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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科73巻3号

2018年03月発行

雑誌目次

特集 徹底解説!—膵頭十二指腸切除の手術手技

ページ範囲:P.261 - P.261

 膵頭十二指腸切除は消化器外科領域における高難度手術の代表であり,これを安全に実施するには解剖学的知識を深めるとともに,手術をスムーズに行うための術野展開や手技をマスターしなければなりません.一口に膵頭十二指腸切除といっても,切除・再建術式には様々なバリエーションがあり,最近では腹腔鏡手術やロボット支援手術なども導入されつつあります.
 本特集では,膵頭十二指腸切除の手技に焦点を絞り,一連の手技を細分化して解説していただき,研修医から一般・消化器外科医,さらにはこれから肝胆膵外科高度技能専門医を目指す若手外科医の診療の一助となることを目指します.

総論

膵頭部を中心とした臨床解剖

著者: 室生暁 ,   伴大輔 ,   秋田恵一

ページ範囲:P.262 - P.267

【ポイント】
◆主膵管・副膵管の灌流パターンから,腹側膵芽と背側膵芽が癒合後にさらに広がって成長し,オーバーラップしていることが考えられる.
◆後膵動脈は,腹腔動脈系と上腸間膜動脈系の中間的な動脈と考えられ,その起始にはバリエーションが多い.
◆膵頭部に至る神経は平面的に広がって分布するというより,厚みをもった立体的な層構造を成す複雑な様式をもつと考えられる.

手術に役立つ3D画像診断

著者: 堀口明彦 ,   伊東昌広 ,   古田晋平 ,   浅野之夫 ,   荒川敏 ,   伊藤良太郎 ,   清水謙太郎 ,   林千紘 ,   安岡宏展 ,   河合永季

ページ範囲:P.268 - P.273

【ポイント】
◆膵頭十二指腸切除術の際,はじめに流入動脈である後下膵十二指腸動脈を結紮することで術中出血量は減少する.
◆後下膵十二指腸動脈へのアプローチは前方アプローチ,Treitz靱帯アプローチ,右側アプローチがある.
◆背側膵動脈は脾動脈からの分岐がもっとも多い.

切除・再建術式の種類と特徴

著者: 川井学 ,   山上裕機

ページ範囲:P.274 - P.278

【ポイント】
◆膵頭十二指腸切除の切除方法には,①膵頭十二指腸切除,②幽門輪温存膵頭十二指腸切除,③亜全胃温存膵頭十二指腸切除がある.
◆膵頭部癌における膵頭十二指腸切除において,幽門輪切除に対して幽門輪温存あるいは亜全胃温存による生存率の低下はなく,手術根治度も同等である.
◆膵頭十二指腸切除後の再建方法は,①Ⅰ型(胆管,膵,胃の順に吻合),②Ⅱ型(膵,胆管,胃の順に吻合),③Ⅲ型(ⓐ胃,膵,胆管,あるいはⓑ胃,胆管,膵の順に吻合),④Ⅳ型(その他の吻合)に分類される.

手術手技

上腸間膜動脈・腹腔動脈-肝動脈周囲神経,リンパ節郭清の実際

著者: 渡邉元己 ,   井上陽介 ,   三瀬祥弘 ,   石沢武彰 ,   伊藤寛倫 ,   高橋祐 ,   齋浦明夫

ページ範囲:P.280 - P.285

【ポイント】
◆PDの目標は,対象疾患に応じた系統的所属リンパ節郭清とR0切除の達成,根治性と術後合併症軽減である.
◆それらの目標を達成するために,上腸間膜動脈(SMA)・腹腔動脈-肝動脈(CA-HA)周囲神経叢・リンパ節郭清の程度を段階的に調整し,適切な郭清を行うことが重要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画(Flash形式)を見ることができます(公開期間:2021年3月末まで)。

術野展開—mesenteric approach

著者: 河合俊輔 ,   藤井努 ,   山田豪 ,   髙見秀樹 ,   渋谷和人 ,   吉岡伊作 ,   奥村知之 ,   小寺泰弘 ,   中尾昭公

ページ範囲:P.286 - P.290

【ポイント】
mesenteric approachでは,
◆膵頭部癌手術においてもっとも腫瘍遺残の可能性がある上腸間膜動脈周囲の郭清を確実に行うことができる.
◆手術の序盤にR0手術の可否,門脈合併切除・再建の可否を決定できる.
◆再建門脈の緊張緩和が得られる.

術野展開—腸回転解除法

著者: 杉山政則 ,   鈴木裕 ,   松木亮太 ,   小暮正晴 ,   横山政明 ,   中里徹矢 ,   阿部展次 ,   正木忠彦 ,   森俊幸

ページ範囲:P.292 - P.297

【ポイント】
◆膵頭十二指腸切除術において,mesopancreasの切除は解剖が複雑で技術的に困難である.
◆右側結腸と小腸を後腹膜から授動し,腸回転を解除する術式を考案した.
◆mesopancreasの解剖構造が単純化し,mesopancreasの切除および下膵十二指腸動脈(IPDA)の切離が容易となる.

術野展開—Treitz靱帯アプローチ

著者: 伴大輔 ,   室生暁 ,   小倉俊郎 ,   小川康介 ,   小野宏晃 ,   光法雄介 ,   工藤篤 ,   秋田恵一 ,   田邉稔

ページ範囲:P.298 - P.302

【ポイント】
◆膵頭十二指腸切除において,Treitz靱帯はSMAにアプローチする際のメルクマールとなる構造物である.
◆Treitz靱帯を切離することで,十二指腸から空腸移行部の血管を含んだ腸間膜が展開できる.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画(Flash形式)を見ることができます(公開期間:2021年3月末まで)。

膵消化管吻合—Blumgart変法—断端圧迫吻合

著者: 大坪毅人 ,   小林慎二郎 ,   小泉哲 ,   片山真史 ,   瀬上航平 ,   星野博之

ページ範囲:P.304 - P.308

【ポイント】
◆膵液瘻は膵切離断端の分枝膵管からの漏出と,膵管粘膜吻合時の結紮糸による膵実質組織の損傷が原因と考えられる.
◆膵管粘膜吻合時の膵実質損傷は,膵実質と後壁の空腸に運針した外層縫合糸を牽引することにより避けることが可能である.
◆膵断端を空腸で挟む外層縫合の結紮により,膵切離断端の分枝膵管からの膵液瘻を減少させることが可能である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画(Flash形式)を見ることができます(公開期間:2021年3月末まで)。

膵消化管吻合—柿田式

著者: 隈元雄介 ,   海津貴史 ,   田島弘 ,   西澤伸恭 ,   永滋教 ,   柿田章 ,   渡邊昌彦

ページ範囲:P.310 - P.313

【ポイント】
◆膵臓は強力な消化酵素を分泌する脆弱な臓器であるため,縫合操作によって与えるダメージを最小としなければならない.
◆柿田法は,針糸による損傷をできるだけ減らすために,膵貫通密着法による4針と膵管空腸粘膜固定の4針で膵空腸吻合を行う.
◆少ない糸数での吻合のため,膵管チューブによる膵液完全ドレナージを用いて,吻合部の安静を担保する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画(Flash形式)を見ることができます(公開期間:2021年3月末まで)。

膵消化管吻合—膵胃吻合—水平マットレス膵胃密着吻合&膵管胃粘膜吻合

著者: 新地洋之 ,   前村公成 ,   又木雄弘 ,   蔵原弘 ,   川崎洋太 ,   夏越祥次

ページ範囲:P.314 - P.318

【ポイント】
◆膵胃吻合の特色は,膵液瘻が少ないことと,発生しても重症化しないことである.
◆手技上のコツは,膵実質に分厚く通針することと,胃壁にて膵断端を完全に被覆することである.
◆胃と膵は前後に位置しているため,視野展開や運針が膵空腸吻合とまったく異なる点を留意する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画(Flash形式)を見ることができます(公開期間:2021年3月末まで)。

膵消化管吻合—膵管空腸粘膜吻合

著者: 北郷実 ,   松井淳一 ,   篠田昌宏 ,   阿部雄太 ,   八木洋 ,   大島剛 ,   高野公徳 ,   尾形佳郎 ,   北川雄光

ページ範囲:P.320 - P.325

【ポイント】
◆われわれの膵空腸吻合は,吻合部の空腸漿膜切除を付加した膵管-空腸粘膜吻合と膵実質-空腸漿膜筋層吻合の2層吻合である.
◆膵管-空腸粘膜吻合は,ロストチューブステントを用いた必要最小限の結紮にて膵管全周を空腸粘膜筋層と密着させることが重要である.
◆膵実質-空腸漿膜筋層吻合は,膵切離断端と空腸との間に死腔が生じないよう密着させることが重要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画(Flash形式)を見ることができます(公開期間:2021年3月末まで)。

胆管空腸吻合

著者: 樋口亮太 ,   谷澤武久 ,   植村修一郎 ,   出雲渉 ,   山本雅一

ページ範囲:P.326 - P.330

【ポイント】
◆疾患や病変範囲により膵頭十二指腸切除(PD)の胆管切離や郭清範囲は異なり,同じPDでも胆管空腸吻合の難易度は異なる.
◆胆管切離の高さにより,再建胆管の本数,肝側胆管の再建に必要な“くびの長さ”が規定される.
◆術前胆道ドレナージの有無によって,肝側胆管壁の厚みが異なり,壁が薄い場合には難易度が高くなる.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画(Flash形式)を見ることができます(公開期間:2021年3月末まで)。

脈管合併切除

著者: 天野良亮 ,   木村健二郎 ,   山添定明 ,   大平豪 ,   大平雅一

ページ範囲:P.331 - P.335

【ポイント】
◆術前画像で脈管の解剖を十分に把握しておき,門脈・動脈の浸潤範囲を想定してその切除範囲と再建方法を詳細に検討しておく.
◆術前にあらゆることを想定して術前血流改変,抗血栓性門脈バイパス用カテーテルの用意,血管グラフトのプランニングを行う.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画(Flash形式)を見ることができます(公開期間:2021年3月末まで)。

腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術—小開腹下膵消化管吻合

著者: 中村慶春 ,   松下晃 ,   山初和也 ,   住吉宏樹 ,   吉岡正人 ,   清水哲也 ,   神田知洋 ,   内田英二

ページ範囲:P.336 - P.341

【ポイント】
◆本術式は,膵頭十二指腸の切除操作は腹腔鏡下に施行する.
◆本術式は,膵切離部の直上に小切開創(多くは4〜7 cm)を作製し,膵消化管吻合を行う手法である.
◆手術部位は多岐にわたるため,それぞれの場面における術野の展開法をマスターする必要がある.
◆なかでも,膵鉤部周辺の安定した術野展開法を身に付けることが重要である.
◆胆管(肝管)空腸吻合は,腹腔鏡下に施行する技量を身に付けておく必要がある.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画(Flash形式)を見ることができます(公開期間:2021年3月末まで)。

腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術(完全鏡視下)

著者: 永川裕一 ,   佐原八束 ,   瀧下智恵 ,   代田智樹 ,   土方陽介 ,   刑部弘哲 ,   小林直 ,   中島哲史 ,   細川勇一 ,   勝又健次 ,   土田明彦

ページ範囲:P.342 - P.351

【ポイント】
◆適切に術野展開されているかが腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術の難度を決める重要な鍵になる.
◆術者,助手,スコピストとの連携が重要で,チームで各部位での術野展開・アプローチ法を決めておく必要がある.

ロボット支援腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術

著者: 木口剛造 ,   小島正之 ,   加藤悠太郎 ,   宇山一朗 ,   杉岡篤

ページ範囲:P.352 - P.358

【ポイント】
◆ロボット支援腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術は,より精緻な剝離・正確な運針を可能にする.
◆ロボット支援手術の特性を考慮したSemi-derotation techniqueにより,確実な動脈先行処理が可能となる.
◆膵の再建には,Wrapping double mattress anastomosis(Kiguchi-method)を行うことで安定した再建が可能となる.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画(Flash形式)を見ることができます(公開期間:2021年3月末まで)。

術後管理

ドレーン留置・術後管理

著者: 松尾めぐみ ,   高屋敷吏 ,   吉富秀幸 ,   古川勝規 ,   久保木知 ,   高野重紹 ,   鈴木大亮 ,   酒井望 ,   賀川真吾 ,   野島広之 ,   三島敬 ,   大塚将之

ページ範囲:P.359 - P.362

【ポイント】
◆ドレーンは膵液漏を想定した位置に,腹壁から直線的かつ最短になるように留置する.
◆早期抜去を念頭に置き,膵液漏,感染徴候などの所見から抜去時期を決める.
◆合併症発症による長期留置例では,透視下に適宜交換を行う.

術後栄養管理

著者: 竹山宜典

ページ範囲:P.363 - P.368

【ポイント】
◆膵頭十二指腸切除術では,膵組織量減少に加えて消化管ホルモンの欠落,神経叢郭清などにより代謝・栄養状態の障害をきたす.
◆残膵機能の維持には主膵管の開存が重要であり,閉塞例では再吻合も考慮する.
◆過度の食事制限をせず,必要に応じて内外分泌の補充のうえで十分な栄養摂取を勧めることが重要である.

病院めぐり

等潤病院外科

著者: 伊藤雅史

ページ範囲:P.369 - P.369

 等潤病院は東京都区東北部で埼玉県と接する足立区にあり,病床は164床(一般122床,回復期42床),主な診療科は外科・内科・整形外科・循環器科,指定二次救急で年間約2,600台の救急搬送を受け入れています.等潤病院外科スタッフは7名で,東京医科歯科大学の関連病院として日本外科学会外科専門医制度修練関連施設であり,その他,日本消化器外科学会専門医制度指定修練認定施設,日本消化器内視鏡学会専門医指導施設となっています.
 等潤病院の前身はドック専門の有床診療所「足立クリニック」で,地元の有力者が自らの病気の経験をもとに早期発見の重要性を痛感し,そのための医療施設を私財を投げ打ち昭和49年に開設したものです.当時としては先進的な取り組みであり,日本医師会 武見太郎会長が開院式に駆け付けたそうです.昭和54年に東京医科歯科大学から理事長を迎えて等潤病院に改組,現在の三代目まで同門で受け継いでいます.東京医科歯科大学はかつての外科学2講座から,現在では外科系6分野が診療体制や卒後教育,関連病院への出向などを一元化しており,さらには同門会も一つに統合された外科学教室運営は,全国でも数少ないものと言えます.

Reduced Port Surgery—制限克服のための達人からの提言・3

総論—単孔式内視鏡手術で使用する器具

著者: 岡島正純 ,   住谷大輔 ,   小島康知 ,   中野敢友 ,   井谷史嗣

ページ範囲:P.370 - P.375

はじめに
 単孔式内視鏡手術では,通常の内視鏡手術とは異なる特殊な器具が必要となる局面がある.本稿では単孔式内視鏡手術に用いる器具を使用法や種類によって分類し,それぞれについてその特徴や使用のコツを述べる.

英文論文を書いてみよう!—なかなか書けない外科医のための集中講義・3

論文の基本構成

著者: 杉山政則

ページ範囲:P.376 - P.385

 さて,いよいよ英文論文の実際の書き方について解説しよう.
論文の構成
 論文は図1に挙げた項目から成り立っている.さらに雑誌の投稿規定を読むと,この順番の通りに書くように指示されている.雑誌を見ると,掲載論文も,TitleからReferencesまで,この順番に印刷されている.

1200字通信・115

41周年

著者: 板野聡

ページ範囲:P.291 - P.291

 私が勤務する寺田病院が,この2018年3月1日で41回目の誕生日を迎えます.本来なら,区切りよく40周年でご報告できたらよかったのですが,気が付いたときにはすでに原稿が間に合わなかったのが実際でした.そのため,敢えて1年を待ってこのたびのご報告となった次第です.杓子定規に10年刻みというよりは,洒落て「良い(41)年を重ねた」と祝うのも乙ではないかと言い訳しています.
 日本国中を探してみれば,50年,100年と続いている民間病院も沢山あるとは思いますが,ひとまず「奢れる平家」を凌いで30年以上続いてきたことは褒めていただけるのではないかと思っています.個人的には,非常勤を経て1987年3月1日から常勤として勤務していますので,勤続31年を数えることになり,「継続は力」になると勝手に喜んでいます.

ひとやすみ・161

大学病院における献血

著者: 中川国利

ページ範囲:P.302 - P.302

 少子高齢社会の進展に伴い献血者は減少し,無関心な若者も多い.一方,医療従事者は増加しつつあり,血液の重要性を最も認識している.しかしながら大学病院をはじめとした医療施設における献血は,全国的に低迷を極めている.
 東北大学病院では従来から献血者数が低迷し,さらには献血バスの駐車スペースの確保が困難という理由で,献血が行われていなかった.しかし県内血液供給量の4分の1を占め,4,000名以上もの職員数を有する最大の医療施設である.そこで懇意の病院長に依頼し,献血場所を隣接する歯学部構内に設定し,また各診療科や病棟から最低1名の献血者を募り,定まった時刻に献血するという病院長通達を出していただいた.

8年目のportrait・5

履歴書を書きながら

著者: 新里陽

ページ範囲:P.319 - P.319

 年が明けてもう数か月経ち,ようやく2018年という西暦にも慣れてきた頃.そろそろ,人によっては次の職場への異動の辞令が出始める頃だろうか.
 職場が変わるとき,履歴書を用意していて気づかされるのは,1〜2年ごとに次から次へと勤務先が変わる,なんともせわしない職歴だなあということ.

昨日の患者

死後について語る

著者: 中川国利

ページ範囲:P.351 - P.351

 死期を悟った患者が死後について語りたくなったとき,家族は聞き入れることができずに拒否しがちになる.しかし死後についての希望を家族に語り,感謝に満ちて逝った患者さんを紹介する.
 Sさんは40歳代半ばの乳癌術後患者であった.乳癌の再発を繰り返し,全身状態が急速に悪化して再入院した.死期を悟ったSさんから相談を持ち掛けられた.「私に残された時間は少なく,亡くなった後のことを母に相談したいのですが,まったく取り合ってくれず,悩んでいます」.そこで母親に娘の意を伝えたが,「娘の死など,絶対に承認できません」と,頑なに拒否された.

書評

—Justin B. Dimick, Gilbert R. Upchurch Jr., Christpher J. Sonnenday(編) 安達洋祐(訳)—症例で学ぶ外科診療—専門医のための意思決定と手術手技

著者: 馬場秀夫

ページ範囲:P.389 - P.389

 このたび,医学書院より『症例で学ぶ外科診療—専門医のための意思決定と手術手技』が刊行された.本書は英文書籍“Clinical Scenarios in Surgery—Decision Making and Operative Technique”の翻訳書である.原書は全123章・672ページに及ぶ書籍だが,訳者の安達洋祐氏(久留米大医学教育研究センター教授)により,日本の外科医が診る機会の多い疾患に的を絞った55章を厳選し再編集したものである.原書の魅力(症例をベースに外科的疾患の診断・治療を学ぶことができるユニークな教科書)と訳者のきめ細やかな補足解説が合わさり,本邦の読者のニーズに適した書籍になっている.
 訳者の安達洋祐氏は消化器外科医として,これまで多くの臨床・研究・教育の経験を通じて数多くの医学書の執筆,編集,さらに英文原著の翻訳に携わっており,いずれの本もその簡潔明快で,読んでいて要点がクリアーカットに頭に入ってくる洗練された内容に仕上がっている.そのため,この分野では極めて高く評価されている方であり,小生もファンの一人である.実は,この英文原書は小生も以前より購入して目を通していたのであるが,訳者の極めて適切な補足も加わり,より充実したわかりやすい内容になっている.

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原稿募集 「臨床外科」交見室

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バックナンバーのご案内

ページ範囲:P. - P.

次号予告

ページ範囲:P. - P.

あとがき

著者: 田邉稔

ページ範囲:P.392 - P.392

 今,ジョギングに凝っている.「走るなんて,そんなつまらないことを何故?」私自身も以前はそう思っていた.スポーツとは体力だけでなく,技やtacticsを競うものだと信じていたので,学生時代はサッカー部や競技スキー部に所属していた.町中で走っている人々をよく見かけるが,「無駄でつまらない努力」と無視していた.では何故ジョギングをする羽目になったのか?……それはちょうど1年前の本誌編集後記でご披露したとおりだが,まとめると……肥満体の旧友がジョギングでスレンダーなイケメンに激変→触発されてGPS付きスポーツウオッチを購入→夏休みに妙義の大自然のなかでジョギングを開始……といった具合であった.
 あれから1年,飽きっぽい私であるから,とっくに止めているはずだったが,今も週3回は走っている.しかも最初の頃は1回に4〜5 kmだったのが,最近は10 km以上になっている! 毎年元旦は川崎の実家に帰り,付近を散歩するのが私のルーチーン.母校である地元の小学校,慶應普通部,慶應高校など,思い出の場所がすべて徒歩圏内,ぐるりと歩くとだいたい8 kmである.昨年までは散歩がてらにゆっくりと時間をかけて回り,ノスタルジアに浸るというのがだいたいのパターンであった.しかし,今年は走って回ることにした.すると,景色の移り変わりの速いこと,「ノスタルジア」というよりは,昨年と変わった景色や建物を頭にインプットして,あっというまにゴ〜〜ル,8 kmなんて楽勝!! 50代半ばを過ぎ,どんどん衰える体力,記憶力,視力,体型……このまま朽ち果てるのかと思っていた.でも,「まだまだそういうわけにはいかない」という意地で続けている.「ノスタルジア」より「アミノ酸」,「感傷」より「コンチクショウ」なのである.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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