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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科75巻1号

2020年01月発行

雑誌目次

特集 “超”高難度手術! 他臓器合併切除術を極める

ページ範囲:P.5 - P.5

 昨今,低侵襲手術あるいは内視鏡手術が主流となり,ともするとそちらに関心が行きがちである.しかしながら,根治手術のためには,大きく切開しなければならない,あるいは,他臓器合併切除が余儀なくされる場面も臨床現場では少なくないと考える.そこで,一歩立ち止まり,そのような手術のなかでも極めて高難度な術式をあらためて特集することで,外科の意義を見直してみるために,本特集を企画した.外科医をめぐる環境が厳しくなる一方であり,外科医減少の傾向がとどまらないなか,手術を極めることの重要性をわかってもらい,若手にも外科の魅力,醍醐味が伝わることを期待している.

総論

高侵襲手術の術後管理におけるICUの役割

著者: 土井研人

ページ範囲:P.6 - P.11

【ポイント】
◆ICUにおける集中治療は多臓器不全に対してさまざまなモニタリングと臓器サポートを駆使し重症患者の生命維持を図ることを目的としている.
◆高度先進医療を行う施設においては,各診療科との連携のもとに臓器横断的な全身管理を集中治療医が担当するのが予後改善につながる.
◆外科手術後における臓器合併症(ARDS,AKI,DICなど)に対して,集中治療分野における最新のエビデンスが蓄積されつつある.

周術期栄養管理

著者: 鍋谷圭宏 ,   滝口伸浩 ,   外岡亨 ,   有光秀仁 ,   坂本昭雄

ページ範囲:P.12 - P.17

【ポイント】
◆多臓器合併切除術症例では,多職種チームで情報共有した栄養管理が初診時から術後長期にわたり必要である.
◆臓器の切除範囲に加えて郭清の影響など,術後の病態生理を踏まえた栄養障害の理解が重要である.
◆経腸での通常の栄養投与では不足する栄養素や消化酵素の補充が,栄養障害対策に加え,予後向上のために必要である.

上部消化管の拡大手術

頸部食道癌に対する咽頭喉頭全摘を伴う頸部食道切除

著者: 大幸宏幸 ,   小熊潤也 ,   金森淳 ,   石山廣志朗 ,   平野佑樹 ,   栗田大資 ,   佐藤和磨 ,   藤原尚志 ,   藤田武郎

ページ範囲:P.18 - P.23

【ポイント】
◆頭頸部領域癌に対する手術は,術直後から神経機能障害を含む合併症としてその優劣が現れるため,手術をリンパ節郭清と癌切除に分け解剖を理解し手順を組み立てることが必要である.
◆頸部リンパ節郭清は,膜の解剖に沿った手術であり,頸部リンパ節の節外浸潤の有無により郭清深度(郭清層)を変えて行う.

食道癌・胃癌同時切除

著者: 小池聖彦 ,   神田光郎 ,   小寺泰弘

ページ範囲:P.24 - P.28

【ポイント】
◆食道癌,胃癌の重複は珍しくなく,日常診療で問題となることも多い.
◆胃癌が粘膜切除適応となる表在癌の場合,食道癌の再建臓器として胃管を用いることは可能であるが,胃癌切除のタイミング,胃管血流評価やその後の多発癌発生などに注意が必要である.
◆胃切除が必要な場合は,胃以外を用いた食道再建が必要であり手術リスクが高くなる.小腸ないし結腸での食道再建にも十分習熟しておく必要がある.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2023年1月末まで)。

下部消化管の拡大手術

大腸癌同時性肝転移切除

著者: 端山軍 ,   池田豊 ,   佐野圭二 ,   松田圭二 ,   橋口陽二郎

ページ範囲:P.30 - P.36

【ポイント】
◆大腸癌同時性肝転移症例において肝転移を切除するタイミングについては議論の余地がある.
◆分子標的薬をはじめとする化学療法の進歩が目覚ましく,conversion可能な症例が増えており治療の選択肢が増えている.
◆大腸癌および大腸癌肝転移を同時切除した際,異時切除と比べて合併症に差がなかった.

仙骨合併切除を伴う骨盤内臓全摘

著者: 池田正孝 ,   木村慶 ,   別府直仁 ,   片岡幸三 ,   安原美千子 ,   馬場谷彰仁 ,   宋智亨 ,   松原孝明 ,   山野知基 ,   内野基 ,   池内浩基 ,   冨田尚裕

ページ範囲:P.38 - P.46

【ポイント】
◆直腸癌局所再発が最多の仙骨合併切除適応疾患で,初発症例は層があるため合併切除不要のことが多い.
◆術前画像で仙骨切離部位を決め,仙骨前組織を確実に処理し骨膜を出すことで背側から確実に切離できる.
◆高位仙骨切離は内腸骨血管本幹の処理が必要で,高度癒着のときは静脈から出血をさせない周囲剝離が大切.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2023年1月末まで)。

腹膜切除を伴う結腸・直腸癌手術

著者: 清松知充 ,   合田良政 ,   永井雄三 ,   大谷研介 ,   出口勝也 ,   矢野秀朗 ,   國土典宏

ページ範囲:P.48 - P.55

【ポイント】
◆播種の拡がりを正確にPCIスコアにて評価したうえで手術適応は厳密に決定して行うべきである.
◆腹膜をすべて切除する術式ではなく,肉眼的に播種が存在する領域の腹膜を一括して切除する術式である.
◆膀胱腹膜および女性では子宮・両側付属器を含む骨盤腹膜を一括切除することが基本となる.

肝胆膵の拡大手術

門脈腫瘍栓合併肝細胞癌に対する外科治療—門脈腫瘍栓の進展度,形態および進展速度を考慮した治療戦略

著者: 権英寿 ,   木戸正浩 ,   田中基文 ,   蔵満薫 ,   小松昇平 ,   粟津正英 ,   宗慎一 ,   福本巧

ページ範囲:P.56 - P.61

【ポイント】
◆門脈腫瘍栓合併肝細胞癌の治療では,急速な腫瘍栓の進展を考慮した治療選択が必要となる.
◆門脈腫瘍栓合併肝細胞癌の肝切除では腫瘍栓の形態や進展度によって適切な摘出法を選択する.
◆門脈腫瘍栓の進展の速い症例であっても,迅速に手術加療を含む集学的治療を行うことで予後が期待できる.

血管合併切除を伴う膵頭十二指腸切除

著者: 吉岡龍二 ,   川野文裕 ,   行田悠 ,   市田洋文 ,   水野智哉 ,   今村宏 ,   三瀬祥弘 ,   齋浦明夫

ページ範囲:P.62 - P.69

【ポイント】
◆Supracolic anterior artery-first approachを用いた膵頭神経叢第一部・二部(PLph1, 2)およびSMA周囲神経叢(PLsma)の郭清を悪性度・浸潤範囲によりLevel 1〜3に分けて系統的に行う.
◆門脈・上腸間膜静脈・脾静脈(SpV)合流部(porto-mesenterico-splenic confluence:PMSC)合併切除によりPV-SMV背側の軟部組織を一括切除する.
◆PMSC合併切除を伴うPDでは,左側門脈圧亢進症の予防を目的とした脾静脈-左腎静脈短絡路形成を行う.

肝切除を伴う膵頭十二指腸切除(HPD)

著者: 久保木知 ,   吉富秀幸 ,   古川勝規 ,   高屋敷吏 ,   高野重紹 ,   鈴木大亮 ,   酒井望 ,   賀川真吾 ,   三島敬 ,   中台英里 ,   大塚将之

ページ範囲:P.70 - P.78

【ポイント】
◆近年,進行胆道癌に対する肝膵同時切除(hepatopancreatoduodenectomy:HPD)が施行されるようになっているが,その手技の難易度の高さ・侵襲の大きさからHPD術後には高率に重症合併症を発症し,その手術関連死亡率は決して低くない.
◆しかし,術前に胆管や脈管の走行形態や腫瘍進展範囲を十分に把握し,定型化した手技に基づいて丁寧に施行することによって合併症を低く抑えることが可能である.

腹腔動脈切除を伴う膵体尾部切除(DP-CAR)

著者: 岡田健一 ,   山上裕機

ページ範囲:P.80 - P.84

【ポイント】
◆年齢,性別,肥満度指数(BMI),アメリカ麻酔学会(ASA)のスコア,多臓器切除術,開腹対低侵襲手術,および経験手術件数に基づく腹腔動脈合併膵体尾部切除術(DP-CAR)の術後90日死亡リスクスコアが提案されている.
◆切離予定の動脈だけでなく,門脈系静脈を含む主要血管をテーピング確保した後に,安全に腹腔動脈にアプローチする.
◆術前画像診断により,動脈周囲神経叢浸潤の最先進部を決定し,適宜術中迅速組織診断を行い,左胃動脈起始部方向か,腹腔動脈根部方向かの剝離ライン・深度を決定する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2023年1月末まで)。

FOCUS

新専門医制度における外科医の専門医取得の道筋

著者: 小澤毅士 ,   橋口陽二郎 ,   大野航平 ,   岡田有加 ,   八木貴博 ,   福島慶久 ,   島田竜 ,   端山軍 ,   土屋剛史 ,   野澤慶次郎 ,   松田圭二

ページ範囲:P.85 - P.87

新専門医制度の発足
 2014年5月に第三者機関である日本専門医機構が発足し,2017年4月から新しい外科専門医制度による修練が開始となった.新専門医制度の基本設計は,基本領域として19の専門医領域があり,その上にさらに専門性が高いSubspecialty領域として23の専門医領域が位置する構図である.基本領域とSubspecialty領域は結び付けられており,基本領域に関連しないSubspecialty領域専門医は取得できない.この新専門医制度の狙いは専門医の質を担保することであり,旧専門医制度においては専門医資格は102にも及び,それぞれ独自の認定基準を持ち合わせ一定の基準がない状況である.そこで,統一した基準でスリムな専門医制度を作成し,医師の質の担保と,患者にわかりやすい指標を作ろうというのである.また,現行の専門医資格の問題として,医師の報酬や職位に基本的に反映されないことも忘れてはならない.これは近年やっと手が付けられはじめた無給医問題や働き方改革と同じ類の重大な問題で,将来的には新専門医制度で質が担保された専門医資格の取得が,診療報酬加算等を受け取ることにより,患者はもちろんのこと,医師側にも自己修練以外のメリットを及ぼすことを大いに期待する.
 外科医は通常,基本領域として外科専門医を取得したうえで,さらに自分のSubspecialty領域における専門医の取得をめざすこととなる.外科直結のSubspecialty領域として新専門医制度に認められているのは,消化器外科,心臓血管外科,呼吸器外科,小児外科,乳腺,内分泌外科の6領域である.そのほか,消化器病,消化器内視鏡,がん薬物療法専門医なども関連付けられる.一方,日本外科学会のホームページによると,外科系専門医制度のグランドデザインは6領域のSubspecialtyの上にさらに3階部分の高次専門医を描いており,その取得にはSubspecialty領域の専門医取得が必須とされると述べられている(図1).旧専門医制度では,日本食道学会食道外科専門医,日本肝胆膵外科学会高度技能専門医,日本大腸肛門病学会大腸肛門病専門医,日本内視鏡外科学会技術認定医などがそれに対応するであろうが,今後これらの資格がどのように新専門医制度と互換性を帯びるのか,もしくは新たな領域が作成されるのかなどは,依然未確定である.

坂の上のラパ肝・胆・膵【新連載】

腹腔鏡下肝切除の基礎—肝授動・肝実質切離・出血制御と止血

著者: 大目祐介 ,   本田五郎

ページ範囲:P.88 - P.100

不忍通り沿いの動坂下には田端駅と西日暮里駅のどちらからも徒歩で10分.そこから動坂を見上げると,その上に四角い大きな建物,14階建ての都立駒込病院1号館がそびえ立っている.通院する患者さんと職員の多くがJR山手線の田端駅からやって来て,バス,車,自転車,徒歩で長さ200 mほどのこの動坂をのぼる.2006年から繰り返しこの坂をのぼり,年月が経ち,その間に急速に発展した腹腔鏡下肝胆膵手術は標準手技といえるレベルに達した.2018年10月に移った今の職場,新東京病院は千葉県松戸市和名ヶ谷にある.住所は和名ヶ谷だが,病院は谷の北側の見晴らしの良い丘陵の上に立っており,やはりJR松戸駅から坂をのぼる.ここではほぼ完成された標準手技を駆使して,診療だけでなく後進の指導にも取り組んでいる.われわれの目の前にいる患者さんだけでなく,日本中の患者さんが安全な手術を受けられるために何かをしたいと思いながら.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2023年1月末まで)。

病院めぐり

伊那中央病院外科・消化器外科

著者: 中山中

ページ範囲:P.106 - P.106

 伊那中央病院は1947(昭和22)年7月に町立病院として長野県上伊那郡伊那町(現伊那市)に開設されました.1957年7月伊那市営伊那中央総合病院と名称変更し,天竜川河畔の病院として市民に愛され,地域の中核病院としての責務を約半世紀に渡って果たしました.現在の病院は2003年4月に伊那中央行政組合(伊那市,箕輪町,南箕輪村)組合立伊那中央病院と名称変更し,天竜川の河岸段丘上に移転開院しました.病院は伊那盆地(伊那谷)に立地し,谷底を南北に走る天竜川,東に南アルプス,西に中央アルプスを望み,風光明媚な土地に位置しています.病院の窓から見える南アルプスは北から甲斐駒ケ岳,仙丈ヶ岳,間ノ岳,農鳥岳,塩見岳,赤石岳,聖岳と日本有数の連峰を形成しており,春夏秋冬を通じて職員の心のオアシスとなっております.
 当院は344床を有し,29診療科,医師98名の規模で,上伊那地域の基幹病院として発展しております.病院の基本理念である「地域住民の健康維持に尽力します」「地域社会が求める医療を提供します」「医療の発展に寄与します」をモットーに全職員1000名が一丸となって,地域医療に励んでいます.

臨床研究

早期リンパ球浸潤胃癌の臨床病理学的特徴

著者: 坂本敏哉 ,   滝口伸浩 ,   鍋谷圭宏 ,   早田浩明 ,   外岡享 ,   星野敢

ページ範囲:P.101 - P.105

要旨
【目的】リンパ球浸潤胃癌gastric carcinoma with lymphoid stroma(GCLS)は高度なリンパ球浸潤を呈し,比較的予後良好な組織型である.他の組織型との臨床病理学的因子を比較検討した.【方法】2000〜2015年の早期胃癌切除症例1,451例を対象とし,通常型胃癌とGCLSの臨床病理学的特徴を比較検討した.【結果】全体の壁深達度はT1a 637例,T1b 814例であったが,GCLSは15例全例T1bであった.GCLS以外のT1bの組織型を分化型,低分化型で分類比較すると,GCLSはリンパ節転移を認めず,脈管侵襲は軽度であった.【結語】早期GCLSはすべてT1bであり,脈管侵襲は分化型腺癌よりも軽度で,リンパ節転移はなく,予後良好な癌であることが示唆された.

腹腔鏡下大腸癌手術における超音波凝固切開装置使用の習熟度に関する検討

著者: 板橋哲也 ,   大塚幸喜 ,   佐々木章

ページ範囲:P.107 - P.111

要旨
【目的】超音波凝固切開装置(USAD)の使用では切開と凝固を意識した操作が重要とされる.腹腔鏡手術の習熟度とUSAD操作法に関する検討を行った.【対象と方法】左側結腸癌33例を対象とし,指導医(ED)1名,技術認定医取得前後(CD)2名,術者初期(BD)5名の鏡視下術中のUSAD 1回の切離に要するactivation時間(秒)(AT)と使用回数を計測した.【結果】ATはED=1.43,CD=1.36,BD=1.83で,EDとCDではBDに比較し有意に短時間となり,2秒以内の手技はEDとCDで約75%,BDで約57%であった.使用頻度(回/分)はED=4.36,CD=3.12,BD=2.49で,ED>CD>BDの順で増加した.【結語】技術認定取得までにATは短縮しショートピッチ切離法を習得していると考えられ,経験数の増加に従い単位時間内の使用頻度が増加していた.

Excision and ALTA(EA)法による痔核手術の治療成績(1年)の検討

著者: 矢野孝明

ページ範囲:P.113 - P.115

要旨
【目的】内痔核に対してALTA注射を行い,切除を外痔核に限定するEA法を用いた痔核手術における1年後の治療成績を前向き研究によって明らかにすることを目的とした.【対象と方法】1年前にEA法による痔核手術を受けた患者に受診を促し,再発の有無や,痔核症状スコア,便失禁Wexnerスコア,患者満足度を記録した.【結果】1年後に受診したのは,65例のうち32例であり,再発は32例のうち2例であった.痔核症状スコア,便失禁Wexnerスコア,患者満足度の中央値はそれぞれ0点,0点,2.7であった.【考察】EA法における1年後の治療成績は良好であると思われた.

臨床報告

症状を有した成人腸回転異常症に対して腹腔鏡下Ladd手術を施行した1例

著者: 中田泰幸 ,   近藤英介 ,   西谷慶 ,   伊藤勝彦 ,   横山航也 ,   清水善明

ページ範囲:P.117 - P.122

要旨
症例は42歳,女性.幼少期よりたびたび腹痛に悩まされていた.腹痛のため当院初診となった.入院のうえ,腹痛の精査を行ったところ,腹部造影CTにて,十二指腸が上腸間膜動脈と大動脈の間を通過せず,中腸近位部(十二指腸・小腸)が腹腔の右に位置しており,中腸回転異常を認めた.腸管の血流障害はなく,絞扼性イレウスの所見は認めなかったことから,待機的に腹腔鏡下Ladd手術と予防的虫垂切除術を行った.術後3年経過したが,症状の再燃なく経過されている.成人発症の腸回転異常症は稀であるが,原因不明の腹痛を繰り返す症例には,腸回転異常を念頭において精査を行い,腸回転異常症と診断した場合は,腹腔鏡手術を含めた手術治療を考慮する必要があると思われた.

昨日の患者

花に囲まれ微笑む元患者

著者: 中川国利

ページ範囲:P.37 - P.37

 臨床外科医として数多くの手術を行った.そして歳を重ねるに従い,元受け持ち患者の葬儀にも参列する機会が増しつつある.
 Tさんの娘さんは同じ病院に勤める看護師である.20年ほども前になるが,「黒い便が出る」という父親を自分の働く病院に連れてこられたのが,Tさんとの出会いであった.上部消化管内視鏡検査を行うと進行期の胃癌であり,胃切除術を行った.娘さんは仕事の合間にしばしば父親の元を訪れ,何かと世話を焼いた.Tさんも娘さんが現れると,顔が和んだ.

ひとやすみ・185

元研修医からの年賀葉書

著者: 中川国利

ページ範囲:P.79 - P.79

 年賀葉書を止め,メールで済ます人が増えつつある.しかしながら日頃疎遠な元研修医からの年賀葉書は興味深く,活躍ぶりを知ることは嬉しいものである.
 大学卒業後,地域医療に積極的に取り組む市中病院で4年間外科研修医時代を過ごした.引き続き母校の外科医局で7年間研修した後,27年間にわたり市中病院で外科診療に従事した.その間,熱血漢諸先輩の指導を受け,また多くの研修医に接してきた.

1200字通信・139

続・CTに思う

著者: 板野聡

ページ範囲:P.112 - P.112

 2006年9月号に「CTに思う」と題して書きましたが,10数年を経て,再びCTのお話を書かせていただきます.
 CT(computed tomography)は,今では「当たり前」の医療機器になっています.卒後40年を過ぎた私は,恐らく,そうしたCT検査が一般の医療施設にまだない時代に医者になった数少ない人間の1人になりつつあるようです.

書評

—松井 修,角谷眞澄,他(編著)—肝の画像診断—画像の成り立ちと病理・病態 第2版

著者: 森宣

ページ範囲:P.116 - P.116

 待ちに待った,松井修先生が率いられる金沢大・松井グループの新著である.豪華で優秀な編著者・共同執筆者の面々を見るだけで期待が高まるが,ページをめくると数ある医学書の中でこれぞ「本物」という醍醐味(だいごみ)を味わえることは間違いない.簡潔な語り口と美しい画像に病理像と概念図が完備されているので,肝臓専門の研究者にも初心者にも扉が開かれる好著である.ただし,読者にはじっくりと腰を据えて読んでほしい.本書は総論と各論に分かれているが,全体を通して読むと,肝臓の病理・病態を画像がどう表しているか,同一疾患でも病理・病態は多彩であることを理解するのに絶好の書である.かつ臨床の場での座右の書としても重宝されるのは間違いない.
 肝画像診断に大きな変革をもたらしたGd-EOB-DTPA造影MRIの原理というべきトランスポーターを理解できるのも嬉しい.詳述されているのにわかりやすいのは,的確な画像—病理像そして美しい概念図のおかげである.24年ぶりに改訂された第2版であるが,CT,MRIを中心とした画像診断に病理学・分子病理学の知識も入っており,次の24年間と言わず永久保存版としてお持ちになることを薦めたい.

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目次

ページ範囲:P.2 - P.3

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.17 - P.17

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.126 - P.126

次号予告

ページ範囲:P.127 - P.127

あとがき

著者: 瀬戸泰之

ページ範囲:P.128 - P.128

 医師の働き方改革も2024年までには待ったなしの状況となり,医師を取り巻く環境はこれまで以上に混迷の様相を深めている.働き方改革は医療の質を落とすのではないかとの懸念があるのも事実であるが,一方,外科医の労務環境が他科と同様になるのであるとすれば,それがゆえに外科を敬遠していた層の若手に外科医を目指してもらうきっかけになるかもしれない,と筆者は密かに期待している.女性医師もしかりである.
 筆者は,外科は医学の王道の代表格であるという時代的背景の環境下で育った世代である.確かに,直接的治療手段を有し命を救える,やりがいのある診療科であることは現代でも変わりない.その極みが本特集ということになる.外科医であれば誰しもが挑戦したい術式の詳細が記述されている.ぜひ,外科の頂点を存分に味わっていただきたいし,その極みを目指していただきたい.また,このような手術は通常長時間を要するが,働き方改革の中で埋没することなく,困難な病状の患者さんを救う究極の治療として,さらに発展してほしいと切に望むところである.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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