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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科75巻13号

2020年12月発行

雑誌目次

特集 膵頭十二指腸切除の完全ガイド—定型術式から困難症例への対処法まで

ページ範囲:P.1393 - P.1393

 膵頭十二指腸切除(PD)と肝葉切除術を執刀することは,肝胆膵外科における一つの到達点である.それだけに,習得するまでは誰でもいくつかの難所に遭遇する.しかし一つ一つのポイントを克服していけば,最終的には安全に完遂できるはずである.
 【手術に必要な局所解剖と術前評価】【膵頭十二指腸切除の定型術式】では,外科医になって3〜10年くらいの若手外科医が初めてPDを術者として担当するときに注意すべき点を,エキスパートの先生方に詳述していただいた.PDにおける術中の落とし穴はどこなのか,どこを安全に簡略化できるのか,そのエッセンスを示していただいている.【困難症例に対する手技・対処法】では,アドバンス症例や困難な状況にある症例に対する手術を解説していただいた.これを学んでおくことによって常に不動心をもって手術に当たることが可能になる.

手術に必要な局所解剖と術前評価

PDに必要な局所解剖

著者: 北川裕久 ,   橋田和樹 ,   武藤純 ,   濱井健太 ,   横田満 ,   長久吉雄 ,   仁科慎一 ,   岡部道雄 ,   河本和幸

ページ範囲:P.1394 - P.1402

【ポイント】
◆剝離層:おのおのの臓器は固有の膜に覆われた状態で発生し,重なり癒合して固定され,個体として完成するが,膜構造を十分把握して剝離・切離を進めるべきである.
◆膵外神経叢:特にPLsma, PLph Ⅰ, PLph Ⅱは,機能的には神経とリンパ流の複合通路であり,膵頭部癌手術では根治性と機能温存の両立が重要な課題である.
◆血管処理:動脈のみならず門脈系も多くの分岐パターンがあり,静脈還流も考慮した切離計画が必要である.

PDの術前評価—安全に手術が可能か,患者因子をどのように評価するか

著者: 前田晋平 ,   大塚英郎 ,   水間正道 ,   中川圭 ,   森川孝則 ,   海野倫明

ページ範囲:P.1404 - P.1408

【ポイント】
◆造影CTを中心とした画像検査による血管走行,分枝の詳細な把握が,安全な手術操作,術中出血量の減少,さらには術後合併症の減少につながる.
◆耐術能の評価には各種検査のみならず,パフォーマンスステータスや運動耐容能など問診で得られる情報が重要である.
◆客観的な評価としてNCDのリスクカリキュレーターや膵液瘻リスクスコアなどが利用可能である.

膵頭十二指腸切除の定型術式

低悪性度腫瘍に対するPD

著者: 中川直哉 ,   永川裕一 ,   小薗真吾 ,   瀧下智恵 ,   刑部弘哲 ,   西野仁恵 ,   鈴木健太 ,   勝又健次 ,   土田明彦

ページ範囲:P.1409 - P.1414

【ポイント】
◆低悪性度腫瘍における膵頭十二指腸切除術では,系統的リンパ節郭清を必要としない症例が多い.しかし,正確な剝離層を理解しながら切除を行っていくことは重要である.
◆系統的リンパ節郭清を行わない膵頭十二指腸切除術では,主要血管を広範囲に露出する必要はないが,術中にdisorientationとならないように,各手術ステップにてランドマークとなる解剖学的構造の位置を常に確認しながら手術を進めることが重要である.

胆管癌に対するPD—D2郭清,soft pancreas

著者: 和田慶太 ,   佐野圭二 ,   三澤健之 ,   渋谷誠 ,   津嘉山博行 ,   川村幸代 ,   峯崎峻亮 ,   根本憲太郎 ,   豊田啓恵 ,   肥沼隆司 ,   近藤里江 ,   渡邊理 ,   高橋秀樹

ページ範囲:P.1415 - P.1421

【ポイント】
◆術前画像で解剖を詳細に把握し,術前には必ず手術のシミュレーションを行う.
◆良好な術野を確保しながら,解剖に沿った丁寧な手術操作を心がける.
◆手術後は必ず手術記録(イラスト入り)を残し,手術の“振り返り”を行う.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2023年12月末まで)。

切除可能膵癌に対するmesenteric approachによるPD—D2郭清,hard pancreas

著者: 廣野誠子 ,   山上裕機

ページ範囲:P.1422 - P.1426

【ポイント】
◆切除可能膵癌に対する膵頭十二指腸切除術におけるmesenteric approachは,切除段階において上腸間膜動脈(SMA)からアプローチするartery-first approachの一手法である.
◆mesenteric approachにより,下膵十二指腸動脈(IPDA)を早期に切離することで,術中出血量の減量が期待できる.
◆mesenteric approachにより,患部である膵頭部を手で把持しないことにより,膵癌細胞の揉み出しが回避できる可能性がある.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2023年12月末まで)。

〈PDの定型術式・ポイント解説〉

効果的なドレーン留置および管理方法

著者: 田中真之 ,   北郷実 ,   北川雄光

ページ範囲:P.1427 - P.1429

はじめに
 膵頭十二指腸切除術(PD)は,術後合併症の頻度が高く,消化器手術の中でも難易度の高い術式の一つである.膵液瘻,胆汁漏,腹腔内膿瘍,出血などの術後合併症を早期診断するために,またそれらの合併症を治療するために術後のドレーン挿入とその管理は極めて重要である.近年,手術手技の向上および定型化,ドレーンの開発,周術期管理の定型化により,また,interventional radiology(IVR)の技術の向上も確かであり周術期関連死亡率が低下しているものの,最適なドレーン留置や管理方法はいまだに標準化されていない1).本稿では,当科における定型化されたドレーン挿入およびその管理について解説する.

出血量を減らすコツ

著者: 樋口亮太 ,   山本雅一

ページ範囲:P.1430 - P.1433

手技のポイント
 膵頭十二指腸切除術(pancreaticoduodenectomy:PD)施行時の出血量を減らすためには,疾患の種類と進展度,血管の分岐形態を術前に把握し,Artery first approachの概念を理解して手術を行うことが重要である.

胆管空腸吻合は連続縫合か結節縫合か

著者: 山本智久 ,   里井壯平 ,   山木壮 ,   橋本大輔 ,   坂口達馬 ,   廣岡智 ,   関本貢嗣

ページ範囲:P.1434 - P.1436

はじめに
 膵頭部領域の病変に対して施行される膵頭十二指腸切除術(PD)において,胆管は上部胆管で切離されることが多い.再建は挙上空腸を用いた胆管空腸吻合が行われ,手技としては比較的容易であるが,胆汁漏の発生率は3.0〜3.4%1〜3),吻合部狭窄の発生率は3.8〜8.0%4,5)と報告されている.また,病変が上部胆管近傍まで進展している場合では,肝門部胆管にて胆管切離を行う必要があり,時に左右肝管の2穴またはそれ以上に分かれることがある.分かれた肝管は個別に吻合するか,近接している場合は形成を行い,一穴化した後に吻合する必要がある.また,胆管拡張を伴わない症例では,胆管壁肥厚を伴わない正常胆管を吻合する必要がある.視野が不良かつ運針技術の必要な状況での,安全で確実な吻合法が求められることがある.
 本稿では,胆管空腸吻合について,当科での方法を紹介し解説する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2023年12月末まで)。

困難症例に対する手技・対処法

主膵管型IPMNの術中断端陽性例に対する追加切除

著者: 井手野昇 ,   仲田興平 ,   池永直樹 ,   森泰寿 ,   小田義直 ,   中村雅史

ページ範囲:P.1437 - P.1442

【ポイント】
◆主膵管型IPMNは,術前診断よりも広範にわたり主膵管に沿って進展していることがある.
◆断端陽性例では,追加切除で陰性化が得られれば膵全摘を回避できる可能性がある.
◆術後は残膵のskip lesion,併存癌を念頭においた厳重な経過観察が必要である.

血管合併切除を伴うPD—門脈再建,動脈合併切除

著者: 天野良亮 ,   木村健二郎 ,   元村尚嗣 ,   大平豪 ,   新川寛二 ,   田中肖吾 ,   竹村茂一 ,   久保正二

ページ範囲:P.1443 - P.1446

【ポイント】
◆術前画像で脈管の解剖を十分に把握しておき,門脈・動脈の浸潤範囲と再建方法をIVR医,血管外科医とともに十分に検討しておく.
◆術中に起こりうるあらゆることを想定して,術前血流改変,抗血栓性門脈バイパス用カテーテルの用意,血管グラフトのプランニングを行う.
◆随伴性膵炎,血流改変,術前治療などにより高度な組織変性をきたしており,細心の手術操作が必要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2023年12月末まで)。

膵炎,被包化膵壊死(WON)の既往のある症例に対するPD

著者: 山田大作 ,   小林省吾 ,   岩上佳史 ,   富丸慶人 ,   秋田裕史 ,   野田剛広 ,   後藤邦仁 ,   土岐祐一郎 ,   江口英利

ページ範囲:P.1447 - P.1451

【ポイント】
◆ERCP後膵炎や腫瘍による閉塞性膵炎を合併した後,膵頭十二指腸切除術を施行する症例をしばしば経験する.
◆重症急性膵炎を合併した症例では,膵臓周囲に強い癒着を伴って手術が非常に困難となるため,より慎重な手術操作が必要であり,腫瘍状況が許すのであれば3か月以上の待機期間をおき,炎症の収束を待って手術を行うことが推奨される.
◆手術時には,上腸間膜動脈・総肝動脈を術早期に遊離させて手中に収めることが可能な状態としたうえで,最も癒着の強い部位を最終剝離点とし,この周囲を剝離していくことで,安全に慎重に手術を進めることが肝要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2023年12月末まで)。

肝門部に達する金属ステント留置が行われた症例に対するPD

著者: 松井あや ,   平野聡 ,   田中公貴 ,   中西喜嗣 ,   浅野賢道 ,   野路武寛 ,   中村透 ,   土川貴裕 ,   岡村圭祐

ページ範囲:P.1452 - P.1456

【ポイント】
◆金属ステントが留置された症例の胆管切離時には,切除側胆管の閉鎖が困難な場合があり,胆汁の漏出をきたさないように工夫が必要である.
◆金属ステント留置部より肝臓側での胆管切離が理想であるが,膵癌に対する膵頭十二指腸切除ではステント留置部での切離も許容されると考える.
◆胆管から右肝動脈の剝離を行う場合は,動脈周囲神経鞘を切開し,血管外膜を露出する層で剝離を行うと操作が容易で安全である.

膵動静脈奇形に対する緊急PD

著者: 浅野之夫 ,   荒川敏 ,   伊東昌広 ,   加藤宏之 ,   志村正博 ,   林千紘 ,   越智隆之 ,   神尾健士郎 ,   安岡宏展 ,   河合永季 ,   東口貴彦 ,   堀口明彦

ページ範囲:P.1457 - P.1462

【ポイント】
◆繰り返す膵炎,十二指腸潰瘍,食道静脈瘤では膵動静脈奇形を念頭に置き,ダイナミックCTを考慮する.
◆膵表面は不明瞭な血管網を認め,易出血性である.また,A-P shuntに伴う門脈圧亢進状態を認める.
◆術中出血をコントロールするため,術前TAEを考慮する.TAE施行困難な際には,膵臓への流入動脈を先行処理し,流入血を遮断する.

—切除不能膵癌に対するコンバージョン・サージェリー—SMA周囲神経叢浸潤疑い症例

著者: 水野修吾 ,   種村彰洋 ,   早崎碧泉 ,   村田泰洋 ,   岸和田昌之

ページ範囲:P.1464 - P.1468

【ポイント】
◆切除不能膵癌に対するコンバージョン・サージェリーは,外科的切除により長期予後が期待できる症例に限定して行う.
◆SMA周囲神経叢切離の前に,まずSMA根部のテーピングを行い,万が一のSMAからの出血に対応できるように準備をしておく.
◆SMA周囲神経叢浸潤部位の中枢側と末梢側にテーピングを行い,ペンローズドレーンを用いてSMA周囲神経叢を牽引し切離する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2023年12月末まで)。

—切除不能膵癌に対するコンバージョン・サージェリー—SMV完全閉塞で側副血行が発達した症例

著者: 山田豪

ページ範囲:P.1469 - P.1473

【ポイント】
◆「SMV完全閉塞で側副血行が発達した症例」とは,門脈系血管浸潤度分類では「Type D」となり,現在では長期術前治療後のコンバージョン・サージェリーに該当する症例である.
◆手術手技の要点としては,mesenteric approachの選択,アンスロンカテーテルバイパスの使用,グラフト再建の考慮の3点である.
◆膵頭十二指腸切除の中でも極めて高難度術式かつ術中および術後合併症のリスクも高いため,慎重な手術適応の検討,入念な術式計画が求められる.

坂の上のラパ肝・胆・膵・12

膵体尾部切除術(前編:手術開始〜膵離断前)

著者: 大目祐介 ,   本田五郎

ページ範囲:P.1474 - P.1483

Point
◆上半身のみを右に捻る体位(左肩甲挙上砕石位)をとることにより,左横隔膜窩が臍(足側正中)と患者右側に立つ術者に近付き,デバイスの操作性が良くなる.
◆最初に下行結腸をGerota筋膜(腎前筋膜)から剝離し,大網と脾結腸間膜を切離して横行結腸の左側半分とともに尾側に引き下げることで,膵体尾部と脾臓の周囲に広い空間(術野)を確保する.
◆胃を牽引・挙上して,妥協せずに良好な術野を確保する.
◆膵背側(膵後筋膜)とGerota筋膜との間の層を認識し,おもに鈍的な剝離操作で膵尾部を後腹膜から授動する.

FOCUS

胆道癌薬物療法の最新動向

著者: 岡野尚弘 ,   廣田玲 ,   西岡真理子 ,   杉浦ちとせ ,   前園知宏 ,   河合桐男 ,   水谷友紀 ,   長島文夫 ,   古瀬純司

ページ範囲:P.1484 - P.1488

はじめに
 胆道癌は乳頭部を含む肝外胆道系に原発したがん腫であり,「胆道癌取扱い規約」により肝外胆管癌,胆囊癌,十二指腸乳頭部癌に分類される.肝内胆管癌は,取扱い規約では原発性肝癌として取り扱われているが,治療開発は胆道癌として進められている.胆道癌では,外科手術のみが根治を期待できる治療法であるが,切除例の6〜7割に再発が認められ,切除例でさえ予後不良な難治癌である.胆道癌全体の予後改善には,切除不能例や術後再発例に対する化学療法,根治切除例に対する術後補助化学療法の開発が必須である.
 近年,切除不能・再発胆道癌に対する一次治療の二つの第Ⅲ相試験の結果が本邦から発表された.二次治療においては海外から有望な治療薬の結果が相次いで発表されている.また,術後補助化学療法に関しても,本邦で実施されている第Ⅲ相試験の結果がまもなく公表される予定であり,期待が高まっている.

病院めぐり

蜂谷病院Medical Team 88

著者: 蜂谷裕之

ページ範囲:P.1489 - P.1489

 群馬県は,羽を広げた鶴の形に似ているといわれており,当院のある大泉(おおいずみ)町は首の部分にあたります.県内で最も面積が小さい町で,人口は4万2千人です.大泉町は,外国の方の比率が19%と高率であることで知られており,全国で3番目(1位:北海道占冠村22%,2位:大阪市生野区21%)であります.内訳はブラジルの方が57%と最も多く,ペルー12%,ネパール5%です.これまでに,55か国の方が受診してくださいました.
 大泉町唯一の病院である当院は,1962(昭和37)年に開院し,今年で58年目を迎えることができました.病床数は74床(一般26床,療養48床)で,診療科は内科,外科,肛門科,整形外科,内分泌代謝科(糖尿,甲状腺),ペイン外来があります.栃木県の獨協医科大学病院の連携施設に認定されており,慢性期の転院先として地域医療へ貢献しています.当院は国際色豊かで,日本語以外を母国語とする職員も診療に携わっており,まさにinternatinalな病院でもあります.院内には四季折々の風景画(初代院長の作品)や飾り付けを展示し,美術館のような空間を作り,来院される方々の心を和ませるよう努力しております.院内の様子は,随時ホームページで紹介しておりますのでご覧頂きたく存じます.

臨床報告

右下腹部痛を契機に発見された良性多囊胞性腹膜中皮腫の1例

著者: 上田弥生 ,   浅野博昭 ,   谷口厚樹 ,   水田悠介 ,   香西純 ,   宮谷克也

ページ範囲:P.1491 - P.1495

要旨
患者は74歳,女性.右下腹部痛を主訴に来院し,腹部造影CT検査で盲腸から上行結腸外側に多囊胞性病変を認め,1年前と比較して増大傾向を認めた.画像検査では確定診断に至らず,多囊胞性病変の摘出術を施行した.腹腔内を検索したところ,大網にも同様の囊胞性病変を認めたため同時に摘出した.病理組織学的検査では,免疫組織化学染色でAE1/AE3, WT-1, calretinin, D2-40に陽性で中皮由来であり,良性多囊胞性腹膜中皮腫と診断した.肉眼的には完全切除できたが再発の可能性もあるため,今後も慎重な経過観察が必要と考えられる.

ひとやすみ・196【最終回】

自己を表現し,人生を謳歌する

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1403 - P.1403

 臨床外科医の主な務めは,患者の同意の下に誠心誠意診療することである.また診療を介して知り得た有用な情報を学会や雑誌などで公表し,他の医師の批判を仰ぐと共に知識を共有することが求められる.それが信頼して診療を託してくれた患者に対する,臨床医の責務でもある.
 大学の医局に在職している時には,学会発表や論文執筆を盛んに行う医師が多い.しかし医局を離れると,学会活動を行う医師は激減する.日常診療が忙しいから,症例が少ないから,最新の検査機器や手術機器がないからなど,行わない理由を多々あげるが,究極的には診療に臨む姿勢が問われる.

昨日の患者【最終回】

最終章は私の両親

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1442 - P.1442

 外科診療を介して出会った思い出深い患者さんを紹介してきたが,最も心に残る患者さんはやはり両親である.「昨日の患者」の最終患者として,私の両親を紹介したい.
 両親は共に教職の道を歩み,退職後も教え子から慕われた.そして80歳代後半になるまで共に病気もせず,2人で田舎暮らしを楽しんだ.また私たち子供や孫らをしばしば集めては,成長ぶりを見守ってきた.しかし母は88歳で脳腫瘍を切除し,術後は自由に行動ができずに誤嚥性肺炎を繰り返した.一方,父は90歳で大腸癌となり,当時外科研修医であった私の次男と2人で腹腔鏡下大腸切除術を行った.そして私の姉の介助の下,田舎で暮らした.

1200字通信・150【最終回】

父の遺言—そうだったのか

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1463 - P.1463

 父が亡くなったのは2017年の5月でしたので,早いもので,もう3年半が過ぎたことになります.仕事柄,多くの死に出会いますが,やはり身内との別れは辛く,後に尾を引くものではあります.仕事でお見送りをする時,特に高齢の男性であればあるほど,3年前の情景が思い出されて,改めて父の不在を知らされます.
 そんなことが続いたある日,癌の末期で「後は緩和ケアしかすることがないので地元へ」と転院を勧められた患者さんが入院して来られました.紹介状には,いつものパターンで,「状態は落ち着いておられ,しばらく在宅も可能と考えます」と認めてはありましたが,すでに高用量の内服用麻薬が処方されており,ご家族の強い意向で,結局,転院即入院で対応することになったのでした.

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目次

ページ範囲:P.1390 - P.1391

原稿募集 私の工夫—手術・処置・手順

ページ範囲:P.1451 - P.1451

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1499 - P.1499

次号予告

ページ範囲:P.1501 - P.1501

あとがき

著者: 遠藤格

ページ範囲:P.1502 - P.1502

 先日,大阪大学の土岐祐一郎先生が当番世話人を務められた第74回手術手技研究会で司会をさせて頂きました.順天堂大学の齋浦明夫教授からRegional Pancreaticoduodenectomyについてご講演頂きました.上腸間膜動脈のラインで膵切離を行い,門脈も剝離せず合併切除するという方法です(Oba A, Saiura A et al:BJS Open. 2020;4:438-448).R0切除が通常法と比較して66%から80%に改善し,median OSは21か月から32か月に延長したそうです.優れた成績にも感銘を受けましたが,なるほどこのようにプレゼンテーションをすれば説得力が出るのだなと唸らされる講演でした.研究会では,久しぶりに対面できた先生も多く,思わず抱きつきたくなってしまいました.本当に3月末からのコロナ禍は(未だ終息していませんが)長かったと思います.これから徐々に会う機会が増えることを祈りながら会場を後にしました.

「臨床外科」第75巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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