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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科76巻13号

2021年12月発行

雑誌目次

特集 Conversion surgeryアップデート

ページ範囲:P.1455 - P.1455

 固形癌の多くは切除のみが長期生存のための治療法です.しかし,初診時に切除不能と診断される患者さんが多いのも事実です.近年の薬物治療の進歩により,初診時に切除不能と診断されても切除が可能になる症例の経験が増えてきました.そのような症例が蓄積されることによって,conversion surgeryの適応やconversionが期待できる症例,また術後のピットフォールが見えてきました.本特集号では,conversion surgeryを多く経験する施設から,最新の治療成績について解説していただきました.

総論

Conversion surgeryのために外科医が知っておきたいリキッドバイオプシーとゲノム検査の最新知識

著者: 小林信 ,   中村能章 ,   後藤田直人 ,   吉野孝之

ページ範囲:P.1456 - P.1462

【ポイント】
◆ctDNAによるゲノム解析は,組織生検の侵襲性や空間的・時間的不均一性などを克服し,腫瘍の全体像を包括的に把握しうる.
◆ctDNAを用いた臨床開発としては,切除不能例に加え,切除例でも微小残存病変の検出や治療などが進んでいる.
◆ctDNA検査は,conversion surgeryの適応や時期の最適化に寄与する可能性がある.

がん種別の最新動向

食道癌に対するconversion surgery

著者: 牧野知紀 ,   土岐祐一郎

ページ範囲:P.1464 - P.1469

【ポイント】
◆Conversion surgery(CS)とは,切除不能病変が導入療法によりdown stagingし画像上切除可能と判断された場合に行う手術を指し,salvage surgeryとは近い概念だがいくつかの相違がある.
◆気管・大動脈へのT4診断には特徴的なCT画像所見があり,また同時に,気管支鏡やPET・MRIなど,ほかのモダリティーも併用した総合的な診断が重要である.
◆cT4b食道癌において,化学放射線療法や3剤化学療法による導入治療後に根治切除が達成できれば比較的良好な予後が期待できるというエビデンスが本邦から出されつつある.
◆食道癌に対するsalvage手術においては,気管血流の温存,再建臓器への放射線の影響,胃管気管瘻の予防などに留意する必要がある.

胃癌に対するconversion surgery

著者: 山口和也 ,   吉田和弘 ,   奥村直樹 ,   安福至 ,   末次智成

ページ範囲:P.1470 - P.1477

【ポイント】
◆胃癌に対するconversion surgeryとは,多臓器転移などによりR0手術が不可能と判断されたcStage Ⅳに対して,化学療法によりR0手術が可能と判断されるまで奏効し,治療方針を外科的介入(surgical intervention)にconvertするものである.
◆Conversion surgeryの適格規準は,以下の3点が挙げられる.①1次治療により一定の抗腫瘍効果が得られている.②1次治療による奏効が維持され増悪傾向がない.③R0手術が可能と判断できる.
◆Conversion surgeryは術後合併症の頻度の検討から比較的安全に行うことが可能で,治療成績の検討からR0手術の達成により飛躍的な予後改善が期待できる.

局所進行直腸癌に対する術前治療戦略

著者: 植村守

ページ範囲:P.1478 - P.1484

【ポイント】
◆直腸癌治療の大原則は直腸間膜全切除(TME)であるが,治癒切除困難な局所進行直腸癌に対しては,術前治療が不可欠な要素となる.
◆高度局所進行直腸癌の多くが他臓器合併切除により根治的切除が可能となるが,個々の状況に応じて,安全な切除が難しい場合には,相対的切除不能例として有効な術前治療を組み合わせることが肝心である.

肝細胞癌に対するconversion肝切除

著者: 多田正晴 ,   波多野悦朗 ,   岡本共弘 ,   河端悠介 ,   奥野将之 ,   鯉田亜美 ,   岩間英明 ,   鳥口寛 ,   末岡英明 ,   飯田健二郎 ,   中村育夫 ,   藤本康弘

ページ範囲:P.1486 - P.1491

【ポイント】
◆高度進行肝細胞癌に対しては,単一の治療では十分な治療効果が得られにくく,集学的治療アプローチが必要である.
◆従来,術前治療として肝動注を施行してきたが,最近は,REFLECT試験で高い奏効率が報告されたレンバチニブによる術前治療も施行している.実際に当科で14例のコンバージョン肝切除(HAIC後2例,レンバチニブ投与後12例)を経験したが,いずれも安全に葉切除以上の肝切除が施行可能であった.
◆今後,至適な術前治療法および切除の適応やタイミングを確立する必要があるものの,当初切除不能であっても,drug free, cancer freeを目標に,治療経過中,常に切除の可能性を念頭におく必要があると考えられる.

転移性肝癌に対するconversion surgery

著者: 松木亮太 ,   新井孝明 ,   吉田智幸 ,   小暮正晴 ,   鈴木裕 ,   阿部展次 ,   須並英二 ,   阪本良弘

ページ範囲:P.1492 - P.1497

【ポイント】
◆転移性肝癌に対するconversion surgeryは大腸癌肝転移を中心に施行されているが,その適応は限定的である.
◆大腸癌肝転移に対するconversion surgeryの技術的・腫瘍学的切除適応に統一した基準はない.
◆安全かつ確実なconversion surgeryの施行には,CT・MRI検査や術中超音波を駆使した術前・術中の正確な腫瘍の診断と,術前肝機能評価を含めた綿密な手術計画の立案が重要である.
◆大腸癌肝転移に対するconversion surgery後の長期生存率は比較的良好であり,奏効率の高い化学療法を用いた集学的治療が今後も期待される.

肝内胆管癌に対するconversion surgery

著者: 野路武寛 ,   田中公貴 ,   松井あや ,   中西善嗣 ,   浅野賢道 ,   中村透 ,   土川貴裕 ,   岡村圭佑 ,   平野聡

ページ範囲:P.1498 - P.1504

【ポイント】
◆肝内胆管癌の非切除適応は,患者因子・局所進展度などにより決定されるが,リンパ節転移・局所進展度に対する画像診断所見の正診率は低い.
◆胆道癌および肝内胆管癌に対するconversion surgery術後の長期成績は良好である可能性が報告されているが,エビデンスは確立されていない.
◆肝内胆管癌に対するconversion surgeryの安全性は確立しておらず,適応は慎重であるべきである.

局所進行肝門部領域胆管癌に対する化学療法後の外科切除の安全性と有効性

著者: 細川勇 ,   古川勝規 ,   高屋敷吏 ,   久保木知 ,   高野重紹 ,   鈴木大亮 ,   酒井望 ,   三島敬 ,   小西孝宜 ,   西野仁恵 ,   大塚将之

ページ範囲:P.1505 - P.1512

【ポイント】
◆R0切除困難な局所進行肝門部領域胆管癌に対して,化学療法を施行し,化学療法が一定の効果を示した症例に対して積極的に外科切除を行うという治療戦略は,安全であり予後改善に寄与する可能性がある.
◆R0切除が困難と判断する基準や,化学療法が奏効しR0切除が可能と判断する基準が,施設volumeによって大きく異なる可能性がある.
◆肝門部領域胆管癌に対するconversion surgeryに関しては不明瞭な点が多く,その安全性や有効性を前向きに検討していくことが重要である.

胆囊癌に対するconversion surgery

著者: 水野隆史 ,   尾上俊介 ,   江畑智希

ページ範囲:P.1514 - P.1520

【ポイント】
◆切除不能胆囊癌に対するconversion surgeryは少数例での後方視的検討にとどまっており,確立された治療strategyではない.
◆進行胆囊癌の外科治療において,局所進展における切除不能の判断には一定のコンセンサスがなく,施設間で異なっている.
◆化学療法後に切除を検討するconversion surgeryは,borderline resectable胆囊癌に対する治療strategyとして有効である可能性がある.

局所進行膵癌に対するconversion surgery

著者: 川井学 ,   山上裕機

ページ範囲:P.1521 - P.1526

【ポイント】
◆切除不能局所進行膵癌に対するconversion surgeryは,集学的治療が奏効し治癒切除が可能と考えられる患者の治療選択肢の一つである.
◆本邦の多施設共同研究では,conversion surgeryまでの先行治療を8か月以上行った患者では有意に予後が改善したと報告している.
◆Conversion surgeryの手術適応,先行治療の至適レジメンや動脈合併切除の意義など,解決しなければならない課題は多い.

転移性膵癌に対するconversion surgery

著者: 山本智久 ,   里井壯平 ,   山木壮 ,   橋本大輔 ,   廣岡智 ,   関本貢嗣

ページ範囲:P.1528 - P.1535

【ポイント】
◆膵癌は難治癌であるが,その要因の一つとして,初診時に遠隔転移を有しているために切除不能(UR-M)と診断されることが挙げられる.治療は化学療法が中心となるが,化学(放射線)療法が奏効し根治切除可能と判断され,conversion surgery(CS)が行われた報告が散見されるようになった.
◆CSの適応について確立されたものはないが,局所進行膵癌(UR-LA)に対するCSと同様に,UR-Mに対するCSの治療成績も比較的良好であると報告されている.
◆レジメン,治療期間に加え,遠隔転移の評価をどのように行うかなど課題は多いが,適切に行えば長期生存が期待できる可能性があり,今後研究が進むことを期待する.

神経内分泌腫瘍に対するconversion surgery

著者: 工藤篤 ,   村瀬芳樹 ,   赤星径一 ,   浅野大輔 ,   石川喜也 ,   小川康介 ,   小野宏晃 ,   田邉稔

ページ範囲:P.1536 - P.1541

【ポイント】
◆神経内分泌腫瘍の肝転移(NELM)における術前補助療法(NAC)の対象はNET-G3とNECとされている.
◆NACで使う薬剤はNET-G3がテモゾロミド(ストレプトゾシン)ベース,プラチナベース,放射性核種標識ペプチド療法(PRRT)などが候補と考えられている.
◆スニチニブを用いたconversion surgeryで良好な成績が報告された.
◆機能性腫瘍はNELMの絶対的手術適応であり,薬物ではホルモン症状のコントロールが困難である.

坂の上のラパ肝・胆・膵・23

脾臓摘出術

著者: 大目祐介 ,   本田五郎

ページ範囲:P.1543 - P.1552

Point
◆左肩甲挙上砕石位をとり,頭高位・左側高位に傾斜することで左横隔膜窩(脾臓)を高位にした術野を確保する.
◆脾結腸間膜を切離して結腸脾彎曲部を尾側に引き下げることで,膵尾部と脾臓の周囲に広い術野を確保する.
◆脾動脈を全周確保しやすい場所で先行結紮する.脾門で行う必要はない.
◆脾臓ではなく膵尾部を授動してテーピングする.そのテープを右側に牽引することで脾門部を伸展し,脾門の剝離操作を行う.
◆脾門部は自動縫合器で一括切離する.

病院めぐり

函館厚生院函館五稜郭病院 外科

著者: 高金明典

ページ範囲:P.1553 - P.1553

 函館五稜郭病院は,全国的に有名な五稜郭公園のすぐ目の前にある病床数480床の急性期病院です.日本医療機能評価機構認定病院,臨床研修指定病院,地域がん診療拠点病院,がんゲノム医療連携病院などに指定されています.設立は1950年で,昨年70周年を迎えました.2021年4月現在で標榜27科,総職員数1,052名,常勤医数117名になります.さらに初期臨床研修医24名,後期臨床研修医7名が研鑽を積んでいます.「安心,信頼,満足を患者さんと地域に」を理念に,がん治療と救急医療を中心に地域貢献に努めております.周辺地域の人口減少とコロナ禍による受診控えにもかかわらず,2020年の入院患者数は14万3千人で,平均在院日数は11.0日でした.総手術件数は5,751件でしたが,2020年4〜6月にかけて新型コロナウイルス感染対策のため手術制限を行った影響もあり,例年より300件ほど少ない件数でした.
 当科は常勤医11名,非常勤2名で消化器外科,乳腺外科,腹部救急外科を中心に診療しています.日本外科学会専門医制度修練施設,日本消化器病学会専門医制度認定施設,日本消化器外科学会専門医修練施設,日本食道学会食道外科専門医認定施設,日本乳癌学会認定医専門医制度関連施設,日本肝胆膵外科学会高度技能専門医制度による修練施設B認定,日本内分泌外科・日本甲状腺外科学会専門医制度認定施設,日本癌治療認定医機構認定研修施設であり,各種認定医,専門医,指導医取得が可能です.当科は臨床のみならず学術研究にも力を入れており,全国学会での発表や論文投稿も盛んに行われています.また,全国規模多施設共同研究へ積極的に参加しており,JCOG胃がんグループ,JACCROやCSPOR-BCなどを中心に活動しています.2020年,当科の手術件数は1,309件(全身麻酔1,136件)で,そのうち563件は鏡視下手術でした.主な疾患は乳腺疾患190件,食道疾患25件,胃疾患80件,胆膵腫瘍32件,胆石症96件,肝腫瘍26件,大腸疾患267件,ヘルニア(鼠径,腹壁他)159件でした.当院は道南で唯一ロボット手術が可能な施設であり,胃癌に対するロボット支援下手術は2014年から行っています.また,JCOG胃がんグループのロボット手術に関する多施設共同研究(JCOG1907)にも参加中です.2021年5月からは直腸癌のロボット支援下手術も開始しました.手術が多く忙しい毎日ですが,当院では働き方改革に積極的に取り組んでおり,当直明けの午後休暇や夏休み等の有給休暇取得を促進しています.

FOCUS

「胆道癌取扱い規約 第7版」改訂のポイント

著者: 佐野圭二

ページ範囲:P.1554 - P.1557

はじめに—胆道癌取扱い規約の歴史
 2021年3月に胆道癌取扱い規約(以後,当規約)が7年4か月ぶりに改訂された1).今回が第7版とその改訂が重ねられてきたが,第1版は今からさかのぼること約40年前,1981年4月に出版された.その後,第2版(1986年4月),第3版(1993年1月),第4版(1997年9月),第5版(2003年9月)と改訂が行われ,前回の第6版改訂は2013年11月であった.
 各改訂作業は,わが国の胆管癌の罹患数の多さに加えてすぐれた胆道外科医・病理医の情熱により,緻密な手術と病理診断,そして全国的な胆道癌登録による予後調査を基として日本独自に行われてきた.病理診断の細分化,複雑化が進むにつれ,実用性と汎用性を重んじるUICC(Unio Internationalis Contra Cancrum)のTNM分類との乖離が進み,わが国の胆道癌の優れた治療成績にもかかわらず国際舞台での発言力が弱まってしまった.そこで前回の当規約第6版2)では,それまでの日本独自の規約を定めていた当規約から,UICC第7版3)にほぼ準拠し,肝外胆管の区分,局所進展度,リンパ節転移,進行度分類,根治度評価などを分類したことで大きく変化した.

臨床報告

PDT施行後の胸部食道癌遺残に対しサルベージ手術を施行した1例

著者: 長谷川巧 ,   鈴木浩輔 ,   衛藤剛 ,   板井勇介 ,   柴田智隆 ,   猪股雅史

ページ範囲:P.1558 - P.1562

要旨
患者は50代,男性.胃癌に対する胃全摘術後の上部消化管内視鏡検査で胸部上部食道癌を認め,cT1bN0M0 Stage Ⅰと診断した.手術を勧めたが希望されず,根治的化学放射線療法(CRT)を施行した.CRT後の局所遺残に対し,患者希望によりphoto dynamic therapy(PDT)を施行した.PDT 2か月後に局所遺残を認め,食道部分切除術を施行した.食道口側は鎖骨,肛門側は大動脈弓の高さで食道を切除し,遊離空腸再建を行った.食道周囲組織はPDTを含めた集学的治療の影響で,硬く線維化を認め,さらに主病変の外膜側に気管との強固な癒着を認めるも,安全に剝離は可能であった.PDT後のサルベージ手術の報告はほとんどなく,PDT後であっても根治を目指したサルベージ手術は有用な選択肢となりうる.

小腸内に多量に残存した錠剤が誘因になったと考えられる胃全摘後腸閉塞の1例

著者: 山岸徳子 ,   中村威 ,   石井政嗣 ,   星川竜彦 ,   次田正 ,   仲丸誠

ページ範囲:P.1563 - P.1566

要旨
患者は71歳,女性.2週間続く嘔吐を主訴に当科受診.CTで小腸拡張と内容貯留に加え,小腸の閉塞起点に多量の錠剤が描出.胃全摘の既往あり,術後癒着性イレウスが疑われた.保存的治療で軽快せず,第14病日に小腸バイパス術施行.術後経過良好にて,第23病日に退院した.画像所見と手術所見から,Y脚吻合部口側10 cm部分に癒着による狭窄部があり,ここに錠剤が嵌頓してイレウスを起こしたと考えられた.摘出錠剤の形状と内服歴の聴取により,錠剤は正露丸®であることが判明.正露丸®が腸管内に残存した原因検索のため,日本薬局方崩壊試験法に則り,正露丸®溶解実験を行った.本症例の経過と実験結果に,文献的考察を含めて報告する.

書評

—三毛牧夫(著)—外科基本手技とエビデンスからときほぐすレジデントのためのヘルニア手術

著者: 三澤健之

ページ範囲:P.1485 - P.1485

 本書は『正しい膜構造の理解からとらえなおす ヘルニア手術のエッセンス』(医学書院,2014)に続く,著者のヘルニアに関するテキストブックの第二弾である.といっても,本書は著者自身が述べているように,前著で得たヘルニアに関する知識を基に,明日,明後日に予定された手術を成功させるための実践的解説書である(著者は「超実践的」と表現している).
 男性鼠径ヘルニア16章,女性鼠径ヘルニア3章,計19章からなる本書には,手洗い,術野の消毒,ドレーピング,術者の立ち位置,皮膚切開の考え方,手術器具の持ち方・使い方,手術糸の選択,などの基本的事項から,ヘルニア手術のための膜構造や実際の手術手技まで豊富な内容が含まれている.また,著者からのコメント(著者の似顔絵に吹き出しで記載されている)として,一般的な教科書には書かれていない,ちょっとした工夫や注意点がふんだんに盛り込まれている.外科専攻医を対象とした本書ではあるが,われわれ指導医にとっても,たくさんの「気付き」や「その通り!」があり,読み進みながら,ついつい大きくうなずいたり,相づちを打ったりしてしまった.前著同様,簡潔明瞭,ふんだんに盛り込まれたシェーマは大変わかりやすい.これだけ盛りだくさんでありながら,全172ページとコンパクトにまとめられているため,あっという間に,そして何より楽しく読み終えることができた.余談だが,第1章の「術野をつくる」では,剪刀(鋏)やメスの持ち方が丁寧に解説されている.その昔,私が研修医のころ,バイト病院に外科医仲間から鋏使いの名手とうたわれる大先輩がいた.技を盗むべく,いつも筋鉤を引きながら目を丸くして見入っていた私は,ある日,ふとその先生のCooper剪刀の持ち方の特徴に気付いた.本書にも記載されている通り,通常,剪刀の指環には第1指と第4指を通すが,先輩外科医は第4指の代わりに第3指を使っていたのだ.つまり一般人が家庭用ハサミを使うのと同じ.これこそ名人の秘訣に違いない,と思って,恐る恐る尋ねてみると,師曰く「え,そうなの? 知らなかったよ」の一言.そんな出来事を思い出した.

—吉村知哲,田村和夫(監修) 川上和宜,他(編)—がん薬物療法副作用管理マニュアル 第2版

著者: 柴田伸弘

ページ範囲:P.1542 - P.1542

 がん診療のチームにおいて,薬剤師の存在感は非常に大きなものとなっている.有能な薬剤師がいると診療は非常にスムーズになり,より高いレベルでのチーム医療が可能となる.われわれ腫瘍内科医の立場からすると薬剤師は医師と患者の架け橋のような存在であり,がん診療チームの要といっても過言ではない.本書の編集・執筆には現場で活躍する経験豊富な薬剤師,中でもエキスパートであるがん専門薬剤師が多く携わっており,非常に実戦的で読み応えのある内容になっている.
 本書の各論は主に症状・徴候から,原因となり得る薬剤と有害事象の頻度や好発時期・特徴,評価のポイント,対策のまとめが続く.各章の最初に「初期対応のポイント」,所々に「ひとことメモ」「Clinical Pitfalls & Pearls」があるのがうれしい.また,CTCAE以外のスケール,なかなか手元にないがん以外のガイドラインに関する記載は現場で役に立つことは間違いない.

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目次

ページ範囲:P.1452 - P.1453

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.1484 - P.1484

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1570 - P.1570

あとがき

著者: 遠藤格

ページ範囲:P.1572 - P.1572

 厳しかったコロナ第5波が急速に退潮し,ようやく一息つけました.診療抑制されていた先生方も今は忙しく手術をされていることでしょう.それにしてもこの急激な感染減少は不思議な現象ですね.結構ブレイクスルー感染もありましたから,ワクチン接種が功を奏したということだけで説明がつかないような気もします.ニューズウィーク誌によれば,ワクチン接種の先進国である米国では,9月をピークとして入院と死亡の数は減少傾向にあるとはいえ,10月上旬でも依然として新規感染件数は平均8万件/日だそうです.それでも米国は経済活動再開を重視する政策のようですね.予想では冬に第6波が襲来するようです.その次はいつなのか,ワクチン接種率の向上が鍵ではないでしょうか.先日,オンライン学会でイタリアの外科医と話をしたら,11月に3回目のワクチンを打つと言っていました.
 さて,先日,第25回日本外科病理学会(大塚将之会長)に出席しました.小生にとっては2020年2月の第53回制癌剤適応研究会以来の対面型での会合でした.久しぶりに向き合って質問や意見交換ができて,とても充実した時間を過ごすことができました.やはり対面は良いものだと思った次第です.もちろん,オンラインの良さ(移動に要する時間と費用を節約できる,混雑した会場で聞くよりもスライドが見やすいetc)をこれからも活かしていけると良いと思います.ハイブリッドにすると費用が約2倍になると言われています.乱暴な計算ですが,会場数をパンデミック前の半分にすればハイブリッドにしても運営可能だと思います.学会の規模(予算)に応じて,完全オンライン(100名未満)〜対面のみ(100〜200名)〜ハイブリッド(3000〜6000名)など使い分けても良いかもしれません.

「臨床外科」第76巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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