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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科74巻9号

2019年09月発行

雑誌目次

特集 膵・消化管神経内分泌腫瘍—診断・治療の基本と最新動向

ページ範囲:P.1035 - P.1035

 本誌で前回,膵・消化管神経内分泌腫瘍についての特集企画を掲載したのは2015年4月号であったが,この4年間でこの疾患に対する社会的認知度が急上昇し,病態に対する理解が深まってきた.2015年に診療ガイドラインの第1版が出版され,WHO分類は2017年に膵NETの新分類が発表され,2019年に消化管NETの新分類が発表された.略称も,高分化の腫瘍(NET)と低分化の癌(NEC)を合わせてNENと呼称されるようになっている.また,診療ガイドラインの第2版も2019年に出版される予定であり,本領域への期待が高まっている.これらの流れを踏まえ,本特集では,膵・消化管神経内分泌腫瘍について,基本事項をおさえるとともに,この数年の変化,最新の動向をエキスパートの執筆者にご解説いただいた.

膵・消化管神経内分泌腫瘍の疫学,腫瘍の概念の変遷

著者: 増井俊彦 ,   上本伸二

ページ範囲:P.1036 - P.1040

【ポイント】
◆NENは1800年代後半にLanghans,Lubarschらが癌と異なる形態をもつ腫瘍として報告してきたが,1907年にOberndorferが境界明瞭,転移せず,成長緩慢,良性,の特徴をもったカルチノイド(カルチノーマライク)という疾患概念を提唱した.
◆NENはWHO 2000で神経内分泌マーカーを発現する特徴的な病理像を呈する腫瘍の一群と定義され,WHO 2010でKi-67による増殖力による分類,WHO 2019では分化度を加味した分類がなされ,予後に応じたNENの病態分類が進んできた.
◆欧米と本邦では原発部位の分布などが異なることが報告され,これら,近年報告された登録ベースのデータ解析により,全体像が徐々に明らかになってきている.
◆近年の動向を取り入れた本邦におけるガイドライン第2版が2019年度中に出版される予定である.

膵・消化管神経内分泌腫瘍画像診断のコツと生検の意義

著者: 藤森尚 ,   松本一秀 ,   三木正美 ,   寺松克人 ,   高松悠 ,   高岡雄大 ,   村上正俊 ,   末廣侑大 ,   大野隆真 ,   荻野治栄 ,   伊原栄吉 ,   五十嵐久人 ,   古賀裕 ,   伊藤鉄英 ,   小川佳宏

ページ範囲:P.1042 - P.1050

【ポイント】
◆GEP-NETの治療法は多様化しており,適切な治療選択のために正確な画像診断とgrade分類が必須である.
◆CT,MRI,EUS,SRSが基本的な画像検査となり,症例に応じてSASIテストやERCPを組み合わせて診断する.
◆原発巣(消化管,膵)からの内視鏡下生検(通常生検とEUS-FNA)と肝転移巣に対する肝腫瘍生検が組織学的確定診断に有用である.WHO分類に基づいたgrade分類を併せて評価する必要がある.

膵・消化管神経内分泌腫瘍の病理分類

著者: 笹野公伸

ページ範囲:P.1051 - P.1057

【ポイント】
◆膵・消化管神経内分泌腫瘍(GEP-NET)の病理学的分類は従来のものと比較してWHO 2010によりかなり整理されたが,その後のWHO 2017/2019でさらに実臨床に近いものに改良されてきた.このためGEP-NETの実際の診療に関わる外科医もこの新しい概念を十分理解しておく必要がある.
◆WHO 2017/2019では形態学的所見,遺伝子プロファイル,治療への反応性,臨床予後などの点で従来のNETG3をNECとNETG3に明瞭に分けたことが最も大きな変更点である.そしてこのNET, NECを総称してNEN(neuroendocrine neoplasm)とすることが規範された.
◆Ki-67 labeling index(標識率)の測定法も均霑化に向けてWHO 2017で推奨される方法が定められ,この推奨法はWHO 2019にも引き継がれた.
◆WHO 2010でMANEC(mixed adenoneuroendocrine carcinoma)と提唱された病型はWHO 2017/2019ではMiNEN(mixed neuroendocrine-non-neuroendocrine neoplasm)と規定され,より明確な概念となった.

食道・胃NENの外科治療と薬物療法

著者: 奥村知之 ,   渡辺徹 ,   平野勝久 ,   渋谷和人 ,   北條荘三 ,   松井恒志 ,   吉岡伊作 ,   澤田成明 ,   長田拓哉 ,   藤井努

ページ範囲:P.1058 - P.1064

【ポイント】
◆食道NENにおいては,WHOの組織分類に基づく診断のもと,進行度や全身状態を考慮して総合的に手術適応を判断する.
◆胃NENにおいては,Rindi分類に応じた手術適応と術式選択が推奨される.
◆食道・胃NENにおける薬物療法では,NETに対してはソマトスタチンアナログ,NECに対しては白金製剤を含む併用療法が推奨される.

小腸・結腸・直腸神経内分泌腫瘍の外科治療

著者: 永岡智之 ,   小西毅 ,   向井俊貴 ,   山口智弘 ,   長嵜寿矢 ,   秋吉高志 ,   長山聡 ,   福長洋介 ,   上野雅資

ページ範囲:P.1066 - P.1069

【ポイント】
◆内視鏡的切除は腫瘍径10 mm以下で粘膜下層浸潤までにとどまるリンパ節転移のない病変が適応となる.
◆リンパ節転移リスクを有する病変に対しては,リンパ節郭清を伴う腸管切除が推奨される.
◆肝転移に対しては,G1/G2で根治切除可能であれば切除が望ましい.

機能性膵神経内分泌腫瘍の外科治療

著者: 土井隆一郎 ,   豊田英治 ,   北口和彦 ,   中山雄介 ,   多賀亮 ,   岡田奈月 ,   吉村昂平 ,   安宅亮 ,   甲津卓実 ,   金田明大 ,   松林潤 ,   池野嘉信 ,   伊藤達雄 ,   浦克明 ,   洲崎聡 ,   大江秀明 ,   廣瀬哲朗

ページ範囲:P.1070 - P.1079

【ポイント】
◆機能性膵神経内分泌腫瘍の治療目的は生命予後の改善とホルモン症状の制御である.
◆インスリノーマは腫瘍被膜が明らかな場合は容易に腫瘍核出術が可能だが,そうでない場合は膵実質を損傷する可能性がある.
◆ガストリノーマはリンパ節郭清を伴う腫瘍摘除術,膵頭十二指腸切除術,または十二指腸全摘除術を行う.
◆その他の稀な機能性膵神経内分泌腫瘍は病態に応じた手術治療を工夫する.

非機能性膵神経内分泌腫瘍の外科治療

著者: 海野倫明

ページ範囲:P.1080 - P.1083

【ポイント】
◆切除可能な非機能性膵神経内分泌腫瘍に対する膵切除の原則は,系統的な膵切除(膵頭十二指腸切除または膵体尾部切除)である.
◆リンパ節転移が比較的高頻度であるためリンパ節郭清を行うことが望ましい.
◆腹腔鏡下膵切除の良い適応であり,経験豊富な術者・施設において行われるべきである.

遺伝性疾患に合併する膵・消化管神経内分泌腫瘍の診断と手術

著者: 木村康利 ,   今村将史 ,   永山稔 ,   山口洋志 ,   村上武士 ,   吉田幸平 ,   沖田憲司 ,   西舘敏彦 ,   信岡隆幸 ,   櫻井晃洋 ,   竹政伊知朗

ページ範囲:P.1085 - P.1090

【ポイント】
◆MEN1やVHLでは多発性の小さな膵NETを伴うことがあり,確定診断としてEUS/FNAやソマトスタチン受容体シンチグラフィが有用である.
◆MEN1の機能性NETには外科的治療が推奨され,非機能性膵NETには腫瘍径2 cm以上で手術を考慮する.
◆手術適応と術式の決定には腫瘍の数と局在および内分泌症状の有無を考慮し,膵切除には可能な限り膵機能を温存する術式を考慮する.

膵・消化管神経内分泌腫瘍の集学的治療

著者: 工藤篤 ,   赤星径一 ,   八木宏平 ,   石井武 ,   前川彩 ,   村瀬芳樹 ,   赤須雅文 ,   加藤智隆 ,   菅原俊喬 ,   渡辺秀一 ,   小倉俊郎 ,   小川康介 ,   小野宏晃 ,   伴大輔 ,   田中真二 ,   田邉稔

ページ範囲:P.1092 - P.1096

【ポイント】
◆過去の報告によれば,神経内分泌腫瘍の同時性遠隔転移は膵臓,小腸,結腸の40〜45%,虫垂,胃,直腸の5〜15%に認められ,5年生存率は約30〜60%とされている.
◆2007年の本邦全国集計によれば,膵神経内分泌腫瘍は初診の約40%に同時性転移を認め,Stage Ⅳbの5年生存率は39%であった.当時は実質的な治療が手術しかなく,減量手術が全盛であった.
◆しかしながら,2011年以降に分子標的療法を含む新しい薬物が次々と保険適用になり,切除可能となる腫瘍が増加してきた.

FOCUS

消化器外科専門医制度2020年カリキュラム改定の概要と新専門医制度

著者: 袴田健一

ページ範囲:P.1098 - P.1103

はじめに
 消化器外科専門医制度は,質の高い専門医の育成をめざして1984年に構築され,以降数回のカリキュラム改定を経て現在に至っている.今回,新専門医制度導入の議論を契機として,現行制度の現状分析に基づいて新たなカリキュラムが策定され,2020年の専門医試験から運用されることとなった.今後新専門医制度が導入された場合には,新カリキュラムに基づいて整備指針が策定される予定である.
 本稿では,消化器外科専門医制度の変遷と現状,新カリキュラムの概要,さらに今後の専門医と指導医資格に係るグランドデザイン1)について概説する.

Reduced Port Surgery—制限克服のための達人からの提言・21

RPSによる肝切除術

著者: 小倉俊郎 ,   小川康介 ,   小野宏晃 ,   伴大輔 ,   工藤篤 ,   田邉稔

ページ範囲:P.1107 - P.1113

はじめに
 本邦において腹腔鏡下肝切除は2010年に肝部分切除,肝外側区域切除が保険収載されて以降順調に普及し,2016年には系統的肝切除までその範囲が拡大された.日本肝臓内視鏡外科研究会による腹腔鏡下肝切除の前向きレジストリーでは,毎月300件前後の症例登録がなされ,全術式の90日死亡率は0.22%と開腹に劣らない安全性が示されている1).一方,reduced port surgery(RPS)は胆囊摘出術を中心として一般に認知され,その優れた整容性から一定の普及を得ている.肝切除の適応疾患の多くは悪性腫瘍であり,根治性と安全性が担保されることを最低条件として,比較的単純な肝離断で完遂できる症例であればRPSの適応となりうる.
 肝切除術は実質離断の際の展開法や出血コントロールなど,困難を伴うことが多い術式である.しかし,腹腔鏡下肝切除術の普及に伴い,以前と比較し腹腔鏡下肝切除術の安全性と定型化は格段に進み,確固とした術式として確立された感がある.そのノウハウを活用してより腹壁破壊の少ないRPSも注目されており,今後のさらなる発展を期待しつつ当院での手技と工夫を概説する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2022年9月末まで)。

病院めぐり

国立病院機構関門医療センター外科

著者: 安部俊弘

ページ範囲:P.1115 - P.1115

 国立病院機構 関門医療センターの前身は陸軍病院で,1891(明治24)年2月1日に開設されました.1945年に厚生省に移管され国立下関病院となり,2000年には,旧国立山口病院と統合,2004年の独立行政法人化を機に,現在の「国立病院機構 関門医療センター」になりました.2009年4月に,嘗て長門国の国府が置かれ,近代に至って明治維新の幕開けを奏でた歴史の街,下関市長府に移転いたしました.地上7階建ての免震構造で,大型ヘリポートも付設して災害拠点病院としても万全の体制を備えております.現在,400床(うちICU 6床,救命救急センター24床)となっています.
 下関市は本州の西端に位置し,他の地域と同様に徐々に人口は減少,高齢化は進んでいますが,下関医療圏の人口は現在約26万人弱であり,4つの総合病院で地域医療を支えています.当院はこのうちの1病院となります.

臨床報告

胃切除後早期に発症したペラグラの1例

著者: 堀創史 ,   本多通孝 ,   小林拓史 ,   外舘幸敏 ,   藁谷暢 ,   高野祥直

ページ範囲:P.1117 - P.1121

要旨
64歳,男性.早期胃癌に対して腹腔鏡下幽門側胃切除術,B-Ⅰ再建術を施行された.術後6か月ごろより両手指・両足の痺れが出現した.また,同時期に両手背や前頸部・後頸部などの日光露出部に,落屑を伴う発赤調の皮疹が出現した.血中ニコチン酸の低値を認め,ペラグラと診断された.ビタミン配合剤の投与によって,速やかに症状は改善した.本患者はもともと偏食があり,さらに術後の逆流症状により経口摂取量が少なく低栄養状態であった.ペラグラは現在のわが国では非常に稀な疾患であるが,胃切除後の特殊な状況下に発症しうる.胃切除後,比較的早期からの栄養評価・指導の重要性を再認識した.

左横隔膜弛緩症を合併した胃癌に対して腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行した1例

著者: 坂部龍太郎 ,   村尾直樹 ,   桒田亜希 ,   田原浩 ,   布袋裕士 ,   前田佳之

ページ範囲:P.1123 - P.1126

要旨
症例は65歳,男性.健診の上部消化管内視鏡検査で胃体中部後壁にⅡc病変を指摘され,当科を紹介され受診した.術前精査でT1b, N0, M0, cStage ⅠAの早期胃癌と診断した.また,胸部X線検査,胸腹部造影CT検査で左横隔膜弛緩症を認めた.腹腔鏡下幽門側胃切除術,D1+郭清,Roux-en-Y再建を施行し,経過は良好であった.左横隔膜弛緩症を合併した胃癌に対する腹腔鏡下胃切除術は,左横隔膜下深部で良好な視野が得られ,有用な術式であると考えられた.

緊急手術での脾摘を要したヘアリー細胞白血病の巨脾の1例

著者: 今野文博 ,   安斎実 ,   高橋梢 ,   並木健二 ,   高橋太郎 ,   坂元和宏

ページ範囲:P.1127 - P.1132

要旨
症例は37歳,女性.主訴は腹満,腹痛,下肢浮腫,頻尿などで,仰臥位になると下大静脈症候群に陥るため,当初は左側臥位で軽減させて過ごしていた.白血球増多と巨大な脾腫から血液内科で精査途中,症状の悪化や脾機能亢進による高度貧血と血小板減少が認められ,その血球貪食から輸血や血小板輸血でもデータの改善が得られなかった.これらを鑑み,緊急に脾摘を行ったほうがよいと判断し巨脾を開腹摘出した.大きさは38×21×9 cmで重さ3,800 gの脾臓であった.結果,症状は改善し組織的にもhairy cell leukemiaの診断に至った.緊急手術後の輸血で速やかに貧血と血小板減少を改善させることもできた.

膵頭十二指腸切除後の膵空腸吻合部狭窄に対する内視鏡的治療後に生じた仮性動脈瘤破裂の1例

著者: 篠原剛 ,   山田博之 ,   藤森芳郎 ,   町田水穂 ,   青柳誓悟 ,   崔容俊 ,   篠原直宏

ページ範囲:P.1133 - P.1136

要旨
症例は82歳女性.72歳時に十二指腸乳頭部癌に対し,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術が行われた.術後9年7か月を経過した頃より,膵空腸吻合部狭窄による膵炎を頻回に繰り返すようになったため,膵空腸吻合部狭窄に対し,内視鏡的バルーン拡張術を行った.内視鏡的治療後9日目に腹痛および下血が生じ,造影CT検査および血管造影検査にて背側膵動脈に仮性動脈瘤が認められた.緊急手術にて残膵全摘を行い救命し得た.

乳癌のセンチネルリンパ節に悪性リンパ腫を認めた1例

著者: 秋田由美子 ,   赤羽和久 ,   坂本英至 ,   法水信治 ,   新宮優二

ページ範囲:P.1137 - P.1142

要旨
症例は32歳女性,右乳房腫瘤を自覚し受診した.右乳腺D領域に2 cm大の腫瘤を触知し,腋窩に母指頭大に腫大したリンパ節を触知した.CTでは両側腋窩に長径約2 cm大に腫大した扁平なリンパ節を認めた.乳腺腫瘤針生検からpapillotubular carcinomaの診断を得たが,右腋窩リンパ節の穿刺吸引細胞診では悪性所見を認めなかったため,乳房切除+センチネルリンパ節生検の方針とした.手術時のセンチネルリンパ節生検で悪性リンパ腫の診断に至った.術後悪性リンパ腫(peripheral T-cell lymphoma, not otherwise specified:PTCL-NOS)に対する化学療法を行った.乳癌と悪性リンパ腫の同時発症は稀であり,またセンチネルリンパ節から悪性リンパ腫の診断に至った例は報告がない.本症例に関して文献的考察を加えて報告する.

ひとやすみ・180

自己に対する我流治療

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1097 - P.1097

 医師は医学を生半可に知っているだけに,自己の病気においては独善的な治療を行いがちである.私が自分自身に行ったさまざまな治療を紹介する.
 35年前にC型肝炎にてミノファーゲン,さらにはインターフェロンを自宅で連日自己静注した.以後,肝機能が落ち着いていることもあり,放置している.

1200字通信・134

大学と文化—何がそうさせるのか

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1105 - P.1105

 昨年の夏,医療界だけでなく世間の耳目を集める事件が起こりました.それは,T医科大学の入学試験で,息子の受験に手心を加えてもらうために,父親である高級官僚と大学トップとの間で起こった収賄事件でした.今年の3月には,「寄付」を裏付ける生々しい「メモ」があったことが報道されていましたが,根が深い事件のようではあります.
 この事件は,最近の高級官僚といわれる人たちによる不祥事のひとつにリストアップされることだけにとどまらず,その後,多浪生や女性の受験生に対する差別的な扱いなども露見し,医学界の前近代的(というか,身勝手な)体質を世に知らしめることになりました.

昨日の患者

心配で発狂寸前です

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1143 - P.1143

 病院勤務医時代はできるだけ病室を訪れ,患者さんの声を傾聴することに努めたものである.そして血液センター勤務後も,元患者さんからさまざまな相談を持ち込まれる.
 Iさんは70歳代前半の大手薬品会社の元MRである.現役時代色々お世話になったこともあり,定年退職後も付き合いがある.

書評

—E. Christopher Ellison,Robert M. Zollinger, Jr.(原著) 安達洋祐(訳)—ゾリンジャー外科手術アトラス 第2版

著者: 土岐祐一郎

ページ範囲:P.1091 - P.1091

 手術は目で学ぶものなので昔から手術アトラスというのは外科医にとって最も大事な教科書である.われわれが研修医のころは「○○手術体系」という全40巻以上の大作があり,手術の前には図書館に行ってコピーしたものである.また,コピペのない時代なので手術所見を書くときはその中の絵を丁寧に模写し,それが手術の復習にもなっていた.
 そして時代は進み最近は手術の動画が簡単にインターネットで見られるようになった.今更仰々しい手術書などいらないのではないか,この本もやや否定的な気持ちで開いてみた.500ページの中に実に150にも及ぶ手術の綺麗な線画と適切な解析が載っている.多くの術式は2ページに(最長は膵頭十二指腸切除術の18ページだがそれでも簡潔といえよう)まとまっており,動画を何分も見続けるより,ずっと容易に手術が理解できる.事典的に使うのであればインターネットよりはるかに便利だなというのが第一印象であった.しかし読み続けているうちに手術ビデオとの決定的な違いに気が付いた.

—福嶋敬宜,二村 聡(執筆)—臨床に活かす病理診断学—消化管・肝胆膵編 第3版

著者: 小澤俊文

ページ範囲:P.1106 - P.1106

 著者の一人である二村聡医師とは某研究会や編集会議を通じ10年以上のお付き合いをさせていただいている.確信に満ちたその声色と表現,そして「言葉・用語」に対する妥協のない姿勢を見聞きするにつけ,親しくなるまでは年長者と思い込んでいた(失礼!)くらいだ.氏の講演から学ぶ多くの知識はもちろんだが,美麗な写真には毎度ながら感嘆すること枚挙にいとまがなかった.特に美麗なマクロ写真からは見る者に迫る主張が感じられる.ピントを合わせてガシャの写真とは一線を画すことを理解するのに,目的意識を持った人間ならそれほど時間は要さないはずだ.
 この度,氏の共著となる『臨床に活かす病理診断学—消化管・肝胆膵編 第3版』の書評を担う機会を得た.最初に気付くのは,専門書にありがちなとっつき難い文体とは一味違ったスタイルが親しみやすく,内容がすんなりと頭に入ってくることである.限られたページ数の中,美麗なマクロおよびミクロ写真,そしてシェーマがこれでもかと収載されており著者らの本書にかける熱意が伝わってくる.生検場所や採取のポイントとピットフォール,切除標本の扱い方,用語の説明など,この一冊で十分な内容だ.文章は過不足なく記載されており,本文が冗長にならないよう追加説明は小さな赤字の脚注として左右に配置されている.また「Coffee Break」や「耳より」「ここがHOT」などの頭を休ませるコーナー(コラム)が全体に散りばめられており,読者を飽きさせない構成も評価したい.“脳の休憩”と表現はしてみたが,多くが実臨床に役立つ内容であり臨床医への熱いメッセージや応援でもあるのだ.さらに注目したいのは表紙と背表紙の裏を利用し,抗体や組織化学染色を表に,用語を一覧にして,読者がすぐに確認できる点である.まさに臨床医の日常的疑問と利便性に対応しており,限界まで本スペースを活用した著者と医学書院の創本姿勢に賞賛を送りたい.

—八幡紕芦史(編著) 竹本文美,田中雅美,福内史子(著)—脱・しくじりプレゼン—言いたいことを言うと伝わらない!

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.1116 - P.1116

 言いたいことを言うと伝わらない,というサブタイトル.衝撃的ですね.故日野原重明先生は,「医師は聞き上手になりなさい,患者は話し上手になりなさい」と講演でよくおっしゃっていました.話し上手な医師が多いように思われていますが,実は言いたいことが伝わっていないケースが多いのも事実です.その原因が,単に言いたいことを言っていたからだ,というのが本書の主張です.
 読者の皆さんも,学会や講演会などで医師のプレゼンテーションを聞く機会があると思います.複雑で大量のスライドを次々とめくりながらものすごい勢いで話す講師,体全体をスクリーンに向けて自分の世界に夢中になっている講師など,さまざまなケースが思い出されます.一方で,世界的なプレゼンテーションをTEDやYouTubeなどでみると,面白くてかつ勉強にもなるので,つい何時間も見てしまうことがあると思います.これは一体,何が違うのでしょうか.

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目次

ページ範囲:P.1032 - P.1033

原稿募集 私の工夫—手術・処置・手順

ページ範囲:P.1057 - P.1057

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.1103 - P.1103

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1147 - P.1147

次号予告

ページ範囲:P.1149 - P.1149

あとがき

著者: 田邉稔

ページ範囲:P.1150 - P.1150

 去る令和元年5月9〜11日に,京王プラザホテル(東京都新宿区)にて第2回国際腹腔鏡肝臓外科学会(ILLS 2019)が開催されました.若林剛先生(上尾中央総合病院外科)が会長を務め,私は共同会長として企画・運営をサポートしました.近年発展が目覚ましい腹腔鏡下肝切除を主題とした学会であり,わが国が世界をリードしてきた分野です.全世界52か国から約700人の参加者と560演題の発表は第1回のパリ大会の2倍規模であり,連日のソーシャルイベントとともに大変盛大な会となりました.発表内容を振り返ると,全世界の腹腔鏡下肝切除のレジストリー報告,再肝切除やロボット・画像支援手術などの新しいチャレンジのプレゼンなど,注目すべき内容が目白押しでした.まさに最近数年間のこの分野の劇的な進歩を印象づける記念すべき会となり,腹腔鏡下の右葉切除や系統的亜区域切除はもはや“平凡な手技”に見えてしまったくらいです.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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