臨床外科74巻7号

2019年07月発行

臨床報告

大腿静脈穿刺による中心静脈カテーテルが下腹壁静脈に迷入し腹直筋壊死をきたした1例

著者： 木下春人¹ 寺岡均¹ 森拓哉¹ 長谷川毅¹ 野田英児¹

所属機関： ¹馬場記念病院外科

ページ範囲：P.883 - P.887

要旨
症例は86歳，男性．他院入院中に右大腿静脈より中心静脈カテーテルが挿入された．挿入後17日目に発熱と右側腹部の発赤，腫脹を認め，壊死性筋膜炎の診断で当院へ紹介された．精査の結果，中心静脈カテーテルの下腹壁静脈迷入に起因した腹直筋膿瘍と診断し，緊急手術を施行した．壊死した腹直筋を除去し，カテーテルを抜去した．創部より排膿が遷延したため，手術より1週間後に残存壊死組織およびカテーテルの瘻孔切除を行った．大腿静脈穿刺による中心静脈カテーテルの下腹壁静脈への迷入により腹直筋壊死をきたした稀な1例を経験した．中心静脈カテーテル留置の際は，カテーテル逸脱の可能性を常に念頭に置いておくことが重要である．

参考文献

1）松末　智：経静脈栄養法（IVH）の手引き．JJPEN 19：331-334，1997

2）萬　知子：中心静脈カテーテル関連合併症—機械的合併症と血流感染．日臨麻会誌34：11-16，2014

3）阪本研一，広瀬　一，山田卓也，他：大腿静脈より挿入したIVHカテーテルが下腹壁静脈を介して腹直筋壊死をきたした1例．日腹部救急医会誌23：525-530，2003

4）山田正樹，丹羽浩一郎，高橋　玄，他：大腿静脈より挿入したIVHカテーテルが下腹壁静脈に迷入し腹直筋膿瘍を呈した1例．日外科系連会誌32：914-917，2007

5）大野伯和，山崎悠太，中島高広，他：大腿静脈から挿入した中心静脈カテーテルの迷入による腹直筋膿瘍の1例．日臨外会誌77：687-691，2016

6）村上哲平，松井優悟，堀田健太，他：腹直筋壊死・腹水貯留に至った大腿静脈穿刺中心静脈カテーテル迷入の1例．日臨外会誌78：1640-1646，2017

7）森田　賢，上野恵子，鈴木一史，他：大腿静脈カテーテルの上行腰静脈迷入についてのX線学的検討．日腹部救急医会誌28：421-427，2008

8）中西真一，藤原純一，加賀谷結華，他：大腿静脈カテーテルの上行腰静脈迷入についての検討．日プライマリケア連会誌37：233-237，2014

9）蜂須賀康己，大森克介，宮田　真，他：大腿静脈より挿入された経静脈性高カロリー輸液カテーテルが浅腹壁静脈に迷入し皮下膿瘍を形成した1例．外科68：209-213，2006

10）伊藤栄作，吉田　正，道喜将太郎，他：肝膿瘍に中心静脈カテーテルが迷入していた1例．日血管外会誌23：941-945，2014

11）荒川創一，笠井正志，河合　伸：JAID/JSC感染症治療ガイドライン2017　敗血症およびカテーテル関連血流感染．日化療会誌66：323-340，2018

12）辰元為仁，田中宏志，大上泰典，他：中心静脈カテーテルの上行腰静脈への迷入の1例—防止策と対応についての考察—．広島医62：368-371，2009

13）日本静脈経腸栄養学会（編）：静脈経腸栄養ガイドライン第3版．照林社，2014，pp 67-69

14）Gowardman JR, Robertson IK, Parkes S, et al：Influence of insertion site on central venous catheter colonization and bloodstream infection rates. Int Care Med 34：1038-1045, 2008