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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科77巻3号

2022年03月発行

雑誌目次

特集 肝胆膵術後合併症—どう防ぐ? どう対処する?

ページ範囲:P.255 - P.255

 肝胆膵外科手術は高難度かつ長時間に及ぶものが多い.そのため,必然的に術後合併症は多岐にわたり,その予防や治療法は手術の成否を決定する重要な要素である.また,近年の患者の高齢化に伴い,周術期管理における注意点も増えている.肝胆膵外科の術後合併症についてどのように対処すべきか,その手術法の改善も含めた予防法や治療法について,第一線で活躍するエキスパートにまとめていただいた.

肝臓外科

肝切除後胆汁漏の危険因子,予防法,治療

著者: 坂本太郎 ,   安田淳吾 ,   奥井紀光 ,   柴浩明 ,   遠山洋一 ,   後町武志 ,   池上徹

ページ範囲:P.256 - P.261

【ポイント】
◆胆汁漏が起きやすい状況を知り,繊細な手技を心がける.
◆離断型(非交通型)胆汁漏は難治性であり,その予防に努める.
◆胆汁漏の治療法を知り,早期治癒を心がける.

術後肝不全—術前評価,処置,治療法

著者: 野田剛広 ,   小林省吾 ,   土岐祐一郎 ,   江口英利

ページ範囲:P.263 - P.267

【ポイント】
◆術後肝不全は,術後5日目以降にプロトロンビン時間の延長,総ビリルビン値の上昇を認めるものと定義されている.
◆危険因子の把握,詳細な術前評価,適切な術式選択を行い,術後肝不全の発症予防に努めることが重要である.
◆治療の原則は,全身管理のうえ,肝不全の原因である肝機能障害の原因を取り除き,肝再生を促進させることである.

肝動脈血栓症(HAT)

著者: 奥村晋也 ,   伊藤孝司 ,   小川絵里 ,   波多野悦朗

ページ範囲:P.268 - P.275

【ポイント】
◆肝動脈血栓症(hepatic artery thrombosis:HAT)は,肝移植後の重篤な合併症の一つであり,グラフト不全や胆管合併症の原因となる.
◆HATの発症を防ぐことが最も重要であり,予防のためには,適切な手術操作と,きめ細やかな術後管理が重要となる.
◆術後早期は肝動脈血流の評価を綿密に行い,血流低下を見逃さないことが重要である.さらに,HAT発症時には再吻合を含めた迅速な対応が必要である.

肝静脈狭窄

著者: 三原裕一郎 ,   赤松延久 ,   長谷川潔

ページ範囲:P.276 - P.281

【ポイント】
◆肝臓手術での合併症としての肝静脈狭窄による肝静脈血の流出路障害(HVOO)は肝切除術ではきわめて稀だが,生体肝移植ではしばしば経験する合併症である.
◆HVOOはBudd-Chiari症候群様の病態を呈することが多く,短期間で急性肝不全に進展する場合もある.
◆HVOOに対する治療はIVRが基本であるが,術直後に発症するHVOOでは手術による位置補正が有効な場合もある.

門脈吻合部狭窄・血栓症

著者: 原田昇 ,   吉住朋晴 ,   松浦俊治

ページ範囲:P.282 - P.287

【ポイント】
◆肝臓外科術後の門脈吻合部狭窄は,稀な合併症ではあるが,肝切除に付随して門脈腫瘍栓などによる門脈合併切除再建後,そして肝移植における門脈吻合再建後に認められることは周知のことである.
◆手術技術的に早期に門脈吻合部狭窄が認められる場合と晩期に血管の線維化や腫瘍再発,浸潤,門脈血栓などによって門脈吻合部狭窄が認められる場合に大きく分けられる.
◆周術期における門脈吻合部狭窄は,腸管うっ血・難治性腹水・肝機能障害などの原因となり,周術期管理において不利益となる.急速に門脈血流が障害されると,肝不全・播種性血管内凝固症候群といった重篤な病態に陥ってしまうため,早期発見・早期治療が不可欠である.また慢性期に移行し,血栓が基質化すると,門脈圧亢進症を発症し,食道および胃静脈瘤を発生させ,静脈瘤出血を引き起こす.
◆診断は非侵襲的で感度も高い超音波検査を中心に,採血およびCT/MRI,直接門脈血管造影も併用して総合的に行う.
◆治療としては,門脈ステントによる血管内治療,血栓症であれば抗凝固療法や外科的治療も選択肢となるが,依然確立された治療方針はない.本稿ではこれまでの報告に基づき,門脈吻合部狭窄・血栓症について概説したい.

胆道・膵臓外科

胆管空腸吻合部縫合不全,狭窄

著者: 山田美保子 ,   杉浦禎一 ,   蘆田良 ,   大木克久 ,   大塚新平 ,   石渡裕俊 ,   新槇剛 ,   上坂克彦

ページ範囲:P.289 - P.293

【ポイント】
◆胆管空腸吻合部の縫合不全の治療戦略として,再手術は常に念頭におく.
◆再手術時は副損傷に留意し無理な再吻合は避け,ドレナージに重点をおく.
◆胆管空腸吻合部の良性狭窄は術後晩期合併症の一つであり,内視鏡的治療が奏効することが多い.

膵切除術後の膵液瘻

著者: 大庭篤志 ,   加藤智敬 ,   小林光助 ,   井上陽介 ,   小野嘉大 ,   佐藤崇文 ,   伊藤寛倫 ,   髙橋祐

ページ範囲:P.294 - P.299

【ポイント】
◆膵頭十二指腸切除(PD)の再建は,膵管空腸吻合法とドレーンマネージメントが同等に重要であると考える.
◆膵体尾部切除(DP)は空腸パッチ術が有効であり,供覧する.
◆ドレーン早期抜去のメリットとデメリットについてまとめる.

膵切除術後の膵液瘻併存術後出血への対応

著者: 瀧下智恵 ,   永川裕一 ,   小薗真吾 ,   刑部弘哲 ,   中川直哉 ,   中川暢彦 ,   大澤高陽 ,   本多正幸

ページ範囲:P.300 - P.304

【ポイント】
◆膵切除術に特有の膵液瘻に関連した遅発性出血に対する予防,注意点を知っておく.
◆出血時には迅速な対応が必要なため,各施設における対策・処置についてチーム内で共有しておくことが重要である.
◆止血処置のそれぞれの利点,欠点について確認しておく.

胃内容停滞,吻合部狭窄,吻合部潰瘍

著者: 吉田寛 ,   吉岡正人 ,   松下晃

ページ範囲:P.307 - P.309

【ポイント】
◆胃内容停滞:胃十二指腸の偏位・運動障害などで胃内容停滞が出現する.大網固定法や薬物療法にて治療する.
◆吻合部狭窄:縫合不全や血流障害にて出現し,特に胆管空腸吻合部狭窄の治療は難渋する.
◆吻合部潰瘍:頻度は低くなったが,時にみられる合併症である.禁食にして抗潰瘍薬,粘膜保護薬の投与で対応する.

膵切除術後糖尿病

著者: 植村修一郎 ,   樋口亮太 ,   出雲渉 ,   本田五郎

ページ範囲:P.311 - P.315

【ポイント】
◆膵切除術後の糖尿病ではインスリンのみならずグルカゴンの分泌も低下するため血糖の乱高下が生じやすく,2型糖尿病と比較して血糖コントロールが難しい.
◆耐糖能異常を早期に発見するために,膵切除術後の定期的なスクリーニングは必須である.
◆術後糖尿病発症のリスク因子が知られており,ハイリスク症例ではより厳重な経過観察が必要である.
◆インスリン療法の発達や膵酵素製剤の進歩により,膵全摘後においても安定した血糖コントロールが得られるようになった.

膵切除後の合併症—下痢,消化吸収障害,脂肪肝

著者: 金田広志 ,   渋谷和人 ,   吉岡伊作 ,   平野勝久 ,   渡辺徹 ,   五十嵐隆通 ,   馬場逸人 ,   田中晴祥 ,   東松由羽子 ,   魚谷倫史 ,   北條荘三 ,   松井恒志 ,   奥村知之 ,   藤井努

ページ範囲:P.316 - P.320

【ポイント】
◆膵切除術は消化器外科分野のなかでも高難度の手術であり,短期的な合併症はもちろん長期的にも合併症が高率に起こる.
◆術後長期的な合併症として下痢,消化吸収障害,脂肪肝が高率で認められ,時に難治性であり,QOL低下を招く.
◆薬物治療を中心とした早期治療介入をすることにより,QOLの向上および栄養状態の改善が見込める.

膵切除後の乳び漏—原因と治療

著者: 寺井太一 ,   庄雅之

ページ範囲:P.322 - P.325

【ポイント】
◆膵切除後の乳び漏は10%程度にみられる合併症であり,脱水,栄養状態や免疫状態の低下をきたしうる.
◆乳び漏の原因は術中のリンパ管の損傷や縫合,エネルギーデバイスのシーリング不足に起因する.
◆そのほとんどが絶食,酢酸オクトレオチド投与などの保存的加療で治癒する.

脾摘後合併症

著者: 藤山芳樹 ,   三島江平 ,   尾崎貴洋 ,   森昭三 ,   安藤拓 ,   勅使河原優 ,   井上裕貴 ,   海瀬理可 ,   筒井敦子 ,   岡本信彦 ,   大村健二 ,   若林剛

ページ範囲:P.326 - P.329

【ポイント】
◆早期合併症である膵液漏の予防には,膵尾部との位置関係や脾臓体積などを術前画像で確認し,脾門部の処理に関して術前にシミュレーションしておくことが重要である.
◆早期合併症である術後出血の予防として,脾摘患者には特発性血小板減少性紫斑病(ITP)による血小板減少や肝硬変による凝固異常など,潜在的に出血リスクが高い疾患が存在することを認識し,症例に応じて術前輸血を含めた周術期管理を行うことが重要である.
◆晩期合併症のなかでもoverwhelming post splenectomy infection(OPSI)は発症すれば致死率が高い病態である.肺炎球菌が起炎菌として最多であり,5年おきの適切なワクチン接種が必要である.
◆脾摘後患者は血栓症ハイリスク群であることを念頭に,門脈血栓症,深部静脈血栓症の早期診断,治療に努める.

FOCUS

「胃癌治療ガイドライン第6版」改訂のポイント

著者: 寺島雅典

ページ範囲:P.330 - P.334

はじめに
 胃癌治療ガイドラインは2001年に初版が刊行されて以来,数年ごとに改訂が繰り返されており,今回は第6版として2021年7月に刊行された.今回の改訂において第5版と最も異なる点はそのスタイルであり,他のがん診療ガイドラインと同様にMinds診療ガイドラインに準じた形で作成された1).すなわち,テキスト文の形式の部分はあまり変わりがないが,クリニカルクエスチョン(CQ)は,スコープに基づいて重要臨床課題を決定した後に,patients, problem, population(P), intervention(I), comparisons, controls(C), outcomes(O)から作成された.さらに,各CQに対してガイドライン作成委員とは独立したシステマティックレビュー委員が文献を調査し,エビデンスをまとめ,エビデンスレベル(Ⅰ〜Ⅵ),エビデンスの強さ(A〜D)を決定した.これらのエビデンス総体に基づいてガイドライン作成委員の合議により推奨の強さを決定した
 また,できあがったガイドラインはこれまで通りガイドライン評価委員に提出し意見を求めるとともに,ホームページ上に掲載し,学会員からのpublic commentを求めた.また,患者・市民参画(patient public involvement:PPI)の一環として,患者・市民の代表の方からもご意見を頂戴した.以下に,外科領域の内容に関して第5版と異なった点,および主要なCQに関して紹介する.

手術器具・手術材料—私のこだわり・3

肝圧排器具 ヘパリフトX®

著者: 藤原道隆 ,   小寺泰弘

ページ範囲:P.335 - P.337

開発の背景
 腹腔鏡下胃切除や逆流防止手術において,術野展開のため肝左葉を圧排する種々の方法が行われている.最も一般的に使用されている鋼製のNathanson鉤は,以前よく行われていたペンローズを使用する方法に比べ挿入手技が簡便だが,ソフトな圧排法に比べて術後の肝酵素上昇が大きく,5 mm径トロッカーと同程度の挿入創が余分に必要である.また,近年比較的多く使用されるシリコンディスク板は,Nathanson鉤と併用すると「クッション」として有用であるが,糸で固定した場合,肝臓の形態に合った配置でなく術野にはみ出し気味であるなど,必要十分な圧排となっていない場合がある.ペンローズ法は,過不足なくソフトな圧排を行いやすいが,いわば肝臓を「つり上げる」方法なので,Nathanson鉤同様,局所的な肝の虚血所見を見ることがあり,手技においては,肝冠状間膜を切開し肝背面のbare areaを剝離してペンローズを肝背面に通す作業に少々慣れを要し,肥満症例では困難なことがある.さらに,ペンローズを加工し,体腔内に入れて臓器圧排目的に使用するのは,最近問題になることが多い「適応外使用」にあたる.
 このため,ペンローズ法の発展型で,様々な体格の患者に加工を加えることなく,留置手技が比較的簡単で,肝に愛護的でかつ圧排の強さ調節も容易な器具として,ヘパリフトX®(オオサキメディカル)を開発した.

How to start up 縦隔鏡下食道亜全摘・3

頸部縦隔鏡操作の概要,食道背側操作

著者: 森和彦 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.338 - P.346

頸部縦隔鏡操作の概要
 頸部縦隔鏡の必要最小限のタスクは,気管気管支および左反回神経と,食道および領域リンパ節の完全な分離,つまり上縦隔における食道の全周,全長の剝離である.さらに,中縦隔には経裂孔操作が及びづらいので,頸部縦隔鏡で可能な限り尾側まで剝離を行っておく.
 食道の各方向にある解剖が見え始める前にその存在に関して十分に認識できるように図1を活用していただきたい.概ね,①食道背側,②③食道右側,④臓器鞘,⑤大動脈弓内側の順に上縦隔剝離操作を進める.①は食道背面の筋層に沿って,②は気管の左壁に沿っての剝離なので迷いなく進められ,③は①と②でできた空洞に挟まれた板状の組織を鋭的にシールカットする形となり,これも容易である.一方,④と⑤には細い気管支動脈,反回神経に向かう神経の小枝および随伴する主血管があるため,剝離はやや困難である.①と③の剝離は上縦隔にとどまらず中縦隔に至るまで,続けて進めることが容易である.

病院めぐり

福井県立病院外科

著者: 道傳研司

ページ範囲:P.347 - P.347

 福井県は木の芽山嶺を境に,嶺北地区と嶺南地区に分かれています.観光地としては,嶺北地区に一乗谷浅倉氏遺跡,東尋坊,永平寺,福井県立恐竜博物館などが,嶺南地区に三方五湖や福井県年縞博物館などが知られています.また,アウトドア派の方には,九頭竜川や玄達瀬,荒島岳などがよく知られています.
 当院は,福井県の4つの二次医療圏のなかで県の全人口(2021年10月現在,76万人余り)のおよそ半分を占める福井・坂井医療圏に位置しています.当院は1950年に創立され,2000年に福井県立精神病院と組織統合し,一時期,1,082床と全国有数の病床数となりました.その後,病床数は少しずつ減少しました.福井県の地域医療構想もあり,さらなる病床数削減が計画されていた折,2020年に新型コロナウイルス感染症のパンデミックを迎え,マンパワー確保が急務となり,前倒しで大規模な病床数削減を行いました.2021年11月現在,許可病床数は809床となっています.その一方で,高度急性期病院としての機能強化も進めており,2011年には陽子線がん治療センターを開設しました.2018年4月にはハイブリッド手術室を整備して,血管内治療を伴う手術をより高度かつ確実に実施可能としました.また,コロナ禍ではありますが,2021年4月には遺伝外来・がんゲノム外来を新設し,同年5月からはドクターヘリの運航も開始しています.

臨床報告

CT検査で術前診断し得た魚骨による肛門周囲膿瘍の2例

著者: 板野聡 ,   谷口信將 ,   堀木貞幸 ,   寺田紀彦

ページ範囲:P.349 - P.352

要旨
CT検査で術前診断し得た魚骨による肛門周囲膿瘍の2例を経験したので報告する.症例1は68歳,男性.主訴は肛門痛と排便困難.CT検査および肛門指診,問診から魚骨の刺入による肛門周囲膿瘍と診断し,緊急手術を行った.肛門歯状線で7時方向に刺入する魚骨を確認し,摘出した.魚骨は2.5 cm長あり,その約1/2が刺入していた.痔瘻に準じて根治術を行った.症例2は59歳,男性.主訴は肛門痛と腫瘤.理学的所見から肛門周囲膿瘍と診断され,CT検査で膿瘍腔内に直線状の異物を認め,問診から魚骨の穿通と診断した.膿瘍切開術を行い,2.5 cm長の魚骨を摘出した.異物誤飲に伴う合併症のなかで,魚骨による肛門周囲膿瘍は比較的稀であり,若干の文献的考察を加えて報告する.

ANCA関連血管炎の初発症状として発症した腸間膜脂肪織炎の1例

著者: 佐原稚基 ,   桐山茂久 ,   山口和哉 ,   東裏將己 ,   西野栄世

ページ範囲:P.353 - P.357

要旨
症例は76歳,女性.発熱,腹痛を主訴に腹腔内膿瘍を疑い入院した.保存的に加療を行ったが,血液や腹水の細菌培養は陰性で,抗菌薬は十分な効果が得られなかった.腹部CT所見,審査腹腔鏡所見と生検結果から,腸間膜脂肪織炎と診断した.しかし,その後の経過でANCA関連血管炎の存在が判明した.今回の症例では,全身性血管炎の存在が明らかとなる前に,腸間膜脂肪織炎として発症した稀な症例であると思われた.
 ANCA関連血管炎は近年増加傾向であり,予後不良な急速進行性糸球体腎炎を示すことがあるため,早期の診断,治療が要求される.一般外科医においても周知しておくべき内科疾患であると考えられた.

腹腔鏡下に切除を行った直腸癌腸重積の1例

著者: 米盛圭一 ,   日高敬文 ,   吉留伸郎 ,   原口優清 ,   大塚隆生

ページ範囲:P.359 - P.364

要旨
症例は60代,男性.半年前から下痢症状があり近医で経過観察されていた.症状の悪化があり下部消化管内視鏡検査を行ったところ,上部直腸に隆起性病変を認め,当科紹介受診となった.腹部CT検査で直腸内に腸管の陥入と,先進部に腫瘤性病変を認めた.口側腸管は著明に拡張し,直腸癌腸重積による亜腸閉塞と診断した.待機手術を予定したが腸閉塞の改善がなく,緊急で横行結腸人工肛門造設術を行った.追加精査ではRSの直腸癌と,S状結腸にIpポリープ,Ispポリープを認めた.後日腹腔鏡下高位前方切除術を行い,最終診断はRS,pT3,pN0,pStage Ⅱaであった.Ipポリープも癌で,pTis,pStage 0であった.

術前のTAEにより安全に肝切除を施行した巨大肝左葉血管腫の1例

著者: 長田圭司 ,   中村公治郎 ,   岩﨑純治 ,   畑俊行 ,   伊丹淳 ,   京極高久

ページ範囲:P.367 - P.372

要旨
肝血管腫は比較的頻度の高い肝良性腫瘍である.10 cmを超える症例では破裂や腫瘍内出血など重篤な合併症を生じる危険性があるため,外科的切除の適応があると報告されている.症例は40代,女性.肝左葉の巨大血管腫に対し経過観察をしていたが,血管腫の増大傾向(最大径18 cm)を認めたため肝左葉切除術を施行した.手術前日に術中出血コントロール目的で選択的肝動脈塞栓療法(transcatheter arterial embolization:TAE)を行った.術中所見では肝血管腫の緊満感は消失していた.術中出血量は914 gであり,巨大肝血管腫に対し輸血することなく安全に摘出した.術前にTAEを行うことで術中出血のコントロールが可能となり,巨大肝血管腫に対する安全な治療戦略となりうる.

書評

—中村好一(著)—基礎から学ぶ楽しい学会発表・論文執筆 第2版

著者: 村嶋幸代

ページ範囲:P.305 - P.305

 読みやすく,楽しく,ためになる本である.著者の意欲と熱意,そして,適度な遊び心が伝わってくる好著である.学会発表から論文執筆に至る必要な事項とコツが具体的に解説されている.ソフトな語り口で,しかし,抑えておくべきポイントや忠告はしっかりと書いてある.保健活動を科学的なものにし,かつ知見を蓄積して効果的に実施していけるようにすべきだという著者の「想い」が伝わってくるような本である.
 例えば,「第1部 研究の進め方」では,「なぜ,研究を行うのか」という基本的な問いから始まり,「指導者を得ることの重要性」が述べられている.同時に,倫理的配慮と「なぜ,学会発表/論文公表が必要なのか」が,納得のいくように記載されている.「第2部 主要4部分の書き方,まとめ方」では,緒言・方法・結果・考察の4部分と図表の作成について,書き方の順番,図表の効果的な活用方法,さらに「べからず集」もあり,著者の持つノウハウが豊富に提示されている.「第3部 学会発表」では,学会選び,抄録・スライド・ポスターの作成,口演とポスター発表の違い,発表原稿の作り方などが,また「第4部 論文執筆・刊行」では,投稿雑誌の選び方,投稿規定を読む重要性,編集委員会とのやりとり,さらに査読を依頼された場合の心得など,基本的で実用的な情報が満載である.「第5部 エピローグ」では,論文執筆の参考書籍も掲載され,有用である.時々に挟みこまれる「デッドセクション」では,著者のエスプリが表れている.楽しく読みながら,ポイントを学べ,実用にもなる本である.

—小坂眞一(著)—切る・縫う・結ぶ・止める—外科基本手技+応用スキル[Web動画付]

著者: 宮入剛

ページ範囲:P.310 - P.310

 本書のタイトル『切る・縫う・結ぶ・止める』は外科手術の基本である.初めて手術室に足を踏み入れた研修医の時代から,先輩医師に口を酸っぱくして指導された手術手技のイロハである.例えば,駆け出しの時代に,椅子の背柱や机の脚などで繰り返し糸結びを練習した記憶は,どの外科医にも残っているであろう.しかし,それらの動作を巨細な指の動きのレベルまで突き詰めた外科医は,そう多くないはずである.
 本書は,外科医であれば普段何気なく行っている数々の基本手技を,手や腕の解剖学的特性から説き起こした他に類を見ない内容となっている.それらのメカニズムが,多数の写真やイラストによって解き明かされていくさまは,まるでベン・ホーガンの『モダン・ゴルフ』のように鮮やかである.あまつさえ,本書には著者自らが実演する動画が86本も添付されていて,実際の動作を見ながら学べるというおまけ付きである.

—辻本哲郎(著)—これで解決! みんなの臨床研究・論文作成

著者: 後藤温

ページ範囲:P.325 - P.325

 本書の著者・辻本哲郎先生は,私が国際医療研究センターに勤めていた頃の同僚で,『Diabetes Care』『Hypertension』をはじめとする,一流誌に多数の論文を発表し続けている臨床研究のトップランナーの一人です.
 どうすれば,辻本先生のようにハイペースで,かつインパクトのある論文を執筆できるのか,いつかこっそり教えていただきたいと思っておりました.本書は,臨床研究の論文作成を究めた辻本先生による秘伝の書となっており,論文を書くためのイロハと,良い雑誌に採択されるための秘訣がちりばめられています.

—日本クリニカルパス学会 学術・出版委員会(監修)—現場で使える クリニカルパス実践テキスト 第2版

著者: 真田弘美

ページ範囲:P.365 - P.365

 本書『現場で使える クリニカルパス実践テキスト 第2版』では,クリニカルパス(以下,パス)の持つ意義を最大限引き出しながら,活用するための基本的ノウハウから実例を踏まえたヒントまで,実践ポイントがふんだんに盛り込まれている.初版と比べるとパスの組織づくりや運用の実例などの内容がさらに充実しており,これからパスを学びたい人はもちろんのこと,すでにパスにかかわっている医療職にもぜひ手にとっていただきたい一冊である.
 パスで重要な点は“患者中心”のアウトカム達成にある.最近入院した友人が見せてくれた入院時の説明の中に,患者用パスが含まれていた.友人は,退院後の予定をあれこれと話し,手術に対する大きな期待を語ってくれた.その話を聞きながら,パスは不安の除去ばかりでなく将来への希望をつなぐ大切な手引きであることを実感した.医療者にとってパスは,最適効率で患者目標を達成し,在院日数短縮をめざすために非常に合理的な方法であることは違いない.ただ,われわれが忘れていけないことを著者らは何度も強調している.誰のためのパスなのか,業務の効率性を優先するのでなく,あらためて患者中心のパスであるという極めて大事なマインドを思い出させてくれる.

学会告知板

第5回 日本臨床肛門病学会学術集会 開催案内

ページ範囲:P.329 - P.329

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目次

ページ範囲:P.252 - P.253

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.364 - P.364

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.376 - P.376

次号予告

ページ範囲:P.377 - P.377

あとがき

著者: 田邉稔

ページ範囲:P.378 - P.378

回想 東京オリンピック2020
 今日は2021年7月23日,スポーツの日で祝日.1年延期になった東京オリンピックだが,いよいよ今晩開会式が行われる.昼にはブルーインパルスが編隊を組んで,国立競技場の上空で五輪の輪を描くとの前情報.朝起きて妻と顔を合わせて一言,「今日見に行く?」「不要不急の外出は控えるように,と言われているけど……」と話しながらも,2人とも心はすでに扉の外.マスクをして自転車で広いところに行けば文句は言われまい,ということで,国立競技場に近い代々木公園に向かった.ネット情報によると,午後0時40分から約15分間,東京都庁を通過し,スカイツリー,国立競技場上空を飛行予定とのこと.
 最近メディアでは,オリンピックに対するネガティブな報道が飛び交っている.無観客開催で盛り下がり! 感染拡大助長! 膨大な予算! 税金の無駄遣い! ……でも自分はというと,ワクワク,ソワソワ,一生に一度あるかないかのオリンピック自国開催.しかも都内の近所で開かれるとなれば,冷静でいられるわけがない.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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