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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科77巻11号

2022年10月発行

雑誌目次

増刊号 術前画像の読み解きガイド—的確な術式選択と解剖把握のために

著者: 小寺泰弘

ページ範囲:P.1 - P.1

 近年,画像診断は極めて精度が高くなるとともに,術前にさらに緻密に検討されるようになった.また,手術術式も縮小手術から拡大手術まで細分化されており,術前に自信をもって予定術式を決定するには緻密な術前診断によりなるべく正確に臨床病期分類を行う必要がある.また,診断結果次第では集学的治療を行う順番が変わり,術前に薬物療法や化学放射線療法をもってくるような判断もなされうる.結果的に判断が裏目に出ることもあるが,その可能性をなるべく低くすべく,的確な術式選択に資するガイドブックの編纂を目指した.
 一方,ひとたび術式が決まっても,臓器の大きさや形,そして術中に露出したり処理したり温存したりすべき構造物の走行は人それぞれである.触診に頼ることができない完全鏡視下手術においては,組織に覆われて直接視認できない血管などの走行や分岐のしかたが事前にわかっていると大変心強い.開腹手術であっても肝実質というブラックボックスの中を走る脈管は,直接は視認できない.局所解剖の正確な把握は精緻な手術を行う準備として極めて重要であることは言うまでもなく,また,この点においても近年の術前画像の情報量は極めて多い.そこで,術式選択とともに,的確な解剖把握のために資するガイドブックの編纂を目指した.

Ⅰ 食道

頸部食道癌(再建含む)

著者: 峯真司 ,   橋本貴史 ,   折田創 ,   橋口忠典 ,   那須元美 ,   藤原大介 ,   加治早苗 ,   尾崎麻子 ,   夕部由規謙 ,   吉野耕平 ,   菅原友樹 ,   吉本雄太郎 ,   窪田晃 ,   福永哲

ページ範囲:P.7 - P.12

 頸部食道癌は胸部食道癌に比して発生頻度が低い.特に頸部食道のみに限局する頸部食道癌はまれである.そのため,必然的に各施設や各外科医における経験数が少なくなってしまう.症例数が少ないため標準的な治療方針が定まっておらず,治療方針についての比較試験も行われていない.施設間格差も大きい領域と考えられ,十分に喉頭温存可能な頸部食道癌の場合でも喉頭温存不可能と判断され根治的化学放射線療法が選択されている症例もある.
 明らかに喉頭温存が不可能な場合については,喉頭摘出を含めた切除を選択するか根治的な化学放射線療法を選択するか,という二択になるが,本稿では扱わないこととする.一方で,腫瘍が食道入口部に近接している場合には喉頭温存可能かどうかぎりぎりの判断が必要となる.根治的化学放射線療法をまず施行し,腫瘍遺残または再燃後に切除を考慮するという方針もあるが,胸部食道癌同様に根治的化学放射線療法後の遺残や再燃の診断が難しいこと,また一方で根治的化学放射線療法後に嚥下機能低下が発生するという問題もある1).サルベージ頸部食道切除をする場合でも,術前から嚥下機能低下がある場合に食道切除し高位吻合を行うとさらに嚥下機能が低下し,喉頭は残したものの経口摂取ができなくなり肺炎を繰り返し著しくQuality of Life(QOL)を下げる可能性もある.

胃切除後食道癌(再建含む)

著者: 八木浩一 ,   谷島翔 ,   川崎浩一郎 ,   大矢周一郎 ,   三輪快之 ,   岡本麻美 ,   浦辺雅之 ,   奥村康弘 ,   野村幸世 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.13 - P.16

 胃切除後食道癌に対する手術はそれなりの頻度で遭遇すると思われる.過去10年で当科では,食道切除の約5.7%(35/612)が胃切除後もしくは胃切除の必要な同時性胃癌症例であった.胃切除後食道癌に対する食道切除の術式は通常の食道切除と同じであると推測される.再建臓器・再建経路・再建時期に関しては施設ごとに決められており,これらは術前画像によって決定されているものではないと推測する.術前画像の術式選択への寄与度は決して高くないかもしれないが,本稿では,胃切除後食道癌の切除再建において留意すべき点を解説し,術前画像を提示する.

根治的化学放射線療法後サルベージ手術

著者: 丸山傑 ,   岡村明彦 ,   蟹江恭和 ,   坂本啓 ,   栗山健吾 ,   金森淳 ,   今村裕 ,   渡邊雅之

ページ範囲:P.17 - P.21

 本邦において食道癌のおもな組織型である食道扁平上皮癌に対する根治を目的とした化学放射線療法は,非外科的治療の中心的な役割を担っている.一方,根治的化学放射線療法後に遺残あるいは再発した症例の治療選択肢は限られており,切除が可能であれば外科的治療(サルベージ手術)がほぼ唯一の根治治療となり得る.しかしサルベージ手術については,縫合不全や肺炎などの術後合併症発生や死亡リスクの高い手術であることが報告されており1),慎重な判断が必要である.また長期予後については,治療前予測深達度T2以浅,根治的化学放射線療法後の再燃病変,R0切除などが予後良好な因子として報告されており2〜5),リスクとベネフィットを熟慮した適切な症例選択が必要であると考えられる.
 本稿では,根治的化学放射線療法後のサルベージ手術を前提とした術前画像診断の実際について説明する.

食道裂孔ヘルニア

著者: 三ツ井崇司

ページ範囲:P.22 - P.28

 食道裂孔ヘルニア(図1)とは,食道裂孔から腹腔内臓器(主に胃)が縦隔・胸腔に脱出する病気である.嚥下障害など保存的治療困難な随伴症状を有する症例や,PPI抵抗性の胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)などが手術適応となることが多い.手術内容は,腹腔鏡下での食道裂孔修復・噴門形成術である.手術適応は画像診断のみでは決定されず,症状,病悩期間,生理学的検査などを合わせて総合的に判断される.本稿では,食道裂孔ヘルニアの診断・治療の一般論とともに,症例(図2〜4)を提示しながら注意点について述べていきたい.また,一般的な成書には記載が少ないと思われる食道癌術後に発生しうる食道裂孔ヘルニアについても述べたい.

開胸下縦隔リンパ節郭清

著者: 加藤寛章 ,   白石治 ,   百瀬洸太 ,   中西智也 ,   平木洋子 ,   安田篤 ,   新海政幸 ,   今野元博 ,   安田卓司

ページ範囲:P.29 - P.35

 食道癌はリンパ節転移を来しやすい癌であり,粘膜下層(sm)癌においても40%強の症例にリンパ節転移を伴う1).胸部食道癌手術で郭清すべき領域リンパ節は,頸部・胸部・腹部の3領域と広範囲にわたり,そのなかでも縦隔リンパ節への転移は最も頻度が高い.また,食道は気管・大動脈・心血管・肺・神経など重要な組織に囲まれて位置しており,それらの損傷は術後の重症合併症にもつながるため,根治のために徹底したリンパ節郭清が求められると同時に,温存すべき組織を温存する正確な手術操作が必須である.そのため,食道癌手術において胸部操作・縦隔リンパ節郭清は最重要のパートであるといえる.
 また,手術にあたっては,CT検査を中心とした画像により原発巣や転移リンパ節状況,周囲臓器・組織との関係など,事前に手術のイメージをしっかりつけておくことが肝要である.本稿では,術前のCT画像所見と,術中画像を示しながら,開胸下縦隔リンパ節郭清手技のポイントを解説する.

胸腔鏡下縦隔リンパ節郭清

著者: 藤原尚志 ,   大幸宏幸

ページ範囲:P.36 - P.40

 高侵襲で合併症リスクの高い食道癌手術においては画像診断による術前評価は重要である.術前画像の評価に必要なことは「食道癌の病勢評価」と「解剖学的変異・個体差の確認」の2点である.術前に,癌の浸潤の可能性や転移リンパ節の部位などを確認し,手術の手順や切除範囲を確認することはもちろん大切である.一方,術前画像評価で大切なもう一点は,解剖学的な変異や個人差を事前に把握して術中のアクシデントを防ぐことである.特に食道癌手術の胸部操作では気道損傷や大血管損傷など致命的な臓器損傷のリスクが常にあるため,術前にすべての解剖学的異常および癌の病勢傾向を漏れなく把握しておく必要がある.

縦隔鏡下縦隔リンパ節郭清

著者: 藤原斉 ,   小西博貴 ,   塩崎敦 ,   西別府敬士 ,   大橋拓馬 ,   窪田健 ,   大辻英吾

ページ範囲:P.42 - P.49

 縦隔鏡下に安全確実なリンパ節郭清を行うためには,縦隔アプローチ特有の手術解剖を深く理解する必要がある.近年のCT画像技術の進歩により,高精細な3D-CT画像の構築が可能となり,食道と周囲臓器との位置関係のみならず,リンパ節郭清に必要な微細血管解剖を,術前に,立体的あるいは直観的に把握できるようになった.
 本稿では,縦隔鏡下リンパ節郭清における術前造影CT,特に3D-CT画像情報の有用性を,術中所見と対比させながら解説する.

Ⅱ 胃・十二指腸

食道胃接合部癌

著者: 中村謙一 ,   柴崎晋 ,   鈴木和光 ,   芹澤朗子 ,   秋元信吾 ,   中内雅也 ,   田中毅 ,   稲葉一樹 ,   宇山一朗 ,   須田康一

ページ範囲:P.51 - P.57

 食道胃接合部(esophagogastric junction:EGJ)は,本邦では西分類に基づいて「EGJ(食道筋層と胃筋層の境界)の上下2 cmの部位」と定義されている1,2).そしてEGJ癌は,組織型にかかわらずこの領域内に中心をもつ癌と定義されている1).近年ではKurokawaら3)により報告された多施設共同前向き研究の結果をもとに手術アプローチとリンパ節郭清のアルゴリズムが定められ,一定のコンセンサスが得られている3,4).腫瘍の食道浸潤長により術式が変わる可能性だけでなく手術難易度にも大きく影響してくるため,術前の正確な食道浸潤長の評価が重要となる.本稿では,EGJ癌に対する術前診断や術式選択のポイントにつき,解説する.

胃癌

著者: 金治新悟 ,   掛地吉弘

ページ範囲:P.58 - P.64

 胃癌に対する根治切除のアプローチ法はここ20年で大きく様変わりし,早期胃癌を中心に内視鏡治療や腹腔鏡手術が一般的となり,進行胃癌に対する腹腔鏡下胃切除やロボット支援手術も普及しつつある.MIS(minimally invasive surgery)は拡大された術野での出血の少ない精緻なリンパ節郭清が特徴であるが,俯瞰した術野での病変進展範囲の把握が困難であるなどの課題もある.また,外科切除例における進行胃癌の割合は増加し,化学療法後の高度進行胃癌に対して手術を行う機会が増えており,正確な画像診断をもとに術前化学療法の適応や切除のタイミングを図る必要がある.本稿では切除可能な進行胃癌を中心に,術前画像診断をもとにした切除範囲や臨床病期の決定について解説する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年10月末まで)。

表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍(SNADET)

著者: 速水克 ,   吉水祥一 ,   布部創也

ページ範囲:P.65 - P.69

 乳頭部を除く原発性十二指腸腫瘍は発生頻度の低い稀少な腫瘍である1).近年の内視鏡機器の進歩や,上部消化管スクリーニングにおける十二指腸観察時の意識向上によりその発見頻度は増加傾向にある.これに伴い,表在性非乳頭部十二指腸腫瘍〔superficial nonampullary duodenal epithelial tumor:SNADET,腺腫または粘膜内(M)/粘膜下層(SM)までの癌〕に対する治療機会が増加している.2021年には「十二指腸癌診療ガイドライン」(以下,ガイドライン)が出版され,今日におけるSNADETの治療指針となっている2)
 本稿では,SNADETの治療方針決定のために必要な諸検査の実際について述べる.

幽門部リンパ節郭清

著者: 小濱和貴 ,   錦織達人 ,   久森重夫 ,   角田茂 ,   星野伸晃 ,   前川久継

ページ範囲:P.70 - P.78

 低侵襲胃癌手術における幽門部リンパ節郭清,とくに幽門下(No. 6)リンパ節の郭清は,横行結腸間膜のtake downや,膵頭部膵実質からのNo. 6リンパ組織の剝離など,複雑な工程を含むため,比較的難易度が高いとされる.合併症を起こさず,かつ腫瘍学的に安全で過不足のない郭清のためには,以下のような点に留意する必要がある.

膵上縁リンパ節郭清

著者: 三澤一成

ページ範囲:P.79 - P.84

 胃癌手術における膵上縁リンパ節郭清では,肝動脈や脾動脈などの血管を温存しながら周囲組織を切除する必要がある.安全・確実な手術を円滑に行うためには,バリエーション豊富な血管解剖を正確に把握することが不可欠である.本稿では膵上縁領域の血管解剖の術前診断と,関連する術中操作について述べる.

脾門部リンパ節郭清

著者: 徳永正則 ,   石橋直哉 ,   坂野正佳 ,   佐藤雄哉 ,   谷岡利朗 ,   山口和哉 ,   藤原尚志 ,   川田研郎 ,   春木茂男 ,   絹笠祐介

ページ範囲:P.85 - P.89

脾門部リンパ節郭清における腹部造影CT検査の有用性
 術前の腹部造影CT検査は,病期診断に必須であることはいうまでもなく,血管走行の破格,臓器間の位置関係を把握し,術中トラブルを回避するためにも有用である.胃切除術において重要な,腹腔動脈の3分岐をはじめとした血管走行の破格に関しては,これまでにも多くの報告がなされている1).また,脾門部リンパ節郭清において鍵となる膵臓,脾臓および脾動静脈は後腹膜に固定されているため,術野の展開によって相互の位置関係が大きく変わることがない.そのため,実際の術野における解剖学的位置関係を術前CTで予想することが可能となる(たとえば,左胃動脈の根部は術前CTで同定できるが,実際の術野における走行はCT画像で得られたものとは大きく異なる.後腹膜に固定されていない胃および左胃動脈を含む胃の辺縁動脈は,術野展開により大きく位置関係が変異するためである).
 より詳細かつ立体的な解剖学的位置関係の把握においては,SYNAPSE VINCENT(富士フイルム),ZioCube(ザイオソフト)などの画像再構築ソフトの利用が有用である(図1)2).一方で,これらのソフトウェアの普及は限定的であると考えられるため,本稿ではthin sliceのCT画像をもとに考察する.また,脾門リンパ節郭清は,脾門近くの膵上縁リンパ節(No. 11dリンパ節)郭清と切り離せない関係にあるため,No. 11dリンパ節郭清におけるポイントも併せて述べる.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年10月末まで)。

Ⅲ 小腸・大腸 悪性疾患

直腸癌

著者: 関健太 ,   塚本俊輔 ,   三宅基隆 ,   久戸瀬洋三 ,   井上学 ,   髙見澤康之 ,   森谷弘乃介 ,   金光幸秀

ページ範囲:P.90 - P.94

 直腸癌の手術は直腸固有筋膜に包まれた状態で直腸間膜を完全に切除するtotal mesorectal excision(TME)もしくは腫瘍の位置に応じて直腸間膜を部分切除するtumor-specific mesorectal excision(TSME)が基本となる.直腸固有筋膜を越えて広がる病変に対しては直腸周囲の自律神経の合併切除が必要となることがあり,さらに周囲臓器への浸潤がある場合には隣接する臓器の合併切除や骨盤内臓全摘術のような拡大手術が必要となる.直腸癌では腫瘍のTNM分類だけでなく,腫瘍の局在や肛門からの距離により術式が大きく変わり,術式ごとの難易度も異なるため,適切な画像診断により正確な術前診断を行うことが重要である.
 本稿では,当院で用いている直腸癌の術前ステージングや術式決定に必要な画像検査について述べる.

直腸癌術後局所再発

著者: 池田正孝 ,   木村慶 ,   片岡幸三 ,   別府直仁 ,   内野基 ,   池内浩基

ページ範囲:P.96 - P.101

 直腸癌術後局所再発は,下部直腸癌術後再発のなかでも最も多い再発の1つである.術前化学放射線療法の導入などで局所再発は減少しているが,一度発症すればQOLの低下を招くだけでなく,予後も非常に不良な病態である1).癌の進行だけではなく,術中の腸管損傷や縫合不全によるがん細胞散布や狭い骨盤内での不十分な郭清や剝離による癌遺残も原因になる2).このような場合は遠隔転移を伴わず局所の確実な切除で根治できる可能性があり,切除マージンを確保したR0切除を行うことで予後が改善する3).しかし再手術となるため正常な膜解剖構造が失われていること,癒着が予想されることなどから手術の難易度が高い.本稿では,狭い骨盤内で腫瘍から確実な切除マージンを確保した切除を行うためのポイントを解説する.

右半結腸切除術

著者: 米澤博貴 ,   平能康充

ページ範囲:P.103 - P.107

 大腸癌治療ガイドラインでは,結腸癌における腸管傍リンパ節の範囲は腫瘍と支配動脈の位置関係によって定義されている.本邦では,結腸癌に対するD3郭清は腸管軸方向の腸管傍リンパ節と中枢方向の中間/主リンパ節を郭清するのが標準的であるが,右側結腸癌に対する右半結腸切除術では,回結腸動脈(ileocolic artery:ICA),右結腸動脈(right colic artery:RCA),中結腸動脈(middle colic artery:MCA)右枝の3本の主幹動脈のどの血管を支配動脈と想定し郭清を行うかの判断も必要となる.また,右側結腸の血管の分岐形態にはバリエーションが多いとされており,D3郭清を伴う右半結腸切除術では複雑な血管分岐を理解したうえで,術中に血管を同定し適切なリンパ節郭清を行う必要がある1-3).特に右結腸静脈(right colic vein:RCV)・中結腸静脈(middle colic vein:MCV)・胃結腸静脈幹(gastrocolic trunk:GCT)の分岐形態は非常に多様であり,膵頭部と十二指腸が近接していることからも難易度の高い手術手技とされる.
 本稿では,手術中の血管損傷の可能性を低減するために必要な術前CT画像での血管解剖の把握のポイントと手術のポイントについて,通常の手術で処理する血管の順に解説する.

左半結腸切除術

著者: 小杉千弘 ,   幸田圭史 ,   清水宏明 ,   山崎将人 ,   首藤潔彦 ,   碓井彰大 ,   野島広之 ,   村上崇 ,   松本智弘 ,   内山まり子

ページ範囲:P.108 - P.111

 近年では,手術機器の進歩および手技の向上により,進行結腸癌に対しての腹腔鏡下手術が施行されており,「大腸癌治療ガイドライン」でも大腸癌手術の選択肢の1つとして行うことを弱く推奨している(推奨度2・エビデンスレベルB)1).しかし,本邦で施行された腹腔鏡下結腸癌手術の開腹手術に対する大規模ランダム化比較試験であるJCOG0404試験では,横行結腸癌症例や下行結腸癌症例は対象から除外されており,また海外のランダム化比較試験の報告でも横行結腸癌は除外されている2〜4).これは,脾彎曲部近傍に首座を有する横行結腸癌や下行結腸癌に対しての手術は支配血管が多彩な解剖学的分岐形態を呈しており,的確なリンパ節郭清と適切な血管処理を行うに際して郭清手技が高度であるためである.よって,左半結腸切除術の適応となる症例においては,腹腔鏡下手術もしくは開腹手術のどちらの術式でも,術前からの他臓器との位置関係や血管走行などの把握を行うことが重要であり,術前画像診断は治療方針および方法の決定に非常に大きな役割は果たす.
 本稿では左半結腸切除術を施行するために術前に把握しておくべき局所解剖,隣接する臓器および血管について重要なポイントとして,①腹腔鏡下手術の際や早期癌症例などの小さな病変に対して手術を行う際には腫瘍の存在位置を正確に把握するために術前の下部消化管内視鏡による点墨やクリッピングが必要となること,②脾彎曲部近傍の横行結腸や下行結腸の支配血管解剖は多彩であるため術前の3D-CT angiographyでの評価が重要であること,の2点について解説する.

直腸授動

著者: 笠井俊輔 ,   塩見明生

ページ範囲:P.112 - P.118

 直腸癌に対する手術治療の原則はtotal mesorectal excision(TME),またはtumor-specific mesorectal excision(TSME)である1).癌の根治には外科剝離面の確保だけでなく,肛門側への癌の進展を考慮して,RS/Ra癌で3 cm以上,Rb癌で2 cm以上の肛門側切離端を確保することが重要である2)

.さらに,患者の術後QOL維持のためには,肛門機能,泌尿生殖機能の温存が求められ,画像検査を中心とする術前検査をもとに根治性と機能温存を両立した手術治療を計画する必要がある.
 近年,直腸癌に対する治療戦略は術式や化学放射線療法(chemoradiotherapy:CRT)・側方リンパ節郭清の組み合わせなどで多岐にわたるが,本稿では手術治療で根幹となる直腸授動に焦点を当て,当科で行っている術前画像評価と実際の手術について概説する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年10月末まで)。

側方郭清

著者: 花岡まりえ ,   絹笠祐介

ページ範囲:P.120 - P.124

 直腸癌に対する側方リンパ節郭清は,骨盤内の解剖に基づいたメルクマールとなる「壁」を意識しながら,リンパ節をen blocに郭清することで,安全に施行可能となる.そのために,術中解剖と術前画像をリンクさせ,術前にシミュレーションすることは重要な点の1つである.本稿では側方リンパ節郭清を行うにあたって術前画像から何を把握し,術中にどのように活かすのかを中心にポイントを述べる.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年10月末まで)。

良性疾患

潰瘍性大腸炎

著者: 松田圭二 ,   橋口陽二郎 ,   宮田敏弥 ,   浅古謙太郎 ,   福島慶久 ,   金子建介 ,   島田竜 ,   端山軍 ,   野澤慶次郎

ページ範囲:P.125 - P.129

 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)の手術は大きく分けると,待機手術で行われる肛門温存大腸全摘,回腸囊肛門(管)吻合,回腸人工肛門造設術1〜3),緊急手術で選択される結腸(亜)全摘,回腸人工肛門造設術がある4,5)
 肛門温存大腸全摘における吻合法について,当科の方針は,腫瘍合併例で回腸囊肛門吻合(ileoanal anastomosis:IAA),腫瘍非合併の難治例では回腸囊肛門管吻合(ileoanal canal anastomosis:IACA)を腹腔鏡補助下に行っている.また,腫瘍合併例であるが肛門管に腫瘍が及んでおらず,体型的にIAAが難しい症例ではIACAを選択することもある.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年10月末まで)。

クローン病

著者: 品川貴秀 ,   野澤宏彰 ,   石原聡一郎

ページ範囲:P.130 - P.134

 クローン病(Crohn's disease:CD)は慢性の経過で小腸や大腸を中心とした消化管に狭窄や潰瘍,瘻孔形成など様々な全層性肉芽腫性変化をきたす炎症性腸疾患の1つである.CDの診断は本邦の診断基準・治療指針にもあるように,消化管病変の画像診断による形態学的評価がきわめて重要である1).その主要所見である腸間膜付着側に多発する縦走潰瘍や敷石像のほか,不整形・類円形潰瘍・アフタなどが区域性・非連続性に認められるのが特徴的である.さらに痔瘻などの肛門病変や胃・十二指腸病変も特徴的である.モントリオール分類では年齢(Age)(A1:<16歳,A2:17〜40歳,A3:>40歳),病変部位(Location)(Ll:小腸,L2:大腸,L3:小腸・大腸,L4:上部消化管),疾患パターン(Behaviour)(B1:合併症を伴わない炎症,B2:狭窄,B3:瘻孔,B3p:痔瘻)で分類し,評価される2).本稿では,CDの手術症例における代表的な術前画像を紹介し,術式決定のための画像診断法を解説するとともに,実際の手術所見と対比することで手術において注意すべき臨床所見などを解説する.

大腸憩室炎

著者: 小練研司 ,   森川充洋 ,   五井孝憲

ページ範囲:P.135 - P.140

 大腸憩室症は消化器外科診療において日常的に遭遇する疾患であり,画像診断の習熟と治療方針の決定,外科的治療についての知識は必須である.本邦の大腸憩室保有は男性にやや多く加齢によって増加するとされ,大腸内視鏡検査やCT colonographyを用いた検査を行うと中高年で30%前後に憩室が指摘される1,2).欧米では保有割合はさらに高く,Peeryら3)は平均年齢55歳で60%と報告している.本邦では憩室保有者のうち20%程度に腹部症状(疼痛,腹部膨満,便通異常)を認め,10%程度で憩室炎や憩室出血を生じるとされる4).日本消化管学会が作成した「大腸憩室症ガイドライン2017年版」(以下,ガイドライン)によれば,膿瘍などの合併症を有する大腸憩室炎の死亡率は2.8%,合併症がない群の死亡率は0.2%と記載されており5),良性疾患であるが死亡率は決して低くないことに留意する必要がある.

成人腸重積

著者: 横井圭悟 ,   横田和子 ,   田中俊道 ,   古城憲 ,   三浦啓寿 ,   山梨高広 ,   佐藤武郎 ,   内藤剛

ページ範囲:P.141 - P.144

 腸重積は口側の腸管が肛門側の腸管内腔に引き込まれて重なり合った状態である.腸閉塞や,腸間膜が引き込まれることによる血行障害を引き起こすこともある.腸重積は乳幼児において多く認められる一方で,成人では比較的まれな疾患である.小児における腸重積は特発性であることが多く,軽症例であれば非観血的整復術を行って経過観察も可能である.対照的に,成人腸重積は悪性腫瘍をはじめとした器質的疾患を原因として発症するものが多い.そのため,非観血的整復術のみで治療を終了することは少なく,基本的には緊急手術も含め,手術療法を念頭に置いた治療戦略が必要となる.

腸閉塞

著者: 小山文一 ,   久下博之 ,   尾原伸作 ,   岩佐陽介 ,   竹井健 ,   高木忠隆 ,   定光ともみ ,   原田涼香 ,   藤本浩輔 ,   庄雅之

ページ範囲:P.145 - P.150

 従来日本では,腸管の通過障害を閉塞機転の有無にかかわらず“イレウス”と総称し,成因によって機械性イレウスや機能性イレウスと称してきた.しかし,海外では“ileus”を機能性の腸管麻痺,“intestinal obstruction”を機械的な閉塞を伴う腸閉塞と区別されてきた.この乖離を是正すべく,2015年発刊の『急性腹症診療ガイドライン2015』1)では,機能性イレウス(腸管麻痺)のみをイレウスとし,従来の機械性イレウスはイレウスとは呼ばず,腸閉塞と定義された.したがって,現在の腸管通過障害の概念と治療方針は図1のようになる.
 腸閉塞は,急性腹症のなかで男性3位,女性2位の頻度の高い疾患で,発症後30日以内の死亡率が約5%の危険な疾患である.特に絞扼性腸閉塞は医療訴訟の多い疾患で,争点の大半は診断の遅れと緊急手術の遅れである2).腸閉塞は適時の診断と治療介入が決定的に重要な疾患である.本稿では,診断に利用されることの多いCT画像と術中所見を対比させて術前CT画像の読み解きに迫る.

S状結腸軸捻転

著者: 佐々木貴浩 ,   古畑智久

ページ範囲:P.151 - P.155

 大腸軸捻転は大腸閉塞において大腸癌,大腸憩室炎に続いて3番目の原因であり,S状結腸と回盲部の2つの部位で起こりやすいといわれている1).本稿では,S状結腸軸捻転について最近の知見を交え,術前画像と術式選択のポイントについて解説する.

虫垂炎

著者: 塩谷猛 ,   渋谷肇 ,   小峯修 ,   久保田友紀 ,   山川珠実 ,   宮田敏弥 ,   大野航平 ,   南部弘太郎 ,   渡邉善正 ,   山田太郎 ,   渋谷哲男

ページ範囲:P.156 - P.162

 急性虫垂炎は急性腹症のなかでも最も多い原因疾患である1).さらに緊急手術を要する疾患のなかで急性胆囊炎,ヘルニア嵌頓,腸閉塞,消化管穿孔などとともに頻度が高い2).外科医になって初めての腹部手術の執刀であることも多い.しかしながら,その診断には経験の多い外科医でも難渋することもあり,高度な炎症を伴う症例では手術難易度は高く,術後の合併症もまれではない.
 本稿では画像診断のポイントと術式選択への考えを解説する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年10月末まで)。

虫垂腫瘍

著者: 武田和 ,   賀川義規 ,   藤井誠 ,   村田幸平

ページ範囲:P.163 - P.167

 大腸癌取扱い規約第7版1)では,虫垂腫瘍は,腺腫,粘液囊胞腺腫(良性),腺癌,粘液囊胞腺癌(悪性),カルチノイド腫瘍に分類されていた.同規約第8版2)では,WHO分類との整合性を考慮して,低異型度虫垂粘液性腫瘍(low-grade appendiceal mucinous neoplasm:LAMN)が採用され,粘液囊胞腺腫(良性)と粘液囊胞腺癌(悪性)という記載はなくなった.粘液囊胞腺腫の大部分と粘液囊胞腺癌の一部は,LAMNに該当すると記載された.同規約第9版3)でも,粘液囊胞腺腫(良性)と粘液囊胞腺癌(悪性)という記載はない.現規約(第9版)では,虫垂腫瘍は,良性上皮性腫瘍,LAMN,腺癌,杯細胞型カルチノイド,カルチノイド腫瘍,非上皮性腫瘍,悪性リンパ腫,腫瘍性病変に分類される.現規約では,「虫垂粘液囊腫」は存在しないが,旧規約での習慣が残っているため,日常診療では耳にする.
 最新のTNM分類第8版4)では,粘液癌のグレード分類が採用されている.粘液癌のグレード分類に関して,AJCC Cancer Staging Manual第8版5)では,G1(高分化かつ軽度細胞異型),G2(中分化かつ高度細胞異型),G3(低分化かつ印環細胞を伴う高度細胞異型)と記載されている.粘液癌G1はLAMNとほぼ同義とされている.

痔瘻

著者: 三浦康之 ,   栗原聰元 ,   吉野優 ,   吉野翔 ,   吉田公彦 ,   甲田貴丸 ,   長嶋康雄 ,   鏡哲 ,   金子奉暁 ,   牛込充則 ,   船橋公彦

ページ範囲:P.168 - P.177

 痔瘻は,痔核・裂肛と並ぶ肛門疾患のcommon diseaseである.その発生頻度は,「肛門疾患・直腸脱診療ガイドライン2020年版」によると,痔瘻の有病率は欧米では100,000人あたり5.6〜20.8人で,年齢は男女とも30〜40歳代と若年者に好発するとされている1).治療は原則外科的治療となる.外科的治療のポイントは,原発巣と瘻管の処理にあり,術式には開放術,括約筋温存術,seton法に大別される.術式の選択にあたっては,術前に原発巣の位置と瘻管の走行の確認が重要であり,特に歯状線より高位の痔瘻や坐骨直腸窩痔瘻や骨盤直腸窩痔瘻の深部痔瘻では,診察所見のみでは正確な診断が困難な場合が多く,画像検査として経肛門的超音波検査およびMRI検査が有用となる.
 本稿では,当科で画像検査として実施している経肛門的超音波検査,MRI検査と術式について解説する.

急性腸間膜動脈閉塞症

著者: 平野昌孝 ,   西沢佑次郎 ,   鈴木謙 ,   横野良典 ,   井上彬 ,   渡邊篤 ,   藤見聡 ,   賀川義規

ページ範囲:P.178 - P.182

 急性腸間膜動脈閉塞症とは,血栓や塞栓などを原因に,上腸間膜動脈(SMA)もしくは下腸間膜動脈(IMA)が閉塞することにより,急性の腸管虚血障害を生じる病態である.具体的には,急性腸間膜動脈塞栓症と急性腸間膜動脈血栓症の二つがある.これらに対して,腸間膜主要血管の器質的閉塞を伴わない急性の腸管虚血が非閉塞性腸管虚血(non-occlusive mesenteric ischemia:NOMI)である.
 いずれの疾患も,腸管虚血に陥れば大量腸切除が必要となる予後不良な疾患である.本稿では,急性腸間膜動脈閉塞症における,治療方針決定のための画像診断に焦点をあて説明する.

Ⅳ 肝臓

肝癌—術前評価および蛍光ナビゲーション手術

著者: 西岡裕次郎 ,   長谷川潔

ページ範囲:P.184 - P.189

 肝癌は原発性肝癌(肝細胞癌・肝内胆管癌)および転移性肝癌(大腸癌・神経内分泌腫瘍など)に大別されるが,そのいずれでも切除可能な場合には外科的肝切除が第一選択とされている.
 外科的切除を計画するにあたって,まずその根治性を評価したうえで最適な術式を考える必要がある.肝切除の場合は,対象となる腫瘍の正確な質的診断が正確な切除範囲の計画に必要である.例えば,肝細胞癌では経門脈的肝内転移という特性を考慮して支配門脈域の系統的切除を行うことが原則であるが1〜3),被膜をもつという特性から脈管の圧排のみならこれを剝離することが許容される.その一方で,大腸癌肝転移の場合には系統的切除の優位性は特に示されておらず部分切除が許容される一方4),脈管に接している場合にはこの合併切除を要する可能性が高くなる,といった特徴がある.また,多発病変のことが多いため小病変を見逃さないことも非常に重要である.

肝癌—疾患別の術式選択

著者: 長谷川康

ページ範囲:P.190 - P.195

 本稿では,肝腫瘍(肝細胞癌,肝内胆管癌,大腸癌肝転移)の手術適応の判断・術式の選択・具体的な手術アプローチの立案を行うために,術前にどのような画像診断を行い,どのように読み解けばよいのかについて解説する.

腹腔鏡下肝S7亜区域切除

著者: 三島江平 ,   若林大雅 ,   藤山芳樹 ,   若林剛

ページ範囲:P.196 - P.200

 腹腔鏡下解剖学的肝切除において,肝葉切除および肝区域切除の定型化が進む一方,肝亜区域切除については,2021年に開催されたPrecision Anatomy for Minimally Invasive HBP Surgery(PAM-HBP Surgery Consensus)会議1)で改めて定義された担癌グリソン領域の一括切除という共通認識はあるものの,その至適なアプローチ法については一定の見解は得られていない.腹腔鏡下肝S7亜区域切除は最も難しい術式の一つとされているが,当院ではGlissonean approach先行によるICG蛍光ガイド下肝切除を肝亜区域切除を含む解剖学的肝切除の標準としており,本稿では定型化された肝S7亜区域切除の手術手技を紹介するとともに,本術式に必要となる術前画像の解剖把握と3Dシミュレーションについて言及する.

腹腔鏡下肝前区域切除

著者: 門田一晃 ,   貞森裕 ,   日置勝義 ,   高倉範尚

ページ範囲:P.202 - P.207

 腹腔鏡下前区域切除術は系統的肝切除のうち,切離面が広く難易度の高い術式の一つである.特に中肝静脈(MHV)や右肝静脈(RHV)などの主肝静脈の露出は,適切なintersegmental/sectional planeで肝離断を行うための重要なランドマークとなる.そのため,術前シミュレーションによる解剖把握とその露出方法の確立は,より安全な肝切除へとつながる.本稿では,腹腔鏡下肝前区域切除を行う際に,特にRHVを露出するうえで重要な脈管の解剖とその同定・露出方法について解説する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年10月末まで)。

腹腔鏡下肝後区域切除

著者: 齊藤亮 ,   伴大輔 ,   村瀬芳樹 ,   水井崇浩 ,   高本健史 ,   奈良聡 ,   江﨑稔 ,   島田和明

ページ範囲:P.209 - P.216

はじめに
●肝後区域の定義
 肝臓の解剖学的領域分類として,本邦ではHealy & Schroyの分類1)とCouinaudの分類2)が広く用いられている.Healy & Schroyは肝臓を右葉と左葉に分け,さらに左葉を外側区域と内側区域に,右葉を前区域と後区域に分類しており,この区域分類が一般に用いられている.一方,この後区域領域はCouinaudの分類ではSegment 6および7に相当する.高崎らは肝門部におけるグリソン一括処理の手技を念頭に,グリソン鞘の分岐形態に従い,肝を右区域,中区域,左区域の3区域に分類した3).それぞれ,Healey & Schroyの分類の後区域,前区域,左葉に相当する.また高崎らは,門脈3次分枝が支配する領域を区域(cone unit)と命名し,門脈2次分枝が支配する領域(section, sector)を区域の集合体として表現したことも,近年の新しい系統的肝切除のコンセプトに即しており有用である.
 以上のように,肝後区域に相当する領域は諸家によりそれぞれ定義されているが,近年では後述のようにGlissonean approach4)を用いた阻血領域の切除,あるいはインドシアニングリーン(ICG)ガイド下切除が主流となりつつあることから,一般に「後区域切除」とは後区域グリソン(門脈)に支配される領域を切除する術式と考えられる.
●腹腔鏡下肝後区域切除
 肝後区域は肝臓の最背側に位置し,広い面積をもって前区域と接しており,後区域切除では切除容積に比べ肝離断面積が広範囲となる.後区域切除においては十分な展開で良好な視野を確保し,適切な区域境界を維持した肝離断が重要であるが,腹腔鏡手術特有の視野に対応した体位や展開にコツを要する.仰臥位では,肝離断面は下大静脈より低位となり,相対的に静脈圧が高くなり,肝離断としては不利な場となる.そこで後述するように,十分な左側臥位をとるなど体位の工夫が行われる.また,下大静脈右縁剥離を含む肝右葉の広範囲の脱転操作も必要であり,腹腔鏡下肝後区域切除には,腹腔鏡下肝切除において必要なエッセンスが詰め込まれている.一方,肝門部でグリソンを先行処理するGlissonean approach4)やICG蛍光法を用いて区域境界を可視化したナビゲーション手術が日常診療で実践されるようになり,特に後区域切除のような区域切除において極めて有用である.本稿では,安全で確実な腹腔鏡下肝後区域切除を実践するにあたり必要な術前画像と解剖把握,手術のポイントを解説する.

腹腔鏡下肝左葉切除

著者: 石川喜也 ,   浅野大輔 ,   渡辺秀一 ,   上田浩樹 ,   赤星径一 ,   小野宏晃 ,   工藤篤 ,   田中真二 ,   田邉稔

ページ範囲:P.217 - P.221

 近年の画像機器の進歩によって,術前に詳細な解剖情報が得られるようになった.とりわけ,肝切除における3D画像は,実際の術野と非常に近いイメージを共有でき,術前シミュレーションに必須のツールである.肝左葉切除は離断面が直線的かつ狭く,メルクマールとなる構造物もはっきりしていることから,腹腔鏡と親和性が高い術式と言える.肝門部脈管処理,肝離断のアプローチなど1),やり方は一通りではないが,把握しておくべき解剖所見は変わらない.本稿では,腹腔鏡下肝左葉切除術を行ううえで,術前画像で確認すべき解剖所見について述べる.

腹腔鏡下肝右葉切除

著者: 西澤伸恭 ,   海津貴史 ,   五十嵐一晴 ,   木立光祈子 ,   贄裕亮 ,   久保任史 ,   田島弘 ,   隈元雄介

ページ範囲:P.222 - P.229

 腹腔鏡下肝右葉切除は,右葉の脱転・短肝静脈の処理→肝門部処理→肝実質離断→右肝管・肝門板切離→右肝静脈処理により構成される.肝門部胆管癌などの胆道再建を伴う肝切除は,執筆現在においては腹腔鏡手術の適応とはされないため,ここでは肝実質腫瘍に対する肝右葉切除について言及する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年10月末まで)。

腹腔鏡下肝中央二区域切除

著者: 武田大樹 ,   新田浩幸

ページ範囲:P.230 - P.235

 肝中央二区域切除術は,腫瘍が内側区域と前区域にまたがり存在するか,またはどちらかの区域に腫瘍が存在し,中肝静脈に浸潤が疑われ合併切除が必要な疾患が適応となる.肝予備能としては,ICG15分値が20%以下の症例であることが望まれる.手術の手順は基本的に開腹手術と同様で,内側区域切除と前区域切除を組み合わせた手順で手術を進める.肝離断中の前区域・内側区域のうっ血を避けるため,中肝静脈の切離は流入血遮断後に行うようにしている1)(図1).

Ⅴ 胆道

胆管癌(遠位・肝門部領域・広範囲)

著者: 椎原正尋 ,   樋口亮太 ,   植村修一郎 ,   松永雄太郎 ,   大目祐介 ,   川本裕介 ,   本田五郎

ページ範囲:P.236 - P.241

どのような画像が必要か
●高分解マルチスライスCT(MDCT)
 病変の主座,腫瘍の進展度,手術のための解剖の把握,肝切除のための予定残肝容積の測定には,thin sliceで行うダイナミックCTが必須である.さらに3D CT angiography画像も作成する.

胆囊・胆管良性疾患

著者: 川﨑洋太 ,   山崎洋一 ,   伊地知徹也 ,   又木雄弘 ,   蔵原弘 ,   大塚隆生

ページ範囲:P.242 - P.246

 胆囊良性疾患として,若手一般・消化器外科医が日常診療で遭遇する頻度の高い隆起性・腫瘤性病変である胆囊ポリープと,壁肥厚性病変である胆囊腺筋症について概説し,また胆管疾患として膵・胆管合流異常について述べる.

肝門部領域胆管癌に対する胆管切除を伴う肝切除

著者: 細川勇 ,   戸ヶ崎賢太郎 ,   高屋敷吏 ,   久保木知 ,   高野重紹 ,   鈴木大亮 ,   酒井望 ,   三島敬 ,   小西孝宜 ,   西野仁恵 ,   仲田真一郎 ,   大塚将之

ページ範囲:P.248 - P.256

 肝門部領域胆管癌は,切除断端陰性の外科切除(R0切除)のみが長期生存の期待できる治療法であるために,門脈・肝動脈の分岐形態,胆管の合流形態,そして,それらの走行経路(肝門部の立体解剖)を把握したうえで,R0切除を達成するのに最も合理的な切除術式を選択することが重要である1〜8)
 本稿では,肝門部領域胆管癌に対する胆管切除を伴う肝切除において,R0切除を達成するための的確な術式選択と解剖把握に関して概説する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年10月末まで)。

拡大胆摘

著者: 青木琢 ,   白木孝之

ページ範囲:P.258 - P.262

 拡大胆摘は,1954年にGlennとHaysがradical cholecystectomy(根治的胆囊摘出術:Glenn手術)として発表した術式をベースとしている1).すなわち,胆囊を胆囊床,肝十二指腸間膜内リンパ節とともにen blocに切除する術式である.その後,肝外胆管切除の付加や,より広い領域のリンパ節郭清を行う,Glenn変法とでも呼ぶべき術式が提唱された2).拡大胆摘は,リンパ節転移や腫瘍の肝浸潤が画像上認められないか,存在しても軽度な症例に対して行われ,特にSS胆囊癌に対する標準術式として広く施行されており,そのため本術式の適応にあたっては,術前の正確なステージングが求められる.また,肝外胆管切除の適応,リンパ節郭清の範囲については施設ごとに方針が異なっているが,基本は確実にR0を確保する手術を施行する,という点に尽きる.

胆囊摘出術・胆管結石除去術

著者: 梅澤昭子 ,   春田英律

ページ範囲:P.264 - P.273

 腹腔鏡下胆囊摘出術(laparoscopic cholecystectomy,以下Lap-C)は胆囊摘出術の約90%に施行され,標準的な手術となっている.Lap-Cの適応は胆囊結石症が最も多く,次いで急性胆囊炎である.安全なLap-Cのために必要な画像情報は,炎症性変化と解剖学的な変位の把握である.Lap-Cで術前に把握すべき解剖学的なバリエーションを中心に述べる.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年10月末まで)。

先天性胆道拡張症に対する胆管切除+胆道再建

著者: 森根裕二 ,   島田光生

ページ範囲:P.274 - P.281

 先天性胆道拡張症は,戸谷分類で5型に分類され,戸谷Ⅰ型(Ⅰbは除く)とⅣ-A型では,膵・胆管合流異常を合併する1).膵液の胆道内への逆流(膵液胆道逆流現象)の防止および胆道癌発生予防の目的のため,(肝外)胆管切除+胆道再建術が標準術式として確立されているが,拡張胆管の切除が不十分であったり,肝門部胆管形成が不適切であれば,難治性胆管炎や肝内結石,遺残胆管癌などの術後合併症が危惧される2)
 本稿では,先天性胆道拡張症における(肝外)胆管切除+胆道再建の術中・術後合併症を回避するための基本手技とともに,理解すべき術前・術中画像による解剖把握のポイントについて概説する.

Ⅵ 膵臓

通常型膵癌

著者: 木村七菜 ,   渋谷和人 ,   吉岡伊作 ,   鳴戸規人 ,   平野勝久 ,   渡辺徹 ,   田中晴祥 ,   五十嵐隆通 ,   東松由羽子 ,   魚谷倫史 ,   松井恒志 ,   奥村知之 ,   藤井努

ページ範囲:P.282 - P.287

 通常型膵癌(浸潤性膵管癌)に対する術式として,膵頭十二指腸切除術,膵体尾部切除術,膵全摘術が挙げられる.膵癌を疑った場合には所属リンパ節の郭清は必要であり,膵中央切除術や腫瘍核出術などは選択されない.しかし,膵癌に対する予防的拡大リンパ節・神経叢郭清の意義に関しては明確に否定されており1),無意味な拡大手術は避けるべきである.それを踏まえたうえでoncologicalに最適な術式を選択することが必要となる.
 本稿では,膵癌と診断された際の手術適応の決定や術式の選択における画像診断法について概説する.

膵囊胞性腫瘍(IPMN, MCN, SCN, SPN)

著者: 橋本大輔 ,   里井壯平 ,   山本智久 ,   山木壮 ,   松井雄基 ,   廣岡智 ,   石田光明 ,   関本貢嗣

ページ範囲:P.288 - P.293

 膵囊胞性病変は,早期診断が困難な膵癌の高危険群であること,または膵癌による副次所見の可能性があることから注目を浴びてきた.画像診断技術の発達もあり,日常臨床において遭遇する機会が増えている.膵囊胞性病変の診断および治療方針決定のためのガイドラインとして,Fukuoka guidelineとして知られる国際診療ガイドライン1, 2),欧州study groupによるガイドライン3),American Gastroenterological Associationによるガイドライン4)が発表されている.
 本稿では,膵囊胞性腫瘍である膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm:IPMN),膵粘液性囊胞腫瘍(mucinous cystic neoplasm:MCN),膵漿液性囊胞腫瘍(serous cystic neoplasm:SCN),solid-pseudopapillary tumor(SPT)の画像診断のポイントと手術適応,術式選択について概説する.

慢性膵炎

著者: 種村彰洋 ,   水野修吾

ページ範囲:P.294 - P.299

どのような画像が必要か
 慢性膵炎の手術の目的は,おもに疼痛に対する徐痛である.本邦の慢性膵炎診療ガイドライン20211)によると,外科的治療の適応は内科的保存的治療や内視鏡的治療,体外衝撃波結石破砕術(ESWL)が無効な難治性疼痛とされている.また疼痛以外にも,胆道狭窄や十二指腸狭窄,症候性の仮性膵囊胞,また悪性腫瘍が疑われる場合も手術が考慮される.疼痛のメカニズムは膵周囲知覚神経障害・変性,膵管および膵組織の内圧上昇によるといわれており,膵管の除圧が手術の目的である.また,多くの症例では膵管に結石が充満,嵌頓しており,内視鏡的治療やESWLにて除去が困難な場合があり,それらを取り除くことが可能である.また,時に膵頭部の腫大がみられるが,膵頭部は慢性膵炎の疼痛のペースメーカーともいわれており,その部分を外科的に切除することで疼痛緩和に寄与すると考えられる.
 慢性膵炎の術式には様々なものがあり,長軸方向に膵管を切開し腸管と吻合するPuestow手術,Partington手術のような膵管ドレナージ術2, 3),限局した病巣を取り除く膵頭十二指腸切除,膵体尾部切除のような膵切除術,それらを組み合わせたFrey手術とBeger手術4, 5)などがある.膵管拡張の度合や病巣の局在,広がりなどからそれぞれ適した術式を選択することとなるが,様々な術前画像による評価が重要となる.ガイドラインでは,膵管拡張のある症例では膵管ドレナージ術が基本となり,膵頭部にも病変がある場合にはFrey手術が推奨されている.また,膵切除は疼痛緩和効果は膵管ドレナージ術と同等であるものの,合併症や術後新規糖尿病発生率が膵管ドレナージ術より高いことから,膵管拡張のない症例に選択されるべきとされている1)

膵頭十二指腸切除

著者: 須藤広誠 ,   松川浩之 ,   安藤恭久 ,   大島稔 ,   森裕一朗 ,   岡野圭一

ページ範囲:P.300 - P.304

 膵頭十二指腸切除を安全に施行するためには,術前画像から主要な脈管構造を把握し,手術中はそれらに対し一つ一つ確実にアプローチをする必要がある.膵頭十二指腸切除は肝胆膵領域を専門とする外科医にとって習得すべき標準術式の一つであるが,疾患の進行度や炎症の有無などによって切離ラインや層が異なることも多く,また,主要な脈管構造に破格・変異があることも珍しくない.そのため,膵頭十二指腸切除を行うためには基本的な解剖学的知識のほかに,術前画像を用いて症例ごとの解剖把握を行ってから手術にのぞむことが必須となる.

膵体尾部切除

著者: 高橋秀典 ,   小林省吾 ,   江口英利

ページ範囲:P.305 - P.311

 膵体尾部切除は膵体尾部に発生した良性・悪性腫瘍に対する術式で,脾動脈・脾静脈を含めた膵体尾部と脾臓を一括で切除することが標準的な手術操作である.さらには,腫瘍の病態に合わせたいくつかの亜型も行われており,おもに良性腫瘍に対する脾臓温存膵体尾部切除や進行膵体部癌に対する腹腔動脈合併膵体尾部切除(DP-CAR)がその代表である1,2)
 近年の内視鏡手術の普及に伴い,良性腫瘍に対する膵体尾部切除あるいは切除可能膵癌に対する膵体尾部切除は腹腔鏡下に行われることが多くなった3).一方で,進行膵癌に対する周辺臓器や主要脈管合併切除を伴う膵体尾部切除は,現在でも開腹で行われることが多い.標準的な膵体尾部切除や腹腔鏡下膵体尾部切除については数多くある成書に譲り,本稿では進行膵癌に対する開腹下膵体尾部切除において,安全・確実に切除を行うための術前画像ポイントについて概説する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年10月末まで)。

膵中央切除

著者: 元井冬彦 ,   菅原秀一郎 ,   高橋良輔 ,   安次富裕哉

ページ範囲:P.312 - P.318

 膵腫瘍に適用される標準的な膵切除術式は,膵頭十二指腸切除(膵頭部腫瘍切除),尾側膵切除(膵体尾部切除),膵全摘である.腫瘍の部位・進展度などにより術式が決定される1).近年は画像診断の進歩に伴い,径の小さい膵腫瘍(性病変)の発見が増加している.詳細な画像診断を行うことで経過観察が可能な症例もある一方で2),手術症例も増加している.標準的膵切除に対して,鏡視下手術やロボット支援手術による低侵襲化が試みられており,出血量低減などの効果は確認されている3).しかし,長期的にみた場合に膵内外分泌機能が温存されるわけではなく,膵機能温存の観点から区域切除を行う意義がある.本稿では,最も代表的な膵中央切除6,7)を概説する.

Frey手術

著者: 堂地大輔 ,   水間正道 ,   石田晶玄 ,   日下彬子 ,   青木修一 ,   井上亨悦 ,   伊関雅裕 ,   中山瞬 ,   三浦孝之 ,   有明恭平 ,   高舘達之 ,   大塚英郎 ,   中川圭 ,   森川孝則 ,   海野倫明

ページ範囲:P.320 - P.324

 慢性膵炎は内科的治療に抵抗性を示す症例に手術適応があり,その手術は膵切除術と膵管ドレナージ術に大別される1).Frey手術2)は,膵頭部の局所切除(膵頭部の芯抜き)と尾側膵管の減圧(膵管ドレナージ)を兼ね備えたハイブリッド手術であり,2015年に日本消化器病学会から発表された「慢性膵炎診療ガイドライン」3)で,内視鏡的治療/体外衝撃波結石破砕術(ESWL)による治療の無効または再発例で,膵頭部病変を伴った主膵管拡張例に対して推奨度が高いとされている.
 当教室では全国に先駆け,慢性膵炎に対してFrey手術を導入し,膵頭部の芯抜きを過剰に行わないことを原則とし,これまで積極的に行ってきた4〜6).本稿では,Frey手術を安全・確実に遂行するために必要な術前・術中の解剖把握のポイントについて,Frey手術後の膵炎再燃に対する再手術例から得られた当科のこれまでの経験も踏まえて解説する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年10月末まで)。

Ⅶ 後腹膜

後腹膜腫瘍

著者: 横山幸浩 ,   砂川真輝 ,   栗本景介 ,   江畑智希 ,   小寺泰弘

ページ範囲:P.325 - P.329

はじめに
 後腹膜腫瘍は稀な疾患であり,その臨床像は実に多彩である.悪性である後腹膜肉腫の組織型は,脂肪肉腫が最も多く,次いで平滑筋肉腫が多い.また,稀に未分化型多型肉腫,悪性末梢神経鞘腫瘍,Ewing(ユーイング)肉腫などがある.
 後腹膜肉腫治療の基本は外科手術であるが,術前画像診断をもとにしてどのような手術を行うかを判断することは,時として難しいことがある.後腹膜に所属する臓器は,腎臓,副腎,脾臓,膵臓などがあり,また骨盤底においては子宮,卵巣,精巣,精囊などの生殖臓器もある.また,臓器以外の構造物として,腹部大動脈,下大静脈などの大血管や大腰筋,腸骨筋,横隔膜などの筋組織,さらに脊椎,神経,腸間膜もある.後腹膜肉腫は多くの場合,これらの構造物と広く接しており,腫瘍そのものも大きいことが多いため,画像のみでどの部位に浸潤があり,どの部位にないのかを判断することが困難な場合がある.実際には,開腹をしてみないと判別できない,というのが正直なところではないだろうか.
 後腹膜肉腫は,上記のように様々な臓器や構造物を巻き込んでいることが多いため,手術に携わる診療科も,消化器外科,泌尿器科,産婦人科,整形外科,血管外科,心臓外科など多岐にわたる.すなわち,高度に進行し,高い侵襲を伴う手術を必要とするような後腹膜肉腫は,これらの診療科が揃った施設で行うことが望ましい.したがって,後腹膜肉腫を専門的に扱うことができる,いわゆるサルコーマセンターに症例を集積させることは非常に重要である.特に腫瘍が様々な後腹膜構造物に接し,複雑な手術を必要とする大きな後腹膜肉腫の場合は,複数の診療科間で事前に十分なカンファレンスを行い,どのようなアプローチで手術を行うかを入念に検討しておく必要がある.
 本稿では,術前画像診断で治療方針に迷った後腹膜肉腫の手術症例をいくつか紹介し,本疾患治療の難しさを筆者の経験をもとに紹介する.

Ⅷ ヘルニア

鼠径ヘルニア・大腿ヘルニア

著者: 三澤健之 ,   肥沼隆司 ,   神人悠 ,   築山佳奈 ,   渡辺理 ,   高橋秀樹 ,   堀川昌宏 ,   端山軍 ,   佐野圭二

ページ範囲:P.330 - P.337

 鼠径部ヘルニア手術において,メッシュを展開する層は,①Lichtenstein法に代表される横筋筋膜上(onlay),Kugel法やtransabdominal preperitoneal repair(TAPP),totally extra-peritoneal repair(TEP)に代表される横筋筋膜下(underlay),mesh-plug法に代表されるヘルニア門内(plug),および腹腔内(intraperitoneal onlay mesh:IPOM),に大別される(図1a).それぞれに優れたデバイスが製品化され,外科医の好み,あるいは病型を含めた患者側因子によって使い分けがなされている.本稿で紹介するONSTEP法は2013年に報告された1)比較的新しい術式で,①と②を組み合わせた術式である.そのコンセプトは,Lichtenstein法を行う側からからみれば,onlay法の簡便さをそのままに間接(外)鼠径ヘルニアと直接(内)鼠径ヘルニアを修復し,同時にフラットメッシュの内側部分をunderlay法に準じて腹膜前腔に展開することによってonlay法の最大の弱点である大腿ヘルニアも修復することにある.逆に,underlay法を行う側からすれば,underlayによる良好なメッシュの固定性を活かして大腿輪をカバーし,加えてメッシュの外側部分をonlayとして展開するため,underlay法において最も難しい内鼠径輪頭側での腹膜前腔剝離操作を回避できることにある(図1b).すなわち,ONSTEP法はLichtenstein法の亜型でありながら,すべての病型を治療できる簡便で効果的な術式である2,3)
 一方,2018年に発表された鼠径部ヘルニアに関する国際ガイドライン4)では,様々な鼠径部切開法の中にあってLichtenstein法のみが推奨されている.上に述べたようにONSTEP法はLichtenstein法の亜型とみなされる5)ため,ガイドラインの推奨にも矛盾せず,今後,その有用性がさらに認知されるものと考える.

閉鎖孔ヘルニア

著者: 佐々木愼 ,   永岡栄

ページ範囲:P.338 - P.341

術前診断に必要な画像
 骨盤までをしっかり含めた腹部CTあるいはMRIを施行する.図1に示すように,恥骨筋と外閉鎖筋に挟まれた空間に,脱出腸管を示す境界明瞭で類円形の腫瘤影が見られれば,比較的容易に閉鎖孔ヘルニアと診断することができる.矢状断や冠状断のCTも有用である.この際,画像所見で見逃しをなくすためには,やや逆説的な言い方であるが,高齢のやせ型女性に多く見られるなど本疾患の臨床的特徴も踏まえ,本疾患を鑑別診断として念頭に置いて所見を取りにいく,つまり恥骨筋と外閉鎖筋の間に図1のような典型的な所見が認められるか探しにいくことが肝要である.そして,おもに水平断における前後のスライスによって腸管の走行を慎重に辿り,脱出している腸管がどの部位であるか読影をする.さらに,この脱出腸管による腸管径の変化(キャリバーチェンジ)の有無を確認し,腸閉塞の状態を把握する.また,閉鎖孔ヘルニアは片側のみならず両側に存在する症例や鼠径部ヘルニア,特に大腿ヘルニアの併存が多いとの報告1,2)があり,CTやMRIでは腸管脱出を示す典型的な閉鎖孔ヘルニア画像だけに目を奪われずに,対側の閉鎖孔ヘルニアや併存鼠径部ヘルニアの存在についても読影をしなければならない.
 一方,腸管が脱出していない閉鎖孔ヘルニアの画像による存在診断は難しく,CTにて恥骨筋と外閉鎖筋の間隙が10 mm以上に拡大し,さらに軟部組織陰影が認められた場合には閉鎖孔ヘルニアが疑わしいと報告している論文3)もあるが,最終的には術中所見に拠らざるを得ない.

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目次

ページ範囲:P.2 - P.4

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.229 - P.229

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.343 - P.343

奥付

ページ範囲:P.344 - P.344

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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