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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科77巻12号

2022年11月発行

雑誌目次

特集 外科医必携 緊急対応が必要な大腸疾患

ページ範囲:P.1271 - P.1271

 緊急対応を要する大腸疾患は,一般病院から専門病院に至るまで,日常診療でよく遭遇するメジャーな疾患である.一方で,その内容と対処法はまさに千差万別であり,治療法の判断に難渋するケースも決して少なくない.さらに,腹膜炎を呈する状態では重症化することも多く,全身管理の知識も重要となる.結腸/直腸,良性疾患/悪性疾患などで,治療方針を変える必要がある領域であるだけではなく,対応する外科医の経験や施設の環境に応じて,治療法を選択しなければならない.

大腸癌診療での緊急対応

閉塞性大腸癌(大腸ステント/経肛門イレウス管)

著者: 松山貴俊

ページ範囲:P.1272 - P.1276

【ポイント】
◆大腸ステントは経肛門イレウス管と比較して減圧効果が高く,患者のQOLが高い.
◆経肛門イレウス管は連日洗浄し,イレウス管の脇から便汁が出るようになれば抜去する.
◆大腸ステント,経肛門イレウス管で腸管減圧ができたとしても,敗血症や穿孔の発症に十分注意する.

閉塞性大腸癌に対する緊急手術の適応と留意点

著者: 田中佑典 ,   塩見明生 ,   賀川弘康 ,   日野仁嗣 ,   眞部祥一 ,   山岡雄祐

ページ範囲:P.1277 - P.1281

【ポイント】
◆閉塞性大腸癌に対する腹腔鏡下の緊急手術は,腸管拡張による視野確保の困難さ,腸管浮腫による腸管の脆弱性のため,副損傷に十分注意する必要がある.
◆二期的な根治手術を想定して人工肛門造設をする場合,原発巣切除時の腸管再建や尿路再建の方法,脾彎曲授動の要否,ポートサイトなどを考慮して造設部位を決定する.
◆根治性の有無や腫瘍の局在に応じた治療戦略を基本としながらも,患者の全身状態を加味し,総合的に術式を判断する必要がある.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年11月末まで)。

穿孔/穿通による腹膜炎を呈した大腸癌

著者: 浅古謙太郎 ,   松田圭二 ,   橋口陽二郎 ,   井坂巴美 ,   宮田敏弥 ,   福島慶久 ,   金子建介 ,   島田竜 ,   端山軍 ,   野澤慶次郎

ページ範囲:P.1283 - P.1287

【ポイント】
◆重篤な疾患であり,早急な診断と治療が必要である.
◆大腸穿孔と大腸癌を考慮した手術選択を行う.可能ならリンパ節郭清を行うが,あくまで救命が優先である.
◆術後フォローアップでは,腹膜播種や局所再発にも注意する.StageⅡでは術後補助化学療法を考慮する.

直腸癌術後縫合不全

著者: 肥田侯矢 ,   板谷喜朗 ,   岡村亮輔 ,   奥村慎太郎 ,   笠原桂子 ,   藤田悠介 ,   岡本拓也 ,   河田健二 ,   小濵和貴

ページ範囲:P.1289 - P.1295

【ポイント】
◆直腸癌術後縫合不全は外科医が最も避けたい合併症の1つであり,予防も重要である.
◆発症初期は診断が困難なこともあり,適切で迅速な検査が求められる.
◆保存的治療の方法を理解し,必要な場合に人工肛門の造設を検討する.

結腸癌術後縫合不全

著者: 原口直紹 ,   松田宙 ,   藤井善章 ,   西村潤一 ,   安井昌義 ,   大植雅之

ページ範囲:P.1296 - P.1301

【ポイント】
◆縫合不全は,患者の予後ならびにQOLに直結する合併症である.
◆縫合不全の回避にはICGを用いた術中の血流評価が有用であり,加えて,左側結腸の場合には経肛門ドレナージチューブ留置による内減圧が有効である.
◆右側,横行結腸では体腔内吻合で縫合不全が少ないという報告が出ているが,今後さらなる解析が必要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年11月末まで)。

緊急対応が必要な良性疾患

宿便性大腸穿孔

著者: 合田良政 ,   林裕樹 ,   片岡温子 ,   石丸和寛 ,   大谷研介 ,   清松知充 ,   山田和彦 ,   國土典宏 ,   矢野秀朗

ページ範囲:P.1304 - P.1307

【ポイント】
◆宿便性大腸穿孔は,大腸に停留した硬便が大腸壁を圧迫し,粘膜の血流障害から壊死に陥り穿孔をきたすものである.好発部位はS状結腸が最多であり,大腸穿孔の原因のうち約3%を占める比較的まれな病態である.
◆高齢者,長期臥床者,慢性便秘者に多いとされ,症状は非特異的であることが多く,術前に診断することは難しい.慢性便秘者に安易な浣腸の施行は推奨されない.
◆穿孔部位の単純閉鎖などの術式は推奨されず,基本的には穿孔部切除と外瘻化が選択される.

大腸憩室症(保存療法,手術療法)

著者: 小田豊士 ,   山内慎一 ,   高岡亜弓 ,   花岡まりえ ,   岩田乃理子 ,   絹笠祐介

ページ範囲:P.1309 - P.1314

【ポイント】
◆高齢化や食生活の変化により本邦では大腸憩室症の患者は増えてきており,日常診療で大腸憩室症患者に遭遇する機会は多く,本疾患に対応できるスキルは外科医にとって必須である.
◆大腸憩室症には2017年にガイドラインが発表されている.本稿では,そのガイドラインに沿って,大腸憩室症に対する診療について解説する.
◆憩室出血は自然止血するものがほとんどではあるが,内視鏡的止血やIVRが必要となる症例も存在する.憩室炎は抗菌薬加療のみでは奏効せず,手術に至る症例や初診時から手術へ踏み切る症例もある.それぞれ実症例も紹介しつつ解説する.

潰瘍性大腸炎の中毒性巨大結腸症

著者: 桑原隆一 ,   池内浩基

ページ範囲:P.1315 - P.1317

【ポイント】
◆手術は開腹手術で行う.初回手術を結腸全摘術とし,再建を行わない.
◆手術はまず横行結腸中間位に小孔をあけてチューブを挿入し,ガスと便を吸引して減圧を行う.
◆基本的にはS状結腸中央部で切離し,粘液瘻を造設する.炎症が高度な症例には,腹膜翻転部まで切除しHartmann手術とする.

感染性大腸炎—劇症型アメーバ性大腸炎,劇症型クロストリジウム感染症

著者: 金子由香 ,   大森鉄平 ,   鬼塚裕美 ,   前田文 ,   谷公孝 ,   中川了輔 ,   腰野蔵人 ,   近藤宏佳 ,   隈本力 ,   番場嘉子 ,   小川真平 ,   井上雄志 ,   山口茂樹 ,   板橋道朗

ページ範囲:P.1319 - P.1328

【ポイント】
◆下痢・腹痛が遷延する場合,感染が背景にないか疑いの目を向ける.
◆偽陰性に注意.
◆手術のタイミングを逸しないようにする.

非閉塞性腸間膜虚血(NOMI)—Best practiceをupdateしよう!

著者: 横野良典 ,   西沢佑次郎 ,   井上彬 ,   賀川義規

ページ範囲:P.1329 - P.1334

【ポイント】
◆NOMIは身体所見から疑うことが大切.診断には造影CTが有効である.
◆診断後は速やかに血管内治療を行い,血流改善を目指す.
◆Damage control surgeryはNOMIの手術において有効な選択肢の1つである.

S状結腸軸捻転症

著者: 和唐正樹 ,   榊原一郎 ,   泉川孝一 ,   山本久美子 ,   高橋索真 ,   田中盛富 ,   石川茂直 ,   稲葉知己

ページ範囲:P.1335 - P.1338

【ポイント】
◆S状結腸軸捻転症は腹部単純X線検査やCT検査で診断可能である.
◆大腸内視鏡を使用した内視鏡的整復術の成功率は高いが,再発率も高い.
◆根治的な治療は,外科手術によるS状結腸切除術である.

大腸疾患における抗菌薬使用について

著者: 本田仁

ページ範囲:P.1339 - P.1343

【ポイント】
◆(大腸)腸管疾患における抗菌薬使用についての論文が出され,大きな転換期を迎えている.
◆日常臨床において,抗菌薬適正使用の概念をふまえた,治療適応,治療期間,抗菌薬選択に関して十分な検討が必要である.

FOCUS

直腸癌局所再発に関する医師のためのWEB相談システム「CONNECT-LR」

著者: 塚田祐一郎 ,   伊藤雅昭

ページ範囲:P.1344 - P.1349

はじめに
 直腸癌治癒切除後の初回再発部位別の頻度は,骨盤内に再発する局所が9.6%,肺が7.5%,肝が7.3%であり,局所再発の頻度が高いことが直腸癌の特徴である.直腸癌局所再発は外科的切除により根治が期待できるため,「大腸癌治療ガイドライン医師用2019年版」にもR0切除が可能と判断した場合に手術を行うことが推奨されている.しかし,難治性がんである直腸癌局所再発は診断・治療が難しく,手術の難易度が高いうえに切除可能か否かの判断には高い専門性と経験が必要である.
 そこでわれわれは,直腸癌局所再発の治療成績向上のためには遠方の施設からでも直腸癌治療の専門医師にコンサルトしやすい環境の構築が必要と考え,webによる診療情報交換システムを用いた遠隔コンサルテーションシステム(名称:CONNECT-LR,専用ホームページ:https://connect-lr.net/)(図1)を2019年8月に立ち上げた.

How to start up 縦隔鏡下食道亜全摘・10【最終回】

胃管再建のknack & pitfall,縦隔鏡食道手術のトラブルシューティング

著者: 森和彦 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.1350 - P.1356

胃管再建knack & pitfall
縦隔鏡手術での後縦隔胃管再建の困難性
 胸部操作先行で後の仰臥位で後縦隔再建を行っている施設は多いが,これと同じではなく,縦隔鏡手術では胃管の挙上が不良となりやすい.経胸アプローチでは胃管が挙上中にいったん右胸腔に飛び出すことができるのに比して,縦隔鏡手術では挙上経路において縦隔胸膜のみならず奇静脈や右気管支動脈が温存されているため,制限を受けることが胃管挙上困難性の理由となろう.筆者らも以前は頸部からの胃管の挙上の際にテーピングと胃管先端の接続が外れるトラブルを経験した.縦隔鏡手術に限らないが,胃管挙上中に胃管にねじれが生じる可能性もある.筆者らのかつての経験では,十分に注意したつもりでもねじれは防ぎきれず,挙上性のあまりの不良さから,術中内視鏡でねじれが判明し,吻合後につなぎ直しとなった例もあった.

手術器具・手術材料—私のこだわり・11

パワースターバイポーラーシザーズの効果的な使用法

著者: 赤星径一 ,   浅野大輔 ,   石川喜也 ,   渡邊秀一 ,   上田浩樹 ,   小野宏晃 ,   工藤篤 ,   田邉稔

ページ範囲:P.1357 - P.1359

 手術における基本操作「剝離・凝固・切開」を行うために様々なデバイスが使用される.剝離操作は,剝離鉗子やメッツェンバウム剪刃,エナジーデバイスの先端などで行われる.凝固・切開には,電気メスや剪刃,種々のエナジーデバイスが用いられる.ジョンソン・エンド・ジョンソン社のパワースター®バイポーラーシザーズ(以下,パワースター)は,メッツェンバウム剪刃にバイポーラー凝固機能を組み合わせた手術器具であり,「剝離・凝固・切開」を器械の持ち替えなく連続的に行うことができ,スムーズに手術を進めることが可能になる.パワースターの歴史は長く,1997年の発売以降,消化器外科1),産婦人科2),泌尿器科3)の手術などで使用されているが,その性能を最大限引き出すには若干のコツが必要であるため,必ずしも広く普及しているとはいえない.本稿では,パワースターの原理,効果的な使用方法と注意点について解説する.

病院めぐり

新潟白根総合病院外科

著者: 黒﨑功

ページ範囲:P.1361 - P.1361

 新潟白根総合病院は新潟市南区(平成の市町村大合併前は白根市)に位置する.信濃川・阿賀野川の二大河川によって育まれた広大な蒲原平野(新潟平野)のほぼ中央である.沖積平野の成立には何万年もの時が必要であったが,目に見える地政学的特長を一言で言うなら,全く起伏のない平坦さといえる.多数の潟が人工的な排水によって,肥沃で広大,平坦な田園地帯を形成したのだ.しかしながら,上流から運ばれた土砂は絶えず川床に堆積し,度々に川の氾濫を誘発するため,土手は高く,高く盛られてきた.地域で一番高い地点は,建物を除くと橋の上かもしれない.文化的にも,喧嘩大凧は大河を挟んで両岸から太い綱を引き合い,綱がちぎれた側の負けとなる.これは土手の決壊と氾濫を模しているのか? 一方の土手が決壊すれば,もう片方の土手は無事なのである.
 この大凧がなびく空の下に病院が設立されたのは1957(昭和32)年であり,1973(昭和48)年には現在の地所に病院を新築移転し,さらに数年後には増床して現在と同じ規模の病院となっている.戦後,人口は増加してきたが,交通手段も未発達な田園地帯に人を頼りに財源を募り,病院を建築したと聞いている.1975(昭和50)年ごろからは外科は3名体制であり,当時としては活気あふれる外科であったことが伝わっている.現体制の外科は,2013(平成25)年に2名が着任し,新潟大学消化器・一般外科からの出張医1名を加えて3名体制となったことが出発点である.前体制を引き継いだのではなく,全く新しい外科を立ち上げたことによる.小さいながらに緩むことなく日本外科学会専門医制度修練施設となり,また日本消化器外科学会に関しては新潟大学消化器・一般外科の関連施設となっている.2年前には慶應義塾大学の外科教室から1名の着任をいただき,現在は4名体制となっている.

臨床報告

浸潤性小葉癌および浸潤性乳管癌の混合型乳癌の1例

著者: 藤井雅和 ,   野島真治 ,   永瀬隆 ,   山下修 ,   林雅太郎 ,   金田好和

ページ範囲:P.1362 - P.1367

要旨
症例は56歳の女性,主訴は左乳頭血性分泌であった.超音波検査で左CDE区に13×12 mmの低エコー領域を認め,針生検で浸潤性乳管癌と診断された.左乳房全切除術+センチネルリンパ節生検を施行し,術後ステージはpT1N0M0 Stage ⅠAであった.病理組織検査では,腫瘍細胞の多くはE-カドヘリン陰性であるが部位により弱陽性に染まった細胞もみられ,浸潤性小葉癌および浸潤性乳管癌の混合型乳癌と診断した.小葉癌と乳管癌は単一のクローンから発生していると考えられているが,どのようにして乳管癌,小葉癌への異なる分化を呈するのか,また混合型への分化の過程については今後の検討が必要である.

長期経過が確認できた回盲部狭窄原発性腸結核の1切除例

著者: 源寛二 ,   重戸伸幸 ,   三宅俊嗣 ,   池田敏夫

ページ範囲:P.1369 - P.1373

要旨
腸結核は嚥下によって腸管に侵入した結核菌が粘膜下層のリンパ濾胞に感染し,局所治癒再燃を繰返した場合,瘢痕による腸管狭窄に至ると考えられるが,潜伏期間については不詳である.今回,本邦在住15年の移民者腸閉塞症例の精査にて回盲部腫瘍と領域リンパ節転移が疑われたが,10年前と4年前の腹部CT所見から,経時的に増悪する盲腸壁の肥厚や上行結腸の短縮,領域腸間膜リンパ節腫大を認め,病変部生検結果から多核巨細胞を伴う類上皮肉芽腫が確認された.インターフェロンγ遊離試験陽性であり,原発性回盲部腸結核による腸閉塞と診断し,腹腔鏡下結腸右半切除を施行した.発症まで10年の経過を確認できた,まれな症例と思われた.

短期間に多発乳癌,多発胃癌,悪性リンパ腫を発症した毛細血管拡張性運動失調症の1例

著者: 館花明彦 ,   河合宏美 ,   井上泰

ページ範囲:P.1375 - P.1380

要旨
 毛細血管拡張性運動失調症(ataxia telangiectasia:AT)は常染色体劣性遺伝形式をとるまれな疾患である.運動失調,毛細血管拡張,免疫不全などを主症状とし,免疫異常や悪性腫瘍により多くは20代前半までに死亡する.今回,AT治療中の30代の短期間で,異時性多発悪性腫瘍により死亡の転帰をとった1例を経験した.症例は初診時33歳の女性で,左右同時乳癌に対し手術を施行し,34歳時に同時性多発胃癌に対し幽門側胃切除が施行され,37歳でT細胞性悪性リンパ腫により死亡の転帰となった.AT患者は被曝が問題となり,検査計画に難渋する.本症例も癌検診および転移再発検索には繊細な配慮が必要であった.
 今回,30代で初回の悪性腫瘍が発生し,短期間に多発し死亡の転帰となったATの1例を報告する.

下行結腸癌に対する腹腔鏡下結腸左半切除術後に発生し腹腔鏡下に切除した大網デスモイド腫瘍の1例

著者: 永野慎之介 ,   廣瀬創 ,   杢谷友香子 ,   吉岡慎一 ,   竹田雅司 ,   田村茂行

ページ範囲:P.1381 - P.1385

要旨
症例は72歳,男性.下行結腸癌に対して腹腔鏡下結腸左半切除術を施行された.病理組織検査ではpT3N0M0 pStage Ⅱaであり,外来経過観察中であった.術後2年のCTで吻合部近傍に25 mm大の低吸収腫瘤を指摘され,PET-CTではSUVmax 1.56と軽度のFDG集積を認めた.以上より結腸癌術後播種再発の疑いで,腹腔鏡下試験開腹術を施行した.吻合部近傍と大網が軽度癒着しており,同部位に腫瘤を認めたため,結腸間膜と大網を一部腫瘤側につけるようにして切除した.病理組織検査では,大腸癌の再発を疑う所見はみられず,デスモイド腫瘍と診断された.腹腔鏡手術後のデスモイド腫瘍の報告はまだ少なく,注意深い経過観察が必要である.

書評

—勝俣範之,東 光久(編)—ジェネラリストのためのがん診療ポケットブック

著者: 上田剛士

ページ範囲:P.1302 - P.1302

 ジェネラリストにとって心強い味方ができた.『ジェネラリストのためのがん診療ポケットブック』である.2人に1人はがんに罹(り)患(かん)し,3人に1人はがんで死亡している時代において,がん診療はジェネラリストにとって避けることのできない分野である.患者・社会からのニーズも高く,この分野に臨むことはやりがいがあることは言うまでもない.その一方で,がん診療は壮大な学問であり,ジェネラリストが挑むにはいささかハードルが高かった.本書ではがん診療のメインストリームであろう薬物療法についてあえて深く踏み入らないことで,このハードルを一気に下げた.その代わりにジェネラリストが知りたい内容が盛りだくさんとなっており,がん薬物療法を普段行っていないジェネラリストのために特化した一冊である.
 例えばがんの予防については患者からの質問も多く,ジェネラリストにとって知らなければならない知識の一つであるが,「がんの19.5%が喫煙による」「適度な運動はがん死亡リスクを5%下げる」などの具体的な記述は患者指導に大いに役立つであろう.また,がんのリスクとなる食品,リスクを下げる食品についても言及されている.がんを疑う徴候に関しても,例えば,Leser-Trélat徴候は3-6か月以内の急性発症で瘙痒感を伴うことが脂漏性角化症との違いなど,臨床的に重要な知識が詰め込まれている.

—森田達也,木澤義之(監修) 西 智弘,松本禎久,森 雅紀,山口 崇(編)—緩和ケアレジデントマニュアル 第2版

著者: 柏木秀行

ページ範囲:P.1308 - P.1308

 レジデントマニュアルシリーズと聞けば,「片手で持てて,ポケットに入るけど,ちょっと厚めのマニュアルね」と多くの人がイメージする.そのくらい,各領域に抜群の信頼性を備えた診療マニュアルとして位置付けられ,定番中の定番だろう.そんなレジデントマニュアルに,緩和ケアが仲間入りしたのが2016年であった.初版も緩和ケアにかかわる幅広い論点を網羅していたが,さらに充実したというのが第2版を手にとっての感想である.
 緩和ケアもここ数年で大きく変化した.心不全をはじめとした非がん疾患をも対象とし,今後の症状緩和のアプローチが変わっていくような薬剤も出てきた.こういったアップデートをふんだんに盛り込んだのが第2版である.緩和ケアに関するマニュアルも増えてきたが,網羅性という点において間違いなく最強であろう.そう考えると分厚さも,「これだけのことを網羅しておいて,よくこの厚さに抑えたものだ」と感じられる.

—Anne M. R. Agur,Arthur F. Dalley(原著) 坂井建雄(監訳) 小林 靖,小林直人,市村浩一郎,西井清雅(訳)—グラント解剖学図譜 第8版

著者: 森正樹

ページ範囲:P.1360 - P.1360

 本書の原著はスコットランド生まれでカナダのトロント大などで活躍したGrant教授により1943年に初版が出版された.本書はその第15版の日本語訳本であり,坂井建雄先生の監訳のもと4名の卓越した解剖学者の翻訳により出版された.原著は当初より専門教育を受けた医学画家の手により精密に描かれており,その後,多くの関係者の手に引き継がれながら完成度を高めてきた.当初は木炭粉画で白黒調だったが,原画の高解像度スキャンによる再彩色により,魅力的な器官の輝きと組織の透明感が高まり,単なる彩色では達成できない深い可視化ができており,臨場感が一段と増している.
 坂井先生が序で書かれているように,本書は「知識をもとに頭の中で組み立てられたもの」ではなく,一切の予備的知識を捨てて,純粋にありのままの姿を描くことを基本としている.例えば外科医が初期に行う手術として鼡径ヘルニアの手術がある.多くの外科書では鼡径管と周囲臓器の関係が概念的に描かれているので,研修医には理解が容易でない.私自身も外科医になりたてのころは,実際の解剖学的鼡径管の構造が理解できなかった.本書では二次元図ではあるものの,深鼡径輪から浅鼡径輪までの道筋が周囲の筋肉や靱帯と共に俯(ふ)瞰(かん)的に描かれており,極めて容易に理解できる.

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目次

ページ範囲:P.1268 - P.1269

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.1307 - P.1307

原稿募集 私の工夫—手術・処置・手順

ページ範囲:P.1373 - P.1373

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1390 - P.1390

次号予告

ページ範囲:P.1391 - P.1391

あとがき

著者: 絹笠祐介

ページ範囲:P.1392 - P.1392

 今回の特集は緊急対応が必要な大腸疾患でした.前任地でのがん専門病院でも,大腸外科は緊急手術が多く,われわれが手術室の受付に来ると,「また? 勘弁して〜」と嫌がられる診療科でしたが,大学という総合病院に赴任すると,その数はがんセンターの比ではなく,診療科全体の手術件数の1/3を占めるほどです.いくら予定手術の合併症を減らしても,本特集のように,緊急対応が必要な大腸疾患は多岐にわたり,われわれの職場環境を悪くする大きな原因となっています.
 先日,英国で活躍する日本人外科医から,英国での仕事環境を伺う機会を得ました.通常手術はマスクを着けないでしているなど,大変興味深い内容でしたが,なかでも医師の働き方の違いには大変驚きました.2日間にわたる大きな手術の場合は,日中に一度手術をやめ,翌日に再開するとのことです.極度の疲労に加え,夜間に麻酔科医や看護師などを総動員して手術をやることに何もメリットはなく,まさに目からウロコのお話でした.合併症の対応も含め,時間外での診療は許されておらず,別チームが行うなどの分業もしっかり規定されており,まさにこれから日本が目指す働き方改革を一歩も二歩も先を行っている印象です.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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