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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科74巻6号

2019年06月発行

雑誌目次

特集 肛門を極める

ページ範囲:P.661 - P.661

 肛門疾患は非常にバラエティに富んでおり,診断だけでなく治療法の選択にも苦慮することがある.肛門疾患は患者の満足が得られなければ長い治療期間を要することもあり,個々の患者にとって最善の治療を選択することが必要である.近年の直腸癌手術の進歩により,下部直腸〜肛門の外科解剖にも新たな知見が得られつつある.本特集では,初学者でも理解しやすいように肛門の疾患および治療について解説していただいた.読者の方々には,ぜひ本特集を読破して肛門を極めていただきたい.

総論

肛門疾患の診察法

著者: 松島誠 ,   岡本康介 ,   深野雅彦 ,   下島裕寛 ,   河野洋一 ,   松村奈緒美 ,   杉田博俊 ,   香取玲美 ,   鈴木裕 ,   山下昌次 ,   宋江楓 ,   若林秀幸 ,   彦坂吉興 ,   紅谷鮎美 ,   渡邊陽太郎 ,   松島小百合 ,   鈴木和徳 ,   黒水丈次

ページ範囲:P.662 - P.666

【ポイント】
◆肛門疾患の診察では,羞恥心と疼痛に十分に配慮した環境と診療が重要である.
◆患者の訴えは様々な形で表現されるので,その意味するところを正確に判断し,常に症状と所見との整合性を追求し安易な外科治療は慎む.
◆肛門悪性疾患の初期症状は,肛門疾患の90%を占める良性疾患の症状に近似する.

肛門疾患の診断

著者: 黒田敏彦

ページ範囲:P.667 - P.674

【ポイント】
◆肛門疾患のなかには,単なる痔核や裂肛であっても,漫然と肛門鏡や肛門指診を行ったのでは診断のつきにくいものが存在する.
◆そのようなわかりにくい病変を正しく診断するためには,肛門の解剖や肛門疾患の病態を理解したうえでの系統的な診察が必要となる.
◆そのうえで,患者の主訴をよく確認し,患者が最も困っている病変を的確に治療するように心がけることが重要である.

直腸・肛門の外科解剖

著者: 前田耕太郎 ,   小出欣和

ページ範囲:P.676 - P.680

【ポイント】
◆直腸肛門部の支持・固定は,直腸周囲の筋膜と内外肛門括約筋を支持する筋肉群や靱帯によって行われている.
◆内肛門括約筋,連合縦走筋は自律神経支配の不随意筋であり,外肛門括約筋,肛門挙筋は体性神経支配の随意筋である.発生学的には肛門の歯状線で上下に分けられ,組織学的特性や神経・血行の支配が異なる.
◆直腸肛門周囲の組織間隙や肛門腺が,肛門周囲膿瘍の形成,進展に関与しているので,部位の理解が重要である.

肛門機能測定法

著者: 山口恵実 ,   山名哲郎 ,   積美保子 ,   佐藤和子 ,   中村美紅 ,   木村友香 ,   鵜沼清仁 ,   神部拓人 ,   佐原力三郎

ページ範囲:P.681 - P.685

【ポイント】
◆直腸肛門内圧検査では,内肛門括約筋機能の指標となる肛門管静止圧,外肛門括約筋機能の指標となる随意収縮圧を測定する.
◆肛門管超音波検査では内外肛門括約筋を描出できるため,肛門括約筋の損傷部位を診断するのに有用な検査である.
◆排便造影検査は便排出時の直腸の動的な形態を観察できる検査で,便排出障害型の便秘の診断に有用である.

直腸癌術後の肛門機能

著者: 山田一隆 ,   高野正太 ,   佐伯泰愼 ,   岩本一亜 ,   福永光子 ,   田中正文 ,   野口忠昭 ,   中村寧 ,   深見賢作 ,   濵田博隆 ,   辻順行 ,   高野正博

ページ範囲:P.686 - P.690

【ポイント】
◆直腸癌に対する自然肛門温存手術は,根治性とともに術前肛門機能評価により適応を決定すべきである.
◆肛門機能に関しては,臨床症状の評価,QOLの評価,および直腸肛門機能検査によって評価される.
◆術後便失禁に対しては,専門的保存療法,電気刺激療法(PTNS, TaES),外科治療(SNM)で対応すべきである.

診断と治療

痔核の保存的治療

著者: 田中彰 ,   岡田和丈 ,   齋藤剛太 ,   宮北寛士 ,   大宜見崇 ,   陳凌風 ,   亀井佑太郎 ,   鈴木俊之 ,   貞廣荘太郎 ,   山本聖一郞

ページ範囲:P.691 - P.696

【ポイント】
◆症状の軽い痔核と治療後の再発予防には,生活習慣の改善指導が有用である.
◆外用薬の使い分けでは,ステロイド配合の有無および局所麻酔成分の有無に留意し,急性期では坐薬より軟膏が使いやすい.
◆硫酸アルミニウムカリウム・タンニン酸(ALTA)硬化療法の適応は幅広いが,万能ではないので,ゴム輪結紮法などにも習熟する必要がある.

痔核の外科的治療

著者: 松尾恵五 ,   新井健広 ,   岡田滋 ,   鵜瀞条 ,   川西輝貴 ,   柴田淳一

ページ範囲:P.698 - P.706

【ポイント】
◆痔核の治療法選択のためには痔核の病態の理解が必要であり,内痔核が発育・進展するなかで肉眼形態が変化することを概説した.
◆外科的治療のうち汎用されている結紮切除術とALTA注射療法,およびその併用療法について解説した.
◆痔核ごとに最適の治療法を選択することにより,根治性と安全性を両立させることが求められている.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2022年6月末まで)。

裂肛

著者: 山腰英紀

ページ範囲:P.707 - P.711

【ポイント】
◆裂肛は薬物や排便管理による保存的治療が基本であるが,治癒するまで根気よく行う必要がある.
◆疼痛が非常に強い場合,保存的治療で治癒しない場合や強度の肛門狭窄は,手術治療を行う.
◆手術治療には,用手拡張,皮垂・見張り疣や肛門ポリープを含めた裂肛切除,SSG法などがあり,病状によって選択する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2022年6月末まで)。

痔瘻

著者: 栗原浩幸 ,   金井忠男 ,   赤瀬崇嘉 ,   中村圭介 ,   高林一浩 ,   赤羽根拓弥

ページ範囲:P.712 - P.717

【ポイント】
◆痔瘻の自然治癒は稀なため,基本的には手術が行われる.痔瘻の症状を取るために瘻管を処理するのが手術である.
◆痔瘻根治手術の原則は原発口,原発口から原発巣までの瘻管,原発巣を切除または開放することである.
◆術後禁制保持のためには恥骨直腸筋の損傷を避けること,原発口より頭側の内括約筋を温存することが必要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2022年6月末まで)。

痔瘻癌

著者: 植村守 ,   関本貢嗣 ,   三宅正和 ,   加藤健志 ,   池田正孝 ,   宮崎道彦

ページ範囲:P.718 - P.723

【ポイント】
◆痔瘻癌は比較的稀な疾患であり,早期診断が難しいことや治療の標準化がなされていないことなどが臨床上問題となる.本稿では,実際の症例を提示するとともに,痔瘻癌の臨床病理学的特徴や診断・治療について概説する.

クローン病の肛門病変

著者: 小金井一隆 ,   辰巳健志 ,   二木了 ,   黒木博介 ,   中尾詠一 ,   杉田昭

ページ範囲:P.724 - P.730

【ポイント】
◆クローン病の肛門病変は,下部直腸肛門部に生じた本症の潰瘍性病変とその続発性病変である.
◆治療は,直腸を中心とする腸管病変と肛門病変の両者に対して行う必要がある.
◆局所外科治療の効果が不十分である場合には,人工肛門造設術か直腸切断術を要する.
◆長期経過例では直腸肛門管癌に対する留意が必要である.

直腸脱

著者: 吉野優 ,   栗原聰元 ,   船橋公彦 ,   牛込充則 ,   金子奉暁 ,   鏡哲 ,   甲田貴丸 ,   長嶋康雄 ,   吉田公彦 ,   三浦康之

ページ範囲:P.731 - P.737

【ポイント】
◆直腸脱は,脱出による出血や疼痛,便失禁などの症状により患者のQOLを著しく低下させるが,適切な治療をすることによってQOLを大きく改善させることが可能である.
◆手術が唯一の治療法で,アプローチ法により経会陰手術と経腹手術に大別される.
◆根治性は経腹手術で優れるが,高齢が背景にあることから合併症の発生率が高くなるため,耐術能を含めた術式選択が重要となる.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2022年6月末まで)。

乳房外Paget病

著者: 阿尾理一 ,   梶原由規 ,   神藤英二 ,   望月早月 ,   岡本耕一 ,   上野秀樹

ページ範囲:P.738 - P.742

【ポイント】
◆乳房外Paget病はアポクリン腺由来あるいは表皮内のmultipotential germ cell由来の癌である原発性と,直腸・肛門管癌などの上皮内進展(いわゆるPagetoid spread)による続発性(二次性)に分けられ,治療や予後が異なることから,両者を鑑別することが重要である.
◆原発性乳房外Paget病の治療は外科的切除が原則である.術前マッピング生検による病変範囲の確定後に完全切除を行うが,肛門周囲の病変については排便機能を考慮した慎重な術式選択が必要である.
◆手術困難例に対しては,化学療法や放射線療法以外に光線力学的治療やイミキモド外用療法などが治療オプションとなりうる.

尖圭コンジローマ・肛門掻痒症

著者: 張文誠

ページ範囲:P.743 - P.745

【ポイント】
◆肛門尖圭コンジローマは,ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)の低リスク型(主に6型,11型)の接触感染によって発症する性感染症の1つである.
◆肛門尖圭コンジローマの診断は視診によってなされ,治療にはイミキモドクリーム外用や外科的治療があるが,再発率は低くない.
◆肛門掻痒症には非感染性の症例が多く存在し,原因となる物質を同定したうえで,治療に際しては患者指導が特に重要である.

肛門異物に対する処置

著者: 八木貴博 ,   松田圭二 ,   橋口陽二郎

ページ範囲:P.746 - P.748

【ポイント】
◆肛門異物の多くは性的嗜好によるものである.羞恥心があるため自身での申告や経緯は曖昧なことが多く,挿入異物の種類,サイズは多岐にわたる.
◆X線やCTなどの画像検査で穿孔の有無,異物のサイズ,局在を確認する.穿孔があれば緊急での開腹手術となる.
◆穿孔が確認されなければ用指的,内視鏡的除去を試みる.除去困難であれば麻酔下に除去を試みる.開腹手術による除去が必要となる可能性もある.

FOCUS

電気メスの基礎知識と安全使用

著者: 本間崇浩 ,   渡邊祐介

ページ範囲:P.750 - P.754

はじめに
 現代の手術において,電気メス(モノポーラ),アドバンスドバイポーラ,超音波凝固切開装置などのエネルギーデバイスは必要不可欠である.これらは手術の質と,安全性を高める一方で,使用法を誤れば患者を危険に陥れる可能性がある.今や外科医のみならず内科医も内視鏡下処置,カテーテル治療などで日常的にエネルギーデバイスを使用する時代である.その原理や基礎知識を知ったうえで使用することが望ましいが,経験年数を問わず知識が不足している現状が明らかになっている1,2)

Reduced Port Surgery—制限克服のための達人からの提言・18

単孔式-LECS(T-LECS)

著者: 北城秀司 ,   住吉徹哉 ,   川原田陽 ,   川田将也 ,   鈴木善法 ,   林諭史 ,   才川大介 ,   佐藤大介 ,   櫛引敏寛 ,   森大樹 ,   藤井亮爾 ,   横山啓介 ,   郷雅 ,   西條優作 ,   鎌田豊 ,   近藤仁 ,   奥芝俊一

ページ範囲:P.755 - P.761

はじめに
 当院では2004年から欧州スタイルの3トロッカー・ソロサージェリーによるreduced port surgeryを大腸切除に導入した.2008年からさらに整容性を追求した単孔式手術1)を開始して胆囊摘出術,2009年には大腸切除そして胃切除などに応用した.道具の進歩と技術の向上において,現在安全に鏡視下手術に応用されている.2010年より胃SMTに対してT-LECS2)を導入して症例を重ねている.今回は,適応症例と手術手技について報告する.

病院めぐり

龍ヶ崎済生会病院外科

著者: 小林昭彦

ページ範囲:P.762 - P.762

 当院のある龍ケ崎市は,茨城県南部に位置する人口7万7000人程度の街で,特にこれといった産業や名産品はありません.ただ,都心から約45 kmと“そこそこ”の距離ということで,1981年(当時は周囲にイノシシが住んでいたというくらい,のどかな場所でした)にベッドタウンとして開発されたことで人口が“そこそこ”増えました(計画当初は30万人を見込んでいたとのこと).周囲の市には,地域の中核となる総合病院がありながら龍ケ崎市にはなく,人口増加とともに市民の要望が高まり,2001年12月に当院が開院しました.ほとんどの医師は筑波大学より派遣されており,開院当初は急性期総合病院としてその役割を担っておりましたが,昨今の医師不足(偏在),専門医制度の変更,などにより診療を縮小せざるを得ない状況に陥っております.
 われわれ外科もその波にあらがえず,時折筑波大学からの学生実習を受け入れたり,他科(救急など)からの消化器外科研修を年単位で受け入れたりしておりますが,現在は消化器外科医3名で診療を行っております.幸い消化器内科のアクティビティが高く,内視鏡検査や化学療法は快く引き受けてくれるため,われわれは手術と補助化学療法さえ行っていればよく大変助かっております.このような環境で,年間400件前後の手術をこなしております.

臨床報告

画像上自然消失が観察された多発肝細胞癌および腹膜播種の1例

著者: 藤川幸一 ,   藤城健 ,   牧野治文 ,   中山馨 ,   山本穣司 ,   中山順今

ページ範囲:P.763 - P.767

要旨
78歳の男性.HCV抗体陽性.肝S8の3 cm大の肝細胞癌破裂に対し緊急transcatheter arterial embolization(TAE)を施行した.その後,肝部分切除は拒否された.6か月後,腹膜播種からの出血を発症し,開腹腫瘤切除術を施行し肝細胞癌腹膜播種を病理でも確認した.さらに3か月後に多発肝転移,多発腹膜播種再発を発症したが,さらなる治療は拒否されたため緩和医療に移行した.1年半後のCTにて肝腫瘤,腹膜播種腫瘤の完全消失を認めた.無治療下における,腹膜播種を伴う肝細胞癌の自然消失の報告は初である.

陰圧閉鎖療法の工夫による難治性鼠径部リンパ漏の1治療例

著者: 岡本暢之 ,   嶋田徳光 ,   矢野雷太 ,   渡谷祐介 ,   大毛宏喜 ,   末田泰二郎

ページ範囲:P.768 - P.771

要旨
50代,男性.悪性リンパ腫に対する鼠径部リンパ節生検術後5日目に鼠径部のリンパ漏を発症した.原因となるリンパ管の同定が困難であり,外科的治療による治癒が困難であることが考えられたため,陰圧閉鎖療法(NPWT)を選択した.開始17日目で排液はほぼ認めなくなり,26日目に有害事象なくNPWTを終了した.また,下腿浮腫も短期間での著明な改善を認めた.NPWT終了後3か月現在,再発は認めていない.罹患部位が鼠径部であっても,外科処置後のリンパ漏に対する治療としてNPWTは有用な選択肢であると考える.今後は適切な陰圧設定や治療期間の短縮化が課題である.

腹腔鏡下に診断治療した金属性調理用ザルの破片による消化管穿孔の1例

著者: 高橋徹 ,   松井博紀 ,   水上達三 ,   大畑多嘉宣 ,   橋本卓 ,   阿部厚憲

ページ範囲:P.772 - P.775

要旨
症例は45歳,女性.1か月前から持続する左側腹部痛を主訴に受診,CTにて脾彎曲腸管外に線状高吸収域を認め魚骨穿孔が疑われた.腹痛は軽度でfree airもないため,待機的に審査腹腔鏡を施行した.臍部より単孔式で腹腔内を観察したが,異物や炎症所見を認めなかった.透視下で脾彎曲大網内に埋没した金属性異物を認めた.周囲膿瘍もなく可動性良好であったため,臍部より大網とともに摘出した.金属片は周期的な陥凹を有し網目構造の破片が考えられた.職場で使用中の破損した調理用ザルを確認したところ,同一の陥凹であった.健常成人で偶発的に金属性ザルの破片を誤飲し消化管穿孔をきたすことは稀であり,文献的考察を加えて報告する.

エノキタケによる食餌性イレウスをきたしたMeckel憩室の1例

著者: 小田切理 ,   稲葉行男 ,   柴崎弘之 ,   滝口純 ,   佐藤清 ,   林健一

ページ範囲:P.776 - P.778

要旨
症例は51歳の男性.腹痛を主訴に当院救急外来を受診した.腹部造影CT検査で拡張した小腸の先端部に盲端構造を認め,Meckel憩室に関連した腸閉塞の診断で緊急開腹手術を行った.Meckel憩室から口側腸管にかけて消化されていないエノキタケが充満し,腸閉塞に陥っていた.ほかに明らかな閉塞機転を認めず,憩室楔状切除と腸管内容除去を行った.病理組織学的に異所性組織を伴わないMeckel憩室であった.術後第9病日に居住地近くの病院に転院し,術後第15病日に自宅退院となった.Meckel憩室に関連した腸閉塞の症例に遭遇した場合,食餌性腸閉塞の可能性も考慮すべきであると思われた.

ひとやすみ・177

トラウマ転じて権威者となる

著者: 中川国利

ページ範囲:P.675 - P.675

 苦境に立たされさまざまな批判を浴びると,後々まで苦い思い出となり,同じ境遇に陥ると身構えがちになる.しかしトラウマも時を経ると全てが肥やしとなり,さらにはその道の権威となる.
 老練の外科教授らに対抗し,全国の血気盛んな若い外科医らが胆道外科研究会を創設し,第一回として術中胆道損傷についてだけ丸一日討議することになった.その栄えある初回の演題番号第一席を,当時研修3年目の私が務めることになった.臨床経験が少なく,いわんや胆道損傷も未経験であったが,研修施設の成績や治療方針などを報告した.そして質問時間を大幅に延長して質疑の集中砲火を浴びた.学会で常に威勢の良い発言を行い,物議を醸す外科ボスが不在であり,孤立無援な私は返答に苦慮した.同情した司会者から,「これからも同じ内容の演題が続きますので」と,救済の手が差し伸べられ,苦境から脱することができた.帰院後に外科ボスに報告すると,「研修医には厳しすぎる.俺が必ず仇を取ってやる」と,慰められた.

昨日の患者

病室での最期の祈祷

著者: 中川国利

ページ範囲:P.690 - P.690

 現代は無信教の時代とされているが,宗教に深く帰依する患者さんも稀ながら存在する.死を迎えるにあたり,病室で厳かな祈祷を行った患者さんを紹介する.
 Yさんは80代前半の胃癌患者さんであった.3年前に胃切除を行ったが,癌性腹膜炎となり再入院した.

1200字通信・131

免疫療法の誤解—ノーベル賞受賞の陰で

著者: 板野聡

ページ範囲:P.749 - P.749

 2018年のノーベル医学生理学賞を,京都大学の本庶佑先生が受賞されました.その受賞理由は,免疫療法のひとつであるオプジーボなどの「免疫チェックポイント阻害剤」の開発に結び付く研究であり,新たながん治療への道を拓いたというものでした.
 昨年10月の受賞報道に接し,日本人の一人として誇らしく感じたことは確かですが,医療の最前線にいる医者の一人としては,即座に不安が湧いてきたことでした.何故なら,「免疫療法」の名の下に,患者さんの不安な気持ちに付け込み,法外な治療代の請求をしている施設が見受けられているからです.

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目次

ページ範囲:P.658 - P.659

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.675 - P.675

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.782 - P.782

あとがき

著者: 遠藤格

ページ範囲:P.784 - P.784

 外科医になりたての頃,先輩に頼まれていろいろな病院に当直に行きました.苦労したこと,驚いたこと,などなど今となっては懐かしい思い出です.横浜には松島病院という全国的に有名な肛門疾患専門の病院があります.肛門疾患だから急患は来ないと言われ,のほほんとした気持ちで当直に行っていました.病院の最上階にある当直室からの景色は最高に美しく,ベッドも綺麗だし,食事も美味しい素晴らしい当直でした.私の恩師は土屋周二先生で肛門直腸疾患に多くの業績をお持ちです.ですから当時の私も,門下生として肛門の知識は耳学問ですがある程度あるものと思っていたのです.ところがあるとき,術後に出血している患者さんがいると看護師さんからコールがあり,結構激しく出血していたので,やむなく常勤の先生に来ていただきました.まあ外科医1年目なのだからと自分を慰めましたが,それでも自分の力不足に悔しい思いをしました.肛門疾患には,実際にはわからないことが沢山あるのだと思い知らされたのを記憶しています.本特集は,久々に肛門の勉強をしたくなり組ませていただきました.エキスパートの方に原稿をお願いしたところ,皆さんご快諾くださいました.ご多忙のところ素晴らしい原稿を作成していただき,この場を借りて感謝申し上げます.本特集号が読者の皆さんのお役に立てましたら幸いです.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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