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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科76巻9号

2021年09月発行

雑誌目次

特集 血管外科的手技を要する肝胆膵・移植手術

ページ範囲:P.1057 - P.1057

 肝胆膵外科医は扱う臓器が大血管に隣接するという特性から,血管外科的な手技を要する手術が多い.門脈,肝静脈,下大静脈などの静脈系ばかりでなく,肝動脈,腹腔動脈,上腸間膜動脈などの動脈系における切除・再建は生命予後に深く関わる手技であり,適応は慎重で手技は正確かつ安全でなければならない.本特集では肝胆膵・移植外科領域で大血管を扱う代表的な術式について,第一線で活躍するエキスパートにその適応や手技,合併症対策についてまとめていただいた.

肝胆膵悪性腫瘍手術

門脈・動脈合併切除・再建を要する膵頭十二指腸切除

著者: 武田直也 ,   渋谷和人 ,   平野勝久 ,   渡辺徹 ,   五十嵐隆通 ,   魚谷倫史 ,   東松由羽子 ,   荒木達大 ,   荒木幸紀 ,   酒井彩乃 ,   谷口優希 ,   長森正和 ,   福田裕顕 ,   大賀瑶子 ,   橋本伊佐也 ,   北條荘三 ,   松井恒志 ,   奥村知之 ,   吉岡伊作 ,   藤井努

ページ範囲:P.1058 - P.1066

【ポイント】
◆門脈再建を行う場合には,吻合部への過度な緊張や捻じれ,屈曲は,血行障害の原因となるため十分に留意する.
◆門脈再建時は,アンスロン®カテーテルバイパスを併用することで,より安全に施行可能となる.
◆長距離の門脈合併切除の際は,グラフト再建を考慮する.
◆動脈合併切除のエビデンスは明確ではないが,conversion surgery増加に伴い術式選択の一つとなり得る.

門脈・腹腔動脈合併切除・再建を要する膵体尾部切除(DP-CAR)

著者: 井上陽介 ,   髙橋祐

ページ範囲:P.1067 - P.1073

【ポイント】
◆膵体部局所進行癌に対する切除術式である腹腔動脈合併切除を伴う膵体尾部切除術(distal pancreatectomy with celiac axis resection:DP-CAR)は,局所のコントロールと臓器温存の両立を目指した術式である.
◆当科では,DP-CARの安全性担保のために,以下の3つのポイントに留意した術式となっている.①術中出血量の最小化:腹腔動脈根部への先行アプローチと流入血遮断,②左胃動脈(LGA)の血流確保:LGA根部と腫瘍進展との関係により,LGA温存もしくはLGA切除後再建,③膵液瘻の予防・マネジメント:空腸漿膜による膵断端パッチ縫着とconservativeなドレーン管理.
◆以上の工夫を遵守することで,各合併症を最小化し,zero mortalityを目指している.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2024年9月末まで)。

門脈本幹腫瘍栓に対する肝細胞癌手術

著者: 有泉俊一 ,   山本雅一

ページ範囲:P.1074 - P.1083

【ポイント】
◆肝細胞癌(HCC)の門脈腫瘍栓はHCCの最も進行した病態であり,余命は1年以内,門脈本幹腫瘍栓(Vp4)では6か月である.
◆肝癌診療ガイドラインでは脈管侵襲を伴うHCCに対し4つの治療(切除/塞栓/動注/分子標的薬)が推奨されているが,門脈本幹腫瘍栓(Vp4)では塞栓は禁忌であり,一部の薬物治療は推奨外である.
◆門脈腫瘍栓を伴うHCCに対する肝切除の生存率は,他治療の生存率より良好である.また根治切除例では,術後動注治療により生存率が改善する.
◆摘出不可能な門脈腫瘍栓には,新しい薬物療法とコンバージョン手術が期待できる.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2024年9月末まで)。

右房内腫瘍栓を有する肝細胞癌手術

著者: 赤星径一 ,   石川喜也 ,   浅野大輔 ,   上田浩樹 ,   小川康介 ,   小野宏晃 ,   工藤篤 ,   田中真二 ,   田邉稔

ページ範囲:P.1084 - P.1090

【ポイント】
◆下大静脈腫瘍栓・右房内腫瘍栓はoncologic emergencyの状態である.
◆Total hepatic vascular exclusion(THVE)と人工心肺の活用が右房内腫瘍栓を有する肝細胞癌手術を安全に施行するうえで重要である.
◆心臓外科,麻酔科,看護師,臨床工学技士など,多職種と綿密な連携をとって手術チームを構築する必要がある.

門脈・肝動脈合併切除・再建を要する肝門部胆管癌手術

著者: 杉浦禎一 ,   上坂克彦

ページ範囲:P.1092 - P.1101

【ポイント】
◆血管合併切除・再建は術前のCT(特に3Dアンギオ像)を用いて十分なプランニングをすることが重要である.
◆肝動脈・門脈合併切除を行うかの最終判断は術中に肉眼的に肝動脈・門脈への浸潤があると判断した場合に行う.
◆再建後の長さ・捻じれなどをイメージしながら血管を切離・鉗子での把持を行う.
◆吻合は運針に細心の注意を払い,一定のリズムで行う.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2024年9月末まで)。

肝静脈切除・再建を要する肝切除

著者: 真木治文 ,   金子順一 ,   長谷川潔

ページ範囲:P.1103 - P.1109

【ポイント】
◆肝静脈再建の適応を決定するためには,うっ血域を考慮した残肝容量の検討が必要.
◆安全に血行再建を行うために,十分な授動と肝静脈や下大静脈のテーピングを行う.
◆再建に用いる種々のグラフトの長所,短所について知っておく.
◆円滑な吻合操作のためには助手との連携が必須.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2024年9月末まで)。

移植手術

脳死全肝移植ドナー手術

著者: 川村典生 ,   武冨紹信

ページ範囲:P.1111 - P.1116

【ポイント】
◆脳死肝移植ドナー術者の最も重要なポイントは,その肝臓が“移植可能かどうか”予想される冷阻血時間を踏まえ決定することである.
◆クロスクランプ後,血流のない術野での摘出操作はオリエンテーションを失いやすいため,血流遮断前に脈管解剖を十分に把握しておくことが重要である.

脳死全肝移植レシピエント手術

著者: 吉住朋晴 ,   原田昇 ,   戸島剛男 ,   栗原健 ,   伊藤心二

ページ範囲:P.1117 - P.1123

【ポイント】
◆レシピエントがドナーに比し,著明に小さい場合,下大静脈は温存せず,肝上部・下部でグラフト下大静脈と吻合する.
◆門脈前壁吻合では,左端を助手が軽く牽引することで吻合部のアラインメントを直線化させる.
◆門脈に口径差がある場合,middle stitchをおくとよい.門脈吻合の際,助手が吻合の糸を強く引きすぎると門脈が巾着様になるので注意する.

生体肝移植—左葉グラフトの採取術とレシピエント手術

著者: 長谷川康 ,   尾原秀明 ,   北郷実 ,   阿部雄太 ,   八木洋 ,   北川雄光

ページ範囲:P.1124 - P.1130

【ポイント】
◆ドナー手術は,Glisson一括確保→肝離断→肝門部脈管剝離の順で行っている.
◆レシピエント手術における血行再建は定型化が可能であり,肝胆膵悪性腫瘍手術にも応用できる.
◆血行再建は定型化することで,糸がからむことなく,素早く確実に吻合できるようになる.

生体肝移植 右葉グラフト—腹腔鏡補助下ドナー肝切除とレシピエント手術

著者: 秦浩一郎 ,   伊藤孝司 ,   福光剣 ,   穴澤貴行 ,   小木曾聡 ,   影山詔一 ,   奥村晋也 ,   上本伸二 ,   波多野悦朗

ページ範囲:P.1131 - P.1139

【ポイント】
◆正中創から届かない外側の剥離・授動を腹腔鏡下に行い,脈管処理・肝実質切離を上腹部正中切開創から行う腹腔鏡補助下ドナー肝切除の手技を概説する.流入血行遮断は行わず,輸血・血漿分画製剤も使用しない.
◆レシピエントでは,自家(もしくはドナー由来)静脈グラフトを用いてバックテーブルで行うV5, V8再建(bench surgery)が本術式の要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2024年9月末まで)。

脳死膵移植ドナー手術

著者: 富丸慶人 ,   小林省吾 ,   後藤邦仁 ,   岩上佳史 ,   山田大作 ,   秋田裕史 ,   野田剛広 ,   土岐祐一郎 ,   江口英利

ページ範囲:P.1140 - P.1145

【ポイント】
◆脳死膵移植ドナー手術では,肝臓摘出チームなどの他の腹部臓器摘出チームと術前に打ち合わせを行う.
◆第3次評価では,膵臓の解剖学的異常,占拠性病変,膵管拡張,脂肪化・線維化の有無,破格の有無を含めた肝動脈などの血管の走行などを評価する.
◆膵臓採取は,膵臓を十二指腸,脾臓,両側腎臓とen blocに採取する形で行われる場合が多い.
◆臓器採取時には,採取予定臓器から少し離れた切離ラインを設定し,筋肉などの周囲組織とともに採取することを心掛ける.採取予定臓器だけでなく,小腸,結腸,尿管の損傷にも注意する.

脳死膵移植レシピエント手術

著者: 剣持敬 ,   伊藤泰平 ,   栗原啓 ,   會田直弘

ページ範囲:P.1146 - P.1151

【ポイント】
◆移植前の膵グラフトのトリミングの際,周囲組織は結紮またはリガシュアで切離し,血流再開後の出血量軽減を図る.
◆上腸間膜動脈からの灌流で,胃十二指腸動脈断端からの血流が良好である場合には,総肝動脈と,胃十二指腸動脈間のI-graftは不要である.
◆静脈吻合は血栓ができやすいので,外翻,末広がりとなるように縫合し,たるみや,ねじれのないように吻合する.

坂の上のラパ肝・胆・膵・20

腹腔鏡下総胆管切石術

著者: 大目祐介 ,   本田五郎

ページ範囲:P.1153 - P.1162

Point
◆術前画像で胆囊管が胆管に合流する位置を把握する.
◆SS-Inner layer(SS-I)を露出しながら三管合流部を同定する.
◆胆囊管を三管合流部に向けて縦方向に切開し,さらに連続して総胆管を斜切開する.
◆胆道鏡で胆管内を観察し,切石する.
◆切石後に十二指腸側と肝門側の胆管内を観察して遺残結石がないことを確認する.
◆胆囊管にC-tubeを留置して総胆管〜胆囊管切開部を連続縫合して閉鎖する.

FOCUS

ctDNAを利用した大腸癌の術後モニタリングによる治療確立をめざした大規模臨床試験(CIRCULATE-JAPAN)

著者: 沖英次 ,   竹政伊知朗 ,   加藤健志 ,   安藤幸滋 ,   三代雅明 ,   小髙雅人 ,   渡邉純 ,   山崎健太郎 ,   谷口浩也 ,   中村能章 ,   小谷大輔 ,   白数洋充 ,   由上博喜 ,   三島沙織 ,   衣斐寛倫 ,   山中竹春 ,   吉野孝之 ,   森正樹

ページ範囲:P.1163 - P.1166

背景
 血中微量遊離がん由来DNA(circulating tumor DNA:ctDNA)の有無で大腸癌術後症例を層別化し,薬物療法の選択に役立てる臨床研究(CIRCULATE JAPAN)が開始されている.
 大腸癌は根治手術が行われていても再発することがある.このため,手術時の病理学的ステージにより症例を層別化して術後補助療法が行われる.Stage Ⅲもしくは,再発リスクの高い一部のStage Ⅱの結腸癌では,術後に3〜6か月のmFOLFOX6(5-FU/ロイコボリン/オキサリプラチン)もしくはCAPOX療法(カペシタビン/オキサリプラチン)の併用療法が行われる.しかし術後補助療法に用いられるオキサリプラチンには,有害事象としての末梢神経障害が長期に持続することがある.また,術後補助療法の効果は決して満足できるものではなく,再発リスクを20%程度減少させるのみである.このため,病理診断とは独立して予後を予測するGenetic Signatureで再発リスクを評価し,薬物療法の選択の参考にする試みも行われてきた.米国臨床腫瘍学会(ASCO),欧州臨床腫瘍学会(ESMO)のガイドラインには,OncotypeDX. ColDX, Immunoscoreなどの遺伝子アッセイが紹介されている1,2).これらは,多変量解析でも病理診断とは独立した予後因子にはなるものの,周術期治療の選択基準に影響を与えるほどのインパクトがあるアッセイとはいえなかった.

臨床報告

回盲部腸重積症と診断し手術した虫垂子宮内膜症の1例

著者: 高橋彩乃 ,   稲田健太郎 ,   志水祐介 ,   高濱佑己子 ,   下園麻衣 ,   真栄城剛

ページ範囲:P.1167 - P.1172

要旨
虫垂子宮内膜症は腸管子宮内膜症の3%と比較的稀な疾患である.今回,われわれは回盲部腸重積症と術前診断し,手術を要した虫垂子宮内膜症の症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.症例は39歳,女性.ホルモン剤による不妊治療中,心窩部痛および右下腹部痛で救急外来を受診.CTにて回盲部腸重積症の診断となり,内視鏡的整復を試みた.横行結腸に重積先進部を認め,盲腸付近まで整復可能だったが,より口側の整復は困難であり,緊急手術の方針とした.術中所見では盲腸内に腫瘤を触知し,悪性腫瘍の可能性も考慮して回盲部切除術を施行した.摘出標本では,虫垂・盲腸ともに翻転し重積していた.病理は虫垂子宮内膜症の所見であった.虫垂子宮内膜症により肥厚し,翻転した虫垂を基軸として回盲部全体が重積を起こしていたと考えられた.

病院めぐり

高山赤十字病院外科

著者: 白子隆志

ページ範囲:P.1173 - P.1173

 高山赤十字病院は,日本のほぼ中央にあたる岐阜県北部飛騨地方の中心都市,高山市にあります.高山市は平成の大合併によって全国で一番広い面積の市となり,東京都の面積とほぼ同じです.二次医療圏の飛騨地域はその2倍ですが,人口は減少傾向にあり約14万人,高齢化率も33%(令和2年)に達しようとしています.北アルプスや古い街並み,世界遺産白川郷などに年間450万人の観光客(外国人55万人)が訪れ,外国の街と錯覚するくらい賑わっていましたが,新型コロナによって大きく変化しました.高山市は国際観光都市を表明していることもあり,姉妹都市であるアメリカ・デンバー市・コロラド大学への研修や,中国・麗江市から多くの医師の受け入れを10年前から継続してきました.日々の診療においても,多くの外国人患者を受け入れてきた経験から『医療現場ですぐに役立つ外国人患者対応マニュアル』(Medical View社)を出版しました.
 当院は,飛騨医療圏唯一の三次救急医療機関(救命救急センター)であるとともに,周産期,慢性期,福祉介護施設までの多機能を有する病院です.病院の歴史は古く,大正11年に前身の飛騨三郡立大野郡病院から日本赤十字社岐阜県支部斐太療院に移管され,現在創立98年を迎えています.医師数も臨床研修医を含めて70人と少ないため,診療科の垣根が低く,協力体制で日常診療,特に救急診療を行っています.2025年問題に向けた地域医療構想の影響で,394床からダウンサイズを行うとともに新病院建築計画を開始しましたが,この構想も新型コロナの経営面への影響を受け,現在一時凍結状態になっています.

書評

—三毛牧夫(著)—外科基本手技とエビデンスからときほぐす—レジデントのためのヘルニア手術

著者: 今村清隆

ページ範囲:P.1091 - P.1091

 2014年4月に前任の外科初期研修担当の指導医から引き継ぐにあたり,当時の外科部長と2人で全国にあるいくつかの有名研修病院の外科研修システムの見学に出かけた.同年1月に亀田総合病院を訪問した際にシミュレーションセンターを見学した.そこに,『Chassin's Operative Strategy in General Surgery, 4th edition』(Springer,2014)がさりげなく置いてあった.当時Surgeryと名がつく教科書を買い漁っていた自分以外に,“誰かがこの本を読んでいる”ことに驚いた.この本には無影灯の正しい使用法や,手術をする際の姿勢の重要性についてなど手術の基本についての細かい説明があったからだ.本書『外科基本手技とエビデンスからときほぐすレジデントのためのヘルニア手術』著者の三毛牧夫先生が当時,亀田総合病院の外科部長をされていたことを思い出し,本書でも個々の手術手技だけでなくもっと基本的なところから書かれている点が似ていると感じた.
 将来,後輩に外科を教える人は,必ず外科基本手技については一通り勉強してほしい.また,現在に至るまでの外科の歴史についても関心を持ち,後輩に自分の好み(Preference)だけではなく外科の原則(Principle)を教えるようにする必要がある.もちろんそれだけでは不十分で,本田宗一郎が「過去を大事にして,そればっかりにつかまっている人が職人だ.同じ過去でも,それに新しい理論を積み重ねて,日々前進する人が技術屋だ」と話していたように1),われわれも外科医として明日に向けて研鑽を重ねる必要がある.

—氏家良人(監) 木澤義之(編)—救急・集中治療領域における緩和ケア

著者: 林寛之

ページ範囲:P.1110 - P.1110

 Palliative emergency medicine(救急緩和)というのは,世界でも比較的新しいトピックで,北米の救急医学にはフェローシップコースもできている.救命・集中治療と緩和ケアなんて,スポコン漫画と恋愛小説くらいベクトルの違うもののように見えるが,どっちも必要なんだ.生きとし生けるものは全てに始まりと終わりがあり,人間の死亡率はなんと100%! 一世を風(ふう)靡(び)した『鬼滅の刃』の炎(えん)柱(ばしら),煉獄杏寿郎も「老いることも死ぬことも人間というはかない生き物の美しさだ」と言っているではないか.患者さんの人生において,その人自身の価値観を尊重し,その人らしい人生を送る「生き方(死に方ではないよ)」をお手伝いすることもわれわれ医療者の大事な仕事であり,救急・集中治療も緩和ケアも目の前の患者さんにとっては非常に重要だ.患者さんの意思に反した延命処置がいかに医学的に無駄であり,患者さんの自尊心を傷つけているかということは,世間でもたびたび議論の的になっている.その意味では,本書は手探り状態の日本の「救急・集中治療の緩和ケア」において“一寸先は光”をまさしく照らしてくれる.
 医学生や研修医も含め,多くの医師はこんなの習ったことがない.目の前の困難事例を各自の臨床能力と経験だけで乗り切ってつらい思いをしていることだろう.でも本書を読めば大丈夫.本書はその歴史的成り立ちから,考え方,さらには具体的な対処法まで,熱く深く記載されている渾(こん)身(しん)の一冊となっている.決してHow toだけでは語れないんだ.

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目次

ページ範囲:P.1054 - P.1055

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1178 - P.1178

あとがき

著者: 田邉稔

ページ範囲:P.1180 - P.1180

出口の無いトンネル
 まずいまずい,時間が足りない,まだできていない,ビデオ編集,背景調整,参考文献引用…….今日は○○研究会に招待されて講演の予定,もっと時間に余裕をもってスライドを用意すれば良いのに,何かとやることが多く,いつも追い詰められる.外来が終わって昼食をとる暇も無く,午後3時に職場を出発.東京駅で新幹線に飛び乗り時計を見ると,現地まで3時間しかない.まずい,新幹線に乗って必死にスライドを作るが,あっという間に目的地の駅に到着.時間が無い.タクシーに飛び乗り運転手さんに行き先を伝えるとひと言「お願いだから話しかけないで…」.会場に到着,お出迎えの方々に顔を引きつらせながら笑顔でご挨拶,控室で最後の追い込み,「ウォ〜,時間が無い!!」.15分後,控室の扉が開いて主催の先生が「そろそろ出番ですので会場にどうぞ」.そう,まさにその瞬間に講演スライド完成!! 何事も無かったかのように,演台にMy MacBook Proをセットアップ.スクリーン上のslide showを確認して深呼吸,余裕の作り笑いで会場の皆様にご挨拶,「皆さん,医科歯科の田邉です!」.その瞬間に先ほどまでのパニック状態は何処へやら,『アレ! 今日のオレ,かっこいいかも?』.講演が終わって懇親会場に移動,乾杯の音頭とともに,お世辞の嵐.「今日の先生のお話,インパクトありました!」.嘘でも何でもとにかく嬉しい.追い込まれてもめげずに仕上げ,できたてのホヤホヤをアドリブで発表.多少のジョークで笑いも取れ,ひと仕事したあとの懇親会のビールが美味しいこと!

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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