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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科75巻5号

2020年05月発行

雑誌目次

特集 taTMEのすべて

ページ範囲:P.515 - P.515

 直腸癌手術における重要な選択肢としてtaTME(trans anal total mesorectal excision;経肛門的全直腸間膜切除術)は昨今世界的な広がりを見せている.その大きな理由として腹腔鏡手術の課題であった骨盤深部での操作性に優れていることが挙げられ,taTMEによる手術成績向上が今後期待される.一方,経腹アプローチと異なる解剖学的なメルクマールの理解や,技術的なピットフォールが多々あり,近年の国際的な臨床試験から示されたように腹腔鏡下TMEは根治性の確保という観点からも決して容易な手術ではない.

taTMEに必要な解剖

著者: 盛真一郎 ,   喜多芳昭 ,   馬場研二 ,   田辺寛 ,   和田真澄 ,   戸田洋子 ,   夏越祥次

ページ範囲:P.516 - P.522

【ポイント】
◆肛門直腸移行部の解剖の理解が重要である.男性の前壁では内肛門括約筋と直腸縦走筋が連続するように直腸尿道筋に移行していること,女性の前壁では内肛門括約筋と直腸縦走筋が収束するように腟後壁に付着していることを認識する必要がある.
◆直腸周囲の筋膜の理解が重要で,直腸固有筋膜,Denonvilliers筋膜(直腸腟中隔),壁側骨盤筋膜などを認識し,剝離を行う必要がある.
◆中部直腸では骨盤神経を確実に温存することが重要で,神経血管束(NVB)および直腸周囲の筋膜をランドマークとした剝離が有用である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2023年5月末まで)。

taTMEの手技を用いた低位前方切除術

著者: 長谷川寛 ,   佐々木剛志 ,   西澤祐吏 ,   塚田祐一郎 ,   竹下修由 ,   池田公治 ,   伊藤雅昭

ページ範囲:P.524 - P.533

【ポイント】
◆taTMEは腫瘍学的側面と機能温存の両面において,直腸癌に対する従来の外科的治療を凌駕する可能性がある.
◆特徴的な解剖学的認識やラーニングカーブが課題として挙げられ,教育システムの整備が必要である.
◆現在,腹腔鏡下TMEとtaTMEのランダム化比較試験が実施されており,taTMEの有用性が証明されることが期待される.

ISRの手術手技のポイントと縫合不全時のリカバリー法

著者: 梶谷竜路 ,   長谷川傑 ,   松本芳子 ,   長野秀紀 ,   薦野晃 ,   愛洲尚哉 ,   吉松軍平 ,   吉田陽一郎 ,   二村聡

ページ範囲:P.534 - P.543

【ポイント】
◆ISRにおける細かな注意点と工夫を紹介する.
◆最難関の前壁剝離において,剝離層がわかりにく場合には前立腺の側方から攻める,腹腔鏡チームの助けを待つ,直腸尿道筋の縦繊維を見逃さない,など多方面からのアプローチが必要である.
◆術後縫合不全に対する新たな治療戦略を考える.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2023年5月末まで)。

会陰操作先行アプローチによる直腸切断術

著者: 船橋公彦 ,   甲田貴丸 ,   金子奉暁 ,   牛込充則 ,   鏡晢 ,   長嶋康雄 ,   三浦康之 ,   吉田公彦 ,   吉野優 ,   栗原聰元

ページ範囲:P.544 - P.550

【ポイント】
◆会陰からのbottom-to-upアプローチには,直視下に安全な外科的切除線を確保でき,手術開始の早い段階で術式の決定ができる利点がある.
◆操作は,解剖学的差異の少ない尾骨を指標とした後方から開始し,直腸固有筋膜外側の層で連続させて側方〜前方12時に向けて切離を進めていくのがポイントである.
◆前壁〜前側方に認める腫瘍では,安全な外科的切除線を確保するために,腟への浸潤が疑われた場合には躊躇することなく腟の合併切除を行う.
◆術後SSIには会陰創に関連したものが多い.清潔操作に心がけるとともに会陰の切除範囲は病変の浸潤に応じて必要最小限とする.切除範囲が大きくなる場合は,積極的に形成外科にコンサルトする.

他臓器合併切除を要する直腸前壁病変とtaTME

著者: 濱田円 ,   北正人 ,   木下秀文

ページ範囲:P.552 - P.560

【ポイント】
◆他臓器浸潤をきたした腫瘍切除は最深部を最後に切除すると,過不足のない合併切除が可能になる.
◆括約筋温存直腸前壁cT4b症例の前方臓器合併切除は一方向からの切除を余儀なくされてきた.
◆taTMEは肛門側からのアプローチを可能にするため,腫瘍最深部を最後に切除することができる.女性症例ではvNOTESが有効である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2023年5月末まで)。

ジャックナイフ体位による経肛門・経会陰的鏡視下骨盤内臓全摘術

著者: 植松大 ,   秋山岳 ,   杉原毅彦 ,   真岸亜希子 ,   今井稔 ,   大野浩次郎

ページ範囲:P.562 - P.569

【ポイント】
◆ジャックナイフ体位により,剝離すればするほど骨盤臓器は自重で頭側に自然移動する.
◆ジャックナイフ体位により,恥骨および仙骨の制限がなくなり陰茎背静脈叢および内腸骨血管処理が容易になる.
◆ジャックナイフ体位により,仙骨全体が露わになり,アシストポートの留置が可能になる.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2023年5月末まで)。

手術支援ロボットを用いたtaTME

著者: 西舘敏彦 ,   沖田憲司 ,   奥谷浩一 ,   秋月恵美 ,   浜部敦史 ,   石井雅之 ,   竹政伊知朗

ページ範囲:P.570 - P.575

【ポイント】
◆taTMEは,直腸癌治療のアプローチ法として,腹腔側からでは難易度が高いとされる男性,狭骨盤,巨大腫瘍,再発症例などで有用であるが,ラーニングカーブ,鉗子制限,吻合法,腫瘍学的評価について,いくつかの問題点が指摘されている.
◆ロボット支援下TMEは,安定した3次元ハイビジョン画像下で,多関節機能と手ぶれ防止機構により繊細な操作が可能となるが,まだ第Ⅲ相試験でのevidenceは証明されていない.
◆ロボット支援下taTMEは,従来のtaTMEにおける問題点を解決させうる可能性がある術式である.

経肛門的側方リンパ節郭清

著者: 相場利貞 ,   上原圭介 ,   小倉淳司 ,   江畑智希 ,   梛野正人

ページ範囲:P.576 - P.581

【ポイント】
◆経肛門的側方郭清は転移頻度の高い骨盤深部領域の郭清を目の前で,かつ良好な鉗子の刺入角度で施行できる.
◆症例によっては非常に有用なアプローチ法であり,選択肢の1つとして習得すべき手技であると考える.
◆しかし,本法で展開される経肛門視点の術野は独特であり,十分慣れ親しんでおく必要がある.

taTMEの手技を用いた潰瘍性大腸炎に対する大腸全摘術

著者: 松山貴俊 ,   絹笠祐介 ,   徳永正則

ページ範囲:P.582 - P.585

【ポイント】
◆歯状線からの粘膜抜去は肛門管上縁を越えるまで行い,肛門管内の内肛門括約筋を確実に温存する.
◆肛門管上縁を越えたら直腸の内輪筋・外縦筋を切開しTMEの層に入り,頭側へ向けてTMEを行っていく.
◆腹腔鏡チームと同時に操作を行うことで,手術時間の大幅な短縮が可能である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2023年5月末まで)。

FOCUS

軟性内視鏡とロボット技術を融合した手術支援システム

著者: 和田則仁 ,   北川雄光

ページ範囲:P.586 - P.590

はじめに
 世界の医療機器の市場は拡大している.しかしながら,厚生労働省の薬事工業生産動態統計調査1)によれば,わが国の医療機器の貿易収支は輸入超過であり,その額は年々増加している(図1).診断系の医療機器はかろうじて黒字であるが,治療系医療機器においては顕著な輸入超過となっている.高齢化社会を迎え増大する医療費の多くを輸入品に依存する状況は好ましいとはいえず,国際競争力の高い国産医療機器の創出はわが国にとって急務といえる.
 医療機器のなかで,手術ロボットの市場は爆発的に増大している(図2)2).代表的な手術支援ロボットのダビンチサージカルシステム(dVSS)の手術件数も増加しており(図3)3),特に一般・消化器外科の増加が顕著である.現在の開胸・開腹・内視鏡外科手術が,今後ロボット支援手術に置換されていく傾向は確実といえる.わが国においても保険適用の拡大により,今後さらなる普及が期待されている.Intuitive Surgical社の有する手術支援ロボットの主要な特許が切れていくことから,今後dVSS以外の手術支援ロボットが相次いで上市されるとされる4).これまで寡占状態にあった手術ロボットの市場に競争がもたらされることから,普及に弾みがつくと考えられる.

当センターにおける多職種シミュレーションを活用した手術センター新型コロナウイルス患者対応マニュアルの作成

著者: 宮﨑理恵 ,   久保健児 ,   横山智至 ,   箕西利之 ,   伊良波浩 ,   稲崎妙子 ,   赤眞絵美

ページ範囲:P.591 - P.601

はじめに
 2019年12月に中国・武漢より発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,急激な勢いで感染者が増加し,2020年3月11日,世界保健機関(WHO)はパンデミックにあたると発表,4月1日12:00現在,厚生労働省報道発表資料によると,本ウイルスの感染者数は全世界で849,876人,死亡者は41,506人となっている.
 新型コロナウイルス感染症は2020年2月1日から感染症法第6条第8項の指定感染症に定められている.原則として特定・第一種・第二種感染症指定医療機関での診療が義務づけられている.当センターは,県内唯一の第一種感染症指定医療機関であり,和歌山市内唯一の第二種感染症指定医療機関でもあるため新型コロナウイルス感染患者や感染既往患者が受診し,手術を受ける可能性もある.
 新型コロナウイルス陽性患者に対する手術について各施設からの臨床に応じた具体策やマニュアルなどの公開がないなか,当センターは本ウイルス陽性歴(手術決定時には陰性)のある患者の手術を受け入れることになった.手術に先立ち,感染症内科医師,感染管理認定看護師,麻酔科医師,執刀医,手術看護認定看護師と多職種シミュレーションを行い,手術センターマニュアルを作成した(本稿末に資料として提示).さらに患者手術後に課題を振り返り内容を更新した.なお,本マニュアルは,新型コロナウイルス患者への手術の際の対応法として最も合理的であると証明されたものではないが,現在,喫緊の課題として臨床に基づいた同様のマニュアル作成に取り組んでいる施設も多いと思われるため,1つの資料として,当センターで作成したマニュアルを紹介することとした.本マニュアルへのご意見などをお寄せいただけたら幸いである.

坂の上のラパ肝・胆・膵・5

腹腔鏡下肝左葉切除術

著者: 大目祐介 ,   本田五郎

ページ範囲:P.602 - P.610

Point
◆左葉切除術では,背側からArantius管,中肝静脈,肝表のdemarcation lineの3つが正しい切離面を構成するランドマークである.
◆左Glisson茎をArantius管の腹側で離断することで,右葉や尾状葉から流入する胆管(左肝管に合流する後区域胆管など)の損傷を回避できる.
◆Arantius管の腹側の肝実質を先行して離断し,左Glisson茎根部の頭側にスペースを確保しておくことにより,左Glisson茎の確保と切離が容易になる(Arantius-first approach).
◆左Glisson茎を離断した後に,左葉を腹側に持ち上げると,中肝静脈は根部付近から左Glisson茎付近まで比較的容易に露出できる.
◆Arantius-first approachでは中肝静脈を背側から露出し,その際,根部側から末梢側に向かってデバイスを動かすことを原則とするが,肝実質離断は尾側腹側の肝辺縁から頭側に向かって本を開くようなイメージで進める.

病院めぐり

洛和会音羽病院外科

著者: 水野克彦

ページ範囲:P.611 - P.611

 洛和会音羽病院は,洛和会ヘルスケアシステムの1病院として,京都市山科区に1980年に開設されました.当会は1950(昭和25)年に矢野医院の開設に始まり,今年で70年間を迎えました.京都市山科区は,京都市の東に位置し,大津市(滋賀県)との県境にあります.歴史は古く,東海道,奈良街道など交通の拠点として栄え,人口は約13万人で,当院は地域の中核となる急性期病院の1つです.救急救命センター・京都府がん診療推進病院,京都府災害拠点病院・地域医療支援病院・DPC特定病院群として,「地域から信頼され,大切な人を紹介できる病院へ」をスローガンに診療に携わっております.当院は,一般病棟:415床(うちICU/CCU:12床,SCU:12床,救命救急病棟:24床含む),緩和ケア病棟:14床,地域包括ケア病棟:59床,認知症治療病棟:60床を有しております.
 当科は現在,消化器外科,血管外科を合わせて,8名の常勤医で診療を担っております.乳腺科および肛門科は独立しておりますが,連携をとり診療にあたっています.消化器外科・消化器内科・放射線科の症例検討および多職種を含めたカンファレンスを毎週開き,症例の多角的視点,社会的環境,地域支援を含め協議しております.2019年4月より腫瘍内科が新設となり,消化器がんを中心により安全かつQOLを重視した化学療法を提供すべく連携しております.また,同月より緩和ケア病棟を開設し,山科区周辺地域のがん緩和の中核となるべく,奮闘しています.地域連携活動の一環として年に2回程度,開業医の先生方と消化器疾患症例検討会を開催しております.開業医の先生方から紹介いただいた症例のなかから,示唆に富む貴重な症例を消化器内科医・外科医が合同で症例提示し,検討する形式をとっております.

臨床研究

センチネルリンパ節生検偽陰性に対する追加腋窩リンパ節郭清の必要性の検討

著者: 藤井雅和 ,   野島真治 ,   中嶋朔生 ,   金田好和 ,   須藤隆一郎 ,   田中慎介

ページ範囲:P.613 - P.616

要旨
【目的】乳癌SLNB偽陰性の患者に対する追加のALNDの必要性について検討した.【対象と方法】SLNBを施行した503例のうち,偽陰性の13例を追加ALND群(D群)10例と非ALND群(N群)3例に分け,後ろ向き研究として統計学的に検討した.【結果】当施設でのSLNB偽陰性率は2.78%であった.D群とN群の間の患者背景に特定の傾向は認めず,摘出SLNの個数・術後経過観察期間に有意差は認めなかった.全症例に術後補助療法を施行し,2019年7月時点でD群に1例再発死亡を認めた.【結語】今後はSLNB偽陰性の場合,追加のALNDを行わず,術後補助療法を適切に行ったうえでの経過観察は可能であると考える.ただし術後補助療法を施行しない症例については今後の検討課題である.

臨床報告

食道癌,右肺癌,S状結腸癌の3重複癌に対して一期的に鏡視下手術を施行した1例

著者: 塩見真一郎 ,   石橋雄次 ,   吉村俊太郎 ,   吉川拓磨 ,   森田泰弘 ,   今村和広

ページ範囲:P.617 - P.622

要旨
症例は70歳,男性.食道癌,右肺癌,S状結腸癌の3重複癌の診断となった.いずれの腫瘍も根治切除が可能と診断し,一期的に鏡視下手術を施行した.左側臥位で胸腔鏡下右肺上葉切除術,食道切除術の胸腔操作を行った.続いて体位を砕石位とし,腹腔鏡下S状結腸切除術,食道切除術の腹部操作を行った.術後30病日に退院,術後7か月経過し再発を認めていない.本手術の工夫は以下の二点である.①それぞれの術式に最適なポート配置で手術を行い,ポートの追加,変更を妥協しなかった.②術後肺合併症,気管支断端瘻を予防するため右気管支動脈を温存し,上縦隔リンパ節,気管分岐部リンパ節は気管血流の温存を十分に考慮した郭清を行った.

経皮内視鏡的胃壁固定術が有効であった胃軸捻転症の1例

著者: 森拓哉 ,   長谷川毅 ,   木下春人 ,   野田英児 ,   寺岡均

ページ範囲:P.623 - P.625

要旨
症例は88歳,女性.脳梗塞にて入院中に,繰り返す嘔吐で消化器科へ紹介となり,胃軸捻転症の診断で内視鏡的整復が施行された.その後2か月で2回の再発があり,外科的治療目的に当科へ紹介された.高齢でADLも不良であったため低侵襲の手技が望ましいと判断し,内視鏡下に経皮的胃壁固定術を施行した.経過は問題なく,翌日より開食し,その後再発なく経過している.今回われわれは,繰り返す胃軸捻転症に対して内視鏡下に経皮的胃壁固定術を施行し,全身状態が不良な症例で低侵襲処置が有効であった1例を経験したので報告する.

ICG蛍光胆道造影を用いて腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した右側肝円索の2例

著者: 齊藤浩志 ,   北村祥貴 ,   﨑村祐介 ,   山本大輔 ,   角谷慎一 ,   伴登宏行

ページ範囲:P.627 - P.632

要旨
右側肝円索は稀な解剖学的変異で胆管走行異常・門脈分岐異常を合併し,手術では注意が必要である.症例1は52歳,男性.胆石性胆囊炎に対し,腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した.全身麻酔導入直後にインドシアニングリーン(ICG;2.5 mg)を静注し,蛍光観察すると胆囊管,総胆管の走行をリアルタイムで確認することができ,安心感をもって剝離ができた.症例2は63歳,女性.胆石性胆囊炎に対し前例と同様にICGを使用し腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した.胆囊底部の剝離を先行し胆囊を順行性に剝離した.蛍光観察で胆囊管と総胆管を容易に同定できた.右側肝円索を伴う症例に対してICG蛍光胆道造影を用いることでより安全に手術が可能であった.

ひとやすみ・189

手術所見を記載する

著者: 中川国利

ページ範囲:P.551 - P.551

 本誌『臨床外科』の昨年12月号では,「見せます! できる外科医のオペ記事」として特集が組まれた.特集を読みながら思い出した,オペ記事に関連する事例を紹介する.
 初期研修医時代の病院には手術室に分厚い手術簿が置かれ,術者は術後早期に記載することが義務付けられていた.そこで先輩のオペ記事や外科手術書を参照しながら記載したものである.しかしながら研修医には術後管理,患者・家族への説明,さらには標本整理などの業務もあり,記載は遅れがちであった.そこで指導医からは,「オペ記事を書かない者には手術をさせないぞ」と,脅迫された.なお悪性症例では手術所見の記載がしばしば欠落するため,必要項目を刻印したスタンプを作成し,諸先輩からも重宝された.

1200字通信・143

GWの罪—器か人か

著者: 板野聡

ページ範囲:P.561 - P.561

 2019年5月号に「医療とGW」と題して,10日間に及ぶ長期のお休みの問題を書かせていただききました.数か月後,友人からその心配が的中したような話が届きました.
 GW直前に,ある患者さんが腹痛と便秘を訴えて地元の医院を受診されました.診察の結果,腸閉塞と診断され,少し離れた公立病院へと紹介されたのでした(この医院さんは,理由は定かではありませんが,地元の病院へは紹介されないそうです).そこでは,S状結腸癌による閉塞と確定診断され,緊急入院となったということでした.

昨日の患者

自分の葬儀を取り仕切る

著者: 中川国利

ページ範囲:P.612 - P.612

 家族が死を迎えつつある場合,準備をしておかなくてはと思いながらも,葬儀の準備はなかなかできないものである.残された家族に負担をかけまいと,自分の葬儀を生前に取り仕切った患者さんを紹介する.
 70歳代前半のHさんは3年前に胆囊癌で手術を行ったが,多発性肝転移を来した.癌化学療法を行ったが閉塞性黄疸も生じ,再入院後1か月ほどで黄泉の世界に旅立った.死後3か月ほど経った頃,ご主人が病棟を訪れて語ってくれた.

書評

—坂井建雄(著)—図説 医学の歴史

著者: 北村聖

ページ範囲:P.626 - P.626

 同級生の坂井建雄教授が2年余りの歳月をかけて『図説 医学の歴史』(医学書院)という渾身の一冊を上梓した.坂井氏の本業は解剖学である.学生時代から解剖学教室に入りびたりの生粋の解剖学者である.卒業後,それぞれの道に専念し接点があまりなかったが,再度会合したのが医学史の分野であった.聞くところによると,ヴェサリウスの解剖学から歴史に興味を持ったそうであるが,私が読んだ「魯迅と藤野厳九郎博士の時代の解剖学講義」の研究は秀逸であった.2012年に坂井博士の編集による『日本医学教育史』(東北大学出版会)が出版されて以来,より親しくさせていただいている.坂井博士は恩師養老孟司先生と同様,博学であると同時に,好奇心に満ちている.自分の知りたいことを調べて書籍化していると感じる.
 さて,本書は表題が示している通り写真や図版が多い.特に古典の図版の引用が多いが,驚くなかれ,その多くは坂井博士自身が所有されている書籍からの引用である.2次文献ではなく,原則原典に当たるという姿勢は全編を貫く理念であり,それが読む者を圧倒する.まさしく「膨大な原典資料の解読による画期的な医学史(本書の帯)」である.また,史跡の写真も坂井博士自らが撮影したものが多く,医学史の現場にも足を運んだことがよくわかる.また,書中に「医学史上の人と場所」というコラムが挿入されており,オアシスのような味わいを出している.内容もさることながら,人選が面白く,医学史上の大家から市中の名医(荻野久作など)までが取り上げられている.

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目次

ページ範囲:P.512 - P.513

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.601 - P.601

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.636 - P.636

次号予告

ページ範囲:P.637 - P.637

あとがき

著者: 絹笠祐介

ページ範囲:P.638 - P.638

 今回の特集はtaTMEについてでした.直腸癌の手術においてはもっとも新しい手術法で,学会でも度々トピックになっているテーマです.その学会についてですが,まさに今,明後日に開催予定の第12回ロボット外科学会の開催の是非を問われております.新型コロナウイルス感染症が猛威を振るうなか,政府からのイベントに関する指針がもうすぐ発表されるとのことで,その指針を待っているところですが,発表されなかった場合には,非常に難しい選択を迫られるわけです.
 以前から日本は学会が多すぎるという不満を持っており,また自分のような若輩者が主催すべきではないとも思っておりましたので,学会一つくらい中止にしても…という思いが頭をよぎるわけですが,ロボット手術も新しい治療の代表格です.臓器や施設によって,その経験/治療成績に大きな開きがあります.上級演題で講演をお願いした施設の症例数は,多いところでは同一術式が2,000件を超すようなハイボリュームセンターからの発表ばかりです.一方で一般演題では症例報告やポスター発表を除いても総症例数の中央値はわずか33例です.完成した抄録を読むと,この学会の果たすべき役割は大きいと思っており,なおさら判断に苦しんでおります.タイムリミットまであと数時間です.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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