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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科77巻10号

2022年10月発行

雑誌目次

特集 外科医が担う緩和治療

ページ範囲:P.1145 - P.1145

 癌が必ず治る病気にならない限り,緩和医療は癌患者さんの治療過程において極めて重要なパーツである.わが国の病院で日常的に緩和医療に取り組む医師は外科医であるケースが多い.外科医の忙しさを考えると多くを望まれても困る側面もあるが,それでもどうしても備えておくべき知識,スキルは存在し,それがないと読者諸氏がせっかく身につけた手術の腕が患者さんの満足度に繋がらないことがある.さらに,緩和手術は外科医にしかできない治療手段であり,その手順,適応,有効性,限界についてはしっかりと把握しておく必要がある.本特集は緩和医療のすべてを網羅するものではないが,読者の方々にはまず総論を通読したうえで,侵襲的な治療を考慮する際には各論を読んで,今一度その適応を確認していただきたい.

総論

外科医が担うがんの緩和医療について病院を統括する立場で想うこと

著者: 小寺泰弘

ページ範囲:P.1146 - P.1148

【ポイント】
◆緩和医療は極めて重要である.外科医は現時点ではこれを担う立場になることが多いので,立ち居振る舞いと症状緩和の基本的な知識は身につける必要がある.
◆しかし,個々の外科医が多くのものを背負いすぎないよう,緩和医療もチーム医療に上手に落とし込んだ体制の構築が必要である.

診断時からの緩和ケア

著者: 下山理史

ページ範囲:P.1149 - P.1153

【ポイント】
◆本稿では,3つのことを皆さんと一緒に考えることとする.まず,緩和ケアの定義等について確認したのち,その担い手について考えたい.そのうえで,日本で生まれた「診断時からの緩和ケア」という考え方について「早期からの緩和ケア」との違いも含め概説し,外科医が担う緩和ケアについて記すことにする.そして,最後に緩和ケアの展望を述べてまとめることとする.
◆その内容を簡単に記載すると,緩和ケアはQOLの向上であり,これは医療ケアの目的と合致している.緩和ケアの担い手は,現場で患者さんご家族に会う医療者すべてである.外科医が担う緩和ケアは,基本的緩和ケアを中心としているが,これこそが診断時からの緩和ケアである.
◆最後に緩和ケアの展望としては,この外科医が行う基本的緩和ケアの充実と同時に,その中で関心のある方々には是非,専門的緩和ケアまで学び提供していけるとよいと考えている.もちろんその際,そのほかの専門的緩和ケアの担い手とは協働して患者さんご家族を支援していくことが期待される.

—これだけは知っておきたい緩和の知識①—外科医のためのがん疼痛管理

著者: 藤本肇

ページ範囲:P.1154 - P.1159

【ポイント】
◆治療早期からの患者のQOLを改善するための緩和ケアの一環として,適切な評価に基づく疼痛管理を行う.
◆治療目標を立て,オピオイドの選択と,投与経路,用量,レスキュー薬の設定を行い,副作用への対応を図る.
◆治療効果の評価に基づく用量の調節やオピオイドの変更を行い,必要に応じて薬物療法以外の治療も選択する.

—これだけは知っておきたい緩和の知識②—栄養と薬物療法

著者: 西智弘

ページ範囲:P.1160 - P.1163

【ポイント】
◆悪液質について「知っている」と早合点するのは危険.診断基準をもう一度確認しよう.
◆悪液質の存在は,化学療法の効果を弱め,患者の寿命を短くする可能性がある.
◆アナモレリンは食欲や体重を増加させることで悪液質改善に寄与するが,限界があることも事実であり,栄養・運動療法と組み合わせた複合的介入も検討する.

終末期がん患者に対するリハビリテーション医療の役割

著者: 安部能成

ページ範囲:P.1164 - P.1167

【ポイント】
◆緩和ケアとしてのリハビリテーション医療の要点は,トータルペインの観点から多面的にアプローチすることにある.
◆リハビリテーション医療では,機能回復,機能維持,機能低下というおのおのの状況において,その方向性・目標設定が異なっている.
◆終末期がん患者に対するアプローチでは,主訴解決から希望の実現へとリハビリテーション目標を移行する必要がある.

緩和治療における侵襲的処置

食道癌に対するバイパス手術とステント留置術

著者: 谷島翔 ,   八木浩一 ,   石橋嶺 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.1169 - P.1174

【ポイント】
◆食道癌による穿孔/穿通,瘻孔形成,高度狭窄に対して,根治切除不能な場合,バイパス手術あるいはステント留置術が考慮される.
◆バイパス手術は,全身状態が良好で予後3〜6か月以上が見込め,後治療が十分できる症例に適応する.
◆ステント留置術は,バイパス術と比較して侵襲が少なく,処置後2〜3日で効果が得られる点が利点である.

悪性気道狭窄に対する気道ステント

著者: 宮澤輝臣

ページ範囲:P.1175 - P.1178

【ポイント】
◆悪性気道狭窄には,通常は硬性気管支鏡を使用したシリコン気道ステント(Dumonステント)の留置が可能である.
◆ハイブリッド気道ステント(AERO ステント)は悪性気道狭窄に対して適応があり,軟性気管支鏡で使用されている.ハイブリッド気道ステントは気管支ファイバーでデリバリーシステムを用いて留置可能,フルカバーで取り出し可能である.
◆ニチノールをレーザーカットしたステント骨格がポリウレタン製のカバーで完全に覆われているので気管支ファイバーでの留置ができ,硬性気管支鏡での回収も可能である.

緩和手術としての胃瘻造設術

著者: 熊田宜真 ,   深川剛生 ,   清川貴志 ,   外村修一 ,   堀川昌宏 ,   添田成美 ,   五十嵐裕一 ,   鈴木悠介 ,   緑川裕紀 ,   金城信哉

ページ範囲:P.1179 - P.1185

【ポイント】
◆胃瘻は,メリットも大きい一方で,高齢者や終末期患者への安易な胃瘻造設が社会的な問題となっている.
◆胃瘻の適応に関しては,医学的な判断に加えて社会的,倫理的な側面を加味する必要がある.
◆特に終末期や高齢者の胃瘻造設にあたっては,患者の病態や合併症のリスクなども総合的に勘案して,造設の是非を検討する必要がある.

胃癌幽門狭窄に対する処置:胃腸吻合かステントか—プロペンシティ・スコア・マッチングによる解析

著者: 芳賀克夫

ページ範囲:P.1187 - P.1190

【ポイント】
◆日本胃癌学会は,胃癌幽門狭窄症例に対して胃腸吻合術(以下,バイパス術)または内視鏡的胃十二指腸ステント挿入術(以下,ステント術)を実施した症例を全国調査した.
◆両群間の背景因子を揃えるために,プロペンシティ・スコア・マッチング解析を実施した.
◆ステント術群はバイパス術を比べて,術後合併症は有意に少なく,術後食事摂取量は同等で,術後生存期間も同等であった.

幽門狭窄に対する外科治療とQOL

著者: 服部卓 ,   寺島雅典

ページ範囲:P.1191 - P.1197

【ポイント】
◆幽門狭窄を有する切除不能進行胃癌に対する緩和手術は,経口摂取を改善することで化学療法の導入を促進し,QOLを改善させる可能性がある.
◆QOLが改善した症例では,生存期間が延長する可能性がある.
◆緩和的外科治療は適切な症例を選択し,安全・確実な手技と周術期管理に努めることが重要である.

胃癌腹膜播種に伴う腸閉塞に対する緩和手術

著者: 川端良平 ,   西川和宏 ,   牛丸裕貴 ,   大原信福 ,   三宅祐一朗 ,   北川彰洋 ,   前田栄 ,   橋本安司 ,   能浦真吾 ,   宮本敦史

ページ範囲:P.1198 - P.1201

【ポイント】
◆胃癌腹膜播種に伴う腸閉塞に対する緩和手術として,バイパス手術や人工肛門造設術が施行される.
◆胃癌腹膜播種に伴う腸閉塞に対する緩和手術は認容性があり,多くの症例で経口摂取が可能となる.
◆術前CRP値が低値であること,術後に経口摂取が可能になること,術後化学療法の実施が予後良好因子である.

腸管減圧法としての経皮経食道胃管挿入術(PTEG)

著者: 新槇剛

ページ範囲:P.1202 - P.1204

【ポイント】
◆経皮経食道胃管挿入術(PTEG)は頸部食道から挿入する消化管瘻であり,胃切除後や腹膜播種症例でも施行できる.
◆PTEGには専用キットがあり,施設に超音波診断装置とX線透視が可能な場所があれば施行可能である.
◆PTEG施行にあたっては,基本的な超音波下穿刺手技とガイドワイヤー操作に最低限習熟しておく必要がある.

消化器癌緩和治療における腹腔鏡下人工肛門造設術

著者: 梅田晋一 ,   中山吾郎 ,   服部憲史 ,   岸田貴喜 ,   真田祥太郎 ,   岡野佳奈 ,   飯塚彬光 ,   吾妻祐哉 ,   田中健士郎 ,   呂成九 ,   清水大 ,   田中千恵 ,   神田光郎 ,   小寺泰弘

ページ範囲:P.1205 - P.1210

【ポイント】
◆緩和的人工肛門造設術においては,癒着剝離,腹腔内観察,適切な造設位置の設定がより重要である.
◆全身状態が不良である患者が多く,低侵襲な手術が望まれる.
◆腹腔鏡下人工肛門造設術は,癒着剝離,腹腔内観察,ストマ造設位置の決定,低侵襲性の観点から有用である.

大腸狭窄に対するステント治療

著者: 松田明久 ,   山田岳史 ,   園田寛道 ,   進士誠一 ,   岩井拓磨 ,   武田幸樹 ,   代永和秀 ,   上田康二 ,   栗山翔 ,   宮坂俊光 ,   香中伸太郎 ,   吉田寛

ページ範囲:P.1211 - P.1217

【ポイント】
◆緩和目的の大腸ステント留置はガイドラインで世界的に推奨されている.
◆長期留置によるステント関連合併症のリスクがあることを十分に認識する必要がある.
◆大腸ステント留置の成功率は高いが,トラブルシューティングにも精通する必要がある.

胆道閉塞に対する緩和的胆道ドレナージ

著者: 山﨑洋一 ,   川﨑洋太 ,   伊地知徹也 ,   又木雄弘 ,   蔵原弘 ,   大塚隆生

ページ範囲:P.1218 - P.1222

【ポイント】
◆悪性胆道閉塞に対しての胆道ドレナージは,緩和医療を必要とする時期の患者においてもQOLの改善を期待できる.
◆超音波内視鏡下ドレナージの発展・普及により,低侵襲な胆道ドレナージ術を選択することが可能となった.
◆緩和医療を必要とする患者の全身状態と胆道閉塞のパターンは様々であり,それぞれの患者に最適なドレナージ方法を選択することが求められる.

大量癌性腹水に対する改良型腹水濾過濃縮再静注法(KM-CART)

著者: 松﨑圭祐

ページ範囲:P.1223 - P.1228

【ポイント】
◆大量癌性腹水に対する安全で効果的な症状緩和の手術として,改良型腹水濾過濃縮再静注法(KM-CART)がある.
◆腹水処理の理にかなったシステム(KM-CARTシステム)ならびに適切な循環管理と腹水ドレナージ法(KM-CART技術)により安全で効果的なCARTが可能になる.
◆大量癌性腹水患者においてKM-CARTによる積極的症状緩和が抗癌治療の継続,生きる希望につながる.

手術器具・手術材料—私のこだわり・10

ジャンボフックミニとロングレトラクター

著者: 藤原斉

ページ範囲:P.1229 - P.1231

 2009年,当初,側臥位胸腔鏡手術の弱点を克服する目的で腹腔鏡下経裂孔アプローチを導入,その食道沿いの良好な視野と操作性,さらに術後肺炎の少なさに着目して非開胸食道切除術への取り組みを開始した.2013年,東京大学の瀬戸泰之教授のロボット支援下非開胸根治術の見学を契機に,頸部縦隔鏡アプローチを導入した.以来,様々な手技の改良と手術適応の拡大を繰り返しながら,食道癌根治術としての縦隔アプローチを進化させてきた.狭長な縦隔内トンネル貫通手術では,様々な専用手術器具が不可欠である.ここでは,当科独自に開発改良した術野展開用レトラクター(圧排子あるいは圧排鉤)について,改めて紹介したい.縦隔鏡手術の概要および専用器材一式については,既報を参照されたい1)

病院めぐり

岡谷市民病院外科

著者: 澤野紳二

ページ範囲:P.1232 - P.1232

 製糸業が日本の産業を支えていた1910(明治43)年に発足したとされる平野製糸共同病院が前身といわれる市立岡谷病院と,結核療養所として1953(昭和28)年に国が開設した健康保険岡谷塩嶺病院が合併して新設された岡谷市民病院が診療を開始したのは2015(平成27)年10月でありました.統合前の2病院とも,人口約5万〜6万人の小さな市が運営していたため,コンパクトに集約して1つの新病院とするのは時代の流れであったように思われます.統合前の2病院の外科は,いずれも信州大学医学部外科学教室の関連でありましたので,比較的円滑に集約されました.
 現在の岡谷市民病院は28科を標榜し,急性期・慢性期・緩和ケア病棟を合わせて295床で運営されており,長野県のほぼ中央に位置する風光明媚な諏訪湖を中心に広がる諏訪医療圏の一番西に位置しています.当院は「思いやり」を基本理念として掲げ,心温まる患者サービスを提供し地域の人々に信頼され親しまれる病院を目指して日々診療を行っています.また,感染症指定病院であるため,今回の新型コロナウイルス感染症流行当初から地域の先頭を切って感染者診療・入院対応・ワクチン接種など,病院を挙げて対応してまいりました.地域の救急・災害対応も担っており,時間外診療・救急車受け入れにも力を入れ,市民の皆さんの健康を日夜守っています.

How to start up 縦隔鏡下食道亜全摘・9

経裂孔操作2—食道授動の完了までの術野展開と剝離操作

著者: 森和彦 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.1233 - P.1241

 接合部において腹膜を切開し,縦隔に入ってからの操作の解説から始める.本稿では「術野右」「画面の左」などの断りのない限り,左右を患者の左側右側に基づいて記載する.

FOCUS

「GIST診療ガイドライン第4版」の要点

著者: 長晴彦 ,   原健太朗

ページ範囲:P.1243 - P.1246

はじめに
 消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:GIST)は疫学的には10万人当たり年間数人が罹患する希少がんとして扱われる.一方,胃癌で全摘した胃を5 mm幅で全割して病理学的に検索した研究で,術前には診断されなかった小GISTが全体の35%に偶発的に存在したという報告1)もあり,疾患自体の母数ははるかに多いと考えられる.それゆえ,内視鏡の検診が普及したわが国では,臨床医が日常臨床で比較的出合う機会の多い疾患でもある.
 GIST診療ガイドラインは,2008年に初版が刊行され,その後は実臨床に大きな影響を与えるエビデンスが出るタイミングに合わせて改訂を行ってきた.今回の第4版はエビデンス先行ではなく,Minds診療ガイドライン作成マニュアルに準拠し,作成の手順から透明性の高いガイドラインを作成することを目的とし,改訂作業に着手した.途中COVID pandemicに見舞われ,作業開始から完成まで5年の年月を要したが,その間作成委員で慎重に議論を重ね,多数のclinical question(CQ)のなかから特に実臨床に役立つであろうものに絞り込み,それらに対し推奨決定と解説文の作成を行った.
 本稿では外科領域を中心に,GIST診療ガイドライン第4版2)について概説する.

臨床報告

胃の嵌頓・壊死をきたした横隔膜ヘルニアの1症例

著者: 仁科卓也 ,   池田宏国 ,   池谷七海 ,   沖田充司 ,   佃和憲 ,   横山伸二

ページ範囲:P.1247 - P.1250

要旨
成人の横隔膜ヘルニアは報告例が少ない.今回われわれは,脾摘後に発症した横隔膜ヘルニアに胃が嵌頓・壊死をきたした1例を経験したので報告する.症例は82歳,男性.4年前に脾摘術の既往あり.突然の意識障害により救急搬送された.CTでは胃の大部分が胸腔内に嵌入しており,横隔膜ヘルニアに胃が嵌頓したと考え緊急手術を行った.手術では左横隔膜中央に8×5 cm大のヘルニア門を認めた.胃が胸腔内に嵌頓して壊死と穿孔をきたし,胸腔内には食物残渣を認めた.胃全摘,胸腔・腹腔ドレナージ,腸瘻造設術を施行した.横隔膜ヘルニアは時として重篤な病態となることがあるため,発見時点での予防的手術が必要であると考えられた.

胃切除術後49年目に発症したBraun吻合部逆行性空腸重積症の1例

著者: 佐久間崇 ,   庄司太一 ,   木下春人 ,   中川泰生 ,   寺岡均 ,   大平雅一

ページ範囲:P.1251 - P.1254

要旨
症例は89歳,女性.40歳時に十二指腸潰瘍に対して幽門側胃切除術が施行されている.頻回の嘔吐を主訴に2020年8月,当院へ救急搬送された.精査にて腸重積が疑われ,同日緊急手術を施行した.術中所見では,胃切除後再建で施行されたBraun吻合部を介して輸出脚空腸が逆行性に嵌入・重積していた.整復したが重積していた空腸の色調に問題はなく腫瘍も触知しなかったため,腸管切除は行わなかった.術後15日目に退院,9か月経過した現在も再発を認めていない.胃切除術後逆行性腸重積症は多くの報告例で胃切除術後10年以上経過して発症しており,術後経過年数および加齢が1つの発症要因になっている可能性が示唆された.

高齢者に対して腹腔鏡補助下小腸切開切石術を施行した胆石イレウスの1例

著者: 古川聡一 ,   小林隆

ページ範囲:P.1255 - P.1260

要旨
症例は89歳,男性.臍下部痛,食欲不振を主訴に当院に搬送され,CTで胆囊十二指腸瘻と診断された.迷入胆石によるイレウスに対して最初にイレウス管による腸管減圧を試みたところ,胆石が回腸末端で嵌頓したため,腹腔鏡補助下小腸切開切石術を施行した.術後,肺塞栓症を発症するも改善し,術後第36日に転院し約3か月間のリハビリ加療を要した.
胆石イレウスはまれな病態であるが,高齢者に好発しかつ死亡率も高いことが報告されている.自然排石による治癒率は低く,大部分の症例で手術加療を要するが,併存頻度の高い消化管十二指腸瘻に対する治療法の是非につき問題になることが多いため,本症例につき文献的考察を交えて報告する.

書評

—森田達也,木澤義之(監修),西 智弘,松本禎久,森 雅紀,山口 崇(編)—緩和ケアレジデントマニュアル 第2版

著者: 勝俣範之

ページ範囲:P.1190 - P.1190

 緩和ケアは,「診断された時からの緩和ケア」として,がんが診断された時から提供されるべきとしています(厚労省,2012年).この『緩和ケアレジデントマニュアル 第2版』は,日本の緩和ケアの第一人者の先生方が中心になって,最新の情報をもとにつくられた実践的な教科書であり,マニュアルです.
 近年,緩和ケア研究は,治療研究にも劣らず,たくさんの臨床研究が行われ,多くのエビデンスが積み重ねられてきています.本書では,その得られた最新かつ最善のエビデンスをベースに,きちんとレビューされ,丁寧な記載がなされている点が素晴らしいと思います.また,文献にはPMIDを記載してくれているので,実際に参照する上でとても便利です.さらに,おのおのの治療やケアに対して★がつけられており,★は「観察研究などがある」,★★は「RCTが1つある」,★★★は「メタアナリスまたは複数のRCTがある」としていて,とてもわかりやすいです.

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目次

ページ範囲:P.1142 - P.1143

原稿募集 私の工夫—手術・処置・手順

ページ範囲:P.1148 - P.1148

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1264 - P.1264

あとがき

著者: 小寺泰弘

ページ範囲:P.1266 - P.1266

 専攻医時代には体力的にきつい日もあった.ほぼ眠れない当直が明けてそのまま普通に丸一日勤務するのは当たり前として,その日の勤務が終わってやっと自分の家に帰った後で,また夜中の緊急手術で呼ばれたりしたことはないかと問われると,あると答えざるを得ない.まあ,家と言ってもどうせ病院の近所なのだが.上司も疲労困憊するまで働かれ,かつわれわれにも日々指導してくださっている中でのことなので仕方がないのだけれど,若手の勤務状況をより詳細に反映できるシステムがあればこのような連続勤務は避けられるのではないかと,個人的には感じていた.当時は何となく元気そうなやつを呼び出す形で対応するしかなかったのだろうし,こちらも手術ができるなら寝なくて良いなどと思っていた節もある.しかし,ある年齢になるとこういうのはちょっと自分には無理,ということになっていたと思う.やはり持続可能な医療体制にはきめの細かい労務管理が必要なのである.
 それにしても,あれから30年以上の時が経過したわけだが,一定の連続勤務の後には法律に基づいて必ず休息を取れるような世の中になるとは夢にも思わなかった.お上はわれわれのための法律なのだからしっかり働き方改革に取り組むようにとおっしゃるが,確かにその通りであり,私が外科医として常々望んでいた,手術にもれなくベストコンディションで臨めるようにしたいという理想はこれでようやく実現するのかもしれない.しかし,かつてのような無茶な勤務が絶対に生じないようにと罰則をちらつかせながら命じられると,対応可能な医師がいないので今夜は救急を受けられない,などということがどこかで起きそうである.そこまで余裕のある医師の配置がなされている病院など決して多くはないからだ.全国一律で働き方改革を実現するためには医師の地域偏在,診療科偏在をなくす必要があるが,残念ながらそのような難事が2024年4月までに達成されることはない.とは言え,期限を切って旗を振らないといつまでたっても改革は進まないということで,国もやむなく荒療治に出ているのだろう.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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