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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科76巻11号

2021年10月発行

雑誌目次

増刊号 Stepごとに要点解説 標準術式アトラス最新版—特別付録Web動画

著者: 瀬戸泰之

ページ範囲:P.1 - P.1

 今回の増刊号は「Stepごとに要点解説 標準術式アトラス最新版」です.手術アトラスは増刊号企画でしばしば取り上げられる内容ですが,それだけ外科医,特に若手にとっては重要であり,アップデートされた最新の術式を学べるものでなければなりません.今回の内容では,やはり腹腔鏡などの内視鏡手術がかなり多くなっています.時代の必然と感じますが,それでも開腹手術がゼロになることもないと思います.一方,今後はロボット手術が普通になるでしょうし,navigation surgeryも普及(標準化)してくるものと思います.AI技術が外科領域に導入される日も遠くないかもしれません.

1.食道

頸部食道癌に対する手術

著者: 小池聖彦 ,   神田光郎 ,   小寺泰弘

ページ範囲:P.4 - P.8

 食道の機能は食事内容の胃までの移送であるが,上端は咽頭喉頭に連続し嚥下・発声の機能も担っている.したがって頸部食道癌の治療を考えるうえで,嚥下・発声機能の温存可否は慎重な検討が必要となる.喉頭を合併切除して発声機能を失うことはその後の生活に大きな後遺症となるが,喉頭の温存が可能な場合も治療による嚥下機能の低下が誤嚥リスクを増し,治療後の生活の質に大きな影響を残すことになる.また,頸部食道癌のリンパ節転移頻度は比較的高いとされているが,適正な郭清範囲や郭清効果については詳細な検討の報告が少ない1).こうした背景があり,頸部食道癌に対する手術については喉頭合併切除の有無,郭清範囲,再建臓器の選択において多くの選択肢があり,症例ごとに最適な術式が施行されているのが現状である.本稿ではなかでも最も基本となる,咽頭喉頭合併切除,頸部食道切除,遊離空腸による再建の手技をステップごとに解説する(図1).喉頭が温存可能な症例では,残存食道長が短くなることに配慮が必要であるが,別稿の食道亜全摘(森論文,26ページ参照)が行われることが多い.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年10月末まで)。

胸部食道癌に対する開胸手術

著者: 白石治 ,   加藤寛章 ,   百瀬洸太 ,   平木洋子 ,   安田篤 ,   新海政幸 ,   今野元博 ,   安田卓司

ページ範囲:P.9 - P.15

Step1 開胸
 左下側臥位にて右第4肋間前側方に約12〜15 cm皮膚切開を加え,大胸筋-小胸筋の後側背面を剝離し,小胸筋の第5肋骨付着縁を切離する.前鋸筋を筋束に沿って分けて広背筋は温存しつつ,第4肋間で内外肋間筋を前方は肋軟骨まで,後方は胸腸肋筋の位置まで切離し,開胸を行う.開胸肋間の背側でラップミニによりカメラポート孔を確保し,30度斜視のスコープを挿入する.開胸手術だが,術者はカメラの照明とともに胸腔鏡画像の拡大視効果で微細解剖を把握しながら手術を行う(図1).
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年10月末まで)。

胸部食道癌に対する腹臥位胸腔鏡下手術

著者: 白川靖博

ページ範囲:P.16 - P.25

Step1 麻酔および手術体位とポート挿入
 麻酔導入および気管内挿管はストレッチャー上で行う.通常のシングルルーメンチューブを挿管後,手術台へ移動して腹臥位とする.その際,マジックベッドを用いて約45度の左半腹臥位で患者を固定し,手術台のローテーションによりほぼ完全腹臥位とする.上肢は右側のみ挙上して固定する.その際,術後の肩痛を予防するため,肩関節の屈曲は120度以内,外転は135度以内,さらに肘関節の屈曲は30度以内として上腕よりも前腕を下げて固定している.また,術野確保のためクッションを右鎖骨下窩〜右大胸筋部に入れ,肩甲骨が腹側に落ち込まないようにしている(図1a,b).
 われわれは6ポートにて手術を行っている.術者用のポートを第5,7肋間後腋窩線に挿入するが,鉗子やデバイスの可動性向上および操作安定性を重視し,5 mmポートとしている.第3肋間中腋窩線と第8肋間中腋窩線やや前方に助手用の12 mmポートを挿入し,第9肋間肩甲下角線に胸腔鏡用の12 mmポートを挿入する.さらに,第6肋間肩甲下角線にガーゼなど出し入れのために12 mmポートを挿入する(図1c,d).手術中の麻酔は気管支ブロッカーを用いた分離肺換気で行っており,炭酸ガスによる6〜10 mmHgの人工気胸も併用している.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年10月末まで)。

胸部食道癌に対する縦隔鏡下手術

著者: 森和彦 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.26 - P.33

Step1 頸部直視下操作(図1)
 縦隔鏡手技の開始前に食道と左反回神経のテーピングを行う.右上縦隔リンパ節郭清は別に直視下操作で行う.皮膚切開は左鎖骨頭から上下にあまり離れないレベルの襟状切開(大きく切開してもよい)として,のちに仮縫合を加え単孔式デバイスを装着する.
 まず,縦隔鏡操作の入口確保のため胸鎖乳突筋胸骨枝をテーピング,授動し,さらに前頸筋群腹側の脂肪組織を切除する.必要に応じ前頸静脈を適宜,結紮切離する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年10月末まで)。

2.胃・十二指腸

食道胃接合部癌に対する腹腔鏡下胃全摘術

著者: 伊藤直 ,   小川了 ,   澤井美里 ,   上野修平 ,   早川俊輔 ,   大久保友貴 ,   佐川弘之 ,   田中達也 ,   髙橋広城 ,   松尾洋一 ,   瀧口修司

ページ範囲:P.34 - P.38

Step1 ポート配置と肝外側区域の授動
 体位は開脚位とする.術者は患者右側,助手は患者左側に立ち,5ポートを逆台形に挿入して手術を行う.幽門下リンパ節郭清を行うときのみ,術者は患者左側に立って行う.スコピストは脚間に立ち,臍部から内視鏡を挿入する.
 手術の準備として,まずは上腹部正中で肝円索を腹壁に吊り上げる.肝外側区域が食道裂孔周りの視野の妨げとなる場合は心窩部にポートを追加して支持器で圧排するか,肝外側区域を授動して右側に脱転する.
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胃癌—脾温存での腹腔鏡下脾門部リンパ節郭清

著者: 江原一尚 ,   武智瞳 ,   川上英之 ,   山田達也 ,   川島吉之

ページ範囲:P.39 - P.48

 JCOG0110の結果より,大彎にかからない上部胃癌に対する脾摘の有用性は否定された1).大彎にかかる病変に関してのevidenceは確立されていない一方,近年ではZhongら2)によって大彎病変に対する脾門郭清の有用性が示唆されており,わが国でも第Ⅱ相試験であるJCOG19073)が現在進行中である.
 当科ではこれまで大彎にかかる胃上部の病変(大型3,4型は除く)に対し,腹腔鏡下に脾門部リンパ節郭清を行ってきた.ポイントは良好な術野の確保と手順である.今回はその手技と注意点についてStepに分けて解説する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年10月末まで)。

胃癌—腹腔鏡下幽門側胃切除術—D2郭清

著者: 稲木紀幸

ページ範囲:P.50 - P.57

 D2郭清の適応となる進行胃癌では,症例によって大網切離が必要となるが,本稿では大網温存手技を呈示する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年10月末まで)。

胃癌—腹腔鏡下噴門側胃切除術—ダブルトラクト法

著者: 田中千恵 ,   長谷川裕高 ,   小寺泰弘

ページ範囲:P.58 - P.63

 本稿では,腹腔鏡下噴門側胃切除術,術後のダブルトラクト法について述べる.
 胃癌治療ガイドライン(第5版)1)では,噴門側胃切除術における再建法として,食道残胃吻合,空腸間置法,ダブルトラクト法が記載されており,それぞれに長短がある.ダブルトラクト法は,他の再建法と比べて吻合箇所が3か所と多いが,いずれの吻合も難易度は高くない2).また,食道胃接合部癌や食道浸潤を伴う胃癌においても施行可能であるうえに,残胃癌が発生した場合,他の再建法より再手術が容易であるというメリットもある.
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胃癌—腹腔鏡下幽門保存胃切除術

著者: 李基成 ,   谷島翔 ,   奥村康弘 ,   八木浩一 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.64 - P.71

Step1 患者体位・ポート配置
 体位は仰臥位開脚位とする.手術開始時,術者は患者左側,助手は右側,スコピストは脚間に立つ.図1のように臍部に12 mmのバルーン付きポート,上腹部に逆台形状に4つのポート(右側腹部ポートは12 mm,それ以外の3つのポートは5 mm)の計5ポートを留置する.左側腹部のポートは左季肋部ポート部位と臍部の中点,また右側腹部ポートは右季肋部ポート部位と臍部の中点やや内側よりとする.ポート留置後,直針付きナイロン糸で肝円索を吊り上げる.後に,手術操作の途中で肝臓挙上のためのリバーリトラクターを心窩部から挿入する.また,当科では再建は手縫いによる端々吻合を行っており,胃切除後に上腹部に5 cmの正中切開を追加する(図1).
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十二指腸腫瘍に対する局所切除術

著者: 伊藤綾香 ,   三輪武史 ,   渋谷和人 ,   吉岡伊作 ,   平野勝久 ,   渡辺徹 ,   五十嵐隆通 ,   橋本伊佐也 ,   北條荘三 ,   松井恒志 ,   奥村知之 ,   藤井努

ページ範囲:P.73 - P.75

適応
 一般的に,十二指腸癌に対する標準術式は膵頭十二指腸切除術(pancreaticoduodenectomy:PD)であるとされている.しかし,十二指腸良性腫瘍や早期癌では過大侵襲と考えられることがあり,いまだ明確なエビデンスは確立されていない.当科では十二指腸乳頭にかからない早期癌や良性腫瘍に対して局所切除術を行っている.局所切除術はPDと比較して再建を要さず,生理的かつ低侵襲である.十二指腸局所切除術の適応は,十二指腸腺腫および早期癌,gastrointestinal stromal tumor(GIST)で十二指腸乳頭から2 cm以上離れている病変としている.腫瘍径は3 cmまでのものを適応とし,3 cmを超えるものは欠損孔が大きくなるため,空腸パッチなどの再建を考慮する.神経内分泌腫瘍(neuroendocrine neoplasm:NEN)は1 cm未満の病変では局所切除術を検討する.また,十二指腸癌については深達度T1aを適応とする.1 cm以上の十二指腸NENやT1b以深への進展が予想される十二指腸癌ではリンパ節郭清を伴う切除が推奨されるため,PDなどのリンパ節郭清を伴う術式を選択する1〜3).本稿では,当科で行っている十二指腸局所切除術について概説する.

3.小腸

クローン病の小腸病変に対する小腸切除術

著者: 桑原隆一 ,   池内浩基

ページ範囲:P.76 - P.80

 クローン病(Crohn's disease:CD)は消化管に全層性の炎症をきたし,さまざまな病態を呈する難治性炎症性腸疾患である.当院では基本的に腹腔鏡手術時は臍部切開で,開腹手術時は下腹部正中切開で行っている.
 本稿では当科での腹腔鏡手術の操作を示す.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年10月末まで)。

4.大腸

腹腔鏡下虫垂切除術

著者: 島田竜 ,   野澤慶次郎 ,   大野航平 ,   塚本充雄 ,   福島慶久 ,   金子建介 ,   端山軍 ,   松田圭二 ,   橋口陽二郎

ページ範囲:P.82 - P.85

Step1 体位
 仰臥位で行う.当院では,小腸を重力により移動させ回盲部周辺視野を確保するため,両腕を巻き込み,マジックベッドと側板を使用し頭低位・左側低位で行っている.術者,スコピストともに患者の左側に立つ(図1).
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年10月末まで)。

結腸癌—腹腔鏡下結腸右半切除術—体腔内吻合も含めて

著者: 櫻井翼 ,   山口智弘 ,   野村亮介 ,   向井俊貴 ,   日吉幸晴 ,   長嵜寿矢 ,   秋吉高志 ,   福長洋介

ページ範囲:P.86 - P.92

Step1 ポート配置と立ち位置
 腹腔鏡下結腸右半切除術では,腸管の切離と吻合は臍を中心とした小切開をおき体腔外で行われるのが一般的である.一方,腸管の授動範囲や腹壁瘢痕ヘルニアの減少などの利点を有する体腔内吻合の有用性が報告されるようになり1),当院では2019年より結腸癌に対する体腔内吻合を導入した.腹腔内での腸管開放による汚染や播種の危険性を考慮し,術前腸閉塞症例は適応外としている.
 体腔内吻合を行う場合は,カメラポートは臍とし,左右下腹部,左上腹部に5 mmポート,左側腹部に12 mmポートを留置する.内側授動の際は,術者が左尾側,助手が左頭側に立つ(図1a).surgical trunkの郭清および外側授動の際は,術者が脚間,助手が左頭側に立つ(図1b).腸管の切離・吻合の際は,術者が左頭側,助手が脚間に立ち,Pfannenstiel incisionから標本を摘出する(図1c).スコピストは常に左側に立つ.一方,体腔外吻合の場合は,左上腹部のポートは,臍よりやや頭側に留置し,小開腹するときにそのポートと臍ポートをつなげるようにする.
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脾彎曲部・下行結腸癌に対する腹腔鏡下結腸切除術

著者: 塩見明生

ページ範囲:P.93 - P.98

 本稿では,脾彎曲近傍に存在する下行結腸癌に対して,下腸間膜動脈(IMA)温存D3リンパ節郭清を伴う左結腸切除術(または結腸左半切除術)および機能的端々吻合(functional end to end anastomosis:FEEA)の手術手技に関して解説する.
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結腸癌—腹腔鏡下S状結腸切除術

著者: 塚本俊輔 ,   高見澤康之 ,   森谷弘乃介 ,   今泉潤 ,   金光幸秀

ページ範囲:P.100 - P.103

Step1 内側アプローチ
 術者とスコピストは患者右側に立ち,5ポートで手術を開始する(図1).助手は患者左側に立ってマタドールのように腸間膜を展開しても,患者の脚間に立って左下腹部ポートからバブコック鉗子などを用いて,IMAの血管茎を把持挙上してもよい.どちらの方法においても,結腸間膜を腹側に挙上して結腸間膜右側と後腹膜の境界のくぼみを明らかにして,くぼみに沿って腹膜を切開して後腹膜と結腸間膜の剝離を進めることがポイントとなる.
 術者は,左手鉗子を使って結腸間膜を後腹膜側から持ち上げるようにすると,剝離層は疎な結合組織の層として認識できる.また,結腸間膜と後腹膜の脂肪は色調が異なり区別ができるため,結腸間膜脂肪を取り残さないようにして授動を進める.正しい剝離層を取れば出血することは少ない.しかし,内側アプローチの際には後腹膜側に迷入しやすいため,まずは光沢のある結腸間膜の背側を確認し,その後は常に結腸間膜を意識しながら患者左側へ剝離を進めると正しい剝離層をたどることができる(図2).結腸間膜を破らないように剝離を進めると,自然と腰内臓神経の本幹が後腹膜側に温存されることになり,神経損傷を防ぐことができる.正しい剝離層で手術を進めていることが明らかであれば,この時点で尿管や性腺血管を確認することは必須ではない.
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直腸癌—腹腔鏡下低位前方切除術

著者: 大塚幸喜 ,   八重樫瑞典 ,   高清水清治 ,   有吉佑 ,   平田勇一郎 ,   伊藤浩平 ,   髙橋智子 ,   中村侑哉 ,   畑中智貴 ,   佐々木章

ページ範囲:P.104 - P.110

Step1 ポート配置
 臍部から1横指頭側にカメラポートをopen methodで挿入し,図1のようにポートを挿入する.低位前方切除における術者の右鉗子挿入ポート(右下腹部のポート)位置は重要で,S状結腸切除より2横指内側・尾側(右上前腸骨棘から尾側2横指,内側3横指)にすることで,低位での直腸後壁右側の授動や直腸間膜処理,そして直腸切離の際の自動縫合器のアプローチが容易となる.
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直腸癌—腹腔鏡下括約筋間直腸切除術

著者: 塚田祐一郎 ,   伊藤雅昭 ,   北口大地 ,   長谷川寛 ,   池田公治 ,   寺村紘一 ,   西澤祐吏

ページ範囲:P.111 - P.118

Step1 ポート挿入
 腹腔鏡下括約筋間直腸切除術(intersphincteric resection:ISR)の基本ポート配置は,図1aのような5ポートである.直腸の頭側への牽引が必須であり,われわれは恥骨上に配置した12 mmポートから腸把持鉗子を挿入し,直腸の頭側牽引を行っている.恥骨上ポートは腸間膜脂肪が少ない症例では5 mmポートでもよい.男性・狭骨盤・肥満・巨大腫瘍といった困難症例などで左下腹部にもう1ポート追加する場合は,図1bのようなポート配置となり,この場合は恥骨上ポートから挿入した鉗子はロックアーム®(システム・ジェーピー)を用いて固定している(図2).
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直腸癌—腹会陰式直腸切断術—特に会陰操作について

著者: 小森康司 ,   木下敬史 ,   佐藤雄介 ,   大内晶 ,   伊藤誠二 ,   安部哲也 ,   三澤一成 ,   伊藤友一 ,   夏目誠治 ,   檜垣栄治 ,   奥野正隆 ,   藤枝裕倫 ,   川勝章司 ,   國友愛奈 ,   沖哲 ,   末永泰人 ,   前田真吾 ,   長尾拓哉 ,   有竹典 ,   多和田翔 ,   赤座賢 ,   清水泰博

ページ範囲:P.119 - P.126

腹会陰式直腸切断術(APR)とは
 近年,肛門括約筋間直腸切除術(intersphincteric resection:ISR)の普及に伴い,腹会陰式直腸切断術(abdominoperineal resection:APR)を経験することは,少なくなってきている.しかし,APRと比較したISRの短期成績,長期成績の質の高いエビデンスがないのが現状である以上,基本的にはAPRが標準術式である.さらに,ロボット手術,腹腔鏡下手術が普及するなかで,開腹手術のAPRはかなり少なくなっていると思われる.また,巨大な直腸癌に対しても術前(化学照射)療法を施行し,縮小してから手術に臨む施設が増えて,開腹APRを経験する機会がますます減少している.当院では,基本的には術前療法は行わない方針であり,しばしば巨大な直腸癌のAPRを経験する.その経験を踏まえ,当院での開腹APRの術式について報告する.
 APRの手技を十分にマスターせずにISRに執着することはよくないと思われる.ISRを行うときは常に解剖学的にAPRとの違いをしっかり念頭に置きながら手術に臨むことが大事であり,その意味においても解剖をしっかり把握したAPRを習得することが大事である.
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直腸癌—骨盤内臓全摘術

著者: 小倉淳司 ,   上原圭 ,   村田悠記 ,   三品拓也 ,   伊神剛 ,   水野隆史 ,   山口淳平 ,   宮田一志 ,   尾上俊介 ,   渡辺伸元 ,   横山幸浩 ,   江畑智希

ページ範囲:P.128 - P.137

Surgical concept
 骨盤内の解剖は複雑で,直腸周囲には尿生殖器系や自律神経系,腸骨血管系などさまざまな臓器が取り囲んでいる(図1).そのため,狭い骨盤腔内で構造物を認識して安全に切離するためには詳細な解剖の認識が必要である.一方で,骨盤内臓全摘術の場合は,切除する臓器を1つの塊とみなすことで,複雑な解剖を剝離すべき4つの空間と切離すべき5つの索状物に単純化することができる(図2).そのなかで特に前側方領域は直腸癌術後再発や巨大腫瘍であっても影響を受けにくく,かつメルクマールとなる臍動脈索が認識しやすい.当科では同部位を広く開放し,側方腔の開放を先行することを定型化している(図3).
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腹腔鏡下大腸全摘術・回腸囊肛門吻合

著者: 松山貴俊 ,   絹笠祐介 ,   徳永正則

ページ範囲:P.138 - P.146

Step1 体位,ポート配置
 体位はレビテーターを用いた砕石位で,頭低位,頭高位,左右のローテーションをかけるなど体位変換が多いため,手術用体位固定マット(ピンクパッド)を使用し,さらに左右体幹,頭部に固定具を使用している.術前にすべての体位についての安全性を確認しておく.当科では経肛門内視鏡手術を併用することが多く,右側のポートは通常の腹腔鏡下直腸手術と比較して全体的に頭側に置いている(図1a).右下のポートは術前のストーマサイトマーキング部になることが多い.経肛門内視鏡手術を併用しない場合は右下ポートをできるだけ尾側に留置する(図1b).
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5.肛門

痔核手術

著者: 張文誠

ページ範囲:P.148 - P.152

 痔核の手術治療は,根治性の高い「結紮切除術」(以下LE)のほかに,術後疼痛の少ない「ALTA療法」が代表的であるが,ALTA単独療法はその効果が限定的であり,すべての痔核症例に対応することはできない.ALTA単独療法では効果不十分となる外痔核部位をLEにより切除し,内痔核部にALTA注射を行う「ALTA併用療法」も合目的的であり,その有用性に疑問の余地がないところであるが,まずLEの手術手技を習得したうえで行うべき治療法であり,痔核の基本手術術式がLEである点に異論はないと考える.こうした点を踏まえ,本稿ではLEについて解説する.
 LEにおける手術手技を要約すると,「適正な剝離層を保ちながら痔核組織を十分に剝離・郭清し,肛門上皮を極力温存することで,狭窄のない,柔らかい肛門とする」,そして「緩んだ肛門部の粘膜・上皮を根部方向に吊り上げ,切離縁となる粘膜・上皮が本来の生理的な位置にくるよう固定し,さらに過不足のないドレナージ創を作製することで,術後の腫脹やskin tagを作らないこと」であるといえる.
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低位筋間痔瘻に対する瘻管切除術

著者: 栗原浩幸 ,   金井忠男 ,   赤瀬崇嘉 ,   高林一浩 ,   八木貴博

ページ範囲:P.154 - P.158

Step1 診断(指診,双指診)
 痔瘻とは,肛門管内の発生原因から肛門・直腸周囲に広がる線維化した瘻管のことである.痔瘻発症の原因となる小孔を原発口,感染を遷延させる原因となる部位を原発巣,原発口から原発巣までの瘻管を一次瘻管,原発巣以後の瘻管を二次瘻管,二次瘻管の皮膚開口部を二次口と呼ぶ1〜3)(図1a).
 痔瘻の約8割は肛門陰窩から皮膚に瘻管が進展する低位筋間痔瘻といわれるものであり,残りが後方深部の原発巣から坐骨直腸窩に瘻管が進展する坐骨直腸窩痔瘻,肛門陰窩から頭側の内外括約筋間に向かう高位筋間痔瘻である2)
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裂肛手術—SSG,VY形成術,LSIS(Notaras式),用手拡張,脱出性裂肛に対する結紮切除

著者: 辻順行 ,   高野正太 ,   中村寧 ,   濵田博隆 ,   桑原大作 ,   伊禮靖苗 ,   久野三朗 ,   山田一隆 ,   高野正博

ページ範囲:P.159 - P.167

裂肛に対する手術の適応(図1)
 裂肛に対しては,まず保存療法が行われる.しかし,保存療法に抵抗する症例に対しては,患者さんの希望次第で手術が適応される.一般的に,肛門の内圧が高値である症例や肛門のトーヌスが高い症例では難治のことが多い.
 外科的に肛門側方で内括約筋を切開し肛門を広げ,肛門のトーヌスを下げる手術方法として,内括約筋側方切開(lateral subcutaneous internal sphincterotomy:LSIS),肛門後方で肛門括約筋を切開拡張し,さらに切開拡張創を皮弁で覆い強化する皮膚弁移動術(sliding skin graft:SSGやVY形成術:VY),麻酔下に左右の示指を肛門内に挿入して広げる用手拡張術などがある1〜3)
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直腸脱根治術—腹腔鏡下直腸固定術,Delorme法,Altemeier法,Gant-三輪-Thiersch法

著者: 三浦康之 ,   船橋公彦 ,   栗原聰元 ,   吉野優 ,   吉野翔 ,   吉田公彦 ,   甲田貴丸 ,   長嶋康雄 ,   鏡哲 ,   金子奉暁 ,   牛込充則 ,   酒井悠 ,   松島誠

ページ範囲:P.168 - P.179

 直腸脱根治術は様々な術式が報告されているが,本稿では,経腹的手術の腹腔鏡下直腸固定術と経会陰的手術のDelorme法,Altemeier法,Gant-三輪-Thiersch法を提示する.
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6.肝臓

肝左葉および外側区域の腹腔鏡下切除術

著者: 石川喜也 ,   赤星径一 ,   浅野大輔 ,   上田浩樹 ,   小川康介 ,   小野宏晃 ,   工藤篤 ,   田中真二 ,   田邉稔

ページ範囲:P.180 - P.185

Step1 体位セッティング,ポート配置
 外側区域切除と左葉切除は肝授動,左肝静脈処理など,共通の操作が比較的多い.本稿では尾状葉を温存した左葉切除を中心に概説する.
 体位は開脚位とし,肝離断中は頭高位とする.術者は患者右側に立ち,助手が左側に,スコピストは脚間に立つ.術前に麻酔科医と相談し,患者の全身状態が許すのであれば,極力輸液量を制限する.中心静脈圧,気道内圧を抑えることで,肝離断中の静脈出血を制御することが可能となる1).気腹圧は10 mmHgに設定している.
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肝右葉切除術

著者: 片桐聡 ,   杉下敏哉 ,   丹羽由紀子 ,   鬼澤俊輔 ,   太田正穂 ,   新井田達雄

ページ範囲:P.187 - P.196

Step1 手術概念の理解
 右葉切除は肝周囲間膜剝離と脱転,肝門部脈管処理,肝実質切離,主肝静脈処理など肝臓外科の基本手技が含まれており,十分な知識習得と技術応用が必要とされる.
 肝門部脈管処理における個別処理法とGlisson一括処理法のそれぞれの適応や優劣を理解する.また,肝静脈損傷時の対応や前方アプローチ法,hanging maneuverの習得も必要となる.
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肝前区域切除術

著者: 藤本康弘 ,   波多野悦朗 ,   奥野将之 ,   岩間英明 ,   河端悠介 ,   飯田健二郎 ,   栗本亜美 ,   鳥口寛 ,   岡本共弘 ,   末岡英明 ,   多田正晴 ,   中村育夫

ページ範囲:P.197 - P.202

Step1 皮膚切開,術中超音波
 患者は仰臥位とし,右側は右肋弓下切開に備え,左側は左手を麻酔管理に使用できるよう両手開きとする.逆T字切開にて開腹する(図1a).その際,正中頭側では剣状突起起始部を超えて頭側まで皮膚切開を置き,また剣状突起両側に付着している筋肉を切離することで開創は良好となる(図1b).後の肝脱転の際や閉創時に邪魔になるようであれば,剣状突起を切除する.横切開は,右は肋弓下から2横指以上離れて中腋窩線レベルまで(延長する場合,背中側ないしは足側に伸ばしても無効であり,頭側に切り上げる)(図1a破線,図1c),左は腹直筋左縁まで切開する.右葉授動のためにも十分な開創が必要であるが,正中頭側の皮膚切開,剣状突起に付着する筋肉,そして横切開右端の頭側への切り上げがポイントとなる.肝円索は結紮切離し,肝臓側は牽引できるように糸を残しておく.腹水,特発性細菌性腹膜炎(SBP),播種性転移の有無につき視触診を行う.
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肝後区域切除術

著者: 板野理 ,   皆川卓也 ,   星本相淳 ,   篠田昌宏

ページ範囲:P.204 - P.209

Step1 術前シミュレーション
 術前に解剖把握および肝切除のシミュレーションを行うことは,安全な手術を完遂するために必須である.特に,シミュレーションソフトの活用は,直感的かつ視覚的に判断しやすく非常に有用である.肝後区域切除の術前シミュレーションのポイントは,残肝容積および残肝機能の評価のほかに,①肝門部の解剖の把握と②肝離断面のメルクマールの確認の2点に集約される.前者では,肝動脈,門脈,胆管の走行や解剖破格の有無を確認(図1a)し,実際に手術を行った場合にどの位置でグリソン,もしくはそれぞれの脈管を処理すべきかという点を検討する.後者では,解剖学的肝区域境界となるintersegmental planeにはintersegmental veinが走行しているため,どの段階で肝離断面に右肝静脈が出現するか,どの地点でV6やV7を切離するか(図1b)を確認しておく.
 本術式のおもな適応疾患は,原発性および転移性肝癌であるが,生体肝移植ドナー手術として行われることもある.本術式は基本手技の組み合わせで構成されるが,肝離断面が広く,確実な止血技術が求められる.また,疾患によって肝門部脈管処理や肝静脈の取り扱いが異なる場合がある.
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肝中央2区域切除術

著者: 渡邉元己 ,   有田淳一 ,   長谷川潔

ページ範囲:P.210 - P.213

 肝中央2区域切除術は,肝内側区域・前区域を切除し,肝門が広く露出する術式である.適応は,肝内側・前区域に位置する肝細胞癌,肝内胆管癌,転移性肝癌,肝浸潤を伴う胆囊癌などで,肝門浸潤を伴わないものとする.大きな腫瘍を伴う症例で適応となることが多い術式のため,切除肝実質は少なく,予定残肝機能は問題とならないことが多いが,当科では術前のICG検査を中心に残肝予備能を評価し,適応を決めている.

肝亜区域切除術

著者: 松木亮太 ,   新井孝明 ,   小暮正晴 ,   鈴木裕 ,   阪本良弘

ページ範囲:P.214 - P.222

 肝の亜区域切除術(subsegmentectomy)は,Healey & Schroyが1953年に出版した論文で定義した肝区域(外側区域,内側区域,前区域,後区域)より小さな区域の切除が困難と考えられていた1980年代初頭,当時国立がんセンター病院に所属していた幕内がCouinaudの8区域およびそれ以下の区域を,術中超音波(intraoperative ultrasonography:IOUS)や門脈枝の染色法を用いて切除した方法が始まりである1).例えば,CouinaudのS8領域を染色し,過不足なく切除する術式を肝S8の亜区域切除と定義した.その後,肝臓外科医の中で,lobectomy(葉切除)とhemihepatectomy(半肝切除)の異同や,Couinaudの定義したS1〜S8(9)の第3次分枝の区域と,前区域や後区域などの第2次分枝の区域の異同を整理する必要性が生じた.そこで,オーストラリアのBrisbaneにおいて,肝区域を呼称する用語を統一させるための国際会議「Brisbane 2000」が開かれた2).Couinaudの9つの3次分枝区域はsegment,前区域や後区域などの2次分枝区域はsectionまたはsectorと定義された.したがって,この会議以降は,segmentectomyとはCouinaudの区域切除を指すことになったのである.一方,subsegmentectomyの切除範囲はBrisbane 2000では定義されていない.一般に「肝系統的亜区域切除」といえば,CouinaudのS1〜S8やそれに満たない小区域を門脈枝の染色領域やグリソンを遮断後の阻血領域を切除する方法で,解剖学的切除(anatomical resection)とほぼ同義として使われていると筆者らは理解している.本稿では,以降,一般には肝亜区域切除と認識されている解剖学的な肝区域切除の方法について詳述する.
 解剖学的区域切除の適応となるのは,経門脈的に肝内転移を起こすと考えられている肝細胞癌や,肝区域の系統的切除が必要とされる肝内胆管癌や転移性肝腫瘍などの腺癌病変である.切除する区域の範囲は,腫瘍の大きさ,位置,脈管への浸潤の有無などの腫瘍条件と,インドシアニングリーン(ICG)検査から予測される安全な肝切除許容量から決定する.
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7.胆・膵

腹腔鏡下胆囊摘出術

著者: 倉田昌直

ページ範囲:P.224 - P.231

Step1 術前準備(MRCPまたはDIC-CTによる胆道走向の確認)
 腹腔鏡下胆囊摘出術の手術手技の標準化は,およそ0.5%の発生率がある胆道損傷をいかに防ぐかが目的であるといっても過言ではない.胆道損傷を引き起こす様々な原因の一つが副肝管などの胆道走向形態であるため,術前のmagnetic resonance cholangiopancreatography(MRCP)検査による胆管走向の確認は必須である.図1aの矢印は後区域胆管枝を示すが,このような門脈の頭側を弧を描くように走向せず,門脈の尾側を直線的に総肝管に向かって走向する南回り胆管枝の有無に着目した胆道走向の確認が大切である1).図1b左のように後区域胆管枝に胆囊管が合流したり,図1b右,図1cのように胆囊管に後区域胆管枝が合流するような胆道走向形態では,矢印の部分で胆囊管と思って切離した際に後区域胆管枝を損傷してしまうことになるが,これら副肝管の症例はほぼすべて南回り胆管枝であるからである(図1c).ただ,これら副肝管を有する症例であっても,後述する適切なStepを踏むことで胆道損傷のリスクは大幅に減少する.
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胆囊亜全摘術—Mirizzi症候群を含む

著者: 川﨑洋太 ,   伊地知徹也 ,   飯野聡 ,   又木雄弘 ,   蔵原弘 ,   大塚隆生

ページ範囲:P.233 - P.237

Step1 開腹適応,開腹方法
 胆囊摘出術の標準治療は腹腔鏡下胆囊摘出術(laparoscopic cholecystectomy:LC)で,国内では広く一般的に施行されている.Tokyo Guidelines 2018(TG18)では,Calot三角の適切な展開を行い,これをランドマークとして視認したときに,同部に剝離不能な瘢痕化や線維化がありcritical view of safety(CVS)が得られない場合,回避手術(bailout procedure)を考慮すべきとされている1).Bailout procedureとしてopen conversionとsubtotal cholecystectomyが記載され,bile duct injury(BDI)を減少させるとしている.しかし,bailout procedureとしてopen conversionを選択したとしても,高度炎症例では熟練した外科医でも操作に難渋し,BDI回避のために開腹でのsubtotal cholecystectomyを選択せざるを得ない状況に遭遇することもある.Open conversionの場合の皮膚切開は上腹部正中切開のみで視野確保できることが多いが,上腹部手術既往がある場合や高度肥満例ではその限りではなく,上腹部正中切開に肋骨弓下切開の追加が必要になる場合もある.多くの場合,腹腔鏡下アプローチで手術が開始され,腹腔内を確認していることが想定されるので,腹腔内の状況に応じて十分な視野が確保できるように皮膚切開を選択しなければならない.Open conversionでbailout surgeryを選択するような症例は敗血症を伴っていることも少なくなく,短時間で副損傷を起こさずに手術を終了させる必要がある.
 症例をシェーマで示す.図1の症例はlaparoscopic cholecystectomyで手術開始したが,胆囊周囲の癒着が高度であったためopen conversionとした.上腹部正中切開のみでは術野展開困難と判断し,上腹部小切開に右肋骨弓下切開を追加し開腹している.
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肝門部胆管癌に対する尾状葉切除を伴う肝拡大左葉切除術+胆管切除再建

著者: 貞森裕 ,   日置勝義 ,   門田一晃 ,   高倉範尚

ページ範囲:P.239 - P.248

Step1 膵頭後部リンパ節(No. 13)郭清および膵上縁での総胆管切離
 上腹部正中切開で開腹し,腹膜播種や肝転移などの非治癒因子がないことを確認する.まずKocherの授動術を行い,下大静脈前面を左腎静脈根部まで広範に露出しておく.肝十二指腸間膜尾側前面の漿膜を十二指腸下行脚から球部に向けて切開し,十二指腸壁からの小静脈枝を数本切離する(図1a).次いで,膵頭部組織と前上膵十二指腸動脈を確認しながら損傷しないように露出し,No. 13リンパ節とその周囲脂肪織を鑷子で牽引して剝離していく.膵頭部組織の輪郭が確認できた時点で,肝十二指腸間膜尾側背面の漿膜を門脈本幹の背側に向けて切開する.背側の膵頭部組織を露出しながら,No. 13リンパ節とその周囲脂肪織の郭清を左側に進めていくと,膵上縁の総胆管右側壁に到達できる.さらに前上膵十二指腸動脈を胃十二指腸動脈根部に向けて剝離・露出していくと,その背側右側に膵上縁の総胆管左側壁を視認できるようになる(図1b).同部で総胆管をテーピングした後に離断し,内視鏡的逆行性胆道ドレナージ(ERBD)あるいは内視鏡的経鼻胆管ドレナージ(ENBD)を留置してある場合には,胆管ステントを抜去する.肝側胆管には胆汁ドレナージチューブを留置し,切離断端は術中迅速病理検査に提出する.
 このステップでのポイントは,①膵頭部組織が腹側から背側に向けて彎曲していることを意識して郭清操作を進めること,②膵頭部組織や総胆管周囲の小静脈分枝からできる限り出血させないこと,③肝十二指腸間膜尾側背面の漿膜を膵頭部組織の輪郭が確認できた時点で早めに切開すること,である.
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膵頭十二指腸切除術

著者: 長井美奈子 ,   中川顕志 ,   西和田敏 ,   寺井太一 ,   北東大督 ,   安田里司 ,   吉川高宏 ,   松尾泰子 ,   庄雅之

ページ範囲:P.249 - P.257

Step1 開腹,大網切開
 上腹部正中切開で開腹する.肝円索は通常,患者右側で腹膜を切開し,常時切離せずに温存している.悪性疾患の場合は,小開腹にて,腹膜,小腸間膜,肝を精査し,非切除因子の有無を入念に検索する.非切除因子がないことを確認できれば,創を剣状突起から臍付近まで延長させる.創感染防止および開創目的にAlexis®ウーンドリトラクター(Applied Medical)を装着し,Kent式吊り上げ開腹鉤で術野の展開を図る.肝円索を温存しているとウーンドリトラクターを装着した際に,自然と肝臓が頭側に牽引され,肝臓鉤による肝の牽引が不要となる.ただし,肝円索温存により肝臓に過度な圧排や負担がかかる場合には,円索は切離したほうが安全である.
 第一助手に胃を頭側に挙上,第二助手には横行結腸を尾側方向に牽引してもらい,大網を切開し,網囊を開放する(図1).大網切離時は右胃大網動静脈に近づき過ぎないように留意し,右胃大網動静脈の外側を切開する.膵前面が十分に確認できる程度まで,大網を患者左側に切開を進めておく.右側は胃結腸間膜後葉と横行結腸間膜前葉とが生理的癒着をしているため,層を確認しながら胃結腸間膜を切開し,十二指腸壁近傍まで進めておく.膵下縁を慎重に剝離し,上腸間膜静脈(SMV)の前面を確認しておく.SMVに流入する静脈を慎重に剝離して,胃結腸静脈幹(GCT)を確認し,過度な緊張がかかることが危惧される症例などの場合には,GCTに流入する右胃大網静脈をこの時点で結紮切離する.
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膵体尾部切除術±脾臓摘出術

著者: 山本智久 ,   里井壯平 ,   山木壮 ,   橋本大輔 ,   廣岡智 ,   関本貢嗣

ページ範囲:P.258 - P.262

Step1 開腹〜網囊の開放
 上腹部正中切開にて開腹を行う.悪性疾患または悪性疾患疑いに対する手術のときは,腹腔内を十分に観察し,遠隔転移の有無を確かめる.肝円索は臍から約3 cmの部位で切離し,腹壁から肝臓に向かって剝離する.肝円索を長く剝離し挙上することにより,肝十二指腸間膜および総肝動脈領域の術野展開となり,また後述する膵断端周囲を被覆することにより,膵液瘻関連合併症予防につながると考えている.
 次に,脾臓の後面にミクリッツガーゼを1枚挿入し,脾臓を前面に誘導する.網囊を開放する際に大網牽引による脾臓の被膜損傷を予防する目的と,胃脾間膜を切離する際の短胃動静脈の処理が容易になるという利点がある.
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8.ヘルニア

鼠径部ヘルニア—メッシュプラグ法

著者: 山田裕宜 ,   蜂須賀丈博

ページ範囲:P.264 - P.271

Step1 鼠径部における横筋筋膜,腹膜前筋膜の解剖の理解
 まず初めに,メッシュプラグ法において特に重要な鼠径部の膜の解剖について解説する.横筋筋膜と腹膜の間には腹膜前筋膜浅葉・深葉が存在し,その両膜の間がプラグを挿入するべき腹膜前腔である(図1a).下腹壁動静脈は,横筋筋膜と腹膜前筋膜浅葉の間を走行する.内鼠径輪において,全周性に腹膜前筋膜浅葉を切開し,腹膜前腔を広く剝離することが再発防止において非常に重要である1)(図1b).この2層の膜の剝離が不十分であると,プラグの固定が不十分となり,逸脱や変位による再発の原因となりうる.逆に,剝離が完全であるとほとんど固定の必要もない.
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鼠径部ヘルニア—TAPP法

著者: 山本海介 ,   春田英律 ,   北川美智子 ,   関洋介 ,   笠間和典 ,   梅澤昭子

ページ範囲:P.272 - P.280

 腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術は,TAPP,TEPともに両側上肢を脇につけた仰臥位とする.頭低位,患側対側にローテーションをした体位とする.術者は健側に,助手(スコピスト)は,健側でも患側でも術者の好みで決めてよい.
 トロッカー配置は,他書1)を参照されたい.
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鼠径部ヘルニア—TEP法

著者: 山本海介 ,   秋山岳 ,   春田英律 ,   北川美智子 ,   関洋介 ,   笠間和典 ,   梅澤昭子

ページ範囲:P.282 - P.289

 腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術は,TAPP,TEPともに両側上肢を脇につけた仰臥位とする.頭低位,患側対側にローテンションをした体位とする.術者は健側に,助手(スコピスト)は,健側でも患側でも術者の好みで決めて良い.
 トロッカー配置は,他書1,2)を参照.
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腹壁瘢痕ヘルニアに対する腹腔鏡下手術

著者: 梅邑晃 ,   須藤隆之 ,   藤原久貴 ,   新田浩幸 ,   佐々木章

ページ範囲:P.290 - P.296

Step1 トロッカー配置と準備
 腹腔鏡下腹壁瘢痕ヘルニア手術では,前回の手術創,手術施行部位,術後合併症などによる癒着要因の追加,肋骨弓や恥骨・膀胱などの解剖学的特性を意識したトロッカー配置が求められる(図1).腹腔鏡下腹壁瘢痕ヘルニア手術の中で現在広く行われているのは,intrapaeritoneal onlay mesh(IPOM)法に腹壁閉鎖を加えたIPOM-plus法であるが,体腔内縫合やタッカーによるメッシュ固定を効率的に行うためには,ヘルニア門よりなるべく遠位にトロッカーを配置する必要がある1).われわれは,第1トロッカーの挿入部位を前回の手術創,手術施行部位の対側を原則とし,ヘルニア門外縁から可能な限り外側(鎖骨中線よりも外側)を目安にしている.下腹部に限局した腹壁瘢痕ヘルニアであれば,正中でも問題ないが,メッシュ固定時に肝円索の処理が必要となる症例もあるため,肋骨弓下から第1トロッカーを挿入することが多い.
 IPOM-plus法では,基本的に3本のトロッカーを同側に置くことを常に意識することが肝要である.トロッカーを対側に置いた場合には術中操作の段階で必ずミラーイメージとなり,鉗子,デバイスや縫合操作などを誤ると術中合併症に直結しかねない.あらゆる腹壁瘢痕ヘルニアに対しても確実なIPOM-plus法を行うためには,トロッカー配置は極めて重要な要素である(図2).
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食道裂孔ヘルニア—腹腔鏡下噴門形成術

著者: 矢野文章 ,   坪井一人 ,   星野真人 ,   山本世怜 ,   秋元俊亮 ,   増田隆洋 ,   坂下裕紀 ,   福島尚子 ,   小村伸朗

ページ範囲:P.297 - P.302

Step1 患者体位とトロッカー挿入位置
 モニターは患者頭側に設置し,術者は患者右側,助手は患者左側,スコピストは脚間に立つ.患者の体位は仰臥位・開脚位とし,約20°の頭高位として手術台を術者側に軽度傾ける.開腹法にて臍部に12 mmカメラポートを挿入し,CO2 10 mmHgにて気腹する.腹腔鏡ガイド下に右鎖骨中線上季肋下に5 mm(術者左手用),左鎖骨中線上季肋下に12 mm(術者右手用),左前腋窩線上側腹部に5 mmのトロッカー(助手用)を挿入する(図1).最後に肝外側区域挙上用のリバーリトラクターを心窩部より挿入する.また,われわれは肝を愛護的に保護するために,10 mmのペンローズドレーンを用いてリトラクターを被覆している1)
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目次

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