icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科75巻6号

2020年06月発行

雑誌目次

特集 膵癌診療ガイドライン改訂を外科医はこう読み解く—ディベート&ディスカッション

ページ範囲:P.643 - P.643

 膵癌診療ガイドラインが2019年7月に改訂された.膵癌に対する治療は刻刻と変化している.そのような状況の中でいまだに結論が明確になっていない点も残されており,日常の診療の中で悩ましい状況に遭遇することも稀ではない.

総論

膵癌診療ガイドライン改訂のポイント

著者: 仲田興平 ,   中村雅史

ページ範囲:P.644 - P.648

【ポイント】
◆膵癌診療ガイドラインが2019年7月に改訂・出版された.本稿では,ガイドラインにおける「Ⅱ.治療法」のうち外科的治療に関連するCQに関して概説する.

テーマ1:ディスカッション

切除可能膵癌に対する術前化学療法の手術先行に対する優越性

著者: 元井冬彦 ,   海野倫明

ページ範囲:P.650 - P.657

【ポイント】
◆術前化学療法のメリット:術前化学療法は,早期から不顕性転移に対する治療が可能である.治療により切除後の再発率を低下させ,生存率を向上させることが術前化学療法の最大の利点である.切除可能膵癌には結果的に切除されない症例も含まれるが,術前化学療法は治療を企図した症例全体の予後を改善する.治療期間中に不顕性転移が顕性化する場合,無効な手術を回避でき,手術無効例に対しても最善の治療が提供できる.
◆デメリットと対処法:化学療法による有害事象が生じるため,投与中の評価と副作用対策が必要である.手術先行に比べ待機期間が延長するため,減黄中の症例ではステント閉塞・胆管炎に留意する.治療後の再評価で無効な場合,レジメン変更が必要となる.
◆術前化学療法の適応:腫瘤を同定できる切除可能膵癌では,すべての症例で術前化学療法を検討すべきである.高齢者や上述のデメリットが予想される場合,適応を再考する必要があり,上皮内癌や微小な膵癌に対する意義は明らかにされていない.

テーマ2:ディベート

大動脈周囲リンパ節のサンプリングが陽性だった—切除を行う vs 行わない

著者: 山本智久 ,   里井壯平 ,   山木壮 ,   坂口達馬 ,   山本宣之 ,   廣岡智 ,   高井惣一郎 ,   関本貢嗣 ,   岡村行泰 ,   大木克久 ,   杉浦禎一 ,   伊藤貴明 ,   山本有祐 ,   蘆田良 ,   上坂克彦

ページ範囲:P.659 - P.667

 膵癌の根治切除術において,術中迅速検査で大動脈周囲リンパ節転移陽性と診断された患者に対する切除の意義については,いまだ不明な点が多い.「切除を行う」観点から述べると,転移陽性とされた患者は,転移陰性の患者と比較し有意に予後不良であるが,転移陽性例でも術後補助化学療法を行うことによって予後が改善している報告が散見される.大動脈周囲リンパ節郭清を含めた拡大郭清の意義は認められないものの,大動脈周囲リンパ節転移陽性と診断された場合でも標準的切除を行い,補助化学療法を施行することが予後改善の鍵となりうる.

テーマ3:ディベート

腹腔洗浄細胞診陽性膵癌に対して—切除を行う vs 行わない

著者: 牛田雄太 ,   井上陽介 ,   宮下真美子 ,   大庭篤志 ,   小野嘉大 ,   佐藤崇文 ,   伊藤寛倫 ,   髙橋祐 ,   荒木達大 ,   土田浩喜 ,   吉岡伊作 ,   渋谷和人 ,   平野勝久 ,   渡辺徹 ,   三輪武史 ,   星野由維 ,   森康介 ,   木村七菜 ,   北條荘三 ,   松井恒志 ,   奧村知之 ,   藤井努

ページ範囲:P.669 - P.679

 腹腔洗浄細胞診陽性(CY+)膵癌は予後不良因子として認知されているが,膵癌のステージ分類には反映されていない.CY+膵癌の切除適応は施設間で差異があり,明確なエビデンスは確立されていない.2008〜2014年に切除先行治療を行った当院症例を検討したところ,CY+症例は予後不良であったものの,多変量解析で独立した予後規定因子ではなかった.CY+でも切除を行う意義があるのか,および集学的治療時代に当院のCY+治療戦略がどう変化したかについて論述する.

テーマ4:ディスカッション

PDは何歳の患者まで許容されるか

著者: 庄雅之 ,   赤堀宇広 ,   中川顕志 ,   長井美奈子 ,   西和田敏 ,   中村広太 ,   高木忠隆 ,   池田直也

ページ範囲:P.680 - P.683

【ポイント】
◆高齢者に対する膵頭十二指腸切除術(PD)の施行前には,生理機能,認知機能,社会的背景など総合的な診断が必要である.
◆高齢者特有の合併症には留意が必要であり,術後長期のQOL,ADLを見据えた慎重な適応決定が重要である.
◆高齢者に対するPDの実施には,専門診療科との連携,チーム医療,多職種連携が必須である.

テーマ5:ディスカッション

胃全摘の既往がある患者に対して膵全摘を行うか

著者: 竹山宜典

ページ範囲:P.684 - P.688

【ポイント】
◆胃全摘の既往のある患者への膵全摘は可能な限り回避すべきである.
◆高度の胃切除症候群に膵全摘術後の膵内外分泌完全脱落が加わり,患者の栄養状態,免疫能が障害され,QOLも大きく損なわれる.
◆術後の補助化学療法の遂行はほぼ不可能であり,補助化学療法を必要とする症例には行うべきではない.

テーマ6:ディベート

膵頭十二指腸切除後に経腸栄養を—行う vs 行わない

著者: 三宅謙太郎 ,   松山隆生 ,   窪田硫富人 ,   山田淳貴 ,   藤原大樹 ,   朴峻 ,   清水康博 ,   中山岳龍 ,   藪下泰宏 ,   本間祐樹 ,   熊本宜文 ,   遠藤格 ,   松本逸平 ,   吉田雄太 ,   川口晃平 ,   松本正孝 ,   村瀬貴昭 ,   亀井敬子 ,   里井俊平 ,   武部敦志 ,   中居卓也 ,   竹山宜典

ページ範囲:P.689 - P.697

 膵頭十二指腸切除術(PD)は,高侵襲な術式でありいまだ合併症発生率も高く,消化吸収能も著しく低下する.PD術後の経腸栄養は,栄養状態の改善,術後合併症発生率の低減につながるとされており,教室でもPD施行時には全例ルーチンで腸瘻造設術を併施し術後早期経腸栄養を行っている.腸瘻造設を行うことで術後1日目から経腸栄養を開始することができ,術後合併症により経口摂取が困難な場合でも栄養状態を維持することが可能となる.チューブ留置を外瘻にすることで不快感を軽減でき,下痢をきたした際にも流量調節や止痢剤の併用により投与継続が可能となる.近年その有用性が再認識されつつあり,術後経腸栄養の最新のエビデンス,有用性を再確認するとともに,当施設で行っている術後経腸栄養,臨床試験の結果を含めて報告する.

テーマ7:ディスカッション

膵尾部癌に対する術式選択:腹腔鏡下か開腹か

著者: 本田五郎 ,   大目祐介

ページ範囲:P.698 - P.700

【ポイント】
◆切除可能膵癌であっても,化学療法による遠隔転移の制御は予後改善のために必須であり,化学療法の継続を妨げない手術が求められる.
◆傷を小さくすることではなく,腹部内臓器や組織の破壊を最小限にし,術後合併症を少なくすることが真のminimally invasivenessである.
◆患者ごとに,上記2点に加えて外科医のスキル,標準手技の完成度等を考慮し,切除範囲とアプローチ法(腹腔鏡下 or 開腹)を選択する.

テーマ8:ディスカッション

リンパ節郭清を伴う膵頭十二指腸切除を腹腔鏡下手術で行うか

著者: 中村慶春 ,   松下晃 ,   吉田寛

ページ範囲:P.701 - P.704

【ポイント】
◆低侵襲手術を提供していく姿勢は,多くの人から共感の得られやすい外科医の本質的な性(さが)ともいえる行為である.
◆膵癌の予後向上に向けた集学的治療において,低侵襲手術を執り行う意義は十分にある.
◆その施行には,施設ごとにteam based surgeryを基軸としたチーム編成ならびに信頼度の高い手技・手法の構築が必要である.

テーマ9:ディベート

R1切除の判定には0mmと1mmのどちらを用いるべきか—0mm vs 1mm

著者: 川畑康成 ,   石川典由 ,   田島義証 ,   石戸圭之輔 ,   齋藤傑 ,   木村憲央 ,   脇屋太一 ,   長瀬勇人 ,   室谷隆裕 ,   坂本義之 ,   平林健 ,   袴田健一

ページ範囲:P.707 - P.717

 R1(0mm)定義のメリット:膵癌進行例では手術中に剝離断端の迅速診断を迫られる場合が多い.0mm定義は,剝離断端における癌細胞の露出の有無を確認するのみであり,簡便で迅速に対応しやすい利点がある.一方,術中迅速病理診断では,小さな切除標本での1mm評価は困難である.仮に可能だとしても,上腸間膜動脈あるいは肝動脈などの主要血管周囲での追加切除は困難となる.
 R1(0mm)定義のデメリットとこれに対する考え方と対処法:0mm定義を使用する際の留意点は,病理組織診断時の剝離断端の状態である.手術時に各種のエネルギーデバイスが使用されている場合,組織断端は高出力エネルギーで凝固・シーリングされる.そのため断端には熱変性が生じ,0mm定義での断端診断が困難となる場合がある.特に術中迅速病理診断を行う際には,外科用剪刀などで鋭的に組織を切離して検体を提出すべきである.

テーマ10:ディスカッション

初診時切除不能症例に対する治療選択

著者: 井岡達也 ,   小林省吾 ,   新藤芳太郎 ,   徳光幸生 ,   松井洋人 ,   松隈聰 ,   中島正夫 ,   江口英利 ,   永野浩昭

ページ範囲:P.718 - P.722

【ポイント】
◆生存期間の延長については,明らかにGnP療法とFOLFIRINOX療法が優れているが,両剤を直接比較した試験がなく,その優劣は不明である.
◆有害事象の発現情報に基づいて,患者さんに最適の治療を話し合う必要がある.

テーマ11:ディベート

十二指腸狭窄に対する治療法—十二指腸ステント留置 vs 胃空腸吻合

著者: 小林智 ,   宮坂義浩 ,   大塚隆生 ,   渡邉雄介 ,   森泰寿 ,   池永直樹 ,   仲田興平 ,   渡部雅人 ,   中村雅史

ページ範囲:P.723 - P.730

 内視鏡的十二指腸ステント留置術は,速やかに実施でき,効果も速やかに得られる点がメリットである.このため,ステント留置後にスムーズに化学療法へ移行できる.また,侵襲性が低く,重大な合併症が少ないため適応も広い.一方で,腫瘍浸潤によるステント閉塞,またはステント逸脱といったステント機能不全が十二指腸ステントの最も多い合併症であり,食物残渣によるステント閉塞も起こりうるため,食事制限が必要である点がデメリットである.しかし,ステント機能不全に対しても,再度ステントを留置すればすぐに経口摂取を再開できるため,ステント機能不全は軽微な合併症と考えられる.以上のことから,化学療法の実施予定有無にかかわらず,予後の悪い膵癌に対しては,胃空腸バイパスよりも十二指腸ステント留置を選択したい.

FOCUS

保険診療で行うがん遺伝子パネル検査と遺伝性腫瘍

著者: 森田佐知

ページ範囲:P.731 - P.733

はじめに
 がん組織上に存在する多数の遺伝子変異を一度の解析で確認することができるがん遺伝子パネル検査が保険収載された.どのように診療の中で活用するべきか,がんゲノム医療中核拠点病院の担当者としての個人的な経験も踏まえて記載する.

病院めぐり

東京ベイ・浦安市川医療センター外科

著者: 溝上賢

ページ範囲:P.734 - P.734

 東京ベイ・浦安市川医療センターは東京ディズニーリゾートまで車で15分ほどの浦安市と市川市の境にあります.当地域は子育て世代が増加する住宅都市としてマンション建設が相次いでいる地域でもあります.当院は旧浦安市川市民病院より公益社団法人地域医療振興協会に民間譲渡され,2012年4月より新病院としてスタートしました.
 全340床の一般病床のうちICU・CCU 18床,HCU 12床を整備し,様々な急性期疾患の受け入れに対応しています.開院当初より内科・外科・救急集中治療科でACGME(米国卒後臨床研修認定評議会)に準拠した研修プログラムを立ち上げました.外科では癌だけでなく外傷や急性期外科を含む一般外科全般を扱える外科医の育成を目標として,消化器に特化せず様々な分野の手術に取り組んでいます.年間1万台前後の救急車の受け入れがあり,外傷や一般的な急性腹症のほか,重症軟部組織感染症やデブリードマン,重症熱傷,開腹後の植皮等も施行しています.また,当院は地域医療振興協会を母体としており,短期的な関連病院への出向もあり,複数の施設での経験を経て多種多様な症例への対応を学ぶことができます.

坂の上のラパ肝・胆・膵・6

肝右葉切除術

著者: 大目祐介 ,   本田五郎

ページ範囲:P.736 - P.746

Point
◆肝右葉切除術において,肝実質離断中に正しい離断方向を知るための有用なランドマークは肝部下大静脈(IVC)と中肝静脈(MHV),肝表のdemarcation lineの3つである.
◆Caudate lobe-first approachでは,腹腔鏡特有の尾側背側からの視野を活用して尾状葉を先行離断し,ランドマークの一つであるIVCの腹側面と右Glisson茎の背側面を露出する.
◆胆囊を胆囊板とともに胆囊床から剝離し,尾側に牽引しながら肝門板頭側と肝実質の間を鈍的に剝離すると,右Glisson茎は,その背側がCaudate lobe-first approachによってすでに開かれているので容易に確保できる.
◆肝門のGlisson茎が離断された後は,Caudate lobe-first approachによって露出されたIVC腹側面がランドマークとして常に視認可能となる.
◆肝実質離断は尾側から頭側へ向かって本を開くようなイメージで進める.Glisson枝と肝静脈はいずれも肝背側(肝門側・IVC側)から腹側に向かって枝を広げているので,超音波外科吸引装置(CUSA)の先端を背側から腹側に向かって振り上げるように動かすことで分岐部の股裂き損傷を回避する.
◆肝門部脈管処理は,Glisson一括処理を基本とするが,腫瘍そのものや腫瘍の脈管(門脈や胆管)浸潤部の先端が肝門に近接した症例では個別処理を選択することがある(個別処理の手技の解説は別途記載した).

臨床研究

当院の成人臍ヘルニアに対する治療成績の検討

著者: 竹内奈那 ,   河原秀次郎 ,   江藤誠一郎 ,   松本倫 ,   平林剛 ,   小村伸朗

ページ範囲:P.747 - P.750

要旨
2010年4月から2018年3月の8年間における成人臍ヘルニア待機的手術19例を対象に当院の治療成績を検討した.術式の内訳は開腹単純縫合閉鎖群(SC群)10人,開腹IPOM(OI群)3人,腹腔鏡下IPOM(LI群)6人であった.無再発群と再発群で比較するとBMIにのみ有意差がみられた.ヘルニア門の平均長径(mm)はSC群21.0(10〜32),OI群23.7(15〜40),LI群40.6(24〜63)で,LI群が有意(p=0.048)に長かった.ヘルニア門が比較的大きくない症例には単純縫合閉鎖よりmeshを用いた再建が有効で,ヘルニア門が大きい症例には腹腔鏡下はIPOMが有効であるが,肥満などのヘルニアの原因に対する治療が必要と考えられた.

臨床報告

一期的腹腔鏡下ヘルニア修復術を施行したde Garengeot herniaの1例

著者: 佐藤宏彦 ,   石川大地 ,   豊田剛 ,   鷹村和人 ,   三浦連人

ページ範囲:P.751 - P.754

要旨
症例は80歳,女性.右鼠径部の膨隆を自覚し,当院を受診した.右鼠径部に5 cm大の弾性軟の腫瘤を認めた.腹部・骨盤部単純CT検査で右大腿ヘルニアを認め,内容物は虫垂であり,de Garengeot herniaと診断し,緊急手術とした.腹腔鏡下に観察したところ,右大腿輪に虫垂先端が嵌頓していた.嵌頓を解除すると虫垂先端に軽度の発赤を認めるのみであり,transabdominal preperitoneal repair(TAPP)法を施行後,臍部から虫垂を創外に引き出し虫垂切除を行った.病理所見ではカタル性虫垂炎と診断された.術後26か月の現在,再発・感染なく経過している.穿孔・膿瘍形成のないde Garengeot herniaに一期的TAPP法は有用である.

虫垂切除後に診断された小児(10歳)虫垂NETの1例

著者: 飯田優理香 ,   福島亘 ,   所智和 ,   宮永章平 ,   堀川直樹 ,   薮下和久

ページ範囲:P.755 - P.759

要旨
症例は10歳,女児.腹痛,嘔吐を主訴に当院救急外来を受診した.腹部CTで虫垂腫大を認めたため急性虫垂炎と診断し,単孔式腹腔鏡下虫垂切除術を施行した.術前および術中に腫瘤性病変は指摘されなかった.摘出標本では先端部に6mm大の粘膜下腫瘍を認め,病理組織学的検査で虫垂原発神経内分泌腫瘍(NET)Grade 1と診断した.追加切除は施行せず,外来にて経過観察し無再発生存している.本邦における15歳以下の虫垂NET報告例は少なく,追加切除の適応については症例ごとに検討すべきである.また,小児虫垂NETは予後が良く,女児に多く発症する傾向があると言われており,経過観察の期間や方法についても慎重に判断すべきである.

ひとやすみ・190

立場で行動する

著者: 中川国利

ページ範囲:P.658 - P.658

 思想が立場を決めるのではなく,立場が思想を決めるとされている.血液を使用する臨床外科医から,血液を供給する血液センターに立場を変え,外科医時代には思いもしなかった血液センター側の苦悩を紹介する.
 外科医時代は,依頼すれば直ぐに赤血球や血漿を供給してくれる血液センターに感謝した.しかしながら血小板の緊急要請ではしばしば待たされ,ジワジワ出血し続ける創を見ながら焦り,血液センターへの不満が噴出したものである.

昨日の患者

老夫婦からの幸せお裾分け

著者: 中川国利

ページ範囲:P.683 - P.683

 病院には社会を構成するさまざまな市民が入院し,家庭での言動が病室でも繰り広げられる.診療を介して垣間見た,仲睦まじい老夫婦を紹介する.
 Kさんは80歳代半ばの大腸癌患者であった.手術前より奥さんが終日付き添い,看護師もうらやむほど仲が良い.

1200字通信・144

再びハラスメント

著者: 板野聡

ページ範囲:P.705 - P.705

 今年の3月号に「逆パワハラ」と題して,最近のハラスメント問題について書きましたが,どうやら日本中で日常茶飯事の出来事となっているようです.
 2019年7月21日付けの「医療維新」によると,開業医で41.5%,勤務医では49.7%の医師が「職場でハラスメント行為を受けた」とあり,「何でもハラスメント『ハラ・ハラ』問題視する声も」とありました.

--------------------

目次

ページ範囲:P.640 - P.641

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.750 - P.750

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.764 - P.764

あとがき

著者: 遠藤格

ページ範囲:P.766 - P.766

 この「あとがき」は4月中旬に書いていますが,COVID-19による感染が深刻な状況となっています.各国の首脳が第二次世界大戦以来,と宣言するように,約75年ぶりの世界的な危機的状況であり,この先どうなるのかを予測することは困難です.本誌が発刊される6月には,感染者数が減少傾向となり,医療崩壊に陥っていないことを心から祈っています.本邦では,専門家会議の不眠不休の努力によりクラスター分析が行われ,コロナは永らく抑制されてきましたが,3月の海外卒業旅行や飲み会クラスターによる感染拡大によって陽性者が急増しました.そのほかにもジムや教会といった,人々が交流するところでクラスターが発生しています.本当にコロナは社会的な生き物である人間の弱さにつけ込む恐ろしいウイルスだと思います.みんな洞穴(自宅)に閉じこもっているしかありません.なんといっても100年に一度の大きなパンデミックですから,人間社会に与える影響は甚大だと思います.ポストコロナ時代は人間の社会生活の見直し,医療の在り方,そしてわれわれの働き方にも大きな変化が生ずるのではないでしょうか.米国の哲学者であるTimothy Mortonは,コロナによる工場の稼働減少,飛行機を含めた交通機関の減便によって地球規模の環境の改善効果がみられており,「コロナとの共生」が必要とさえ唱えています.まるでナウシカの世界ですね.NHKの特番では,イスラエルの歴史学者であるYuval Noah Harari教授が,ポストコロナ時代は医療の重要性がさらに増し,特に透明性が高く信頼のおけるエビデンスを作ること,そしてそれを市民にわかりやすく公開することが必須であると述べていました.そうしなければハンガリーやイスラエルのように,市民の不安を煽り市民の行動履歴や生体情報を独占しようとする独裁的な指導者が台頭すると警鐘を鳴らしていました.今回のパンデミックを「災い転じて福となす」とできるか,「地獄の一丁目」にしてしまうか,すべてわれわれ市民の自覚にかかっていると思います.一市民として一医師として毎日を緊張感もって生きていきたいと思います.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?