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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科77巻4号

2022年04月発行

雑誌目次

特集 そろそろ真剣に考えよう 胃癌に対するロボット支援手術

ページ範囲:P.383 - P.383

 腹(胸)腔鏡下で融通の利きにくい長い鉗子を操りながら繊細な手術を行うのは苦行である.わが国の消化器外科医はこのような困難な手術操作を,時間をかけて高いレベルまで昇華させた.涙ぐましい修練と工夫の賜物である.ところが,ロボットの出現により,そのような修練をテクノロジーの進歩でカバーして目的を達成できる時代となってしまった.腹(胸)腔鏡下手術がそこまでのレベルに達していない領域では,ロボット支援手術の利点を示すのは容易であろう.一方,腹(胸)腔鏡下手術の技術において,すでに高いレベルにあるわが国の胃外科医たちにとっては,今さら臨床的なアウトカムにおいてロボットの利点を証明するのは困難であった.にもかかわらず,これまで腹(胸)腔鏡下手術の可能性を大きく拡げてきた,わが国を代表する胃外科医たちが,ロボット支援胃切除術に熱心に取り組んでいる.そこにさらなるポテンシャルが感じられるからであろう.今,どうやってロボット支援手術を導入すればよいのか.そして,努力した暁にはどこまでのことができるようになるのか.本特集でぜひ学んでいただきたい.

ロボット支援手術を始めるために

今,なぜ胃癌にロボット支援手術を行うのか—胃癌に対するロボット支援手術のエビデンス

著者: 小濱和貴 ,   久森重夫 ,   錦織達人 ,   星野伸晃 ,   住井敦彦 ,   角田茂

ページ範囲:P.384 - P.387

【ポイント】
◆ロボット支援胃癌手術の短期成績に関するエビデンスが報告されつつあるが,合併症軽減についてはまだ議論の余地がある.
◆ロボット支援胃癌手術のラーニングカーブは25例程度であるが,その途上の合併症発生には十分留意する必要がある.
◆Surgeon autonomyという考え方は,ロボット支援手術のアドバンテージを理解するうえで重要なコンセプトである.

ロボット支援胃癌手術のチーム編成と立ち上げ

著者: 野原京子 ,   八木秀祐 ,   榎本直記 ,   竹村信行 ,   清松知充 ,   山田和彦 ,   國土典宏

ページ範囲:P.388 - P.392

【ポイント】
◆ロボット支援下胃切除術の新規導入には,ロボットの特性を知り,knack & pitfallsを理解することが肝要である.
◆多職種(外科医,麻酔科医,看護師,臨床工学技士)のチームビルディングを行い,手術見学やシミュレーションを積み重ねて,自施設に適した方法を選択する.
◆オフサイトトレーニングを念入りに行うことで,できるだけ早い段階から手術時間を標準に近づけられるようめざす.

ロボット支援下胃切除術の準備と立ち上げ—マイナスからのスタート

著者: 田中千恵 ,   中西香企 ,   神田光郎 ,   小寺泰弘

ページ範囲:P.393 - P.397

【ポイント】
◆ロボット支援下胃切除術における合併症発生率は,腹腔鏡下胃切除術と比較して有意な低下が示されている.
◆ロボット支援下胃切除術を安全に導入するためには,ロボットの利点や欠点の理解,精度の高い基本的手技の習得,ピットフォールの理解,チームでの成熟が大切である.

デバイスの選択と手術の定型化

ロボット支援胃癌手術で用いる各種エネルギーデバイスの利点と欠点

著者: 木下敬弘

ページ範囲:P.398 - P.402

【ポイント】
◆従来の腹腔鏡手術で慣れ親しんだ超音波凝固切開装置は優れた凝固止血能と剝離機能を備えるが,関節機能を有しない.
◆モノポーラシザーズは癒着や生理的剝離可能層の剝離に有用であるが,出血した場合の対処が難しい.
◆メリーランド型バイポーラは主要血管や膵臓の近傍での細かな剝離に有用であり止血力にも優れるが,有効に使用するためのコツを習得する必要がある.
◆ベッセルシーラーは大網のような脂肪組織の大まかな切離に有効であるが,先端が大きいため細かな剝離には不向きである.

ロボット支援幽門側胃切除術の定型化—電気メスを用いる手術(Double bipolar法)

著者: 菊地健司 ,   柴崎晋 ,   宇山一朗 ,   須田康一

ページ範囲:P.404 - P.409

【ポイント】
◆当科がロボット支援手術胃切除術の導入初期より開発してきた「Double bipolar法」は,多関節機能を最大限に活かせる点や周囲臓器への熱損傷を比較的軽微に抑えられる点などから,従来の腹腔鏡手術と比較してより愛護的な手術を可能としている.
◆本稿の後半部分では,神経線維をメルクマールとする「outermost layer」と「内側アプローチ」を原則としたNo. 6の郭清や膵上縁の実際の郭清手技について,気を付けている点や郭清終了までのステップを中心に概説した.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年4月末まで)。

ロボット支援幽門側胃切除術の定型化—超音波凝固切開装置を用いる手術

著者: 服部卓 ,   寺島雅典

ページ範囲:P.411 - P.417

【ポイント】
◆ロボット支援幽門側胃切除術において,超音波凝固切開装置は手術時間の短縮や出血量減少に有用である.
◆超音波凝固切開装置を用いる際は,操作部位に対して鉗子軸が合わない場面があることを念頭に置き,場の展開を工夫したり,アクティブブレードの方向に配慮することが重要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年4月末まで)。

ロボット支援胃全摘術の定型化—助手鉗子のフル活用をめざして

著者: 伊藤直 ,   小川了 ,   齋藤正樹 ,   上野修平 ,   早川俊輔 ,   大久保友貴 ,   佐川弘之 ,   田中達也 ,   髙橋広城 ,   松尾洋一 ,   瀧口修司

ページ範囲:P.418 - P.423

【ポイント】
◆遠景で全体像をよく観察し,4th armと助手鉗子の3点支持で面を作る.
◆拡大視で微小解剖を十分に認識し,確実な手術操作を行う.
◆Outermost layerなど剝離可能層を連続させて,効率良く手術を進行する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年4月末まで)。

ロボット支援下噴門側胃切除術の定型化(観音開き法)

著者: 幕内梨恵 ,   布部創也

ページ範囲:P.424 - P.429

【ポイント】
◆ハーモニックを用いる場合,3番ポートは通常よりもやや頭側に入れる.
◆食道後壁と残胃の固定は後の吻合のしやすさに影響するため,確実に行う.食道後壁をあらかじめ十分剝離することが肝要である.
◆術後吻合部狭窄を防ぐため,食道残胃吻合の際は糸の締めすぎに注意が必要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年4月末まで)。

個別のテクニック

膵上縁先行アプローチによるロボット支援下胃切除術

著者: 郡司久 ,   星野敢 ,   桑山直樹 ,   黒崎剛史 ,   外岡亨 ,   早田浩明 ,   滝口伸浩 ,   鍋谷圭宏 ,   高山亘

ページ範囲:P.431 - P.435

【ポイント】
◆膵上縁先行アプローチの利点は,①重力に逆らわずに胃を足側に落として膵上縁を郭清するため,腫瘍の大きさなどによらず安定した良好な視野が得られること,②胃脾間膜を切離する際に,膵上縁郭清からの一連の流れで短胃動静脈の最頭側枝を先行切離し,胃脾間膜をストレッチできることである.
◆膵上縁先行アプローチを行うためには,小網を大きく切離すること,症例によっては右胃動脈を先に切離し,胃を下垂させることが重要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年4月末まで)。

噴門部胃癌のロボット手術での視野確保の工夫

著者: 江原一尚 ,   武智瞳 ,   川上英之 ,   山田達也 ,   川島吉之

ページ範囲:P.436 - P.442

【ポイント】
◆臍部小切開気腹法を用いて皮下気腫を予防する.
◆良好な視野と術野確保のために肝左葉を脱転する.
◆脾門部操作のために横隔膜脚先行アプローチで“受け”を作成しておく.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年4月末まで)。

ロボット支援下脾門リンパ節郭清の手技

著者: 冨井知春 ,   徳永正則 ,   滋野高史 ,   篠原元 ,   塩原寛之 ,   佐藤雄哉 ,   齋藤賢将 ,   藤原直人 ,   星野明弘 ,   川田研郎 ,   絹笠祐介

ページ範囲:P.443 - P.447

【ポイント】
◆視野確保の工夫として,左側高位の体位,カメラポートの腹側への牽引が有用である.
◆手術の早い段階で脾門郭清を行うことで,ドライな視野での手術が可能になる.
◆脾上極の処理はNo. 11dリンパ節郭清後のほうが良好な視野のもと施行できる.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年4月末まで)。

術前化学療法後のロボット支援下胃癌手術

著者: 堀田千恵子 ,   與田幸恵 ,   能城浩和

ページ範囲:P.449 - P.454

【ポイント】
◆術後の補助化学療法が必要な症例も多いため,手術侵襲の少ない手技が必要である.
◆術後の合併症軽減のため,適切なエネルギーデバイスの選択が必要である.
◆手術難易度の高い術前化学療法後の症例においてもロボット手術の利点は大きい.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年4月末まで)。

How to start up 縦隔鏡下食道亜全摘・4

上縦隔腹側1—気管の左側と食道右側,右迷走神経

著者: 森和彦 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.455 - P.461

▶上縦隔食道腹側のスペースについて
 食道周囲の組織は臓器鞘に沿ってその内側を収穫する,という点では背側と同じであるが,食道腹側には郭清すべき組織がたっぷりとある.食道は気管の背側より左に偏在してはみ出しているため,食道腹側の郭清すべき組織は気管の左側にあり,ここには左反回神経とともに郭清効果指数(efficacy index)の高いリンパ節が含まれる.食道腹側操作での臓器鞘に対する意識は食道背側よりも大切で,臓器鞘に沿った剝離を行い,食道側の組織を残らずen blocにする.以後の記載では,特に腹側の臓器鞘を「天井」と表現する.
 食道腹側では「天井」および左側の臓器鞘を貫くようにして血管や神経の小枝が入ってくるが,図1aの緑破線に沿って血管や神経が疎となる組織間隙がある.疎な部分の剝離を先に終えると神経,血管の小枝が残され,これらを反回神経に障害を与えることなくシールカットすることで,無血術野を保つことができる.

手術器具・手術材料—私のこだわり・4

内視鏡外科手術用スポンジ(セクレア®)/多関節機能付き内視鏡外科手術用の持針器(ARTISENTIAL®ニードルホルダー)

著者: 中村慶春

ページ範囲:P.463 - P.465

 術野を展開する際に,硬くて鋭的な鉗子で臓器を圧排する.あるいは,圧排してもらう.これら最も基本的な術中操作に対する外科医が抱くストレスを,少しでも軽減したいという思いで開発されたのが,内視鏡外科手術用スポンジ(セクレア®)である.実際に使用してみると,愛護的に臓器を圧排すること以外にも,スポンジの特性に基づく様々な使い勝手を経験することができ,それらを少しずつ定型化してきた.
 また,通常の腹腔鏡下手術からロボット手術への術中移行は,手術室の移動,皮膚切開の追加,トロッカーの入れ替え,ドッキング,コスト面など,とても敷居が高いのが現実である.韓国のリブズメッド社で開発された多関節機能をもつ持針器(ARTISENTIAL®ニードルホルダー)は,ロボットに準ずる多関節機能の利便性を発揮し,またロボットとは異なり通常の腹腔鏡下手術で使用するトロッカーから,必要に応じて即座に使用できる簡便性を実感することができる.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年4月末まで)。

FOCUS

両側側腹部圧迫法による腹部手術後の咳嗽時創痛の軽減効果

著者: 下山勇人 ,   杉山政則 ,   鈴木裕 ,   吉敷智和 ,   大木亜津子 ,   竹内弘久 ,   阪本良弘 ,   須並英二 ,   阿部展次

ページ範囲:P.466 - P.470

はじめに
 術後急性疼痛管理は,術後早期回復プログラムの概念などから,周術期管理における重要な事項に位置づけられている.術後疼痛は,頻脈,高血圧,高血糖,免疫抑制,局所血流や静脈還流の減少,血小板凝集といった生理学的反応だけでなく,恐怖,不安,うつ症状などの精神的作用を引き起こす1〜4).現在,術後早期回復プログラムのプロトコルでは,区域麻酔や局所麻酔,オピオイドあるいは非オピオイドによる鎮痛薬などにより多角的に鎮痛が行われている5).それでもなお術後疼痛は完全に克服されてはおらず,特に咳嗽時の創痛は高度である.800件の出版物と20,000人を超える患者を対象としたメタ解析では,手術患者の41%が中程度から高度の急性術後疼痛を経験し,24%が不十分な鎮痛であったと報告されている6).われわれは,両側側腹部圧迫法を考案し,本法による腹部術後の咳嗽時の鎮痛効果を報告した7).本稿では,本法についての臨床研究の概要を紹介する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年4月末まで)。

「転移性肝がん診療ガイドライン」の要点

著者: 佐野圭二

ページ範囲:P.471 - P.473

はじめに—転移性肝がん診療ガイドライン策定までの道のり
 転移性肝癌の治療方針に関しては,肝臓への転移=全身転移,という解釈のもと,1960年代までは切除療法などの局所治療は非適応とされた.かといって当時有効な全身治療(ほとんどが化学療法)があるわけではなく,治験的な全身化学療法,あるいは緩和治療を行うのみであることがほとんどであった.1970年代に入って肝切除の手技が徐々に確立されてくるにつれて,条件の良さそうな症例から肝切除が行われるようになり,その成績が報告されるようになった1).そのなかで圧倒的に良好な切除成績がみられた大腸癌2),そして進行が遅く有症状であることが多い神経内分泌腫瘍(その時代にはカルチノイド,そしてその症状をカルチノイド症候群と呼称していた)3)が,切除対象となることがほとんどであった.
 1990年代になると大腸癌・神経内分泌腫瘍以外からの肝転移のまとまった切除成績も,肝切除のhigh-volume centerから徐々に報告されてきた4,5).それらの結果は2000年以前の症例の集積であることや,また日本の日常診療とはかけ離れていることから,日本肝胆膵外科学会(以下,JSHBPS)のプロジェクト研究として,わが国で2001〜2010年に肝切除を行った1,539症例を集積し,解析を行った6)

病院めぐり

宮崎市郡医師会病院外科

著者: 甲斐真弘

ページ範囲:P.474 - P.474

 宮崎市郡医師会病院は,1984年4月に会員の紹介入院を主体にした共同利用施設・開放型病院として宮崎市に開院しました.当初,日向灘に面した海沿いの場所に設置されていましたが,南海トラフ巨大地震の津波浸水想定地域内にあったため,2020年8月に内陸部の高台に新築移転しました.現在の場所は宮崎自動車道と東九州自動車道のインターチェンジに隣接した交通の要衝で,宮崎市郡のみならず宮崎県内全域からの患者受け入れをより一層迅速かつ効率的に行うことが可能になりました.
 当院はかかりつけ医(会員)との密接な連携の下,地域の基幹病院として急性期疾患を中心とした医療を担っており,災害拠点病院としての指定も受けています.病床数は267床,診療科は14科で,外科病床は40床です.

臨床報告

小児Meckel憩室による絞扼性腸閉塞の1例

著者: 井田晃頌 ,   田中成岳 ,   宮前洋平 ,   平井圭太郎 ,   坂元一郎 ,   小川哲史

ページ範囲:P.476 - P.479

要旨
11歳,男児.夕方より腹痛・嘔吐が出現し近医を受診したが改善せず,同日深夜当院小児科を受診.下腹部の軽度圧痛と,X線検査で便塊貯留を認め,浣腸で改善したため帰宅した.翌朝,症状再燃し当院再診し,造影CTで小腸のclosed loopや腹水貯留を認め外科紹介.絞扼性腸閉塞の診断で緊急手術の方針とした.腹腔鏡下の観察で色調不良の拡張腸管と索状物による絞扼を認め,索状物を結紮切離すると回腸壁と連続するMeckel憩室と判明した.色調不良の回腸約25 cmを部分切除.術後経過は良好であった.術前診断は困難であったが,特に小児では解剖学的異常による急性腹症を鑑別に挙げ,発症初期など早期診断が困難な場合,経時的な症状観察も肝要であると考えられた.

逆行性に空腸がY脚へ重積した胃全摘術後腸重積の1例

著者: 佐藤孝洋 ,   本多通孝 ,   小鹿山陽介 ,   外舘幸敏 ,   高野祥直 ,   寺西寧

ページ範囲:P.480 - P.482

要旨
症例は76歳,男性.2004年に胃癌に対して胃全摘術・Roux-en-Y再建術(後結腸経路)を施行された.2019年5月に悪心,腹痛を主訴に当院を救急受診した.腹部造影CT検査で,左側腹部の小腸にtarget signを認めた.腸重積の診断で,緊急手術を施行した.開腹所見では,Y脚吻合部より肛門側の空腸が逆行性に輸入脚方向へ重積しており,輸入脚および挙上空腸が拡張していた.Hutchinson手技にて,重積腸管を整復した.重積していた空腸は,1か所が間膜側に穿通していたため,穿通部の空腸を部分切除した.術後は特に合併症なく経過し,術後第12病日に退院した.胃全摘術・Roux-en-Y再建後の輸入脚に逆行性に腸重積をきたし腸管切除を要する症例は稀であり,文献的考察を加えて報告する.

治療・診断に難渋した非特異性多発性小腸潰瘍症の1例

著者: 吉本裕紀 ,   谷脇智 ,   和田義人 ,   室屋大輔 ,   下河邉久陽 ,   森光洋介

ページ範囲:P.483 - P.486

要旨
患者は82歳,女性.以前より加療していた回腸狭窄症の症状が増悪したため当院紹介となった.精査の結果,回腸に多発潰瘍による狭窄を指摘され,切除目的に外科紹介となった.単孔式腹腔鏡下に回盲部を授動し,小切開創より肥厚した回腸を体外に引き出した.術直前に挿入したイレウス管のバルーンが通過困難な部位を回腸に多数認め,最終的に回腸を約40 cm切除した.病理の結果,非特異性多発性小腸潰瘍症(chronic nonspecific multiple ulcers of the small intestine:CNSU)と診断された.経過良好で術後第11病日に退院となった.診断・治療に難渋したCNSUを経験したので報告した.

術中ICG蛍光法で残胃血流評価を行った幽門側胃切除術後膵体尾部切除術の1例

著者: 塚田暁 ,   田中智規 ,   小松優香 ,   津田晋 ,   坪井香保里 ,   八木健

ページ範囲:P.487 - P.492

要旨
症例は78歳,女性.21年前に胃癌に対し幽門側胃切除術を受けた.かかりつけ医で行った採血でCA19-9が異常値であったことより,当院へ紹介になった.精査にて膵体部癌と診断され,当科に紹介となった.幽門側胃切除術後であり,残胃血流は短胃動脈や後胃動脈の脾動脈系と左下横隔動脈が担っていると考えられ,脾動脈を切離する膵体尾部切除術を行ったとき,残胃虚血による合併症の発生が懸念された.そのため,残胃血流評価にICG蛍光法を行うことにした.膵体尾部切除術後にジアグノグリーンを静注したところ,残胃全体が造影され残胃血流が確認できた.ICG蛍光法を行い残胃血流を評価することにより,安全に残胃を温存することができた.

書評

—小坂眞一(著)—切る・縫う・結ぶ・止める—外科基本手技+応用スキル[Web動画付]

著者: 塩瀬明

ページ範囲:P.392 - P.392

 一流のスポーツ選手や音楽家の感動を呼ぶ華やかなパフォーマンスの裏には,長年の地道な基本手技の繰り返しによる習得がある.本書は,外科医にとっての基本手技の重要性を説き,文章でも写真でもイラストでも動画でもその手技を理解できるよう工夫されている.さらに手の固定,指の使い方,回旋,感覚など今まで漠然と経験的に取得してきた「外科医の手」について,解剖学的特性から理路整然と解き明かされたことは画期的である.
 手指の効率的な動かし方に基づいた鑷子,鋏,持針器などの道具の使い方や糸結びについて,若手のみならず経験豊富な外科医にも大いに学ぶべき内容,解説が随所に述べられている.日頃から道具の特性を熟知し,敬意を払って丁寧に使うべし,という著者の立場から,道具の構造から使用方法まで解説されているため,外科医各個人が自分に合った道具を選ぶ際に大いに参考になる.外科手術では避けて通れない止血の項目では,効果的な止血点の探索法や止血法のエッセンスが述べられ,実際の手術で止血に困った時には,本書で述べられていることを参考にすれば出血コントロールも可能であろう.

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目次

ページ範囲:P.380 - P.381

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.402 - P.402

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.496 - P.496

あとがき

著者: 小寺泰弘

ページ範囲:P.498 - P.498

 2005年の国際胃癌学会の際,英語が苦手な部下からポスターに応募したはずの演題が口演になったので代わりに発表して欲しいと泣きつかれた.その発表セッションで私は偶然ロボット支援下手術と出会い,発表者の韓国人に声をかけたところ,丁度あなたと話をしたかった(本当か?)とのことで韓国に招待してくれた.そこではロボット支援下手術を見せてもらう代わりに,網囊切除の実情から13番リンパ節郭清の適応まで,当時の胃癌手術におけるあらゆる未解決な課題について2日間にわたり質問攻めにあった.この野心にあふれる若い韓国人の名はWoo Jin Hyungであった.
 それ以降,国際学会で見聞きし同世代の欧米の外科医と雑談をした範囲では,ロボットの価値は既存の内視鏡手術がより円滑に行える点にあった.実際のところ,遠近感のない画面を見ながら直線状の鉗子で行う内視鏡手術は年配の医師には難易度が高いものであり,旧知のスペイン人医師の「俺には絶対できないと思っていた手術が,ロボットのおかげでできたぞ」という嬉しそうな報告を聞いて妬ましく思ったものである.しかし,膵臓というハザードの塊に近接する臓器をリンパ節とともに切除する複雑な手術は甘いものではなく,教室でのロボット支援下胃切除術の試みは4例目にして大きな落とし穴に嵌まった.患者さんやその御家族に対して取り返しのつかない結果になり,贖罪の念は一生消えることはない.同時に,ロボット支援下手術の適切な導入を進めようとする多くの同業者や企業に,計り知れない迷惑をかけることになってしまった.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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