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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科76巻10号

2021年10月発行

雑誌目次

特集 スコピストを極める

ページ範囲:P.1185 - P.1185

 外科手術は良好な手術視野の確保から始まる.開腹手術では,遮蔽物をよけたうえで術者・助手が臓器を把持して適切な方向に牽引する.それで不十分な場合は,臓器の授動などで視野を改善する.そのうえで,どの角度からどのように見るかは術者の目線で決まり,術者の裁量で適宜拡大鏡などを使用する.この術者の目線のところが腹腔鏡手術では,第三者であるスコピストに委ねられる.この第三者は手術のメンバーで最も経験の少ない医師である場合が多いが,見たいところを画面の中心部におき,適切な角度から適切な拡大倍率で見るというのはなかなか複雑な作業であり,これがうまくいかないと術者のフラストレーションは大きい.一方,熟練者がスコピストをする場合には,術者が手術に不慣れでも自然な流れで見えている部位を処理することなり,それがそのまま手術指導につながることすらある.このように重要な役割を占めるスコピストであるが,その手技について系統的に書かれた成書はない.本特集は,多くの若手が腹腔鏡下手術で最初に経験することになるスコピストにとっての聖書をめざすものである.

総論

腹腔鏡手術におけるカメラ助手の重要性

著者: 金平永二

ページ範囲:P.1186 - P.1191

【ポイント】
◆カメラ助手の技能は,手術時間,出血量,合併症などの手術成績に影響を与える可能性が示唆されている.
◆腹腔鏡手術では,視覚認知・空間認知に関わる重要な部分が,執刀医から分離し,カメラ助手に委ねられている.
◆カメラ助手は,中心捕捉・水平維持などの基本技術のほか,斜視鏡の角度を利用した応用技術の習熟も必要である.

スコープの種類と基本的な操作

著者: 上田和毅

ページ範囲:P.1192 - P.1199

【ポイント】
◆内視鏡外科手術用スコープには様々なものがあり,用途によって使い分けを行う.
◆手術に際しては,対象となる臓器やランドマークをどの位置に持っていくかを考えつつスコープを操作する.
◆スコピストは術者の“目”となり,手術手順を理解したうえで術者と連携を図りつつ操作する必要がある.良い手術は術者一人では成し得ない.

スコピストの養成方法—良いスコピストを育てるために

著者: 谷岡利朗 ,   徳永正則 ,   絹笠祐介

ページ範囲:P.1200 - P.1205

【ポイント】
◆スコピストの養成はOn-the-Job Trainingが大きな部分を占めるが,術前の予習,術後の振り返りも大切である.
◆上手なスコープ操作は円滑な手術進行につながるだけでなく,手術の安全を保つことになる.
◆現在の外科教育ではスコピストの指導について触れられる機会が少なく,良いスコピストの養成は今後の課題の1つと考える.

各論

胸腔鏡下食道切除術(腹臥位)でのスコピストのテクニックとコツ

著者: 栗田大資 ,   大幸宏幸 ,   小熊潤也 ,   石山廣志朗

ページ範囲:P.1206 - P.1214

【ポイント】
◆スコピストは術者の“活眼”であり,anatomy+procedureの深い理解が求められる.
◆カメラのアングルやシャフトの捻りを使用し,鉗子と干渉しない近接静止野を映し出す.
◆常に次のシーンへの展開(術者の剝離/切離の進行方向)を意識する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2024年10月末まで)。

腹腔鏡下幽門側胃切除術でのスコピストのテクニックとコツ

著者: 田中千恵 ,   増渕麻里子 ,   長谷川裕高 ,   小寺泰弘

ページ範囲:P.1216 - P.1224

【ポイント】
◆腹腔鏡下手術を安全かつ効率的に行うためには,施設としての手術の定型化および助手やスコピストを含めたチームとしての成熟が求められる.
◆スコピストは,自分が術者になっているつもりで思いやりのあるスコープ操作を心がける.
◆スコピストは,スコープと術者の操作部との間の距離感やスコープの角度に注意しつつ,常に鮮明な画像を提示する必要がある.

腹腔鏡下胃全摘術でのスコピストのテクニックとコツ

著者: 鶴安浩 ,   柴崎晋 ,   中村謙一 ,   中内雅也 ,   田中毅 ,   稲葉一樹 ,   宇山一朗 ,   須田康一

ページ範囲:P.1225 - P.1232

【ポイント】
◆手術のコンセプトを手術チーム間で共有ならびに十分に理解して手術に臨む.
◆基本的にはダウンアングルが多用される.
◆郭清時にはoutermost layerを意識して近接視野を確保する.
◆再建時には遠景を多用し,吻合操作の全体像を把握する.
◆術者の鉗子と干渉することが多いが,画面右側より左側に向けて傾けることで干渉が回避されやすい.

腹腔鏡下結腸右半切除術でのスコピストのテクニックとコツ

著者: 山口茂樹 ,   近藤宏佳 ,   井上雄志 ,   小川真平 ,   大木岳志 ,   番場嘉子 ,   金子由香 ,   腰野蔵人 ,   谷公孝 ,   中川了輔 ,   前田文 ,   時任史聡 ,   相原永子 ,   藤川秀爾 ,   板橋道朗

ページ範囲:P.1233 - P.1239

【ポイント】
◆スコピストがモニターに映し出す術野が手術参加者全員の目となることを意識して,操作部位の観察方向や距離を調節する.
◆結腸間膜の授動では剝離層と剝離方向を意識して,十二指腸,膵頭部といった重要臓器を適切に確認して視野を作る.
◆リンパ節郭清では,郭清の方向を意識して,バリエーションの多い血管分岐と血管切離時のクリップの装着を十分確認できる視野を作る.

腹腔鏡下S状結腸切除術でのスコピストのテクニックとコツ

著者: 田中俊道 ,   横井圭悟 ,   古城憲 ,   三浦啓壽 ,   山梨高広 ,   佐藤武郎 ,   内藤剛

ページ範囲:P.1240 - P.1245

【ポイント】
◆手術の流れ,視野展開をチーム内で共有する.腹腔鏡下S状結腸手術では最低3人が1つのチームとなって手術を進行していくため,手順や視野展開についてチーム内で共通の認識をもつ必要がある.
◆スコピストの技量によって手術難易度が大きく変わる可能性がある.スコピストは,自らの的確な視野の提示によって術者の手数と負担が減り,安全かつ迅速な手術が提供できることを理解する.
◆スコピストとしての経験は,自らの手術手技向上において非常に重要である.術中の会話や場面ごとの細かな判断など,記録媒体には残らない点を当事者として最も近くで経験することは,大きな糧となる.

腹腔鏡下低位前方切除術と側方郭清でのスコピストのテクニックとコツ

著者: 前田裕介 ,   平松康輔 ,   黒柳洋弥

ページ範囲:P.1246 - P.1253

【ポイント】
◆腹腔鏡手術においてスコピストはチームの中で非常に重要な役割を果たしている.個々が解剖をよく理解し,チームで共通認識をもつことが円滑に手術を進めるには大事である.その中でスコピストは,“自分が術者になったときにはどのようにして欲しいか”を考えながらスコープを持つことが手術上達への第一歩である.

腹腔鏡下胆囊摘出術でのスコピストのテクニックとコツ

著者: 奥村拓也 ,   甲賀淳史 ,   山下公裕 ,   礒垣淳 ,   鈴木憲次 ,   川辺昭浩

ページ範囲:P.1255 - P.1262

【ポイント】
◆腹腔鏡下胆囊摘出術は習得すべき基本手技で構成されており,スコピストが初学者であることが多い.初学者がカメラワークを共通理解するためには,術者による直接指導が必要である.よって,カメラワークで術者の指導力が表れる.
◆流暢なカメラワークには術者の鉗子と連動した動きが必要であり,スコピストの修練にて術者目線も得られる.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2024年10月末まで)。

単孔式腹腔鏡下胆囊摘出術でのスコピストのテクニックとコツ

著者: 春田英律 ,   梅澤昭子 ,   山本海介 ,   千葉蒔七 ,   黒川良望

ページ範囲:P.1263 - P.1270

【ポイント】
◆単孔式内視鏡手術を行う際は,いかに鉗子の干渉を回避して良好なeye-hand coordinationを確保するかが課題となり,スコピストのカメラワークが大変重要となる.
◆単孔式腹腔鏡下胆囊摘出術では,胆囊の腹側と背側の操作において,アクセスポートからの彎曲型鉗子とスコープの位置関係が変化する.
◆鉗子同士の干渉を軽減し,良好な視野を作ることが術者のストレス軽減につながるため,術者・助手・スコピストのチームワークが重要となる.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2024年10月末まで)。

ヘルニア手術でのスコピストのテクニックとコツ—スコピストをマスターしてラパヘル(TAPP)を極める

著者: 植野望 ,   裏川直樹

ページ範囲:P.1271 - P.1280

【ポイント】
◆腹腔鏡下手術におけるスコピストにとって重要なことは,手術操作の動きを速やかに追い続け,適切な水平を維持することである.
◆ヘルニア手術では,手術の流れと操作のコンセプトを理解し,骨盤内という特殊な解剖学的空間内における位置認識を確立することが,加えて重要となる.
◆さらに,助手の存在しない,いわゆるsolo-surgeryであることを十分に認識しておく必要がある.
◆術者が何を見たいかということを理解することが肝要である.

坂の上のラパ肝・胆・膵・21

肝S1領域(尾状葉)の切除

著者: 大目祐介 ,   本田五郎

ページ範囲:P.1281 - P.1291

Point
◆尾状葉周囲に良好な術野をつくるために,左肝,右肝ともに必要に応じて十分に授動して挙上する.
◆下大静脈(IVC)に加えて,左側ではArantius管,右側ではRouvière溝(後区域Glisson茎背面)をランドマークとして切除範囲を決定する.
◆左右ともに,肝門板とIVCから尾状葉を剝離した後に,Spiegel葉は左側に牽引しながら,右尾状葉は背側に牽引しながら,尾側から頭側に向かって剝がし取るように肝実質離断を進める.
◆左右ともに,比較的早い段階で尾状葉の中央側を尾側から頭側に向かって離断し,切除する尾状葉をIVCから浮かすように授動しながら短肝静脈を処理する.

FOCUS

肝細胞癌治療の新展開

著者: 八木宏平 ,   島田周 ,   下川雅弘 ,   谷合智彦 ,   赤星径一 ,   田邉稔 ,   田中真二

ページ範囲:P.1292 - P.1300

はじめに
 わが国において肝癌は全癌腫で死亡数第5位,5年生存率は36%程度と予後不良な疾患であり,より良好な治療法の進展が切望されている1).肝細胞癌の危険因子としてB型肝炎ウイルス(HBV)あるいはC型肝炎ウイルス(HCV)の持続感染による慢性ウイルス肝炎,アルコール性肝炎,非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)/非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)などがある2).全世界ではHBV,HCVに対する抗ウイルス治療によりウイルス性肝癌の割合が減少すると予想されているが,NAFLD/NASHを背景とする肝細胞癌の発生率は増加傾向にあり,例えば米国では2016年から2030年の間に122%増加し,5,510例から12,240例になると推定されている3).このように肝細胞癌の背景疾患は変遷しつつあるが,免疫チェックポイント阻害剤の登場により急速に進歩を遂げる治療方針について,常にアップデートすることが必要である.

病院めぐり

浜松医療センター外科・消化器外科

著者: 落合秀人

ページ範囲:P.1301 - P.1301

 浜松医療センターは静岡県浜松市のほぼ中心,佐鳴湖畔の比較的閑静な住宅街に位置します.近くには知る人ぞ知る蜆塚遺跡があり,小学生の遠足コースとなっています.当センターは浜松市が設立した浜松市医療公社を母体として1973年4月に280床で開設され,地域住民のニーズに応える形で徐々に増床し,1995年に現在と同様の606床になりました.
 当センターの基本理念として,①患者の権利と尊厳の尊重および患者中心の安全・安心な医療の提供,②オープンシステムの活用と地域医療連携ネットワークの強化,③地域の救急・災害医療および小児・周産期医療の維持,④時代の要請に応えた高度・先進医療,⑤医療に関する調査・研究の推進と国内外への情報発信,⑥職員の教育・研修と国際的に通じる真の医療人の育成,⑦効率的な病院経営と健全な財政基盤の確立,の7つがあります.特に③の救急医療と④の高度・先進医療については,地域の基幹病院としても,当科としても日々,努力しているところでもあります.

臨床報告

新しい腹部開放創用「ABTHERA®ドレッシングキット」の使用経験

著者: 福留惟行 ,   駄場中研 ,   中村衣世 ,   山口祥 ,   藤澤和音 ,   花﨑和弘

ページ範囲:P.1303 - P.1308

要旨
近年,腹部開放創管理に関して一時的陰圧閉鎖法の有用性が多く報告されている.そして,2019年2月に腹部開放創用ドレッシングキット「ABTHERA®ドレッシング」(以下,ABTHERA)が一時的陰圧閉鎖専用の医療器材として本邦で承認された.ABTHERAの使用により迅速な閉腹が可能となり,damage control surgeryでは優れた閉腹法である.また,術後の腹部コンパートメント症候群の予防が可能であり,再開腹時も素早い腹腔内へのアクセスが可能である.今回,われわれは本邦ではまだ使用報告の少ないABTHERAを非閉塞性腸管虚血症と腸管穿孔による急性汎発性腹膜炎に対して使用し,それぞれに有用性を認めたため報告する.

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目次

ページ範囲:P.1182 - P.1183

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.1245 - P.1245

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1312 - P.1312

あとがき

著者: 小寺泰弘

ページ範囲:P.1314 - P.1314

 新型コロナウイルス感染拡大が猖獗を極めている.
 (7月15日)愛知県では第4波がようやく終息したところだが,東京都ではすでに日々の新規感染者数が1,000名を超えている.そして,感染力がさらに高まった変異株にオリンピック開催が相まって最大規模の感染拡大に発展する可能性も指摘されるなか,東京都では早めのタイミングで新たな緊急事態宣言が発出された.愛知県では現在,重症者数が減少しつつあり,6月中旬まで多忙を極めた名古屋大学医学部附属病院のICUでは,病棟を2つ潰してかき集めた看護師が順番に夏休みをとって第5波に備えている状況である.医師については,不足している救急部の医師に月替わりで各診療科からの支援者を加えた混成メンバーで重症患者の診療を行っているのだが,さて,8月のICUへの支援者は何名必要だろうか.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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