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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科73巻12号

2018年11月発行

雑誌目次

特集 炎症性腸疾患アップデート—いま外科医に求められる知識と技術

ページ範囲:P.1309 - P.1309

 炎症性腸疾患は罹患数が近年も増加傾向にあり,今後も臨床で遭遇することが多くなることが予想される疾患である.炎症性腸疾患の治療は,生物学的製剤の開発に基づく内科治療の進歩により大きく変遷してきており,現在,難治性炎症性腸疾患症例に対しての治療戦略は抗TNF-α抗体製剤が中心である.一方で,効果減弱に伴う二次無効の出現や,免疫調節薬併用の適否など,臨床上の課題がみられている.また,内科治療の進歩に伴い,外科手術を要する症例は減少傾向にあるものの,内科治療に抵抗する症例は依然として存在し,未だ外科治療の果たす役割は大きくなっている.三期分割手術,二期分割手術,または一期的手術など,その病態や患者さんの状態により適切な術式選択をしているのが現状である.
 内科治療から外科治療への適切な移行時期,外科治療としての吻合法・低侵襲なアプローチ法などについてはさまざまな工夫がみられており,本特集では,これまでの治療法の変遷に基づく現状について解説いただいた.

押さえておくべき知識

炎症性腸疾患の疫学

著者: 吉田康祐 ,   水野慎大 ,   金井隆典

ページ範囲:P.1310 - P.1314

【ポイント】
◆潰瘍性大腸炎およびクローン病を指す炎症性腸疾患は増加傾向にあり,2016年度の集計では潰瘍性大腸炎は167,872人,クローン病は42,789人が特定疾患の給付対象にある.
◆潰瘍性大腸炎は20〜60歳台にかけて幅広い年代でみられ,クローン病は20〜40歳台にピークがみられる.
◆治療の進歩により手術回避可能な症例があるものの,依然手術が必要な場合は多い.一方で腸管の発癌リスクは高く,長期経過例は注意を要する.

癌化のサーベイランス

著者: 松田圭二 ,   大野航平 ,   岡田有加 ,   八木貴博 ,   塚本充雄 ,   福島慶久 ,   堀内敦 ,   山田英樹 ,   小澤毅士 ,   島田竜 ,   端山軍 ,   土屋剛史 ,   野澤慶次郎 ,   青柳仁 ,   磯野朱里 ,   阿部浩一郎 ,   小田島慎也 ,   山本貴嗣 ,   橋口陽二郎

ページ範囲:P.1316 - P.1321

【ポイント】
◆潰瘍性大腸炎における大腸癌サーベイランスは普及し,各国の学会からガイドラインが発表されている.
◆ターゲット生検がランダム生検よりも費用対効果の面で優れ,色素内視鏡が推奨されている.
◆クローン病では癌の早期発見が難しく,専門家から新しいサーベイランス法が提案されている.

最新の潰瘍性大腸炎に対する内科治療

著者: 松岡克善

ページ範囲:P.1322 - P.1326

【ポイント】
◆潰瘍性大腸炎の内科治療は重症度,病変範囲,病期,治療歴などを総合的に考慮して決める.
◆潰瘍性大腸炎の内科治療はここ10年で急速に進歩した.
◆潰瘍性大腸炎に対する治療戦略はますます複雑になっていくが,個々の患者の病態をしっかり考えたうえで治療を選択することが重要である.

最新のクローン病に対する内科治療

著者: 中村志郎 ,   樋田信幸 ,   渡辺憲治 ,   宮嵜孝子 ,   髙川哲也 ,   横山陽子 ,   上子鶴孝二 ,   河合幹夫 ,   佐藤寿行 ,   藤本晃士 ,   小柴良二 ,   小島健太郎

ページ範囲:P.1327 - P.1333

【ポイント】
◆本邦ではクローン病患者の50%以上がTNF阻害薬の治療歴を有し,内科治療の中心となっている.
◆新たな生物学的製剤として抗IL-12/23抗体が承認され,診療現場であらたな問題となっているTNF阻害薬の二次無効例にも有効性が期待されている.
◆TNF阻害薬による長期予後改善のためには,Treat to Targetを前提に厳密な治療評価に基づいた積極的な治療強化(accelerated step-up)が求められる.

潰瘍性大腸炎の手術手技

潰瘍性大腸炎の手術適応

著者: 長谷川博俊 ,   岡林剛史 ,   鶴田雅士 ,   石田隆 ,   浅原史卓 ,   北川雄光

ページ範囲:P.1334 - P.1338

【ポイント】
◆手術適応では難治例の割合が高いが,近年癌化・dysplasiaの頻度が増加している.
◆回腸囊肛門(管)吻合が待機手術の標準術式ではあるが,それ以外の術式のメリット,デメリットも含めて術前に患者と話し合うことが重要である.
◆分割手術,アプローチ法(腹腔鏡手術か開腹か),粘膜抜去などの選択について解説した.

結腸亜全摘・回腸人工肛門造設・S状結腸粘液瘻またはHartmann手術

著者: 畑啓介 ,   松永圭悟 ,   品川貴秀 ,   田中敏明 ,   川合一茂 ,   野澤宏彰

ページ範囲:P.1339 - P.1343

【ポイント】
◆腹腔鏡手術では二期目の回腸囊手術に備えて内側アプローチを温存して,外側アプローチで腸管の授動を行う.
◆脾彎曲付近の腸管が脆いことが多いので,腹腔鏡手術では十分に授動したうえで愛護的な操作を心がける.
◆回腸末端(回腸囊)への回結腸動脈からの血流を温存し,上行結腸口側では直動脈レベルで血管を切離する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2021年11月末まで)。

開腹大腸全摘・回腸囊肛門(管)吻合術

著者: 池内浩基 ,   内野基

ページ範囲:P.1344 - P.1348

【ポイント】
◆開腹手術も小開腹手術が増加している.
◆小開腹で行う場合は脾彎曲部の授動に工夫が必要である.
◆肛門吻合を行う場合,J-pouchが肛門まで到達するかどうかの見極めが最も重要である.
◆肛門管の粘膜切除は歯状線を含めて,その肛門側から開始し,内肛門括約筋は愛護的に扱う.
◆回腸囊肛門吻合は1層で,できるだけ,均等になるように24針縫合する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2021年11月末まで)。

腹腔鏡下大腸全摘・回腸囊肛門(管)吻合術

著者: 廣純一郎 ,   荒木俊光 ,   楠正人

ページ範囲:P.1350 - P.1355

【ポイント】
◆腹腔鏡下大腸全摘術・回腸囊肛門(管)吻合は術後疼痛軽減,入院期間短縮,整容性に優れた術式の1つである.
◆血管処理の工夫,手順の定型化により手術時間の短縮が可能である.
◆小腸間膜の十分な剝離と肛門側からのpush back methodがLap IPAAには重要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2021年11月末まで)。

用手補助腹腔鏡下大腸全摘・回腸囊肛門(管)吻合術

著者: 板橋道朗 ,   中尾紗由美 ,   山本雅一

ページ範囲:P.1356 - P.1360

【ポイント】
◆用手補助鏡視下手術(hand assisted laparoscopic surgery:HALS)は,UC手術手技の困難性を克服する1つの方法である.
◆HALSは最も慎重であるべき直腸の剝離とstaplingを前半に行い,反時計回りに結腸を処理して大腸を全切除する.
◆安全な吻合のためには回腸囊の恥骨下縁2横指までの十分な到達性を確認した後に吻合を行うことが肝要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2021年11月末まで)。

Reduced Port Surgery(単孔式port+1 port)による大腸全摘・回腸囊肛門管吻合術

著者: 岡本欣也

ページ範囲:P.1362 - P.1367

【ポイント】
◆潰瘍性大腸炎に対する大腸全摘・回腸囊肛門管吻合は単孔式ポートに1ポートを加えたReduced Port Surgeryでmulti-port Surgeryと同様な安全で確実な手術が可能である.
◆直腸の剝離を腸管に沿った剝離層で行うことで下腹神経の完全温存が容易となる.
◆直腸の切離を肛門側より脱転して歯状線上縁で確実に切離することで肛門管内吻合が可能となり,通常の肛門管吻合より残存する直腸粘膜を減少させることができる.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2021年11月末まで)。

経肛門内視鏡併用腹腔鏡下大腸全摘・回腸囊肛門吻合術

著者: 松山貴俊 ,   絹笠祐介 ,   中島康晃 ,   小嶋一幸

ページ範囲:P.1369 - P.1371

【ポイント】
◆粘膜抜去は肛門管を越えるまで行い,内括約筋を確実に温存する.
◆後壁の剝離は肛門管を越えたら背側に向かい,内骨盤筋膜の内側の層に入ることを意識する.
◆腹腔鏡チームと同時に操作を行うことで,手術時間を短縮することができる.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2021年11月末まで)。

クローン病の手術手技

クローン病の手術適応

著者: 小金井一隆 ,   辰巳健志 ,   二木了 ,   黒木博介 ,   杉田昭

ページ範囲:P.1372 - P.1376

【ポイント】
◆内科治療で改善できない合併症を伴う病変が外科治療の対象である.
◆病態によっては内科治療より外科治療が優先される場合がある.
◆長期経過例が増加し,癌合併例が増加しており,注意が必要である.

腸管の瘻孔・膿瘍を伴うクローン病に対する手術

著者: 二見喜太郎 ,   東大二郎 ,   平野由紀子 ,   上床崇吾 ,   林貴臣 ,   増井友恵

ページ範囲:P.1378 - P.1383

【ポイント】
◆クローン病に対する手術方針はQOLの回復を目的とした難治性合併症の除去と短腸症候群を予防するための腸管温存である.
◆瘻孔,膿瘍を合併した穿通型症例では周辺臓器への炎症の波及は広汎かつ高度で,丹念な癒着剝離による責任病変の確認が肝要となる.
◆穿通型病変は腸切除の適応で,被害腸管については楔状切除など可及的に温存を図る.

腸管狭窄を伴うクローン病に対する手術—狭窄形成術を中心に

著者: 舟山裕士 ,   高橋賢一 ,   渡辺和宏 ,   鈴木秀幸 ,   海野倫明

ページ範囲:P.1384 - P.1388

【ポイント】
◆クローン病の手術では短腸症候群を避けるために腸管温存を心がけ,minimal resectionおよび狭窄形成術を選択する.
◆急性炎症(蜂窩織炎),穿孔,膿瘍,瘻孔は,狭窄形成術の適応外である.
◆狭窄形成術は合併症が少なく安全で,長期予後は腸切除に匹敵する.

クローン病の肛門病変に対する手術

著者: 古川聡美 ,   山名哲郎

ページ範囲:P.1389 - P.1393

【ポイント】
◆手術対象となる主な疾患は痔瘻・肛門周囲膿瘍と直腸肛門狭窄である.なかでも痔瘻に対する手術は習熟した手技が必要となる.
◆基本的には生活に支障をきたすような状態のみを手術の対象とする.
◆複雑痔瘻や肛門狭窄などは悪化すると人工肛門造設が必要となる場合があるため,悪化しないように適切な内科治療・肛門手術を適宜選択すべきである.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2021年11月末まで)。

周術期管理

炎症性腸疾患の周術期管理

著者: 亀山仁史 ,   田島陽介 ,   島田能史 ,   山田沙季 ,   阿部馨 ,   田中花菜 ,   小柳英人 ,   中野麻恵 ,   中野雅人 ,   若井俊文

ページ範囲:P.1394 - P.1398

【ポイント】
◆内科,外科が緊密な連携をとり,ステロイド・免疫調節薬・生物学的製剤などの薬剤管理を行う.
◆炎症性腸疾患に特徴的な,日和見感染,血栓症などの合併症も考慮に入れた適切な周術期管理が重要である.
◆分割手術,ストーマ管理,合併症について,適切な対応と十分なインフォームド・コンセントが必要である.

病院めぐり

公立丹南病院外科・消化器外科

著者: 石田誠

ページ範囲:P.1399 - P.1399

 福井県鯖江市にある公立丹南病院は名称こそ変わりましたが,旧陸軍病院から前身の国立鯖江病院時代を含めると100年余りの歴史を持つ病院です.2000(平成12)年に現在の名称となり,病床180床の中規模の病院ながら鯖江市,越前市,越前町,南越前町,池田町を含めた丹南地区唯一の中核総合病院として重要な役割を担っています.鯖江市といえば日本有数の眼鏡の産地で有名ですが,決して都会とはいえないこの町でも二次救急指定の当院へは年間1,500台の救急搬送があり,予定手術に加えて緊急手術も多く忙しい毎日を送らせていただき外科医冥利に尽きる思いです.
 当院外科の常勤医は5名で,一般外科・消化器外科を中心とした診療を行っていますが,地域のニーズとして乳腺疾患も取り扱うことが多く,マンモグラフィーの読影にも力を入れています.福井大学出身者3名と自治医科大学出身者2名からなるチームですが,3人の消化器外科専門医と1人の肝胆膵高度技能指導医を擁し,現在,日本外科学会指定施設,日本消化器外科学会認定施設,日本消化器病学会認定施設の指定を受け,より安全で高度な医療を提供すべく互いに切磋琢磨している毎日です.

FOCUS

内視鏡外科における超高精細8K画像のインパクト

著者: 森俊幸 ,   青木久恵 ,   橋本佳和 ,   阿部展次 ,   千葉敏雄 ,   谷岡健吉

ページ範囲:P.1400 - P.1405

はじめに
 内視鏡外科手術はテクノロジー依存性が高い.手術はほとんど視覚情報のみにより遂行されるため,視覚情報の質は手術の精度に大きく影響する.また,腹腔鏡外科医は各種の機器やエネルギーデバイスに,開創手術にもまして依存している.
 現行の腹腔鏡ビデオシステムは,多くの施設でハイビジョン(1080×720 Pixel HD720,1980×1080 Pixel HD1080,2K)が用いられている.腹腔鏡手術導入当初のVGA規格(640×480 Pixel)に比べ,微細な解剖構造が視認できるようになり,手術の質が著しく向上した.現在では3Dや4Kの内視鏡も市販されるようになっている.本稿では,ビデオ規格の概説とともに,われわれがビデオ情報の増大により受けてきたメリットを概観したい.またここ数年で,さらに上位の規格である8Kの内視鏡が開発され,臨床応用が始まっている.本稿でも8Kテクノロジーを紹介するとともに,近未来の内視鏡手術についても考えてみたい.

Reduced Port Surgery—制限克服のための達人からの提言・11

RPSによるS状結腸切除術—Single Port Surgery+1ポート法

著者: 福永正氣 ,   永仮邦彦 ,   吉川征一郎 ,   大内昌和 ,   東大輔 ,   小浜信太郎 ,   行田悠 ,   石﨑陽一

ページ範囲:P.1406 - P.1409

はじめに
 大腸癌に対して5ポートで行う多孔式の腹腔鏡手術(LAP)が標準手術の1つとなった.さらに低侵襲化と整容性の向上を目指す術式としてreduced port surgery(RPS)が行われているが,その究極が単孔式腹腔鏡手術(single port surgery:SPS)である1〜8).しかしSPSは手術手技的に難度が高い.これに対し,右下腹部に1ポートを追加して術者の右手の操作を行うSPS+1ポート法はSPSの難点である鉗子同士の干渉が減少し,操作性が格段と改善する.また助手の鉗子を臍部のマルチチャンネルポート(MCP)より追加でき,腸管切離や吻合操作も容易となる.本稿ではS状結腸癌に対するSPSの難度を軽減するための工夫としてSPS+1ポート法を概説する.

急性腹症・腹部外傷に強くなる・8

急性膵炎,Open abdominal management

著者: 神田修平

ページ範囲:P.1410 - P.1417

 急性膵炎はアルコールや胆石などが原因で生じる,救急室でよく出会う急性腹症の一つです.しかし,周辺臓器に広く炎症が波及し壊死を伴うこともあり,重症例の死亡率はいまだに10%と高く油断できません.内科的管理を徹底して腹腔内圧上昇や臓器障害を予防することが重要ですが,開腹減圧術やネクロセクトミーなどの手術適応を外科医が判断する必要があります.
 また,急性腹症や外傷に関わる外科医は,開腹減圧術やダメージコントロール手術後に行うopen abdominal management(OAM)の方法や,合併症への対応などに慣れ親しんでおくことも大切です.

臨床報告

内視鏡的整復後に腹腔鏡手術を施行した成人の特発性腸重積の1例

著者: 小野翼 ,   宮本慶一 ,   黒川耀貴 ,   高津有紀子 ,   盛口佳宏 ,   伊在井淳子

ページ範囲:P.1418 - P.1422

要旨
症例は36歳,男性.腹痛を主訴に当院へ救急搬送された.腹部CTで盲腸から上行結腸にかけてtarget signを認め,腸重積と診断した.整復と原因検索を目的に下部消化管内視鏡を施行した.盲腸の粘膜下隆起を先進部とした腸重積であった.腸重積は整復されたが,粘膜下腫瘍の存在と早期再発の可能性を考慮し,腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.病理検査で粘膜下隆起は炎症性の壁肥厚であり,器質的疾患は指摘できなかったため,特発性腸重積と診断した.成人の腸重積は悪性腫瘍など器質的疾患を伴うことが多く,特発性腸重積は稀である.術前に特発性腸重積と診断することは困難な場合があり,手術治療が避けられないことが多いため,特発性である可能性が否定できない成人の腸重積については,腹腔鏡手術など低侵襲で行える治療を念頭に置く必要がある.

肝膿瘍からの膿胸の1例—誘因の1つとしての経皮経肝的治療について

著者: 上村眞一郎 ,   黒木秀幸 ,   松浦光貢 ,   阿部道雄 ,   花田法久

ページ範囲:P.1423 - P.1427

要旨
患者は60歳台,男性.肝細胞癌に対して経皮的ラジオ波焼灼療法,胆石性急性胆囊炎に対して経皮経肝胆囊ドレナージの既往がある.咳嗽,呼吸苦,発熱を主訴に受診した.CTで右膿胸,肝膿瘍,胆石性急性胆囊炎を認め,膿胸,肝膿瘍に対してドレナージを行い改善した.膿胸の原因として胆囊炎からの肝膿瘍が横隔膜を穿破したものと考えられたが,複数回の経皮経肝的治療歴があることから,もしそれが横隔膜経由であった場合,横隔膜の脆弱性を惹起し肝膿瘍から膿胸が続発した可能性も示唆された.腹腔内臓器に対する経皮的治療は可能な限り経横隔膜穿刺を避ける必要があり,経横隔膜穿刺となった際は,その後,胸水貯留がないかを注意深く観察する必要がある.

1200字通信・124

ボーダーレス時代の現実

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1315 - P.1315

 日本でも台風がよくやってきますが,昨年の9月10日,アメリカのフロリダ州を大型ハリケーン「イルマ」が直撃したことをご記憶の方もあると思います.最大瞬間風速は47 mに達し,250万世帯が停電,多くの死者を出したと報道されました.当時は,ハリケーンは国の広さと相関して規模も大きくなるのかなどと,不謹慎な感想を持ったことでした.
 ところが,話はそれだけで終わらないことになりました.あのハリケーンの話から1か月が過ぎた手術日のことです.ソケイヘルニアの手術で,M社のメッシュ・プラグを用いて修復を行っていたところ,資材担当の看護師さんから,「あのハリケーンの被害で,フロリダの工場が壊滅的な被害を受け,しばらくの間,このメッシュ・プラグの製造が止まるので,新規の入荷ができないと問屋さんから連絡がありました」との報告がありました.

ひとやすみ・170

自分に合った癒しを持つ

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1338 - P.1338

 現代はストレス社会であり,とくに人間を相手とする臨床外科においては意に沿わないことも多々あり,ストレスが多い職場である.しかし多くの外科医はそれぞれ独自のストレス解消法を持ち,心の平穏を保っている.
 ストレス解消法としては,旅行,飲食,読書,ペット,スポーツ,音楽など,さまざま挙げられる.確かに旅では新たな環境に自分を置き,未知との遭遇を楽しむことができる.また食べることは動物の本能であり,生きる活動力を得ることもできる.読書では他人が経験したことを疑似体験し,さまざまな感情を共感できる.さらに経験豊かな人生の達人には,酒や異性に癒しに求める人も存在する.酒は嫌なことを忘れ,昂揚感さえ生じさせる.また古今東西,異性の前では自己の魅力を誇示しがちであり,新たな情熱を醸成する.

昨日の患者

自宅で最期を迎える

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1349 - P.1349

 進行期癌にて最期を迎える際,多くの患者は病院で迎える.しかし患者自身の強い希望で,自宅で最期を迎えた事例を紹介する.
 60歳代後半のTさんは,3年ほど前に胆囊癌で拡大胆囊摘出術を行った.術後に黄疸が生じ,画像検査では多発性肝転移も認めた.そこでステントを留置し,黄疸は一時的には改善したが再び黄疸が著明となった.癌化学療法の効果がなく,予後が大変厳しいことを伝えると,Tさんは住み慣れた自宅での療養を希望した.

書評

—出雲雄大,佐藤雅昭(編)—仮想気管支鏡作成マニュアル—迅速な診断とVAL-MAPのために

著者: 池田徳彦

ページ範囲:P.1361 - P.1361

 近年,あらゆる領域においてCTが汎用され,一般的な検査としての意味合いが強くなってきたと感じている.呼吸器領域においては小型肺癌,特にすりガラス状の陰影は胸部単純X線では描出されず,CTが発見の契機になることが多々経験される.このようなことが早期肺癌増加の最大の原因であり,日常で遭遇する「肺癌像」は明らかに異なってきた.早期肺癌は予後良好であるが,気管支鏡で確定診断するためには腫瘍径が小さいほど苦労を伴う.手術に際しても根治と機能温存を両立することが期待されるため,胸腔鏡手術や縮小手術など高度な技術が要求される.また,CTですりガラスを呈する症例は術中に局在診断が困難な場合さえある.
 CTで腫瘍の局在や性状,周囲への浸潤などを評価しつつも,最近では3次元画像を作成して種々の用途に用いるようになった.3次元画像で肺血管を描出することにより症例ごとの血管の走行が明らかになり,手術のシミュレーションに用いることが可能となった.手術ナビゲーションにも利用すれば手術安全に寄与すると確信する.小型陰影に対する気管支鏡診断の際には3次元画像による仮想気管支鏡画像を作成し,ナビゲーションとして利用することが必須であろう.小腫瘤の術中の局在同定にも術前のナビゲーションを併用した気管支鏡によりマーキングを行うことが有用である.

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目次

ページ範囲:P.1306 - P.1307

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1368 - P.1368

原稿募集 私の工夫—手術・処置・手順

ページ範囲:P.1422 - P.1422

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.1427 - P.1427

次号予告

ページ範囲:P.1431 - P.1431

あとがき

著者: 絹笠祐介

ページ範囲:P.1432 - P.1432

 本年より編集委員のメンバーに加えていただきました.これまで,自分の症例のための調べもの以外でcase reportの類いを読んだことがなかったので,研修医になった気分で楽しく勉強させてもらっています.この「あとがき」欄へのはじめての投稿になります.
 がん専門病院から大学に赴任してちょうど1年が経ちました.異動の年とロボット手術が保険収載された年が重なり,お陰様で大変忙しい毎日を送っています.これまでは寝ても覚めても大腸がん手術・治療のことばかり考える毎日で,キーワードはまさに「手術」でした.大学に赴任してからのキーワードは,「人」ではないかと感じています.もちろん本業の手術は沢山していますし,思ったより会議も多くありません(というより,手術と出張で会議の大部分をサボることができている).ただ,何しろ多くの人と出会い,関係をもった一年だったなと,しみじみ感じています.これは新しい職場だからというだけではなく,教える相手が,レジデントから医局員・研修医・学生に加えて,ロボット手術を始める他施設の外科医に広がったことや,さまざまな学会等の仕事が舞い込んできたこと,関連病院を含む人事など,自分の取り巻く社会が大きくなったためだと思います.今の環境と比べると,がんセンター時代の環境は一本化されていて,単純明快であったなと思う一方,今は極めて複雑で,その社会を共有するなかにいろいろな人がおり,さまざまな人に影響を与え,またおおいに影響を受けた1年だったと思います.いろいろな人がいて,それぞれの考えや価値観があり,そういった中でいかに良い結果を導き出せるのか? とても難しい課題ですが,やりがいのある仕事だなとも思います.そんな中で,この一年でまた少し「手術の腕が上がったな」という,嬉しい実感も得られました.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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