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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科73巻13号

2018年12月発行

雑誌目次

特集 ここがポイント!—サルコペニアの病態と対処法

ページ範囲:P.1437 - P.1437

 サルコペニア(sarcopenia)とは,加齢や疾患により筋肉量が低下している状態を指し,筋力低下や身体機能低下を引き起こす.最近では,それが術後合併症発生や長期予後にも重大な影響を及ぼすことが数多く報告され,外科領域でも関心が高まっている.また,わが国はこれから未曾有の高齢社会に突入するが,高齢者においてその頻度が特に高いことも知られており,外科医が知っておくべき最重要な事柄であることは間違いない.
 本特集では,総論でサルコペニアの本質を学んでいただき,各論では関連要因や臓器ごとのポイントを解説していただいた.特に,サルコペニア症例の手術における留意点や周術期管理の要点などを紹介していただく.さらに,実際サルコペニア症例を目の前にしたとき,どのように対応すべきかについて新たな取り組みを紹介していただいた.

総論

サルコペニアの基礎

著者: 小川純人

ページ範囲:P.1438 - P.1441

【ポイント】
◆高齢者のフレイルの重要な要因,背景としてサルコペニアの存在が知られている.
◆加齢に伴うサイトカインやホルモン動態の変化など,液性因子や免疫・炎症系の加齢性変化がサルコペニアの発症,進展に関与している可能性が明らかになってきている.
◆筋骨連関などサルコペニアと他臓器・組織との連関や,ミトコンドリア機能不全,細胞外マトリックス代謝異常,マイクロRNA,筋肥大関連因子による制御など,臓器連関や病態機序の解明が今後進むと考えられる.

サルコペニアの評価法

著者: 矢澤貴 ,   土屋誉

ページ範囲:P.1442 - P.1446

【ポイント】
◆サルコペニアは筋肉量の減少と筋力,身体機能の低下を表している病態である.
◆サルコペニアは握力もしくは歩行速度の低下に加え,四肢骨格筋量の減少を示すことで診断される.
◆サルコペニアの存在が,直接手術成績や予後に寄与するといった報告が集積されつつあり,今後その重要性が高まるとみられる.

高齢者とサルコペニア

著者: 西原恵司 ,   荒井秀典

ページ範囲:P.1448 - P.1451

【ポイント】
◆高齢者のサルコペニアでは,低栄養および身体活動量減少の影響が大きい.
◆高齢者では,低栄養および身体活動量減少は,疾病のほかに心理的要因,社会・環境要因および医原性要因が原因となる.
◆高齢者のサルコペニアでは,心理的要因,社会・環境要因および医原性要因を考慮して治療をする必要がある.

各論1・関連要因とその対処法

嚥下障害とサルコペニア

著者: 藤谷順子

ページ範囲:P.1452 - P.1456

【ポイント】
◆嚥下障害およびそれによる栄養摂取の障害は,脳卒中などの明らかな疾患だけでなく,さまざまな要因によって出現しうる.
◆明らかな嚥下機能低下を自覚する前に,経口摂取量の低下や,タンパク質の摂取の低下など,栄養状態が低下することが多い.
◆口腔機能の低下の段階から,低栄養対策が必要である.

免疫とサルコペニア

著者: 古川勝規 ,   古川新 ,   鈴木大亮 ,   吉富秀幸 ,   高屋敷吏 ,   久保木知 ,   高野重紹 ,   酒井望 ,   賀川真吾 ,   野島広之 ,   三島敬 ,   中台英里 ,   大塚将之

ページ範囲:P.1457 - P.1461

【ポイント】
◆最近の研究で,サルコペニアの発症には,免疫老化(immunosenescence)と慢性炎症が深く関与していることが示されている.
◆サルコペニア患者に対する手術において,immunonutritionは対処法の一つとして期待できると思われる.

周術期における腸内環境の改善とサルコペニア予防の重要性

著者: 宮下知治 ,   大畠慶直 ,   岡本浩一 ,   中沼伸一 ,   牧野勇 ,   木下淳 ,   田島秀浩 ,   高村博之 ,   二宮致 ,   伏田幸夫 ,   太田哲生

ページ範囲:P.1462 - P.1467

【ポイント】
腸内環境の改善対策として
◆グルタミン療法による腸管粘膜の強化とBCAA投与を併施した運動療法により,骨格筋・腸管・肝臓の臓器相関ネットワークを活用する.
◆シンバイオティクス(プロバイオティクスとプレバイオティクス)療法による共生腸内細菌を活用する.
◆以上のように,腸管粘膜の強化と腸内細菌叢の正常化による腸管免疫・バリア機能の維持と運動療法を併施したサルコペニア対策により,周術期合併症の軽減を図る.

各論2・周術期管理と手術・治療の留意点

食道手術—食道癌患者とサルコペニアの関係と治療上の留意点

著者: 小澤洋平 ,   櫻井直 ,   谷山裕亮 ,   日景允 ,   佐藤千晃 ,   高屋快 ,   小野寺優 ,   今野卓朗 ,   内藤剛 ,   海野倫明 ,   亀井尚

ページ範囲:P.1468 - P.1472

【ポイント】
◆術前治療によって食道癌患者のサルコペニアは進行する.
◆食道癌サルコペニア患者の周術期合併症として,術後呼吸器合併症や縫合不全に注意する.
◆食道癌サルコペニア患者の術後長期予後は不良である可能性が高い.

胃手術—サルコペニア症例に対する胃癌手術

著者: 郡司久 ,   鍋谷圭宏

ページ範囲:P.1474 - P.1477

【ポイント】
◆サルコペニアは胃癌手術後の短期予後だけでなく,長期予後も悪くする可能性がある術前リスクである.
◆サルコペニア症例に対する胃癌手術では,ESSENSEプロジェクトの理念に基づく周術期管理が有用である.
◆胃全摘術を回避する工夫やcatheter jejunostomy造設などによる積極的な栄養管理を考慮する.

大腸手術

著者: 牛込充則 ,   船橋公彦 ,   吉野優

ページ範囲:P.1478 - P.1481

【ポイント】
◆消化器外科領域において,サルコペニアが術後合併症の発生や予後と関連することが示され,サルコペニアの臨床的意義が注目される.
◆大腸領域では,骨格筋量が減少したがん患者で,生存率の低下や化学療法において副作用の高い発現が報告されている.しかしながら,筋量減少と筋力低下,身体機能低下を反映させたサルコペニア診断基準に基づいた報告は少なく,今後の研究が望まれる.

肝臓手術

著者: 海道利実

ページ範囲:P.1482 - P.1486

【ポイント】
◆肝臓手術患者は,一次性ならびに二次性サルコペニアを合併していることが多く,臨床的に重要な意義を有する.
◆術前低骨格筋量や筋肉の質低下,内臓脂肪肥満は,肝移植や肝癌肝切除後の独立予後不良因子である.
◆体組成を考慮した移植適応と周術期栄養リハビリ療法により,移植後短期成績が著明に改善した.

膵癌手術とサルコペニア

著者: 中郡聡夫 ,   矢澤直樹 ,   増岡義人 ,   益子太郎

ページ範囲:P.1487 - P.1489

【ポイント】
◆骨格筋量の減少であるサルコペニアは,膵癌患者の新たな栄養指標として注目されつつある.
◆サルコペニアの膵癌患者では,術後死亡率・合併症発生率が高く,長期の予後も不良とする報告が多い.
◆膵癌患者の栄養状態を評価する有用な指標としては,そのほかにCONUT,PNI,GPS,アルブミンなどがある.

集学的治療とサルコペニア

著者: 吉川貴己 ,   青山徹

ページ範囲:P.1490 - P.1494

【ポイント】
◆これまでの報告より,様々な癌種においてサルコペニアは,癌の集学的治療の有害事象発現や治療継続性に負の影響を与えることがわかってきた.
◆サルコペニア対策として,特殊な栄養剤の投与や運動療法など,今後の展開も注目される.

各論3・サルコペニア改善の取り組み

サルコペニアに対する運動・栄養介入の方法と効果

著者: 愛甲丞 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.1495 - P.1498

【ポイント】
◆サルコペニアは癌に対する外科治療において,周術期合併症や予後のリスク因子とされている.
◆サルコペニアの予防・治療には,十分なタンパク摂取とレジスタンストレーニングを含む運動栄養療法が重要とされる.
◆現時点では十分なエビデンスがないが,周術期の運動栄養療法が周術期のリスクを軽減することが期待されている.

Reduced Port Surgery—制限克服のための達人からの提言・12

RPSによる右半結腸切除術

著者: 平能康充 ,   石川慎太郎 ,   岡田拓久 ,   原聖佳 ,   近藤宏佳 ,   石井利昌 ,   山口茂樹

ページ範囲:P.1499 - P.1503

はじめに
 単孔式内視鏡手術を含めたreduced port surgery(RPS)を癌の根治術に適応する際に最も重要なことは,癌手術の原則を遵守し,これらの手技に起因した再発や合併症などを起こさないことと考える.これまでに筆者らは850例以上のRPS大腸切除を経験し,その安全性などに関して報告してきた1,2).本稿では右側結腸癌に対する単孔式内視鏡手術の右半結腸切除術の手術手技のコツやピットフォール,症例の選択などに関して述べる.

FOCUS

ASCO2018の注目演題(肝胆膵領域)

著者: 奥坂拓志

ページ範囲:P.1504 - P.1506

 米国臨床腫瘍学会(ASCO)2018は,2018年6月1日〜5日にシカゴにて開催された.肝胆膵がんに関して今回は口演発表が5題あり,いずれもが非常に興味深い内容で,例年以上に注目度の高い学会となった.本稿では,この5題についての概要を報告したい.5題のうち3題は通常型膵がん,1題は膵神経内分泌腫瘍,1題は肝がんに関する報告であった.外科の先生方にとって特に関心が高いと思われる2題の補助療法に関する報告から紹介をしたい.

急性腹症・腹部外傷に強くなる・9

外傷性肝損傷・脾損傷・横隔膜損傷

著者: 堀江博司

ページ範囲:P.1507 - P.1515

 急性腹症に引き続き,今回からは腹部外傷について解説します.今回の肝損傷の項目には,腹部外傷に対する初期診療などの総論的な内容も含まれており,これを意識して読み進めてください.

病院めぐり

済生会今治病院外科

著者: 松野剛

ページ範囲:P.1516 - P.1516

 済生会は1911(明治44)年,明治天皇の済生勅語を基に創立され,今年で107年になります.済生会今治病院は1939(昭和14)年に今治診療所として愛媛県で最初の済生会の施設として誕生しました.1947年32床の済生会今治病院となり,その後に移転と拡大を続け,1981年に現在地に移転し171床になりました.2017年地域がん診療連携病院に指定され,緩和ケア病棟を20床増床し現在は191床です.外科は約35床での運用です.
 今治市は昨今の加計学園岡山理科大学獣医学部設置に伴い,全国的に有名になり,「イマバリシ」と市名を正確に覚えていただきました.今治医療圏は周囲の人口を加えても18万人程度の小さな医療圏です.中小病院が多く,当院は中核病院の一つとして地域医療を支えています.

臨床報告

術前診断しえたWinslow孔ヘルニアに対して腹腔鏡下手術を施行した1例

著者: 吉川祐輔 ,   山本聖一郎 ,   金井歳雄 ,   藤井琢 ,   大住幸司 ,   中川基人

ページ範囲:P.1517 - P.1520

要旨
症例は83歳の女性.突然の腹痛を主訴に当院救急外来を受診した.腹部造影CT検査でWinslow孔ヘルニアによる絞扼性腸閉塞と診断,緊急で腹腔鏡下手術を施行した.術中所見ではWinslow孔に20 cm程度の小腸が陥入しており,還納後も色調不良であったため小腸部分切除を施行した.また,上行結腸の後腹膜への固定が弱く,再発の要因になりうると判断し,ヘルニア門に大網を充塡,被覆するように固定した.術後経過は良好であり,24か月経過後も再発を認めていない.本症例から,稀な疾患であるWinslow孔ヘルニアによる絞扼性腸閉塞に対して,腹腔鏡下手術が有用な治療オプションとなりうる可能性が示唆されたため,文献的考察を加えて報告する.

特発性右胃動脈瘤破裂の1例

著者: 神原祐一 ,   神谷忠宏 ,   平松和洋 ,   柴田佳久 ,   加藤岳人 ,   高田章

ページ範囲:P.1521 - P.1525

要旨
症例は83歳男性.一過性意識消失を認め,当院に救急搬送された.腹部造影CT検査で肝,脾周囲に液体貯留を認めた.右胃動脈に径4 mm大の動脈瘤と造影剤の血管外漏出所見を認め,右胃動脈瘤破裂による腹腔内出血と診断した.補液により循環動態は安定していたため,経カテーテル動脈塞栓術(TAE)を行う方針とした.右胃動脈は細く蛇行しておりカニュレーションが困難であったため,塞栓術は断念し,開腹止血術の方針とした.開腹所見で腹腔内には計1,300 gの血液と血腫を認めた.右胃動脈近傍の小網内に血腫を認め,同部位からの出血と判断し,小網切除術を施行した.切除標本には動脈瘤が含まれておらず,動脈の異常所見を認めなかった.術後7日目に急性胆囊炎を発症したが経皮経肝胆囊ドレナージにより軽快し,第22病日にリハビリ目的で転院した.開腹止血術を必要とした右胃動脈瘤破裂の1例を経験した.右胃動脈瘤に対するTAEは困難なことが多く,早期に緊急手術の準備を行うことが肝要である.

再発鼠径部ヘルニアに対して腹腔鏡補助下鼠径部切開法(Hybrid法)を施行した4例

著者: 今井紳一郎 ,   久保直樹 ,   古澤徳彦 ,   寺田克

ページ範囲:P.1526 - P.1529

要旨
大開腹歴がなく全身麻酔耐術能のある69〜79歳の再発鼠径部ヘルニア4例に対して,腹腔鏡補助下鼠径部切開法(Hybrid法)を行った.【手術方法】腹腔鏡でヘルニア門とヘルニア囊を確認し,ヘルニア門の直上で皮膚切開を置いた.前方からヘルニア囊およびヘルニア門を同定後,mesh plugを使用しヘルニア門を補強した.再気腹し修復後の状態を確認後,閉創した.【手術所見】前回の手術法によらず,全例がDirect hernia再発であり,mesh plugで修復した.術後合併症はなかった.【結語】自験例4例においてHybrid法は安全に実施可能であり,有用な術式であると考えられた.

超音波ガイド下に整復し待機腹腔鏡手術を施行した閉鎖孔ヘルニア嵌頓の1例

著者: 長谷川毅 ,   寺岡均 ,   森拓哉 ,   木下春人 ,   野田英児

ページ範囲:P.1530 - P.1535

要旨
症例は96歳,女性.右鼠径部痛を主訴に当院を受診した.腹部CTにて右恥骨筋と外閉鎖筋の間に小腸の嵌頓像を認め,閉鎖孔ヘルニアの嵌頓と診断した.発症後間もないため超音波ガイド下に還納した後に,待機的に腹腔鏡手術を行った.近年,閉鎖孔ヘルニアは術前診断が可能であり,嵌頓している症例でも整復後に腹腔鏡下手術を施行した報告が見受けられる.本疾患の患者は高齢であることが多く,整復することができれば,待機的に低侵襲な腹腔鏡手術を行うことは非常に有効であると考えられた.

集学的治療により長期無再発生存の得られている食道癌術後腎転移の1例

著者: 大久保友貴 ,   石黒秀行 ,   安藤亮介 ,   安井孝周 ,   服部日出雄 ,   瀧口修司

ページ範囲:P.1536 - P.1540

要旨
症例は74歳,男性.胸部中部食道癌の診断で食道亜全摘術・胃管胸骨後再建術を施行した.術後1年目の検査で転移性右腎腫瘍,およびNo. 113リンパ節再発と診断した.右腎腫瘍に対しては腹腔鏡下右腎摘除術を施行した.リンパ節転移に対しては放射線治療を行い,その後,4年間再発転移を認めていない.食道癌の腎転移は予後不良といわれているが,本症例のように長期生存を得られる症例も存在し,再発症例においても積極的治療の可能性を考慮すべきと考えられた.

ひとやすみ・171

医療従事者も心和む話術を

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1447 - P.1447

 病院を訪れる患者は,自己の生命にかかわることだけに不安に駆られ,張り詰めた心には余裕がない.そこで少しでも気持ちに安らぎが生じるように,病院勤務医時代は自分なりに話術に工夫を凝らしたものである.
 注射をする際には,「常日頃心がけが良い人は,痛みは少ないですからね」と,語りかけた.すると多くの患者は,「全く痛くないです」と,微笑みながら応えた.そこで「心がけが良いことが証明されましたね.もっとも注射する私の腕が上手いこともありますが」と,少し悪乗りして,さらなる笑いを誘った.

1200字通信・125

46年のタイムスリップ

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1473 - P.1473

 年の暮れに,大掃除のつもりで自宅の机を整理した時のことでした.引出の中のガラクタを出していると,奥の方から予備校時代の定期入れが出てきました.通学に使っていた電車の定期券と予備校の学生証が入っており,手帳の身分証明のページには自分の写真(当たり前か)が貼ってあり,19歳の自分と再会することになりました.定期券をみると46年前の年号が記載されており,いきなりタイムスリップしたような奇妙な感覚を味わうことになりました.早速,妻と娘に見せましたが,「ふぅ〜ん」といった程度の反応で,ちょっとがっかりしましたが,独り秘かに興奮したことではありました.
 改めて考えてみると,実家は倉敷で,予備校は大阪の豊中にあり,下宿は電車で二駅の所にありました.で,年末には受験の準備のために下宿を引き払って実家に戻り,幸いにも一浪で大学へ入ることができ,大学は大阪の高槻で6年間,卒業後は数か月実家で過ごしてから三重の松阪へ.2年の後,再び実家にもどって2年間地元の病院へ.その後3年間の岡山大学での研究生活を経て,今の病院へ赴任.こちらに来てからも,一度引っ越しして今の家で26年.この間,実家を離れるたびに同じ勉強机を持って行き,戻る時にも持って帰っていたので,その机の中にその定期入れがずっとあったということになります.いかに私が貧乏性で物持ちが良いとはいえ,今の家に引っ越す時に,その机は処分しており,それでもなお小さな定期入れが失われずに身近にあったとは,大袈裟ではなしに「奇跡」といっても良いのではないでしょうか.

昨日の患者

負い目を感じ,宿敵乳癌と闘う

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1494 - P.1494

 外科医は仕事柄,癌の早期発見・早期治療の重要性を最も認識している.しかし自分が専門とする領域癌で,最愛の家族の診断が遅れ,そして最悪の経過を辿った,ある外科医の想いを紹介する.
 O先生は乳癌専門医の資格を持ち,積極的に乳癌治療を行うとともに,患者さんからも大いに慕われていた.また早期発見のため超音波検査やマンモグラフィー検査を精力的に行うとともに,市民相手に検診の必要性を訴えていた.しかし超多忙なこともあり,身近な奥さんには検診を勧めていなかった.

書評

—衣袋健司(著)—腹部血管画像解剖アトラス

著者: 松井修

ページ範囲:P.1541 - P.1541

 私の畏友,三井記念病院放射線診断科部長 衣袋健司先生が,待望の腹部血管画像解剖の教科書をついに出版された.世界初ともいえる腹部の最新の画像解剖と肉眼解剖の対比から成る画期的な教科書といえる.
 先生は長く臨床の第一線で腹部を中心としてinterventional radiology(IVR)と画像診断に従事され,示唆に富む知見や新しい技術を報告されてきた.その独特の視点や理論的背景の確かさから,“知る人ぞ知る”気鋭の臨床放射線科医としてわれわれの間では高く評価されてきた.その背景に深い肉眼解剖学の研究があることを知り感銘を受けたことを思い出す.先生は,第一線臨床の傍ら,週末には母校・東京医科歯科大の解剖学教室で実際に死体解剖を長年行い,臨床放射線科医の立場から,肉眼解剖に基づいた新しい画像解剖所見を見出し発表されてこられたのである.その重みは計り知れない.

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目次

ページ範囲:P.1434 - P.1434

原稿募集 私の工夫—手術・処置・手順

ページ範囲:P.1451 - P.1451

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.1486 - P.1486

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1546 - P.1546

次号予告

ページ範囲:P.1547 - P.1547

あとがき

著者: 瀬戸泰之

ページ範囲:P.1548 - P.1548

 わが国において「少子高齢化」が叫ばれて久しい.社会構造のdrasticな変化が様々な領域の変革を必要としている.われらが外科領域においても,若手の外科離れのみならず,外科医の高齢化が深刻な問題になっている.厚生労働省医師調査でも50〜69歳の外科医の割合が着実に増加し続けており,一方,29歳以下の割合が減少してきている.医師数全体が右肩上がりで増えているにもかかわらず,外科医の絶対数は減少している.最近の公衆衛生学手法による結果では(Hara K, Imanaka Y. BMJ Open 2018),必要とされる外科医数(需要調整人口対医師数)に対し,現存の外科医数は70%程度しか満たしておらず,かつ低下し続けている.その傾向は他科に比較し際立って顕著である.すなわち,年々外科医の仕事量が増えているにもかかわらず高齢化している,ということになる.明るい話題がない外科を取り巻く環境であるが,初期臨床研修制度で2020年度から外科必修が復活するとのことなので,少々一安心である.しかしながら,初期研修だけではなく,その後に外科をめざしてもらうことが重要であり,やりがいのある外科の魅力を若い間に何とか感じとってもらうわれわれの取り組みも,また大切であると痛感している.そのためにも,外科医のstatusを適切にもっと上げたいものである.
 昨今,「働き方改革」のもと,その波が医療業界にも押し寄せている.外科医は最も縁遠い職業と思っていたが,若手離れの理由を考えると,そうとも言ってはいられない.時代に対応した変革が,外科医の職場環境にも求められており,これからの外科診療を維持していくために,これもまた重要なことであると感じている.

「臨床外科」第73巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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