてこれを補助し精度を高めるような新技術導入が望まれてきた.

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原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P. - P.

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P. - P.

あとがき

著者: 田邉稔

ページ範囲:P.128 - P.128

 海外の低侵襲手術トレーニングセンターに腹腔鏡下肝切除の講師として招かれることがある.半分は座学で,残りは大動物を使用した手術実習というのが一般的なパターンである.大きなトレーニングセンターでは時に40か国以上の国々から集まることもある.参加者のほとんどが30歳代の若手外科医であるから,やる気満々なところは共通しているのだが,大動物の手術トレーニングとなると国民性の違いが顕著に出るところが面白い.基本的に欧米は突進型でアジアは緻密計画型と以前は思っていたが,同じ肌の色をしているアジアのなかでも極めて多様性がある.あくまで一般的傾向であるが,中国や韓国からの外科医は勇ましい.出血や失敗を恐れずどんどん手技に挑戦するが,講師のわれわれから学ぶ姿勢はまったくない.何かアドバイスしようとしても,だいたい訳のわからない返事が返ってきてうまくかみ合わない.出血多量であっという間に動物をダメにしてしまうことも珍しくない.その対極に位置するのが日本人である.常に隣にいる講師に何をやったら良いか問いかけるし,教えたことを一生懸命試そうとする.良くも悪くも従順な国民性であり,技術の吸収率は極めて高い.しかし,学会場においてはこれが裏目に出る.教室の若い先生達に,「もっと質問をして目立て!」と刺激するが,だいたい会場の一番後ろのほうでじっとしているし,自分の発表が終わると帰ってしまう若者が多い.次の世代で日本の外科を牽引する人物は誰か? 部下達には,配慮に富むが主張の強い刺激的な外科医に育って欲しいと願い,腐心する今日この頃である.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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