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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科75巻10号

2020年10月発行

雑誌目次

特集 ガイドラインには書いていない—胃癌治療のCQ

ページ範囲:P.1145 - P.1145

 胃癌治療ガイドライン第5版が出版されて2年が経過しました.その後に登場した新しいエビデンスについては,速報版が適宜オンラインで公表されていますが,速報版も丁寧かつ慎重にプロセスを踏んで作成されているので,常に現場のニーズに追いついているとは言えません.また,エビデンスが十分でないなどの理由からガイドラインへの掲載が見送られているCQもあります.本特集ではそのようなCQに目を向け,これまで議論がかみ合わずにガイドラインで取り上げられていないことも含めて,「裏ガイドライン」的な特集を組みました(もちろん,正統派の議論も含みます).ガイドラインでは今一つ歯切れが悪いが気になる部分について,現場の疑問にお答えできれば幸いです.

—ESD後の追加胃切除の真の適応—消化器内科医はどのような場合に心から追加胃切除を勧めるか?

著者: 伊藤信仁 ,   古川和宏 ,   角嶋直美 ,   柴田寛幸 ,   平井恵子 ,   飛田恵美子 ,   鈴木孝弘 ,   鈴木智彦 ,   室井航一 ,   廣瀨崇 ,   和田啓孝 ,   古根聡 ,   中村正直 ,   藤城光弘

ページ範囲:P.1147 - P.1151

【ポイント】
◆早期胃癌に対するESDの絶対適応病変は「胃癌に対するESD/EMRガイドライン第2版」において拡大された.
◆内視鏡的根治度(eCura)C-2症例におけるリンパ節転移リスクを予測するeCura systemが報告された.
◆高齢者のeCuraC-2症例に対する追加胃切除の可否は臨床上問題であり,近年,高齢者のESD後の予後に関する知見が報告されている.

—早期胃癌の手術—迷走神経腹腔枝を温存するメリットは本当にあるのか?

著者: 愛甲丞 ,   谷島翔 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.1153 - P.1156

【ポイント】
◆迷走神経腹腔枝温存は,胆石発生の予防,下痢の減少,体重減少の早期回復,QOLの向上に貢献するという報告がある.
◆迷走神経は近年,炎症や腸内細菌,インスリン抵抗性など様々な生体調節機能の経路となることが示されている.
◆議論の余地は大きいが,術後QOLを重視する縮小手術においては,症例によっては迷走神経温存も選択肢の一つになりうる.

—進行胃癌の定型手術の現状—CLASS試験の結果を踏まえ,腹腔鏡下手術は解禁されるのか?

著者: 小関佑介 ,   寺島雅典

ページ範囲:P.1157 - P.1160

【ポイント】
◆cStage Ⅰ胃癌に対して,腹腔鏡下手術は標準治療の一つである.
◆進行胃癌に対する腹腔鏡手術の安全性は確認されている.
◆CLASS試験の結果をわが国の日常診療に外挿することは困難と思われる.

—ロボット支援下手術の今後—わが国で増え続けるダビンチ,通常の腹腔鏡下手術ではダメなのか?

著者: 佐川弘之 ,   伊藤直 ,   早川俊輔 ,   大久保友貴 ,   田中達也 ,   小川了 ,   高橋広城 ,   松尾洋一 ,   瀧口修司

ページ範囲:P.1161 - P.1165

【ポイント】
◆da Vinci手術は,難易度の高い症例に対し「安全性」をもたらす可能性がある.
◆da Vinci手術は,胃切除術後障害の軽減につながる可能性がある.
◆da Vinci手術により術中教育システムが向上する可能性がある.

—食道胃接合部癌—接合部癌の郭清範囲はどうなるのか?

著者: 平松良浩 ,   菊池寛利 ,   竹内裕也

ページ範囲:P.1166 - P.1170

【ポイント】
◆食道胃接合部癌に対するリンパ節郭清範囲は施設や術者によって定まっていない.
◆国内多施設後ろ向き研究により,腫瘍径4 cmまでの接合部癌に対するリンパ節郭清アルゴリズムがガイドラインで示されている.
◆国内初の多施設前向き研究が施行され,食道胃接合部癌に対する至適なリンパ節郭清範囲についてのエビデンスが示された.

—Stage Ⅲ胃癌の術後補助化学療法—SOX療法は使用してはいけないのか?

著者: 吉川貴己 ,   林勉

ページ範囲:P.1172 - P.1175

【ポイント】
◆ARTIST2試験により,術後SOX療法は,術後S-1療法に対する優越性を示した.
◆RESOLVE試験により,術後SOX療法は術後CapeOX療法に対する非劣性を示したが,そもそも,試験のQualityに問題がある.
◆両試験で用いられる高用量第1コースからのオキサリプラチン投与の日本人における忍容性と安全性は不明である,病理学的Stage Ⅲへの効果が不明である,peer review雑誌に掲載されていない,以上のことから現時点では,両試験で用いられたレジメンでの術後SOX療法を使用すべきではない.

—術前補助化学療法の今—術前補助化学療法を行う場合の適応は? 推奨されるレジメンは?

著者: 黒川幸典 ,   江口英利 ,   土岐祐一郎

ページ範囲:P.1177 - P.1181

【ポイント】
◆D2郭清が標準でない欧州では,術前術後のFLOT療法が切除可能胃癌に対する現在の標準治療といえる.
◆D2郭清が標準である日本では,術前補助化学療法のエビデンスは確立されておらず,現在は術前SOX療法や術前DOS療法の臨床試験が進行中である.
◆近年,韓国と中国から術前DOS療法や術前術後SOX療法の第Ⅲ相試験の結果が学会レベルで報告されたが,試験の質や統計学的手法などで疑問点が多い.
◆もし現在の日常臨床で術前補助化学療法を行うのであれば,高度進行症例に限定し,一次化学療法として頻用されているSP療法かSOX療法を選択するほうが無難と思われる.

—術前補助化学療法の今—術前補助化学療法後の大動脈周囲リンパ節郭清の意義

著者: 伊藤誠二

ページ範囲:P.1182 - P.1184

【ポイント】
◆術前補助化学療法後に腫大していた大動脈周囲リンパ節が退縮しても,現段階では大動脈周囲リンパ節郭清を行うべきである.
◆リンパ節転移を非治癒因子とする症例のconversion surgeryの成績をみながら,術前補助化学療法後の大動脈周囲リンパ節郭清の意義を再評価する必要がある.
◆胃癌に対して大動脈周囲リンパ節郭清を行う機会は減少しており,ある程度の症例の集約化が必要である.

—Conversion surgeryの今—腹膜播種が消えたら胃切除術をするのか?

著者: 北山丈二 ,   石神浩徳 ,   山口博紀 ,   斎藤心 ,   倉科憲太郎 ,   細谷好則 ,   佐田尚宏

ページ範囲:P.1185 - P.1189

【ポイント】
◆タキサン腹腔内反復投与は長期にわたり高い腹腔内濃度が維持され,全身化学療法と併用することで胃癌腹膜播種に対して著効を示す.
◆全身+腹腔内併用化学療法が奏効し「腹膜播種が消えた」症例に対し,conversion gastrectomyを施行すると長期生存が期待できる.
◆全身+腹腔内併用化学療法中の腹腔内液サンプル中のCEAmRNAの定量は,conversion gastrectomyの適応を決めるうえで有用な情報となる.

—免疫療法の展望—ニボルマブは今後も3次治療で,単剤で使用すべき薬剤なのか?

著者: 河野浩二

ページ範囲:P.1190 - P.1194

【ポイント】
◆胃癌治療ガイドライン(第5版)では,切除不能進行・再発胃癌に対して,3次治療以降に,ニボルマブ単剤による化学療法がエビデンスレベルAで推奨されている.
◆一次治療としてのニボルマブ+SOX/CapeOXの効果を検証するATTRACTION-4試験が実施中で,第Ⅱ相部分の結果は良好であり,第Ⅲ相のRCTの結果が待たれる.
◆胃癌におけるニボルマブは,奏効率向上のための併用療法の開発と,biomarker-oriented個別化医療の両方向への発展が大きく期待される.

—胃切除後障害の今—胃切除術式と胃切除後障害に関する,今後胃癌治療ガイドラインで取り上げるべきポイント

著者: 中田浩二 ,   池田正視 ,   高橋正純 ,   木南伸一 ,   吉田昌 ,   上之園芳一 ,   小寺泰弘 ,   柏木秀幸 ,   羽生信義

ページ範囲:P.1196 - P.1200

【ポイント】
◆胃切除を行う際には,根治性(=Live longer)とともに胃切除後障害の少ない(=Feel better)術式を選択する配慮が必要である.
◆患者の視点から見た医療評価(patient-reported outcome:PRO)の活用により,胃切除術式の進化と術後QOLの向上が期待できる.
◆胃切除後の外来診療において胃切除後障害を早期に見つけ対処することで,患者の職場や日常生活へのより円滑な復帰が可能となる.

—胃癌における脾摘—胃上部大彎に浸潤する進行胃癌に脾門郭清や脾摘は必要か?

著者: 原田潤一郎 ,   木下敬弘

ページ範囲:P.1202 - P.1205

【ポイント】
◆JCOG0110試験の結果により,大彎に浸潤しない胃上部進行癌に対する脾摘は行われなくなった.
◆大彎に浸潤する胃上部進行癌に関しては,いくつかの後ろ向き研究が脾門リンパ節の郭清効果を報告しており,現時点では脾摘を行う施設が多い.
◆脾摘のデメリットを回避する方法として,腹腔鏡やロボットを用いた脾温存脾門郭清が開発され,その安全性を評価する臨床試験が進行中である.

FOCUS

診療ガイドラインと医療訴訟—外科臨床における最近の裁判例から

著者: 桑原博道 ,   矢古宇匠

ページ範囲:P.1207 - P.1211

はじめに
 医療訴訟において,診療ガイドラインが,どのように用いられるかについては,厚生労働省委託事業:EBM普及推進事業(Minds)から依頼されて寄せた論稿において明らかにしたところである1).本稿は,これらの知見を踏まえつつ,上記論稿後に判決が言い渡された裁判例の中から外科臨床に関するもので注目に値するもの2件を紹介し,さらなる考察を加える.

欧米における腹腔内温熱化学療法(HIPEC)の現状

著者: 矢野秀朗 ,   合田良政 ,   國土典宏

ページ範囲:P.1212 - P.1214

はじめに
 腹腔内温熱化学療法(hyperthermic intraperitoneal chemotherapy:HIPEC,ハイペックと発音)は,様々な腹膜悪性疾患〔peritoneal(surface)malignancy〕に対する手術の際に,加熱した抗がん剤を直接腹腔内に還流させる手技をいう.基本的には,肉眼的治癒切除(=腹膜切除を伴う完全減量切除)に引き続いて顕微鏡的病変のコントロールを目的に行われ,これまで様々な固形腫瘍の腹膜病変に対して予後を向上させることが示されてきた.治療意図として,治癒(curative intent)だけでなく,姑息(症状緩和)(palliative intent),予防(prophylactic intent)においても有効であることが示唆されてきた.

坂の上のラパ肝・胆・膵・10

腹腔鏡下胆囊摘出術—手術を安全に行うために必要な局所解剖と手技

著者: 大目祐介 ,   本田五郎

ページ範囲:P.1215 - P.1226

Point
◆SS-Inner層(SS-I)を正しく理解する.
◆基本手技はSS-Iを露出する層での鈍的剝離である.
◆南廻りの後区域胆管の頻度は約15%であり,損傷リスクが高い.
◆胆囊管の位置を推定するランドマークはRouvière溝とS4の基線である.
◆最初にRouvière溝の腹側で露出したSS-Iを連続して広げることで胆囊の遊離を進める.
◆炎症による線維化でSS-Iの露出が困難な部位の胆囊壁は触らずに残す(bailout procedure).

病院めぐり

大曲厚生医療センター外科

著者: 小野文徳

ページ範囲:P.1227 - P.1227

 当院は秋田県の県南内陸部,大仙市のJR大曲駅前に位置しています.秋田県は高齢化率や人口減少率が全国でもトップですが,当地域の高齢化率も38.4%で人口減少に歯止めがかからないのが現状です.毎年8月の最終土曜日に当地で開催される全国花火競技大会「大曲の花火」はテレビでも放映される有名な花火大会で,花火に興味がない方にとっても一見の価値があります.この日だけは市の人口が約10倍に膨れ上がります.
 当院は9つある秋田厚生連病院の1つで,以前は「仙北組合総合病院」の名称でしたが,2014年の新病院移転に伴い「大曲厚生医療センター」に改称されました.医療圏の対象人口は約13万人,病床数は437床で20診療科をもち,地域がん診療連携拠点病院,臨床研修指定病院(基幹型)に指定されています.救急医療の充実のため,屋上にヘリポートを備え,さらに救急車と救急隊員が常駐する救急ワークステーションを院内に設置しています.

臨床報告

愛知県在住者に発症し肝切除した多包性肝エキノコックス症の1例

著者: 藤田康平 ,   春木伸裕 ,   越智靖夫 ,   山川雄士 ,   原田真之資 ,   篠田憲幸

ページ範囲:P.1229 - P.1233

要旨
症例は愛知県在住の47歳,男性.全身倦怠感を主訴に当院を受診した.20代に北海道の牧場に勤めていた.1年前から肝S4に石灰化を伴う不整形腫瘤を指摘され経過観察されていた.今回,腫瘤の増大を認めたため精査を行い,エキノコックス血清反応試験ウェスタンブロット法にて肝エキノコックス症と診断した.腫瘤は肝S4,5,8に存在しており中央2区域切除を施行した.病理組織診では虫体壁様構造物を認め,肝エキノコックス症に矛盾しない結果であった.再発予防にアルベンダゾール内服を行っている.近年,北海道外でも同症の報告が散見されるようになった.肝腫瘤を指摘の際には,本疾患を念頭において診断し,適切な治療介入が望まれる.

リピオドールリンパ管造影が著効した骨盤内臓全摘出術後難治性リンパ漏の1例

著者: 坂本あすな ,   大谷弘樹 ,   コルビンヒュー俊佑 ,   松田直樹 ,   矢野匡亮 ,   大橋龍一郎

ページ範囲:P.1235 - P.1240

要旨
症例は80歳,男性.肛門痛を主訴に受診した.精査の結果,肛門や尿路系への浸潤をきたす巨大な下部直腸癌と診断された.術前化学療法後に骨盤内臓全摘出術を施行し,術後難治性リンパ漏を発症した.食事療法やオクトレオチド皮下注による保存的治療では改善がみられなかったが,鼠経リンパ節穿刺によるリピオドールリンパ管造影がリンパ漏の診断・治療に有用であった.腹部手術後のリンパ漏は稀な合併症とされているが,下部直腸癌手術などの広範なリンパ節郭清を伴う拡大手術において,時折,認められることがある.リンパ漏の遷延による低栄養状態は,感染症や縫合不全などのさらなる合併症のリスクを高めるため,早急な治療介入が望まれる.

腎細胞癌術後35年目に孤立性膵転移再発をきたした1例

著者: 伊藤俊一 ,   高橋豊 ,   山田卓司 ,   河合陽介

ページ範囲:P.1241 - P.1245

要旨
腎細胞癌では初回手術後30年以上を経過して再発する症例は非常にまれである.また,血行性転移をきたしやすいとされているが,膵への転移はまれである.今回われわれは,腎細胞癌術後35年目に孤立性膵転移再発をきたし,根治切除が可能であった1例を経験したので報告する.患者は77歳,男性.42歳時に他院にて右腎癌に対し右腎摘出術を施行されている.急性膵炎で前医入院中に膵頭部腫瘍を指摘され,精査加療目的に当院紹介.非機能性膵神経内分泌腫瘍の疑いで,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学的検査で腎細胞癌再発と診断された.術後8か月経過しているが,明らかな再発は認めていない.

鼠径部に発生したmesothelial cystの1例

著者: 米盛圭一 ,   日高敬文 ,   吉留伸郎 ,   原口優清 ,   夏越祥次

ページ範囲:P.1246 - P.1251

要旨
症例は27歳,女性.左鼠径部腫瘤を自覚し,当科を受診した.腹部CTと腹部超音波検査にて左鼠径管内から腹腔側に囊胞性の腫瘤性病変を認め,Nuck管水腫の術前診断で手術方針とした.手術は前方アプローチで行い,内鼠径輪から脱出する水腫と,内鼠径輪に近い腹膜の腹腔側に付着する水腫を確認し,それぞれ切除した.病理組織学的検査では,内鼠径輪から脱出していた水腫に単層立方上皮細胞の裏打ちを認め,中皮細胞と考えられた.免疫染色ではカルレチニン陽性で,mesothelial cystと診断された.鼠径部のmesothelial cystは稀であり,文献的考察を加えて報告する.

私の工夫

内視鏡的大腸ポリープ切除術におけるpre-clipping法

著者: 板野聡 ,   谷口信將 ,   堀木貞幸 ,   寺田紀彦

ページ範囲:P.1252 - P.1253

【出血予防をめぐって】
 内視鏡的大腸ポリープ切除術を施行するにあたっては,出血や穿孔といった合併症のリスクがあり,種々の対策が検討されている1〜4).ポリープの大きさとタイプによって,安全に切除できるかが判断されるが,なかでもⅠp型では,茎で切断できれば頭部が大きいものでも内視鏡的に切除できる可能性が大きいと思われる.
 一方で,ポリープ頭部が大きいものでは,それに比例して茎が太いものが多く,流入する血管も太くなり内視鏡的切除後の出血のリスクが増大する.野崎ら5)は,大腸ポリペクトミーでの出血頻度は平均2%,3 cm以上のポリプでは5%,輸血を必要とする大出血は0.4〜0.9%にみられるとしている.このため,切除前に出血を予防する器具として留置スネアが考案されており5),切除後では出血が起こった場合や後出血予防としてクリップを用いる手技も実施されている6)

ひとやすみ・194

己の手術をだれに託すか

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1175 - P.1175

 臨床外科医は数多くの手術を執刀しても,自分自身に対して執刀することはできない.己が手術を受ける立場になったら誰に託すか,手術を熟知しているが故に外科医の悩みは尽きない.
 8か月前ほどから排便時などで力むと右鼠径部に違和感を覚え,2か月前から立位時には鼠径部の腫大が目立ち,鼠径ヘルニアと診断した.成人鼠径ヘルニアは治癒することはなく,次第に増大する.さらには嵌頓して緊急手術に至ることもあるため,手術を行う必要がある.手術としてはさまざまな術式があるが,現在ではメッシュを用いた術式が主流である.しかしメッシュの形はさまざまで,術式にも鼠径部切開法と腹腔鏡下手術,さらに麻酔では局所,腰椎,全身がある.通常はたまたま受診した病院での慣例で行われるが,かつてヘルニアを専門とした私としては術式もさることながら,誰に手術を託するかが大いなる問題である.

1200字通信・148

居酒屋にて

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1195 - P.1195

 少し前の,ある学会でのことです.たまたま重症患者さんがおられ,何かあればホテルをキャンセルして帰るつもりでしたが,なんとか予定通りに泊まることができました.そんなことから,いつもなら誘い合う先生にも連絡せぬままでしたので,一人でホテルの近くの居酒屋へ入ってみることにしました.
 お店に入ると,調理場の見えるカウンター席に通され,一人でも退屈せずに済みそうだと安心しました.やがて,好きなビールを飲むうちに,アルコールによって聴覚が研ぎ澄まされてきたためか,離れた席のお客さんの声が耳に入ることになりました.どうやら,耳慣れた単語が出てきたことで,居酒屋の喧騒の中でも,ちょうどラジオの周波数が合ったとでもいった感覚でよく聞き取れたのではなかったかと思われます.

昨日の患者

秘蔵されていた妻へのラブレター

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1206 - P.1206

 外科医の仕事は診療であるが,日々の医療行為を介して患者さんやその家族との人間関係も生まれる.患者さんが亡くなっても患者家族と続く,交流の一端を紹介する.
 Iさんは70歳代半ばの胃癌患者さんであった.術後にイレウスを繰り返し,最終的には再発で黄泉の世界に旅立った.Iさんが亡くなって7年が経過し,ご主人から手紙をいただいた.

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目次

ページ範囲:P.1142 - P.1143

原稿募集 私の工夫—手術・処置・手順

ページ範囲:P.1194 - P.1194

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1258 - P.1258

次号予告

ページ範囲:P.1259 - P.1259

あとがき

著者: 小寺泰弘

ページ範囲:P.1260 - P.1260

 19年前に胃癌治療ガイドラインの第1版が出版されました.しかし,術後補助化学療法には確たるエビデンスがないので漫然と行うべきではなく,進行再発胃癌の化学療法においては標準治療として明確に推奨できるレジメンがないなど,それまでも脈々と胃癌治療が行われていたにもかかわらず,いかに何もわかっていないのかが無念さを押し殺すような筆致で綴られていて,口惜しく思った記憶があります.外科治療についても,大動脈周囲リンパ節郭清をしないと学会で腰抜け呼ばわりされる半面,海外ではD2郭清においても否定的な結果が出ていました.胃癌診療に携わる医師として一体どうすればよいのかわからずに悶々と過ごすことになりかねなかったのが私の青春時代でした.幸い,多くの臨床試験に参加しているがんセンターに勤務していた私は,どうすればよいのかわからずに悩む代わりに,どうすれば患者さんからランダム化試験の同意を取ることができるのかで悩みながらその時代を過ごしました.こうした努力の結果が実を結んだ頃には,私は現在の職場に異動しておりましたが,得られたエビデンスがガイドラインに記載されたのを見てうれしく思ったものです.こうした時代を経て,現在では臨床試験や治験は見違えるように活性化しております.ガイドラインは頑張っても3年に一度程度しか改定されないわけですが,その間にも第Ⅲ相試験による重要なエビデンスが次々に創出されてくるので,日本胃癌学会のガイドライン委員会ではその都度ガイドライン速報版を作成,発信して対応している状態です.つまり,現在ではガイドラインに掲載すべきネタが豊富にあり,それだけ胃癌の治療も充実してきたということになります.そして最新版である胃癌治療ガイドライン第5版の完成後も,世の中はどんどん動き続けております.というわけで,2018年の10月号で第5版を特集したばかりなのですが,今回はこの次のガイドラインで話題になりそうな内容を集めてみました.自分がガイドライン作成委員を外れたから,というわけではないのですが,アウトローに徹してこのような企画を組みました.しかし,おもにガイドライン委員の先生方を中心に執筆をお願いしたところ,内容はイケイケモードには程遠い重厚なものに仕上がっております.改めてわが国で胃癌のトップリーダーとなっている先生方の底力を見る思いです.読者の皆様,第6版を楽しみに待ちましょう.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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