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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科74巻5号

2019年05月発行

雑誌目次

特集 JSES技術認定取得をめざせ!

ページ範囲:P.533 - P.533

 近年,消化器外科領域では胸・腹腔鏡下手術の普及がめざましく,市中病院においても胆囊摘出術にとどまらず,各臓器領域の内視鏡外科手術を安全に行うことが求められている.日本内視鏡外科学会ではこれらの手技の安全な普及をめざし,各臓器領域の技術認定制度を運用している.手術ビデオを中心とした評価は厳しく,手技が極めてスムーズに行われることが求められ,本特集論文内に各臓器別の合格率を示したが,認定取得のハードルは高い.
 手術を正確に行うためには,解剖や手順を覚えるばかりでなく,トロッカーポジションや患者の体位,デバイスの使用方法,術野展開,スコピストや助手との連携を深く理解して身につける必要がある.本特集では各臓器領域の班長と合格者に執筆いただき,洗練された内視鏡外科手術手技の習得方法を,図や写真,ビデオ(動画)もまじえてご披露いただいた.研修医から一般・消化器外科医,さらにはこれからJSES技術認定取得をめざす若手外科医にとって本特集が座右の書となれば幸いである.

日本内視鏡外科学会技術認定制度のコンセプト

著者: 森俊幸 ,   山川達郎 ,   木村泰三 ,   小西文雄 ,   万代恭輔

ページ範囲:P.534 - P.539

【ポイント】
◆日本内視鏡外科学会技術認定制度は学術団体が外科医の技量を評価判定しようとする,世界に類例を見ない試みである.
◆基本コンセプトは診療科横断的に共有されており,高難度手術を企画し,後進を指導しながら安全に完遂できる能力を評価している.
◆認定申請書ベースの検討では,技術認定取得者は非取得者に対して手術短期成績がアウトパフォームしている.
◆2人の審査員間の審査一致率などの統計指標が継続的に検討されており,より再現性の高い審査を目指している.

共通基準の項目と評価ポイント

著者: 森俊幸 ,   山川達郎 ,   木村泰三 ,   小西文雄 ,   万代恭輔

ページ範囲:P.540 - P.546

【ポイント】
◆手術手技は手術の種類にかかわらず共通であるとの認識から,技術認定審査基準から術野展開や基本手技を切り出して,共通基準として審査している.
◆共通基準では術者の主体性や指導性も評価項目となっている.
◆手技の巧緻性を評価する項目はなく,手術チームとしてスムースで安全な手術が行われているかを審査している.
◆審査術式には必ずしも縫合結紮が必要でないものも含まれるが,両手の協調性を審査するために,腹腔鏡下縫合結紮手技に10点が配点されている.

臓器別:胃

技術審査委員からのアドバイス

著者: 小嶋一幸

ページ範囲:P.547 - P.551

【ポイント】
◆提出症例は,BMI 20以下ような痩せた簡単な症例ではなく,適度に内臓脂肪がある症例を提出したほうがよい.
◆胃の臓器別審査基準を読んで,申請者にとって不利な症例を提出することがないように注意したい.
◆指導者認定なので,遂行できるレベルでは不十分であり,臨床解剖,エナジーデバイスの適切な使用法,場の展開などを熟知し,助手やカメラオペレーターを指導しながら,円滑に手術が進められるかを評価している.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2022年5月末まで)。

合格者が語る認定取得の実際—腹腔鏡下幽門側胃切除術,D1+郭清,B-Ⅰ再建(デルタ吻合)

著者: 山本和幸 ,   鈴木善法 ,   川原田陽 ,   北城秀司 ,   奥芝俊一 ,   海老原裕磨 ,   倉島庸 ,   村上壮一 ,   七戸俊明 ,   平野聡

ページ範囲:P.552 - P.555

【ポイント】
◆技術認定制度の採点方式が減点式であり,各種局面における減点対象を把握しておくこと.
◆質の高い手術を提供するために,技術認定制度の要点を認識すること.
◆技術認定制度の要点は安全に腹腔鏡下胃切除術を行うためのエッセンスである.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2022年5月末まで)。

臓器別:食道

技術審査委員からのアドバイス

著者: 小澤壯治

ページ範囲:P.556 - P.560

【ポイント】
◆食道癌の症例選択は,cStage Ⅰ-Ⅲ,サルベージ手術ではない,胸腔内癒着がないか軽度,高度肥満でない,前後径の短い胸郭でないに留意する.
◆食道癌では反回神経周囲リンパ節郭清に最大限の注意を払い,出血の少ない,dryな術野を心がける.
◆胃食道逆流症・食道裂孔ヘルニアと食道アカラシアでは迷走神経の温存と,上手な縫合結紮操作,食道アカラシアでは適切な筋層切開を心がける.

合格者が語る認定取得の実際—内視鏡下(胸腔鏡,腹腔鏡)食道亜全摘,胃管再建

著者: 馬場祥史

ページ範囲:P.562 - P.566

【ポイント】
◆グループとして術式の定型化を図り,“丁寧”で“スムーズ”な手術を心掛けた.
◆頻回なガーゼ交換や,重要解剖の鉗子での指示など,きれいで意図が明確に伝わる手術ビデオになるよう意識した.
◆症例は限られるので,トロッカー配置の写真を撮り忘れないようにするなど,全症例を提出ビデオにするつもりで臨んだ.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2022年5月末まで)。

臓器別:大腸

技術審査委員からのアドバイス

著者: 黒柳洋弥 ,   戸田重夫

ページ範囲:P.567 - P.571

【ポイント】
◆上達への近道は,まず熟練者の手術を真似することである.
◆審査ビデオ撮影のために特別な対応をするのではなく,常に審査ビデオ,学会発表ビデオを撮影するつもりで手術に臨む.
◆自分の手術ビデオを編集すると,改善点がわかってくる.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2022年5月末まで)。

合格者が語る認定取得の実際—腹腔鏡下直腸高位前方切除術

著者: 岩本哲好

ページ範囲:P.572 - P.580

【ポイント】
◆技術認定制度は「指導医たるかどうか」を評価される試験であることをまず認識する.
◆エキスパートの手術を完全にコピーできるよう,普段の手術からチームで意識の共有を図って修練する.
◆申請ビデオでは,術者の「主体性」と「指導性」を強調して音声なしのビデオでも伝わるように工夫する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2022年5月末まで)。

臓器別:胆道

技術審査委員からのアドバイス

著者: 森俊幸 ,   橋本佳和 ,   阪本良弘 ,   阿部展次 ,   徳村弘実

ページ範囲:P.582 - P.589

【ポイント】
◆ラパコレは,現在でも術中胆道損傷の頻度が高い.胆道損傷は術中解剖の誤認により起こることが示されている.
◆技術認定(胆囊摘出術)では,術中の解剖誤認を起こさない方策としてcritical view of safety(CVS)を重視している.
◆CVSは胆囊管・胆囊動脈のskeletonizationだけでなく,胆囊頸部の胆囊板からの剝離が重要である.頸部剝離を先行する術式が安全である.
◆総胆管結石に対する腹腔鏡下手術は乳頭機能を温存できるメリットがあり,特に若年,壮年では考慮すべき術式である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2022年5月末まで)。

合格者が語る認定取得の実際—腹腔鏡下胆囊摘出術

著者: 柏﨑正樹 ,   小松久晃 ,   岩瀬和裕

ページ範囲:P.590 - P.595

【ポイント】
◆剝離層は胆囊壁から決して離れてはならない.
◆まず正しく「型」を習得する.それから経験を積み応用力を養う.「Tokyo Guideline 2018」を座右に1)
◆LCの修練を通じて,「層」と「面」を常に意識する手術の習得を目指す.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2022年5月末まで)。

臓器別:ヘルニア

技術審査委員からのアドバイス

著者: 早川哲史

ページ範囲:P.596 - P.601

【ポイント】
◆鼠径ヘルニア領域の審査では,合併症がなく安全で質の高い手術を若手外科医に教育的な指導ができる能力を兼ね備えているかを認定している.
◆非常に難症例の手術が完遂できる,単孔や細径手術などで名人芸のような操作ができるなどの特殊な技術を評価する審査ではない.
◆術者とカメラオペレーターとの2名によるソロサージュリー手術であるが,術者だけの技術だけではなく,カメラオペレーターへの教育的指導力も審査される.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2022年5月末まで)。

合格者が語る認定取得の実際—TAPP

著者: 中野敢友 ,   三村直毅 ,   松本聖 ,   藤田脩斗 ,   吉田弥正 ,   谷悠真 ,   松原啓壮 ,   井谷史嗣

ページ範囲:P.602 - P.607

【ポイント】
◆複数のエキスパートのビデオを繰り返し見て覚える.
◆すべての手技を定型化する(基本があってこその応用).
◆縫合結紮はドライボックスでの地道なトレーニングが大切である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2022年5月末まで)。

臓器別:肝臓

技術審査委員からのアドバイス

著者: 本田五郎 ,   板野理

ページ範囲:P.608 - P.612

【ポイント】
◆肝切除手技と腹腔鏡手技の両方において指導者たりうる十分な習熟度が求められる.
◆臓器の授動や体位の工夫により,安全な術野を確保して肝切除を行う.腹腔鏡手術であることを理由に不十分な術野に妥協しない.
◆肝実質切離手技の基本は,肝内脈管(Glisson枝と肝静脈)の掘り出し(発掘)と適切な処理(離断や止血)の繰り返しである.
◆常に患者本位の診療を行うことが最も重要であり,審査のために患者に対する不利益が発生してはならない.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2022年5月末まで)。

合格者が語る認定取得の実際—腹腔鏡下肝S6部分切除

著者: 小倉俊郎 ,   伴大輔 ,   小川康介 ,   小野宏晃 ,   光法雄介 ,   工藤篤 ,   田邉稔

ページ範囲:P.613 - P.617

【ポイント】
◆症例,術式の選択が重要であり,あえて難易度の高い術式を選ぶより,低難度手術を確実に遂行することをめざす.
◆スコープと鉗子の干渉はビデオの質を著しく低下させるため,スコープ用ポートの配置位置を十分検討する.
◆本術式は個人の能力のみならずチーム力が問われるため,日頃から施設内での術式の習熟を図る必要がある.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2022年5月末まで)。

臓器別:膵臓

技術審査委員からのアドバイス

著者: 高折恭一 ,   長井和之 ,   増井俊彦 ,   海道利実 ,   田浦康二朗 ,   秦浩一郎 ,   瀬尾智 ,   加茂直子 ,   八木真太郎 ,   石井隆道 ,   伊藤孝司 ,   福光剣 ,   穴澤貴行 ,   小木曽聡 ,   上本伸二

ページ範囲:P.618 - P.624

【ポイント】
◆提出ビデオの術式は腹腔鏡下尾側膵切除術で,脾合併切除または脾温存のどちらでもよいが,随伴性膵炎や浸潤を伴う高難度の症例は審査では不利になる可能性がある.
◆膵体尾部の後腹膜からの授動では膵背側の疎性結合織(無血管野)内を出血なく正しい層で剝離していることが求められる.Toldtの癒合筋膜に関する解剖を十分に理解して,剝離操作を行うことが望ましい.
◆自動縫合器による膵切離操作では,ゆっくりかつ慎重に自動縫合器を操作し,ステープルライン以外での膵実質の破断を避けることが重要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2022年5月末まで)。

合格者が語る認定取得の実際—腹腔鏡下膵体尾部切除(膵脾合併切除)

著者: 木村健二郎 ,   天野良亮 ,   大平豪 ,   山添定明 ,   田内潤 ,   新川寛二 ,   田中肖吾 ,   竹村茂一 ,   久保正二 ,   大平雅一

ページ範囲:P.625 - P.629

【ポイント】
◆技術認定医申請ビデオにおいて重要なポイントは,ドライな視野を保ちつつ,スムーズに手術を進行し,危険な操作は行わないことである.
◆術者の技量のみならず,助手とスコピストを含めた手術チームの総合力が求められる.
◆ブラインド操作でのエネルギーデバイスの使用とクリッピング操作は禁忌である.常にデバイスの先端を確認することが重要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2022年5月末まで)。

FOCUS

ちょっとわかりにくい「非劣性試験」の読み解き方

著者: 水澤純基

ページ範囲:P.630 - P.633

はじめに
 一般に,新たな標準治療を決めるための検証的第Ⅲ相試験のデザインは,試験治療と試験計画時の最善の治療法(標準治療)を比較するランダム化比較試験である.ランダム化比較試験のうち,試験治療が腹腔鏡下切除術のように標準治療に対してリスクが低い場合に,primary endpoint(通常,周術期のがんを対象とした臨床試験であれば,全生存期間や無再発生存期間などの有効性のエンドポイントを設定する)で一定以上劣っていないことを示すことを目的とした試験を“非劣性試験”という.非劣性試験は,そもそもどのようになったらpositive試験と言ってよいのかがわかりにくく,また得られたKaplan-Meier曲線の印象から得られる臨床的解釈と統計的解釈が乖離することもあり,わかりにくいという声を耳にすることも多い.
 そこで本稿では,筆者が関わった日本臨床腫瘍研究グループ(Japan Clinical Oncology Group:JCOG)で行われた,がんを対象とした外科手術手技に関するランダム化比較非劣性試験を例にして,得られた結果からどのような結論・解釈を導くことができるのか順に説明する.
 なお,本稿では必要な仮説検定や生存時間解析の知識を適宜補うものの,それらの詳細はICRweb〔www.icrweb.jp〕などを適宜参照されたい.

Reduced Port Surgery—制限克服のための達人からの提言・17

単孔式腹腔鏡下胃全摘術—T吻合による食道空腸吻合

著者: 大森健 ,   山本和義 ,   新野直樹 ,   矢野雅彦

ページ範囲:P.634 - P.639

はじめに
 近年の光学機器や技術の進歩により,胃癌に対する腹腔鏡下胃切除術は広く普及してきている.比較的難易度の高い上部胃癌に対する腹腔鏡下胃全摘術も手技の定型化により,多くの施設で行われるようになった.
 定型化された腹腔鏡下胃切除術は5〜6か所のポートを用いて行われるが,最近のトレンドの1つとして,ポート数やポート径を減らすことでさらなる低侵襲性を目指したreduced port surgeryが挙げられる.なかでも単孔式腹腔鏡下手術(SPS)は,たった1つの臍部創から行うことで,痛みの軽減,優れた整容性をもつ究極のreduced port surgeryとされている.
 単孔式腹腔鏡下胃切除術は,大森ら1)により世界で初めて2009年に行われ,単孔式腹腔鏡下幽門側胃切除に関して,多孔式とのretrospective比較試験において,術後疼痛の軽減,合併症率の改善,術後炎症反応の軽減,術後在院日数の短縮などでより低侵襲性が示されている2).また,進行胃癌に対する長期予後に関しても同等であるとの報告もなされており3),胃癌に対する低侵襲手術として期待度が高いと考えられる.
 しかしながら,単孔式腹腔鏡下胃切除は,操作機器数の制限,機器の干渉,視野制限などにより,きわめて難易度が高い.そこでわれわれは,機器の干渉を可及的少なく解消するために,郭清手技のパートごとにカメラ,操作鉗子,エネルギーデバイス,助手の鉗子の配置を設定し,定型化している4).吻合法に関しては,われわれが考案したEST法や新三角吻合5,6)を応用した吻合を行っている.
 今回,われわれが行っている単孔式腹腔鏡下胃全摘術の郭清手技,Roux-en Y再建の手技のコツについて述べたい.

病院めぐり

恵寿総合病院消化器外科

著者: 佐藤就厚

ページ範囲:P.640 - P.640

 社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院は,石川県七尾市に位置し,その沿革は,1934(昭和9)年に,「いつでも,誰でも,たやすく安心して診療を受けられる病院にする」という創業精神にのっとって設立された神野病院にはじまります.その後変遷を経て,現病院名に改称した後も,さらに成長・発展を続け,現在は地域とともに医療ばかりではなく,「先端医療から福祉まで『生きる』を応援します」をミッションとした,介護・福祉・保健の複合体グループ“けいじゅヘルスケアシステム”の中核病院として,地域のニーズに応えています.
 医療・介護統合電子カルテの構築やPHR(Personal Health Record)の導入などICTの活用に力を入れるだけでなく,病院内コールセンターの設置により,グループ内のサービスを切れ目なく提供しています.病床数は426床で,急性期を主体(HCU10床,急性期病床282床)として,回復期に至るまで,幅広く診療を行っています.

臨床報告

腹部大動脈ステントグラフト留置術後遠隔期の胃穿孔によるショックに伴った左側結腸壊死の1例

著者: 丹羽真佐夫 ,   林昌俊 ,   栃井航也 ,   高橋啓 ,   川村紘三

ページ範囲:P.641 - P.644

要旨
症例は78歳の男性.約2年半前に腹部大動脈瘤に対して他院で腹部大動脈ステント留置術(endovascular aneurysm repair:EVAR)の既往があった.当院消化器内科で下痢・多発肝腫瘍の精査入院中に多発出血性胃潰瘍を併発した.連日止血術を施行されたが,2日後に腹痛・発熱が出現し,胃潰瘍穿孔の診断で外科転科し同日緊急手術を施行した.胃体下部小彎前壁に約1 cm大の穿孔部を認めた.また下行結腸からS状結腸まで壊死を認めたため幽門側胃切除術と結腸左半切除術を施行した.EVAR後に下腸間膜動脈の閉塞が生じ,血流の予備能が低かった左側結腸が,胃穿孔によるショックで壊死に陥ったと推察された.

異なる吻合法でも2度繰り返した下部消化管吻合部狭窄に対しステロイド投与が有効であった1例

著者: 経田淳 ,   名倉慎人 ,   丸銭祥吾 ,   角谷直孝

ページ範囲:P.645 - P.650

要旨
下部消化管手術で2度繰り返した吻合部狭窄に対し,ステロイド投与が有効であった症例を経験した.症例は68歳男性でS状結腸癌に対し腹腔鏡下手術を施行した.再建は自動縫合器を用い機能的端々吻合で行った.術後20病日に吻合部狭窄によるイレウスのため,横行結腸に双口式人工肛門を造設した.経時的に狭窄は改善したため,人工肛門閉鎖術を施行した.再建は手縫いの層別二層による端々吻合で行った.しかし,その手術後11病日に再度吻合部での狭窄をきたしイレウス状態となった.そこで経肛門的イレウス管留置およびステロイド局注と全身投与を行った.その後狭窄は速やかに軽快し,再狭窄もきたさなかった.

1200字通信・130

医療とGW

著者: 板野聡

ページ範囲:P.561 - P.561

 今年もまたゴールデン・ウィーク(GW)がやってきます.特に今年は,天皇陛下のご退位と新天皇のご即位ということで,元号も変わり,記憶に残る5月となっているはずです.
 実は,この原稿を書き始めてしばらくした2018年10月12日に,即位の儀がある5月1日は祝日扱いに決まりました.「1年限りの祝日」ということですが,その前の土曜日を含めると(世間は週休2日が当たり前のように言うのには閉口します)10連休になるといいます.随分長い連休となり,政府でも経済活動に支障が出る懸念があると検討する気配もありましたが,結局,12月7日に「10連休法」(そのまんまですね)として成立しました.

昨日の患者

同僚に看取られた師長さん

著者: 中川国利

ページ範囲:P.607 - P.607

 死を迎える際には家族が付き添い,各家のしきたりに従って葬儀を行うのが常である.しかし身内がいない師長を職場の同僚が看取り,野辺送りをした事例を紹介する.
 40年以上も前のことであるが,研修医時代の外科病棟師長Kさんは優秀で,厳しいながらも病棟の看護師から慕われていた.子宮癌となり3年ほど経って,全身の骨に転移をきたした.しかしながら鎮痛剤を飲み,天職である看護に邁進した.また当時は有効な癌化学療法は確立されてなく,再発患者には経口抗癌剤を気休めに処方するのが常であった.そしてわれわれ研修医は患者に「良い薬がありますから,飲んでみましょう」,家族には「進行が少しは遅くなるかもしれませんが,あまり期待できません」と語った.傍に同席するK師長も同じ抗癌剤を内服しており,心境を察するに余りがあった.

ひとやすみ・176

外科医の働き方改革

著者: 中川国利

ページ範囲:P.639 - P.639

 長時間労働による過労死が社会問題となり,働き方改革が大きな話題となっている.しかしながら医師不足もあり,医師の働き方改革は棚上げの状態である.特に外科医の勤務では長時間にわたる時間外勤務や拘束が日常茶飯であり,労働環境は医師の中でも過酷である.
 外科医の労働環境が劣悪な理由は,受け持ち患者の急変,また救急患者への対応が常に求められことが挙げられる.さらに日本の慣例である,受け持ち患者の全責任を主治医が担う主治医制が挙げられる.すなわち重篤な患者を受け持つと,緊張状態が昼夜を問わず限りなく続くことになる.打開策としては複数の医師によるグループ診療が望ましく,看護師のような三交代制が理想である.

書評

—洛和会音羽病院救命救急センター・京都ER(編) 宮前伸啓(責任編集) 荒 隆紀(執筆)—京都ERポケットブック

著者: 佐藤信宏

ページ範囲:P.581 - P.581

 「山椒は小粒でもぴりりと辛い」は,小さくても才能や力量が優れていて侮れないことを例えることわざです.『京都ERポケットブック』はまさにそのものです.
 ポケットに入る大きさにもかかわらず,主訴別アプローチ,診断の参考になるclinical prediction ruleに加えて,ABC-VOMITアプローチ,問診の大動脈AORTAやTUNA FISHなど数多くのmnemonic(このmnemonicが何を意味するのか気になる方は,ぜひ手に取ってみてください)など膨大な内容が収まっています.各情報に参考文献も載っていて,ただのマニュアル本でもありません.しかも,カラー,図表が多く,読みやすい!

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目次

ページ範囲:P.530 - P.531

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.539 - P.539

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.654 - P.654

次号予告

ページ範囲:P.655 - P.655

あとがき

著者: 田邉稔

ページ範囲:P.656 - P.656

 この原稿を執筆しているのは平成31年3月,もうすぐ新しい元号が4月1日に発表され,5月1日には新天皇が即位する.テレビや雑誌など,さまざまなメディアで平成を振り返る特集が組まれている.さて,外科学にとって,平成はどのような時代であったのか? 今から30年前の平成元年,西暦1989年は,私にとって最も思い出深い年である.当時医師になって4年目,駆け出しの消化器外科医であった私は,その年の10月26日に衝撃的な事件…島根医科大学の永末直文先生が行った本邦初の生体肝移植を報道で目にした.そのころはまだ肝臓外科の黎明期,無輸血で父親の肝臓を切除し,血管や胆管を吻合して子供の肝臓と取り替えるなど,“SF小説か漫画の世界でしかありえない手術”であり,社会的にもインパクトは相当なものであった.1980年代はサイクロスポリンが拒絶の制御を可能とし,外科的な手技の発達と相まって臓器移植の成功率が目覚ましく向上した時代である.その流れの中で,1988年に世界初の生体肝移植がブラジルで行われたわけで,翌年1989年に初めてわが国で行われた生体肝移植は,当時の自分にとって偶然の出会いと思われたが,ある意味必然だったのかもしれない.
 翌年の1990年9月には,もう一つの革命的手術…腹腔鏡下胆囊摘出術が帝京大学の山川達郎先生によって行われた.世界初の同手術は1987年,フランスのDr. Mouretによって行われたので,その3年後ということになる.私が初めてこの手術を耳にしたのは1990年2月,伊勢で行われた日本消化器外科学会総会に参加した時である.カナダ留学から帰国したばかりの先輩,大上正裕先生が目をキラキラ輝かせながら,われわれ若手の前で熱く語っていたのを思い出す.「ボストンまで腹腔鏡下胆摘を見に行ったのだけど,次は絶対にこれが来るぞ,オヌシらわかるか!」.当時の私には何が凄いのか理解できなかったが,その後の鏡視下手術の隆盛を見れば,如何に大上先生に先見の明があったかが良くわかる.大上先生は日本の腹腔鏡下手術の創始者の一人であり,その貢献を称え,日本内視鏡外科学会に大上賞が創設された.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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