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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科75巻2号

2020年02月発行

雑誌目次

特集 「縫合不全!!」を防ぐ

ページ範囲:P.133 - P.133

 消化器外科医にとって,消化管吻合後の縫合不全は宿命的につきまとう合併症であり,それをなくすことは生涯の課題である.縫合不全の原因として,患者要因(低栄養,易感染性,創傷治癒遅延など)と外科医の技術的な要因が挙げられるが,特に後者においては施設によって様々な工夫が試みられ,優れた成績も報告されている.本特集では,知っておくべき基本概念をおさえるとともに,最新の話題,エキスパートの工夫を術式別に紹介していただいた.縫合不全の予防に役立てていただければ幸いである.

総論

縫合不全のリスクファクター

著者: 岡田有加 ,   橋口陽二郎 ,   大野航平 ,   八木貴博 ,   福島慶久 ,   島田竜 ,   小澤毅士 ,   端山軍 ,   土屋剛史 ,   野澤慶次郎 ,   松田圭二

ページ範囲:P.134 - P.138

【ポイント】
◆縫合不全のリスクファクターには全身的因子と局所性因子があり,輸血などの手術因子も影響してくる.
◆サブイレウス状態での一期的吻合は縫合不全のリスクを高める.
◆PNI 40以下では縫合不全のリスクが高いとされており,術前栄養管理が望まれる.
◆直腸癌低位前方切除においては,ノモグラムでリスクの高い症例を抽出し,ストーマ造設や経肛門減圧ドレーンの留置などにより,縫合不全を防ぐ方策をとることが肝要である.

縫合不全を起こさない吻合の基本

著者: 須並英二 ,   吉敷智和 ,   小嶋幸一郎 ,   飯岡愛子 ,   若松喬 ,   阪本良弘 ,   阿部展次 ,   森俊幸 ,   正木忠彦

ページ範囲:P.139 - P.144

【ポイント】
◆縫合不全の少ない吻合法を実施するためには,手縫い吻合,器械吻合それぞれの特徴(長所・短所)に加えて自身の技量や慣れなどを考慮し,最適な方法を選択する.
◆手縫い吻合では適切な縫合糸と吻合手技とを選択し,器械吻合ではその特徴や使用方法を熟知して施行する必要がある.

直腸癌手術におけるICG蛍光ナビゲーションによる血流評価

著者: 河田健二 ,   和田聡朗 ,   岡田倫明 ,   出口靖記 ,   大嶋野歩 ,   水野礼 ,   板谷喜朗 ,   肥田侯矢 ,   坂井義治

ページ範囲:P.145 - P.149

【ポイント】
◆ICG蛍光法は,術中の再建腸管血流をリアルタイムに評価する客観的手法として注目されている.
◆直腸癌術後の縫合不全を減らすのに有効な可能性が示唆されている.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間2023年2月末まで)。

食道

頸部食道胃管吻合:器械吻合(circular)

著者: 田中晃司 ,   山﨑誠 ,   土岐祐一郎

ページ範囲:P.150 - P.156

【ポイント】
◆適切なサイズの自動吻合器を選択のうえ,確実にアンビルヘッドを残食道に挿入・固定する.
◆胃管を十分に挙上するために大彎側の長さを活かすようなpreparationが重要である.
◆器械吻合の本体とアンビルヘッドのドッキング後は,適切な緊張をかけ,消化管の巻き込みを回避する.
◆吻合部狭窄予防のため,吻合の瞬間には消化管に過剰な緊張がかからないように注意する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間2023年2月末まで)。

頸部食道胃管吻合:器械吻合(三辺外翻三角吻合)

著者: 高橋慶太 ,   大竹玲子 ,   堀創史 ,   問端輔 ,   上月亮太郎 ,   岡村明彦 ,   今村裕 ,   渡邊雅之

ページ範囲:P.157 - P.160

【ポイント】
◆三角吻合は縫合不全や吻合部狭窄をきたしにくい安全な吻合法である.
◆吻合部に大網被覆を行うことで,縫合不全のリスクを減らすことができる.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間2023年2月末まで)。

頸部食道胃管吻合:手縫い吻合

著者: 八木浩一 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.162 - P.164

【ポイント】
◆最も慣れた吻合法を定型化された手順で行うことが重要である.
◆吻合手技だけではなく,胃管血流,緊張度などの手技以外の問題も重要である.

遊離空腸による食道再建

著者: 小池聖彦 ,   神田光郎 ,   小寺泰弘

ページ範囲:P.165 - P.168

【ポイント】
◆遊離空腸と胸壁前経路の解剖学的特徴から決まる置換可能距離を十分認識し,手術適応を誤らないことが重要である.
◆食道空腸吻合部の前壁に緊張がかからないよう,吻合位置の決定や減張縫合の追加などを行う.
◆遅発性縫合不全がときに見られるので,再建臓器内の減圧を経口摂取直前まで継続し,経口摂取の開始を原則術後14日目としている.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間2023年2月末まで)。

食道回結腸吻合,食道結腸吻合

著者: 上野正紀 ,   宇田川晴司

ページ範囲:P.169 - P.173

【ポイント】
◆食道がん手術において再建に胃が使用できない場合がある.空腸,回結腸や結腸が再建に用いられる.
◆吻合には十分な血流の確保,栄養血管に対する細心の注意,吻合部に緊張のかからないこと,正確な層々吻合が必要である.
◆結腸の血管走行によって使用できる部位が変わることがあるので,血流の確認を十分に行うことが肝要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間2023年2月末まで)。

幽門側胃切除Billroth-Ⅰ法再建:手縫い吻合

著者: 深川剛生

ページ範囲:P.174 - P.177

【ポイント】
◆幽門側胃切除後のBillroth-Ⅰ法再建・手縫い吻合は胃癌手術の基本的手技であり,器械吻合・腹腔鏡下手術が標準的となった現在でも習得しておくべき手技である.
◆縫合不全を防ぐためには,吻合の過緊張をとること,十二指腸周囲の血流に留意すること,縫合の一針一針と結紮を丁寧に行うことが重要である.

体腔内Billroth-Ⅰ法再建:デルタ吻合

著者: 細木久裕 ,   坂口正純 ,   八木大介 ,   所為然 ,   金谷誠一郎

ページ範囲:P.179 - P.181

【ポイント】
◆解剖学的ランドマークに基づいた胃切離ラインを設定することにより,過度な緊張なく吻合が可能である.
◆吻合ラインの十二指腸,残胃の血流に配慮し,吻合操作はone by one techniqueとして一つずつの操作を確実に行う.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間2023年2月末まで)。

噴門側胃切除・胃全摘における食道空腸吻合

著者: 和田剛幸 ,   片井均

ページ範囲:P.182 - P.185

【ポイント】
◆郭清は個々のvariationに対して臨機応変に対応する必要があるが,再建はroutineを決めて遵守する.
◆食道空腸吻合部のtensionを改善する技術を身につけておく.

胃癌手術におけるRoux-Y再建後の十二指腸断端の閉鎖

著者: 小寺泰弘 ,   田中千恵

ページ範囲:P.187 - P.190

【ポイント】
◆胃癌に対する胃切除術に際し,十二指腸断端の縫合不全は重篤な結果を招来しうる合併症である.
◆十二指腸断端の血流に留意し,2列のステイプラーを十二指腸の短軸に直角に作動させ,ステイプルラインは結節縫合で埋没することでこれを予防しようとしたが,生涯を通じてその発生をゼロとすることはできなかった.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間2023年2月末まで)。

大腸

結腸右半切除術における機能的端々吻合:器械吻合

著者: 藤井正一 ,   有村隆明 ,   出口貴司 ,   金澤真作 ,   堤謙二 ,   内山周也

ページ範囲:P.191 - P.196

【ポイント】
◆口径差のある腸管を吻合する方法として優れた再建方法である.
◆的確な手順で施行すれば,術者の習熟度による成績の差はない.
◆縫合不全予防には,結腸の血流確認,回腸間膜の捻れがないこと,腸壁の全層を確実にステイプリングすることが重要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間2023年2月末まで)。

直腸低位前方切除術での直腸吻合:腹腔鏡下

著者: 秋山岳 ,   植松大 ,   杉原毅彦 ,   真岸亜希子 ,   大野浩次郎

ページ範囲:P.198 - P.201

【ポイント】
◆鏡視下操作ではtotal mesorectal excision(TME)と肛門側間膜処理に留意する.
◆小開腹操作では口側間膜処理に留意し,腸管距離を確保をしつつ血流も温存する.
◆緊張がないことを確認しながら吻合し,減圧目的に経肛門的ドレーンを使用する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間2023年2月末まで)。

直腸低位前方切除術での直腸吻合:ロボット支援下

著者: 山下大和 ,   菊池章史 ,   笠井俊輔 ,   塩原寛之 ,   茂原富美 ,   田澤美也子 ,   高岡亜弓 ,   青柳康子 ,   山本雄大 ,   松宮由利子 ,   馬場裕信 ,   山内慎一 ,   松山貴俊 ,   徳永正則 ,   中島康晃 ,   絹笠祐介

ページ範囲:P.202 - P.205

【ポイント】
◆縫合不全の危険因子として,糖尿病,喫煙,男性,肥満,狭骨盤,腫瘍サイズ,術前化学療法,放射線療法,手術時の吻合手技,吻合部血流,吻合部の緊張,術後の循環動態や酸素状態などが挙げられる.
◆低位前方切除術の縫合不全に対する当科の取り組みを術前・術中・術後に分けて記述する.

括約筋間直腸切除術(ISR)における手縫い吻合

著者: 塚田祐一郎 ,   伊藤雅昭 ,   長谷川寛 ,   池田公治 ,   西澤祐吏 ,   佐々木剛志

ページ範囲:P.206 - P.209

【ポイント】
◆ISRにおける縫合不全の主な原因は,再建腸管の血流不良,吻合部の緊張,残便による吻合部への過度な圧である.
◆インドシアニングリーン(ICG)による血流確認,口側腸管の十分な授動,残便が多い場合の肛門ドレーンの使用によって縫合不全を減らすことが可能である.

潰瘍性大腸炎における大腸全摘,J型回腸囊肛門管吻合術:器械吻合

著者: 杉田昭 ,   小金井一隆 ,   辰巳健志

ページ範囲:P.210 - P.213

【ポイント】
◆初回手術時の吻合,または分割手術〔結腸(亜)全摘術〕の適正な選択が重要である.
◆吻合部の緊張を防ぐため,J型回腸囊となる回腸の遊離と肛門管周囲の十分な剝離,および良好な視野下で確実な吻合を行う.

潰瘍性大腸炎,家族性大腸ポリポーシスにおける大腸全摘J-pouch肛門吻合

著者: 西尾梨沙 ,   中田拓也 ,   森本幸治 ,   岡田大介 ,   古川聡美 ,   岡本欣也 ,   山名哲郎 ,   佐原力三郎

ページ範囲:P.214 - P.217

【ポイント】
◆回腸囊への血流を十分に確保する.
◆腸間膜の距離が確保でき,回腸囊が過度な緊張なく肛門に届く.
◆回腸囊と肛門の吻合部はムラなく均等に,凹凸をなくすよう密に縫合する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間2023年2月末まで)。

肝胆膵

肝門部胆道癌における肝内胆管空腸吻合

著者: 田中公貴 ,   平野聡

ページ範囲:P.218 - P.221

【ポイント】
肝内胆管空腸吻合における注意点として,
◆胆管枝は切離された直後に支持糸をかけ,“見失い”を防ぐ.
◆隣接する胆管同士を縫合形成することで胆管開口部を広く確保する.
◆再建する胆管すべてに外瘻用ステントチューブを留置する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間2023年2月末まで)。

膵空腸吻合法:Blumgart変法(Nagoya method)

著者: 木村七菜 ,   藤井努 ,   杉本博行 ,   山田豪 ,   吉岡伊作 ,   渋谷和人 ,   松井恒志 ,   小寺泰弘

ページ範囲:P.222 - P.225

【ポイント】
◆本法は結紮による膵裂傷を防止でき,線ではなく面で膵断端を確実にラップさせられることが利点である.
◆ドレーンの早期抜去・早期交換も重要である.

Twin square wrapping(TSW)法を用いた膵頭十二指腸切除における膵胃吻合

著者: 又木雄弘 ,   前村公成 ,   蔵原弘 ,   川崎洋太 ,   田上聖徳 ,   伊地知徹也 ,   保坂優斗 ,   飯野聡 ,   盛真一郎 ,   新地洋之 ,   夏越祥次

ページ範囲:P.226 - P.229

【ポイント】
◆膵切離は,組織損傷が軽微で止血能力が優れている超音波凝固切開メスを用い,主膵管切離のみメスを使用する.
◆膵胃吻合の胃後壁・膵貫通水平マットレス吻合は,膵管の頭側・尾側2針で,膵切離面を胃後壁で被覆するように行う.
◆膵管・胃粘膜吻合は,4針で行い,胃後壁の吻合糸で膵管チューブを固定し,ロストステントとする.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間2023年2月末まで)。

膵尾側切除における膵管断端閉鎖:器械縫合

著者: 廣野誠子 ,   山上裕機

ページ範囲:P.230 - P.232

【ポイント】
◆自動縫合器を挿入する際に,膵を損傷させないよう細心の注意が必要である.
◆膵実質に裂傷が生じないように,自動縫合器でゆっくり圧挫する.
◆膵切離後,膵に余計な力がかからないように自動縫合器を丁寧にゆっくり引き抜く.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間2023年2月末まで)。

肝移植における胆道再建

著者: 吉住朋晴 ,   原田昇 ,   森正樹

ページ範囲:P.233 - P.236

【ポイント】
◆ドナー手術でグラフト肝管の血流温存のため,肝管は過度に剝離せず,肝管周囲の出血は縫合止血を行う.
◆レシピエント肝管周囲の血流温存のため,可能な限り右肝動脈を肝管から剝離せず,一塊で肝門部から切離する.
◆肝管肝管吻合は外瘻チューブ留置下に結節吻合が望ましい.肝管空腸吻合に比べ縫合不全合併は低頻度である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間2023年2月末まで)。

FOCUS

外科医が知るべきプレシジョン・メディシンの潮流

著者: 佐々木治一郎

ページ範囲:P.238 - P.240

 プレシジョン・メディシン(precision medicine)は2015年のオバマ米国大統領の演説で公になった.プレシジョン・メディシンとは,患者や病気の遺伝子情報をベースに患者個々人に最適な医療を提供する個別化医療を指しており,この医療を国として推進していくという内容であった.遅れること4年,令和元年の到来とともに,日本においても遺伝子パネル検査を基軸としたがんゲノム医療が公的に開始された.第3期がん対策推進基本計画にがんゲノム医療の推進が掲げられ,がんゲノム医療中核拠点病院・がんゲノム医療拠点病院・がんゲノム医療連携病院を中心に,トップダウンで遺伝子パネル検査を用いる医療体制が構築されたのである1)
 このような医療が世界的な潮流となった背景には,がん細胞のもつドライバー遺伝子異常に対する特異的かつ効果的な分子標的治療薬が開発されてきたことが挙げられる.分子標的治療薬には剤形により小分子化合物と抗体薬があり,前者はおもにドライバー遺伝子異常の機能阻害を,後者は遺伝子異常の結果として生じるタンパクの過剰発現を標的とする免疫賦活などを機序として,がん細胞に細胞死を誘導する.ドライバー遺伝子異常に紐づく分子標的治療薬の開発には信頼性の高い診断,いわゆるコンパニオン診断が必要である.多くのドライバー遺伝子異常は相互排他的に生じるため,肺がんなど複数のドライバー遺伝子異常が報告されているがん腫においては,一つのコンパニオン検査が陽性となるまで,複数回のコンパニオン検査を連続して行う必要があった(図1).このことは貴重な検体を消費していくことになり,わずかな生検材料の枯渇を生む.また,検体の補充のために頻回の侵襲的な検査の負担を患者に課すことになる.最近,コンパニオン診断としての遺伝子パネル検査が保険収載されたが,これはこのような検体の浪費を抑制できる一方,実際はしなくてよかったかもしれない検査を自動的に行うこととなり,患者負担を増やしているという側面もある.

坂の上のラパ肝・胆・膵・2

肝部分切除術

著者: 大目祐介 ,   本田五郎

ページ範囲:P.241 - P.248

Point
◆術中超音波検査では,腫瘍と切離面の距離を測るだけでなく,ランドマークとなる周囲の脈管を描出して腫瘍との位置関係を把握する.
◆部分切除であっても,Glisson分枝と静脈の走行を意識してintersegmental planeに沿った切除を行うほうが,阻血領域を残さないだけでなく,迅速で出血量の少ない手術が可能となる.
◆「楔型切除」では,肝臓をめくり上げてcaudal viewで脈管の枝振り(芝目)を読み,caudal approachの利点を活かして肝離断を行う.
◆「露天掘り型切除」では,腫瘍の近傍を走行する太めの肝静脈を術中超音波検査で確認し,これに平行となるようにはじめの切離線を直線的に設定し,この肝静脈に向かって肝離断を開始する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間2023年2月末まで)。

病院めぐり

イムス札幌消化器中央総合病院外科

著者: 越湖進

ページ範囲:P.249 - P.249

 当院は2011年に慢性期医療を担っていた機能を急性期一般に転換,2013年に前身の琴似ロイヤル病院からイムス札幌消化器中央総合病院に名称変更しました.病院名が示す通り消化器疾患の急性期治療を主とする病床数183床の総合病院に機能転換し,名実とも板橋中央病院をはじめとするイムスグルーブの北海道における急性期拠点病院となりました.したがって外科診療も消化器領域を中心に据え,北海道大学消化器外科Ⅱ(旧第二外科)医局の支援を受け,現在6名の常勤医師体制となっています.当科は北海道大学の関連施設でもありますが,在籍医は出身大学や関連医局の枠にとらわれず構成されており皆その専門性をいかんなく発揮しています.6名の常勤医が標榜する資格の内訳としては,全員が外科専門医(学会指導医3名),消化器外科専門医5名(学会指導医3名),消化器内視鏡外科技術認定医1名,消化器病専門医3名(指導医2名),肝胆膵外科高度技能指導医1名等々(重複あり)となっています.
 当院消化器内科との密な連携,他の医療機関からの診療依頼や救急要請を断らない姿勢,組織横断的にコメディカルも含めたチーム医療の実践,知名度・信頼度向上のための事務方を中心とする草の根的営業努力などにより,まさにゼロからのスタートであった年間手術件数も年ごとに増加しており,2019年度は600件に迫る勢いです(2019年10月31日現在501例).症例数の増加に対応するべく2017年1月には手術棟を新築増設し,それまでの1室から3室に手術室を拡充,常勤麻酔科医師を2名体制としさらに手術体制の強化を行っています.また手術症例全体の1/4程度が臨時・緊急手術であることも特徴の1つです.2018年度の手術内容の主な内訳は,大腸直腸137件,胆石症112件,アッペ73件,ヘルニア51件,肝胆膵悪性45件,イレウス・腹膜炎44件,胃・十二指腸31件,肛門疾患27件などとなっています.また全腹部手術症例数に対し,腹腔鏡下手術が約80%と比較的高い割合で施行されています.これは良性・悪性疾患にかかわらず腹腔鏡によるアプローチを基本とし可及的低侵襲手術に努めている結果と考えています.もちろん悪性疾患に対してはその適応を明確にして根治性を担保することや,緊急手術などでは合併症の有無や手術時の全身状態などを考慮して慎重に適応を決定していることは言うまでもありません.日々の日常診療や手術に加え,全国・地方会の別なく学会参加,学会発表,論文投稿などの学術活動も積極的に行っています.

ひとやすみ・186

外科医の矜持

著者: 中川国利

ページ範囲:P.185 - P.185

 急性胆囊炎例に対して即手術をすべきか否か,外科医によって治療方針は異なる.
 初期研修時代のボスは痛いと訴えている患者には,「即しかも根治手術をしてあげるのが外科医の責務である」との信念を持っていた.そこで急性虫垂炎例を始め,急性胆囊炎例に対しても手術を即施行した.そこで初期研修後に入局した母校医局で「急性胆囊炎例でも即手術をすべきです」と発言したら大いにしらけ,教授からも非難を受けた.当時の医局は,急性胆囊炎例に対しては保存的治療を行うことが掟であった.

1200字通信・140

ラグビー・ワールドカップ2019に想う

著者: 板野聡

ページ範囲:P.197 - P.197

 昨年,9月20日から11月2日までの期間,4年に一度のラグビー・ワールドカップが日本で開催されました.今回で9回目になりますが,アジアでは初めて,しかもベストエイトにさえ入ったことのない日本の地で開催されたということは画期的なことでした.
 しかし,今回は日本チームの大健闘で初のベストエイト入りも果たしましたし,各地での日本的おもてなしが好評で,大会自体も大成功であったと高い評価をいただきました.元ラガーマンの1人として,また日本人の1人として嬉しく誇らしいことでした.

昨日の患者

闘病の源は家族の支え

著者: 中川国利

ページ範囲:P.229 - P.229

 癌に罹患すると,多くの患者は落ち込み,人生を悲観的に捉えがちになる.しかしながら癌再発を来しても,家族に支えられ前向きに生きる患者も存在する.
 Kさんは30歳代後半の大腸癌患者で,手術2年後に多発性肝転移を来した.そこで強力な癌化学療法を行うと嘔気や嘔吐が生じ,食事に箸をつけなくなった.しかし10日ほど経た夕食時に病室を訪れると,小学1年生の娘さんを前に久し振りに食事をしていた.

学会告知板

第4回 日本臨床肛門病学会学術集会開催

ページ範囲:P.156 - P.156

書評

—Anne M. Gilroy(原著),中野 隆(監訳)—プロメテウス解剖学エッセンシャルテキスト

著者: 祖父江元

ページ範囲:P.237 - P.237

 解剖学は医学生が医学に接する最初の関門であり,医学に対する期待を実感する場でもあります.しかし,同時に膨大な専門用語に最初に接する場でもあり,暗記に陥りやすい場でもあります.場合によると無味乾燥に陥ってしまう“難関”でもあります.私自身の経験でも骨の突起の一つひとつをスケッチしてラテン語を付すという延々と続く作業にうんざりしてしまったことがあります.このたび発刊された『プロメテウス解剖学エッセンシャルテキスト』は,まさにこの解剖学の難関を突破する書であると思います.
 監訳者の中野隆先生は,おそらく解剖学の教育にかけては,わが国の第一人者であると思います.

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目次

ページ範囲:P.130 - P.131

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.254 - P.254

あとがき

著者: 橋口陽二郎

ページ範囲:P.256 - P.256

 本離れが続いている.筆者が若い頃はテレビの普及とともに若者が本を読まなくなってきていることが指摘され警鐘がならされていた.しかし,インターネットが普及し,記憶媒体の容量が飛躍的に伸び安価で提供されるようになると,本が電子化されるようになり,何百冊もの本や論文をiPadなどに格納して携帯することが可能になった.辞書がなくてもインターネットで迅速に検索できる.こうして本離れは内面的にも外面的にも本格化した.筆者の教室においても,欲しい本があれば年間一定額まで購入をサポートすることを提案しているが,購入を希望する若い医局員はほとんどいないのが現状である.本離れの中で,医学雑誌もデジタル化,オンライン化して生き残りをはからなければならず,本誌編集委員会でもそのことが活発に議論されている.
 ところが,先日,ある50歳位の高名な演者の講演の司会を務めた際に,小中学生のころに愛読した「ブラック・ジャック」のコミックシリーズを今でも大事に全部保存しているという話があった.「私はこのブラック・ジャックのマンガ本達と,どこへ行くにも一緒に引っ越して来ました」との言葉がとても印象的であった.なぜならば,筆者も小中学生時代に読んだ本20冊あまりを何十年も保管して,人生の転機が訪れる度に,一緒に引っ越して来たからである.それらの一冊一冊に想い出がつまっているわけであるが,さすがに読むに堪えないほど傷んできて,これ以上保存することが困難な状況になってきた.親,恩人との別れがあるように,これらの本達ともお別れの時が来たようである.家族からの断捨離のプレッシャーの中,少しずつ処分を進めている.医学書の中にも若いころに読んだ別れがたい本達があり,教授室の本棚に鎮座している.幸い,こちらには家族からのプレッシャーはない.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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